【ブライトン】騒ぎたかった、後悔してない

■イベントシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:19人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月27日〜12月27日

リプレイ公開日:2009年01月08日

●オープニング

 キャメロットから南に行ったところにある都市。
 これだけ書いたところで察しの良い人には分かるだろう。ブライトンだ。
 そのブライトンは領主の館、執務室。

「聖夜祭がやりたい」
「は?」
 ブライトン領主であるライカ・アムテリアは唐突にそう言い放った。それに返すは護衛の騎士であるクウェル・ナーリシェンだ。
「また唐突だな、おい」
「だって最近仕事詰めなんだもの。何だかんだで結局収穫祭はできなかったし‥‥」
「つまりはまた騒ぎたいだけか」
 ライカの手が出るのは早い。暴力的な意味で。ちなみにクウェル限定だと思われる。
「―――ってぇ!? ‥‥大体、こんな時期にかよ」
 こんな時期、というのは世間のデビル騒動の事を指しているのだろう。
「こんな時期だからこそよ。戦ってばかりじゃ気も滅入るでしょう?」
「まぁ、そりゃそうだが‥‥」
 と、トントンと執務室の扉が静かに叩かれる。
「はい、どうぞー」
「失礼します」
 扉が開き、部屋に入ってくるのは白き衣に身を包んだ長き金髪を持つ人物――いや天使。
 ロー・エンジェルのワリアンだ。彼(彼女?)は諸事情からこのブライトンの領主の館に身を寄せているのだ。
「これ、頼まれていた資料の整理終わりました」
「ありがとねー」
 ワリアンはその手に持っていた羊皮紙を、机に分類分けして置いていく。
「って、エンジェルにそんな事させてたのかよ!?」
「や、デビルの情報を集める為にも色んな資料や情報に目を通したいとか言ってたから‥‥」
「ここにはお世話になってますし、これぐらい容易い事ですよ」
 にっこりと微笑むワリアン。その笑顔はまさに天使の笑顔。実際に天使なのだが。
「本当ワリアンさんはいい人‥‥いえ、いい天使ねー。貴方ならこの時期の聖夜祭の重要性も分かってくれるとは思うわ」
「そうですね‥‥確かに重要です」
「え、そうなの!?」
 ワリアンは2人の注目が自分に集まってるのを知り、少し照れながらも話を始める。
「まず聖夜祭という儀式自体に意味があるのですが、この点に関しては割愛させてもらいます。まず、聖夜祭を開くということで冒険者の方々を招待するつもりなのだと思いますが‥‥これが肝要です」
「ん、確かに呼ぶわよ」
「実際にデビルと戦いを繰り広げている冒険者の方々から齎されるデビルに関する情報‥‥これができれば欲しい。正直なところ、ブライトンは主戦場より離れていてあまり情報が伝わってきませんし‥‥」
 イギリスに現れたデビルの多くは北を目指していたらしい。だからイギリスの南に位置するブライトンではあまり関わりがなかったらしい。
「デビルに襲われないのは良い事ですが、これからもそうであるとは限りませんし‥‥。だからこそ情報を集め、今後のデビルに対する指針を考えていくべきだと思います」
「さすがはエンジェルだな、そこまで考えていたとは」
「私も考えてたわよ?」
「嘘くせぇ」
 何度も言うが、ライカは手が早い。
「ま、そんなこんなで冒険者を招いて騒ぎましょうってことで。あ、エクター卿も呼びましょう。‥‥聞いた話が本当なら楽しめそうだし」
「あー‥‥実は女性だったって話か。‥‥いやどんな風に楽しむつもりだ?」
 と、ライカがふと何か思いついた風にワリアンを見る。
「女性云々といえば‥‥ワリアンさんよね」
「えっと、私が何か?」
「んー、せっかくだから男性か女性かを決めて服を着せたら面白いかなって。ワリアンさん自体は性格も男女どちらかに偏ってる事はなさそうだし」
 ちなみに、エンジェルに性別はない。性格的なものは別だが。
「‥‥エンジェルすら弄るのか」
 こうして、ブライトンにて思惑があるのかないのかよく分からない聖夜祭が開かれる。


 場所は変わってキャメロットは騎士団の詰め所。
 王宮騎士、エクター・ド・マリスに一通の手紙が届けられる。そう、ブライトンからの招待状だ。
「‥‥うわ、絶対弄られますよね、これ」
「なんだ、また誘われたのかお前」
 と、エクターの後ろから手紙を覗き込むのは先輩騎士だ。
「うわっ、先輩!?」
「お前ばっかり楽しそうだな。俺も連れてけ」
「嫌ですよ! 大体先輩招待されてないじゃないですか! あと聖夜は奥さんと過ごすんじゃなかったんですか!?」
「それはそれ、これはこれ」
「どれ!?」
 エクター・ド・マリス―――本名をコレットというラーンスの妹に気苦労は絶えないようだ。


 再びブライトン。
「ところで、これ聖夜祭に間に合うのか?」
「え、微妙かしら?」
「募集期間とか考えると微妙っぽいが」
「もし間に合わないようなら、聖夜祭の後夜祭とかでもこじつければいいわ」
「お前本当に騒ぎたいだけなんだな」

●今回の参加者

月詠 葵(ea0020)/ マナウス・ドラッケン(ea0021)/ シャルグ・ザーン(ea0827)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ エリンティア・フューゲル(ea3868)/ リ・ル(ea3888)/ 閃我 絶狼(ea3991)/ フィーナ・ウィンスレット(ea5556)/ セレナ・ザーン(ea9951)/ ベアータ・レジーネス(eb1422)/ リースフィア・エルスリード(eb2745)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ 蔵馬 沙紀(eb3747)/ 鷹峰 瀞藍(eb5379)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)/ レア・クラウス(eb8226)/ 空木 怜(ec1783)/ マロース・フィリオネル(ec3138

●リプレイ本文

●開始前
 ブライトン領主の館、執務室にて領主であるライカ・アムテリアはパーティーに向けての準備をしていた。
 ロー・エンジェルのワリアンも手伝っているようだ。
 と、そこへ扉をノックする音が響き、返事する間もなく扉が開く。
 すると、そこに居たのは護衛騎士クウェル・ナーリシェンであり、そして。
「あら」
「挨拶がしたいんだとさ」
 そこに居たのは4人の男女。今回のパーティーに参加する冒険者達だ。
 主催であるライカに挨拶しようとしたら、鉢合わせたといったところだろう。
 4人はクウェルに促され、ライカの前に立つ。
「お初にお目にかかります。ウィザードのベアータと申します」
「はい、初めまして。私が領主のライカ・アムテリアよ。そこまで堅苦しくしなくてもいいわよ?」
 まず丁寧に言うはベアータ・レジーネス(eb1422)だ。ライカとしては楽しんでもらうパーティーの為に集まったのだから、今回は礼儀はあまり気にせずに、というスタンスのようだ。
「ライカ様もワリアンさんもお元気そうで何よりですぅ、おまけのクーさんもお久しぶりですぅ」
「うんうん、これぐらいでいいわよ」
「俺おまけ扱いでいいのかよ!?」
 次に挨拶するはいつもののんびりとした口調で言い放つエリンティア・フューゲル(ea3868)。
 そんな彼らのやり取りを見て微笑みを浮かべるシルヴィア・クロスロード(eb3671)。
「ライカさん、お招きありがとうとございます。ブライトンの御領主がこんなに素敵な女性だとは思いませんでした」
「あら、そんな本当の事を」
「お世辞って知ってるか?」
 ライカの手の早さもどうかと思うが、クウェルの学習しなさもどうだろう。
「お久しぶりです、クウェルさん、ライカ様。お元気でしたか?」
「ま、見ての通りね」
「‥‥おー、久しぶりだな」
 腹を押さえて蹲るクウェルを見て思わず笑みを零すマロース・フィリオネル(ec3138)。
 落ちぶれていた頃のクウェルを知っているマロースとしては、今のクウェルが生き生きとしているように見えるのだろう。

 さて、同じように多くの冒険者がこうしてライカに挨拶をしていた。

 月詠葵(ea0020)は挨拶がてらお酒の差し入れを。
「あ、パーティならお酒を呑むと思ってジャパンのお酒の差し入れです。好きに呑んじゃってくださいね♪」
「んー、実にいい子ね」
 ライカはお酒を受け取ると、子供を可愛がるように葵の頭を撫でる。
「う、子供扱いですか‥‥でもお姉ちゃんだからいいです♪」
「いいのかよ!?」
 お姉ちゃん大好きっ子としてはこれで満足らしい。

 アトランティスから帰ってきたというシャルグ・ザーン(ea0827)は挨拶した者達の中でも特に丁寧だった。
「お初にお目にかかる。此度はお招きいただき、まことにありがたく存ずる」
「そこまで礼儀正しくしなくてもいいのに」
「いえ、娘と久々に過ごせる貴重な機会を頂けて‥‥感謝の極みである」
 彼はこのパーティーで娘と一緒に過ごすらしい。約3年ぶりに会う事ができたらしいから、積もる思いもあるのだろう。

 閃我絶狼(ea3991)は礼服を身に纏い、肩の上にフェアリーを乗せていた。
「閃華っていうんだけど、この子も参加して大丈夫かな?」
「フェアリーなら、暴れたりという事をしないような子なら大丈夫よ」
 しないしない、と笑う絶狼。と、ふと何か思ったのか笑みをそのまま疑問を言葉に乗せる。
「それにしてもブライトン地方の聖野菜は遅れてやるんだな」
「――『Holy vegetable』? なんだそりゃ」
 彼の間違ったキャメロット知識は正しいものになったのだろうか。

 執務室への来客は中々途絶えないようだった。

●鉄壁
 パーティーに参加するは冒険者達だけではない。
 王宮騎士エクター・ド・マリスのようにライカから招待された者もいる。
 エクターが実は女性というのが世にばれてから、彼女は全身鎧兜という装いを控え、女性としての姿を最近よく見せるようになっていた。
 その姿の時、多くは本名のコレットを名乗っており、この日も彼女はパーティーということで女性用の礼服を身に纏っていたから、今回もコレットと呼ぶのが相応しいだろう。
 そんなコレットであったが、彼女は今とても困っていた。
 冒険者からの要望で招待された彼女の先輩騎士が今、目の前にいる。そして先輩騎士はこう言い放ったのだ。
「この前の罰ゲーム、今日やるかー」
 と。
 この前が何を指しているかはこの際些細な事である。
 今重要なのは、コレットの目の前に何故かメイド服が用意されている事である。
「あぁぁぁ、なんでこんな事に!!」
「負けたお前が悪い」
 つまりはメイドとしてご奉仕してもらおう、と。そういう罰ゲームである。
 コレットが煩悶していると、扉がノックされる。コレットが返事すると2人の人物が入ってきた。
「先輩、こんなのはどうでしょう?」
 2人のうち、1人は巫女服に身を包んだ女性‥‥鷹峰瀞藍(eb5379)。
 本来は男性の瀞藍だが、禁断の指輪というマジックアイテムを使い女性化したのだ。
 同じように禁断の指輪を使って、葵も女性化し、華やかなドレスを身に纏っている―――が。
「‥‥普段と変わってないとか言うなー!?」
 瀞藍の視線に何か気づいたのだろうか。両手を上げて怒る。うん、変わってない。
 さて、話を戻して瀞藍が薦めるブツ。
「こ、これは‥‥!?」
 目の前のものに慄く先輩。

 セクシーメイドドレス
 服飾品
 胸元や背中が大きく開いているメイドドレス。着た者を魅惑的に演出する。

「借りてきたぜ‥‥!」
 何て嬉し――いや恐ろしいものを借りてきたのだ瀞藍。
 そして何てものを持っていたんだレア・クラウス(eb8226)!
「採用」
「えぇぇぇぇ!?」
 コレットの災難度が更にアップした。
 そして、部屋に新たな人物が入ってくる。
 色とりどりの布を使った、丈の長いワンピースのドレスを身に纏ったその人物はフィーナ・ウィンスレット(ea5556)。
 いつもドレスのような格好だが、それより更に気合を入れて、といったところか。
 そんな彼女が部屋をぐるりと見渡すと、状況を把握したのか、『ふむ』と頷く。
「つまりはコレットさんをこのセクシーメイドドレスに着替えさせればよいのですね」
「ぐぅ!?」
 一目で状況理解したフィーナは瀞藍からブツを受け取ると、またもや部屋を見渡してから頷く。
「皆さんが出ていってくれませんと、コレットさんを着替えさせる事ができないのですが‥‥。それとも着替えを見るつもりでしょうか?」
 にっこり。
 ただ笑っただけなのに、何故だろうか。その場に居た男性陣は本能的に危険を察知したようだ。そそくさと部屋を出る。
 彼らが部屋を出ると、そこには3人の女性が扉の前に立っていた。
 そして更に1人の男が廊下を歩いてやってくる。
「さーて、マリちゃんの着替えが覗かれないように見張り見張り‥‥っと」
 男の名はリ・ル(ea3888)。見張りをしようという事で部屋の前までやってきた彼だが、3人の女性にじろりと見られる。

 にこやかな笑顔を浮かべているが、覗きを容赦するつもりは無いメグレズ・ファウンテン(eb5451)。
 達人が使うレベルのホーリーフィールドを展開するつもりのマロース。ところで覗きは敵意に含まれるのだろうか。
 極めつけは覗きの斬首も厭わないリースフィア・エルスリード(eb2745)。彼女自身は剣を持っていないが、その気になればメグレズから剣を借りるだろう。よりによってオールスレイヤーを。

「失礼しやした〜!」
 部屋から出たばかりの男3人と一緒にスタコラッサとその場を退散するリル。
 あの部屋を覗くぐらいだったらデビル軍団につっこんだ方がマシだ、とは誰の言葉か。

 こうしてコレットのメイド服への着替えが始まる。
 コレットのメイドの話を聞きつけたのか、フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)が部屋に入ってくる。
「ふふ、せっかくだから私もメイドになっちゃおうかしら?」
 と、何故か用意されていたシフール用のメイド服に着替えていく。
 着替えつつもその視線は何故かコレットの着替えに注がれている。本人曰く目の保養らしい。思考がおっさんだ。
「わぁお、果物みたいにみずみずしい肌ね。触ってもいい?」
「ふぇ!? だ、駄目に決まってます!」
 きゃあきゃあと外に聞こえるぐらいの声で騒ぐ彼女達。勿論そんな声が聞こえようが、突入する事はまず無理なのだが。

 そして色々とあったがコレットの着替えは終わる。
「う、うぅぅ‥‥」
「うぅん、セクシー」
 どんな格好になったかはフィオナの言葉で分かるだろう。コレットは恥ずかしいのか、胸元を隠すように両手で体を抱いている。
「さて、着替えも済みましたし会場に向かうとしましょうか。一人で恥ずかしくないように、私もちゃんと一緒に行きますよ」
 と、そんなコレットの肩をぽんと叩くフィーナ。
「そんな事言って、フィーナさんはメイド服でも何でもない普通のドレスじゃないですか‥‥!」
「私がメイド服をきたって需要があると思えないじゃないですか」
 きっぱりと返すフィーナ。無くは無いと思うのだがどうだろう。男性諸君の意見を伺いたいところである。

「さぁ、それではメイドとして頑張って従事してくださいまし」

●騒げればそれでよし
 場所はパーティー会場となる領主館の大広間へと移る。
 事前にメグレズが手伝った飾りつけなどもあり、パーティーに相応しい会場だろう。
 会場には今回参加する冒険者達が既に集まっていた。
 そこに着替えを終えたコレットが姿を見せた時の反応というと‥‥想像に難くないだろう。特に男性陣。
 ライカは招待客や冒険者達が全員集まっていることを確認すると、主賓として挨拶を始める。
「挨拶といっても、手短に―――楽しんでいきましょう。聖夜祭の後夜祭、はじめるわよー!」
 本当に手短だった。

「さーて、それじゃまずは盛り上げるとしますか」
 始めは盛り上げが肝心と、マナウス・ドラッケン(ea0021)は手品を披露していく。アシスタントはレアだ。
 簡易的なものではあるが、こういう場ではとにかくノリが大事だ。そのノリに任せて次々と持ちネタを披露していく。
 最後はちょっと派手な手品で締め、だ。
「んじゃ、楽しんでいこうぜ? こういうのは楽しんだもの勝ちさ」
 ということで、彼は楽しむ為に暇そうな女性に片っ端から声をかけてダンスに誘おうか‥‥と思ったのだが。
 ぐい。
「ん?」
 彼の腕が何者かに掴まれていた。なんだと思って見てみれば、掴んでいたのはレアだ。
「えっと、ほら。罰ゲームがどうとか言ってたからなんか変な事しないか見張らないといけないでしょ? 目を離すと何してるかわかんないし‥‥」
 つまりはマナウスのお目付けの為に、という事らしい。
 そんなレアの様子を見て、マナウスはやれやれ‥‥と、しかし決して嫌そうではなくもう片方の手をレアに差し出す。
「それじゃ、お目付け役のエスコートといきますか」
「ふふ、よろしくね?」

 さて、こちらはメイドとして奮闘しているコレット。
 勿論顔は真っ赤だが、それでも罰ゲームは自分のせいだから‥‥とちゃんと給仕をしている。頑張っています。
「あぅ、マリちゃん可愛いですぅ」
 エリンティアのそんな彼女を見つけての第一声はこれであった。
「う、可愛いだなんてそんな‥‥」
「何時もごつい鎧ですからそう言う姿を見ると新鮮ですぅ、その服が似合う所はやっぱり女の子ですねぇ」
 しみじみと笑顔で言うエリンティア。コレットの顔がこれ以上赤くなるのなら、赤くなっていただろう。既に限界に達しているのだが。
 そんな感じで給仕を続けるコレットをリルもウェイターの姿で手伝っていた。彼なりの模擬戦敗北の連帯責任とのことだ。
「おー、マナウスのやつやるなー。んじゃ、こっちも負けてられないか」
 先程手品をしていたマナウスに負けじと、彼は目の前のフォークや食器などでジャグリングをしていく。更に剣舞も披露だ。
 ダンスは苦手な彼なりのパーティーの楽しみ方、盛り上げ方だろう。

 そしてコレットをあんな姿にした張本人。先輩騎士と、彼と一緒に招待された妻。
 それに話しかける絶狼。
「いや妻帯者だったんですね――――え、妻?」
 妻と一緒にいるという話から先輩騎士の隣にいる女性は妻の筈‥‥そう思い話しかけたのだが、絶狼は目を疑った。
 先輩騎士の隣にいるのは女性ではなく少女だった。大体12歳ぐらいだろうか。
「‥‥そういう趣味だったんですか」
 様々な事情から若い年齢で嫁ぐ事はある。だが、それにしてもそこにいる少女は若すぎるように見えた。
 会場の至るところから先輩騎士に対して色んな意味が込められた視線が突き刺さる。
 すると、一瞬冷えた空気を察したのか、コレットがその場にやってきて、一言。
「奥方、先輩より年上ですよ。できた人間性をお持ちですし」
「えぇぇぇ!?」
「大丈夫です、その反応には慣れてますから」
 周囲の者の驚きを笑顔で受け流す先輩の妻。
「あ、俺別にそっち系の趣味を持ってるとかじゃないからな。いや、こいつは可愛くて大好きだが」
 と、そんな妻をぎゅーっと抱き寄せる先輩。
「馴れ初めはまぁ、なんつうか所謂政略結婚っつーの? 俺のとこそんなに大きい家じゃなかったし、こいつの家もそうでさ。初めは『こんなのと結婚できるか』みたいな感じだったんだけど、話をしていくうちにどんどん惹かれちゃって‥‥」
「もう、あなたったら‥‥」
 聞いてもない馴れ初めをいきなり語り始める先輩騎士。妻はその話に照れながら、しかし止めようとせず先輩の胸に指でのの字を書く。
「だ、誰かー! お客様の中にバカップルを何とかできる人はいませんかー!?」
 叫びは虚しく響くだけであった。
 それにしても話を注意深く聞いても、先輩騎士とその妻の名が一度も出てこないのは不思議だと思った絶狼であった。

「バカップル‥‥ねぇ。バカップルといえば」
 先輩騎士のラブトークを聞かされてる絶狼を尻目にフィオナはクウェルへと話しかける。
「クーちゃん、久しぶり〜。元気にライカちゃんとイチャイチャやってる?」
「ぶふぅー!?」
 盛大に噴き出すクウェル。
「な、なななな、なんでそうなる!?」
「え〜、毎日あんな事やこんな事してるんじゃないの〜?」
「してるわけねぇだろ!!」
「ふぅん。それじゃライカちゃんに聞いてみよっと」
「な―――!?」
 クウェルが止める間もなく、フィオナはライカの元へとふよふよと飛んでいき、一言。
「ライカちゃん、クーちゃんとの子供はいつ生まれるの〜?」
 ――――――沈黙。
「あんたは何を吹き込んだぁ!?」
「俺は何も言って―――げぶろばぁ!?」
 ライカの華麗な飛び蹴りがクウェルの首筋に見事に決まった。多分重傷ダメージ。
 フィオナとしてはからかうつもりの発言だったのだが。
「あの反応は本気で怒ってるのかしら? それとも照れ隠しかしら?」
 今のところは鷹目でも分からない。

 そして綺麗に吹き飛んだクウェルをとりあえず治癒するのは空木怜(ec1783)だ。
「よ、クウェル。元気‥‥とは言い難いな。こんなとこでテスラの宝玉使うとは思ってなかったぞ」
 治癒が効いたのだろうか。クウェルは起き上がると、首を左右に曲げてボキボキと鳴らす。
「あー、ありがと。まぁ、慣れてるから大丈夫だ」
「慣れてるって‥‥普段から相当苦労してるんだな、お前」
 思わず同情してしまう怜。
「そういえば今回のこれ、発案は領主さんでも企画はお前だったりするのか?」
「んにゃ、ライカ主導だ。俺にできるのはせいぜい雑用手伝い。俺はこういうのあんまり得意じゃないしな」
 とはいえ、その雑用が大変なんだけどなーと溜め息を吐くクウェル。
「あー‥‥。お前みたいな苦労人タイプは心的不安を溜め込みやすそうだしなぁ。最近はデビル絡み多いし。心が病んでると魂抜かれるぞ」
「そいつは勘弁だな」
「俺は心療もやってるから何か言いたい事があったら聞くよ。愚痴レベルでOK」
 その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、クウェルががしりと怜の両肩を掴む。
「是非聞いてくれ!」
 スーパー愚痴タイム入りました。
 ‥。
 ‥‥。
 ‥‥‥長い
 華やかなパーティー会場で何故長々と愚痴をこぼしているのか、疑問に思わざるを得ない。
 ‥‥と、ようやくクウェルの愚痴が終わったようだ。
「あー、すっきりした。‥‥‥ま、あいつも頼れるやつ少ないっぽいから支えになりたいとは思うんだが」
「ん?」
「何でもない」
 さて、怜が周囲を見渡すと、多くの者がパーティーを楽しんでいる姿が見える。
「こういうパーティも心的な疲れを発散させる手の一つ。クウェルもやれる時にはっちゃけとけ」
 言いながら、クウェルの背を押して騒ぎの中心へと進んでいく。
「たまにバカやるのもいいものだ!」

●優雅に
 パーティーといえば、やはりダンスだろうか。
 ベアータが奏でる音楽に合わせて、ダンスを踊っていく。男の見せ所、といったところか。
 そして主賓のライカに一番にダンスの申し込みをするはヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)だ。
「いや〜、相変わらずお美しいのだ。前回までは仕事だけであったゆえ、ゆっくりと楽しむのだ。余とダンスにお付き合いいただけるであるか?」
「ふふ、喜んで」
 さすがはお互い貴族といったところか。そのダンスは見事なまでであった。
 一通り踊ると、お互いに礼をする。
「やはり美しい人は踊りも優雅なのであるな〜」
「ありがとうね。あなたも上手だったわよ。さすがはテンプルナイト‥‥は関係ないかしら?」
 何だこの上品(に見える)空間。
 ヤングヴラドの次なるダンスの相手はコレットだ。
「ふははは! あの重装備の中が女性とは面白いのだ! ギャップがまたよいのだな。ではでは、余とダンスでもお付き合いいただけるであろうか?」
「え、あ、しかし今日の私は給仕を‥‥」
 困ったように周囲を見るコレット。すると先輩騎士がゴーサインを出していた。曰く、来る者拒まずでいけとの事だ。
「う‥‥。分かりました、私でよろしければ」
「ふはははは! せっかくなのだから笑顔で楽しむのだ!」
 と、何だかんだでコレットはしっかりエスコートされている。幼い頃に貴族の娘として教育を受けた成果だろう。
 ライカほどではないが、そのダンスも優雅なものであった。

 ダンスを踊るペアといえば、瀞藍と蔵馬沙紀(eb3747)の姿もあった。
 ただ、特異な点があり、それは瀞藍の女性化と沙紀の男装という点だろう。
 しかし、特異ではあるがおかしくはない。瀞藍の女性化はマジックアイテムによるものなので完璧なものであるし、沙紀は身長が高いのも相まって男装が非常によく似合っているのだ。
「ん‥‥?」
 ふと、沙紀がダンスのステップを止める。
 瀞藍の禁断の指輪の効果が切れ、男性の姿に戻ったのだ。
「んじゃ、せっかくだからそれぞれの性別の姿に戻って踊りなおすとしますか」
「あぁ、そうだな」
 2人は一旦会場から出ると、着替えをしてからまた会場へと戻る。
 瀞藍は踊りやすく加工されたおしゃれな服を着、沙紀は深い赤色の露出の多いドレスを着てリボンで長い髪を結わえている。
「それじゃあ‥‥よろしくね?」
 女性の姿に戻った、沙紀のその笑みは真に女性のものであり‥‥笑顔に込められた意味はやはり女性らしいもので。
 2人だけの空間がそこにできていた。

「女性方は華やかで素敵ですね。私も似合えばよかったのですが‥‥ないものねだりですね」
 実に楽しそうに踊っている沙紀の姿を見て、羨ましそうな視線を送るシルヴィア。
 ないものねだりでは無いと思うのだが‥‥それに気づかせてくれるだろう騎士は放浪が多く、一緒に踊る機会が得難いものになっているのも一因か。
 その騎士の事を思ってか、彼女は恋のお守りとなるヤドリギの葉を1枚懐に入れると、ふと1人になっている人に声をかけにいく。
「貴方の素敵な方には及びませんが、一曲踊って頂けませんか?」

 シルヴィアと同じくリースフィアも、1人になっていた者を中心にダンスの誘いをしていた。
 積極的にダンスを申し込んでいるのは女性のような気がするが、どうなんだ男性陣。
「では、コレットさん。よろしくお願いします」
「あぅ、はい‥‥」
 女性同士のダンスの場合、どちらかがエスコートするのだが‥‥今回はリースフィアのようだ。
 さて、相手を変え、曲を変え、ダンスは続いていく―――。

●親子の絆
 喧騒の中心から少し離れたところ。
 そこには3年ぶりに会う事ができたシャルグとセレナ・ザーン(ea9951)がいた。
「お父様、アヴァロンはどんな場所でしたの? どんな事がありましたの? どんな人がいましたの?」
「落ち着くのである。そんなに一気に聞かれても答えられないである」
 父を質問攻めにするセレナの頭を髪を梳くように撫でてやるシャルグ。
 頭を撫でられ、恥ずかしそうに、しかしとても嬉しそうに、赤くなった顔を隠すように俯くセレナ。ちなみに彼女の言うアヴァロンとはアトランティスの事だ。
「3年の間にずいぶんと大人になったものであるな」
 シャルグは頭を撫で続けながら、セレナの3年前の姿と今の姿を頭の中で比べ、娘の成長を嬉しく思いつつも‥‥そう遠くないだろう未来、彼女の縁談に思いを馳せると、つい寂しさがこみ上げてしまう。
 そんな父の気持ちを知ってか知らずか。セレナはせっかくの機会という事で、父に甘えるつもりのようだ。
「そうだ、お父様、一曲踊っていただけませんか?」
 会場のあちこちで踊っている者達を見て、セレナはそう提案する。小さい頃は踊ってもらう機会のなかった社交ダンス‥‥それを通じて甘えようということだ。
「あぁ」
 娘の手を引き、父はエスコートを始める。
 親子のダンスは、その場にいたどの組よりも暖かみに溢れていた。

●デビル
 パーティーが始まって大分経った頃だろうか。
 散々騒いでいた者達の多くも今は少し休む‥‥そんな感じで、少々静かになった会場。
 そして1つのテーブルに多くの冒険者が集まっていた。
 そこに座っていたのはワリアンだ。彼の天使が求めたデビルの情報を話す為に集まっているのだ。
 まず口を開くは絶狼だ。
「デビルは自ら動かず人の欲や憎しみを陰から操り絶望に沈んだ魂を刈り取る、心を強く持つ事が肝要かと」
 これは彼の体験談らしい。
 次はリースフィアだ。
「とはいっても大したものではありませんが。デビルが黒い霧をまとうと強化されること、霧をまとってから強化されるまで若干間があること、強化はずっとつづくわけではないこと、くらいでしょうか」
 これに悩まされた冒険者は多いのだろう。その場にいた者の多くが表情を厳しくする。
「魔法の武器をある程度配備するかオーラの使い手を増やすかしないと下級にも蹂躙されてしまうかもしれませんね」
 とリースフィアは言うが、どちらも一朝一夕でなるものではない。特に魔法の武器は本来とても貴重なものなのだ。
 対処方法としては後者が主になるだろう。
「後、余談としては‥‥北海の黒幕はリヴァイアサンであるとか、私がアリオーシュに狙われているだとか、ですかね」
「リヴァイアサン‥‥‥」
 海の悪魔として有名な彼のデビルの名を聞き、表情を曇らせるワリアン。
「先ほど、黒い靄について話が出ましたが‥‥」
 と言うはセレナだ。
「あの黒い靄について心当たりがあるならばお教え願いたいのですが‥‥」
「黒い靄‥‥‥もしや‥‥」
 ワリアンは深い思考を巡らせ、ぽつりと呟く。
 ――――本体の力、と。
「‥‥本体の力?」
「えぇ。まず‥‥皆さんはご存知でしょうか? デビルの本体は地獄に存在しており、この世界に現れるデビルはその本体からエネルギーの一部を取り出して作り上げた、仮初の肉体だという事を」
「なっ――」
「察しのいい方は気づかれたでしょう。仮初の肉体だという事は、それを滅ぼされても地獄の本体が無事ならば‥‥力を蓄えさえすればまたこの世に現れる事ができるという事に」
 その場にいた冒険者達全員の顔が曇る。今まで散々手こずったデビルが復活するかもしれない‥‥と。
「昔の人がデビルを退治じゃなくて封印した理由が分かる気がするぜ。また復活するんじゃ、退治する意味は薄い」
「封印の場合どうなるかは私には分かりませんけどね。さて、今まで話した通り、これは仮初の肉体の話です。そして仮初の肉体という事は‥‥当然、地獄にいる本来の力よりは衰えています」
「あれで、なぁ‥‥」
「ですが、デビルは本体からの力を密接に受けられる状態であれば、二度と復活できなくなる存在の消滅という不利に変わって、現世の移し身ではありえない強力な力を誇ることができます」
 今のワリアンの言葉で、冒険者達は2つの事に気づく。
「本体からの力を密接に受けられる状態‥‥今の地獄と繋がる月道の事ですね」
「それより重要な事、今言わなかったかしら?」
「えぇ、その状態のデビルを倒せば‥‥デビルは二度と復活できない、と」
 ワリアンはこくりと頷く。
「そうです。本体の力を引き出したデビルを倒すのは大変ですが‥‥これはチャンスでもあるのです」
 ワリアンは言葉を続ける。
「本体の力を引き出したデビルがどのようなものかは皆さんもご存知の通り。並の武具では傷一つつける事できず、強力なデビル程強力な魔法の武具でないと通用しない」
「だが強力な魔法武器なんてそう簡単に手に入るものじゃないしなぁ」
「確かにそうです。しかしあまり強くない魔法武器でも例えばオーラパワー、例えばバーニングソード‥‥。魔法を学んだばかりの人のではあまり意味を為しませんが、ある程度熟練の腕を持つ人が唱えたこれらを付与すれば、傷をつける事ができます」
「ふむ‥‥強力な魔法剣に程々の付与魔法、もしくは程々の魔法剣に強力な付与魔法‥‥といったところですか?」
「えぇ、それでよっぽど高位のデビルにも傷を負わせる事ができる筈です。またデビルスレイヤーの方がやはり傷は負わせやすいようですね」
 つまり、今まで以上に仲間達との連携が重要になる、という事だろう。
「ただ、どのデビルにしろ魔法耐性は強力なので‥‥魔法使いの皆さんは少々大変かもしれません」
 ワリアンのその言葉に『あー』と溜め息のような言葉を漏らしたのは何人か。
「私が知っている本体の力についてはこれぐらいですかね」
「いや、十分すぎる。ありがとう」
 乾いた喉を潤す為だろうか。ワリアンが紅茶に口をつける。
 ワリアンがカップから口を離したのを見ると、次にエリンティアが口を開く。
「それでは大分話を戻しますけどぉ、先ほどリースフィアさんがおっしゃってたアリオーシュについてお話しますねぇ」
 彼が話すは高位のデビル、アリオーシュについて。今まで依頼であった事実のみを簡潔に話す。
 対策は何か無いかと問うてみるが、ワリアンは首を横に振る。ロー・エンジェルではさすがに高位デビルへの対抗手段は持ち得ないのだろう。
「それでは私はジャパンのデビルについて」
 次に口を開くはメグレズだ。
「ジャパンでは七大魔王の一人マモンがある勢力の背後で暗躍していたそうです」
「ジャパンでしたら私も」
 ジャパンに関して知っている事があるのはベアータもだ。
 それはジャパンの西方で力をふるっているイザナミと大国主神についての情報やイザナミを復活させるため暗躍したガミュギンというデビルの情報であった。
「ジャパンの住民のすごいところは相手が精霊であれデビルであれ神であれオーガの王であっても仲良くできると思ってる方々がいることで、実際その通りになってます」
 その次はヤングヴラドだ。
「余が持つ情報は魔王級の大物を封じるには相手に合わせた独特の対処法が必要、くらいであろうか」
 最後にマナウス。
「じゃ最後に地獄の状況ってやつを。情報伝達が専門の部隊を率いてるんでな」
 マナウスの口から伝えられる地獄の情報。
「で、奴らどうやら『冠』を探してるそうなんだが‥‥何か知らないか?」
「申し訳ありません‥‥」
 首を横に振るワリアン。彼の天使も知らないのだろう。

 こうしてデビルに関する情報交換は終わる。

●熱い夜
 いつの間にか会場を抜け出していた2人の男女がいた。瀞藍と沙紀だ。
 最初に口を開くは、沙紀だ。
「ねぇ、瀞藍って呼んでいいかな‥‥?」
「あぁ」
 沙紀は瀞藍へと向き直り、告げる。
「あたしみたいなデカ女を美人って言ってくれてありがとね‥‥たとえお世辞でも嬉しかったよ。その、後でもう少しゆっくり話さないかい?」
 それは沙紀の、自分なりの精一杯の思いの丈。
 ――言葉を待っていた沙紀の頭にふわりと何かが乗せられる。聖なるウィンブルだ。
「ヴェール代わりに如何だ? ‥‥さて答えになってるか?」
「瀞藍‥‥!」
 彼らがこの後どうなったかを書くのは‥‥野暮というものだろう。

●終宴
 パーティーも終わり、葵、メグレズ、マロースらは事前に用意したプレゼントをライカ達に渡す。
 いずれも受け取った当人達には好評だったようだ。

「ふぅ‥‥」
 パーティーが終わったことで元の服に着替えたコレットの所にシルヴィアがやってくる。
「コレットさん」
「あ、シルヴィアさん」
 コレットがこちらに向き直ったのを見て、シルヴィアは微笑んで告げる。
「私は‥‥エクター卿が女性で良かったと思います。同じように頑張っている方がいると思うと励まされます困難もありますが、負けずに進みましょうね」
「シルヴィアさん‥‥」
 これは『エクター』への言葉、そして――。
 今までの格好とは打って変わって真面目な格好をしたリルがコレットへと話しかける。
「王国が大変なのはこれからだ、いつでも遠慮なく呼んでくれコレット卿」
 『コレット』への言葉―――。

「はい!」