我々も成長している!

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2007年12月07日

●オープニング

「へっ、暴れたいなら俺たち冒険者より強くなきゃな?」



 ゴトゴトと荷馬車が揺れる。場所はキャメロット近くのとある山道。天気も良いお昼時だ。
 荷馬車は商人のものだろうか。御者の他に、中に1人の壮年の男が乗っている。
 荷馬車が向かう先は山道を抜けた先にある村である。商人はその村で様々な農作物などを仕入れたりして、別の場所で売って生計を立てているようだ。
 今のところ、道中で何かに襲われてもいないし、今までこの道で襲われた事は無い。これからも大丈夫だろう‥‥そう商人は高をくくっていた。
 しかし、荷馬車は予測外の事態により止められる。
「はいは〜い、ちょっと止まってくれるかな?」
「な、なんだぁ?」
 荷馬車が止められた事に驚いた商人が、外に出て声のした前の方を見てみるとそこにいたのは男。それも1人ではなく、後ろにぞろぞろと男を連れていた。ざっと見た限り、全員で8人はいるだろうか。
 その誰もが筋骨逞しい体をしており、至る所に見える小さな傷や擦り切れた服。そして腰にぶらさげていたり、手にもっていたりする剣や斧などの武器類。服の上に軽鎧までもつけている。武器などを持っているが騎士には見えないこの風貌‥‥明らかに賊の類である。
「いや、まぁ、なんつうの? お決まりの文句で申し訳ないけどここを通りたければ有り金全部置いてけってやつかな」
 一歩前に踏み出て言う男がリーダー格なのだろうか。リーダーはどこかおどけた様子で軽そうな笑みを浮かべながら言う。
「そ、そんな事できるわけないだろう!」
「んー、それじゃここを通すわけにはいかないな。引き返せってこった」
「‥‥‥?」
 所持金を全て渡してしまったら、商人としても色々成りたたなくなるため、当然その要求はこっぱねる。とはいっても、賊を相手に強気に出れるわけもなく、動揺を隠しきれない震えた声であったが。
 そんな商人の様子を見て、賊は『やっぱり』といった感じで相変わらずの笑みを浮かべたまま引き返せ、と告げる。
 だが、それを聞いて商人の頭に浮かぶは疑問符。―――何故、無理矢理にでも奪おうとしないのか、という。
「くそっ‥‥!」
「ははは、それではまたな〜」
 御者に指示して荷馬車を引き返させる商人。賊のリーダーは特に追いかけたりもせず、何故か手を振って見送るのであった。


「と、いう事があったのであの山賊達を倒してほしいのですよ!」
「妙な山賊ですが‥‥分かりました」
 そしてキャメロットギルドに持ち込まれる依頼。依頼人はあの商人だ。
 どうもあの山道は商人が行きたい村にいける唯一の道のようで、あそこを塞がれるとどうしようもないらしい。実際、商人以外にもあの道を塞がれて困っている人は何人もいるようなので、ギルドとしても山賊を退治する依頼を受理する事に問題はない。
「話を聞く限り典型的な山賊ですし‥‥駆け出しの冒険者でも大丈夫でしょうかね」
 受付係の青年はそう判断し、依頼に参加する冒険者を募り‥‥そして出発する。

「貧弱ぅ、貧弱ぅ! その程度の実力で俺達に敵うとでも思ってるのか!」
「ぐっ‥‥!」
 再び山道。例の山賊と対峙しているのは彼らを退治する為に集った冒険者達である。だが、冒険者達は1人の山賊も倒す事ができずに膝を地についていた。
「お前たちに関しては俺たちを倒そうとした冒険者だからな。容赦なく金を奪わせてもらうぜ」
 山賊達は倒れた冒険者の荷物を漁ると、そこから金目になりそうなものなど奪う。奪うだけ奪うと、山賊達は冒険者にとどめをさしたりせず、そのまま山の中へと消えていった。


「むぅ、駆け出しの冒険者では無理でしたか‥‥」
 再びキャメロットギルド。山賊を退治する依頼を受理した受付係の青年は、退治失敗の報告書を読むと、自分の見誤りに頭を抱える事となる。
「ですが、今度はある程度経験を積ませた冒険者なら‥‥!」

 三度山道。またもや山賊達と冒険者が対峙していた。その結果は‥‥。
「軟弱ぅ、軟弱ぅ! 以前よりは手応えがあるが、やはり弱ぁい!!」
「ちぃ!」
 やはり地に膝をついているのは冒険者達の方であった。ある程度冒険で経験を積んだ冒険者達であったが、山賊達にまったく敵う事なく倒れてしまっている。
「まったく、せっかく強くなったってのにやってくるのがこんなのばっかりじゃ拍子抜けだな!」
「何‥‥!?」
 前回と同じく、山賊達が倒れている冒険者自体には目もくれず荷物から金目の物を奪いながら言う。冒険者は倒れながらもその言葉に含まれる『せっかく強くなった』という部分に疑問を感じ、つい口に出してしまう。それが山賊の耳に入ったのか、男は意気揚々と語りを始める。
「俺達も昔は弱っちい山賊でな。ま、弱いなりに頑張って暴れてたんだが、そこを冒険者に退治されちまってな。全員命は残ったが、悔しくて悔しくて。その時俺達全員は思ったのよ。もっと強くなって暴れてやる、ってな。へ、その日から辛い特訓の日々が始まったぜ‥‥。基礎体力作りから始まって、仲間内での模擬戦。時には闘技場まで行き強いと言われてるやつらの戦い方を学び、時にはモンスター相手に命をかけた戦いを繰り広げ‥‥そして俺達はここまで強くなったってわけよ!」
「‥‥‥‥なんという」
 賊のリーダーの話を聞いた冒険者の口は呆れによってあんぐり開いたまま、閉じるのを忘れたようだ。ぶっちゃけ、冒険者の思った事を素直にいうならば、
(「その努力をもっと別な事に使えよ‥‥」)
 という至極真っ当なつっこみであった。
「で、せっかく強くなったからにはお前ら冒険者を見返すために、こうしてわざわざお前らを迎えてやってるというわけだ。まぁ、ギルドに帰ったらもっと強い冒険者を派遣するように言っとくんだな!」
 がっはっはっは、という粗野な笑い声が山中に響いたのであった。

●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2962 凍扇 雪(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)

●サポート参加者

サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)/ セティア・ルナリード(eb7226

●リプレイ本文

●力の使い道
 依頼を受けた冒険者達が集まっている場所は依頼目的である山賊がいるという山の麓。目の前に見える道を真っ直ぐ進んでいくだけで目的の山賊に出会えるだろう。
 道を塞ぐだけで無理矢理商人などから金目の物を奪ったりしない何か間違っている山賊。その山賊の一番間違っている所は冒険者に退治されて、その時の悔しさを元に努力して強くなった‥‥という事だろうか。
「‥‥やれやれ、一度負けて諦めずに強くなった事は称讃に値しますが‥‥山賊稼業を続けているのは感心しませんね‥‥。きっちと説教してまっとうな道に戻さねばいけませんね」
「真っ当な方向性で努力をし、武勇を広めるなり名声を得るなりして見返せば良いものを。努力を重ねて、再び山賊とは‥‥」
 この先に待ち望んでるだろう山賊の事を考えながら呆れながらに言うのは李雷龍(ea2756)だ。ルシフェル・クライム(ea0673)もわざわざ努力して山賊を続ける事に呆れる事しかできない。
「ほかの事に力を向ければいいものを‥‥」
「素直と言うかバカ正直と言うか、面白い盗賊もいたもんですね」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)も同じように呆れているが、凍扇雪(eb2962)に関しては面白がっている節も見てとれる。
「ま、強い奴相手にすんのって面白えしな。俺も成長の証を見せてやらぁ」
 日高瑞雲(eb5295)もまた雪と同じように強者である山賊との戦いを面白がっている。ちなみに彼は途轍もない量の荷物を持っておりとても移動できない状況だった為に、無理を言ってギルドへと荷物を預けている。ギルド員の怒りを受けた上かなりの代償を支払って、だが。
「相手の力の使い道はともかく、こうして被害が出ていますし。やめていただかなければ」
 アウル・ファングオル(ea4465)の言う通り、実際金品を奪われたのは冒険者達だけだが、通れないというだけで商人達には非常に困った事なのである。
「あ、戻ってきたようやでー」
 藤村凪(eb3310)が山賊がいる道の方からやってきた一人の商人のような格好をした男を見て、仲間に知らせる。男は何も知らずに道を進んで山賊達に追い返された商人‥‥というわけではなく。
「大体、事前に聞いた話と同じようなものでしたよ」
 冒険者達に近づいて歩みを止めると顔を上げてそう告げる商人風の男‥‥否、冒険者の一人である陰守森写歩朗(eb7208)だ。彼は商人の格好に変装して山賊達の様子を探ってきたのだ。
「情報に確証が持てたのはありがたいですね」
 そう言う雷龍。彼や瑞雲、森写歩朗の三人が事前に、山賊に返り討ちにあった冒険者達に山賊の武器や戦法などを聞いておいたのだ。
「ってぇと、剣使いが三人、斧も三人、弓が二人ってとこか」
「戦法に関しては相手が格下という事で全て見せてたわけではなさそうですが‥‥」
 とはいっても、ある程度の事は聞きだせている。剣を使う者は受けを多用し、斧使いは避けを重視する。また斧使いには力任せに攻撃する傾向がある等だ。実際、力任せの攻撃といっても連携にそれを組み込まれるのだから油断はできない。
「では、向かうとするか」
 ルシフェルの言葉に従い、冒険者達は山道へと足を踏み入れる。

●強豪達
 冒険者が山道に入ってからしばらく経っただろうか。今まで特に異変は起きておらず静かなものだったが、その静寂は唐突に破られる。左右の森からがさがさという茂みを掻き分ける音と共に、数人の男達が冒険者の前に立ちふさがったのである。言うまでもなく山賊だ。
「その様子だと‥‥商人ってわけじゃねぇな。冒険者か」
 山賊達の先頭に立つリーダーの男が冒険者達を見て、むしろ会えて嬉しいとでもいうようにニヤリと口角を上げる。
「先ほどは止められましたが、今度はこの人達が力を貸してくれるそうです」
 森写歩朗はまだ商人の格好を装っており、おろおろした様子で戦闘には関係ないとでもいうようにだ。
「あぁ、もういいよ兄ちゃん。あんたも冒険者って事は分かってるんだ」
「何の事ですかな?」
「あんた、もう少し名声ってもんを考えた方がいいぜ。それに結構最近に闘技場にも出てただろ?」
 リーダーの言葉に森写歩朗もシラを切り通せないと思ったのか、認めるかのように溜め息をつく。確かに森写歩朗のような実力者だと知られていてもおかしくない話だし、森写歩朗自身大して変装が得意なわけでもないから正体がバレてしまうのも当然の結果だろう。
「冒険者と知っておきながら追い返したと、いう事ですか」
「逃がさず攻撃を仕掛ければ倒せたかもしれんのに‥‥本当に正々堂々と戦うんやね」
 雪は山賊達の取った行動をやはり面白いものとして受け取り、凪は相手が正々堂々と戦うという認識が間違ってない確証を得る。
「へっ、やっぱり正面から叩きのめしてこそだからな。‥‥それにしても随分すげぇ奴らが集まったじゃねぇか」
 山賊のリーダーはそう言いながら冒険者達を見やる。誰も彼もリーダーが名を知る者達だ。中には世界に知られるという者もいるほどである。
 冒険者達の名を知る山賊達だから恐らく実力も把握しているだろう。だが彼らはそれでも退く様子を見せようとせずに、各々武器を構える。
「‥‥こんな事して何になるんです? つまらない事に力を使うのはやめにしませんか」
「つまらなくなんてねぇさ。こうして山賊してりゃお前らみたいな強豪と戦える。それで勝てたら俺達としては文句ねぇ結果だ。強いっつうのは男としては最高の栄誉でもあるわけだしな」
 説得で終わらせる事ができないかと問うてみるアウルだが、返ってくる答えは当然ノー。
「そういうの、分かるぜ。それじゃどっちが強いか確かめようじゃねぇか!」
 ニヤリと笑みを浮かべながら野太刀を構える瑞雲。それとほぼ同時に冒険者も武器を構えて戦闘の態勢を取る。
「いくぜぇ!」

●地力の差
 そして始まる冒険者達と山賊の戦い。オーラを使えるルーウィンと雷龍は山賊と会話をしている間に既に発動させており、問題はない。
「やっちまえぇ!」
 リーダーの男による指示と共に動き出す山賊達。弓を使う男達が後方に下がると共に残りの山賊は前へと進む。
 それに呼応するかのように冒険者達も前へと進み激突する。冒険者達の現状の狙いは一つ。山賊の連携を分断させる事だ。
「いきますよ!」
 冒険者達の中で一番素早い森写歩朗が後方に控える弓使いを狙う。だが、勿論そのまま進んだところで前衛たちに止められることは分かっている。ならば―――森写歩朗が印を結び始める!
「ふっ‥‥!」
「ちぃ!!」
 そんな森写歩朗を狙う為に剣使いの男が進み出るが、ルシフェルがその前に立ちふさがり、剣を振るう。その剣捌きはまさに妙技といえるもので、威力自体は低いものだが、翻弄する動きは山賊に回避を許さない!
「今だ、撃てぇ!」
 そのリーダー格の指示と共に弓使いの山賊達から放たれる矢が剣を振るったばかりのルシフェルに向かい放たれる! 矢を受けるには相当の戦闘技術が必要なので、それを示すようにルシフェルの肩の部分に矢が突き刺さる!
「まずは数を減らす事だ!」
「そういう事だな!」
 他の冒険者達が一対一になるように動いており、凪は後方からの援護という事で、後方の弓使いを狙えない現状では前衛の数では冒険者達の方が上回ってる現状となる。ならばとルーウィンと瑞雲が一人の山賊に対して攻撃を仕掛ける。
「援護するで!」
 その様子を見た凪がすかさず狙いを集中する為に矢を番えるが、彼女の装備が重い為に上手く動けず矢を放つのにはワンテンポ遅れるだろう。
「食らえやぁ!」
 一人の斧使いが雷龍へと向かい無造作に斧を振りおろす! だが彼は避ける仕草を造作も見せずに――
「甘い! 奥義・龍飛翔!!」
 その斧による一撃を彼は急所をずらすように受け流すと、山賊の顎に向けて強力な彼のとっての奥義ともいえる拳を叩き込む!!
 そのような状況で決められた一撃を山賊達が耐えられる筈もなくあっさりと倒されてしまう。
「くっ、こいつ‥‥!」
「おや、どうしました?」
 困惑しているのは雪と相対している山賊だ。威力自体は大したことないのだが翻弄するように動く剣を捌く事ができないのだ。一人の仲間が倒されたのを見るとすぐに援護にでも向かいたいのだが、雪がそれを止める。
 そして森写歩朗が忍法・微塵がくれを発動させる! 狙いは爆発の威力ではなく、移動をする事。当然、それは弓使いが控える後方だ!
「ちぃ‥‥!」
 弓使い達もその状況をある程度想定していたのか、弓を捨てるとダガーに持ちかえるが。
「そう簡単にはやられませんよ?」
 さすがに格闘術では森写歩朗の方に分がある。二人がかりでも山賊が勝つのは難しいだろう。
「このまま押し切れます‥‥!」
 アウルの言う通り、このまま冒険者達が押し通すのも容易いだろう。実力の差、というものだ。

●これからどうするか
「まったく、手間をかけさせて‥‥」
 そうして溜め息をつくルシフェルの目の前にはロープで捕縛された山賊達が大人しく座っていた。傷に関してはアウルが持ってきていたポーションで治療されている。
「くそっ、また‥‥負けちまったのか」
 毒づく山賊のリーダー。だが、そんな山賊の前に瑞雲が立ち、言葉を投げかける。
「お前ら折角実力あんだから、釈放されたらそれをもっと別の方向に向けたらどうだ? 冒険者になってここの山道の保全に尽力するとかさ」
 それを見て、雪とアウルも声をかける。
「そうですねぇ、闘技場に行くのもいいんじゃないでしょうか? あそこには私と同等以上の方がごろごろいますからねぇ」
「力の強弱だけでは計れないと思います。あなた方は大した事が出来るのですから」
「お前ら‥‥」
 その言葉に山賊達は何か心打たれるものでもあるのだろうか。元から根が単純だから言葉が響きやすいのかもしれない。
「それじゃあ、キャメロットにて役人に引き渡しましょう」
 そう言う雷龍だが、彼は連れていく道中にこんこんと長い説教を繰り返すのだった。
 その説教に相当頭を痛める山賊達だったが、はてさて彼らはどうなるのだろう。