夜に訪れる
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月23日〜03月28日
リプレイ公開日:2007年03月31日
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●オープニング
夜は、恐ろしい。
「ジョンのやつ、帰ってくるの遅いなー」
「本当、どこで道草食ってるのかしら」
死は、恐ろしい。
「ん‥‥? あれは‥‥?」
「人、かしらね。歩き方が気になるけど」
だから、酷く単純な事だ。夜に死が訪れるのなら。
「違う! 人じゃない‥‥!?」
「ひぃ!?」
――――それは、とても恐ろしい。
空には太陽の光を遮る分厚い雲。その空模様のせいもあってか非常に陰鬱とした雰囲気の村に1人の女性騎士がやってきた。
尤も、天気だけがその雰囲気を作り出しているわけではないのだが。
「‥‥久しぶりに、戻ってきましたね」
初めてではなく、久しぶり。やってきたのではなく、戻ってきた。つまり‥‥。
「あれー? もしかして‥‥メアリちゃんかい?」
「‥‥あっ! お久しぶりです、サラおばさん」
農作業の途中だったのか農具を片手にやってくるどっしりとした体型の女性に返答する、騎士。
ウェーブがかかっている長めの銀髪を手でかきあげるようにして微笑む若い女性騎士‥‥名をメアリ・ナーリシェンと言う。
そう、この村はメアリの故郷の村だった。
「立派になったわねぇ‥‥」
「いえ、まだまだ未熟ですよ」
メアリの幼い頃を知っているのだろうか。感慨深げにメアリをよく見る女性に、照れつつ答えるメアリ。
今は何をしているのか、最近の調子はどうした、そういえば近所のあの子が、兄は最近どうした云々‥‥積もる話もあるのだろう。口を開けば中々話題が途切れる事は無く。だが、メアリの目的はそんな世間話をする為では無い。
「‥‥おばさん。私、気になる話を聞いたんです」
「‥‥ん、そっか。立派な騎士様だもんね」
ついておいで。そう言った女性が背を向けて歩き出し、メアリはそれについていく。‥‥目の前に見える背中は、とても辛そうで。
「酷いですね‥‥」
「‥‥あぁ、今の所5人がやられてる。むしろ少ない方じゃろう‥‥」
メアリが案内された場所。それは凄惨な死が刻まれた場所。生きている時は人間だった存在が‥‥何者かの手によって殺された場所。
その場にはメアリを案内した女性だけではなく、メアリの事を聞きつけたのか多くの村の住人が集まっていた。
「奴らは毎晩現われるのだ。夜だけなのが幸いではある。知能が全然無いのも幸いではある。だがこの状況は‥‥」
先ほどまで話していた老人は目を伏せ首を振る。
不幸中の幸い‥‥そもそも不幸にならないのが一番である事には間違いないのだ。
「数は、どれくらいなんですか?」
「家に閉じこもってるから分からないけどね‥‥相当な数がいる事だけは分かるよ」
数を聞くメアリ。だがやはり満足な答えは得られない。
「メアリちゃん‥‥私達を助けておくれ‥‥! 訪れる死から!」
訪れる死。
つまりは‥‥この村は襲撃されているのである。アンデットから。しかも相当な数の、である。
大量のアンデットが何故村を襲うのかは分からない。不幸が色々重なった上の偶然かもしれない。だが事実として襲われている以上、そこを考えるのはあまり意味が無い事かもしれない。
きっとアンデット達は獲物を見つけた以上、そう標的を村から変える事は無いだろう。そして狙われていても村人達が村を捨てて逃げるなんてこともできないだろう。ならば―――どうするか。
メアリは自分の手を――騎士の手を――じっと見つめてから、ぎゅっと握る。決意をそこに掴むように。
●リプレイ本文
●村へ駆ける
なだらかの平地に続く1本の道。道とはいっても舗装などはされていないのだが。
そこを冒険者達の一行が自分達に出来るだけ早く進んでいた。
「依頼を受けてくださってありがとうございます」
「何の何の、いいでござるよ」
冒険者達に同行している依頼人のメアリ・ナーリシェンが冒険者達へ礼を言うと、鳴滝風流斎(eb7152)は気にする事は無いと返事をする。
「毎夜アンデットに襲われるとは、なんて不幸な村なんだ。月夜の散歩も、月見酒も楽しめないじゃないか。僕なら耐えられない」
「は、はぁ‥‥‥」
三度の飯より酒が、それと同じくらい歌が好きなシア・シーシア(eb7628)の言葉に、メアリはその少しずれた内容に満足のいく返事もできず。
「アンデッドが大量発生とはまた大変だな‥‥。こないだの戦争から流れてきたのか、それともまたそれとは別の原因があるのか?」
「えぇ、最近アンデットの姿を見かけることが多いですね。邪な魔法使いやデビルが関係していなければ良いのですが‥‥」
歩きつつもアンデットが大量発生した理由を気にするセティア・ルナリード(eb7226)、同じくシルヴィア・クロスロード(eb3671)も最近のアンデットの発生具合から色々と推測をする。
「今回の話を聞く限り自然にアンデッドが生み出されて起きた現象とも思えぬな。何者かが操っている可能性があるのではないか?」
更にメアリー・ペドリング(eb3630)も誰かが操ってるのではという疑問を抱く。
「どうなんでしょう。あの村をアンデットが襲う価値があるとは思えませんが‥‥」
「ねぇ、メアリちゃん。森で遊んだ記憶ある? 石碑とかなかった?」
それらの疑問にメアリは一応返答するが、よく分かっていない為歯切れが悪い。そんなメアリにポーレット・モラン(ea9589)は方向性を変えて質問をする。あの村の過去に何かあるのでは、と。
「いえ、特には‥‥」
だがメアリから返ってくる答えはその疑問を解決するものではなかった。
「村人から恐怖と不安を取り除きたい。少しでも早くだ。今は何故アンデットに襲われるのかなんて考えている暇はない。ともかくアンデットを退治する事に専念したい」
「そうですね。可能であれば発生源も見つけたいところですが、まずは村に来るアンデッドを全滅させましょう」
結局、今考えても分からないものは分からない。なら襲ってくるアンデットを倒すだけだとラーイ・カナン(eb7636)と乱雪華(eb5818)が当面の目標を掲げる。
「だな。みんなが安心して暮らせるようにしてやらないとな!!」
セティアが纏めると、全員頷いて同意するのだった。
冒険者達は村への道を急ぐ。
●到着
普通なら丸一日かかるキャメロットから村への移動。冒険者達は可能な限り素早く移動していた為、彼らが到着したのは出発した日の夕方頃。天気は今にも雨が振り出しそうな雲に覆われていて、非常に暗い。
「到着したはいいが‥‥日が完全に沈むまで時間があまり無いな」
昼のうちに柵を作るつもりだったラーイだったが、さすがに今からでは間に合わないだろう。
「それでは、村人達の避難だけでもしてしまいましょう」
シルヴィアの言う通り村人の避難だけなら今からでも間に合う。全員否定する理由なぞ無く、同意するのみだ。
「村の集会場が避難場所として最適の筈です。そこに避難するよう伝えてください」
「分かった」
村の出身者であるメアリからの情報を元に、集会場へ避難するよう村人達へそれぞれ伝えにいく冒険者達。
「夜の間は私たちが村を守りますので、皆様は集会場へ集まり、避難していて下さい」
雪華の言葉に始めは何事かと思われていたが、ギルドからアンデットを退治するよう依頼された冒険者達と伝えると、村人達は素直に集会場へ避難していった。そのように他の者達も村人をどんどん避難させていく。
「怖いよう‥‥」
「大丈夫、大丈夫だからねっ」
ポーレットは避難誘導しつつ、空へ飛んで至極簡単な村の地図を羊皮紙に書き上げると、目に止まった不安そうに震える子供。彼女はその子供の前まで行くと、頭を撫でながら励ましてあげる。
「‥‥う、うん」
ポーレットは完全に、とはいかないがある程度安心した様子の子供を集会場まで送る。
「日が沈む‥‥か」
目を細めて、雲の切れ間から沈む夕日を見送るメアリー。夜が訪れようとしていた。
「いつでも来いってんだ‥‥‥ん?」
見晴らしが良いという理由でセティアは民家の屋根に上がり見張りをしていた。すると、ふと聞こえてくる音。それは‥‥歌声。
「あ、うるさかったかい?」
「気にするな。いい歌だな」
「それは光栄だ」
歌声の正体は見張りの為に同じく屋根へと上っていたシアの歌声。歌う事が大好きな彼はついつい口ずさんでいたのだ。その耳に心地よい歌はセティアとしても咎めるものでもなく、むしろ良いものだった。
同じく村の外で見張りをする者達がいた。ラーイもその1人だ。自分のペットの犬であるパンダに村中を警戒するように言い含める。
「村の外から侵入者があったら知らせるんだぞ」
わん! と元気よく返事をするように吠えると、パンダは村の中を駆けていく。
その後、ラーイは神経を研ぎ澄ませて襲ってくる者達の殺気を感知して襲撃に備えようとするが、そんな事はできない。対峙している者が殺気を放っているかどうか感知するのなら別だが。
外だけではなく、避難所でも動く者も居た。
「奴らが‥‥奴らが‥‥!」
幾日もアンデットに襲われたからだろう。冒険者達がいるからといって、恐怖は簡単に抜けるものではない。何人もの村人達は自らの体を抱きかかえるようにして震えていた。
「私達が‥‥かならずあなた達を守りますから」
そうして不安がっている村人達を安心させるようにシルヴィアは声をかけていく。
だがそれでも恐怖は完全には消えず、村人達には落ち着きは無い。
「あ‥‥」
そんな時聞こえてきた子守唄。歌っているのはシルヴィアだ。
母のように優しい声音で子守唄を歌うシルヴィア、その歌は安らかで‥‥恐怖を安らげていく。
「大丈夫‥‥ですから、ね?」
●夜に訪れる
「そろそろでござるか‥‥」
村の中で集会場より少しのところにある広場。その中心に風流斎は立っていた。
彼は今まで祈りを捧げていた道返の石をその広場の中心に置くと、辺りを見回す。
「皆ー! アンデットが来たよ!」
ポーレットがデティクトアンデットを発動させたところ、先ほどまでとは違い反応があった。つまり、敵が来たのだ。
その報を受け戦闘準備に入る冒険者達。ポーレットはグッドラックを、雪華はオーラパワーを味方に付与していく。
「北に4! 西に3! 南に2だ!」
屋根の上で全体を見回していたシアが襲ってきた敵の数を皆に伝える。
「包囲されましたか‥‥」
メアリの言葉通りだ。アンデット達は目の前の生物に襲い掛かるから、避難所の村人達より外に出ている冒険者達を襲うだろう。それはそれで好都合だ。だが包囲されるという状況はあまり好ましくない。
「ここは任せて!」
集会場の前でポーレットはホーリーライトを唱える。聖なる光球が出現し、その周りを照らす。その光の中には使命を持たないアンデットは入れないのだ。最悪、危険な状態の時はそこに逃げ込めばいい。
そして広場にアンデット達が姿を現した! 敵は6体のズゥンビに3体のグールだ。
「動きを‥‥封じる!」
雪華が構えたのは長弓「鳴弦の弓」。弦をかき鳴らせば周囲のアンデットなどは満足に動けなくなるという弓だ。それをかき鳴らし始める雪華。事前に風流斎が置いた道返の石、シルヴィアが祈りを捧げて懐に入れているまた別の道返の石のお陰で、アンデットは満足に動けない空間ができあがっていた。
「それじゃ、こいつでも食らいな!」
屋根に上っているセティアの唱えた魔法。それはヘブンリィライトニング。
発動すると同時に、1体のズゥンビに向かって空の雨雲から雷が落ちる!
ズシャァン!
焼け焦げるズゥンビだが構う事無く前進を続ける。痛みが無い故に。
「ならば無理矢理足を止めてみせよう」
そんなメアリーが唱える魔法‥‥グラビティーキャノン。一筋の黒い帯が敵陣を突き破っていく! それに巻き込まれた複数のアンデット達は転倒する!
「いくでござるよ!」
愛犬である天晴丸と共に戦場を駆けていく風流斎。同じく愛犬の忍犬のワン太夫は単独で敵に突っ込んでいく。
「それでは私達も!」
「えぇ!」
「往くぞ!」
シルヴィア、メアリ、ラーイも各々の武器を構えてアンデットの群れへと走っていった。
●決着
戦いは熾烈を極めた。
本来なら大した敵ではないズゥンビだが、如何せん数が多い。背後を取られてそこを攻撃される事も多かった。
更にグールの攻撃力の高さ、圧倒的なタフ差に押される事すらあった。
だが、オーラを纏った攻撃、後衛の魔法、ホーリーライトの中に逃げ込んでの回復。それらのお陰で次第にアンデットは数を減らしていき、残りは僅かとなっていた。
時々新たにズゥンビが1体増えたりしたが、物の数では無かった。
「逃げる気配は‥‥見せないな」
グラビティーキャノンを発動し、視線の先のズゥンビを転倒させるメアリー。
「ならこのまま全滅させるでござるよ」
天晴丸と共に転倒したズゥンビに追い討ちをかけていく風流斎。その連撃で確実に仕留めていった。
「周囲にアンデットの姿は見えないな」
シアの言葉通り。襲撃してきたアンデットを全滅させたのだ。
次の日の夜も、念のため襲撃に備える冒険者達。だが襲ってくるのはズゥンビが極少数。それも撃破し、更に次の日にはアンデットは姿を現さないようになった。周囲に潜んでいたアンデットは全て撃破できたのだろう。
「今度こそ安らかな眠りが得られますように」
死者への哀悼と弔いを捧げるシルヴィア。彼女の想いは‥‥いつまでも叶うのだろうか。