【黙示録】北海の決戦〜闇へ潜り闇から救う

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月02日〜03月12日

リプレイ公開日:2009年03月10日

●オープニング

●悪魔の招待
『そろそろ潮時か‥‥』
 かつて『船長』と呼ばれた人物はそう言って楽しげに笑った。
『本来なら、もう少し奴らを苦しめ、悩ませたかったのだが‥‥あやつのせいで‥‥』
 愚かな部下の失態に小さく苦笑し、だがまあいい、と余裕の笑みを浮かべると彼は振り返った。
 足元に跪くデビル達は並ではない力をその身から漂わせている。
 さらにその後方には、無数のインプやグレムリンなど下級のデビル達も集う。
『こちらの用意は整った。招待客を招くとしよう。いよいよだ‥‥。楽しみだ。なあ? 『船長』よ』
『彼』は氷柱とその中の人物に笑いかけると振り返り、デビル達に告げた。
『いよいよ、時が来た! 目的のものを我らの元へ!』
 地響きのような唸りは空間を支配し‥‥海を、時をうねらせる。
 それは‥‥メルドンを超え‥‥やがてキャメロットへと‥‥。

 王城に集った円卓の騎士達は差し出された一枚の羊皮紙に息を呑んだ。
「これは‥‥まさか‥‥パーシ殿」
 トリスタンの言葉の続きを理解し、パーシは頷く。
『円卓の騎士 パーシ・ヴァル
 汝が家族、オレルドを返して欲しくば、指定の時、指定の場所に来るべし。
 さもなくばオレルドの命は無い‥‥。海の王』
 それは、血で書かれた招待状。いや‥‥挑戦状であった。 
「昨夜王城に接近したデビルを倒した。そいつが持っていたものだ。差出人はおそらく‥‥」
「海の王‥‥リヴァイアサン‥‥」
 静かに告げたライオネルの言葉にパーシは無言で頷く。
 指定の場所はメルドンの先、数十kmの海のど真ん中である。
 そして海の調査を続けていたライオネルの元にはその場所を目指すかのようにデビルが集まっている、との報告も寄せられていた。
「間違いなく、これは罠だ。パーシ卿をおびき寄せる為の」
「おそらく」
 頷いたパーシは思い返すように目を閉じる。
 北海で起きた数々の事件。その結果を‥‥
「冒険者の調査と証言により、オレルド船長がデビルである、という疑義は消えた。貴公への追求もじき止むと思うが‥‥危険だな」
 トリスタンの言葉にああ、とパーシは頷き腕を組む。
「船長がデビルに捕らえられ利用されているという事実に変わりはない。彼の命と多くの人々の命。秤にかけるまでも無いと思っていたのだが」
「パーシ卿!」
 ライオネルの責めにも似た呼びかけをスッと、ボールスは手で遮る。
「思っていた。それは過去形です。‥‥そうですね」
 そして、小さな微笑を浮かべ、真っ直ぐに彼はパーシを見た。
 その目にパーシもまた真っ直ぐな思いと眼差しで答える。決意の込められた微笑と共に‥‥。
「ああ。ある意味、これはチャンスといえる。俺に来いと言うのであればその場に必ず『奴』が現れる筈だ。その時を見逃さずリヴァイアサンを討つ!」
 おお! 手を握り締め意気上がるライオネル。
 トリスタン、ボールスの口元も綻んでいる。
「この国から海の脅威を取り除くチャンスだな」
 騎士としてこの国に剣を捧げた騎士に怯え惑いがあろう筈もないのだから。
「元より、一人で来いとは書いていないし指定の場所に辿り着く為には船が必要だ。力を貸してはもらえないだろうか?」
 円卓の騎士達の返事は一つであった。
 
 そうして冒険者ギルドに依頼が出される。
 先の幽霊船団との戦いとは比較にならない、イギリス王国とデビルとの大海戦が今、始まろうとしていた‥‥。

●与えられた使命
 こうして円卓の騎士、そして多くの騎士たちが打倒リヴァイアサンに向けて動き出している時。
 王宮騎士の1人であるエクター・ド・マリスにも出動命令が下る。
「おーい、エクター。お前さんへの指令だ」
「はい、何でしょうか?」
 エクターへの指令が書かれた羊皮紙を持つ先輩騎士が、滅多に見せない神妙な面持ちで書かれている事を読み上げ始める。
「トリスタン卿らが指示する部隊がデビルを叩いてる間に、最奥に潜むゴーストシップに接近。可能ならオレルド船長を救出‥‥とのことだ」
「船長の救出‥‥!」
 それを聞いたエクターの表情が更に引き締まる。
 敵の本丸ともいえるゴーストシップに乗り込み、オレルド船長を無事助ける‥‥はっきり言って普通に戦うより遥かに難しい任務である。それを任されたのである。
 しかし、エクターは少し不謹慎だとは思いながらもこれを光栄に感じていた。
 このような大局で自分に重大な任務が与えられる‥‥。それもあの円卓の騎士パーシ・ヴァルからだ。
 自分が認められている。その事に喜ぶ彼女を誰が責められようか。
「オレルド船長救出の任、確かに承りました!」
「ん、頑張れよ。俺も後方から応援するからな」
「後方‥‥ですか?」
 てっきり先輩騎士も船に同乗すると思っていたエクターは、その言葉を聞き、首を傾げる。
「まーな。俺は荒事向きってわけじゃないし、後方から色々と援護するわけだ。っつーことで、指揮頑張れよ」
「私が‥‥指揮‥‥」
 エクターは、自分の指揮能力がそれ程優れているわけではない事を自覚している。
 しかし、それでも‥‥やらなくては、乗り越えなくてはいけないのだ。
「やります‥‥やってみせます‥‥!」
「その意気だ」
 そして先輩騎士が別の羊皮紙を広げ、エクターに見えるようにする。
「んじゃ、大雑把な説明だ。まず宛がわれた船は大型船が1隻。そして船員とは別に騎士を8人同行させる‥‥が、これは絶対ではない」
「と、言いますと?」
「このような状況だ。勿論ギルドを通して冒険者達の手を借りる事になるだろう。しかし、冒険者達の意見が中型船で少人数で忍んだ方がいい‥‥となったら、中型船を用意する事もできるし、騎士を同行させない事もできる」
「成る程‥‥」
 エクターも数々の戦いを繰り抜けてはいるが、重要人物の救出となると、冒険者達の方が1枚上手の場合もあるだろう。
 そうなると、彼らの意見を重視する必要もあるという事だ。
「敵さんの情報はまた後で纏めてそっちに渡す。まぁ、それまでの間にお前はギルドに依頼しといてくれ」
「はい、分かりました!」
 意気揚々と部屋を出るエクターを見送った先輩は、自分の手元にある羊皮紙に再び目を落とす。
「‥‥デビルの交渉を利用しての救出、か。‥‥デビルがそんなに素直なもんかね」

 こうして、ギルドに依頼が出される。
 メルドンの海域にて集結するデビルの群れ。
 他の部隊がデビルを相手に戦っている間に、その隙をついて本丸のゴーストシップに近づきオレルド船長を救出する、というもの。
 ゴーストシップは現在確認されているだけでも2隻。
 そして多くの海や空をいくデビルやアンデットが確認されている。種類も数も多く、全てを調べる事は非常に難しいだろう。
 どっちにしろ敵は多い、という事だ。他の部隊が上手く敵を倒してくれなければ近づく事も難しいだろう。
 あまりにも不透明な状況だが‥‥それでもやるしか無いのだ。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0246 トゥルエノ・ラシーロ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

神木 祥風(eb1630)/ ヴェレッタ・レミントン(ec1264)/ リリス・シャイターン(ec3565)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

●決着へ向けて
 北海に集うデビル。そして北海の主、リヴァイアサン。
 それらを倒すために集まるは円卓の騎士4人を始めとするイギリスの船団。
 メルドンに集まった彼らはデビルに立ち向かうための最後の打ち合わせを終え、それぞれの船へと歩を進めていた。
「ふぅ‥‥‥」
 エクター・ド・マリス。その格好はやはり黒をベースとしているが、いつものように重装ではなく最低限の鎧を纏い、剣も扱いやすい大きさのものを装備している。
 エクターは先程までの円卓の騎士達が集まって行った打ち合わせを思い出し‥‥身を震わせる。自分もあのような誉れ高い騎士達と共に戦うのだ、と。
「‥‥ふふ。あの子は少しも気後れをしていませんでしたが。さすが、と言うべきでしょうか」
 あの場に居合わせていた自分以外の王宮騎士‥‥その様子を思い出したのか、くすりと微笑みながら少し緊張の糸を緩ませる。
 あの様子ならば心配していた人付き合いも大丈夫そうだ‥‥と姉のような心境でもうすぐ出航しようかという船を見る。
「戻ってきたか」
 と、そこに後ろから声をかけるはアリオス・エルスリード(ea0439)だ。
 それと同時に、船上で待機していた冒険者達がエクターの元へとやってくる。
 見知った者もいるが、アリオスのように初対面の者もいる。トゥルエノ・ラシーロ(ec0246)もその1人だ。
「はじめまして。レイアの同郷、トゥルエノ。よろしくね」
「あぁ、あの方と‥‥。こちらこそよろしくお願いします」
 共通の知人がいる、という事で少しは馴染めただろうか。
 また、サクラ・フリューゲル(eb8317)も同じく初対面であるためか、丁寧に挨拶をする。
「白の神聖騎士、サクラ・フリューゲルですわ。どうぞよしなに‥‥」
 そして彼女は海に――デビルが集う方向に視線を向ける。
「決戦、ですわね。必ずお救いいたしましょう」
 救出‥‥そう、エクター達に与えられた任務はデビルに捕らわれたオレルド船長の救出、というものだ。
「北海に潜むデビルどもと決戦か。これまでどれだけの罪無き者達が奴らの手で失われた事か。ここで全て終わらせる!」
 パラディンとして、そしてこの世界に住む者として、戦いを終わらせる事を意気込むヒースクリフ・ムーア(ea0286)。
「今回で北海に蹴りを付けたいとこだな。よろしく頼むぜ、指揮官」
 同じく意気込む空木怜(ec1783)は、信頼の意を表すかのように指揮官――エクターの肩をぽんと叩く。
「―――はい!」
 力強く頷くエクターを見て、ほぅと感嘆の息を漏らすは尾上彬(eb8664)。
「守りたい奴がいるから戦いに参加したが‥‥背中を預けられる女ってのも悪かないか」
 その言葉を聞き、エクターは少しきょとんとしてから、くすりと微笑む。
「ふふ‥‥そのような女性は、冒険者にとってはそう珍しくはないでしょう?」
「む?」
 エクターが視線を船の甲板の方に向け、それにつられてそちらを見る彬。
 視線の先にいたのは海の方を見るようにして立っていた1人の女性騎士。シルヴィア・クロスロード(eb3671)。
 彼女が見るは同じく北海の決戦に参加するパーシ・ヴァルが搭乗する船だ。
(「‥‥デビルの狙いは貴方です。どうかお気をつけて。私はどんな時も貴方を信じます」)
 出来れば直接会って話をしたかった。渡したいものもあった。‥‥それが適わなかったとしても、信じる事はできる。
 円卓の騎士に相応しい騎士になろうとする彼女も、またサクラも、トゥルエノも‥‥この船に乗っていた女性達は皆背中を預けるに相応しい女性といえる。
 彬は得心がいったようにエクターと同じく笑みをこぼす。
「‥‥と、そろそろ動くみてぇだな‥‥」
 黄桜喜八(eb5347)の言葉を聞き、冒険者達が他の船を見ると、出航の合図が送られている。当然こちらも準備は万全だ。
 また、彼がボールス・ド・ガニスの担当する船に事前に乗り込み話を聞いたお陰で、船の進行が少しはやりやすくなるだろう。
 聞いた話によると、大火力の魔法を前方に連発するとのことで、あまりに前には出ない方がいいだろう。
 こうして次々と船が出る中、エクター達が乗る船も、デビル達が待つ場所へ向かい船を出す。

「――――ん?」
 船を出す、ということで甲板から所定の場所へ移動しようとしたシルヴィアがふと自分の石の中の蝶に目を落とした。
 デビルの有無はなるべく確認する為にしたさりげない行為なのだが蝶がゆっくりと、少しだけ、羽ばたいていたように見えた。
 もう1度目を凝らして蝶を見るが‥‥動いているようには見えない。
「気のせいでしょうか‥‥」
 石の中の蝶から顔を上げて前を見るシルヴィア。その視線の先には、先に進むパーシの船があった。

●強襲
 船長救出‥‥その為にはまず、船長が捕らわれていると思われるゴーストシップに近づき、乗り込まなくてはならない。
 第一の関門である接近であるが、ボールス、トリスタン、モードレッド達がそれぞれ率いていた冒険者達の活躍により、こちらに向かってくるデビルの対処は容易いものとなっていた。
 冒険者達、船に同行している騎士達――シルヴィアから渡された武具により、相当強力な装備になっている――は難なく向かってくるデビル達を倒す。それも仲間達が頑張って敵を減らしてくれているお陰だろう。
(「‥‥本当にそれだけ‥‥? 大事なものを守っているにしては守りが‥‥?」)
 ふと出発前に先輩騎士が言っていた言葉を思い出し、思考しようとするエクター‥‥だが、彼女の思考は襲い掛かってきたデビルへの対処でかき消される。

 こうして襲い掛かるデビルの攻撃を掻い潜り、船は2隻のゴーストシップのうち後方のゴーストシップに並ぶ。
「怖いぐらいすんなり来ちまったが‥‥な」
 怜はペガサスのブリジットに乗り、また喜八を同乗させてゴーストシップへと降り立つ。
 同じように騎乗と飛行が可能なペットを連れてきてるものはそれに乗り、同乗させてもらったり、自らの魔法を使ったりでゴーストシップへと移っていた。
 ちなみに空飛ぶ絨毯が船上で使えるかどうか試してみたが、結果はノーだ。
 船には同行していた騎士達が残り、また乗り移るのに使ったペットも船に戻っていた。
 しかし‥‥敵の本丸だというのに、ぱっと見る限りこちらに向かってくる敵の数は少ない。
「数がどうであれ‥‥敵は斬り払う」
 冒険者達は戦闘態勢を取り、ヒースクリフを先頭として進んでいく。

「‥‥この反応、恐らく当たりです」
 そう仲間達に告げるはシルヴィア。彼女が発動したオーラセンサーにて反応があったのだ。恐らくはこの船の中心付近。
 冒険者達はその反応があった場所へ向かい歩を進める。
「だが‥‥やはり気になる、な」
 通路の壁などを調べていた彬がぽつりと呟く。仲間達もそれに疑問の声を挟んだりしない、同じ思いだからだ。
「‥‥本丸を攻めてるにしては‥‥敵の攻撃が少ねぇな‥‥」
 喜八の言う通りであった。せいぜい時々下級デビルが数体襲ってくる程度。船が大きく揺れる程度。船の備品のようなものが勢いよく飛んでくる程度。壁をすり抜けた霊体のアンデットが不意打ちをする程度。
 どれも少しは手こずったとしても冒険者達なら難なく対処できるもの。
「石の中の蝶もデティクトアンデットも役に立たないのが厳しいですね‥‥」
 自分の指に嵌ってる石の中の蝶に目を落とすサクラ。蝶はずっと反応しっぱなしだが、当然の事である。またデティクトアンデットだが、ゴーストシップ自体がアンデットのせいでまともに反応してるとは言えない。
「‥‥しかし、ここは」
 確かに襲撃は大したことが無かった。しかし、と―――冒険者達が見るは1つの扉。
 オーラセンサーが正しいならばこの扉を開けた所にオレルド船長は、いる。
 普通の船であるならば、船員達が大勢で食事を取るための部屋‥‥相当な広さを誇る筈だ。
 何が待ち受けているか‥‥冒険者達は覚悟を決め、扉を一気にこじ開ける!

●迎えうけたもの
「やあ、いらっしゃいだねぇ―――?」
「――――!?」
 冒険者達が扉を開け、見たもの。
 それを部屋を埋め尽くす、圧倒的な数の、醜悪な、デビル、アンデット、デビル、アンデット、デビル、アンデット、デビル、デビルデビル‥‥!!
 そんなデビルの中心には2人の人と思われる存在がいた。
 1人は数あるテーブルの1つの上に横たわらせられている、男性。
 1人はそのテーブルの横に椅子を置いて余裕たっぷりに座っている、騎士‥‥神聖騎士のような格好をした男性――先程冒険者達に歓迎の言葉を投げかけた男だ。
「まさか本当にこんな所にのこのこ来るとは思ってなかったねぇ?」
「お前は‥‥!!」
 何か魔法を使ったりしなくても冒険者達には分かった。目の前にいる神聖騎士は間違いなくデビルだ、と。
 そしてその横にいる男性が―――。
「オレルド船長!」
 シルヴィアが叫ぶ。何としても助けるべき人が目の前にいる、と。
「そう、オレルド船長だねぇ。まぁ、君達がこうして助けに来る事が分かってたから、事前にこうやって待機していたんだけどねぇ」
「ちっ‥‥道理で大した攻撃をされないわけだ」
 現状を把握した怜が舌打ちをする。冒険者達がゴーストシップをどのように歩いているかなんてのを把握するのは容易い事の筈だ。ならば、冒険者達の目的の場所で準備をして待ち受ければいい、というわけだ。
「さぁて、こちらにはこうして人質がいるわけだが‥‥どうしようかねぇ?」
 神聖騎士は‥‥右手に持っていた剣の先端を寝かされているオレルド船長へと向ける。
 圧倒的優位に立つものの余裕を見せ付けながら、オーバーアクションで剣を向けながらオレルド船長により近づく神聖騎士。
「どうも―――させるか!」
 神聖騎士が何かをオレルド船長にする‥‥させるわけにはいかない、とアリオスは矢を神聖騎士に向かって放つ!
 ―――が。
 パチィン!
「な!?」
 矢が神聖騎士に届く前に弾かれる。周りを囲むデビルが張ったと思われる結界に、だ。
「いやぁ、やっぱり準備は大事だねぇ?」
 神聖騎士は少しも驚いた様子を見せない。これも予想の範疇だ、と。
「でもこうして撃つって事は船長は死んじゃってもいいのかねぇ?」
「!?」
「じゃ、人質の意味が無いから殺しちゃおっかねぇ」
 神聖騎士は剣を上段に構える。そのまま振り下ろしてしまえば船長の首と体は別れる事になるだろう。
 恐らくデビルにとってこの時点で最早船長は用無しだったのだろう。価値があるとしたらせいぜい攻撃を鈍らせる人質としての価値。
 それが適わぬとなったら‥‥結果がこれだ。
「待てっ!!」
 止めるにしてもデビルとアンデットの壁が冒険者達が船長の元へと駆けつけるのを邪魔をする!
「その表情、いいねぇ!」
 剣が‥‥振り下ろされる!!

「させ――るかぁ!」

 ザシュッ!!
 肉を斬った音がした。しかし、船長の首はまだ繋がったままだ。
「ちぃ‥‥お前はねぇ‥‥!」
 神聖騎士が斬ったものは、ヒースクリフだ。
 彼が高速詠唱で完成させたパラスプリントにより、剣と船長の間に体を割り込んだのだ。勿論受ける事も避ける事もできずその身で受け止める事になる。傷は浅くはない。
 しかし‥‥それでも彼は船長を守ったのだ。
「――今しかありません! 皆さん、船長を!」
 言いながらデビルの群れに突撃するエクター。それを聞くか聞かずかの同時のタイミングで他の冒険者達も突撃する!
 船長と、船長を守ったヒースクリフを救う為に!!

 戦いは激戦を極める。
 部屋に入る前にサクラがレジストデビルを付与したお陰である程度の脅威は減っている。
 しかし、それでも何分数が多すぎるのだ。
 また、神聖魔法を覚えている者の攻撃が非常に通じにくいのもあった。何らかの魔法を事前発動していたのだろう。
「こいつらを全て倒すのは‥‥無理ね!」
 剣を振るい、何とかデビルと戦うトゥルエノ。しかし、今日の彼女が動きが悪い。
「まさかここまでの混戦になるとはな‥‥!」
 同じくデビルスレイヤーの剣を振るい戦う彬。このような室内での乱戦の場合、彼が想定していた戦術を使うのは難しい。
 今のところ致命傷を負った者はいない。しかし、これからも負わないとは限らない。
 それに彼らが一番重要視していた任務は船長の救出なのだ。
「‥‥仕方ない‥‥! ここは、退くしか‥‥!」
 何とか血路を開き、ヒースクリフに肩を貸す喜八。ヒースクリフは乱戦のうちに神聖騎士に更に斬られたのか、傷が増えていた。
「くっ、間に合いません‥‥!」
 レミエラの力を使って、少し離れた場所からの治療をするサクラだが、きりがない。
「船長は任せろ! 退くぞ!」
 怜が寝かされていた船長を背負う。氷付けが解除されているのは幸か、不幸か。
 そして船長を救出したのを確認したのを見た全員は退く事を選択する。
 全員全てのデビルの討伐など念頭に置いてないからだ。
 扉を‥‥壁を破壊してでも強引に部屋から脱出する冒険者達。
 デビルやアンデット達はそれを追撃するが、唯一神聖騎士は部屋から動かなかった。
「‥‥この体は結構お気に入りだったんだけどねぇ‥‥」
 神聖騎士がその場に倒れたかと思うと、その場から巨大な、歪な人間の顔のようなものが出てくる。
 しかし、冒険者達がそれに構う余裕はありはしなかった。

●脱出、そして
 冒険者達がデビル達の追撃を何とか振り切り、ゴーストシップを脱出した直後‥‥船が崩れ沈んでいった。
 もしかしたら船ごと冒険者を沈めるつもりだったのかもしれない。
「船が沈んだとはいえ、この場に長居は無用だ」
 アリオスの言葉に同意するように、エクター達の船はその場を離れる。
 事前に打ち合わせていた、船長救出成功時の旗‥‥緑色の旗を掲げて。
 色々とあったが‥‥船長は助け出したのだ。

「‥‥いや、待て。こいつは‥‥!?」
 助け出した、筈なのだ。
 船室のベッドに寝かせたオレルド船長にメンタルリカバーを施す怜。
 サクラもリカバーを施すが‥‥船長の状態が回復する兆しは、見えない。
「これは‥‥魂を抜き取られています!」

 デビルによる魂の抜き出し。
 これは、魔法やポーションでも回復する事は、ない。
 船長は、この瀕死の状態から回復することは無いのだ。魂を取り戻さぬ限り。
「恐らく魂を抜き去ったのは‥‥あの神聖騎士‥‥いえ、リーダーと思われるデビル‥‥」
 エクターはあのデビルを言っていた事を思い返す。準備をした‥‥と。
 ならば、もし船長を取り戻されてもこちらに絶望を与える為に、魂を抜くぐらいの事はやっておくのでは、と。
「‥‥くっ」
 シルヴィアは歯噛みする。彼女は一応魂が抜かれてる可能性も考えはした。
 ‥‥しかし、その場合どうするかを考えていなかった。


 彼らに追い討ちをかけるように、パーシの乗る船が破壊されたのは‥‥その直後であった。