地獄の村

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2007年08月19日

●オープニング

「おい、あのヒョロヒョロしたやつはどうした?」
「さぁなぁ。‥‥あれした後に放置したからな。逃げようとしてどっかで野垂れ死んだじゃね?」
「ははっ。そうだと面白いんだがな」



 地獄は突然やってきた。
「はいはーい、みなさーん、ちゅうもーっく!」
 その村は小さな村だった。辺りは森に囲まれ、その森に関する何らかの生業を営んでいる者が大半の村だ。
 キャメロットからはそう離れてないものの、その村に訪れる者も少なく、年々村の者は村を出ていく小さな村であった。
 他の村や街との交流もなく、恐らくいつかは廃村になるような小さな村だった。
 それでも、村人達は生きていた。
 そんな村の静寂を破るかのように、村の入り口の方から声が聞こえてきた。
 偶々家の外に出ていた老人が声をした方を見ると、男が1人立っていた。
 男は‥‥何故か武装していた。
「この村は、今日から俺達が支配しまっす!」
 何を言っているのか。村人には男の言いたい事がまったく分からなかった。
 そう思っていると、男は誰かを呼ぶように自身の後方へと手招きする。
 そして現れたのはもう1人の男。その男もやはり武装していた。
 だが、その男を見た村人にとって重要なのはそんなことではなく‥‥。
「な、その子は‥‥!?」
「おぉっと、知り合いかい? ま、こんなチンケな村じゃ全員知り合い同士か」
 新たに現れた男は‥‥年端もいかない少年を肩に担いでいた。
 少年は気絶しているのか、顔をあげずにぐったりしている。顔以外の外見だけで村人が少年を特定できたのも、この村に住人が少ないからだろう。
 村人の驚いた顔を尻目に、最初からその場にいた男は腰に下げていた剣を抜き放ち、少年の顔へと当てる。
「こっちにゃ、人質がいるってわけだ。他にも数人‥‥な」
 地獄は突然やってきた。

 それから急に現れた男達はまさに言葉通りに村を支配した。
 男達は恐らく山賊だとかの類であろう。村や旅人から何かを奪って生活するのなら、村自体を支配して生きるのも大差ない‥‥そう思ったのだろう。
 山賊達はたった6人で‥‥やはりたった15人の村人達を自らの支配下においた。
 単純な事だ。暴力を見せたのである。
 山賊達が始めにした事は見せしめであった。自分たちに反抗の意を示した者をまず殺した。
 次に逃げ出そうとした者が現れたら捕まえ、その者の前で‥‥本人ではなくその者の大事な者を殺した。小さな村であるからそのコミュニティも強いものとなっている。
 このような見せしめをされて、村人達は逃げる気も無くし‥‥ただ飼い殺しの日々を送る事となった。いつか助けが来る事を信じて。
 そして村が山賊に支配されてから数日が経った。
 山賊の思惑通り、もはや彼らに刃向かう村人はいなかった。山賊の命令通りに彼らに食べ物などを献上する事となった村人。すると、山賊が次に求めたのは暇つぶしであった。
 確かに生活には困らない。そうなると日々の生活に暇ができる。‥‥なんとも我侭な事であるが。
 そんな彼らのターゲットになったのは1人の青年だった。彼は比較的病弱な体質をしており、あまり働く事ができない体であった。それは現状でもあまり変わらなく、そんな姿がどことなく山賊の癇に障ったのだろう。―――自分たちの為に働かないとは何事か、と。
 だから彼は――或る日、彼らに暴行を加えられた。
 殴る蹴るだけでは済まさず、剣を使ってまで――なるべく長く楽しめるように殺さないように――だ。
 その結果は、彼は幸か不幸か死なず‥‥それに飽きた山賊は彼の生死を確かめることなくその場を去った。

 そして青年は――希望を掴む為に走る。


「な、これは‥‥何が起きたんですか!?」
 全身を鎧で包んだ騎士エクター・ド・マリスは目の前で倒れている青年を見て、叫んだ。
 その青年は全身傷だらけであり、服もぼろぼろで至る所に泥や木の葉などがついている。顔色も血色が消えていて呼吸も荒くいつ死んでもおかしくない‥‥そのような様相であった。
 彼は――地獄のような村から逃げ出してきた青年である。
 命からがらなんとかキャメロットまでやってきた彼は、その様子を見た騎士に保護されたのだ。別の騎士が上司であるエクターを呼ぶ間に、自分の住む村に何があったのかを話す青年‥‥騎士が止めても、だ。まるで自分の死期がすぐ後に訪れると分っているかのように。
 青年が話し終えると同時に、そこにエクターがやってきたのだ。
「あ、騎士様‥‥‥」
「何て‥‥。治癒魔法は!?」
 エクターを見ると安心したかのように微笑む青年。エクターが彼を助けるように叫ぶが部下の騎士はただ首を横に振るだけ。‥‥もはや手遅れ、と。
「村を‥‥お願いします‥‥」
 エクターに全てを任せるように‥‥青年は帰らぬ人となった。


「‥‥行きましょう、村へ。一刻も早く村人を助ける為に」
 青年の死を看取ると、エクターはすっと立ち上がりそう宣言する。彼のような被害者をもう出さない為にも。
「しかし‥‥恐らく山賊は村人達を人質に取る筈‥‥どうすれば」
「そうですね、騎士がいけば恐らくそうなるでしょう‥‥‥」
 部下の言葉を聞き少々の思考をするエクター。兜のせいで表情変化は見て取れないが、険しい顔をしているだろう。
「ならば‥‥冒険者の手を借りて、正攻法以外の手を取りましょう」

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3173 橘 木香(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●地獄の村
 山賊達に支配された村。その村のすぐ傍まで冒険者達とエクター・ド・マリスはやってきていた。勿論村を山賊達の支配から救う為である。彼らは闇の帳が覆う夜の今、村の近くの森の中で息を潜めていた。
「あの青年がキャメロットまで辿り着くとは、賊は想像もしていないでしょう‥‥。彼の、命をかけたメッセージを無駄にする事はできません」
「はい。理不尽な力で、村を支配し、多くの苦しみと悲しみを生むなど、見過せる物では有りません」
 この村の惨状をキャメロットまで伝えそして死んでいった青年へと黙祷し、瞼を開けて決意を固めるユリアル・カートライト(ea1249)。勿論その決意はロッド・エルメロイ(eb9943)にとっても同じものである。
「侍‥‥といっても今は見習いですが、柊静夜と申します。今回はよろしくお願いします」
「はい、こちらこそお願いします」
 初対面のエクターに対して丁寧に挨拶する柊静夜(eb8942)。対するエクターも言葉を返すが、相変わらず黒い鎧兜に身を包んでおり表情は伺えない。
 そんなエクターをじっと見るのはどこか抜けた様子のある橘木香(eb3173)だ。
「全身黒甲冑って、悪の幹部の証ですよね?」
「はい?」
「あと、全身甲冑の人は中身がからっぽで鎧だけという話も‥‥」
 確かに全身を黒で包んでいるエクターは見た目だけで言えば怪しすぎるが、だからといって木香の発想も突拍子が無さすぎるというか。
「ボケはそこまでにして、そろそろ潜り込むぞ」
「さて、人質はどこにいるか」
 そんな木香に声をかける少年、キット・ファゼータ(ea2307)。彼も木香も村に潜入して山賊の配置や人質の場所などを探る係だ。忍者である陰守森写歩朗(eb7208)も同様である。そんな彼らにユリアルがバイブレーションセンサーで調べた村の様子を告げる。夜だけあってどうやら寝てる者もいるようだが、起きてる者はしっかり起きてるようだ。
 そして彼らは夜の村へと消えていく。

●接近
 調査は比較的スムーズにいったと言えるだろう。忍び足で村を歩き回った結果、ある程度探る事ができた。尤も、2箇所ほど見張りが立っていた家があり、そこにはあまり近づく事ができなかったのだが。どちらかが人質のいる家でもう片方が山賊達の寝床だろう。そして山賊がいる家は、山賊達が馬鹿騒ぎでもしているのか比較的特定は容易かった。となると、残る家が人質が捕まっている家となる。
 調査の結果をキットが待機している皆に告げに戻ると、木香と森写歩朗は人質救出の為に、人質が捕まっている家の傍で様子を伺う。‥‥もし彼らの耳が良ければ聞きたくもないくぐもった悲鳴が家の中から聞こえていただろう。それが聞こえなかったのは幸か不幸か。
『おい、ちょっと来てみろ!』
 そう家の前で見張りをしている山賊に声をかけたのは誰あろう木香だ。賊の声を声色で真似てみたのだが、なんとも苦しいものとなっていた。だがそれでも見張りをしている山賊は不審に思ったのだろう。武器を携え辺りを見渡す。このまま家から離れてくれたら御の字なのだが‥‥。
 見張りは家の扉を開け、中を覗くと声を二言三言かける。誰かとのやり取りを終えてから家を離れるように声の主を探すように歩き始める見張り。
 家に忍び込み、人質を助ける絶好の機会と思いきや家の中から出てくる新たな山賊。気だるそうに愚痴を呟きながら出てくるが、その手にはしっかと武器を握っている。
「さすがに‥‥同じ手は使えませんね」
「となると、何とか不意をついてでも、か」
 見張りを倒す事に決める木香と森写歩朗。各々の武器を強く握りしめる。

「ん‥‥?」
 見張りの山賊の目の前に現われたのは和服を着た1人の少女‥‥木香。傍目には何も持ってないかのように見える‥‥が。
 ――ヒュッ!
 腕を素早く振るうとその手に握られていたのは日本刀・霞刀。見えぬ程の素早さで敵を斬る高速の斬撃!
「見切られた!?」
「はっ、見え見えなんだよなぁ」
 だが男には刀の動きが見えたのだろうか。軽々と避ける。実際、その刀は見えさえすれば避けるのは容易なのだ。
「ふっ‥‥!」
「あぁ? 他にもいたのか?」
 木香に山賊が気を取られてる隙に予め背後に回れるように移動していた森写歩朗がすかさず短剣を片手に山賊の背後から斬りかかる! だが山賊は背後からの攻撃だというのに難なくその攻撃を手持ちの剣で受けてしまう!
「おい、野郎ども! 敵襲だ!!」
 見張りの男が声を張り上げる。戦いは加速していく――!

●怒りの剣
「おい、野郎ども! 敵襲だ!!」
 果たしてその声は待機していた冒険者達の耳にも入る。
「これは‥‥俺達も動く時か」
 救出班の動きがどうあれここまで来たら動かないわけにはいかないと、クロック・ランベリー(eb3776)が仲間達に声をかける。
「我々が表で敵を引きつけましょう」
 静夜の言う通り、正面から突入する班の役割は山賊を退治するのは勿論、人質救出班が動きやすくなる為の囮的な意味もあるのだ。ロッドが正面突入班にそれぞれフレイムエリベイションを付与すると、各々村に突入する!
「私はイギリス王国の騎士、エクター・ド・マリス! あなた達を討伐します!」
「ちぃ、もう嗅ぎつけやがったか!」
 武器を持って現れた4人の山賊が目に入ると、動きを止める為にもエクターは山賊に向かって名乗りをあげる。名乗りを聞いた山賊達の顔は苦々しいものである。
「魔力により彼の者の動きを縛れ! アグラベイション!!」
「ぐぅ!?」
 山賊達が下手に動く前にとユリアルはアグラベイションを唱えて山賊達の動きを鈍らせる! ちょうどその場にいた山賊は全てその魔法に抗う事ができなかったようだ。
「今のうちに叩くぞ!!」
 山賊達の動きが鈍ったのを見てとったクロックが剣を握り締め、山賊達へと走っていく! エクターも静夜も同じくだ。
「この状況ならば‥‥マグナブロー!」
 更にロッドは自分たちから尤も離れた山賊に対して、逃げられない内に高速で唱えられたマグナブローの魔法により、地から湧き上がるマグマで燃やす!
 この状況ならば冒険者達の勝ちは濃いだろう。山賊達の1人1人の基本的な実力は冒険者達以上と言ってもいい。だがアグラベイションにより満足に動けない状況では冒険者達の手数に押されてしまう。
 だが、そんな状況を逆転させる要素がまだ山賊達には残っていた。

「てめぇら、動くんじゃねぇ!!」
 辺りに響く怒声! その声に冒険者達が一斉に振り向くと、そこに居たのは先ほどまで戦っていたのとは別の山賊! 恐らく最初人質の家を見張っていた山賊だろう。そして問題なのは山賊の手に握られているもの。右手には剣。左手には‥‥少女を抱えるようにしており、右手の剣の切っ先は少女へと向いていた。
「卑怯な‥‥!」
 苦々しく洩らす静夜だが、この状況で下手に動けば間違いなく少女の頭と体は分断されてしまうだろう。同じように他の冒険者達も動きを止めざるを得なかった。
「よーしよし、武器を捨てな。んで後は―――ぐっ!?」
 命令をしていた山賊の声が呻きに変わる一瞬。その直後、1匹の鷹が山賊の顔に覆いかぶさるように襲いかかる!
「今のうちだ!」
「カムシン、動きを止めろよ!」
 そして物陰から飛び出す2人の人物! いざという時の別働隊として待機していたマナウス・ドラッケン(ea0021)とキットだ。マナウスは先ほど投げたダガーofリターンを手元に戻し、キットはペットの鷹であるカムシンに指示をしつつ走る! 山賊がいきなりの襲撃に慌てている間に思いっきりキットが体当たりをする!
「ぐっ!?」
 その体当たりによって大したダメージはないが、弾き飛ばされてしまう山賊。手に抱えていた少女も離してしまうぐらいに、だ。
「よし、お嬢ちゃん。もう大丈夫だからな」
 少女を自身の後ろに隠すようにして立ちはだかるマナウス。その手にはダガーを。その顔には隠す気も無い激怒を。
「くそッ! 何故俺らがこんな目に!」
「何故、だと? ――貴様のような輩が吠えるなぁ!!」
 よろめきながら呪詛を吐く山賊に対して、怒りのままダガーを投げつけるマナウス! その怒りは冒険者達全員のものであり、エクターのものでもある。
「外道がぁ―――!!」
 いつもの丁寧な態度もどこへやら、怒りのまま剣を振るうエクター。簡単に言えばキレているのだ。外見は相変わらずなのだが、それでも溢れる怒りを鎧の外から簡単に察する事ができる程だ。
「どう思われようと知ったこっちゃない、息の根を止める!」
「覚悟はいいか、下種ども」
「あなた達は絶対に赦しません!」
 マナウスのダガーが、クロックの杖が、ロッドの魔法が、山賊達の息の根を止める!

 そしてしばらく過ぎただろうか。辺りに転がるのは山賊達の死体。幸いな事に目に見える範囲に村人や冒険者達の倒れてる姿は目に入らない。
 そこへ、意気消沈した木香と森写歩朗がやってくる。‥‥とても1人分とは思えない程の血を浴びて。

●終焉の雨
 血まみれの2人の話を聞いてみれば、事は単純だった。残りの山賊1人も倒した。ただ、その山賊に人質になった村人を3人ほど殺された、ということだ。
 家に逃げ込んだ山賊を追い詰めようとした2人だが、2人の技量では人質を取った山賊をどうしようもなかったという事だ。例えば気を引く為に森写歩朗が投げたダーツも、1人の村人を殺す切欠となったに過ぎない。そもそも1対2という状況でも辛くも勝てたような状況だったのだ。それほど山賊と彼らの実力に差があった。
 仮にその状況を何とかする為に別働隊がそっちに向かっていれば救えたかもしれないが、本隊が相対していた山賊がどのような行為に走っていたか‥‥という事を考えれば、これは仕方の無い事かもしれない。
「ですが‥‥やり切れません、ね」
 空を見上げるユリアル。降りだしてきた雨が、血を洗い流そうとしていた。