【光の支配者】消えたクレリック

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:11 G 38 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月23日〜10月31日

リプレイ公開日:2007年10月31日

●オープニング

 その者にとっての世界を塗り潰す。
「くはっ、はははは、ははははっ!! お前で、お前で終われると楽なんだがな、いいんだがな。当たりだと良いんだがな!」
「なっ‥‥!? あなたは一体――――」
 それは光なのか。闇なのか。ただ一色に染めるのならどちらでも大差ないのかしれない―――絶望という色に染めるのなら。


 キャメロットから南に3日程行ったところにブライトンという都市がある。海に面しており漁業で栄えている都市で、周辺には同じく漁業で成り立っている村がいくつもある。
 そんなブライトンの中心部に近いところに領主の館がある。そこの一室‥‥領主が執務を行う為の執務室だ。その部屋にて領主である女性、ライカ・アムテリアは難しい顔で数枚の羊皮紙を読んでいた。
 最近、妙な集団が現れたりとライカの頭を悩ませる要因があるのも確かだが、今回難しい顔をしている原因はそれではない。もっと別の――もっと深刻な問題だからだ。
「行方不明‥‥ね」
 彼女の口からついと漏れる言葉、行方不明。‥‥つまり誰かが居なくなったという事だ。しかも今回は1人が行方知らずになったわけではない、何人もの者がいなくなっている。彼女が読む文面には行方不明になった者達について色々と情報があった。そしてそれらには全て共通するワードがあった。
 ―――『クレリック』
 最初に1人のクレリックが行方不明になった時には、モンスターかタチの悪い連中にでも何かされたのか程度にしか思っておらず、調査の者も出したが少数の者であった。ブライトンから守りの要である騎士団を軽々しく動かすわけにもいかないから、それは仕方ない事だろう。
 だから最初の調査が終わった時に芳しい情報が集まらなかった時も、調査の方針に悩んだのは自然な事だったかもしれない。ましてや、ライカは領主になって多くの年月を積み重ねてきたわけではないし、そもそも彼女が若いのだ。すぐに決断を下せるほどの人生経験を積んでいない。
 ‥‥だが、彼女が悩んでいる間に事態は否応無しに進むのだ。
 すぐに知らされる2人目のクレリックの行方不明、そして3人目、4人目‥‥行方不明になるものはどんどん増えていく。
 何者かが誘拐なりをしている事は明白であり、期間が短くなっていく事から犯人の手際が良くなっている事も認めざるを得なかった。
 7人目のクレリックが行方不明になった2日後、8人目が行方不明になった。‥‥それから約一週間が過ぎているが、9人目の報告はまだ聞かない。
 ここ最近のペースを考えると、一週間というのはかなり空いている。もしかして誘拐が止まったのだろうか、いや早合点してよいものなのだろうか。
 何にせよ、事態はライカが当初思っていたものより大きなものになっていたのは確実であった。
「‥‥私の力だけで解決するのは無理、かしらね」
 それ見たことか、小娘に領主が務まるものか‥‥そう、いけすかない貴族達が嘲笑うのが目に見えるようだと思いながら彼女は使いの騎士を呼ぶ。王宮へと‥‥そしてキャメロットギルドに依頼を託すため。


「おーい、エクター。いるか?」
「はい? 何でしょうか」
 場所は変わってキャメロットのとある騎士の詰め所。
 ノックもそれなりに1人の騎士が部屋に入ってくるのを迎えるのはもう1人の騎士。入ってきた方は極めて軽装で体格の良い男というのが見て取れるが、迎えた方はそうではない。
 エクター・ド・マリス。ラーンス・ロットの弟である王宮騎士の彼は常に全身を黒い鎧兜で覆っており、今日もまた顔どころか素肌すら見えない格好であった。部屋に入ってきた騎士は彼の先輩騎士であり、そんなエクターを見慣れたものなのか大して気にしていない。
「お前にお仕事だ。ブライトンの方で厄介そうな事件が起きたから行ってくれ、だとさ」
「ブライトン‥‥ですか。確か南の方にある街ですね」
 ざっとブライトンの情報について、知ってる限りを頭の中で整理し始めるエクター。しかし、ふと小さな疑問に行き着く。
「‥‥いえ、大した事ではないのですが。何故私なのですか? 私はこれといってブライトンに詳しいわけではありませんし、他にブライトンに詳しかったり出身だったりする騎士の方がいる思うのですが‥‥」
 調査にしと何にしろ、その土地を知っている者が行った方が色々とやりやすいのは確かな事だ。
「厄介そうな事件、そう言ったろ。‥‥お前ぐらいの実力者が行った方がいい、そういう事だ」
「はぁ‥‥しかし――」
 私は剣は振れるが、他の事も優秀というわけでは――そうエクターが言葉を続けようとした所、先輩騎士は被せるように言葉を発する。
「大丈夫、大丈夫。先方さんがギルドの方にも依頼してくれてるから。お前に足りない所は彼らに助けを乞えばいい」
「‥‥王宮騎士にもギルドに手を借りるような事件、ですか?」
「クレリックが何人も消えたそーだ」
 言いながら先輩騎士は今回の事件について書かれた羊皮紙を部屋の机の上に置く。
「ま、難しい事件を解決したとなったら、お前の立場ももう少しまともになるだろーさ」
 ぽんとエクターの肩を鎧越しに叩いてから、部屋の外に出ていく先輩騎士を見送るエクターだった。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3041 ベアトリス・マッドロック(57歳・♀・クレリック・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

青柳 燕(eb1165

●リプレイ本文

●答えを求めて
 今回行方不明になったクレリックに関して調査する依頼を受ける事になった冒険者一同は、まずはキャメロットにて同行する事となった王宮騎士エクター・ド・マリスと合流する。合流してからブライトンへと向かう算段だ。
 そして待ち合わせ場所にて冒険者の前に現れたエクターの格好は‥‥やはりいつも通りの全身を黒い鎧で包んだものであった。
「皆さん初めまして。お久しぶりの方もいるようですが。王宮騎士のエクター・ド・マリスです。よろしくお願いします」
「試合以来か‥‥。今回もよろしく頼む」
 兜を被ったまま挨拶をするエクターに対して同じく挨拶を交わすのは、以前模擬戦でエクターと戦ったクロック・ランベリー(eb3776)だ。
 その後、一先ず挨拶をし終えてから、最初に口を開いたのはマナウス・ドラッケン(ea0021)。
「で、だ。エクター卿。‥‥相変わらずの格好についてなんだが」
「はい?」
「村での聞き込みやるときは、その全身鎧じゃなくて普通の軽鎧か私服で出来ないかな? 村人に無闇な威圧感与えても問題あるしな?」
「う‥‥」
 まったくの正論である。調査をするわけであるから、聞き込みなどもするだろう。そうする以上、人に不審がられる全身鎧などは避けるのは当然であるからだ。
「着替え用の装備なら俺も持ってきているから貸し出そう」
「お好きな物を選ばれると良い」
 尾花満(ea5322)がこの為に蒙古馬に積んでた装備を取り出すと、フレイア・ヴォルフ(ea6557)も同じく馬に乗せた装備を見せて貸し出す意を表す。勿論、提案者のマナウスも貸し出す為の装備は用意してある。
「そんな重い鎧じゃ大変そうですしねぇ」
「そうだね。移動するのにも疲れちまうだろ?」
 エリンティア・フューゲル(ea3868)がエクターを気遣うように言い、ベアトリス・マッドロック(ea3041)も重い鎧の不便さを問う。
「やっぱり事はスムーズにいくようにしたいですしね」
「うぅ‥‥」
「計画は十全に、思考は柔軟に、行動は応変に。場合に合わせた格好ってやつだ」
 フィーナ・ウィンスレット(ea5556)が追い討ちをかけて、ニヤリと笑ったリ・ル(ea3888)が最後にトドメをさすと、エクターはしぶしぶと兜を脱ぐのであった。

「‥‥マナウスセンサーよ、何か感じないか」
「いや、俺に何か妙な期待しすぎじゃないか?」
「そこっ! 何の話ですか!」
 いそいそと装備を変えているエクターをちらりと見ながら声を潜めて話すフレイアとマナウスに、自分に関する妙な話をされていると勘付いたエクターの言葉が飛ぶ。そんなエクターの顔は鎧を着込み大剣を振るうには似つかわしくない、女性と見間違うような顔立ちをしていた。

●A班
 その後合流した冒険者達はブライトン周辺までやってきた後、打ち合わせ通りに班を作り、それぞれが分かれて村に向かい調査する事となっていた。
 という訳で、マナウスとフィーナが組んだA班はまず2番目にクレリックが消えた村へとやってきた。主に村人からの聞き込みで情報を集めるようだ。
「さて、そんじゃ聞き込んでみようかね」
「芳しい情報が集まれば良いのですが」
 マナウスとフィーナはそれぞれ二手に分かれて村人達から情報を聞き出していく。主な質問は自宅の調査(争った形跡・血痕等、失踪直前までの様子)、不審人物・船等の有無(村内、街道、海岸)、被害者の生い立ちや最近の様子、近隣の様子の変化 、比較的出入りしている村外のもの、被害者宅への来客や人の出入りと交友関係 、と6点である。またこれらの質問は全ての班の共通質問でもある。
 これらに加えてフィーナはこの辺りの地域に伝わっている伝承や御伽話にも鍵があるのでは、と探りを入れていくようだ。

 そして日が沈む頃、2人は聞き込み調査を終えていた。
「被害者自体に関しては特筆すべき事も無いようだが‥‥皆と合流した時に他の村と比較できればいいか」
「伝承はありがちなエンジェルに関するものがいくつかある程度でしたね」
 気になる点はまだあるが、それは他の冒険者の話も聞いて、判断できる物だろう。
 この村での聞き込みを終えた2人は次なる村、8番目へと襲われた村へと歩みを進める。

 翌日。マナウスとフィーナの2人はやはり同じような質問を終え、聞き出した情報を話し合っていた。
 聞き出せた内容は前の村とあまり変わらず。
「あぁ、そういえば子供がこんな事言ってたな。クレリックはまるで話に聞く天使様のように優しい人だった、てな」
「子供って、純真ですねぇ」
 ふぅと自分の頬に手をあてながら溜め息をつくフィーナ。その話が表すのはクレリックが立派な人物だったという事だろうか。
 ここで集まる情報は現状だとこれ以上は無さそうだと判断した2人は、事前の打ち合わせした場所へと急ぐ。

●B班
 B班は満とフレイアの2人が組んだ班であり、まず2人は6番目にクレリックが居なくなった村へと向かっていた。
 2人は不測の事態に備えて、常に一緒に行動するように心がけながら話を聞いてまわる。内容は共通の質問に加え、伝承や被害者がクレリックである事の知名度などだ。

「そうそう。あの人がクレリックなんてのはこの村の皆が知ってる事なんだけどね。この前、この村のクレリックは誰だ‥‥なんて事を聞かれたなぁ」
「それはもしかして‥‥行方不明になる直前か?」
 消えたクレリックの知名度を調べる為にある村人から話を聞いてみると返ってきた答え。満がそれを聞いて疑問をぶつけてみると返ってくる答えはやはり‥‥。
「あぁー。そういえばそうだった」
「その人、どんな人だったか分かりますか?」
 あまりにも怪しいその人物についてフレイアが更に深く聞く。
「うーん‥‥何だか笑ってるんだけど怖い人、かな」

 翌日、満とフレイアは未だ襲われてはいないが、消えたクレリックと同じ条件を持つクレリックがいる村へと訪れていた。
「最近、妙な人物に会ったりしなかったか?」
「妙な人物‥‥ですか」
 この村にいるクレリックはまだ行方不明になっておらず、話をする事ができたの最近あった事などを聞いてみる満。
「いえ、特にありませんが。おかしな事も起きていませんね」
「そうですか‥‥。‥‥妙な人物が訪ねてきたら、なるべく誰かといるようにしてくださいね」
「は、はぁ‥‥」
 話を終えると、フレイアはそれとなく注意を促す。そして他の村人に話を聞いてもやはり妙な事は起こってないようだ。
 それらの話を聞くと、2人はまた移動を開始する。3番目にクレリックが消えた村へと。

 そして、その村にも男は訪れていた。男はローブのようなものを纏っていたという。

●C班
 C班はベアトリスとクロックの班だ。2人がまず向かったのは最初にクレリックが消えた村である。
 ベアトリスはまず村長へと話を通し、クレリックの自宅を捜索していた。領主からの依頼という事もあって、調査はスムーズだ。
「荒らされてるねぇ。掃除下手ってレベルじゃないわね」
「やはり、争いがあったという事なんだろうな」
 クレリックの自宅は普通に生活している限りじゃ有り得ないような荒れ方をしていた。
「さて、騎士達の調査とはまた違う発見ができればいいんだが」
 ちなみにベアトリスが聞いた話によるとこの村のクレリックは白の教義を信仰していたらしい。

 その後、2人は7番目にクレリックがいなくなった村へとやってきていた。
 そこで、事前にブライトンに向かい、領主と話をしていたエクターも合流する。
「お、エクターの坊主。どうだった?」
「ぼ、坊主ですか‥‥。ともかく、領主のライカさんから騎士達が調査した結果を聞いてまいりました」
 1番最初にクレリックが消えた村は騎士達も調査している為、ブライトンに向かったエクターがその結果を調べてきたというわけだ。
 そしてその内容は―――。
「俺達の調査内容とあまり変わらんな‥‥」
「そうですか‥‥。では、この村で新しい発見があると良いのですが」
 そうして3人はこの村の調査を始める。
「やっぱり‥‥争った後があるな。血痕もある」
「犯人にゃ、主の僕に危害を加えた報いはきっちり受けて貰わにゃなるまいよ」
 やはりクレリックの自宅は荒らされており、争いの形跡が残っていた。血を流したのは恐らくクレリックの方か。同じくクレリックであるベアトリスの怒りはそう簡単に収まるものではない。
「ふむ‥‥この村のクレリックもどうやら白だったようだな」
「それも信仰心が強い、ね」

●D班
 残るD班はエリンティアとリルであり、2人が訪れた村は4番目にクレリックが消えた村、そしてその後まだクレリックがいる村を訪れて最後に5番目に消えた村へと行き、情報を集める。
 その結果集まった情報とは―――。
「やはり家は争った様子があったな。あれは誰かに攫われた形跡と見て間違いない」
「そうですねぇ。ちょうど行方不明になった直前に結構なお歳の‥‥イメージとしては黒と白と灰の男の方がやってきたそうですしぃ」
「言い伝えとかはありがちなエンジェルとかに関するものぐらいか。信じていれば危ない時に助けてくれるとかそういうの」
「どこにでもありそうな言い伝えですねぇ‥‥」
 そう、他の村でも聞ける情報であり‥‥これらの事は全て他の村でも共通している事なのだ。
 どの村でも家は荒らされており、クレリックが消える直前には見知らぬ男が訪れているという。
 さすがにクレリックの人物像自体はバラバラだろうが(消えた者達は老若男女問わずであった)そこから、何か見出せるかもしれない。
「どうもこれ以上村が襲われる様子も無さそうだし‥‥。皆と情報を纏めるとするか」
「その後ライカ様へ報告を致しましょう」


 その後合流した冒険者達は情報を照らし合わせ、全ての村に共通している点を理解する。
 そして、最後に消えたクレリックの名はロイ。風評によると中性的な見た目をした、若い好人物だったそうだ。