偉大な騎士――の弟

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月29日〜07月04日

リプレイ公開日:2007年07月07日

●オープニング

 月が綺麗な夜であった。
「え、何‥‥?」
 家が、揺れる。その揺れにより目を覚ます少女。
 地震だろうか‥‥それにしては揺れ方が何かおかしい。地面が揺れているんじゃなくて、家が揺らされているような。
 バキャッ!!
「え‥‥‥?」
 めきめきめきという何かを破壊する音。その音がする方に目を向けてみれば、そこには。
 ―――フシュー‥‥グヒヒヒ!!
 聞くに堪えない醜い笑い声。人間の声ではない、化け物の声だ。
「いやぁ! 来ないで‥‥!」
 何を見たのだろうか、少女はベッドの上を後ずさるようにするが‥‥声の主がそんな事で退く筈がない。
 少女の目の前にいる化け物‥‥。濃い褐色の肌、凶悪な顔立ちに2本の角を生やしている‥‥それはオーグラであった。
 右手に武器だろう巨大な棒切れを持ち、その力で無理矢理家に侵入してきたのだろう。
 そして少女の視界の片隅には‥‥無惨にも頭を一撃で粉砕された親の死体が転がっていた。
「あ、あぁ‥‥」
 あまりの恐怖に気絶する少女。
 オーグラは手間が省けて良かったとでも思ってるのか、嬉々として彼女を軽々と片手で掴み、家を出ていく。
 月明かりに照らされる醜いオーグラ。そのままオーグラは夜の山へと消えていった。
 ―――まだ、村の中の悲鳴は消えない。


 ギシ‥‥。
 重厚な鎧に包まれた騎士が椅子に腰掛ける。
 室内だというのに、騎士は完全武装であった。鎧だけでなく、兜もだ。その顔全てを覆う兜のせいで騎士の顔を伺う事はできない。
 全身黒の鎧に、兜からはみ出ている長い金色の髪がアクセントとなっている。
「‥‥どうしたものでしょうか」
 溜め息と同時にこぼれ出た言葉。兜を被っていたせいで声はくぐもっており、どのような声をしているのかは分からない。
 彼の名はエクター・ド・マリス。あの湖の騎士、ラーンス・ロットの―――弟である。
 彼は19歳という若干ながら、その実力を買われて王宮騎士としてイギリス王国を守る立場にある。
 だが、彼は少し前にその立場にあるまじき行動を取った為に立場が危ぶまれている。勿論イギリス王国に剣を向けたわけではない。
 しばらく前のマレアガンス城攻略戦。その時、彼にもマレアガンス城への攻撃の指示が出ていた。だが‥‥ラーンスを心の底から敬愛している彼は、マレアガンスについているラーンスに――尤も偽者だったのだが――敵対できなかったのだ。
「なんて‥‥情けないんでしょう、私は」
 ラーンスを信じていれば、彼がマレアガンスなんかにつくことは無い事は分かっただろう。その時の事を思い出し、深く後悔するエクター。
 鎧に身を包んだまま、椅子に座りうなだれるエクター。だが‥‥。
「‥‥いえ、いつまでも嘆いてばかりではいけません。立派な騎士になる為にも、民を守る為にも‥‥前を向かなければ!」
 後悔を振り切ったのだろう。エクターは椅子から立ち上がる。
 と、その時。エクターのいる部屋の扉がノックされる。
「何ですか? 入ってください」
「失礼します」
 エクターが丁寧な言葉遣いでノックの主が入ることを促すと、扉を開けて入ってきたのは1人の騎士だ。エクターの部下の1人である。
「何かあったのですか?」
「は、それが‥‥」
 どこか落ち着かない様子の騎士に、何か問題が起きたのだろうかと問い質すエクター。
「‥‥オーグラが現われました」
「オーグラ、ですか? ‥‥それは厄介ですね」
 オーグラ‥‥いわゆるオーガの一種であるモンスターだ。その凶暴さや強さなどは、他の多くのオーガに比べても上である。
「どこに現われたのですか?」
「キャメロットの周辺の村に最近現れる様になったとか‥‥。更に厄介な事に‥‥3体も出てくる、とのこと」
「‥‥厳しいですね」
 凶暴なオーグラが3体も同時に現れるとなると、並の騎士ではとてもではないが歯が立たないだろう。
「分かりました、私が直接出ます。これも騎士の務めです」
「しかし‥‥今出れる他の騎士の方々はそうおりませんが‥‥」
 エクターが直接オーグラを討伐する、と言う。だが彼の部下は現在、それぞれ任務中で動けないようだ。
 他の王宮騎士なども彼らの任務があるだろうし、力が借りれるとは限らない。
「大丈夫です。我らがイギリス王国には騎士以外にも素晴らしい戦士達がいるじゃないですか」
 そんな心配をする部下に向かって、エクターは笑顔を浮かべるような声色で――兜を被っているので実際はどうだか分からないが――言ったのだった。


「は、はぁ‥‥そういうわけですか」
「えぇ、そういうわけです」
 場所は変わってキャメロットギルド。受付係の青年の対面にいるのは黒い鎧に身を包んだ騎士‥‥エクター・ド・マリスである。
 相変わらずエクターは全身を鎧兜で武装しており、受付係はその威圧感を真正面から受け止めていた。
 つまり、エクターはオーグラを倒すためにギルドに依頼をしにきたのだ。
「えぇと‥‥あなたも同行するんですよね?」
「はい。苦しんでる民を見過ごすわけにはいきません」
 座って目の前の書類に必要事項などを書きながら目の前のエクターを見上げる受付係。やはり表情は伺えない。
(「‥‥‥何だか怖いよ、この人!」)
 勿論そんなのは受付係の思い過ごしだろう。エクターは王宮騎士であり、あのラーンスの弟なのだから。
 ‥‥しかし、黒い鎧に身を包み、表情が分からないのではある意味仕方ないのかもしれないが。
「それでは、お願いしますね」
「は、はい‥‥」
 きっちり礼をしつつもやっぱり兜を取らないエクターに戸惑いつつも、受付係は依頼を受理したのであった。

●今回の参加者

 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3415 李 斎(45歳・♀・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7528 セオフィラス・ディラック(34歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 eb0921 風雲寺 雷音丸(37歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7226 セティア・ルナリード(26歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

フローラ・タナー(ea1060)/ フリッツ・シーカー(eb1116

●リプレイ本文

●村の傷跡
 キャメロットから非常に近い場所にある村。普段ならきっとのどかな村なのだろう。そんな村に冒険者達一行とエクター・ド・マリスは訪れていた。
 だが、今その村に笑顔を浮かべる住民はいなかった。
「これは、酷いな」
「オーグラの力が嫌って程分かるな」
 破壊尽くされた家や、踏み荒らされた家を見て目を細めるように呟くセオフィラス・ディラック(ea7528)。非力なモンスターでは決してできない破壊の跡を見てセティア・ルナリード(eb7226)もオーグラの力を推測する。
「何てことを‥‥。許せません‥‥!」
「僕、怪我してる人の手当てしてくるねっ!」
 守るべき民を襲ったオーグラへの怒りを、鎧の中で兜の中で表情を見せずに燃やすエクター。シャンピニオン・エウレカ(ea7984)は助けたいという気持ちから、傷ついた村人たちを癒すべく村の中を率先して飛んでまわる。
「こんな状態の人たちに話を聞くのは酷かもしれないけど‥‥」
「オーグラを倒すためには‥‥聞かなくちゃあな」
 オーグラによって体だけでなく心に傷を負っているだろう村人に話を聞くのに負い目を感じる李斎(ea3415)だが、ギリアム・バルセイド(ea3245)の言う通りオーグラの情報は倒す上で必要であり、その言葉に頷く。
「森の地理も確認したいのであるよ」
「そうですね。手分けして情報を集めた方が良さそうですね」
「ガルルル‥‥そうだな」
 オーグラが住んでいるという森の中での探索を効率よく進める為に、森の地理の確認も必要だということでリデト・ユリースト(ea5913)も地理に詳しそうな猟師などに話を聞く為に村の中を飛ぶ。陰守森写歩朗(eb7208)もまた、効率よく情報を集める為に別の村人に話を聞く為に動く。風雲寺雷音丸(eb0921)もまるで獣さながらに唸りながら、拙い言葉ながらも熱心に話を聞こうとしている。

 しばらくが経っただろうか。手分けして聞き出しただけあって、スムーズに情報を集める事ができた。
「たった一晩でかなりの人がやられたようだな」
「行方不明になった者も相当‥‥か」
 話に聞くだけでも多くの村人がオーグラに殺された事が分かった。ギリアムは村の端に新たに作られた墓の数を見て、その事を実感する。またセオフィラスの言う通り、死体が見つからなく、またその場にいない者の数も少なくはない。―――尤も、誰のものか分からない骨や衣服などがあったらしいが。つまり、その場で食べられたか住処に連れ去られたか‥‥そんなとこだろう。
「‥‥それが数日前の出来事、ね」
 確認するようにぽつりと呟く斎。事件が起きてからエクターの元へ、それからギルドへの依頼。その間で数日が経っているのだ。もし最初の一晩では食べられなかった連れ去られた者も‥‥既に命は無いだろう。
「早めに退治しないとまたこの村が襲撃されてしまうのである。前回の襲撃が数日前であるから‥‥」
「猶予はあまり無いでしょう」
 現状、オーグラの腹具合を推測するリデトの言葉を森写歩朗が次ぐ。
「森に行きましょう。これ以上、被害を増やさない為にも!」
 エクターは決意を秘めた目で――兜のせいで見えないのだが――森を見る。

●鎧の騎士
 そうして冒険者達一行はオーグラが住む森の中に入る。オーグラの襲撃前に叩く為だ。
「あっちに何か大きいのが無理矢理通ったような跡が見えるである」
「グルル‥‥そっちの方が臭いが濃い」
 森の中で高い所を飛び、なるべく周りを見渡し、自分の知識と照り合わせて不自然な跡を探すリデト。おかしな点を見つけたのを仲間に告げると、雷音丸の優れた嗅覚もその方向にオーグラや人の臭いがかすかにするのを示す。
「ってぇことは、結構近づいてきたって事だな」
「えぇ、そうですね」
 まだ見ぬオーグラに近づいてるという事で気合を入れなおすギリアム。エクターもそれに頷く。
 ‥‥そんなエクターはやはり森の中でも全身に黒い鎧兜を装備していた。完全装備だ。勿論、そんな姿を見て冒険者達も気にならないわけはなく。
「なぁ‥‥。俺もあまり言えた装いではないが‥‥さすがに暑くないのか? ソレは」
 そして切り出したのはセオフィラスだ。まずは普通の一般論というやつか。この季節、全身鎧を装備して動くというのは中々辛いはずだ。
「‥‥暑くないと思えば暑くないです」
 エクター曰く、心の持ちようでどうとでもなるらしい。‥‥それでも限界があると思うか。
「むぅ、顔を見せて欲しいであるな。強敵を相手に一緒に戦うであればお互い目を見て話した方が心が通じ合って連係が取り易くなるであるよ」
「それは‥‥」
 エクターの話ということで、先ほどから気になっていたのであろうリデトもエクターの目の前に下りてきて、じーっと顔を覗き込む。
「恥ずかしいんであるかな」
「え、それはそれでまた違うのですが‥‥」
 さすがに恥ずかしいから、というわけではないらしい。
「兜の中‥‥見てみたいなぁ‥‥ラーンスロット様の弟なんだから、きっと王子様みたいにカッコいいんだろうなぁ」
「あのラーンス卿の弟だからな。いや正直あの格好はメチャクチャ怪しいと思うが」
 エクターの後ろを歩きながら、うずうずわくわくしながらエクターの素顔に胸を躍らせるシャンピニオン。セティアも同じく気になるようだ、色んな意味で。
「まま。気になるところはあるけど、私達の仲間だしね」
 斎も斎でエクターの事が気になるが、彼の事を気遣い、明るく纏めるのだった。

●人を喰らう
「ガルルルァ‥‥見えた!」
 人の身としては優れた視覚を持つ雷音丸の目に映るもの‥‥それは3体のオーグラ。集まっている所が住処なのか、その周囲に人のものと思われる骨が散乱していた。
「ちっ‥‥生きている人は‥‥居ないか」
 雷音丸よりも更に優れた視力でもってセティアも周囲を探るが、見えるのは元は人だったものの残骸だけであった。
「強く、願って。皆なら絶対勝てるよっ!」
 シャンピニオンの聖なる祝福、グッドラック。その思いの篭った魔法を前衛の者達は受ける。
 また、セティアもリトルフライの魔法を唱えて宙に浮かぶ。空中にいればオーグラから攻撃を受ける事はほぼ無いからだ。
「準備が出来たようですね‥‥では、往きましょう!」
 エクターの呼びかけに皆が頷いた。

 ――グフシュゥ!
 オーグラの前に姿を表した冒険者達。そんな冒険者達を見てオーグラは少し驚きはしたものの、逃げたり怯えたりといった様子は少しも見せなかった。
 すぐに魔法の詠唱に入るシャンピニオン。その様子を見て、こちらに攻撃する為に武器である棍棒を手に走ってくる3体のオーグラ!
「こっちですよ!」
 そんなオーグラの気を引くように自身の俊敏さを活かして、オーグラへと近づいてすれ違いざまに魔獣の短剣で斬りかかる森写歩朗!
 傷としては浅いものだが、それでもオーグラの気を引くには十分だったのだろう。1体のオーグラは狙いを森写歩朗に定める!
「よし、今だ!」
 他の2体のオーグラがこちらにある程度向かってきた所でスクロールを広げ、魔法を発動するセティア。その魔法は対象を足元の影で固定するシャドウバインディング。効くかどうかは五分といったところか。
 だが魔法が発動したのにも関わらず、相変わらずこちらに向かって動く2体のオーグラ。魔法の抵抗に成功したのだろう。
「ガァアアアア!! いざ尋常に勝負!」
 そしてこちらに向かってくるオーグラを見て大きく吼える雷音丸。彼が望んだのはオーガ種上位に立つオーグラの1対1での正面からの戦いだ。その咆哮に釣られるように1体のオーグラが雷音丸の方までやってきた、向かい合う!
 先に動いたのは――オーグラだった。渾身の力を込めた棍棒が振り下ろされるが、雷音丸はそれを難なく盾で受け流す! 食らえば一溜まりもない一撃だが、当たらなければどうという事はないのだ。二撃も同じように受け流す。
「ウガァァァッ!!」
 オーグラの攻撃が振り切ったところで、すかさず反撃に移る雷音丸。やはり彼も剣に渾身の力を込めた一撃を放ち、それをオーグラは避ける事もできずにただ食らうのみ!
「あれが‥‥人として超越した格闘技術を持つ者の戦い、か」
 雷音丸の戦いぶりに圧倒されるセオフィラス。そしてもう1体のオーグラがこちらに迫っていた。
「掛かって来いよ、ウスノロ」
 そんなオーグラの目の前に盾を構えて、馬鹿にするような笑いを浮かべながら立つギリアム。単純なオーグラはそんな彼に打ち込むが、防御に徹したギリアムにとって、その攻撃を受け流す事は容易い。
 ――また、実は森写歩朗がハグストーンによるオーガの動きが鈍る結界を張っているお陰でもあった。
「いくら身体が大きいからって、ぼーいんぼーしょく禁止っ! なんだからね!」
 発動するシャンピニオンの魔法、コアギュレイト。その魔法により森写歩朗が気を引いていたオーグラの動きが止まる!
 またギリアムが攻撃を受け止めているオーグラにもセオフィラスのオーガに有効な剣による強力な一撃! 斎の力を込めた蹴り! そしてエクターの剣がオーグラを斬る! いくら耐久に優れたオーグラといえどもこれには溜まらない。
 すかさずセティアがまたシャドウバインディングを発動させ、今度こそ決まる! その場から動けなくなったオーグラが沈むのにそう時間はかからなかった。
 雷音丸が相手をしたオーグラも、雷音丸の盾を突破する事ができず‥‥彼に一方的に首を刎ねられたのであった。
 最後にコアギュレイトで何もできないオーグラを倒し、これで全てのオーグラを倒したのだった。

●埋葬
 こうしてオーグラを倒した冒険者達だったが、目の前には多くの骨が散乱していた。
「‥‥埋葬、してあげませんとね」
 エクターが言う。オーグラに喰われた者達が救われるように、と。表情は見えないがきっと沈痛な面持ちだろう。
 そして‥‥冒険者達に埋葬を断る理由は無かった。