【光の支配者】照らす者達
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:12 G 67 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月10日〜03月19日
リプレイ公開日:2008年03月18日
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●オープニング
光が黒ければ、それの翳りとは何だろうか。
「さて、と‥‥。ようやく、ようやくだ。ようやく、新しき居所が見つかった。誰かの渡す情報が不完全なせいで、何人か捕まってしまったからね」
「なっ、私のせいだと言うつもりですか‥‥!?」
「おや、そう言ってるように聞こえなかったかな? ん?」
「ぐ‥‥‥」
「何はともあれ。そうだね、引越しだ。簡単に言ってしまえば引越しだ。さっさとそれをしてしまおう。一員があちらに捕らわれたという事でここの情報も洩れてると考えたほうが自然だ。ん、どうなのかね?」
「‥‥まぁ、場所の情報は洩れてますな。今のところ討伐部隊を出すという話は聞きませんが」
「信用できたものかね」
「ん、そうだね。実際あちらさんもそろそろ動くと見た方がいいかね。ならばこちらもさっさと動いた方がいいね」
「‥‥しかし、一度に大人数が動けばさすがに気づかれます」
「だろうね、そうだね。では分けて動こう。まずは私と例のアレ、数人の護衛‥‥といった風にね」
「なら‥‥最後は私が残ろう」
「そうか、それはありがたいね。ではアルバー、君に任せたよ。あぁ、数人置いておくからね。もし持ちきれない資料とかが出たら処分も頼もうか、頼もうかね」
「‥‥分かりました」
キャメロットから南へ行った所にある、海沿いの都市。ブライトン。
ブライトン領主の屋敷にて、二人の人物が面会を行っていた。
片方は勿論ブライトン領主であるライカ・アムテリアだ。
そしてもう片方は‥‥。
「お目にかかるのは2度目になるであるな。今日は慈愛神の地上代行者・教皇庁直下テンプルナイトとしての職務遂行に訪れたのだ」
テンプルナイト―――ジーザス教会の名誉ある騎士。彼の者の名はヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)。
二人は向かい合うように椅子に座り、話を続ける。双方ともその顔は真剣だ。恐らくライカとしてもこの後の話の内容がある程度察せるのだろう。
一息おいたところで、ヤングヴラドが再び口を開く。
「先日の依頼により判明した『光の支配者』なる異端団体の行状、見過ごすことは出来ぬ。連続クレリック失踪事件とも恐らくつながりがあろう。かくなる上は余が冒険者を募り、調査、討伐に赴こうと思うであるが、ご許可いただけるであろうか?」
ヤングヴラドは言い終えると返答を待つ。ライカはしばらく思案していたようだが‥‥。
「こちらとしては‥‥そちらの申し出はありがたいわね。内通者の問題があるから、中々動きにくいわけだし」
「むぅ、まだ内通者に関しては見つかっていないのか」
「えぇ。一応騎士団の者達全員に、クレリックのホーリーかけてみたけど反応は無し。騎士達の中には内通者がいない事は分かったわ」
「そ、それはまた随分乱暴な方法であるな‥‥」
とはいえ、有効な手段である事は確かだろう。捕らえた者達から聞いた話によると、『光の支配者』はロー・エンジェルを捕らえ、その血を啜る組織。――邪悪な集団と言って間違いない。そんな組織に関わってる者ならば、ホーリーで傷を負うのは必然ともいえる。
ライカは少し話がずれていると感じ、軌道修正を行う。
「まぁ、そういうわけで。こちらが動けないからこそ、そちらに動いて‥‥叩いてほしいところなのよ」
「叩いてほしい‥‥というと、組織の拠点などが分かったのであるか?」
「えぇ、結構な尋問をして、やっと‥‥ね」
ライカは立ち上がると、部屋に備え付けられている棚の前まで移動する。そこから取り出すのはブライトン周辺の地図だ。
彼女はその地図を机の上に広げると、一点を指す。ヤングヴラドも身を乗り出すようにしてそれを覗き込む。
「ここ‥‥まぁ、見て分かる通り山の中ね。山道から結構離れてるし、森も深いという事で人も入ってこない場所よ」
「そこに‥‥アジトがあるのであるか?」
「えぇ。もしかしたらもう移動してるかもしれないけど‥‥それでも行かないよりはいいでしょ?」
「そうであるな‥‥。敵の戦力などはどうだろうか?」
そうね、詳しくは分からないけど‥‥とライカは前置きを一つ。
「聞き出した話によると、トップに立つ者がゼヌエ‥‥彼がエンジェルに関する秘術を編み出した人物ね。そして彼に次ぐ地位の幹部の者達が3人。アルバー、ビラオ、キャルという名の者達よ。彼らの実力などは詳しくは分からないけど‥‥。アルバーは槍を、ビラオは斧を使う前衛型の人物のようね。キャルは説明するまでもないかしら?」
「うむ、以前戦ったのだ」
「そして彼らと同じ地位扱いの‥‥協力者なる存在がいるようね。こちらも詳しくは分からないんだけど」
「‥‥内通者、だろうか?」
「と私は思ってるわ。そしてその下につく構成員が約20‥‥ってところかしら。それから7人減ったけどね」
ふむぅ、と腕を組み考えるヤングヴラド。
「つまり‥‥最大で、18人ぐらいとの戦闘になるわけであるか」
「全員が全員戦える‥‥というわけでは無いと思うけどね。可能性は無くは無い、ということで」
「しかし‥‥だからといってここで退くわけにはいかないのである」
ヤングヴラドは勢いよく立ち上がると、ライカを見据え、言う。
「テンプルナイトとして、余が必ずやつらを討伐してみせるのである!」
「えぇ、頼んだわよ。‥‥あ、そういえばエクター卿はどうする? 頼めば同行してくれると思うけど」
「んー、そうであるな‥‥」
コンコン。
と、部屋の扉をノックする音が響く。
「‥‥誰かしら?」
「あぁ、私です。ディゾアですよ」
言いながら扉を開けて入ってくるのは太った男だ。歳は50といったところか。華美な服で着飾っているが、顔に浮いた脂汗といい、あまり気品は感じさせない。
「テンプルナイト様が来ていらっしゃると伺ったので、是非とも挨拶をと思いまして‥‥。おぉ、あなたがテンプルナイト様ですね!」
ディゾアと名乗る男はヤングヴラドの姿を見ると、ずかずかと彼のもとまで歩くと手を勝手に取る。
「私はディゾアと申します、貴族ですね。いやはや、こんなところでテンプルナイト様に会えるとは思ってもいませんでした」
「そ、そうであるか‥‥」
ディゾアの手はやはり脂汗でベタベタしていた。どこか苦手な人種であるな‥‥と心の中で嘆息。
「ところで、どうしてここに?」
ディゾアの質問に、ヤングヴラドは視線をライカに。話してしまっていいものか、と。対するライカは溜め息をつきながら手を額に当てるだけ。彼女としてもディゾアは困った人物のようだ。
ヤングヴラドは彼女の様子を見て、あまり迂闊な事は言えないな、と判断。
「‥‥別の用事で近くまで来たので挨拶に来たのであるよ」
「おぉ、そうですか。最近この辺も物騒ですからね。テンプルナイト様がいてくださると一安心ですよ。おぉ、そうだ。今から私の屋敷で宴なぞどうでしょうか?」
「忙しいので遠慮するであるよ」
と、挨拶もそこそこに部屋から逃げ出すように出るヤングヴラド。
「‥‥仕方ない。聞きたいことは聞けたし、ギルドに行くであるか」
●リプレイ本文
●天使を救う為に
ブライトン地方のとある街道。
そこを行くのは依頼人であるテンプルナイト、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)と彼の依頼を受けた冒険者。それに王宮騎士のエクター・ド・マリスだ。
彼らが目指すは光の支配者のアジトがあるとされる森の奥だ。
先頭を馬に乗って進むヤングヴラドの顔に浮かんでいる感情は、明らかな怒りだ。
「思えば余がテンプルナイトになれたのも、昨年1年間の旅において仲間であったロー・エンジェルの導きがあってのことなのだ。我が知己の、我が仲間の眷属の血をすするとは許せぬぞ異端めらが!」
この言葉によると、ヤングヴラドがテンプルナイトになる為の旅ではロー・エンジェルに世話になったらしい。そういう事もあって、テンプルナイトとしては勿論彼個人としても、ロー・エンジェルから血を搾取する光の支配者は許し難い組織なのだろう。
またエンジェルに縁があるのは彼だけでは無いようで、アンドリュー・カールセン(ea5936)もその一人だ。
「任務は任務、遂行させたら終わりだ‥‥と思っていたが気が変わった」
彼が前回の依頼を受けていた時は比較的割り切った考え方をしていたが、それを変えさせたのは‥‥彼も以前に大天使に世話になったからだという。その恩を返す為でもあるのだろう。
また、明らかな邪教集団である光の支配者に嫌悪感を抱いているのはエンジェルに関わったこの2人だけではない。この依頼に参加し、事情を把握している者なら、恐らく同じ感情を抱いている事だろう。レイア・アローネ(eb8106)もそうだ。
「邪教集団か‥‥気に入らんな。信心深いつもりはないが」
「まったく、光を支配するんだかなんだか分かりませんが、人様に迷惑かけるのはやめてほしいですね」
フィーナ・ウィンスレット(ea5556)はやれやれと少し芝居がかった様子で更に言葉を続ける。
「二度と悪さできないようにキョーイクテキシドウを施してあげるとしましょう。逆らうならばぶっ潰すだけです」
「なぁ、それどっちに転んでも同じだよな? 別にいいんだが」
ジト目で彼女を見るのはキット・ファゼータ(ea2307)だ。対するフィーナは笑顔を返すだけ。
「手下の精神状態が既に異常。善悪のレベルを超えて間違ってるのを自覚出来てるのはどれほどいるんだか」
空木怜(ec1783)は、光の支配者の組織に属していた者の話を人づてに聞いたのだろうか。組織の者達で正常な判断ができる者がいるのかどうか疑問に思っているようだ。
「何を考えているかもアジトを落とせば分かりますかねぇ」
「そうだな‥‥あとは、やつらのやっている事がどこまで真実なのか、それも知っておきたいところだ」
エリンティア・フューゲル(ea3868)がアジトを落とした時に手に入る情報を考える。レイアの知りたい事も分かるかどうか‥‥。
つまりは結局。
「まーなんだ。やるしかないって訳だな」
「そういう事ですね」
マナウス・ドラッケン(ea0021)が締めた言葉にエクターが同意する。
「それにしてもエクター。そんな格好して存在感ある筈なのに‥‥何だか空気みたいだな」
「別にいいじゃないですか!?」
あまり会話に参加しないエクターに対してのキットの言葉。まぁ、エクターは口は剣の扱いほど上手くないから、という事にしておこう。
●深き森を
そうして冒険者達は目的地の森の前まで到着する。
そこから一番近い村にて――それでも中々距離があるのだが。それだけ僻地という事だろう――話を聞いたりしてみたが、芳しい情報は無い。それほど人が近づかない場所という事だろう。
森に入る前に自分のペットの駿馬のフロドを、木にくくりつけるフィーナ。森の中に入る間待ってもらおうという事だ。荷物を何も預けないのは馬に負担をかけたくないのか、それとももしもの事を考えてなのか。
しかし、それでは彼女の荷物が重すぎてまともに移動できないのだが‥‥フライングブルームに乗れば移動は可能となる。尤もその為に力を消費するので、回復する為にソルフの実を消費する事になるのだが。また、エリンティアも移動にフライングブルームを使っている。彼はブレスセンサーの魔法を使用する事もあって、ソルフの実の消費が半端ではない。
また、キットやアンドリューも村に立ち寄った時に馬などの移動に使うペットを預けている。確かに深い森に入るのに、馬を連れていると何かと不便な事もあるだろう。
だが、マナウスとヤングヴラドの2人は森の中に馬を連れていくようだ。特にヤングヴラドは馬に乗らないと歩みが非常に遅くなってしまうからでもあるが‥‥無駄な荷物を減らせばそれは何とかできたのかもしれない。しかし、今それを言っても仕方が無いだろう。
ともかく、冒険者達は森の中へと入る。
「‥‥こちら、人が通った跡がありますね」
「巧妙に偽装されているが、な。どうもよく利用されている道のようだな」
森の中、しゃがみ込んで木々の間をじっくり観察するのはフィーナだ。隊列の前に出て、このように怪しい場所を知らせるのが彼女の役目だ。同じく森に関する土地感が優れているレイアもだ。
加えてレイアには相棒ともいえる鷲のラクリマがいた。なるべく低空を飛ばせて先導をさせている。危険が無いようなら、それに従い進むといった形だ。
また、鳥を飛ばさせて調べる‥‥といえば、キットも同じく鷹のカムシンにさせていた。こっちはレイアのラクリマと違い、上空に飛ばしアジトを見つけたらその上で旋回するように‥‥と指示を出していたのだが。
「やっぱ木が邪魔で見えないか‥‥」
まず、大前提として森は日も中々当たらないような木々が生い茂っている深い森である。そんな森の上空に出た鳥が見えるかというと‥‥否である。また、カムシンがそもそものアジトを見つけられないのか、上空から戻させてもアジトへの案内をさせるのは無理だろう。
もし森の中をくまなく探すように飛ばしたら見つける事ができるかもしれないが、それはカムシンの身が危険に晒される事でもある。それを考えて、結局レイアのラクリマと同じようにさせるしか無かった。
「―――っと、待った」
森の中を進む冒険者達に待ったの声をかけるのはアンドリューだ。彼は進む先にある木の傍まで駆け寄ると葉に隠れた枝に手を伸ばす。
「やっぱりあったか‥‥」
葉をどけると、そこに見えるは細い糸。恐らくは何らかの罠の起動装置となっているのだろう。アンドリューは手早く周囲を観察して、罠の全貌を理解すると、それを解除する。
レイアにも罠に関する知識はある為、ある程度は彼女でも解除できるが、彼女にも察する事のできない罠というのが時々ある。それを察知して解除するのがアンドリューの役目だ。これまでにもいくつか罠を解除している。
また前を行くマナウスがなるべく怪しい物音がしないか聞き耳を立てている。とはいっても、彼は深い森の中を馬に乗って進んでいる為に他の者に比べて少々梃子摺っている感がある。
こうして冒険者達はなるべく慎重に森の中で歩を進めていく。
「あ‥‥反応がありますぅ」
エリンティアのブレスセンサーの範囲は500mと相当な広さを誇る。その範囲内についに冒険者達以外の人と思われる反応があったのだ。勿論こんなところにただの猟師がいるわけはない。光の支配者だろう。
敵の元に近づいた事が分かり、冒険者達は今まで以上に気を引き締めて、森を進む。
だが、ある異変をその場に居た者達が感じる。最初に感じたのは誰だろうか。その事に関して最初に口に出すのは怜だ。
「何だ‥‥明るい‥‥? いや、あれは‥‥!」
視線の先に――まだ木々が邪魔してよくは見えないが、明かりが見える。それはこんな森の中には相応しくないものだ。
日の光‥‥というよりも、むしろ赤いそれは―――。
「燃えている!?」
●炎を背に
何かが燃えている事を確認した冒険者達は、炎の元へと急ぐ。尤もそれでも一応は罠や奇襲には警戒しつつ、だ。
そして冒険者達は炎の元へと辿り着く。
「来たか‥‥。やはり、奴の情報は当てにならんな‥‥」
言いながら炎を背に振り向く男。右手に槍を、左手に盾を。身を包むは鋼色の鎧。そう、光の支配者のうち槍を使う幹部。
「アルバーか!」
声を上げるは以前にも彼と会ったキットだ。
「‥‥名を知られているとは、な。既に相当知られていると考えた方が良さそうか‥‥」
アルバーは動じる事なく槍を構える。そんな彼の後ろにいるのは白装束の者達6人。更に少し離れて、1人の白装束の男と、青いローブに黒い髪の女性‥‥キャルだ。
そして彼らの背後にて燃えている物‥‥それは小屋だ。
「余らの到着は明日という情報を流したのに‥‥!」
苦い顔で呟くヤングヴラド。彼は出発前にシフール便で、ライカに偽情報を流すように頼んでいた。それは冒険者達の到着を1日遅れたものにする事だ。その偽情報により、相手の不意をつく‥‥筈だった。しかし、目の前にはアジトだろう小屋が燃えているという事実だ。
アジトが燃えている、という事はつまり、中にあるだろう資料も燃えているという事だ。恐らくもう中の資料は回収できないだろう。
「明日来るのだとしたら、今日中に完全に撤退するのが当たり前だろう。‥‥まぁ、貴様達が今日来たせいでいくらか燃やす羽目になったがな」
「裏目に出たか‥‥! しかし、何故俺達が今日ここまで来るのが分かった!?」
マナウスの疑問。冒険者達が森の中にいる時にアジトを燃やすという事は、冒険者達が森の中にいる時点で彼らの接近を知らなければできない事だ。だが、冒険者達はなるべく慎重に進んできたし、罠も解除してきたのに、だ。
「答える義理は無いが‥‥いいだろう。簡単な事だ、仕掛けた鳴子に反応があったからな」
「鳴子に‥‥? しかし、罠は全て解除した筈‥‥!」
「知らんよ、そちらの事情は。大方馬にでも引っかかったのでは無いかね」
アルバーの視線はマナウスとヤングヴラドの馬へと注がれる。2人は馬に乗っていた為に、徒歩では行けた所を少々迂回しながら進んでいた。その為、アンドリューやレイアでも見えない所にあった罠に引っかかったのかもしれない。馬上の当人達も、馬の足元は分かりづらいからそうなったのだろう。
「さて、問答は十分か‥‥」
言いながらアルバーが槍を構えると同時、背後の部下達も各々の武器を構える。今回は全員が全員、白兵戦用の武器を装備しているようだ。
「アルバー殿、私は‥‥」
「キャル、君は撤退しろ。そして状況をゼヌエ様に伝えろ」
「‥‥分かりました。私の護衛は置いていきますので、そちらの戦力に」
2人は会話を終えると、キャルは一歩下がる。恐らく前回と同じくファイヤーバードで逃げようというのだろう。
「させませんよ‥‥!」
それを見て、フィーナは即座に前に一歩出ると同時に高速で魔法を――ストームを発動させる! 目的は前回と同じくキャルを転倒させる事だ。
一瞬で彼女から巻き起こる暴風が光の支配者を襲う! 今回は位置関係上、巻き込まれるのは敵だけだ。
「くっ‥‥!?」
とはいえ、それで転倒するのもキャル一人。しかし、魔法の発動を邪魔するには十分だ。
そして、それが戦いの開幕のきっかけとなる。
そして各々陣形を取る。
こちらは前衛にマナウス、ヤングヴラド、キット、レイア、エクター。中衛にアンドリューと怜。後衛がエリンティアとフィーナだ。
対する相手は先頭にアルバーを置くという形を取っているが、部下7人も前衛という形だ。キャルは彼らから離れた後方で体勢を立て直している。
「いくぞ、レイア!」
「ああ!」
2人でコンビを組んで前に出るキットとレイア。彼らの狙いはアルバー、2人がかりで彼を抑えるつもりだ。どちらかというとレイアが前で、彼女の影にキットが隠れる形か。
「――また会ったな。雪辱させて貰うぞ――!」
「‥‥あぁ、あの時に居たのか」
「なら今度は覚えてもらう!」
レイアとしてはなるべく自分に有利な地形に誘い込みたいものだが‥‥敵と味方で敵の方が前衛が多い。退いて誘ってもこちらの後衛が危険になるだけの可能性がある。ならば、押し込むだけだ。
「ふっ!」
振るう剣はしかしアルバーの盾に受け止められる。だが攻撃の手を緩める事はしない。こちらは2人なのだから、防御に手数を割かせればそのまま押し切れるからだ。
次いで二撃目の一撃。だがアルバーは盾で受けようとしない。一応回避の動作を取ったようだが、避ける間も無くその一撃は鋼の鎧の上から叩き込まれる!
「どうした、その程度か!」
更にそこからキットの三連続の剣撃がアルバーへと迫る! アルバーは、そのうち一撃は回避したものの、他はそのまま手足に食らう! 恐らく盾を使えば回避できたであろうに、だ。
「成る程、少しはできるようだ‥‥!」
アルバーは告げながら槍を構える。視線の先にはレイアだ。
攻撃が来る、と盾を身構えたレイア。だがそこに来た一撃はアルバーのものではない。白装束の者の剣による一撃だ。
「何!?」
「別に一人で戦うとは言ってないのでな」
恐らくアルバーの何気ない仕草の一つ一つが彼らの連携の合図となっているのだろうか。更に部下の男の剣が迫る!
「舐め――るなぁ!」
咄嗟のレイアの狙いは左手の盾で受けてのカウンターアタック‥‥だが、利き手ではない左腕に持った盾で受け止めつつ反撃する、というのはよっぽどの技術を持っていないとできない事だ。彼女の盾で受ける動作は失敗し、傷を負う。だが、それにも耐え、重く勢いを乗せた一撃が敵の胸部に穿つ!
部下の一人に致命的な一撃を与える事に成功するが――。
「先程のお返しをさせてもらおうか」
アルバーの一撃。その一撃は彼女の鎧の隙間を縫い、体に突き刺さる!
更に一閃。これも同じように、だ。
「ぐっ‥‥強い‥‥!」
もはや息も絶え絶えになりつつあるレイアに、更に別の男が迫る。アルバーが止めを指示したのだろう。
「させるか!」
そんな男の行く手を阻むように立つのはマナウスだ。彼は目の前の男目掛けてダガーを振るう! 恐らく男は斧では受けきれぬと思い、最初から受けも回避も放棄しているかのように構えている。得物が得物な為、効果的なダメージを与える事はできないが、足を止めるには十分だ。
お返しのように振り下ろされる斧は何とかステップのみで回避する!
「レイア、これを!」
怜が懐からポーションを2つ程取り出し、それをレイアに手渡す。傷を回復させないと戦線への復帰は厳しい状況だからだ。
当人がちゃんとポーションを携帯していれば、このような手渡すロスは省けたのだが‥‥。傷を負いやすい前衛でポーションを携帯しているのがキットと怜、そしてエクターしかいない状況な為、どうしてもそのようなロスが発生してしまう。
「確実に数を減らしていくんです!」
傷を負っている男に向けてライトニングサンダーボルトを飛ばしながらのフィーナの指示。既に傷を負っていたためか、男は地に伏せる。
「く‥‥キャルをどうこうする余裕は無いか‥‥!」
地面に置いた矢筒から矢を抜き、弓にかけると後ろを見せている男の鎧の隙間へと矢を放つ!
「そのようであるな!」
その矢が刺さった男に向けて小剣を振るうを振るうヤングヴラド。とはいっても、やはり効果的なダメージではない。
「えぇと、これですぅ!」
更にその男に対しての攻撃を畳み掛ける。エリンティアのスクロールによるグラビティーキャノンだ。だが、ある程度のダメージはあるものの、地に伏せさせる程のものではない。スクロールの魔法では威力に限界があるのだ。
「はぁぁぁぁ!!」
そして巻き起こる大旋風。エクターの繰り出したカウンタースマッシュだ。それの一撃により、一人の男が地に伏せる。
彼は手数は他の者程ではないが、威力があるので前衛が多いこの場では非常に頼りになる。また敵もエクターの危険度を理解しているのか、複数がエクターに集中している。後衛にとってはありがたい状況といえる。
とはいっても、当然彼にも限界はあり、鎧の隙間を突くような攻撃を連続でされると、彼もまた膝を突かざるを得ない。まだ戦いが始まったばかりだから大丈夫ではあるが‥‥。敵の数が減るのが先か、膝を突くのが先か、である。
「くっ‥‥!」
キットは距離を取り、木々に隠れながらアルバーの様子を伺う。彼の前に立ってくれるレイアが傷の回復の為に一時的にだが戦線を離れた為だ。
そして木々の隙間からアルバーに向けて放つ攻撃‥‥ソニックブームの衝撃波! その一撃は斬る、というより突く、というものである。
「っ!?」
既に負っている傷の影響か、アルバーの動きは本来のものより鈍く、盾で受ける事ができずに鎧の上から強く叩きつける!
「やってくれる‥‥が」
アルバーは決して深追いをしない。足を向けるは冒険者達が固まっている場所だ。もちろん、進ませじとマナウスが立ちはだかるが。
「群れたところでぇ――!」
アルバーが槍を上段に構えるという、槍にしては明らかな異常な体勢を取ると同時に、マナウスはアルバーの狙いに気づき。
「皆、離れろ!」
「もう遅い!!」
槍が地面に叩きつけられると同時に広がる衝撃波――ソードボンバー!
誰が盾になろうが関係無い、受ける事はできずに避けるしかない衝撃! マナウスは何とか避けるが、他の者達も避けれるわけではない。エリンティア、フィーナの2人がそれに巻き込まれる!
「はぅっ!?」
「っつぅ!」
それと同時にアルバーの指示か畳み掛けるように迫りくる白装束の男達!
「仕方ないか‥‥!」
それを見てアンドリューを弓を捨て、傍に転がっている光の支配者の者が使っていた剣を拾うと後衛を守るように立つ!
勿論1人の前衛で2人も相手できるわけはない、が防戦一方で時間を稼ぐぐらいなら何とかなる。
「―――縛り付けろ!!」
そして発動する魔法。怜のアグラベイション――対象を拘束して動きを鈍らせる魔法だ。勿論対象はアルバー。
「‥‥何!?」
「敵の連携の鍵はそいつだ! なら抑えているうちに‥‥!」
「畳み掛ける、というわけですか」
それと同時に、また別の魔法が発動する!
「血など飲まずとも、信仰さえあれば奇跡は起こせるのだ!! そうだろう、ノエル!」
共にいたエンジェルの名を叫びつつヤングヴラドが発動する魔法。それはテンプルナイトだからこそ使える魔法――カリスマティックオーラ。白の信徒を鼓舞し、その教えに敵対する者を威圧する!
鼓舞の対象になるのは、ヤングヴラドと怜だけだが、威圧の対象は――光の支配者全員である!
「往くぞ―――!」
アルバーという連携の鍵でもある指揮官の動きが鈍くなった事で、敵の動きは何ランクも落ちたものとなった。勿論カリスマティックオーラの影響もあったのだろうが、アルバーが優れた指揮官である事もまた表していた。
そうして敵の数は1人、また1人と減っていき‥‥最後にはアルバーだけとなる。
「投降する気は?」
「‥‥あるように見えるか?」
エクターの問いに満身創痍の状態だが槍を構えたまま答えるアルバー。尤も、冒険者達の殆どが満身創痍の状態であるのだが。
「私は――最期まで戦う! 死ぬのなら、その最期まで戦い、輝く!」
血を吐き、叫びながら槍を構え突進してくるアルバー!
「人の命を吸い、何が輝く‥‥だ!」
その攻撃を受け止めようとするはレイア! お互い満身創痍という事もあり、ならば元の技量が上であるアルバーの攻撃がレイアの盾をすりぬけ突き刺さる!
「これで終わりだ―――インビジブル・ランス!」
そしてキットがレイアの影から刺突のソニックブームを放つ!
衝撃波は隙だらけのアルバーへと迫り―――
「―――良い終わり方だ」
男は笑みを浮かべて命を終える。
●一先ずの終わり
戦いは終わった。戦闘で負った傷は、医者である怜がポーションを使い治療した。また倒れた敵のうち、息があるものは治療をしたうえで拘束している。
「キャルは‥‥戦いの隙に逃げたようだな」
「とはいってもぉ、この戦いに参加していたらぁ‥‥こっちも誰かが死んでいたかもしれません」
アンドリューが辺りを見るが、キャルの姿は影も形も無い。だがエリンティアの言う通り、非常に危うい戦況だったので、退いてくれたのはむしろありがたいだろう。
強敵相手に回復の魔法を持つ者が居ない状況で、戦闘中に回復する術を持っていないという事は死の危険性があるという事だ。
「ま、それはそれとして‥‥」
マナウスが見るは未だ燃え続ける小屋だ。
「火を消すのは無理っぽいし‥‥せめて延焼を防ぐか」
「そうですね、森に火がついたら洒落になりません。‥‥これが原因で死ぬのも嫌ですし」
次の瞬間、フィーナの言った事を全員想像したのだろうか。
「い、急いで近くの木を切り倒して遠ざけろ!!」
「そういえば、燃えている建造物は崩すと効果的と聞いた事があるのである!」
「エクター卿、あれ潰せるか!?」
「や、やってみます!!」
慌しく、延焼を防ぐ為に動く。
そして何とか延焼を防ぎ、燃え跡を色々探ってみたが‥‥特に手がかりになるようなものは見つからず。
冒険者達は捕まえた光の支配者の部下達、そしてアルバーの遺体と共にブライトンへと行く。
ヤングヴラドとエクターの2人が代表して捕虜を領主の館へと連れていき、他の者は別の場所で待機するようだ。
彼らを出迎えたのは勿論ブライトン領主のライカだ。
「今回もご苦労様ね」
「‥‥むぅ、すまないのである。叩いた事は叩いたのであるが‥‥今回も特に資料などは得られなかったのである」
「十分よ。移転先に関しても‥‥ま、捕まえたやつらからたっぷり尋問すれば分かる事だしね」
と、そこへ1人の男が現れる。
「おぉ、あの時のテンプルナイト様ではありませんか。今日はどうしたのです?」
50代ぐらいの太った貴族‥‥ディゾアだ。
「あぁ、ここら辺で暴れる危険な組織の一員を捕まえたのであるよ」
言いながらヤングヴラドの視線は拘束されている捕虜に注がれる。
「ほぅ、あの噂に聞く‥‥さすがテンプルナイト様!」
「いやいや、余1人の力ではないであるよ。仲間達のお陰である。ここにいるエクター卿も力もあってこそなのだ」
ヤングヴラドに名前を呼ばれて頭を下げるエクター。尤も格好はいつも通りの鎧兜で身を覆っているのだが。
「エクター卿‥‥というと、あのラーンス卿の弟、ですか?」
「えぇ、そうです。今は王宮騎士をやっております」
ラーンス・ロットの弟という事で、その名はキャメロットから離れたこの地でも知られているのだろうか。ディゾアは驚いたような反応を返す。
「いやはや! またまたあなたのような人に出会えるとは! どうです、私の屋敷で宴でも!」
‥‥汝は宴しかする事が無いのであるか、という言葉をヤングヴラドは何とか口に出さずに留める。
「いえ、お気持ちはありがたいのですが色々と忙しい身でもありますから」
「右に同じくである」
「そうですか‥‥」
と、肩を落として気落ちした様子を見せるディゾアであった。
「といった感じで、特に動揺した様子を見せる者はいなかったであるよ」
その後、仲間達が待つ所で合流し、先程までの様子を話すヤングヴラドとエクター。
「だが‥‥偽情報を流した時点で、討伐隊が行く事自体は知っていたんだから、覚悟さえしていれば動揺を見せない事もできるんじゃないか?」
捕虜を引き渡した時に動揺した者が怪しい‥‥という考えであったが、考えてみれば怜の言う通りでもある。
「焦ってボロを出すような‥‥迂闊で残念なやつだったら良かったんだがな」
マナウスの溜め息と同時に、他の者達も似たような反応をしていた。
●そして終焉へ向けて
だが。
何というか‥‥協力者は確かに、迂闊で残念な人物であった。
捕虜達を引き渡したその日の夜。ブライトンの罪人たちを捕らえる牢を歩く人物の影があった。
看守のものではないその影は、でっぷりと太った体を揺すりながら歩いている。‥‥ディゾアだ。
「まったく‥‥‥何故私がこのような事を、えぇい‥‥」
ぶつぶつ言いながら歩くその腰にぶら下がっているのは短剣だ。また、彼を見張るような看守はいない。適当に言いくるめたのだろうか。
そして彼はとある牢の前で止まると、中の様子を伺う。
「‥‥よしよし、寝ているようだな」
中にいる人物が寝息を立てているのを確認すると、彼は懐から牢の鍵を取り出して鍵を開け、中に入る。
「もうこれ以上喋られちゃ困るから‥‥な!」
そして剣を引き抜くと、寝ている人物目掛けて一気に振り下ろす!
パシィン!!
「何‥‥だと‥‥!?」
だが彼の手に伝わる感触は人を刺したものではなく、剣を何かで挟まれて止められたものだ。
何が起こったか分からないディゾアだが、目をこらしてよく見てみると、剣が寝ていた筈の人物に手で白羽取りされているのが見えた。
「もう、寝てる子にオイタしちゃ駄目じゃない? それとも何、夜這いかしら?」
「うわぁぁっ!!?」
しかもよりによって、その人物が筋骨隆々で褌一丁で寝てるような人物だからたまらない。ちなみに彼の人物は、過去にブライトンを騒がせた変態組織の長だ。
と、ディゾアが叫びを上げると同時に牢の入り口の方で動きが見える。
「まったく‥‥。ホーリーをしていない人物で怪しい動きをする者がいたら疑えって言われたから、看守を遠ざけるという怪しすぎる貴方を監視して‥‥ついでに牢の中も入れ替えてみたら見事に引っかかってくれたわね」
「こ、ここ小娘ぇ! よ、よくも!」
勿論、それは騎士を共に連れているライカだ。
「では、何故今日捕まえた光の支配者の者を殺そうとしたのか‥‥理由をきっちり話してくれますね?」
ライカはにっこりと笑みを浮かべていた。