騎士と劇の複雑な(?)関係

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月22日〜10月27日

リプレイ公開日:2008年10月31日

●オープニング

 それはある日の事。
 キャメロットは騎士団の詰所、その一室に黒き鎧兜で全身を覆った騎士が入る。彼の名はエクター・ド・マリス、王宮騎士だ。
 部屋に備え付けられている机で書類と睨めっこしていた男は、エクターが部屋に入ってくるのを認めると顔を上げてエクターを出迎える。どこか飄々とした雰囲気を持つ彼はエクターの先輩騎士だ。
 どうやらエクターは先輩に呼ばれてやってきたようだった。
「うす、体の調子はどうだ?」
 挨拶も程ほどに終えると、エクターの体の調子を聞く先輩。数週間前にエクターが北海でウエイプスに襲われたからだろう。
「しっかり休みましたし、もう大丈夫ですよ。‥‥むしろ休みすぎて体が鈍ってないか心配になるくらいです」
 事件の後、エクターは休養を貰った。勿論傷ついた体を回復させる為なのだが、それがエクターにとっては歯がゆかったようだ。今もまだイギリスに不穏な空気はある。彼の言葉は暗に『働かせろ』というものだろう。
「そんなあなたに朗報です‥‥ってことで、お前に仕事だ」
 言いながら机の上に広げていた羊皮紙のうちの1枚をエクターに手渡す先輩。エクターはとりあえずそれに目を通していく‥‥が。
「えーっと、気のせいですかね? 私に劇をやれと書いてあるように見えるのですが‥‥。あ、渡す紙を間違えましたね?」
「目を逸らしても現実は変わらないぞ」
 しばらくの沈黙。
「いやいやいやいやいやいや、何がどうなってこうなったんです!?」
 ドンと机を両手で叩いて、まくし立てるように言うエクター。対する先輩騎士は笑顔のまま、落ち着くように手で軽く制するだけだ。
「まま、落ち着けって。お望みの通り説明してやるから」
 エクターが一先ず落ち着くのを待ってから、再び話し始める先輩。
「お前も知っての通りメルドンへの津波被害を始め、北海での様々な脅威‥‥イギリス王国は危機に晒されているといって間違いない。勿論それを何とかする為に俺達騎士団が頑張ってるわけだが‥‥それでも民衆は不安がっている。仕方のない事だがな。で、そんな民の心の癒す為に」
「劇、ですか」
「理解が早くて結構」
「理屈は分からなくはないですが‥‥何故私なんですか? ほら、先輩とか」
「俺はお前にはできない仕事がたくさんあって忙しい」
「う」
 エクターは思い出す。確かに先輩騎士は剣の実力ではエクターに遥かに劣るが、その分情報処理や交渉などペンや口を使う事に関しては非常に優れているのだ。騎士団の中の政治担当といったところか。このような混迷している状況では彼の仕事はどんどん増えているのだろう。

「ま、それにお前がこれに選ばれたのにもちゃんと理由があってだな。‥‥エクター、お前の目標はなんだ?」
 理由を話そうとしているのに、自身の目標を聞かれエクターは戸惑いながらも答える。
「え、え? それは円卓の騎士になる事ですが‥‥それが何か?」
「円卓の騎士といえば、騎士の中の騎士。そうだな?」
「あ、はい、そうですね」
「つまりは、多くの騎士の上に立つ存在‥‥。それ故に部下の騎士に命令を出す場面もあるだろう。だがエクター‥‥お前にはリーダーシップが足りない!!」
「な、なんですってー!?」
 エクターの頭にガーンという音が響く。心の背景は真っ黒、それ程驚いたという事だろう。
「違うとは言わせんぞ。お前は相変わらず単純に突出する癖があるしな。この前の訓練でも部下を有効に動かせてたとは言い難い」
「うぅ‥‥」
 最近エクターと先輩騎士の間で集団模擬戦闘訓練があったのだが、結果としてはエクターの敗北で終わっている。指揮能力の差が出たと言っていい。
「だからお前にこういう仕事をさせて、人に指示をする‥‥という事を学んでもらおうと思ってな。慰安の為の劇となれば人心把握もしなくてはいけないわけでそれの勉強にもなる。後、お前素直すぎるから少しは演じる事を学べ」
「成る程‥‥」
 納得したように頷くエクター。まるで目から鱗が落ちるようだ、と。
「それにこういった面から民達を守るのも大事な事だろ?」
「確かに‥‥えぇ、確かにそうです! 分かりました。この仕事、任されました!」
 エクターは先程までとは180度違って、やる気十分のようだ。やはり単純なところがあるのだろう‥‥そこが先輩にとっても心配の種なのだが。
「‥‥あー、まぁ、やる気になってくれたからいいか。適当に暇そうな部下数人に声かけて手伝わせというてくれ。俺の方からもギルドに依頼出しとく。あぁ、あと貴族のお偉方も見るだろうから、なるべく機嫌よくしといてくれ。こっちがやりやすくなる」
「はい、分かりました!」
 エクターは威勢良く返事すると、言われた通り部下に声をかける為だろう、部屋の外に出た。カチャカチャと鎧が擦れる音がどんどん遠くなっていくのが分かる。
 その様子を見て、先輩は思わず溜め息を一つ。
「‥‥適当言ってみただけだが、乗るもんだなぁ。ったく、貴族の金持ち様は何考えてるんだか‥‥。確かにエクターが劇をやるとなれば貴族のご婦人には大ウケだろうが、な」
 何をするにしても金がいる。それは文化ある社会ならば当然の事だろう。騎士団も北海騒ぎやらで色々と入用なのであった。そして金が必要ならば金を持っているところに援助してもらえばいい‥‥ということだ。勿論それら資金の工面は騎士の仕事とは言い難いが、仕事が入ってしまったものは仕方がない。
「ま、実際エクターは演じるって事学んだ方がいいかもしれんなぁ‥‥」
 猪突猛進タイプの後輩の今後を心配してみる先輩騎士なのであった。


 バタン!
「ところで、劇ってこのままの格好で出てもいいですよね!?」
「駄目に決まってるだろうが阿呆」

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb5379 鷹峰 瀞藍(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●開幕前
「おー、結構集まってるであるな」
「ま、エクター卿が出るとなれば、な」
「うぅ‥‥どうしてこんな格好を‥‥」
「似合ってるぞ、マリちゃん」
「マリちゃん言わないでください!」
「マリちゃんじゃなくてマリー姫だからな。‥‥それにしてもその胸は?」
「詰め物です!」
「うんうん、衣装に化粧に頑張った甲斐があるね」
「‥‥慌ててるエクター卿見てたらむしろ落ち着いてきたな」
「そろそろ開幕ですね。僕も頑張るですよ〜」

 キャメロットは夜。
 舞台の幕が上がる―――。

●一幕
『キャメロットに2人の従者を引き連れた1人の紳士がやってきていました。紳士は人々にヴラ殿と呼ばれ慕われていました』
 舞台の下手から入ってくるは聖なる服に身を包んだヴラ殿。そんな彼に付き従うように歩くは2人。
 1人はいかにもな騎士な姿をした男性。もう1人は和服に身を包んだうら若き女性であった。
『騎士はルーさん、女性はセイさんと呼ばれていました。彼らが何者なのか、何故この街にやってきていたのか‥‥それを知る者はまだここにはいません』
「被害は酷かったのだ。セイさんルーさん急ぎキャメロットに戻るのだ」
「えぇ、そうですねぇ。‥‥あらヴラ様、あちらの方が何か騒がしいですよ?」
「おや、一体何であるかな?」
『ヴラ殿ご一行が目を向けた先、どうやら一組の男女が複数の悪漢に絡まれているようでした』
 語りと同時に上手から入ってくるは長い黒髪を棚引かせた美しい紳士。そして彼に縋るように腕を組むこれまた美しい白い騎士服をアレンジした衣装に身を包んだ金髪の女性。そんな2人をいかにもといったガラの悪い体格のよい男達が囲んでいるのであった。
 絡まれている男女と悪漢の間に浮くように両手を広げて飛んでいるは侍女服を着た1人のシフール。
「ちょっとあんた達、マリー様に何するのよ!」
「こりゃまた元気なお嬢さんだ。しかし、そんな小さい体でどうしようかってのかなぁ?」
 ずずいっと囲いを狭くする男達。その雰囲気に思わず侍女のシフールは後ずさる。
「もういい、マール。‥‥姫の前で格好悪い真似はできんからな」
 マールと呼ばれた侍女を手で制するようにして前に出る紳士。彼は剣を抜き、悪漢へと切っ先を向ける。
「何だ、兄ちゃん。やろうってのかい?」
『正に一触即発のこの状況。しかし、ヴラ殿がこれを見逃す筈ありません』
「あいや待たれい。どうも力を持って紳士淑女を脅しているように見えるのだが、それはいけないのではないかな?」
「んだテメェ。テメェらも纏めて畳んじまうぞ!」
「おお、こわいこわい。ヴラ様、どうします?」
「悪を見過ごすわけにはいかんである! ルーさん!」
「承知しております」
 ヴラ殿3人組のうち、騎士の格好をしたルーさんが剣を抜き悪漢と正対する。
 それを見て、悪漢達も各々自分の武器を構えると紳士とルーさんに襲い掛かる! 激しい音楽と共に繰り広げられる剣劇!
『しかし、紳士もルーさんも巧みな剣捌きで悪漢達の猛攻を容易くしのいでいきます。どうやら敵わぬとみた男達は――』
「くそ! 逃げるぞ!」
「言われなくてもスタコラサッサだぜ!」
 とたちまち背を向けて逃げるのであった。その様子を見て、落ち着いたように剣を収める紳士。
 侍女――マールが姫と呼ばれた女性の傍へと駆け寄ると心配した様子で声をかける。
「大丈夫ですか、マリー様!?」
「えぇ、怪我はありません。あちらの方々のお陰です」
 姫――マリーというらしい――が視線を向けた先にいるのはヴラ殿達だ。そんなヴラ殿に駆け寄るマール。
「姫様達をお助けいただき本当にありがとうございました!」
「いや何、当然の事をしたまでであるよ」 
「あ、そうです! マリー様、レイ様! お礼にこの方たちをお屋敷に招いてはいかがでしょうか?」
 そんなマールの提案にレイと呼ばれた紳士とマリー姫は顔を見合わせた後、首を縦に振る。
『こうしてヴラ殿ご一行はマリー姫の屋敷へと招かれたのでした』

●ニ幕
 場面は変わって屋敷の一室。マリー邸である。
 ヴラ殿へと頭を下げて礼を言うは紳士だ
「ありがとう、先程は助かった。俺はレイカルド・エルウッド‥‥レイと呼ばれている騎士だ。こちらのマリー姫の許婚でもある」
「いや何。それにしても何か込み入った事情があるとお見受けしたのだが、どうしたのだ?」
 ヴラ殿の質問を受け、どう答えようか悩んだ様子のレイ。マリー姫も言っていいものかどうか悩んでいるようだ。
「マリー様、助けていただいたのに事情も話さないのは失礼に当たりますよ」
『マールにやんわりと促されて、マリーは事情を話し始めます』
「先程はありがとうございます。私はマリー‥‥とある貴族の娘でございます。実は父の船が北海の騒ぎで沈んでしまい、その影響で借金を負わされてしまったのです。‥‥そして、それだけならまだしも借金が返せぬのなら私を借金のカタに連れていこうとするのです」
 涙ぐみ、思わずレイの胸に飛び込むマリー。よほど怖いのだろう。レイは思わずマリーを抱きしめる。
『悲しみに暮れる2人を見て、ヴラ殿はこの2人を助けてやりたいと思いました』
「成る程‥‥こうして出会ったのも何かかのご縁、一肌脱ごうではないか。セイさんヨロシクなのだ」
「はいなっと―――御意」
 ヴラ殿の言葉を受け、セイさんは屋敷から出ていく。
『自分達を助けようとしてくれるあなた方は何者なのか、そう問いかけるレイでしたが』
「ん? 私はただのお節介な羊毛商の若旦那なのだ」


 舞台の明かりが落ちる。先程までとは違い薄暗い闇の中。どうやら場所も違うようだ。
 緊迫感を感じさせる音楽の中、ただ声が響く。
『ここはとある商人の家。部屋の椅子に堂々と座るは家の主‥‥商人のディ・コークャです』
 顔の部分をヴェールで隠した豪華な椅子に座る男‥‥コークャが誰へとなく口を開く。

「正しい手段で人が救えるか?個人で扱える力には限界がある」

「救いたい者が多ければ多いほど、それには膨大な力が必要になる」

「誰かを助けたいが為に、届かないものを届かせる為に手を汚すものも」

「現実として存在する」

 コークャは椅子の向きを変え、背中を向けると誰かに向かい指示を飛ばす。
「これだけの損害は‥‥しょうがあるまい、マリーを捕らえよ。私は取引の相手を探す、準備を」
 そして更に光は落ち、舞台は完全に闇に包まれる。
 しかし、舞台の端、そこにだけ明かりが灯ると――
『そんなコークャを探る姿がありました。それは忍び衣に身を包んだ‥‥男性』
「‥‥成る程、そういうわけか」

●三幕
『時は進んで後日。この日はレイとマリーがデートをする日でした。マールはマリーのおめかしを手伝ってから、恥ずかしがるマリーをレイのところまで連れていってから、くすくす笑いながらその場を去っていきました。今、この場にいるのはレイとマリーだけです』
 腕を組み、舞台上を話しながら歩き続ける2人。と、マリーが何かに躓いたようで、そのままレイに抱きかかえられる格好になる。
 赤く染めた頬をレイの胸に沈めるようにして隠すマリーをそのままレイは抱きしめる。
 音楽も合わさって、実に良い雰囲気となる‥‥が。
『そんな雰囲気をぶち壊す、実に空気の読めない魔の手が2人へと迫っていました』
「また酷い言われようだな。確かに間違っちゃいないが‥‥な!!」
 マリーを抱きしめていたレイの背中に襲い掛かる突然の衝撃波!! 唐突な出来事に、レイはマリーを手放してしまい、そのまま倒れてしまう。
「な、何をするだァー!」
 それと同時に舞台に鞭を持った真っ黒い外套に身を包んだ1人の男が現れる。
『彼こそが先程の攻撃の主、リー先生です』
「まったく、甘いシーン見せ付けてくれちゃって‥‥と!」
 そのままリー先生は鞭を振るい、レイに駆け寄ろうとしているマリーを絡めとる!
 そして動けなくなったマリーをリーはお姫様のように抱きかかえる。
「それじゃ、マリー姫様はいただいていくとしますか」
『なんということでしょう、マリーが攫われてしまいました! 陰ながら見守っていたマールにより、事態はヴラ殿へと伝えられます』

「お願いします、姫様を助けてください!」
「あいや、分かった!」
『そこへ1人の忍者服を身に纏った男性が現れます。その姿は‥‥そう、セイさんです! 彼は実は男だったのです』
「ヴラ様ご報告を‥‥」
 セイさんはヴラ殿の耳元に口を近づけると、誰にも聞かれぬよう小声で何かを話す。
「ふむ、許せぬ悪徳商人であるな。セイさんルーさん懲らしめてあげなさい!」
「御意」
「承知」

●四幕
『マリーを攫われたレイは立ち上がると、傷に耐えながらもリー先生を追いかけます。そしてその先には商人ディ・コークャの家がありました』
「ここは‥‥やはり!」
「ふん、やはりやってきたか‥‥!」
 レイの前に立ちはだかるは鞭を両手に持つリー先生。戦いは――避けられない!
 双鞭の変幻自在の動きにレイはたちまちに追い詰められる!
「その程度、その程度で姫を救おうっていうのかい、騎士様ぁ!?」
「ぐっ‥‥!!」
「あの商人も中々いい趣味してるからな。もしかしたら姫様は今頃どんな目に‥‥おっと、とても俺の口からは言えないなぁ」
『ニヤニヤと笑みを浮かべながら言い放つリー先生。その言葉にレイの脳裏に浮かぶ感情は怒りよりも、マリーを守りたいというものでした』
「姫を‥‥マリーをそんな目にあわせてたまるかぁ!!」
「何――!?」
 一瞬の剣戟―――そして次の瞬間に倒れるのは
「へっ、やるじゃねぇか騎士様‥‥‥」
『こうしてレイは商人の家に乗り込みます』

『レイがリー先生と戦っている頃、マリーはコークャに迫られていました』
「君がマリーか‥‥君は何も悪くは無い、恨んでくれてもいい。私はこれから貴女に絶望を与えよう」
「貴方は‥‥何故こんな事をするのです!?」
 マリーの言葉を聞き、思わず高笑いをするコークャ。
「世の中には‥‥必要な悪もあるということだ!!」
 そのままコークャはマリーの衣服に手をかける。肩の肌が露になろうかというその時――!
「悪など必要ない!!」
『部屋の天井裏から姿を現したのは‥‥忍びのセイさんです!!』
「邪魔者か。いいだろう、私はいかなる時も自分の目の前に立ちはだかる者は自分の手で排除した‥‥!」
 コークャは部屋に飾られていた剣を引き抜くとセイへと向けて振るう!
 その剣捌きはただの商人とは思えないもので、マリーを守らなくてはいけないセイさんは防戦一方だ。

『そこに、リー先生を倒したレイが! ヴラ殿とルーさんが現れます!』
「捕らえた娘達を異国へと売り飛ばす悪徳商人ディ・コークャよ、神妙にお縄につくである!!」
「なんだ、貴様は!!」
 コークャの言葉を受け、ルーさんがずいっと前に出て言い放つ。
「控えぃ控えィ。この紋章が目に入らぬか!ここにおわすお方をどなたと心得る! 慈愛神の地上代行、教皇庁直下テンプルナイトのヴラ殿であるぞ!」
「何!?」
「ディ・コクーヤよ、その方らの悪行しかと見届けたのだ! キャメロットよりの沙汰を神妙に待っておるがよい!」
 そしてヴラ殿だけでなくレイはマリーを助ける為に傷だらけの体で剣を振るう!!
「娘を売る家族を一概には責められん。彼らにも事情があっての事だからな。だが、この国に人買いがいて、そんなやつは許せない、とオレは考えている」
 打ち合わせられる剣と剣! 真剣同士の本気の戦いは、見守る者達が指の一本も動かせない程だ。
『レイの剣は鬼気迫るもので、コークャはたちまち追い詰められます』
「吐き気をもよおす邪悪とはッ! 何も知らぬ無垢なる娘を売買する事だ‥‥! 自分の利益だけの為に利用する事だ‥‥! 商人が何も知らぬ『娘』をてめーだけの都合でッ!」
 セイさんの援護攻撃により作られた隙をレイが突く!
「オララオラオララー! 裁くのは、俺の剣だー!」
『ついに、コークャが‥‥膝を地につきました。勝った! 第四幕、完!』

 殺陣が終わり、コークャは縛られていた。これから裁きを受けるのだろう。
「私が裁かれるのはいい、それに見合ったことをやっていたのだからな。だが、それで救われた者も居るのはどう考える?お前達はどうやってそのものに値する分を救うというのだ? お前の正義の為に救われなくなったものも生じるのだぞ!」
 確かにコークャの言葉は一理ある。レイは‥‥それを否定しない。
「それでも‥‥悪を捕まえる事しか我々には出来ない。偽善と呼ぶなら哂えばいい。オレも貴様と同じだ。目の前にいる‥‥救えるものを救う為に戦っている」
 悪によって救われる者と、偽善によって救われる者。どちらがいいのか――それを此処で述べるのはやめておこう。

●終幕
『悪徳商人は潰え、レイとマリーの仲を裂くものは無くなりました。そう、今日はヴラ殿の屋敷で2人の結婚式なのです』
 マリーは花の刺繍が施されたスカートをはき、今までより更に女性らしさを前面に押し出されている。
「マリー‥‥愛しているぞ」
「はい、レイ様‥‥!」
 誓いのキス(をしたように見せた)後、マリーを抱きかかえるレイ。
 2人を見て実に満足そうに笑うヴラ殿。
「これにて一件落着なのだ〜ふはははははは〜!」
 そしてヴラ殿は向き直り、更に言葉を続ける。
「このカップルは幸せになったのだが、まだまだ北海沿岸には助けを求めている人々がいるのだ! 皆様のご協力が必要なのだ〜!」


 レイカルド・エルウッド:レイア・アローネ(eb8106)
 マリー姫:エクター・ド・マリス
 マール:マール・コンバラリア(ec4461)
 ヴラ殿:ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)
 セイさん:鷹峰瀞藍(eb5379)
 ルーさん:ルーウィン・ルクレール(ea1364)
 ディ・コークャ:マナウス・ドラッケン(ea0021)
 リー先生:リ・ル(ea3888)

 悪漢:騎士の方々

 音楽・明かり・語り:ユーリユーラス・リグリット(ea3071)


 そして、劇に出演した冒険者達は寄付を募る。
 北海沿岸の助けを求めてる人の為にも。キャメロットから動けないものでも出来る事はある‥‥と。

●終幕後
「ところで何気に抱きかかえたエクター卿が、恐らく私より軽いのにショックを受けたわけだが」
「‥‥まぁ、気にするな。で、そのマリちゃんはどうした?」
「劇が終わって早々と控え室として用意した部屋に入っていったが‥‥やっぱ恥ずかしいからじゃないか?」
「ふむ‥‥様子を見てみるかね」

 がちゃり、と扉が開く。
「‥‥‥え?」
 冒険者達が見たものは、マリー姫の衣装を脱いだばかりと思わしき、紛れもない女性の姿。
 それを見た冒険者達の反応に、どちらかというと『やっぱり』的なものが多いのは気のせいだろう。
「あ、あ、あぁぁぁぁ!!?」
 どこからか取り出された巨大な剣が扉へ向かって飛んでいく。
 その後どうなったかは‥‥ここには記さずにおこう。