【光の支配者】黒き光の現出

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月04日〜02月13日

リプレイ公開日:2008年02月13日

●オープニング

 黒き光の中で、闇は深く――深く。
「ふふ、これはあなた方にも悪い提案ではないと思うんですけどねぇ?」
「そうだ、そうだねぇ。確かに‥‥確かに、これ以上うろちょろされると鬱陶しいものがあるねぇ」
「‥‥仮に排除したとして、そう上手くいくもの‥‥?」
「それをするんですよ、この私がね」
「成る程成る程。そう‥‥そうだね、それでは君の提案は受け入れよう。情報はまわしてくれるんだね?」
「それは勿論。丁度、あの小娘は街から離れるのでやりやすいかと」
「ではキャル‥‥君に任せようか」
「‥‥‥分かりました」



「ふむ‥‥」
 キャメロットから南へ3日程行った所にある都市、ブライトン。その周辺にある村の一つに、高貴な装いで身を纏った女性と、彼女を護るかのように周辺を固めている騎士数人が訪れていた。
 女性の名はライカ・アムテリア。ブライトンの領主である彼女は、視察の為にこうして村々を回っているのだ。臣下達に任せてもよいのだが、彼女としてはやはり自分の目で見てまわりたいのだろう。
 そして、その村での視察を終え、一先ずはブライトンへ戻ろうとしていた。
 彼女は護衛の騎士と共に馬車に乗り込み、その周囲を馬に乗った騎士達が護るという形で街道を移動していた。夜にまではブライトンに到着できるだろう。

 ガタゴトと馬車が揺れる。‥‥だが、急に馬車が動きを止める。
「何かしら?」
 疑問に思ったライカに、馬車の外から騎士が答える。
「‥‥全身を白で固めている集団が目の前を陣取っています」
「なっ‥‥!?」
 全身を白で固める集団。それは、ブライトンを騒がせている集団『The Light Ruler――光の支配者』の者達の特徴である。彼らは以前にもブライトン騎士団の部隊の一つを壊滅状態に追い込んでおり、現在ブライトンで最も危険視されている存在だ。
 そんな集団が目の前に現われたのだ。
「通せんぼして終わり‥‥ってわけじゃないわよね」
 『光の支配者』の者達の数は見る限りでは10人程度だろうか。また、彼らの後ろに隠れるように青いローブで身を覆った一人の女性が居た。歳はそんなにライカと変わらないように見える。長く黒い髪をたなびかせる彼女の肌は途方も無く白く、また感情が見えない表情をしていた。その印象はまるで、氷のよう。
 白の集団は各々武器を構えており、戦闘する意思は明らかだ。それに応えるように騎士達も武器を構える。
「‥‥‥」
 お互いが様子を窺う中、戦いの鐘を鳴らしたのは氷のような女性であった。
 彼女は右の手の平を天に向けるように、自分の顔の前まで持ってくると、何事か呟き始める。
 ‥‥それは魔法の詠唱。
「っ! 散開しろ!」
 気づいた時には既に遅く。彼女の手の平からは小さな火の玉が山なりに飛び、騎士達の手前の地面に着弾する。
 次の瞬間、巻き起こるは爆発。氷のような印象の彼女とは正反対の苛烈な炎であった。
「ぐぅぅ!?」
 爆発の魔法、ファイヤーボムは相手と仲間の距離によっては仲間を巻き込みかねない魔法である。だからか、威力はある程度抑えられたものであり、爆発の範囲もそれほど大きくはない。
 それ故に騎士達は爆発に巻き込まれるが、ライカの乗る馬車のところまでは爆発は及ばず、熱の篭った風が馬車を叩きつけるだけだ。
 そして、それを契機として『光の支配者』達は動き出す。武器を手に、目の前の存在へと。
「来るぞ!」
「ライカ様を逃がす事を最優先にしろ!」
「敵の魔法に警戒!」
 相手の魔法により、出鼻を挫かれた形となった騎士達だが、態勢を立て直すと、向かってくる敵へと立ち向かう。
「ライカ様、かなり揺れますが我慢してください!」
「え、えぇ‥‥!」
 戦闘が始まると同時、馬車が動き出す。目的はこの場からの撤退だ。騎士達が時間を稼いでる間になるべくこの場から離れなければならない。幸いな事に、敵は馬に乗っている者は一人もおらず、この場から逃げ出せば何とかなるだろう。
「キャル様! 恐らく目的の人物が乗っていると思われる馬車が!」
「‥‥‥逃がすな‥‥」
 地面から噴出す炎により、数人の騎士が吹き飛ばされる中、キャルと呼ばれた女性が部下達に追撃の指示を出す。だが‥‥。
「行かせは――せんぞ!!」
 騎士達は決死の気迫で、光の支配者達が馬車に向かうのを止める為に立ちはだかる。
 その甲斐もあってか、既に馬車は戦場からは遠い。それを見たキャロは、息を少し吐くと、周りにいる者たちへの指示を変更する。
「‥‥追撃は断念、せめてこの場にいる騎士達を壊滅状態に。‥‥‥燃えろ、死ね、滅びてしまえ‥‥」
 剣戟と、爆音と、悲鳴が辺りに響く。



「と、いう事があったわけよ」
「それは分かりましたが‥‥。えぇと、色々突っ込みたい事があるんですが、良いですか?」
「どうぞ?」
「何故あなたがここに居るんですか!? それも1人で!」
 場所は変わってキャメロット。とある騎士の詰め所の部屋に2人の人物がいた。片や黒の鎧兜で全身を覆っている王宮騎士、エクター・ド・マリス。片やブライトンの領主、ライカだ。ライカの格好はいつもの華やかなものではなく、地味でどこかの村娘が着ているような服と大して変わらない。‥‥とはいっても、ライカ自体はそのままなので、やはり違和感は拭えない。
「はいはい、落ち着いて」
 詰め寄るように立ち上がったエクターを宥めるように、ライカは両手で抑えるような仕草を取り座るよう促す。
 それに渋々といった様子で従うエクター。
「じゃあ私がここに来た理由の説明の為にも、話を続けさせてもらうわね?」
「えぇ‥‥どうぞ」
 こほん、と前置き一つ。
「結果、私は無事ブライトンへと辿り着いた。‥‥その為に払った犠牲は大きいけどね。そして、彼らの狙いは‥‥十中八九、私でしょう。恐らく、私が外に出れば、また狙われると思うわ」
「え? しかし、現に今あなたは‥‥」
 ブライトンを出て、キャメロットへ来てるという事実だ。
「まぁ、私がこっちに来てる事は誰も知らない筈だからね」
「‥‥誰にも告げずに来た、という事ですか?」
「一番私に近しい護衛の者には教えたけど、それだけ。そうしたら案の定襲撃される事なくここまで来れたわ。‥‥やっぱり、誰かが情報を洩らしているんでしょうね。過去の事も考えると」
 苦い顔で額を手で抑えるように言うライカ。
「ま、クウェルが何とか誤魔化してくれてるでしょ。で、ここに来た本題だけど‥‥。あなたに護衛を頼みたいの」
「護衛‥‥というと、まさか?」
「えぇ、視察はやめない。引き続き行うわ」
「危険すぎます!」
「危険ね。‥‥でも、これはチャンスでもある。表立って動き出した光の支配者。‥‥これはようやく出てきた尻尾を掴むチャンスなのよ」
「つまり、返り討ちにし、そこから情報を聞き出す‥‥と?」
「その為に私はキャメロットまで来て、信用できるあなたに依頼を託すのよ。後は‥‥あなたからギルドに依頼を出してほしいの。勿論報酬などはこちらが出すわ。‥‥情報が洩れる事は避けたいから、詳細は伏せて、ね」
 そしてライカはどこか遠くを見ながらぽつりと呟く。
「この身を囮にして、惨劇を止められるなら‥‥いくらでもしてやるわ」


 後日、キャメロットギルドに依頼が貼りだされる。
 内容は『とある人物の護衛』とだけ書かれており、詳細は秘密厳守で依頼を受けた者にしか告げられないとの事。
 依頼人はエクター・ド・マリスとあった。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0926 紅 天華(20歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●守護する者達
 ブライトン領主ライカ・アムテリアが村の視察をする為に、ブライトンから出る日。
 冒険者達は表向きの依頼人であるエクター・ド・マリスと共に、街の外に集まっていた。
「では、事前にある程度お話しましたが、改めて依頼内容の確認と参りましょう」
 言いながら、黒い兜の中から集まった冒険者を見渡すエクター。
「とある人物‥‥ライカ殿の護衛だな」
「襲ってくる輩は光の支配者――危険な集団だ。‥‥報酬が多いわけだ」
「暫く離れていた間に、この国も随分と物騒になったものよのぅ」
 まずは依頼の大前提を言うのはクロック・ランベリー(eb3776)だ。彼の言葉に続けて、アンドリュー・カールセン(ea5936)が淡々と告げる。ほぅ、と息を吐きながら言うのは紅天華(ea0926)。彼女は最近までノルマンに滞在していたようだ。
「光の支配者‥‥ついに表立って動くようになりましたか」
「なるほど‥‥かような連中‥‥『光の支配者』とはいかにも思い上がった異端共のようであるな。よかろう、余らの神罰の味、噛み締めさせてやろう」
 フィーナ・ウィンスレット(ea5556)が思案顔で呟く。彼女などに光の支配者の事を事前に聞いたのか、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)がテンプルナイトとしての責務を果たそうと気力を充実させる。
「で、襲撃をしてくる光の支配者を迎撃し、できれば捕縛して情報を得る‥‥ってところか」
「えぇ、大まかな流れはそんなところでしょう」
 そして今回のライカの狙いをキット・ファゼータ(ea2307)が口に出す。これが今回の依頼内容という事だ。エクターは全員に内容が行き届いてる事に満足して頷く。
「性懲りもなく出て来る困った輩め‥‥ここらで尻尾を掴んでやらねばな」
 相変わらずイギリスの平和を乱す白尽くめの集団‥‥光の支配者に怒りを燃やすは尾花満(ea5322)だ。
「それにしても、白尽くめ‥‥目立ちそうないで立ちだな。怪しんで下さいといっているも同然ではないか」
「本当、何考えてるか分からないってやつだな」
 天華は話に聞いた光の支配者の様子を頭に浮かべ、敵の愚挙と思える格好を不可解に思う。そしてその不可解さが厄介だと言うのは、彼らと交戦経験もあるマナウス・ドラッケン(ea0021)だ。
「だからこそ、今回で何か分かればよいのですが」
「そうだな。ライカ殿が襲われるより先に見つけ出して、古ワインの樽に詰めてテムズ河に浮かべて進ぜよう」
「いえいえ、沈めるのは話を聞きだしてからにしましょう」
「気持ちは分かるが沈めるなって。身柄は確保した方がいい」
「あら、冗談ですよ?」
 依頼の成功を願うエクターと同じようにやはり成功を願う天華だが、その処置は少々過激なもので。笑顔でつっこみを入れるフィーナだが、それもまた微妙にずれたもの。マナウスが今度こそつっこみを入れる。やはり笑顔のフィーナだが、どこか黒さが滲み出ているような気がする。

「それで、ライカ殿の予定などは分かるのかしら?」
「詳しく‥‥とまではいきませんが、ある程度なら事前に伝え聞いてます」
 天華の質問に答え、エクターはライカから聞いた予定を皆に告げる。
「ふむぅ、成る程なのだ。しかして、ライカどのと話を合わせることはできるであるかな?」
「どうでしょう。誰にも知られない、という方向を貫くなら厳しいでしょうね」
「そうであるか‥‥。伝えたい事があったのであるが‥‥」
 ヤングヴラドが次の問いをエクターに聞くが、難しいとの事。それを聞き、残念そうに肩を落とすヤングヴラド。
「ではそろそろライカ殿達がブライトンを出る頃だろうし、準備は良いか?」
「肯定だ」
 聞いた予定だとライカが街を出る時間も近い。クロックが皆に問いかけると、アンドリューを始めとした全員が首を縦に振る。
 視察団よりも先に歩を進める為、冒険者達は早めに出発するのだ。

 そして冒険者達が出発してしばらく経った頃、ブライトンより馬車を囲んだ騎士達の集団が出る。
「さ、期待してるわよ‥‥」
 馬車の中のライカは誰にも聞こえないよう、小さく呟く。

●村の視察
 こうして冒険者達と視察団の付かず離れずの行軍が始まった。
 距離にしておよそ500m冒険者達が道を先行する形だ。事情を知らない視察団は、小さく見える冒険者達の集団に警戒心を露にしながらも、こちらに向かってくる様子が見えないので歩は前に進んでいる。
 冒険者も、騎士達も、光の支配者の襲撃に対して神経を張るが、結局何もないまま‥‥目的の村に近づく。

 すると、天華と満が目的の村で調べたい事があるとのことで、2人は先行して村に到着する。
「結局往路では襲撃は無し、か。ここで待ち伏せされてなければいいが‥‥」
「ならばこそ、不審な者がいないか見回ろう」
 満と天華は二手に分かれると、村の中を歩いて見回り始めた。
「良い天気だな、ここはいい村だ」
 片や天華は旅人を装い、不審者がいるかどうかを歩いて調べる。
 特に怪しいものがいるようには見えないが、むしろ旅人が珍しいのか村人に声をかけられる天華。
「もし、旅の方かとお見受けしますが。どうしてこのような所に?」
「イギリスを離れて長いのでな、いろいろ世間を見たくなったのだ」
 村人の問いに笑顔で答える天華。実際、理由は後付ではあるが、それでも久しぶりのイギリスに彼女も何か思うところがあるかもしれない。
 片や満は村の中で食料品を扱う店を訪れていた。
「ここ最近、誰かよその者が食料を買い込む、という事は無かったか?」
「いえ、別にそういう事はありませんでしたねぇ」
 もしや光の支配者の者がここで食料調達をしたかもしれないと思っての質問だが、どこで聞いてみても答えは芳しいものではない。光の支配者の者達も、冒険者達と同じく食料は事前に用意しているのだろう。
「ふむ、そうか‥‥‥ん?」
 と満は村が急に騒がしくなった事に気づく。
「あぁ、今日は領主様が視察にいらっしゃる日でしてね。恐らく到着なされたんでしょう」
「到着したか‥‥」
 先ほどまで話を聞いていた村人から事情を説明してもらい、納得する満。確かに目を村の入り口の方に向ければ視察団が入ってくるのが見える。恐らく他の冒険者達も既に村に入っているだろう。
 天華と満は、なるべく視察団に気づかれないように仲間達と合流を果たす。
「不審な者達はいたか?」
「いえ、今のところは」
 合流を果たした2人に対してアンドリューが聞き、それに答える天華。満の答えも同じものだ。
「とはいえ、これから出てこないというわけではないだろう。俺が見張りに立つ」
 村に到着してから休憩を終えたキットが立ち上がると、警戒の為に行こうとする――所にエクターが声をかける。
「どこで見張るのですか?」
「まぁ、家屋の屋根の上とか」
「‥‥いえ、それむしろキットさんが怪しい人扱いされると思いますよ?」
「そうか?」
 確かに一般的に考えれば、人の家の屋根に上ってるような人物はあまりまともとは言いにくい。
「はい。村の中だと人の目があることで急襲はしにくいでしょうから、そこまでしなくても良いと思いますよ」
「なら、普通に見回るとするよ」
 エクターの言葉にキットは納得すると、屋根の上というのはやめて普通に見回る事にする。彼1人が歩いて見回るぐらいなら、あまり怪しく思われる事もないだろう。

 こうして、ライカによる視察は何も起こらずに無事に終わった。
 視察団はその村で一晩を過ごすと、翌朝ブライトンに戻る為に出発をする。
 冒険者達も、行きの時と同じく視察団に先行するように道を進んでいく。

●黒き光
「もしかしたら今回は襲撃してこない‥‥という可能性も出てきたかね」
「それはそれで良い事なのであるが‥‥」
 ブライトンへと戻る道。その行程も半分を過ぎる頃だが、未だに光の支配者による襲撃はない。浮上してきた新たな可能性を考えるマナウスの言葉に、苦笑した顔で言葉を返すヤングヴラド。
 無事平穏が良い事には違いないのだが、苦い顔の理由をフィーナが思案顔で告げる。
「‥‥せっかくの尻尾を掴む機会を逃す事になってしまいます」

 だが、その心配は杞憂で終わる。

「‥‥随分と自信満々のようだな」
 呟くアンドリューの視線の先に見えるは、全身を白で固めた多人数の集団。間違いなく光の支配者である。
 そしてアンドリューの言葉の理由も単純なものである。彼らはあまりにも堂々と道の真ん中に広がっていたのだ。自分達の実力によっぽどの自信が無ければできない事だろう。もしくはよっぽどの馬鹿か、だ。
「‥‥‥こんなやつらがいるなんて話、聞いてない」
 呟くは白集団の中で1人だけ青いローブを着ている女性――キャルだ。冒険者達の姿を認めたのだろう光の支配者達は既に戦闘態勢を取っている。冒険者達の多くはそれぞれ世に名を知られた者達だ。相手が強敵だと理解したからだろう。
 勿論、冒険者達もそれに呼応するかのように戦闘態勢を取る。
「数は‥‥7か‥‥」
 ペットのペガサス、クラウディアスに跨りながら瞬時に相手集団の人数を把握するマナウス。敵はキャルを含めて7人だ。事前に聞いた数より4人少ない計算になる。
 単純に襲撃する数を減らしたのか、それとも――――。
「そう単純な話ではないであろうな」
 ヤングブラドはそう言いながら後ろの方へと下がる。満、アンドリュー、エクターと共にだ。
 それと同時に前に出てる者達が光の支配者達との距離を詰めていく。――前に出た者達、彼らがこの場で迎撃をするのだ。そして、後ろに下がった3人の目的は、後退して視察団との合流。敵の伏兵の警戒をするというものだ。
 と、敵集団にも動きが見える。しかし、それは前に攻めてくるというものではなく、キャルの前に立っていた者達が後ろに下がるような―――。
「っ!? やらせは‥‥!」
 相手の動きの意を察したはフィーナだ。彼女は周囲の状況を見て少し躊躇するが、すぐに気を切り替え一つの魔法を高速で完成させる!
 その魔法とは、ストーム。自分の目の前に暴風を起こす魔法だ!
 暴風の範囲は凄まじく、目の前にいた仲間達は勿論だが、それはキャルまで届く。自分のすぐ前にいたキットが転倒してしまったが、これは仕方のないことだ。ストームの効果によりキャルも転倒しているが、もし彼女が転倒していなかった場合‥‥冒険者達には達人級のファイヤーボールが叩き込まれていただろう。
「この場は任せたぞ!」
「あぁ、そちらも頼んだ」
 ストームが戦いの開幕を告げた。ヤングヴラド、アンドリュー、エクターと共に後退する満の声を聞きながら返事をするクロック。
 開戦時という絶好のファイヤーボールを撃つタイミングを失ったからだろう、白兵戦用の武器を構えた敵はこちらに向かい走ってくるのが見える。
 マナウスの騎乗しているクラウディアスが空へと駆け、マナウスの視界に入るはキャル。
「さて黒髪のお嬢さん、ちっとお話しないかい? 勿論邪魔なのを取っ払った上でだがね」

●猛火
 激突する冒険者と光の支配者。冒険者達の得物は様々であるが、それに負けず劣らず光の支配者の得物も様々であった。
 ウィザードであるキャルは除くとして、剣、斧、槍を使う者がそれぞれ1人ずつ。弓を使う者が3人、という構成だ。
 対する冒険者側は前衛に立つ者がキット、クロックの2人。マナウスが上空からの弓による攻撃。天華とフィーナが魔法で攻撃するという、少々後衛寄りな構成になってしまっている。
 この状態で一番危険な事、それは――。
「雷よ、貫きなさい! ‥‥っ!?」
 乱戦からなるべく離れるように立ち回り、ライトニングサンダーボルトを放つフィーナ。高速の雷は外れる事が無いが、相手が膝をつく威力にはまだ遠い。
 雷を食らいながらも、フィーナのすぐ傍まで近づいてくる光の支配者の剣使い。そしてフィーナには敵の剣を避ける術も無い――!
「くっ‥‥! そこをどけ!」
 フィーナが敵の剣使いに接近を許してしまっているのが目に入ったキットは、すかさず援護に入ろうとするが、目の前に立ちはだかるは槍を操る者。
 実力としてはキットが勝るのだが、それでも目の前の槍使いはキットの足止めをするには十分な実力を持っている。また槍使いを援護するかのように敵の弓使いが矢を飛ばしてくるのが更に突破を困難なものにしている。
 クロックも似たような状況であった。クロックの目の前に立っているのは斧使い。そしてそれを援護する矢が飛んでくるのだ。
「前に立つ者が‥‥少ないか!」
 そう、明らかに少ない。壁になるものが2人しか居ないのなら、後衛への接近も容易に許してしまうのも道理だ。
 また天華は比較的自由に動けるが、彼女はあまりこのような戦闘に有効な魔法を持っていないのが辛い。
 となると、最後の1人、マナウスの動き方により戦局の如何は変わる。
「厳しい状況だが‥‥ならば上に立つ者を!」
 上空から弓を引き絞るマナウスの狙いの先に立つのはキャルだ。
「‥‥燃え尽きろ‥‥!」
 彼女はマグナブローの詠唱を終えたところで、その魔法は天華を対象として放たれていた。魔法の発動と同時に天華を包む地から吹き出す炎! 達人が放つその魔法の威力は強力で、抵抗しようと容赦なく天華を重傷まで追い詰める!
 だが、マナウスにもこれ以上魔法を撃たせるつもりは無い。引き絞られた矢がマナウスの手を離れ‥‥キャルに命中する!
「っ‥‥! 空から‥‥!?」
 さすがに空からの攻撃となると、そう簡単に防ぐ事はできない。まさに狙いうちというわけだ。
 キャルも典型的なウィザードなのか、身を防ぐような重い装備はしていない。こうして上空から矢を放たれるだけで、倒れてしまうだろう。
 そう、戦況的には光の支配者側が押していると言っていいのだが、指示するキャルが倒れた場合どうなるかは分からない。
 ならばキャルの取った判断とは――!
「‥‥あなた達、機を見て撤退しなさい」
 告げたキャルの身が炎に包まれる。ファイヤーバード――魔法の炎を身に纏い、火の鳥のように空を飛ぶ事ができる魔法だ。キャルの判断は、撤退。
 もしそのまま空を飛んで逃げた場合、追うのはまず不可能といっていいだろう。‥‥ペガサスに乗ったマナウス以外は。
 ‥‥だが。
「ちっ!」
 マナウスは見逃す事を撤退する。
 理由は単純だ。今ここで己が抜ければ眼下の戦場が崩壊するからだ。‥‥冒険者達の敗北という形で。それほどの状況で、空から射撃できるという彼が抜けるのは非常に痛い。
 こうして、冒険者と光の支配者が戦っている中、キャルは悠々と火の鳥となって戦場から離脱した。
「逃がしたのは口惜しいが‥‥まずはこの場を何とかせねば!」
 キットから渡されたポーション――彼女自身が持っているのはバックパックの中なので、戦闘中には使えない――で体力を回復した天華の見据えた先には、撤退する機を伺い、自らそれを作ろうとする勢いを持った強者‥‥狂者がいた。

●襲撃
 キャル率いる光の支配者と、それを迎撃する冒険者達が戦闘している頃。ヤングヴラド、満、アンドリュー、エクターの4人はライカ達視察団の下までやってきていた。
「お前たちは――!?」
「この先で不審な一団と遭遇、戦闘になった」
「我は慈愛神の地上代行者テンプルナイト! 先ほど、連れの者がこの道の先にいる異端者らしき者どもと交戦を行なったであるが、貴殿らをお見掛けしたゆえ、騎士と慈愛神の義によってご忠告申し上げる! 未だ伏兵などがいるやもしれぬ。宜しければ余らもこの道中を切り抜けるご助力をいたそう」
 遠く目の前で戦闘が繰り広げられると同時にやってきた4人に対して警戒する騎士に、簡潔に告げる満と、対照的に矢継ぎ早に告げるヤングヴラド。
「私は王宮騎士、エクター・ド・マリスです。我々も護衛します」
 と、次に告げるはエクターだ。王宮騎士となれば、その身分も確かなものではあるが‥‥尤も彼の格好が格好なので、判断しづらいものがあるだろうが。
「む、確かに戦闘があるようだが、いやしかし、貴殿らは――」
「――いいわ、私が信用する」
 戸惑う様子の騎士の口に言葉を挟むのは馬車の中からの声。そして馬車から顔を出す一人の女性‥‥ライカである。
「‥‥どうやら見知った顔もいるようね。うん、信用して問題ないわ」
「良いのですか?」
「えぇ。‥‥となると、どうすべきかは分かっているわね?」
 ライカの言葉に渋々納得したのだろうか。騎士達の中で指揮する立場にあると思われる者が、護衛の騎士達に指示を飛ばす。
 戦場を大きく迂回するようにこの場を抜ける、というものだ。ヤングヴラド、満、アンドリュー、エクターの4人もそれぞれの馬に乗り、護衛に回る。

 今もまだ戦闘が続く戦場を尻目に、戦線から撤退する視察団。戦場から大きく離れ、戦場にいる者からの襲撃は無いだろうという距離まで来たところ。
「む、あれは‥‥?」
 その時、アンドリューの視線が近くにある森へと向かう。いや、正確には森の中からやってくる何か‥‥だ。
「―――敵襲!」
 しかして即断。理由は単純、森の中からやってくる何かが白で染められているからだ。
 馬に乗っている白尽くめの集団が四騎、やってきたのだ。狙いは勿論、ライカだろう。
 敵が持っている武器は矛槍とでもいうような代物で、重量に任せて叩ききる武器だ。全員の装備がそれで統一されている。力押しで何とかするつもりなのだろう。
 だが、ライカを護る者達はその力押しで何とかなるような存在ではなかった。
「この国を乱す者‥‥容赦はせぬぞ」
「えぇ―――叩き潰します」
「余も負けてられぬな」
 重装甲で馬車の前に立ちはだかる満と、彼に負けじと重装甲なのはエクターだ。またヤングヴラドも相当な重装甲だ。
「戦闘、開始だ」
 そんな3人の後ろに位置するのは、弓を構えたアンドリュー。
 更にライカを護る為に周囲に広がるは8人の騎士達。
 これを突破するには‥‥四騎ではまず無理だろう。
 それを表すかのように、前に立つ3人が敵の足を止め、アンドリューの的確な援護射撃。そして騎士達の追い討ち攻撃、と誰も馬車には近づけない状況になっていた。

「止めだ」
 最後まで立っていた敵に止めとなる矢を放ったアンドリュー。敵が倒れたのを見届けると、騎士達が馬を降り、それぞれ倒れた光の支配者達を押さえ込む。
 それを見て、こちらは大丈夫だと判断した満が、主戦場に目を向けると、戦いはまだ続いているようであった。
「‥‥こちらにある程度の護衛を残し、あちらの援護をお願い」
「大丈夫なのですか?」
「それはむしろあっちにいる人に言うべき事よ」
 周囲の騎士達に、未だ戦ってる者達への援護を要請するライカ。その言葉を聞きエクターは不安そうな声音で問う。だがライカはきっぱりと判断を下した。

 そして、騎士達や視察団に合流していた冒険者達の何人かが、主戦場に合流し、戦いは決する。

●戦禍と戦果
 戦いは冒険者側の勝利で終わり、冒険者達はポーションなどで傷を癒していた。
 だが、決して完全勝利、というわけではない。
「‥‥すまない、フレイヤ」
 悲愴な声で呟くクロックの両手に載っているのは、火のエレメンタラーフェアリーだ。‥‥だが、動く事は決して無い。
 クロックのペットのフレイヤだ。――戦闘の結果、死んでしまったのだ。
 この状況、避けようと思えばいくらでも避けれた筈である。
 今回の戦闘が、非常に激しいものになる事は予想できた事であるし、その場合すべき選択は‥‥か弱いペットは連れてこない、というものだ。
 だがクロックは連れてきてしまい、その上何らかの対策を取る事をしなかった。‥‥死亡しない方がおかしい状況である。

 悲しみに暮れるクロックから離れ、現状の確認をしているのはライカ達だ。
「駆けつけてくれて、ありがとね」
「何、気にする事はない。‥‥捕らえた者達のことだが」
 満が言う捕らえた者達、それは先ほどの戦闘で捕縛できた光の支配者の者達である。
 馬車に向かってきた4人は全て捕縛。主戦場で戦った者は2人が死亡、1人を捕縛、残り3人には逃走を許してしまっている。
「ん、こちらで尋問するわ」
「尋問ですか‥‥。是非とも私も参加したいものですが」
「なぁ、それ冗談か?」
「さて、どうでしょう?」
 捕まえた者達は全員、ブライトンで尋問をするようだ。その言葉を聞き、何かを楽しみにするような表情で言うフィーナに対して、半目で問うキット。フィーナの真意は分からない。
「‥‥しかしこの場で聞ける事は聞いておいた方がいいのは確かではないでしょうか?」
 そう提案するのはエクターだ。
「内通者の事を考えますと」
 と、最後の言葉だけはライカにだけ聞こえるように言う。
 確かに、ブライトンに連れていったあと、何か聞く前に内通者によって逃がされてはたまったものでは無いからだ。
「‥‥それもそうね。それじゃ、そうしましょうか」
 予定を変更して、この場で尋問すると、騎士達へ指示を飛ばすライカ。
「ま、場合によっては‥‥精神的に強くない人はあまり見ない方がいいかもね?」
 さて、尋問の場を見る事ができたのは何人いたのだろうか。

●光の支配者
 以下に光の支配者に属する者の証言を記す。
 ―――記録者注。発言者の精神状態などの問題もあり、発言がどこまで正確かは分からないので留意されたし。

「我々の目的? ははっ、それすら知らないとはお笑い種だな。
 ――いいよ、話してやるよ。ははっ、そうだな。お前ら、エンジェルは知ってるか?
 ‥‥なんだよ、いいから話は聞けよ。ちゃんと意味があるんだからよ、この話は。まぁ、お前らのうち誰かは知ってるだろうが、エンジェルっつうのは血とかを流してもそれがこの世に残る事は無いんだよな。まるで光のように消えちまう。デビルとかもそうだな。
 あぁ? だから話は聞けよ? ‥‥で、だ。その消えちまうエンジェルの血がもしこの世に残す事ができたら、どうする? ははっ、すげぇ話だよな。
 ―――我々、光の支配者にはそれができるんだよ。いや、正確にはその頂点に立つゼヌエ様だけ、だがな。ゼヌエ様の編み出した秘術により、エンジェルの血は消えず現世に留まる。
 どうして、そんな事が分かるかって? は、頭の回転の遅いやつだ。我々はエンジェル‥‥ロー・エンジェルを1体、捕まえているんだよ。ゼヌエ様がそのロー・エンジェルから血を抜くんだ。そして、選ばれた者だけがその血を飲む事ができる‥‥!
 血を飲む意味? そんなもん、前例が無いからな。だからこそ、我々がこうして己の体で確かめるのだよ。ほら、何かの種族の肉を食えば長生きできる‥‥って話もあるだろ? そういうのを我々の手で確かめようというわけだ。ま、血を飲めるのは幹部以上の者だけだがね。そうしてエンジェルの血を飲みたい‥‥特別な何かを得たいという者達の集まりが我々だ! 狂ってる? ははっ、どう言ってもらっても結構。
 そう、我々はエンジェルを支配する、光を支配するのだ―――ハハはははハははハハはははハハハはハハハ!!!!!」