道化の願い

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月03日〜05月08日

リプレイ公開日:2009年05月11日

●オープニング

 彼は道化であった。
 人々を笑わせる為に彼は道化になったのだ。
 道化である彼は、より多くの人々の笑顔を見る為に各地を転々としていた。
 そんな彼が訪れたのはとある村であった。

「なんだこりゃ‥‥」
 それが、村の様子を見た彼の率直な感想であった。
 畑仕事に精を出す人々、楽しそうに走り回る子供たち、家の中から聞こえてくる和気藹々とした話し声―――
 ―――そんなものは無かった。
 とにかく、生気というものが彼には感じられなかったのだ。
「おーいおい、こいつは一体どういう事だ?」
 明らかにおかしいこの様子に疑問を持った道化は、近くにいた男性――仕方なく畑仕事をやっているようにしか見えない――に話しかける。
 何故この村にはここまで生気が無いのか、と。
「は‥‥。精一杯生きたところで‥‥よ‥‥」
 全てを諦めたかのようで声。まともに目も合わせようとしない男性。
 しつこく聞いてみたところで返ってくる言葉は要領を得ない。

 カンカンカンカン‥‥。
 こうやって問答している時に、彼の耳に入ったのは鐘の音だ。
「‥‥あぁ、ちょうどいい。どっか適当なところで隠れてな。そうすれば分かるさ‥‥」
 ふらり、と。村人は道化から離れ、村の入り口の方へと足を進める。
 道化は何が起こるのか分からないまま、その言葉の通り、近くの家の影に隠れて様子を窺った。
 そして入り口の方を見てみると、そこに居たのは数人の村人‥‥更には剣や斧を持った者がいた。
「山賊‥‥か?」
 武器を持った者達に脅されているのだろうか。
 村人は、頭を何度も下げてから、倉庫から何か物が入っている袋を持ってくると、彼らに渡した。
 山賊らしき者達はその袋の中身を確認すると、もうここには用は無いとばかりに背を向ける。
「‥‥なんだ‥‥?」
 道化は、その山賊達に違和感を覚えた。
 彼の知っている山賊というのは、いかにもな屈強な男たちが無理矢理物を奪っていくというものだ。
 しかし、彼らはせいぜい武器を見せて脅す程度。
 その上、明らかに武器の扱いに慣れてないだろう老人や女性、子供までいるのだ。おかしいと思うのも無理はない。
 こうして違和感を覚えたまま、道化は山賊達が去っていくのを見送ったのであった。

「‥‥分かったか?」
 山賊達が帰ってから、先ほど話をしていた男が道化のもとまでやってきていた。
「こうやってこの村は定期的に山賊に襲われてるんだ。デビルやらの騒ぎのせいで、この村にはまともに戦えるやつも残ってねぇ‥‥こうやって搾り取られるしかないのさ」
 死にはしないが、生きてる心地もしない。
 この村は、そういう状況なのだ。
「ははっ、終いにゃ‥‥俺たちも山賊にでもなるしかねぇかな‥‥。は、無茶か‥‥はは」
 そんな村人の生気無き笑いは‥‥道化が見たかった笑いとは程遠いものであった。



 こうして、道化は冒険者ギルドへと依頼を出す。
 村人を山賊から救う為。そして‥‥笑顔を見る為に。

●今回の参加者

 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec6205 チュカ・アメン(29歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec6339 アイラ・メテェーリン(30歳・♀・クレリック・シフール・モンゴル王国)
 ec6359 瀬野 東湖(34歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec6360 マリア・ドレイク(26歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●寂れた村
 キャメロットから少し離れたところにある村。
 今回の依頼目的である村にやってきたのは2人の冒険者だ。
「村人たちが心から笑えるように‥‥か」
 道化がこの村で見たもの。それを何とかしたいと思い立ち上がるは陰守森写歩朗(eb7208)。
 偽善と言われようが、困っている人を見捨てては置けない性格‥‥と言う彼だが、人を救うのに偽も真もあるものなのだろうか。
 同行する妙道院孔宣(ec5511)も、人々を救いたい、笑わせたいという気持ちでは彼に負けないぐらいである。
「到着‥‥ですね」
 村に到着した2人が見たもの。
 それは、道化が言っていた通りのものであった。
 精力的に仕事をしている者はおらず、村人に生気はない。畑なども最低限の手入れぐらいしかしてないのではないだろうかという荒れ具合だ。
「話には聞いていましたが‥‥これ程とは」
「それも、山賊の仕業‥‥」
 そして、その山賊を生み出したのは‥‥と顔を曇らせる孔宣。

「あんたらは‥‥?」
 村の入り口から様子を見るようにしていた2人に話しかける1人の男性。
 その声にも希望というものは感じられない。ただ、面倒な事に巻き込まれたくない‥‥そんな思いが見え隠れする声であった。
「私達はギルドからやってきた冒険者です」
「この村を襲う山賊を退治する為にやってきました」
「山賊を‥‥退治‥‥?」
 2人の言葉を聞き、その顔を一瞬明るくする男性‥‥だが。
「いや、そんな希望を持ったところでな‥‥あんたら2人で‥‥」
 すぐにもとのネガティブ思考に戻ってしまう。
 どうやらかなりの重症のようだ‥‥と顔を見合わせる森写歩朗と孔宣。
 気を取り直して、森写歩朗は男性に向き直り口を開く。
「2人でも色々できる‥‥という事を教えてあげましょう。すみませんが、村の皆さんを集めてもらえませんか?」
「あぁ、一体何を‥‥?」
「まずは元気を取り戻すことから始めましょう」

●満腹極楽
 それからしばらくして、森写歩朗の指示によって村人達が広場に集められる。
 冒険者が来たという事で、希望を得たかのように顔を輝かせている者もいることはいるが‥‥多くの者を占める感情は諦観だ。
 さて、村人達を集めた上で2人がとった行動‥‥それは炊き出しだ。
 事前に持ち込んだ食材などを使い、炊き出しを行い、村人達に食事を振舞おうというのだ。
 孔宣も手伝っているが、やはりメインは森写歩朗といえる。
 彼の超越的な料理の技術により、多くに振舞う為に作られた炊き出しの食事でも、その味は相当なものとなる。
 おずおずと食事を受け取り、食べた村人達の顔に次々と笑みが零れる。
「すごい‥‥美味しい‥‥」
 そんな様子を見て2人は、自分たちの選択が間違ってなかった事を知る。
「まずは満たされる事で次を考える余裕がでてくる‥‥」
「だからこその美味しい食事‥‥。さて、後はこれを村の皆さんだけでなく‥‥」
 孔宣の言葉、それは村人以外にも食事を振舞うというもの。
 しかして、この状況で振舞う対象とは―――?

「な、なんだ、こいつはぁ‥‥?」

 対象が、やってきた。

●山賊の思い
「ひぃぃ!?」
 声がした方向を見た村人達に、恐怖の感情が走る。
 それもそうだろう。そこにいたのは、武器を持った集団‥‥山賊だ。
「いい匂いがしたと思えば‥‥なんだこれは?」
 山賊の中で一番体格の良い男性が、炊き出しをしている2人を値踏みするように、一歩前に出る。
「ようやくおでましですか。‥‥私達は冒険者です」
「なっ!?」
 森写歩朗の言葉を聞き、激しい動揺を見せる山賊。
「お、おい、どうするよ!?」
「もう冒険者が来ちまったのか‥‥!」
「い、いやでもたった2人だぞ?」
 進むか、退くか。話し合う様子の山賊を見た森写歩朗は一歩、前に出た。
「どうにかなるか、試してみますか?」
 山賊達に、緊張が走る。
 ―――だが、山賊は動かない。
 分かっているのだ。目の前にいる冒険者と自分とでは、圧倒的な実力差がある事を。
 ならば取る選択肢はもはや1つ。ここから逃げること―――。
 それを選ぼうと、山賊が少し後ずさり‥‥しかし、それを止めたのは孔宣の声。
「‥‥貴方がたも食べなさい」
「―――え?」
 呆気に取られたのは山賊達全員か、それとも村人達もか。
 しかし、孔宣はそんな彼らの様子を気にする事なく、山賊達の傍まで歩くと、食事を手渡していく。
「何か事情があっての山賊行為とお見受け致します。よろしければ事情を話して頂けませんか?」
 その慈愛の笑みは、僧侶だからできるものなのか。それとも、彼女の本質がそれなのか。

 どさ、がちゃり‥‥と何かが地面に落ちる音が続く。
 それは、山賊達が武器を捨てた音。
「う、うぅ‥‥ぐ、うぁぁ‥‥‥!」
 泣いていたのは、山賊であった。

●先に進む為に
 武器を捨て、振るまれた食事を泣きながら食べる山賊。
 それから一段落してから、2人は何故彼らが山賊に身をやつしたかを聞いた。
 それによると、彼らも元はここからそんなに遠くないところにあった村の住人だったらしい。
 ‥‥だった、過去形である。
 どうやらデビルか何か‥‥よく分からないが、それに村を滅ぼされたらしい。
 それから彼らが生きる為に取った手段が山賊‥‥という事らしい。
「まぁ、生きる為に物品を取った‥‥として、死傷者は?」
 と、森写歩朗の言葉を聞き、首を横に振る村人達。どうやら、死傷者は今のところ1人も出ていないらしい。
「ならば‥‥協力の道を歩むこともできるのではないですか?」
「協力‥‥?」
「村を護る立場としての戦力、そして労働力へなりませんか? 畑を耕したり、山菜を取ったり、狩猟にでたり‥‥どうです?」
「しかし、山賊なんてしてた我々を受け入れてくれる筈が‥‥」
 山賊の言葉を聞き、村人達は視線を背ける。
 確かに、散々苦渋を舐める羽目になった山賊と協力する‥‥なんてのは飲み込みにくい。
「それでも‥‥受け入れて、前に進む事が大事だと思います」
「他力本願では望む結果が得られない、少しでも改善する努力が必要‥‥そうではないでしょうか?」
 孔宣の受け入れる事を促す言葉。
 森写歩朗の変わる事を促す言葉。
 それは、山賊に襲われているだけだった状況を救ってくれた恩人の言葉だからか‥‥。それを聞き、村人達も背けていた顔を前に向ける。
「‥‥分かった、受け入れよう」
 村長が手を差し出す。それは、握手の意だ。
 それを見た山賊‥‥いや、元山賊も戸惑っていたようだが、その手を取る。
 こうして、1つの村の脅威は去り、救われなかった村の受け入れ先ができた。
「今度困った事があれば山賊行為などせず私達に依頼しなさい。報酬がなくても動く冒険者はいます」
 守る力を与える‥‥という事で、孔宣は魔剣を村人に渡そうとする‥‥が。
「いや、それはいいさ。さすがにそこまでは受けられねぇよ」
 と、断られてしまった。
 まずは、自分達でできる事をやろう‥‥。
 そして、それでもどうしようもなかったら、あんた達に頼むからさ‥‥と。

 今は笑えなくても‥‥。自分達の力でいつか笑いが絶えない村にしてやる‥‥そんな誓い。



 ちなみに。
 村を滅ぼしたデビルだが、どうやら最近に、騎士達の働きによって倒されていたらしい。
 また新たな脅威が現れるかもしれないが‥‥村の平穏はしばらくは続きそうだ。