夜の支配者
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:刃葉破
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:6人
冒険期間:07月08日〜07月13日
リプレイ公開日:2006年07月09日
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●オープニング
―――夜を支配するのは何か。
ここはイギリス、キャメロットの郊外。
夜も遅く、多くの者が寝静まっている時間帯。
一人の男がその闇の中を歩いていた。
尤も、何か悪事をするというわけでもなく、ただの散歩なのだが。
「ふぁー‥‥‥」
歩きながら大きなあくびを一つ。そろそろ家に帰ろうかと男が思い始めた頃、異変は起きた。
「夜はオヤスミナサイの時間デースネー。こんな時間に出歩くなんてイケマセーン!」
「な、何だ!?」
唐突にどこからか聞こえてきた野太い声。
「フーフフーン。イケマセン、イケマセンよー! 悪い子にはオシオキをしなければイケマセーン!」
男が声の聞こえてきた方向を特定し、そちらを向く。
そこには月をバックにしてマントをたなびかせる優雅な―――おっさん。
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
あまりの事態に、腰を抜かして尻餅をついてしまう男。頭の中では警鐘が鳴り響いてるというのに。
「それでは‥‥オヤスミナサイデース」
怪しいおっさんが手を振るう。そして急激に男を襲う眠気。
寝てはいけない‥‥そう思いつつも、抗いきれずに男は寝てしまう。
おっさんは男の傍に駆け寄り、何かをしたかと思うと、その場を歩いて立ち去る。
「サーテ‥‥夜に寝ない悪い子だーれだ」
‥‥後に残ったのは‥‥全裸で倒れる男。
「‥‥と、こういうわけです」
「はぁ‥‥」
そして場面はイギリスのギルド。
依頼人が語る怪事件を聞き、どう反応していいのか分からない受付係の青年が居た。
「つまり‥‥最近、月夜に出歩くと眠らされて‥‥身包み全て剥がされる事件が頻発していると」
受付係の青年は分かりやすく事件を纏める。
「はい。‥‥被害者は精神的ショックやら何やらで、夜どころか昼ですら出歩けないようになってしまいました。さすがにこれ以上被害者を増やすわけにもいきませんので」
「成る程‥‥。分かりました、受け付けましょう」
受付係は少々複雑な顔をしながら、依頼を受け付ける。
「ありがとうございます。これで被害に遭った男性達も浮かばれます」
「‥‥あれ? 被害に遭ったのは男性だけなのですか?」
依頼人の言葉を聞いて浮かんだ疑問をぶつけてみる受付係。
「えぇ、何故か男性しか襲われません」
‥‥季節に合わない冷たい風が吹いた気がした。
●リプレイ本文
●キャメロットという街
「本当‥‥大人しくなったと思ったのにねぇ」
そう話をする買い物帰りの中年の女性。
その女性から話を聞いているのはメグレズ・ファウンテン(eb5451)である。
彼女はギルドにて今回の事件の情報を集めてから、念入りに聞き込みをしているのである。
「大人しくなった‥‥ですか?」
「あら、知らないの? 結構前まで、この街は奇人・変人がよく出没していてねぇ‥‥」
今ではすっかり成りをひそめていたそうだが、そこで今回の事件である。
「ま、今回のも似たようなのが犯人だったら、男を無差別に狙ってるって事でいいんじゃない?」
「‥‥今回、なんか係わり合いになりたくない相手ですねえ」
でも関わらなきゃいけないのが依頼を受けた冒険者の役目である。
「えぇと、すいません。聞きたい事があるのですが‥‥」
そう街行く人に話かけるのはブレット・ワクスマン(ea8925)。
だが、街の人は彼に目をやり‥‥耳を見ると、無視して立ち去っていった。
ハーフエルフへの差別は根強く、一般市民にはまともに話をしてくれないのも多い。
ブレットは人気の無いところでオカリナを吹き、自分を慰めるとしっかりと顔を上げる。
「耳を見て判断する人が多いようですね‥‥」
ならばという事で、ブレットは耳を隠すようにフードを被り、聞き込みを続けるのであった。
同じく調査をするハーフエルフのフィリッパ・オーギュスト(eb1004)も特に対策をしていなかった為に話が聞けない事も多かったが、彼女をサポートする仲間の聞き込みから情報を得る事ができた。
「煙と馬鹿は何とやら‥‥って事ですかね」
月夜に街を出歩いていた女性達の目撃談によると、犯人であるおっさんは基本的に高いとこから被害者を見下ろす形で登場していたらしい。
また地域的にはそんなに広くもないので、ある程度出現場所を絞り込む事もできた。
ちなみに、その情報元である女性達は犯人に姿を見られているが普通に無視されているらしい。
「何とも‥‥ですわね」
明らかにまともではない敵の事を考え、フィリッパは溜息をつくのであった。
●練習は大事
そして時刻は夜。月が出ている夜である。
「じゃ、練習するとしましょうか。‥‥今日の夜に敵がでてこないという保証は無いけれども」
そう言い、ルカ・インテリジェンス(eb5195)が動き始める。
そんな彼女を囲むように衣笠陽子(eb3333)や京極唯(ea8274)を始め、冒険者達が明かりを灯したランタンを手に持つ。
ルカを練習台として、ランタンを使ったムーンシャドゥを防ぐための練習である。
ちなみにメグレズは油を持っていなかったので陽子にもらう事となった。
「囮役となる私がこの練習に参加する意義があるかどうかは分かりませんが‥‥」
と、沈み気味の声で呟く唯。それはそうだろう。
囮役ということは、眠らされたあげくに脱がされたりするのだから。
「‥‥‥それにしても、なぜこんな事をするんでしょうか?」
そう呟くのは陽子である。知らない方がいいような気もするが。
各々の思いはともかくとして、練習は続く。
逃げながらムーンシャドゥを行う敵と仮想して、走り、高速詠唱でムーンシャドゥを唱えるルカ。
そんな彼女を囲むためにランタンを持って走る他の冒険者。
「ほら、それじゃあ逃げられるわよ?」
装備が軽い為か、足が速く、中々囲まれないルカ。
彼女に追いつけるのはやはり装備が軽いブレットだけであった。
「相手も術使いだから、装備は軽そうですし‥‥。囲むのはちょっと大変ですね」
軽く息が上がっている陽子。
「囲まなければムーンシャドゥを防ぐのは難しいですし‥‥ちょっとした賭けになりますわね」
走って囲む練習をする前にした練習の結果を思い出すフィリッパ。
その練習とは単純にどれぐらいの光でムーンシャドゥに必要な影を消せるかという事であった。
それによると1方向から照らすだけではやはり無理で、大体挟んでしまえば2人分の光で十分という事であった。
「そうですね‥‥初期位置を何とか工夫しましょう」
ブレットの提案を受け、初期位置を変えてさらに練習する。
「よし、これで何とかなりそうですね。後はここらへんで襲われるように‥‥ですか」
試行錯誤の末、何とかムーンシャドゥの発動を防げる位置を見極め、上手くこの周辺で襲われる事を考え、少し頭が痛くなる唯であった。
●怪奇
そして練習した夜には現れずに次の夜。その日もまた、月が出ていた。
「引き受けたからには退治しますか」
街を歩くのは遊び人風に着崩した唯。着物に酒を染み込ませ、いかにも遊び人といった感じであった。
イギリスの街には少々似合わない、ジャパン風の遊び人であったが‥‥そんな事は関係無かった。
「夜に寝ない悪い子ダレダ!ソーレーは、オマエだー!!」
唐突に響く声。唯はこの周りで一番高い場所に目を動かす。
「イケマセン! イケマセン! イケナイったらイケナインデス! ハーハハフゥー!」
「‥‥‥うわぁ」
月夜をバックにマントをたなびかせるおっさん。ちなみに腹は出ている。
妙な笑い声とともにポーズを取るおっさんを見て、唯は昨日よりも強い頭痛がしていた。
気付けば既に地面におりているおっさん。高いところに居たのはただのかっこつけのようだ。
「と、いうわけで眠らせちゃうゾ」
「どういうわけですか!?」
唯のツッコミを無視して、おっさんはウインク。それと同時に唯に襲ってくる眠気。
どうやら高速でスリープを唱えたようである。
「‥‥‥くっ!」
唯はそれに抵抗できず、眠りこけてしまう。
「フーフフーン。悪い子には罰を与えるべきナノデス! サテ罰を‥‥あれ、ちょっと脱がしにくいな、この服」
おっさんはやはり唯に近づき服を脱がそうとするが、予め要所要所を強く結んであって簡単には脱がせないようになっていた。
そんな脱がされてる唯を見ながら、他の仲間達は打ち合わせした初期配置へと移動する。
「サーテ、あとはこれだけデスヨー!」
なんだかんだで褌一丁まで脱がされてしまった唯。おっさんが最後の1枚に手を伸ばす‥‥が。
「オヤ?」
ふとした気配を感じ、おっさんが顔を上げる。
するとそこに居たのはルカ。ムーンシャドゥを使い、一気に接近していたのである。
「これでも食らっときなさい」
半ば白い目でおっさんを見ながら、ルカは小麦粉を布で包んだものを顔面目掛けて思いっきり投げる。
「うわっ!? アプ!」
思いっきり小麦粉が顔にぶちまけられ、軽く咳き込むおっさん。
今がチャンスとばかりに一気に駆け寄ってくる他の仲間達。
「こ、これはイケマセン! 多勢に無勢デース!」
すかさず走って逃げるおっさん。ルカは毛布を使い押さえ込もうとするが、さすがにそれは間に合わなかった。
「待ちなさい!」
走って逃げるおっさんにイリュージョンで幻覚を送ろうとするブレット。
しかし、さすがに月魔法に長けたバードらしく、相手はそれを抵抗してしまう。
だがランタンの明かりによっておっさんもムーンシャドゥで逃げる事ができない!
「エェイ! 仕方ありまセン!」
おっさんは高速で唱えるムーンアローをフィリッパに放つ!
すかさずメグレズは体を張って受け止めようとするが、ムーンアローはそのように壁として受け止める事ができないので、矢はそのままフィリッパへ。
「きゃっ!? よくもやってくれましたね」
が、大したダメージにならず、フィリッパが近づいて反撃の鞭を振るう。
ビシバシビシバシ!
「オォォウ! ノォォォー!」
メグレズは鞭を食らって悶えてるおっさんに対して漁師セットに入ってた網を投擲する。
その後、のしかかるようにしておっさんの身柄を確保する。
「京極さん、貴方の犠牲は無駄にはしません」
のしかかりながら、夜空を見上げるメグレズ。夜空には微笑む唯が映って‥‥るわけは無かった。死んでないし。
●Good night
そうして戦いの結果、おっさんはロープで縛られる身となった。
「えーと‥‥何故、こんな事をしたんです?」
依頼を受けた時から湧いた疑問を本人に直接ぶつけてみる陽子。
「夜に寝ないのは悪い子デス! 悪い子にオシオキするのは当然です!」
「‥‥はぁ」
「えーと、じゃあどうして脱がすような事をしたの?」
ルカが少々変えて再度質問してみる。
「効果的だと思ったからデス。実際、出歩かないようになったソウデスシ」
尤も、夜だけでなく昼間もなのだが。
「それじゃあ、男性ばっかり狙ったのは?」
と、質問するのはブレット。
「どうせナラ、男性の裸を見れた方が役得というモノデース! あと、女性襲ったら洒落ですみませんカラ」
(「‥‥うん、変態ね」)
心の中で再確認するフィリッパ。
「洒落ですまないって‥‥そういう問題ですか」
メグレズがそう聞く。
「ワタシにとってはそういう問題デース。カッとなってやってしまった。今でも反省していないデース!」
「反省しなさい」
既に起き上がり、服を着ていた唯がおっさんの頭にゲンコツを落としたのであった。
こうしておっさんは捕まえられたが‥‥これからもどんなのが出てくるかは分からない。そういう世界なのだから。