水中から迫るもの
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 99 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月13日〜06月20日
リプレイ公開日:2007年06月21日
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●オープニング
ブライトンという街がある。
その街は漁業で賑わっている街であった。
だからこそ、海に関する悩み事もあるわけで―――。
太陽が照りつけるのどかな海。その海に一隻の船が浮かんでいた。
勿論ただ浮かんでいるわけではない。その船は漁船なのだから。魚を捕まえる為に海に出ているのである。
とはいっても、そんなに陸地から離れているわけではなく、沿岸部の村などがぼんやりとだが目視できる距離だ。
「ふぁぁ‥‥‥」
網を海に投げ込んでから、暇なのか大あくびをする漁師。
実際、すぐに網を引き上げても意味無いし、待たなければいけないので暇なのだろう。
しかしそれもいつもの事。いつも通り適当に過ごそうか‥‥そう漁師は思っていた。
だが、この日はいつも通りにはいかなかった。
「ん、何だ‥‥?」
漁師が異変に気づいたのはしばらくしてからだった。
船が揺れている――いや、それは至極当然の事だ。揺れ方が大きいのだ。
勿論波が強ければ船は大きく揺れる。だが強い波が発生する程の風が出ているわけでもないのだ。
なら考えられるのは‥‥‥海の中に強い波を起こす程の何かがいる、という事。
ザパァァン!
「うわぁぁぁ!?」
そして漁師が最期の瞬間に見たもの。
それは巨大な口を大きく開けて迫る白黒の生物――グランパスであった。
「グランパスが漁師を襲う‥‥ですか」
場所は変わってキャメロットギルド。いつものように受付係の青年は依頼人から話を聞いていた。
「へぇ‥‥。お陰でおちおち海にも出られませんで、漁に出られないんじゃ商売上がったりですよ」
依頼人は日に焼けた男性だった。恐らくその話し振りからすると彼もまた漁師なのだろう。漁師達を代表して依頼しにきたといったところか。
生活する上で本当に困っているのだろう。苦々しい顔をしている。
「場所は‥‥ええと」
「ブライトンの近海です。船はこちらで貸し出しますので、どうかグランパスを何とかしてくだせえ」
両手を机の上に乗せて、机に頭をこすりつける勢いで頭を下げる依頼人。その様子を見て、受付係は何とかしなければ――そう思ったのだった。
●リプレイ本文
●大海原
かんかんと照りつける太陽、その日光を跳ね返すように光るのは海!
広い広い海上に、ぽつんと海の広さから考えてみればちっぽけな、でも実際は大きな船があった。
場所はブライトン近海。その船はグランパス退治に乗り出した冒険者達が乗っている船だ。
「うーみーはーどーだー!」
海に向かって叫んだのはリ・ル(ea3888)。彼は逞しい筋肉を惜しげもなく晒しながら船の上で日光浴と洒落込んでいた。
まだグランパスが現われる場所ではないからだろう、リラックスするのも大事な事だ。
「それにしても釣り日和でござるな〜。‥‥ならば、釣りをするでござる」
「ふむ、私も付き合おう」
青々とした海を見ていて釣りをしたくなったのだろうか。葉霧幻蔵(ea5683)は釣り竿を取り出すと、それに餌をつけて釣りを始めた。
そして先程まで船に同乗している漁師に操船について教わっていたセオフィラス・ディラック(ea7528)も釣りに付き合う。尤も幻蔵の釣りが息抜きのものなら、セオフィラスの釣りはグランパスを誘い出す撒餌にする為という真面目な目的だったりするのだが。
「今の所‥‥異常無しだな」
「成る程。情報通りですわね」
用心の為、ペットのヒポグリフのティターニアに乗って空から周囲の警戒をするのはエスリン・マッカレル(ea9669)だ。アクテ・シュラウヴェル(ea4137)が事前に友人から聞いたグランパスの生態や漁師の情報などから考えるとグランパスが出没するのはもう少し沖に出てからだが、念のため用心しているというわけである。
「あまり海に出る事は無いからな。結構、楽しみだぜ」
「私もですね。そのお陰で普段使い慣れない弓を使わなければいけないのですが」
船の甲板で海を眺めるように呟くクオン・レイウイング(ea0714)と山本修一郎(eb1293)。2人の得物は奇しくも同じ弓だ。とはいっても経験の差は雲泥ほどにあるのだが。
そうしてしばらく経っただろうか。何事も起こらず、海は相変わらず穏やかに見える。
「そろそろ‥‥現われる海域ですね」
ルーウィン・ルクレール(ea1364)の言う通り、事前に調べた通りならそこはグランパスが現われる場所である。
日光浴や釣りをしていた者達も、気を引き締めて周囲への警戒に当たる。
「さて、獲物としてキッチリ仕留めさせて貰うぜ」
各々準備をする中、クオンはそう言いながら自分の足などをロープで固定する。
だが、グランパスもまた―――狩猟者なのだ。
●海の暴れん坊
こうしてグランパスを迎撃する態勢を調えた冒険者達。
事前にリルが用意した武器もしっかりといつでも使える状況だ。
「あの黒い影‥‥来たか!?」
そしてティターニアに乗って空から辺りを警戒していたエスリンが見たものは、水中を走る大きな影! その大きさから考えると魚などではないと事は容易に分かる。つまり、グランパスが来たのだ! エスリンはすぐに船にいる仲間達にグランパスの襲来を知らせる!
「セオさん、バーニングソードを」
「ありがとう、アクテさん」
決定的なダメージを与える為にも、武器の威力を上げるの魔法であるバーニングソードをまずはセオフィラスの武器に付与するアクテ。その僅かながらの事であったが、2人の絆の強さが垣間見える。
「いくでござるよー! 大ガマの術!」
幻蔵の周囲にどろんと巻き起こる煙! 次の瞬間、煙の中から巨大なカエルの使い魔が姿を現す!
「それじゃ、囮になるんでござるよ」
幻蔵の術によって作られた大ガマは幻蔵の指示に従うように、海の中に飛び込む!
「‥‥カエルって海泳げんのか?」
「‥‥まぁ、カエルはカエルでも使い魔でござるし」
ちょっとしたリルの疑問に答えるかのように海をすいすいと‥‥とまではいかないが、何とか泳ぐ大ガマ。動きも大して素早くない。勿論、それを戦力に数えるには無理があるが、囮としては十分である。
ざぱぁっ!!
いつの間にか船の近くまで来ていたグランパスは、大きな水しぶきと共に海面に大口をあげながら顔を出す!その大きな口は、幻蔵の作り出した大ガマを一気に仕留めるように噛み付く!
当然、大ガマは抵抗も何もできずにもがくだけだが、それでいいのだ。囮なのだから。
「いよっし! 今のうちだ!」
ずいっと、グランパスがよく見えるように乗り出すリル。その右手には漁師が漁で使う銛が握られていた。そしてその銛はただの銛ではなく、前述した通りリルがわざわざ用意した武器でもある。その銛の柄にはロープがくくりつけられており、ロープの先には丸太が繋がっている。つまり‥‥銛を刺した後に、丸太が浮きとなるのだ。
尤も、そんな武器だと扱いづらく命中精度も落ちるだろう。だが、グランパスは今、囮である大ガマに噛み付いているせいで隙だらけだった。
「だっ‥‥せぃ!!」
溜めて、一気に投擲する! 放たれた銛は見事、グランパスの背中の部分に突き刺さる!
グァァァァ!
グランパスの硬い皮膚に阻まれ、あまり深くは刺さらない! だが、簡単には抜けないぐらいに突き刺さってはくれた。現状ではあまり大きなダメージとならないが、これは効果的な攻撃となるだろう。
傷を負ったグランパスは、もはや無惨な姿となった大ガマを離し、明確な敵である船上の冒険者達に敵意を向ける!
「こいつも――食らいな!」
だが冒険者達の攻撃の手がやむことは無い。リルの投擲の前から矢を弓に番えていたクオンは即座に矢を放つ! 矢は研ぎ澄まされた狙い通りの場所‥‥グランパスの脇腹に突き刺さる!
「私も続きます!」
次に矢を放つのは修一郎! だが普段から使い慣れてない弓だからか、その矢はグランパスがこちらに向かって泳いでくるというだけで簡単に避けられてしまう!
グギュァァァァ!
そして矢を避けた勢いのまま、冒険者達の船に思いっきり頭からぶつかっていくグランパス! その勢いは凄まじく、船は壊れこそしなかったが大きく揺れる!
「くっ‥‥! 大丈夫か!」
「あ、あぁ‥‥」
事前に足をロープで船にくくりつけるなどしてたお陰で海に落ちた者は誰もいない。少し危うかった同乗している漁師も、何とかリルが抑える。とはいえ、攻撃直後で体勢が崩れていた為にリルも含めてクオンも修一郎も転倒してしまい、揺れる船のせいで中々立ち上がる事ができない!
だが、それはつまり他の者は転倒してないという事! そしてグランパスが最も接近したこの時を逃がすほど冒険者達は甘くない!
「下に回られる前に‥‥!」
「動きを止める!」
ルーウィンもセオフィラスもやはりロープで丸太やらを繋げた銛を片手に持ち――もう片方の手は揺れる船のせいで転倒しないように自身をしっかりと支えながら――グランパスに向かって突き刺す!
グァァァァァ!
やはり、深くはない。だが簡単に抜けるほど浅くもない! そしてセオフィラスが投げた銛のロープの先は船自体に繋がっている。これで容易くは逃がさない筈だ。
「この位置からなら‥‥問題ない!」
更にこの状況で心強いのがティターニアに乗って空を飛んでいるお陰で、船の揺れの影響もグランパスからの攻撃も受けないエスリンだ。彼女はグランパスの真上の位置を取り、弓から矢を放つ!
自身の闘気によって集中力を増したエスリンの放つ矢は鋭い一撃となり、グランパスの目に突き刺さる!
グゥゥ‥‥グギュゥゥゥ!
「いけません! グランパスが逃げます!」
アクテの叫び通り、グランパスは逃げようとする! そう、攻撃が絶対に届かない水中へと潜って!
―――だが。
潜らない。潜れない。潜る事ができない。何故なら―――。
「よし! 上手い具合に浮きが機能してるぞ!」
「私は船を転倒させないようにする!」
リルの言う通り、グランパスに刺さっている銛に繋がっているロープの先‥‥丸太がグランパスが深く海に潜るのを邪魔しているのだ!
また、船と繋がっている銛もグランパスを邪魔するのに一役買っており、セオフィラスは漁師だけでは大変そうな操船の手伝いをする。
「今のうちに、一気に攻撃を叩き込むでござるよ!」
「あぁ!」
本来のグランパスなら一気に引き抜いて逃げる事もできたかもしれない。だが、いかんせんダメージを負いすぎていた。
これがチャンスとばかりに、冒険者達は次々と矢を、銛を、グランパスへと放つ!
グゥゥウウアアアア!
「これで、とどめだ!」
上空から放たれたエスリンの矢がグランパスのもう片方の目へと突き刺さり‥‥グランパスの動きが止まった。
●海の戦士達
「おー、こりゃすげぇ!」
「こいつがグランパスか‥‥」
そして、港に戻った冒険者達を迎えたのは多くの漁師達だった。冒険者達の船はロープでグランパスを何とか引っ張って戻ってきたのだ。
船に同乗していた漁師が船から下りると、あっという間に同業者に囲まれてわいわい話を聞かれる程の興奮ぶりだ。
「よっぽど困っていたんだな。皆、嬉しそうだ」
「えぇ、無事に依頼を完遂できて幸いです」
エスリンとルーウィンはその様子を見て、グランパスが与えていた影響を改めて実感する。
「で、こうしてグランパスの遺骸を持ち帰ってきたのはいいですが‥‥どうしましょう」
持ち帰ったグランパスの遺骸を見ながら、漁師達に聞くアクテ。実際、このまま置いておく訳にもいかないだろう。
「だったら食べちまうってのはどうだ? 獲物を美味しく頂くってのは常識だからな」
「兄ちゃん! 分かってるじゃねーか!」
そこでクオンはグランパスをいっその事食べる事を提案する。その提案に周りの漁師達も諸手をあげて賛成する。
「よっしゃー! 酒でも飲みながら食って、語り合おうじゃねぇか!」
「おうよぉー!」
「‥‥‥リルさん、順応早いですね」
場はどんどん盛り上がり、リルの提案に更に盛り上がる漁師達を見て、修一郎は軽く呆れつつも楽しそうだな、と思ったのだった。
宴は、夜遅くまで続く。