格闘家が見たカマキリ

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2008年11月24日

●オープニング

 キャメロットに近い、とある川原。
 川の流れは穏やかで、その周辺も特に目立ったものはない至って普通の平地だ。
 そんな川の傍に1人の男がいた。しかも何故か上半身裸であった、この時期に。
 とはいえ、彼は所謂変態というやつではない。
「ふっ‥‥はっ!!」
 何もない空間へと向けての蹴り、拳による突き‥‥そう、修行だ。
 彼は己の拳のみで戦う格闘家なのだ。
「よし‥‥ウォーミングアップはこのぐらいでいいだろう‥‥」
 流れる汗も拭かずに、彼は足を肩幅よりも大きく広げて構えを取り、目を閉じる。
 集中。
 閉じた目の裏に浮かぶは‥‥仮想敵。
(「そう‥‥例えばカマキリが人と同じサイズならば‥‥!」)
 何故よりによって彼のイメージする相手が同じ人間ではなく人間サイズのカマキリなのかは分からない。きっと彼なりの理由があるのだろう。
 そして彼は自分のイメージした敵に向かって、突く! 蹴る!
(「ちぃ、やはり装甲は硬いか‥‥? 鎌のリーチも厄介だな!?」)
 彼のイメージの中では強敵なのだろう。苦戦しているようだ。
(「だが、これならどうだ!?」)
 彼の渾身の回し蹴り―――が、受け止められる!
「え、受け止め――え?」
 受け止められたのはイメージのカマキリではなかった。実際に何かに受け止められたのだ。
 そして彼は何が自分の足を止めたのかを見る。そこに居たのは―――
「カマキリ‥‥って、でかっ!?」
 カマキリだった。しかも大きい。
 どれぐらい大きいかといえば、男の二倍近くの大きさを誇るぐらいだ。先程想像していたよりも遥かに大きい。
「モンスターか!? く、だがこれも修行のうち!!」
 すぐさまバックステップで距離を取ると、巨大なカマキリ――ジャイアントマンティス――へと相対する構えを取る。
 が―――
「はい?」
 よく見ると、目の前のジャイアントマンティスの後ろに更に何かいた。
 それはもう一体のジャイアントマンティス。

 男が背を向けて、その場から全速力で逃げ出すのも止むなしかな。


 そして後日、その二体のジャイアントマンティスを倒してほしいという依頼がギルドへと持ち込まれる。

●今回の参加者

 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2889 森里 霧子(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec0212 テティニス・ネト・アメン(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●リプレイ本文

●現実のカマキリ
 キャメロットからしばらく離れた平原。
 その地を幾人かの男女が歩いている。男女といっても男性が2人、女性が5人と少々男女のバランスは悪いが。
 そろそろ冬が近づこうというのを示すかのような寒風の中、彼らが向かうはとある川だ。その目的は、
「ジャイアントマンティス‥‥そろそろ冬も近い、産卵の為の獲物を求めて彷徨い出てきたか。尤も、普通の蟷螂と同様に卵で越冬するのか私には分からないが」
 エスリン・マッカレル(ea9669)が討伐する対象を確認するかのように呟く。つまり敵は巨大な蟷螂ということだが、それは通常の蟷螂と同じように考えていいのか‥‥と考えるが、何にしろ危険な事には変わりはない。
「通常の蟷螂ならば、そろそろ餌の少なくなってくる頃だろうが‥‥居座っているとなると、それなりに獲物が居るのかも知れないな」
「‥‥蟷螂なら越冬は難しいでしょうし、餌が減ってくれば共食いする可能性も高いでしょうけど‥‥それまで放置する訳にも行かないでしょうね」
 季節的には蟷螂に厳しい筈だが、何故まだ居座っているのか考えを巡らすイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)。マイ・グリン(ea5380)は落ち着いて表情を変化させず、越冬ができる可能性を考える。とはいえ、やはり討伐しなくてはいけない事には変わりはない。
「本格的に冬到来したら、自滅してそうなんだけど‥‥はっ! 卵っ?」
 森里霧子(ea2889)の予想は恐らく当たらずとも遠からずといったところだろう。それを聞き、他の冒険者達ももし卵があった場合の対処法に考えを巡らせる。
 他の冒険者達がジャイアントマンティスについて予想をしているのを見ながらテティニス・ネト・アメン(ec0212)は首を傾げる。
「両手が鎌‥‥? 鋏なら蠍だけれど。私の故郷では見ない種類ね。ジャイアントというからには、普通のマンティスというのもいるんでしょう?」
 エジプト出身で、最近イギリスへやってきた彼女はカマキリを知らないようだった。
「大体手の平に乗るぐらいのサイズの虫だな」
「あら、本物はそんなに小さいのね」
 イェレミーアスが自分の手を広げて大体のサイズを伝えると、テティニスは感心したように頷く。
 さて、彼らより少し離れた所にいるは2人の男女。男性の方は依頼者である格闘家、女性は冒険者のシュネー・エーデルハイト(eb8175)だ。
 だが、普段のシュネーを知っている者ならば、今の彼女に違和感を覚えた事だろう。
(「そう‥‥ッ 昆虫が人間よりも大きかったのなら‥‥ッ 人間の力ではとても太刀打ち出来ない‥‥ッッ!」)
(「ならどうする? 私には音速を超える剣撃も、大地の重量を上乗せする剣技も持ってはいない‥‥」)
「なら‥‥気負わず‥‥自然に‥‥剣に、オーラに、身を委ねて‥‥フランク500年の歴史を背負って‥‥戦うわッッッ!!」
 どうもここに来る前に図書館に寄ったらしいが、そこで妙な本を読んで影響を受けたのだろう。オーラというか顔が、濃い。
 そんな彼女の説教を受けたのか、依頼人である格闘家も覚悟を決めてついてきたようだ。とはいえ、トドメの時ぐらいにしか攻撃するなと冒険者達に言い含められている為、戦闘には主立って参加しないのだが。
「と、あれが目的の川に到着だ」
 依頼人が指差す先に薄っすらと見えるのは、川だ。ここからでは見えないが、恐らく近くにジャイアントマンティスもいるだろう。
「ではそろそろ私は空へ上がろう」
「じゃあ私もね」
 エスリンとシュネーはそれぞれペットであるヒポグリフのティターニア、グリフォンのシュテルンに跨り空へと上がる。空から敵を探すようだ。
「‥‥私たちは準備ですね」
 マイと霧子がそれぞれバックパックから何かを取り出す。

 巨大カマキリ討伐に向けて、動き出す。

●虫退治
 空に上がった2人からジャイアントマンティス発見の報が齎されたのはそれからすぐの事であった。
 示された場所に向かい、気づかれぬよう遠目で伺うと、そこには情報通りの巨大なカマキリが2匹いた。
 ぱっと見たところ差異はあまり見受けられないが、どちらかというと片方が少し大きいだろうか? カマキリの性質を考えると大きい方がメスだろう。
 その2匹に気づかれぬよう、霧子が少しずつ近づいていく。毛布に枯れ草をくっつけて、それを羽織ってだ。
 ある程度まで近づくと、用意していた袋から紐を結われた兎を1羽取り出し、放す。
 それでジャイアントマンティスの気を引こうというのだ。
 霧子の目論見は果たして‥‥上手くいった。
 やや小さめの方のマンティスが兎に気づいたのか、こちらに向けて歩いてきたのだ。
(「フィーッシュ‥‥って魚じゃないか」)
 当然、大きめの方もその様子を見て兎に気づくし、兎も逃げようと走る。逃げる方向に関しては霧子が紐である程度制御していたが。
 2匹のマンティスがある程度近づいたところで、霧子は次の行動に移る。
「よし、今だ!」
 袋から更に兎を2羽放ったのだ。兎は動物特有の勘からか危険を察知し、放たれると同時に一目散にあちこちへと逃げ出す。
「‥‥追加です」
 それに加え、マイが別方向からやってきて鶏を数羽放つ。
 突如として現れた多くの獲物‥‥混乱しているのかどうかは分からないが、マンティスは本能のままに、それぞれ獲物に向かって動き出す。別々の方向に、だ。

「よし、分かれた!」
 分断されたうち、大きめのジャイアントマンティスに向かうはイェレミーアスと霧子だ。それに加えて、エスリンも弓の狙いをそちらへと向ける。
 冬も近づき獲物が少なくなってきたからか、敵の気性は特に激しい。狩りの邪魔をされて怒ったのか、ジャイアントマンティスは目の前の邪魔者に向けて鎌を振るう!
「いよっと‥‥!」
 確かに並の冒険者では中々避けるのは難しいかもしれない攻撃だが、イェレミーアスは難なくと受け止める。続けての攻撃も、だ。
「それで終わりか!」
 返しで振るう刃はマンティスの腹を切り裂く! そのダメージは決して軽いものじゃない。
「こちらの攻撃は終わりではないがな‥‥!」
 空からの閃光――エスリンが放った矢だ。それがジャイアントマンティスの首筋へと向けて突き刺さる!
「お、苦しんでる。ま、駄目押しといきましょうか」
 霧子が他のイェレミーアスに合図すると、イェレミーアスは数歩下がり、入れ替わりに霧子が近づく。
 そして発動させるは忍術、春花の術。上手くいけば眠らせる事のできる術だ―――が。
「効果が、無い?」
 本能で生きている虫に精神というものはない。故に、精神に作用する魔法は通用しないのだ。
 とはいえ、敵のダメージも大きい、このままいけば撃破も遠くはない。

 そしてこちらは小さめの――恐らくオスの――ジャイアントマンティスだ。こちらに相対するはマイ、シュネー、テティニスだ。
「ふぅん、確かに装甲は硬めね‥‥でも!」
 マイのダガー投げ、シュネーのオーラショットによる援護を交えつつ、斬りつける事で敵の回避能力は大体把握できたテティニス。
「これならどうかしら!」
 素早く刃を掠めるようにして斬りつける技術‥‥シュライクにより、甲殻の上から大きな傷をつける事に成功する!
「‥‥昆虫は全般的に固いですから‥‥鎧を着た騎士相手に戦うのと似たような部分がありますね」
 マイは今の攻撃で敵に大きな隙が出来た事を確認すると、鎧を着た騎士相手に使う戦法――つまりは甲殻の隙間を狙い、ダガーを投げつける!
 その攻撃は大きなダメージにはならないが、足へと蓄積していき、どんどん動きを鈍らせていく。
「今よッ!! はぁぁッッッッッ!!」
 敵の動きが止まったのを見て、シュネーはシュテルンに指示を出す。敵に突っ込むように、だ。
「せぃッッッッ!!」
 オーラを纏った剣が、その突進の勢いのまま、敵へと突き刺さる!
「今よ!!」
 シュネーの指示は共に戦ってる冒険者達に向けたものではない。そう、依頼者の男性に向けたものだ。
 声を受けた男性はもはや瀕死状態のジャイアントマンティスに向けて拳を向ける。
「いつか俺はお前のような強敵を1人で倒せるようになってみせる‥‥ッ! 今は無理だとしても‥‥ッ!!」
 彼の思いを込めた天を衝くように打ち上げられた拳が、ジャイアントマンティスの顔面を捉え――倒した。

●冬に向けて
 依頼人がジャイアントマンティスにトドメの拳を入れた頃、同じようにイェレミーアス達もジャイアントマンティスを撃破していた。
 今はどこかに卵が産み付けられてないか確認しているところである。春が来た時に同じようなモンスターが現われては困るからだ。
「‥‥何もないならそれが一番ですけど‥‥卵が越冬するなどすれば目も当てられませんし。‥‥気休めでも確認は必要でしょう」
「そうだな、後顧の憂いは絶たねばならない。発見次第焼却してしまおう」
 敵を倒した後だが、やはり無表情に言うマイに頷くエスリン。
 と、それとほぼ同時にくしゅんという声が聞こえる。振り向けば、どうやらくしゃみをしたのはテティニスのようだ。
「見つからなくても火は欲しいかも。これが冬なのね。昼間なのに全然暖かくならないなんて」
 砂漠から来たテティニスにとって、夜の寒さは慣れっこだが、昼間でもこれほど寒いとは予想外だったようだ。事前に持ってきていた防寒着を着込み、寒さに震えていた。
「なぁ、何をしてるんだ?」
 と問うはイェレミーアス。問われるはジャイアントマンティスの死骸に刃を入れる霧子だ。
「もしかしたら体内に卵があって、それが孵るかもしれないから一応確認、かな。‥‥‥中に誰もいませんよ?」
「いや、無いなら無いで別にいいんだが。笑顔が怖いな」

 こうして、ジャイアントマンティスを討伐する事に成功した。
 依頼人である男性が、今後強力なオーガも倒せるような格闘家になれるかどうかは‥‥別の話ということで。