【光の支配者】急襲する牙

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月13日〜12月20日

リプレイ公開日:2007年12月21日

●オープニング

 人が薙ぎ倒されていく。
 男の振るう斧によって。
 斧によって巻き起こる風は、旋風などという生易しいものではない。まさに、暴風。
 その暴風に巻き込まれて倒れ、死んでいく――人というのはこうもあっさり死ぬものなのか、とすら思える――者達は‥‥騎士であった。
 彼らの所属はブライトン。その都市の騎士団の者である。彼らは以前冒険者が報告をした山賊達を討伐する為に、山賊がいる森へと出陣したのだ。
 数も質も、冒険者達の情報が正しければ騎士団の方が上であった。複数の山賊団が協力するという情報もあるが、それ込みである。
 だというのに、今、騎士の目の前で繰り広げられる惨劇は一体何なのだろうか。
 倒れていくのは山賊ではない、騎士の方なのだ。さすがに山賊のうち数人を仕留めているが騎士団の方が被害は甚大だ。
「何故――こうなるっ!?」
 先ほどまで辺りに響いていた撤退の号令。今はもうまるで聞こえないその指示に従うようにして、一人の騎士が駆けていく。山賊だけが相手なら、こうなる事は絶対になかっただろう。
「いけねぇなぁ、ボウズ。男が簡単に尻尾巻いちまったらよぉ?」
「ひぃ!?」
 そんな騎士の前に現れたのは、死の風を巻き起こしていた一人の男。歳は40を過ぎているだろうか。そろそろ体力的に衰えが見え始める時期ではあるが、男にはそんな様子はまったく見てとれず、常々戦いを繰り広げ鍛えたのではないかと思える体つきであった。そんな彼が振り回す斧も、着込んでいる鎧も、元が何色であったか分からないまでの――紅色に染まっていた。
 いや、きっとその紅色を落としても、黒い赤があるだけかもしれない。彼の今までの人生を考えたら。
「まぁ、ともかく死ねや」
 ヒュ―――ぐちょ。
 騎士が最期に聞いた音は、風きりの音なのか、自分の頭が割れた音なのか。


「なっ、壊滅‥‥!?」
 ブライトン、領主の屋敷の執務室で報告を受けるは領主であるライカ・アムテリア。彼女の前に立つのは息を切らせた切羽詰った様子の護衛の騎士、クウェル・ナーリシェンだ。
 彼の報告はただ一言―――山賊討伐に向かった騎士団の壊滅、というもの。
「どういう事!? 例え山賊が予想した数より多くても対応できるだけの人数で編制した筈でしょ!?」
 事前に報告を受けた山賊団に加えてある程度の伏兵があると考えて、騎士団長が編制した討伐部隊である。山賊達程度に遅れを取るのは有り得ない、ライカの混乱はそこから来ているのである。
「敵が‥‥山賊だけではない謎の敵がいた、らしい。数はおよそ10」
 クウェルの報告は、命からがら生還した騎士の報告を基にしたものである。とはいってもその騎士が再び剣を取る事が出来るのだろうか‥‥と思ってしまうのは、クウェルもまた過去に同じような経験を味わった事があるからかもしれない。
「山賊が何者かと関わってるんじゃないかと思ってはいたけど‥‥既に別に組織が出来てたとでもいうの‥‥!?」
 何者か――その検討はある程度着いている。元はブライトンの住人であるゼヌエ、だ。クレリックが消えた事件の時に、彼によく似ているという男が村で度々目撃され、事件後に彼はどこかに引っ越している。更に引っ越す前の屋敷は既に燃えており、騎士団が調査をしたが何も手がかりを見つける事はできなかった。
 クレリックが消えた事件の後で、山賊が協力をするという妙な事態も起きたため、何か糸口があるかもしれないと思い、冒険者が得た情報を元に騎士団を向かわせた結果が‥‥これであった。
 ブライトンの騎士達全てがやられたわけではないが、討伐隊の壊滅は大きな痛手になる事は間違いなく。今後の事を考えると周辺地域の防衛のみに騎士をまわすのが手一杯になるだろう。
「自由に動かせる騎士がいない‥‥となると」
「また冒険者に任せるしかない、ということなのか」



「ブライトン騎士団が‥‥」
 キャメロットの騎士の詰め所にて羊皮紙に目を通しているのは黒い鎧で全身を覆っている王宮騎士、エクター・ド・マリスだ。彼が読んでいる紙に書いてあるのは、山賊退治に向かったブライトン騎士団敗走の報。そしてエクターの協力を依頼するものであった。
 勿論、彼はブライトンに赴くつもりではある。
「しかし‥‥白の集団、ですか」
 山賊達に協力したと思われる謎の敵は、全身真っ白な集団だったと、羊皮紙にはそう書かれていた。



「ほほう、騎士団の次は冒険者を動かすようですよ? あの小娘は」
「あぁん? てめぇ、また俺に動けっていうのかよ。俺はああいう雑魚を引き連れての戦いってのはどうも性にあわねぇんだがよ」
「‥‥‥確かに、ビラオ殿には指揮能力が足りない‥‥。お陰で、山賊達が何人かやられた‥‥」
「はっ! あんな駒はどうなったっていいんだよ? 違うか、キャル?」
「駒が死ぬ事自体は問題ない。だが、問題は奴らが捕らわれ、そこから何が洩れるかだ」
「言うじゃねぇか、アルバー。じゃあてめぇなら問題なく遂行できるってんだな?」
「命令が出ればな」
「ははぁ、それではアルバー。君に、君に命令を出そう。内容は恐らく山賊退治に向かうだろう冒険者の迎撃。但し、但しだ。こちら側の人員の欠員は認めない‥‥あぁ、いや死んだのなら別に構わないかな。死人に口無しというからね。私が恐れるのは、そう恐れるのはちらの人員が捕まって情報を洩らす事だ。そうなるぐらいなら殺したまえ、さくさくっとね」
「‥‥いっその事、この機に山賊達を全て殺してしまうのは?」
「あぁ、いい。いいね、それも。もう奴らを必要とする期間は終わった。いっその事、処分してもいいね。いらないね」
「了解。少しでも危険な状況になれば撤退する、という事でよろしいか?」
「構わない、構わないよ。騎士団の時はそこにいる協力者の要請で徹底的に叩いてもらったけどね。今回は別にいいよ」
 闇の中で会話する者達の声は、誰がどのように話しているのか皆目検討もつかない。そして、誰にも聞かれる事のない―――。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

風霧 健武(ea0403

●リプレイ本文

●山賊討伐
「分かんねぇよ、何が起こったかなんてよぉ! 俺達も増援の警戒はしていたんだぜ? だがよ、ただの山賊退治でいきなり魔法が叩き込まれてその上あんな集団が来るだなんて誰が思うんだよ!!」


 山賊討伐の依頼を受けた冒険者達は今、山賊のアジトがある森の前まで来ていた。これから森の中に踏み込むのだ。
(「俺達の持ち帰った情報が少なかったばっかりに‥‥すまない」)
「‥‥相手が強かった、という事ですかね」
 苦い顔で森の中を見つめるのはマナウス・ドラッケン(ea0021)だ。彼は事前にフィーナ・ウィンスレット(ea5556)と共に生き残りの騎士に話を聞きに行ったのだが、騎士の様子は凄惨なものであった。精神も大分磨耗しているようで、無理に話を聞きだすのも酷と判断した彼らが聞けた事は、魔法が飛んできた後に集団が襲ってきた事、という事ぐらいだ。
 マナウスは、騎士があのような目にあったのも事前に山賊達の調査を十分にできなかった自分の落ち度と悔いているのだ。
「罠や奇襲ではなく‥‥加勢する手練の集団がいたか。捨て置く訳には行かぬな」
 山賊達に加勢する謎の白い集団の話を聞き、顔を険しくする尾花満(ea5322)。
「しかし、聖水を集める犯罪集団ね‥‥。とっ捕まえて吐かせればはっきりするだろう」
 空木怜(ec1783)は治療にも使える聖水という事で、白い集団の最近の活動目的はそれの為ではないかと推測する。
「えぇ、その為にも私たちが頑張らなくては」
 そう言う黒き鎧に身を包んだ騎士はエクター・ド・マリスだ。ちなみに今回は装備はそのままである。彼が自分の戦闘技術を一番活かせる装備が今の装備の為だ。
「キエフから来たレイアという者だ。先日キャメロットに着いたばかりだが、宜しく頼む。出来るなら親睦を深めたい。背中を預け、預けられる為にもな」
「こちらこそ」
 そんなエクターに挨拶をするレイア・アローネ(eb8106)。彼女にとって、これがキャメロットで受ける初めての依頼である。
「じゃ、エクター。魔術師の護衛は頼んだぞ」
「はい」
 キット・ファゼータ(ea2307)はエクターの鎧をこんこんと軽く叩くようにしながら告げる。
「ふぅ‥‥これで探りやすくなりましたよぉ」
 と、ブレスセンサーの魔法を発動させたのはエリンティア・フューゲル(ea3868)だ。とはいっても超越的な効果を発動させる為に何回も試行しており、数回の失敗の後に成功させている。その為ソルフの実をいくつか消費している。だがその分効果範囲は絶大であり、奇襲される可能性はほぼ無くなるだろう。
「よし、では行くのである!」
 全員の準備が出来たのを確認すると、マックス・アームストロング(ea6970)が声をかける。その声に仲間達は頷き、森の中へ入るのであった。

 冒険者達は息を潜め、罠に気をつけながら歩を進める。途中、いくつか罠を見つけるが、全て解除する事で難を逃れている。目指す場所は事前に調査して分かっている山賊のアジトだ。
 ある程度森の中を進んだころだろうか、エリンティアが怪訝な表情をすると共に足を止めて考えるような仕草をする。
「これはぁ‥‥人の呼吸ですぅ」
 ブレスセンサーが、人らしき存在の集団を認めのだ。
「他の反応はどうだ?」
「今のところ範囲内には獣だと思われる反応しかありませんがぁ‥‥」
 伏兵の心配をして聞く満だが、返ってきた答えを聞く限り、現状近くには伏兵はいないという事。
「もしかしたら、範囲外に伏せているだけかもしれないが‥‥。ここは相手に気づかれる前に先に仕掛けるべきだな」
 キットの言葉を聞き反対するものはおらず、各自武器を構え始める。

●襲撃
 エリンティアが探知した人の集団、それは森の中の少し開けた所にある小屋にいた。マナウス達が以前調査した山賊のアジトだ。感じる呼吸の数は7人分。騎士団が命からがら持ち帰った情報と同じである。
 小屋の前には一人の見張り。残りの山賊達は全員小屋の中にいるようだ。森の茂みからそこまでは相当の距離があり、見張りが声をあげる前に仕留めるのはほぼ不可能だろう。つまり、山賊達が身構えるには少しの猶予ができてしまうがそれは仕方ないことだろう。
「――――ライトニングサンダーボルト!」
 フィーナによる雷の魔法が、戦いの幕開けであった。
「ぐっ!? て、敵だぁー!!」
「いくぞ!」
 雷は一直線に見張りの山賊へと伸びていき、直撃する。山賊はいきなりの攻撃に少し面食らうが、それもすぐに持ち直し小屋の中の仲間達へ敵襲を告げる。それと同時に突入を仕掛ける冒険者達!
 小屋の中からがたがたという慌てて装備などを整えている音がするが、それに構う必要はない。まずは少しでも数を減らすという事で、冒険者達が一斉に攻撃を仕掛ける。
 勿論、見張りの山賊も抵抗するがたった1人である。ねじ伏せる事は非常に容易い。誰かの攻撃により山賊が倒れると同時、小屋の中から装備を整えた山賊達が姿を現す。
「てめぇら、行くぞ!!」
 武器を構えた山賊達は冒険者の姿を認めると、各々が突撃を仕掛ける。急造の集団だからか、連携が取れているとは言いがたいだろう。
 その程度の相手、質も量も上回っている冒険者達にとって片付ける事は造作も無い事である。総合的な実力で判断すると、レイアと怜は山賊達に少々劣るだろうが、各人の得意な点を活かしたその戦い方によってそれを感じさせない。
「くっ‥‥はぁっ!!」
 レイアは一人の山賊の攻撃を、頭蓋骨が彫刻された不気味な盾で受け止めるとすぐさま反撃の強打をぶちかます! 攻撃を仕掛けたばかりの山賊にはそれを受け止める事も避ける事も敵わずに直撃を貰い、地に伏せる。格闘技術のみに力を注いできた彼女らしい戦い方だ。
「―――落ちな!」
 対して怜の特徴は魔法も使える、という事だろうか。素早く唱えられた魔法により、目の前の山賊が宙に浮いたかと思うとそのまま地面に叩き落される。
「これ以上の抵抗は無意味だ。おとなしく投降せよ」
「ぐっ‥‥!」
「―――この反応はぁ、皆さん来ますぅ!!」
 満が地に伏せる山賊達に向かい投降を呼びかけるが、山賊達はその意思を見せず起き上がろうとしたその時、エリンティアがブレスセンサーの範囲内に新たな呼吸の反応を認める。それは幾人もの人の呼吸。恐らく、白の集団だ。
「くはっ‥‥! これで、生き延びる事ができる‥‥!」
「さて‥‥それはどうでしょうね」
 フィーナの言葉、それはどのような意図を持ってなのか‥‥‥山賊には知る由も無い。
「広範囲魔法に気をつけるのである!!」
 事前に聞いた話によると、まずは魔法が飛んでくるという事なので、それに同時に巻き込まれるのを防ぐ為に、マックスは冒険者達へと呼びかける。その言葉を聞き、山賊と戦いながらもなるべく分散するように動く冒険者達。
「来るですぅ!」
 エリンティアの叫びの直後、森の中から一直線に一条の黒い帯が飛んでくる。

 それが巻き込むのは冒険者と、山賊。

●白の集団
「な‥‥?」
 その魔法はグラビティーキャノン。魔法の重力波によって範囲内の全ての対象にダメージを与える魔法だ。だからこそ、使用する時は味方を巻き込まないように注意する必要がある。
 だが冒険者が、山賊が見た光景はそんな注意をしているようには見えなかった。魔法の範囲内に居たのは、マナウスと1人の山賊。
「くっ‥‥この威力は!?」
 事前にオーラエリベイションを唱えていた事もあり、転倒する事だけは耐え抜くマナウス。だが、問題は威力だ。何とか抵抗して食らうダメージを減少させた筈だが、それでもダメージは少なくない。同じく巻き込まれた山賊は‥‥現状、ピクリとも動かない。
「達人級の使い手です!」
 そのマナウスと山賊の様子に魔法の威力を悟ったのだろうエクターが、冒険者達に警戒するように告げる。
 それと同時に森の中からやってきたのは―――全身を白で固めた集団。ある意味エクターの姿とは正反対だ。だが集団の先頭に立つ男は白ではなく、鋼色の鎧を身に纏っていた。手には使い込まれたであろう長い槍。見る限り歳は30も半ばといったところで、その眼光は鋭く、一瞬で辺りを見渡す。
「情報とは‥‥別の男?」
 フィーナが呟く。確か、情報では率いてた男の武器は斧であったし、纏っている雰囲気――斧の男は狂気――もまた違い、目の前の男の印象は冷徹、というものであった。
「どういう事だよ! 何で俺達を巻き込む!」
 その時、真っ先に動いたのは一人の山賊。止める間もなく山賊は槍の男の目の前に立ち、口から唾が飛ぶのも気にせず激しく責めるように言葉をぶつける。
 ヒュン――。
「――あ?」
 ごぷり。次の瞬間、山賊が口から出したのは言葉ではなく血の塊であった。山賊の胸に突き刺さるは、男の手に持っていた槍。男が槍を引き抜くと、山賊はそのまま糸が切れたかのように倒れる。
「‥‥事前に打ち合わせした通りの戦術で問題ない。潰せ」
 倒れた山賊に意に介する事なく、男はただ冷たく告げる。目の前の敵を―――冒険者だけではなく、山賊も―――潰せと。

●殲滅の対象
 「く、こやつら!」
 両手に持つ短刀で目の前の剣を持つ白の男と斬りあう満。確実に相手にダメージを与える事はできているが、それは自分もダメージを受ける事を覚悟しているからこそである。敵は‥‥間違いなく強い。
 これが一対一なら満も勝てるだろう。だが、問題は敵の数の方が多いという事である。尤も既に山賊は戦意を失くし、逃げようとするが足がうまく動かないでいる。白の集団のみで考えても敵の方が多いのだ。
 ヒュッ!
 斬りあっている仲間を援護するかのように満へと飛んでいく1本の矢。狙いは正確であり、満の鎧の隙間へと突き刺さる!
「させるか!」
 敵の援護を潰す為にも敵の後衛を射程に入れる為に駆けるマナウスだが、その前に立ちふさがるはまた別の敵。マナウスはすかさずダガーを投擲するが、その動きは冴えない。
 先ほど負ったダメージから回復もせずに動き回っている為だ。‥‥今の彼はどこか捨て鉢になっている印象がある。
「む、これを使うのである!」
 さすがにマナウスの様子を見かねたマックスが自分の懐から取り出したポーションをマナウスに手渡し、使わせる。
 マナウスもポーションは持っているが、バックパックに入っている為戦闘中は取り出す事ができない。戦闘中に使う薬は携帯してないと意味が無いのだ。
「強い、が‥‥!」
 ソニックブームで距離を取って攻撃しつつ、それでも食らったダメージを隙を見て薬で回復するのはキットだ。こうして回復できるのなら問題はなく、持久戦にも持ち込めるのだが‥‥。
 他の者達も、苦戦している者が多い。特にレイアと怜が顕著だ。
「厳しいですけどぉ‥‥これならぁ」
 トルネードのスクロールを広げ魔法を発動させ、少し離れたところにいる敵を上空に飛ばしながらエリンティアが言う。
 確かに厳しい戦いだ。だが勝機が無い戦いではない。
「だと良いのですが――っ!?」
 前衛を援護するように魔法を高速で発動させるフィーナ。一直線に飛ぶ雷が敵を打ち貫くを見たその次の瞬間、敵の動きに変化が現れる。
「このままだとこちらも被害が出るか―――頃合だ、退くぞ」
 今までまったく動かなかった槍の男――冒険者達も敢えて手出しをしなかった――が指示を出すと、白の集団は退くように動く。
 そして次の瞬間、白の集団の後衛から飛ばされる小さな火の玉――それが地面に着弾すると、大きな爆発へとなる!
「ぐあぁ!!」
 広範囲攻撃を警戒していた動いてた為、全員が巻き込まれたわけではないがそれでも何人かの冒険者と山賊はそれに包まれる。幸いにも森に火はつかなかったようだ。
「敵は‥‥!」
 エクターが白の集団を見やるが、彼らはこの隙に撤退を始めていた。冒険者達もまだ戦えるが‥‥無理に追う事はしなかった。

 山賊の何人かは死んでいた。魔法に巻き込まれたのか、それとも白服にどさくさに紛れて刺されたのかは分からない。
 他の生きている者もいるにはいるが、虫の息である。
「くそっ、死なせてたまるかよ‥‥!」
 医者でもある怜が持っているポーションを惜しみなく使い、山賊を死なないように回復させる。また、傷ついた仲間の治療も彼の仕事だ。
「彼らから‥‥何か聞けるとよいが」
 一息ついたレイアが、治療を終えて縛られている山賊を見やりながら言う。
 しかし、それとは別にフィーナが考えを巡らせる。
「気になる事がありますね。‥‥何故彼らはこうも待ち伏せる事ができたのでしょう」
 彼らとは、白の集団の事である。毎日襲撃に備えて張っている事は考えにくいからだ。
 同じようにエリンティアも疑問も覚える。
「騎士団の時といい‥‥もしかして内通者がいるかもしれませんねぇ」
 ともかく、冒険者達はブライトンへ向かい、山賊を引き渡すのだった。

●山賊の証言
「あんなやつら、俺達も詳しく知らねぇよ! くそっ、聖水を高値で買い取ってやるから襲撃するがいいとか煽りやがって。同じように言ったんだろうな、他の山賊との協力体制まで丁寧に作りやがった。‥‥あ? 本当に知らねぇんだよ! 殺そうとしてきた奴らの擁護なんてするわけねぇだろうが!! どこにアジトがあるのか目的も知りはしねぇ。俺が知ってるのは奴らの組織が何て名乗ってるかってぐらいだ。あ、それは何かって? ‥‥‥The Light Ruler―――光の支配者、だとよ」