【光の支配者】侵蝕
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:11 G 38 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月14日〜11月22日
リプレイ公開日:2007年11月22日
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●オープニング
「ふは! はははは! やはり、やはり私こそが、私こそが―――――」
闇が蠢き、金色に輝く杯を傾ける。
「あぁ、あぁ! 何という甘美な、とても甘美な味わい!」
その美酒は、まるで血のように赤く―――とても清く紅く。
「ふぅ‥‥」
キャメロットから南に3日行ったところにある都市、ブライトン。そこの領主であるライカ・アムテリアは部屋にある椅子に深く座り込みながら息を吐く。目の前の机には数枚の書類。彼女は先ほどまでそれに目を通していたのだろう。
すると、コンコンと扉を叩く音の後、間をおかずに扉が開き1人の鎧を纏った男‥‥騎士が入ってくる。彼はライカの護衛の騎士であるクウェル・ナーリシェンだ。
「ノックしたのなら返事待ちなさいよ」
「些細な事だ、気にするな」
騎士にしては主に対する言葉遣いがなってないと言えるが、主である彼女は別段気にした様子でもない。今の小言もとりあえず言ってみただけで、本当にそれを問題にしているわけではないのだろう。
「ある程度調査の結果纏めてみたぞ」
「ん、見せて」
ライカに促され、クウェルは机の上に数枚の羊皮紙を更に置く。ライカはすぐにそれらを手に取り、1枚目から順に目を通していく。
「ふぅん‥‥怪しい男の情報に関してはあまり芳しくないわね」
怪しい男。それはブライトン周辺のいくつかの村に現れたらしい男。そして男が訪れた村では‥‥クレリックが行方不明になるという事件が起きている。事件と男を結びつけて考えるのは当然の事であり、事件を解決する為には男について詳しい情報を集めるのが必至ともいえた。
「一応、キャメロットや他の都市にも情報を聞いてみるが‥‥どうかな。そんなに行動範囲が広いとは思えないし」
「今のところ‥‥集まった情報を見る限りブライトン周辺で結構目撃談っぽいのがあるようね。やはりいるとしたらこの近辺かしらね」
男の所在について考えを巡らせるが、これ以上は現状ここで考えても仕方の無い事でもある。見つけるにしても男の目的などが分からないうちは容易ではない。またクレリックが消えた事件も公になっている事から考えて、男が犯人だとしたら身を隠すなり変装をするなりで更に見つける事は困難となるだろう。
「ひとまずは別の観点から当たっていくしかないわね。目的とか‥‥あとは他に事件が起きるかどうか、とか」
「まぁ、起きても困るのが実際のところだがな。あぁ、とりあえず何かの足しになるかと思って、最近聞いた噂などを別紙に纏めておいたぞ」
「あぁ、これね」
クウェルに言われ、紙を捲り、最後の紙に目を通すライカ。そこにはブライトンに住む人たちが話していただろう噂話が書かれていた。クウェルが要点を纏めるのが面倒だったのだろうか、話している事をほぼそのまま書いてある。
「なぁ、聞いたか? クレリックが何人も行方不明になったって話」
「聞いた聞いた。怖い話だよなぁ」
「最近変な集団がこの近辺に現れたそうだよ。何でも服も着ずに男を襲うとか‥‥」
「嫌な話ねぇ。うちの主人、襲われなきゃいいけど」
「何か山賊の動きが妙なんだよな」
「あぁ、あれか。小さい別の山賊集団が同じような物狙ったり、あまつさえ一緒になって襲ったりするとかってやつ?」
「それそれ。変に纏まって動いてるというか‥‥」
「それにしても最近は魚が高くて嫌ねぇ」
「どうも最近はあんまり獲れないらしいよ。自然の事だから仕方ないんだろうけどねぇ」
「そういえば、あそこのお屋敷、住んでる人引越ししたそうだね」
「私、引越しの様子見てたけど凄かったわよ。大勢の人が荷物を一気に運んでたのよ。大きい家となるとどこもそうなのかしら」
「ねぇねぇ、実はあの子とあの人ってさ‥‥‥」
「えー!? そんな関係だったの!?」
「‥‥‥クウェル」
「ん、何だ?」
呼びかけに答えるクウェルは未だ気づいていない。ライカの額に青筋が走っている事を。ライカはわなわなと先ほどまで目を通していた紙を丸めて棒状にすると―――椅子から立ち上がり思いっきりそれでクウェルの頭をはたく!
「この馬鹿! 要点抜き出して分かりやすいように書きなさい! 大体、後半はただの世間話じゃないの!」
「え、えぇー‥‥」
ぱんぱんと頭を叩いてくるライカに不満げな顔を向けつつも、言っている事は正論な為何も言いかえす事ができないクウェル。そんな彼をひとしきり叩いて満足したのだろうか。ライカは再び椅子に腰掛ける。
「ともかく、騎士の方も動かすけどやっぱり人手が足りないわね」
「となると‥‥冒険者か」
「えぇ、手配お願いね」
ライカに言われ、キャメロットギルドに依頼の手配をする為にとりあえずは部屋を出るクウェル。
「うーん‥‥こういう噂話って大事だと思うけどなぁ」
しみじみと呟き、頭を掻きながら廊下を歩くクウェル。そんな彼は反省する事なくやっぱり要点を纏める事も、噂話を選別する事もなく、そのまま情報をキャメロットギルドに伝えるのだった。
ちなみに、後日その事を知ったライカに彼が怒られるのは当然の結果であるといえる。
そして場所はキャメロットの騎士の詰め所へと変わる。その詰め所内の1つの部屋に、王宮騎士エクター・ド・マリスと彼の先輩である騎士が話をしていた。
「いやー、調査の為に鎧とか脱いだんだって? 俺もまた見たかったなぁ」
「見なくて結構です!」
エクターは常に重厚な鎧兜で身を包んでおり、その素顔を見た者は少ない。そんな彼が鎧を脱いだのだから先輩騎士としてはある意味からかい甲斐があるのだろう。
「って、本題忘れてた」
「忘れないで下さいよ!?」
「またブライトンの方に行ってくれ、だとさ。先方さんから要望があった」
ブライトンでの調査。それは先日のエクターの任務であった。恐らく今回もそれに引き続くものだろう。
「いやぁ、何か色々情報来てるみたいだが面白いな。何? この変態っぽいのの調査するの?」
「それは別の方々が相手をしますから!」
先輩騎士は手元にあるブライトンでの噂話が書かれた紙を眺めつつ、やっぱりエクターをからかうのであった。
●リプレイ本文
●キャメロットにて
イギリスはキャメロット。そこに集まったのは今回依頼を受けた冒険者と、それに同行する王宮騎士エクター・ド・マリスだ。エクターの格好は相変わらずの黒い鎧兜で全身を包んだものである。
「エクター卿、分かってると思うが‥‥」
「誰のでも選んでくれよな?」
「‥‥‥うぅ」
そんなエクターの格好を見かねて言うのはマナウス・ドラッケン(ea0021)。彼の馬に積まれているのは数々の軽鎧や剣だ。フレイア・ヴォルフ(ea6557)も同じく馬に積んでいる装備を見せ、エクターは表情を見せないがその声音だけで沈んだ気持ちを表に出す。
「えっと、どういう事かしら?」
「あぁ、これはですね‥‥」
今回参加している冒険者の殆どは前回エクターと共にブライトンへ行った者達であるが、唯一ネフティス・ネト・アメン(ea2834)は今回初めてエクターと共になった為、事情をよく分かっていない。そんな彼女の為にフィーナ・ウィンスレット(ea5556)が簡単な説明を行う。つまりは、そのままだと目立ちすぎてしまうエクターの格好を何とかしよう、という事だと。
「別に着替えても特段変だったというわけではないしな」
「今の格好よりもぉ、着替えた方が似合ってましたよぉ?」
前回、着替えたエクターを見ている尾花満(ea5322)とエリンティア・フューゲル(ea3868)が着替えた時の様子を思い出し、そちらの方が自然で良かったという感想を口に出して、エクターの着替えを促す。
「‥‥うぅ、分かりました‥‥」
「よし、ではどれにする」
「いえ、せめてキャメロット出てからにしてください!」
今回も反論する術を持たないエクターは結局折れるしかないわけである。受諾の言葉を聞き届けたマナウスが装備をずらーっと見せるが、キャメロットで着替えると騎士の知り合いに見られるかもしれないという事で、キャメロットの外に出てから着替える事になったのだが。
外で着替えた時の、マナウスの発言。
「髪は括っといた方が邪魔にならんぞ」
から端を発した一悶着があった事をここに記しておく。主にフレイアがエクターの長い金髪を三つ編みにしようと頑張っただけの事なのだが。さすがのエクターもそれは拒否したようであった。
●ブライトンにて
エクターと合流した冒険者達は道中まで一緒であったが、途中から各々の目的の為に分かれる事となった。山賊について調査をするマナウスとエリンティア、エクターのグループ。最近魚があまり獲れない理由を調べる満とフレイア。そしてまずはブライトンに行ってから消えたクレリックがいた村の調査をするフィーナとネフティスのグループだ。
フィーナとネフティスがブライトンに来た主な理由は、依頼を受けた時に備考に書かれていた噂話の一つ、最近引越しをした屋敷について調査をする為である。勿論、ブライトン領主のライカから聞ける事は聞いておこうというのもあるのだろうが。
「最近住んでる人が引っ越した屋敷があると聞いたのですが‥‥」
「あぁ、えーっと‥‥そうそう、ここからあっちに歩けば見えてくる筈だよ」
住んでる人が引っ越した普通の家なら、そう珍しいものではないのだろうが屋敷レベルとなると珍しいものになるのだろう。フィーナが道端で話し込んでいるおばさんの一人に屋敷について訪ねると、指をさして屋敷がある方向を示してくれる。
屋敷の元主人について更に詳しく聞こうとするも、おばさん達は屋敷の方にはあまり行かない為、詳しい事は知らないらしい。とはいえ、屋敷の近所に住んでいる人ならば知っているだろうという事で、フィーナとネフティスは屋敷の方へと移動する。
「これが‥‥噂の屋敷のようね」
そして二人は目的の屋敷にすぐに辿り着く事ができた。ある程度の屋敷なんてのはそうそう無いから見つけるのも容易かったからだ。ネフティスが見上げる先にあるのは二階建ての一般家屋に比べて大きめの屋敷である。さすがに貴族が住む屋敷に比べると負けるだろうが、庭があり、そこには蔵のような建物も見える事から十分金持ちが住んでいた事は理解できる。そんな屋敷であるが、中からは人の気配を微塵も感じさせず、今は誰も住んでいない事を窺わせる。
何はともあれ、ここの元住人に関しては近所の人に聞くのが手っ取り早いということで、二人は近所の家の戸を叩いていく。
「あそこの屋敷ですが‥‥どういう人が住んでいたか分かりますか?」
家から出てきた30歳くらいの女性に、屋敷の元住人について尋ねるフィーナ。話を聞く事自体は領主からの依頼である事もあって、すんなりと聞く事ができた。
「あぁ、ゼヌエさん。‥‥いや、さすがに名前は分かるんだけど、どんな人なのかは分からないねぇ」
「どういうことかしら?」
元住人の名前がすぐに出てくるあたり、女性は知らないわけではないのだろうが、どんな人かは分からないという。ネフティスの顔に困惑の表情が浮かぶ。
「いえね、ゼヌエさんってずっと家に引き篭もってたから顔もあまり見た事ないのよね。‥‥何の仕事してたのかしら」
その後、フィーナとネフティスは次々と別の家を訪ねて聞いてみるが、答えは似たようなものであった。
曰く、
「うーん、結構歳いってそうなんだけどね。家族がいるようには見えなかったし」
曰く、
「人柄って言われても話した事ないしなぁ。見た目だけで判断するなら、暗そうな人だったけど」
曰く、
「交友関係? うーん‥‥あ、そういえば引越しする直前に誰かが家に訪れてたようだけど。どんな人かまでは分からんなぁ」
曰く、
「あの屋敷、今は誰もいない筈なのに時々物音がする気がするんだけど‥‥何かしら」
と、このようなものであった。誰も屋敷の元主人であるゼヌエと近所づきあいどころか、まともに話した者はいないのだ。
「きな臭いっていえば、きな臭いわね」
「そうですね。今のところ聞けたゼヌエ‥‥でしたか。彼の人相も例の男の人相から外れていないのも気になります」
ネフティスとフィーナの中ではゼヌエに対する疑念が湧き上がっていく。だが、彼女達には別に調べる所もある。そろそろ準備をしないと間に合わない頃だ。今の彼女達には、屋敷の中を調べるという考えは、無い。
「それじゃ、この屋敷の事をライカさんに報告してから行きましょう」
「えぇ、私もライカさんには聞きたい事がありますしね」
フィーナにとっての聞きたい事はこの地域に伝わるエンジェルに関する伝承の事だ。二人はライカに集めた情報を伝え、エンジェルの伝承について聞くと、クレリックが消えた村へ行く為にブライトンを発つ。
ネフティスとフィーナがブライトンを発ったその日の夜。ゼヌエの屋敷は燃えていた。
誰も住んでいない家が燃えたという事で、誰かの仕業による放火と思われる。
火はその日の夜には消えたが、それは燃やすものが無くなった為だ。
今はもう、その屋敷に何があったのかは―――分からない。
●とある漁村にて
最近のブライトンに起きた、とある問題。それはあまり魚が獲れないという事だ。その理由を調査する為に満とフレイアはとある漁村を訪れていた。
「仕事でなければもっとのんびりできるのだがな‥‥」
料理人でもある満は、この漁村で水揚げされる様々な魚をできれば色々と買って調理したいと思っているのだろうが、あいにく今は冒険者というもう一つの仕事を優先させなければいけない時である。満は予め用意しておいた酒を手土産に、村の漁師達に話を聞いていく。
フレイアの方は、井戸端で集まって他愛も無い話をしているおばさん達から話を聞くようだ。確かに彼女らの情報網は侮れないものがあるだろう。
「魚がやけに高いと思ったら‥‥水揚げが減っているそうだな」
「あぁ、まったく困ったもんだぜ。獲れすぎても安くなっちまうし、高くなったら売れ行きが悪くなっちまうで適量がいいってのによ」
自分が料理人である事を言いながら漁師に話しかけると、漁師の方も満について特に疑問を抱く事なく、現状の愚痴を洩らす。
「俺は漁については深くは知らんのだが‥‥。大体何時頃から魚が減ったのだ?」
「そうだな、大体夏に入ったぐらいじゃないか?」
「‥‥夏、か」
夏に入ったぐらいだとすると、6月ぐらいと考えるべきだろう。しかし、そうするとクレリックが消えた事件と発生時期が合わなくなるのだ。
「その魚が減った時期の前後の海に何か起きたりしなかったか? 或いは陸上にだ」
「んー‥‥。あぁ、そういやグランパスが暴れてたのもちょうどその時期だったか」
「グランパスが?」
「まぁ、冒険者に退治してもらったけどな。それ以外は特に無いな」
後日、ギルドで報告書を漁れば分かる事だが、確かにその時期にブライトンの海でグランパスが暴れている事がわかる。しかし、既に退治されたグランパスが今も影響を与えているという事は非常に考えにくい。
フレイアの方が聞ける話も満が聞いている話と大して変わりはない。やはり、異変などは特に見当たらないという。
「それじゃ、見かけない、見慣れない人が来てなかったかとかは?」
「いや、無いねぇ。こんな小さな村じゃ誰か来たらすぐに皆知るだろうけど、そんな話聞かないし」
少し話しただけだというのに、おばさん達とフレイアはごく自然に溶け込んで話をしていた。これがフレイアの話術の実力なのか、それとも単におばさん達の馴れ馴れしさからなのか。恐らく後者だろう。
「誰か隠れれそうな場所とかは?」
「無いわよぉ、そんなもの。うちの人が逢引しないようにそんな場所があるかどうか予め調べてるからねぇ」
カラカラと笑いながら答えるおばさん。そこまでやるおばさんに満と夫婦であるフレイアはある意味畏敬の念を抱くような抱かないような。
「まー、こんな風に獲れなくなる年ってのは数年に一回ぐらいはあるからねぇ。別段、騒ぎ立てるような事でも無いかしら」
「‥‥珍しい事じゃない?」
「数年に一回を珍しいと思うかどうかだね」
次におばさんから明かされた言葉。それはこのような不漁の年は数年に一回訪れる、特別という程の事ではない事。
‥‥つまり、今回の不漁騒ぎが事件に絡んでいるとは非常に考えにくい。
「フレイア、そちらはどうだ?」
「駄目だね。そっちと同じく目ぼしい情報は無し」
それぞれ聞き込みを終え、合流して集めた情報を話し合う満とフレイア。結果は双方とも大した情報は無い、というもの。ここで聞ける情報はこれまでという事で、次の漁村に向かう事にする二人。‥‥恐らく、そこでも大した情報は得られないと半ば確信しながらも。
季節柄、冷える潮風が海岸沿いを歩く二人へと吹き荒ぶ。と、フレイアが満に歩きながらもおずおずと寄り添う。
「どうした?」
「その‥‥ちょ、ちょっと寒いから近くによってイイか?」
満の問いに頬を赤く上気させつつ答えるフレイア。そんな様子のフレイアを見る満は優しく微笑みながら、手をフレイアにまわして抱き寄せながら自分のマントの中に入れてやる。
「拙者は‥‥温かいのだが?」
「‥‥うん」
●とある村にて
こちらは山賊について調査するマナウスとエリンティアのグループだ。それにエクターが同行する形となっている。エクターは今、マナウスから借りた装備で身を固めており、普段からは想像しづらい身軽な姿となっていた。勿論、顔も見えるようになっている。‥‥一応、髪は束ねているがさすがに三つ編みはしていない。具体的には右手に魔力が篭った剣シャスティフォル、左手に魔法の盾イフリーテシールド、鎧は淡黄色の鎧であるパラスの鎧。そしていつもの顔を隠す兜ではなくフェイスガードをつけていた。
「まず第一の目標としては山賊のアジトを見つけることだが‥‥」
「どうします?」
「それならぁ、襲われた村人達に話を聞くのはいかがでしょうかぁ?」
指針を掲げるマナウスに対して問うエクター。その問いに答えたのはエリンティアだ。何にせよ、当事者から話を聞いて目星をつけるつもりのようだ。
「成る程。では襲われた村の情報などは私が知ってますから行きましょう。‥‥土地勘があるわけではありませんが」
どこか不安要素のあるエクターの先導だったが、それでも三人は無事山賊に襲われたという村に辿り着く。三人は待ち合わせ場所を決めると、効率よく話を聞く為に、分かれて村人に聞き込みを開始する。
「ここを襲ったという山賊について聞きたい事があるんだが」
「やつらの事でございますか‥‥」
マナウスの口から山賊の言葉を聞き、苦虫を噛み潰したような顔になる村人。襲撃されているのだから仕方が無いだろう。マナウスはギルドの依頼でやってきた冒険者だという事を告げて、スムーズに情報を聞き出そうとする。実際、村人は彼ら冒険者が山賊を退治する事に期待しているのか、知っている事を矢継ぎ早に話し始める。
「山賊がやってきた方向とか、アジトの目星などがついていればありがたいのだが‥‥」
「さすがに具体的な場所までは分かりませんが‥‥。あそこに森が見えるでしょう? あの森にアジトを作っている‥‥と言われております。確かめたものはおりませんが」
「いや、十分だ。ありがとう」
マナウスの質問に、村人は村の外を見やり、ある程度離れた所にある森を指差す。どうもそこにアジトがあると言われているらしい。
またエリンティアの聞き込みも、ギルドからやってきた冒険者という事で滞りなく進んでいた。
「山賊の活動範囲や規模とか分かりませんかぁ?」
「うーん‥‥今までなら6人程度で村の外を歩く人を襲う、程度だったんだがねぇ」
「今まで、という事は最近は違うんですかぁ?」
「あぁ。10人以上の徒党を組んで村を襲ってきた事もあったよ」
その話が確かなら、最近になって山賊の規模が拡大した事になる。噂の裏づけともなるだろう。尤も、山賊の規模が大きくなった原因まではさすがに分からないが‥‥。
「‥‥そこは、実際に調べないと分かりませんかねぇ」
考え込むような顔をしながらも、相変わらずの間延びした口調のエリンティアなのだった。
エクターに関しても王宮騎士という事で、話を聞く事に関しては容易であった。着替える前の鎧兜状態ではスムーズに話を聞けたか怪しいものであったが。
「何か、気になった点などありませんでしたか?」
「気になった点‥‥あぁ、そういえば」
エクターに問われて、少し思案したようになる村人だが、何か思う所があったのか、手をぱんと叩く。
「あいつら、食料やら金目のものやら盗るのはいつも通りなんだが、この前来た時は妙なもの盗っていきやがったな」
「妙なもの、ですか?」
「あぁ、なんか村にあるだけの聖水を持ってこいとか。この村にも熱心なジーザス教信者が何人かいて、その家にある聖水を持ってかれたようだよ」
確かに、妙な話ではある。食料などを奪うのはごく当たり前の事だ。だが、聖水となると使用用途は非常に限られる。そも神を信じてるかどうかも微妙な山賊達が一体何にそれを使うというのだろうか。
疑問は尽きないが、それを村人に聞いた所で分かりはしないだろう。知りたければ当人‥‥山賊達に聞くしかないということだ。
ある程度聞き込みを終えたマナウスとエリンティア、エクターは村に来た時に決めていた待ち合わせ場所に集まって、手に入れた情報を纏めていた。
「こうして話を聞く限り、どうも裏がありそうだな」
「それにぃ‥‥また別に気になる事もありますぅ」
明らかに普通じゃない山賊達の動きに裏がある事を推測するマナウスだが、エリンティアは動きとは別で気になる事があるようだ。
「話を聞くとぉ、多くの村人は山賊達はあの森にアジトを構えてると言いますぅ。でも、何人かの村人は別の場所にアジトがあると言いますぅ」
「そういえば‥‥そこは気になりますね」
「‥‥複数の山賊団、か?」
山賊団は一つではない。それらが同時に襲ってきたとしたら急に規模が大きくなった理由も分からなくはない。‥‥だが、それならそれで何故同時に襲ってきたのかという疑問を湧き上がる。
「何はともあれ‥‥実際、調べるしかありませんね」
次の目的地は、話に聞いた山賊のアジト、という事になる。
●とある森にて
こうしてマナウス、エリンティア、エクターの三人は村で聞いた山賊のアジトがあるという森に足を踏み入れていた。
人の気配を探る為にエリンティアはとてつもない魔力を使ってのブレスセンサーを発動させていた。尤も、その域の魔法は彼にとって容易く発動させる事ができるものでもなく、一度は失敗しているのだが。
マナウスとエクターは持っている武器を軽く振りつつ歩を進めていた。山賊の仕掛けた罠を警戒しての事である。
「‥‥人の気配ですぅ」
森に踏み込んで大分経った頃だろうか。エリンティアが森の中に住む獣ではない生き物‥‥恐らく人と思われる生き物の呼吸を探知する。彼のブレスセンサーの範囲は相当なものであり、木々が生い茂り視界が悪い森の中ではエリンティアが指し示す方向に人の姿は見えない。恐らく、相手もこちらを認識していないだろう。大きなアドバンテージである。
探知した人はどうやら移動をしているようで、三人はその人に気づかれぬよう息を殺してブレスセンサーの範囲から逃さぬように追跡をする。そして、追跡対象の動きが‥‥止まる。
「‥‥当たりですぅ」
追跡対象が止まった場所。そこに複数の人がいる事をエリンティアのブレスセンサーが探知していた。十中八九、山賊達のアジトである。
「気づかれないように探るぞ。エリンティア、誰か近づきそうだったら教えてくれ」
「分かりましたぁ」
そして三人はアジトと思われる場所を視認する為に、気配を殺して近づいていく。エクターに関してはマナウスに渡された気配を消す勾玉を使う徹底ぶりだ。
「見えますね‥‥」
そんな三人の目にうつったのは、木で組まれた小屋だ。小屋の周りには焚き火などの生活の跡が残されており、誰かがそこで生活をしている事は明白である。
「黒だな」
そう断言するマナウスの視線の先にいるのは一人の屈強な男。ただでさえこのような場所にいるだけでも怪しいのに、男は剣を腰にぶらさげていた。その剣にこびりついているのは、血。
「どうします? 制圧しますか?」
エリンティアのブレスセンサーの情報によると、ここにいる山賊の数は全員で6人。相手がよっぽどの手だれで無い限りこの三人で制圧する事も可能だろうと、エクターが提案する。
「いや、あくまでも調査に徹しよう」
だがマナウスはその提案を却下すると、周囲の探索をする為に動く。目的は生活跡などを調べて、実際このアジトにはどれぐらいの山賊がいるかを調べる為だ。
エクターもこの人数で無理をするつもりは無いようで、マナウスに従い探索する。エリンティアは彼らに近づく山賊がいないかを調べる為にブレスセンサーで常に周囲の警戒を行っていた。
「やはり6人程度‥‥か」
しばらく調べただろうか。それがマナウスの辿り着いた結論であった。アジト周辺の生活跡を調べてみたが、分かる事は山賊の規模。それから推測するに山賊は大した数ではなく、ブレスセンサーで得た情報を考えると6人程度というのが一番落ち着く結果となる。
「となるとぉ、複数の山賊団が纏まって大きくなったわけではなくぅ、襲う時だけ一緒になったという事ですかぁ?」
「そうなりますが‥‥解せませんね」
村を襲った山賊達の数は10を容易に超える数字と聞いている。つまり、ここにいる山賊達が単体で村を襲ったという事は有り得ないのだ。それから導かれる結論がエリンティアの言葉となるが、エクターの言う通り不可解な事である。何故山賊達がわざわざ手を組むのか、という事だ。
「村で聞いた別の山賊の話もある。もしかしたらそこが10人以上の山賊団という可能性もあるから、今そう考えるのは危険だろう」
別の山賊。確かにマナウスの言う通り、村では別の山賊団があるという話も一応聞くに聞けた。ならば、そちらも調べた方がいいのは確かな事である。
そうして調べた別の場所に存在する山賊団であったが、やはり同程度の小さな規模の山賊団であり―――それから導かれる結論とは。
●クレリックが消えた村にて
ブライトンを発ったネフティスとフィーナは、最後にクレリックが消えた村へと訪れていた。この村のクレリック‥‥ロイが消えた時点でクレリックが消える事件は止まったのだから、ロイに何かあると考えたのだ。
ネフティスとフィーナはそれぞれ分かれて別の調査を始める。ネフティスはロイの家を、フィーナをこの村にやってきた男を中心に調べるつもりのようだ。
ネフティスは領主からの依頼という事で、村長の許可を貰いロイの家に入れさせてもらう事となった。
「ロイさんを示すような物があれば良いのだけど‥‥」
家の中は荒らされていたが、全てが破壊されているという状況でもなく、ロイが家に居た時の様子を窺わせるには十分であった。どうも、ロイは一人暮らしであったようだ。
肖像画でも見つかれば御の字と考えていたネフティスであったが、それどころかロイの家は余計なものが一切無いように見える。質素すぎるのだ。これもある意味ロイの人となりを表しているのに違いはないが‥‥。仕方なくネフティスは村人たちにロイの事を聞く事にする。
「ロイさんがどんな人だったのか知りたいんだけど、教えてくれないかしら?」
「そうだねぇ‥‥」
そして村人から聞かされるロイの風評。それはやはり良いものばかりで、悪い話をまったく聞かない。むしろ少々薄気味悪いくらいに人ができていた。他人に優しく、貧しい者には施しを、子供達には様々な事を教える。誰かが『天使様みたい』と言った事に思わず納得してしまう程だ。素人ながら絵を描ける人もいて、その人の記憶を頼りにロイの絵を描いてもらったが、やはりその絵の中のロイは優しく微笑んでいた。
「これだけ情報があれば‥‥」
ネフティスが魔法を発動させる。それは金を媒介として太陽と会話する魔法、サンワード。彼女は金で作られたピアスを手に取ると、魔法を発動させる。内容はロイの居場所、もしくはこの村に訪れたという男について。
だが、帰ってきた答えは――分からないというもの。
ロイが誘拐された時間帯が夜なら太陽は彼がどこに連れていかれたのか分からないし、今も屋内に監禁なりされているのならやはり分からないだろう。男に関しては情報が曖昧すぎて、対象を特定できないからこその答えと見るべきか。
だが、ネフティスは諦めない。まだ彼女には別に使う魔法がある。単語を元に未来を予見する魔法、フォーノリッヂを発動する。指定する単語は、ロイと血。
誰かがはりつけられていた。辺りは闇で包まれていて、様子を窺う事ができない。そんな闇の中、金色に輝く長い髪の毛に目を惹かれる。衣服はぼろぼろだが、生きてはいるようだった。その人物がロイ、なのだろうか?
次の瞬間。
はりつけられている人物の腕にナイフが突き立てられる。
血が流れる。
血が流れる。
血が流れる。
呻き声と共に、命の証が流されていく。
ナイフを突き立てた人物は暗くてよく見えない。
―――だが、その人物は酷く暗く楽しそうに笑っていたように見えた。
「ぐっ‥‥‥!?」
予見した未来、最後に見えた邪悪な笑みに中てられたのか、思わず蹲るネフティス。彼女の顔には脂汗が浮かび、息も荒くなっていた。
だが彼女は気丈にも立ち直ると、再度フォーノリッヂを発動させる。指定する単語は、ロイと怪我。
そして見えるビジョンは同じものであった。
恐らく、何度フォーノリッヂを発動させても見える光景は同じものだろう。また別の関係なさそうな単語を指定したところで何も見えないだろう。
「でも‥‥今のところ、ロイさんが生きているという事は分かったわ」
―――あれを生きていると呼んでいいのなら。
フィーナの調査も進んではいたが、集まった情報が役に立つかどうかは微妙なところであった。
「この村にやってきたという男に何か訛りがありませんでしたか?」
と問えば、
「あー、あの人が話してるの聞いてないからなぁ」
と返ってくる。話を聞いた村人の殆どがほぼ同じ答えであり、喋っているのを聞いたという村人も一言二言しか聞いておらず、訛りかどうかは判断できないらしい。また、男がどの方角からやってきたか分かるか、という質問に答えれる村人もいなかった。
「では、この村に伝わるエンジェルの伝承についてお聞きしたいのですが‥‥」
という質問に対しても、
「伝承ってほどじゃないけど、毎日ちゃんとお祈りすれば困難が訪れた時に、エンジェルが助けてくれる‥‥っていう話ならあるけど」
といった答えぐらいしか返ってこない。この前ここで聞いた時と変わらない内容だ。また、この伝承はブライトンでライカに聞いた話と大して変わりはない。この程度の話なら慈愛神セーラを信仰している人が多くいる地域ならよく聞ける話だろう。
「どうせならもっと大きな伝承があるのかと期待したのですが‥‥」
当てがが外れた為か、溜め息を吐くように少し気を落とすフィーナであった。
●再びブライトンにて
こうしてそれぞれの調査を終えた冒険者達はブライトンに集まると、情報を纏めてから領主のライカへと情報を提供する。そこでネフティスとフィーナが調査していた屋敷が燃え落ちた事を聞かされるが、今は調査にあたる時間も無いという事で諦めざるを得ない状況であった。
なお、その時エリンティアが何気なく発した一言によって、クウェルが情報を纏めもせずにギルドへ送った事がライカへと知れ、ライカが謝罪の意として、冒険者達の保存食を支給してくれたのだった。