起きたら出来てる朝ご飯とか浪漫じゃね?
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月23日〜05月28日
リプレイ公開日:2007年05月31日
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●オープニング
男の夢とは、何だろうか。
チュンチュン‥‥。
小鳥が囀る、爽やかな朝。朝日が差し込む部屋。
今日も一日頑張れそうな、そんな良い朝だ。
トントントン‥‥‥。
そして家に響く包丁が何かを刻む音。誰かが朝ごはんの用意をしているのだろうか。
その音を目覚ましにして起きる、ベッドで横になっていた男。
嗚呼、なんて幸せな朝なんだろう。
「って、いやいやいやいやいや」
だがしかし、がばっと起きて何かを否定するように顔の前で手を振る男。
それもそのはず。何故なら。
「‥‥俺、一人暮らしの筈だよな?」
そう、彼は正真正銘独身男性の一人暮らし。誰かが朝ご飯を作る事なぞあり得ないのだ。
「母さんがこっちに来るなんて連絡は無いし‥‥。はっ! まさか俺の日々の妄想が現実に!? 朝起きたら美少女が俺の飯を作っていて早く起きてーってな感じで揺さぶられてでも俺は中々起きなくてもうしょうがないなーといった感じでおはようのキスをしてくれてその後の俺の興奮はノンストップで―――」
妄想もノンストップ。それにしてもそんな妄想を日々しているあたり寂しいとしか言いようが無い。
「はっはっは! 勿論朝ご飯は君を食べるよマイハニー!」
それを言うなら夜に言えと言いたくなるような事を叫びながら男はベッドから抜け出して台所へ飛び出す!
そこにはやはり一人の人物が立っており、振り向き―――。
「あら、おはよう。ダーリン♪」
「――――え?」
男は、硬直した。
「もう‥‥せっかく朝ご飯作ったのに‥‥私が食べたいなんて‥‥」
「え、いや、ちょっと‥‥」
調理の手を止めて男に近づくエプロン姿の人物。だが男は何故か怯むように後ずさり。
「ふふ‥‥でも、ダーリンならいいかな?」
「なんで――なんでなんだよ‥‥」
ついに壁際のベッドにまで追い詰められる男。そんな男の肩をがっしりと掴むようにするエプロン姿の人物。
「それじゃ、まずはおはようのチューから♪」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
日々の妄想が現実になったのに、何故男は悲鳴をあげるのだろうか。それは―――。
エプロン姿の人物が筋骨隆々の男、つまりカマだったからであろう。
「と、そんなこんなで最近独身男性の家にいつのまにか入り込み、朝に襲い掛かるという輩が出没しております」
「また‥‥凝った事をしますね‥‥」
そして場所はキャメロットギルド。受付には受付係の青年と、依頼人の男性がいた。
勿論、依頼の内容は先述の通り最近キャメロットで発生する変態についてだ。
「ここ最近の騒動のせいで独身男性は安穏の場である自宅でまともに睡眠を取る事ができない始末です。この状況を重くみたので、依頼を出させてもらいます。犯人を退治してください」
「は、はい‥‥」
所謂変態退治なのだが、堅苦しく真面目に語る依頼人に受付係の青年は思わず戸惑ってしまう。
「独身男性は知り合いの家に泊まるなどして対策をしているようです。その為、無償で家を借りる事ができますので、その家で囮をするなりしてください。なるべく家具などは壊さないで頂きたいですが」
「はい、わかりました」
真面目なんだけど、これはこれで調子が狂うな‥‥そう思いつつも依頼を受理する受付係。
そして彼はちょっと気になった事を依頼人の男に聞いてみる。
「あ、どうでもいい事かもしれないんですけど、いつもの依頼人の方はどうしたんです?」
「‥‥まぁ、野暮用で来れないだけですよ」
●リプレイ本文
●囮の生き様
誰もが寝静まる深夜のキャメロット。とある家には1人の男性がベッドで横になっていた。
「うぅぅ‥‥何故俺が‥‥」
ベッドの中で膝を抱えて縮こまるようにしながら愚痴る男の名は雀尾煉淡(ec0844)。この度見事に籤でアタリを引き、この依頼での囮役となった人物である。アタリなのにハズレのようなものだ。
彼がそんな風にこれから来たるべく恐怖に耐えている時‥‥隣の家からは実に楽しそうな声が聞こえてきた。
「とりあえず変態さんが現れるまでは暇やし茶で飲んでゆっくりしてよか♪ お、酒もええなー♪」
「ふふ、いいわね。ってことで‥‥っと」
煉淡がベッドの中で震えている家の隣の家。そこも煉淡が寝ている家と同じく、元は独身男性の住む家だったのだが、今回の事件のせいで住人は避難しており、事件解決の為に無償で冒険者達に借り出されている家である。
その家に今いるのは、煉淡と同じくこの依頼に入った冒険者達だ。
そして今は何をしているのかというと――宴会である。実に楽しそうな。
ユウヒ・シーナ(ea8024)が酒を飲む事を提案すると、フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)も嬉しそうに賛同し事前に用意していた酒をどこからか取り出し、普通の宴会の様相を呈していた。
「‥‥これは疑われない為、疑われない為なんです」
そして一緒に宴会に参加しているロッド・エルメロイ(eb9943)は隣の家にいる煉淡に申し訳なく思いながら酒をちびちび飲んでいた。
「そう、疑われない為。これで盛り上がっても何も問題は無いんです」
まるで自身を正当化するような言葉を発する蒼月潮(ea5521)。だが‥‥彼はある意味決意していたから、かもしれない。
「やっぱり、起床時のロマンっていったらベッドの上で女の子が(ピー)してくれることよね〜」
「ありやな〜」
そしてフィオナはフィオナで猥談で盛り上がっている。ちょうど良いタイミングで誰かが床を擦ったのか、甲高い音が出て危ない単語を消してくれて非常にありがたい。
「くっ‥‥」
「‥‥雀尾さん」
そんなこんなで非常に盛り上がってる宴会組。この後起きるであろう展開と今1人で隣の家にいる煉淡の事を思い出し、つい‥‥と男泣きをするロッドと潮。
「‥‥何というか、目から、しょっぱい液体が止まらないのは何故だろう‥‥」
泣いてもいいんだよ、潮。
「ええええいっ!俺を置き去りにして、盛り上がるな、隣!」
煉淡がベッドの中で怒るのも無理は無い。
そしてもうすぐ夜が明ける‥‥そんな時であった。
――――ガタン。
●浪漫って
明らかに扉が揺れた音。そして尚も扉はガタガタと動く。
魔法に頼らずとも分かる‥‥誰かが侵入しようとしているのだ!
「く‥‥!」
これからどんな事態になろうと囮であるがゆえに逃げ出す事のできないもどかしさに歯噛みする煉淡。
侵入者は鍵開けの技術でも持っているのか、しばらくすると扉を開けて家に入り込む。
「ふふ‥‥寝てる寝てる。それじゃ、愛するダーリンの為に‥‥きゃ」
自分で言っておきながら自分で照れる侵入者。だが問題は明らかに男だと分かる野太い声だろうか。
そして煉淡は背後にとんでもない存在がいるというのに、このまま朝まで過ごすしか‥‥無かった。
しばらくたっただろうか。チュンチュンと小鳥が囀るやはり爽やかな朝。
だが‥‥。
「‥‥‥」
起きた煉淡の目に映る存在は一体何なんだろう。寝ぼけて幻覚を見ているのかと頭を振り、ぐっぐっと目を手で圧迫するが――消えない。
「目の前の人は料理をしている。それはOK」
煉淡の言う通りである。
「料理をするため、エプロンをつけている。それもOK」
それも問題ない。
「目の前の人は筋骨隆々のオカマッチョであり、エプロン以外身につけてない。――NO!」
それも煉淡の言う通りなのだから困ったものである。
エプロン姿のオカマッチョ――煉淡が命名――は煉淡は起きた事に気づいたのか、こちらを振り向きニコっと笑顔で。
「おはようダーリン♪」
「いやああああああ!!」
「あの悲鳴は! 煉淡さんが襲われている、突入しなければ!」
夜明け頃には突入する為の準備をしていたロッドが煉淡の悲鳴を聞きつけ、突入を仲間に促す。
「鳥肌が‥‥鳥肌が‥‥」
度重なる経験からか潮は何かを察知し、とにかく震えるばかり。それでも突入しなければいけないのだ。
「それじゃ、行きましょうか?」
「―――って、ぶはぁ!?」
フィオナの声にロッドが振り向くと思わず吹き出してしまう。それもその筈。どう見てもフィオナはエプロン以外身に着けていないからだ!
「これはこれで浪漫よねぇ」
間違っちゃいない、ある意味。そして誰にも背後を見せようとしない辺り鉄壁である。
「ま、きっちり退治といこか♪ ‥‥‥目で楽しんでからな」
ユウヒは退治すると言っているのに、最後にぼそっと付け足した一言のせいで、どうしても真面目にやると思えない。実際目で楽しむのだろう。
そんなこんなで冒険者達は家の扉を開ける!
●尊き犠牲を忘れない
「じ、自由を! さもなくば死を。ギャァァァ!」
「ダーリン♪」
冒険者達が扉を開けた時、その時はまさしく煉淡の最後、であった。手にはアグラベイションのスクロールを持っているが無駄なあがきだったのだろう。オカマッチョにベッドに押し倒されていた。
「あっ、ネタ被ったかしら?」
オカマッチョも裸エプロンなのを見て、ネタが被ったのを残念がるフィオナ。見るところが明らかに違う。
「って、助けなければ! いい男のラーンス卿とアグラヴェイン卿の肖像画を!」
煉淡を救う為にラーンスロットとアグラヴェインの肖像画を取り出し、その肖像画の視線でオカマッチョの気を引こうとするロッド‥‥だが!
「ん? ふふ、やっぱり絵よりリアルよねぇ」
今頃冒険者達に気づいたのだろうか、煉淡をたっぷりと弄っていたオカマッチョがこちらを振り向くと開口一番がそれであった。そんな視線の先には肖像画ではなく、ロッド本人!
「ひぃ!?」
「ここは僕に任せてください! 本当は嫌ですが!」
そんなロッドを庇う様にロッドの前に出る潮。彼は何故か前掛けをつけていた。
「これで人妻系に対してスレイヤー能力がぁ〜!!」
彼の脳内ではジャパンの米屋が云々という理論があるらしいが、勿論そんな理論はない。いい男は襲われる、それだけだ。
「あら、あなたが相手してくれるの?」
迫りくるオカマッチョ! 潮は迎撃すべく自身の尻を相手に突き出し。
「ヤられる前にヤってやる!」
ぐるんぐるんと尻を横倒しにした八の字を描くように高速で振る! というかヤるって何をだ。
「あれは‥‥デンプシー・ヒップ・ロール!」
「知っているのか、フィオナ!」
そんな潮の様子に驚愕するフィオナとユウヒ。2人の顔が濃くなったような気がするが気のせいだろう。
「あのように動く事で回避性と攻撃力を増す、攻防一体の技‥‥。まさか今なお使える者がいるとはね‥‥」
フィオナの解説によると潮が繰り出している技は凄いものなのだろう。しかし‥‥。
「そんなに振っちゃって‥‥誘っているのね♪」
「え?」
尻を武器としている時点で変態相手には積みなのだ。がしっと片手で尻の動きを止めると後ろから手を回して抱え込むようにしてベッドへダイブ!
「うわあああああああ!!」
潮が色々されているが、女性陣はじっくり見ていた。
「助けましょうよ!?」
「仕方ないなー。っと、そこの変態、そろそろ退治させてもらうでー」
ロッドが襲われている潮を救う為、女性陣の救援を要請した所やっと重い腰を上げたユウヒ。
「何よ、何なのよ。人がせっかく楽しんでるのに」
むくっと明らかに不機嫌そうに顔を上げるオカマッチョ。楽しまれてる2人は語るまい。
「何よ、何なのよと聞かれれば‥‥答えてやるが世の情け! ‥‥だが、断る!」
「断るんですか!?」
自分で言っておきながら答えるのを断るユウヒに思わずロッドはツッコミを入れる。
「くっ!」
そしてその会話で出た隙を縫って、その場から抜け出そうと起き上がり走ろうとする煉淡‥‥だが!
「もう、囮役が逃げちゃ囮にならないでしょ?」
魔法を一瞬で唱えるフィオナ! その対象は‥‥オカマッチョ!
次の瞬間。
「ダーリン!!」
「何ぃ!?」
がばっと逃げる煉淡の上から思い切り被さり、一気にベッドまで連れ戻す!
あれな感じの幻想をオカマッチョは見ている筈だ。勿論相手役は煉淡で。
「そろそろ終いにするかな。ムーンアロー」
「そうねー。じゃあ頑張ってね、ロッドくん」
ベッドにて煉淡を襲っているオカマッチョに向けてムーンアローの魔法を発動するユウヒ! 発動したムーンアローは見事に――オカマッチョの尻に突き刺さる!
「アッー!」
「うわああああ!」
そして何かに取り付かれたかのようにオカマッチョの傍まで行き、弓でバシバシと撃つロッド! ‥‥フィオナがオカマッチョへの恐怖を無くすような幻想をイリュージョンで見せたからだが。
「あっ‥‥あっ‥‥カイカン!」
バタリ。
そしてオカマッチョは倒れた。尻に大量の矢が刺さっている状態で、だ。
●新しい朝が来た
「うーん、今回もおもろいもの見れたなー♪ 満足や♪ 男達は‥‥まあ、新しい人生歩んでや?」
一仕事終えて朝日を浴びながらうーんと伸びをするユウヒ。フィオナも似たようなものだ。相変わらず誰にも背後を見せないが。
潮はいつも通りの放心状態で、ロッドは朝っぱらから教会へ懺悔しにいったようだ。
「それじゃお仕事も終わったしギルドへ報告へいきましょうか」
意気揚々とギルドへの帰還を言うフィオナ。そして先ほどまで倒れていた煉淡が起き上がり、吠えた。
「どいつもこいつも、世界の不幸を根こそぎまとめて叩き込んできやがって! いい加減、本気で泣くぞ! 嗚咽するぞ! 慟哭するぞ!」
その叫びは朝っぱらから近所迷惑であった。