闇からの囁き――血塗られた連鎖

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月15日〜06月20日

リプレイ公開日:2009年06月23日

●オープニング

「あ? なんだテメェは?」

―――『何を悩む事があるのです?』

「え、おい、ちょっと待てよ‥‥!」

―――『あなたがされた事を、あなたがするだけですよ?』

「がッ―――!?」

―――『さぁ、あなたが思うままの事をしましょう』

「なん、で‥‥俺が‥‥こんな目に‥‥」

―――『力が足りなければ‥‥与えましょう』



 キャメロット近郊のとある商業都市。
 商人達の賑わいでいつも活気があるこの街だが、この日、街の大通りに集まった人の騒ぎ方はいつもとは違うものであった。
 通りの真ん中にある何かを囲むように集まる多くの人々。その視線は何かに注がれている。
「おいおいおい。これって例のあれか‥‥?」
「あぁ‥‥そうだろうよ」
「また、って事か‥‥」
 彼らの視線の先にあるモノ―――それは、道の真ん中に倒れている人。いや、正しくは死体、だ。
 死亡しているは男性。血で赤黒く染まった服は、上等なものと言えず、商人のものにはあまり見えない。
 腰に帯びている血の跡が窺える剣を見る限り、あまりまともな仕事をしていた者とは思えない。
 死体の腹部に突き刺さるは、一本の片手剣。それが根本まで突き刺さっているのだ。
 ‥‥剣を扱うものならば、これがどれだけ異常な事か分かるだろう。
 そんな死体を見ていた人々の輪を割って入ってくるは騎士。どうやら騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
 騎士は初めに発見した者を残し、他の野次馬に散るように指示する。
「ち‥‥最近、何が起こってやがるんだ‥‥」
 死体を一瞥した騎士は異常性に気づくと同時、舌打ちをする。
 そう、最近―――この街で何かが起こっている。

 この街でこのような殺人事件が起きるのは初めてではない。
 最近、同じような事件が頻発しているのだ。つまり、連続殺人事件。
 殺された者は、皆冒険者であった。それも所謂褒められたものではないタイプのである。
 どの被害者も力を得て増長し、影で違法な事をしていたようだ。とはいっても、表立つとギルドで依頼を受ける事も難しくなる為か、殆ど噂レベルであり、証拠と呼べるものは無いのだが。
 更に共通点としては、殺され方にある。
 どの死体もまるで力を見せ付けるような無残な殺され方をしていたのだ。死体が見つかりやすいところに放置されていたのも見せしめの為、だろうか。
 また、突き刺さった得物は抜かれておらず、死体の傷などを調べた限りどうやらその得物を刺した攻撃が初撃である可能性が非常に高い。
 そして得物が突き刺さっていた場所は、多くの死体が腹部に集中していたのだ。
 異常、である。

 街では、この連続殺人事件の話でもちきりだ。
 そんな話をとある人物が耳に挟む。
 彼の人物は連続殺人事件の異常性に着目し、気になったがどうやら表立って動けないようであった。
 その為、彼の人物に仕える一人の男性に調査を頼んだのだ。


 ある日キャメロットギルドに訪れたナイト。彼の名はマナウス・ドラッケン(ea0021)。
 いつもは依頼を受ける立場の彼であるが、その日は違った。
「と、いうことでだ。今しがた説明した連続殺人事件の調査をする為に、依頼を出そうというわけだ」
 彼が受付係の青年に説明した殺人事件‥‥商業都市で起きたあの異常な事件の事である。
「被害者に共通点がある事からして少なくとも目的が無い‥‥ってわけじゃない気もするが。こんなご時世だし、デビルの仕業かもしれない。‥‥しかし、デビルが起こす事件にしても普通とは趣が違う気がする」
「犯人が誰であれ、殺す事が目的ではない‥‥と?」
「さすがにそこまでは分からんがな。何にせよ、別に目的があるならあるで、それも含めて調査したい‥‥というところだ」
 力を持った冒険者が殺されている事を考えても、犯人は危険人物である事は間違いない。
 話を聞いた受付係は、事件の今後の発展性・危険性も考えて、依頼を受理したのであった。



 夜の帳が降りた、闇の中。
 近くに壁がある事から、狭い路地裏‥‥だろうか。
『その怒りを、憎しみを果たす力は要りませんか?』
 声が、聞こえる。
 聞いた者を闇に誘う声が。
『相手が力で彼方を抑え付けるのなら、同じ目にあっても文句は言えないでしょう?』
 ――――声を聞いた者が、足を踏み入れる。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

鷹峰 瀞藍(eb5379

●リプレイ本文

●推理
 連続殺人事件の調査。
 その依頼を受けた冒険者達は、事件の起きた商業都市へと向かっていた。
「物騒と言うか‥‥不可解な事件であるな。人の仕業であればまだ良いが‥‥」
 大まかな話を聞いた尾花満(ea5322)が覚える違和感は、やはりこの事件が人によって起こされたものかどうか、というもの。
「ジャパンでは死体を使い都市の霊的守護を破壊しようとする事件がありましたがそれとは違うかもしれません」
 宿奈芳純(eb5475)は自分の知る過去の事件と照らし合わせようとするが、やはりそれとはどうも趣が違う。
 そうなると、今回の事件の犯人の狙いは―――?
「憎しみ‥‥いや、怒りかな。しかし、此処までの力は‥‥異常だ」
 復讐。それが今回の依頼人でもあるマナウス・ドラッケン(ea0021)の出した答えだ。
 悪い噂を持つ被害者達だ、過去に恨まれるような事をしていてもおかしくはない。
 また連続殺人という事件に儀式性が無いのであれば、殺す事『だけ』に意味があることになる。
 それらの点から考えて、復讐というのは良い落とし所に思えた。
「妥当なところだな。ギルドで被害者の噂を集めただけで‥‥これだ」
 と、出発する前に予めギルドで被害者の冒険者の情報を集めていたオラース・カノーヴァ(ea3486)はその噂を仲間達に話す。
 例えばモンスター退治の依頼を受け、出向いた先のモンスターを退治する。それはいいとして、何故かモンスターが現れた場所の近隣の女性が死亡したのだ。
 彼ら曰く『モンスターに攻撃されて死んだ。仕方なかった』との事だが、そのような事が度々あったら疑いたくなるのが人の心理というものだろう。
 他にも黒い噂がいくつかあったが、割愛させてもらう。尤も、あくまで噂レベルであり、何の証拠も無い。
「ふぅん‥‥成る程ね。個人的な推測としては身長の低い女性か子供か‥‥と思っていたけど」
 これなら容易に犯人の特定ができそう――と言うはフレイア・ヴォルフ(ea6557)。
 被害者の傷が腹部に集中していたことから、そこに一番攻撃しやすい体格は‥‥子供か女性というわけだ。
「俺は腹部を集中して狙うということは、堕胎させられた妊婦の恨みかと思っていたが‥‥どちらにせよ女性、か」
 キット・ファゼータ(ea2307)の推理にしても、やはり犯人は女性に行き着く。
 黒い噂を持つ冒険者と、それに恨みを持つ女性‥‥復讐劇としてはなんと分かりやすいものだろうか。
 だが、分かりやすいという事は、それがよく起こるという事でもある。
 犯人について思考を巡らせていた冒険者達に、事件の起きた街が見えてきた。
「イギリスで連続殺人事件‥‥これは推理と調査には帽子が必要ですね!!」
 そう言う月詠葵(ea0020)。だが調査の段階ならともかく、推理の段階でそれが必要なのだろうか?

●現地調査
 現地についた冒険者達は、それぞれ分かれて調査を始めていた。
 効率よく情報を集める為である。
 街中の探索をするはキットとオラースだ。
 キットの思惑としては、第一発見者にしろ現場近くの住人にしろ被害者の家族にしろ、とにかく聞き込みをして犯人の目星をつけることだ。
「無差別か、怨恨か‥‥それが分かるだけでも大分変わるからな」
 聞き込みの結果としては‥‥微妙なところだろうか。
 第一発見者は偶然見つけたという者ばかりで被害者の事を知らぬ者も多いし、近隣住人にしても『被害者はガラが悪くて近づきたくない』といった者が殆どだ。
 被害者の家族に関しては、まずいるかどうかすら分からないのが現状だ。冒険者という事を考えると、家族とは既に別れていてもおかしくはない。
 結局、殺されたのは評判が悪い男‥‥という事が分かったぐらいだろうか。
 対してオラースは被害者の家族だけでなく、生業などからも辿る方向でいた。
 生業といっても、せいぜいそこらのごろつきや用心棒と大して変わらない程度なのだが‥‥それでも、一緒に働いた事がある、という男にたどり着く事はできた。
「何か、被害者が殺される理由に心当たりはあるか?」
「そういや、こんな事を自慢げに話してたっけ――」

 さて、現地の騎士団に当たるは葵、満、フレイアの3人だ。
 事前にマナウスが捜査に協力する旨を書いた手紙を送った事もあって、接触などは容易であった。
 遺体に関してはさすがに腐敗が起きる事から既に埋葬されて調べる事ができない為、それについて調べるには騎士から直接聞くしかない。
「そうだな‥‥。死体に腹以外に傷はなかったか、また出血の量は? 凶器の剣の刀身や柄の歪み、刃毀れから力の入り具合を読み取れないか。被害者の装備は鎧か衣服か、鎧ならどんな壊れ方か。死体が見つかった場所は固まっているか、ランダムか、離れているが規則性はあるか‥‥一先ずはこんなところだろうか」
 満の質問に、騎士は調査内容を記した羊皮紙をぺらとめくりながらそれに答えていく。
「傷に関しちゃ、小さな擦り傷や切り傷ぐらいはあったようだな。ま、んなもん倒れた時にでもつくから大したもんじゃないだろう。血の量‥‥は殺された場所にしちゃ全然無いな」
 更にぺらりと。
「剣は特に刃こぼれが起きてるとかそういうのは無い。被害者の装備が衣服ってことから結構すんなり入ってるんじゃないかな。死体の発見者場所は‥‥どうも目立つ場所って共通点があるように思えるが」
 騎士の答えを聞いて、更に気になる事があるのか、フレイアが新たに問う。
「肝心の腹部の傷なのだが‥‥具合や大きさは分かるか? 後は死体の泥の付着具合とか、毒の痕跡とか」
「え、えぇと、ちょっと待てよ」
 騎士は羊皮紙をぱらぱらとめくりながら‥‥何回かめくってからまた最初に戻り、という作業を何回かした後で。
「うん、そこら辺は分からん」
「分からない‥‥のか?」
「さすがにそこまでは詳しくは調べてないな。大体、傷口を調べろといっても、そんな専門知識を持っている者はそういないしな」
 冒険者達にとって想定外だったのは、意外と騎士達の捜査が大雑把であった事だろうか。
 そんな細かい事が犯人に繋がるとは思っておらず、また細かい事故に、それを調べる技術を持つ人がいないのが理由だろう。
「まー、さすがに毒は無いと思うけどな。これに関しては一応調べてあるし」
 騎士達の捜査の大雑把加減を目の当たりにし、不安になりつつも葵はおずおずと自分の聞きたいことを述べてみる。
「え、えと、それじゃ、報告書には載せられなかった個々人の印象とか些細過ぎて書く気にもならなかった違和感とかは‥‥分かりませんか?」
「分かるわけないだろう」
「はぅあ!? ‥‥ど、どういう調査方法をしてるんですか?」
「どう‥‥って、至って普通の、だと思うが?」
 そう、至って普通の捜査。
 被害者の人間関係をとりあえず洗い、犯人の目星がつけばそれを当たってみる。もしくは犯人の目撃情報などを聞き込む。
 そして街を見回り、怪しい人物がいないかどうかを調べる‥‥そのぐらいの至って普通の捜査、だ。
 遺体や現場に残されたほんのわずかな情報から、犯人を調べるなんて事は、やりはしないし、そもできないのだ。
 もし殺人事件などを専門に調べる組織などがあれば話は別かもしれないが、そんなものはなく、街を守る騎士でしかない彼らに、そんな技術はない。
 これはこの騎士団だけではなく、他の騎士団も同じようなものだ。
 細かい情報を集めて、積み重ねた証拠から犯人を推理しようとした葵としては肩を落とすしかない結果だ。
 しかし、それで彼はめげずに聞く。
「そうですか‥‥。で、では過去に似た事件はありましたか?」
「似たような事件‥‥なぁ。さすがにこんな連続で‥‥ってのは、ここ最近のしか無いな」
 とのことだ。
 話を聞いていた満が、意を決したように‥‥口を開く。
「‥‥今回の一件で犯人と目されている者は居るのかな?」
 遺体の様子から察するに、小柄で膂力のあるものでないと難しいだろうが、そのような人物に心当たりはあるのか、と。
「んー‥‥。被害者が冒険者って事だから、犯人も冒険者ではないか‥‥ってところか。冒険者なら小柄で力もあるってやつは珍しくないしな」
「そうか‥‥」
 結局、騎士団から聞けた情報は‥‥あまり芳しくはなかった。

 被害者‥‥悪い噂を持つ冒険者、それと似たような人物に当たるはマナウスだ。
 オラースが集めた噂や、騎士団が事前に聞き込んでいた人物関係などを元に、似たような噂を持つ人物に会いに行く‥‥というわけだ。
 酒場や裏通りなどを歩き、その場にいた人物に聞きこみをしながら、マナウスは該当する人物にようやく会う事ができた。
「あ? ――あんたは」
 腐っても冒険者、というわけか。同じ冒険者であり有名なマナウスを知らないわけではなく、驚いた様子を見せる。
 そしてマナウスが話し始めるは、連続殺人事件について。
「どうも殺された男達には悪い噂があるわけだが‥‥な?」
 最後の句を言い終えると同時、視線を冒険者に向けるマナウス。
「お、俺は‥‥俺は知らねぇ――! 俺は、な、なにもやって‥‥!?」
「‥‥噂がただの噂なら別にいいのだが、そうでないなら少なくても正直に話して、一時的にも騎士団に捕縛された方が安全だろうさ」
 お前や被害者が何をやったかは知らないがな―――そう言い残し、マナウスは背を向けたのであった。

 最後に現地の調査をするは芳純。
 聞き込みにより、死体の発見場所を特定した彼は、その場にて魔法を発動させる。
 とはいっても、人通りの多い目立つ場所なので、人の視線が気にはなるのだが‥‥。
 発動させるは、パースト。過去を見る魔法である。
 とはいっても見る時間帯に既に死体が置かれていれば、誰が置いたのかを見る事はできない。
 そしてその置いた瞬間を見る為に必要なパーストの発動回数は相当な数に上る。
 小刻みに、小刻みに。ヤーヴェルの実で魔力を補給しながら、何回も発動させた結果‥‥ついに彼はある場面を見る事になる。
「これは‥‥死体を運んでいるのは女性、ですか。やはりどこかで殺してから運んだ‥‥ということですか。ん? 誰かに呼ばれた‥‥?」
 彼は過去視の中で、現場から去る女性を追う為に、更にパーストを発動させる。
「裏路地に入って‥‥ここが殺害現場、でしょうか? 何かが女性の頭に‥‥手? 手が女性の頭に触れて‥‥!?」
 そして彼が見たものは女性がかくりと意識を失ったかのように崩れ落ちる場景。そのまま女性は手によって、どこかに引きずられていったようだ。
 手の主は誰だったのか、どこに連れられたのか‥‥それは闇の中に消えていった為に視認する事ができなかった。

●闇のやり取り
『‥‥申し訳ありませんが、私はこの件について引かせてもらいます』

 ――――。

『何故、ですか。‥‥私は引き際というものを心得ているつもりなので』

 ――――。

『軽く街の噂に耳を傾けるだけで分かるでしょう? 冒険者がこの街にやってきていることが』

 ――――。

『私はもうここを去ります。あなたがどうするかは‥‥あなたが決める事ですよ?』

●手駒
 情報収集を終えた冒険者達は、一度宿に戻って各自の情報を集めていた。
 オラースが聞いた被害者による婦女暴行の話、そして芳純がパーストで見た場景から、犯人は女性だろう。
「気になるのは、その犯人らしき女性が殺されてるように見えることだが‥‥」
 言いながら自分の石の中の蝶を見やるキット。こうなっては、デビルが関与しているようにしか見えないが、今のところ蝶が反応した形跡は無い。
「‥‥何はともあれ、次に狙われそうなやつの目星はついてるし、見回るとしますか」
 次に狙われそうなやつ‥‥マナウスが接触した冒険者、だ。

 そして何人かに分かれ、夜の街を見回る冒険者達。
 マナウスが接触した冒険者の見張りがメインだが、どうやら彼は脅えているのか、酒場からあまり動く様子は無い。
 そんな時‥‥。
「ん‥‥‥?」
 満が酒場の外から中の様子を窺っている女性がいる事に気づいた。
 注目すべき点があるとすれば‥‥その手には剣を持っていることだろうか。
「これは―――」
 そう思ったのも束の間、剣を持った女性が酒場の中へと押し入る!
 いけない、誰もがそう思った瞬間、彼女は突然力を失ったように床に倒れる。
「‥‥間に合いましたか」
 満と同じくして彼女に気づいた芳純が彼女に対して高速でスリープの魔法を発動させたのだ。

 こうして女性を捕らえた冒険者達は、捕縛してから話を聞く。
「私‥‥はあの男に‥‥‥っ!!」
 つまりは、復讐。
 自分を汚した、自分の人生を狂わせた‥‥その復讐、だと。
「力で解決できないこと多々ある。力に溺れたら、負けだよ。光が闇に落ちるのは簡単で、闇から光に戻るのは‥‥大変だ」
「あんたにっ! あんたに何が分かる!? 全てを失った私は、それでも光でいろっての!? 闇の中に突き落とされるような事をされていて、それでも闇に染まっちゃ駄目なの!?」
 フレイアの言葉は女性に‥‥届くのだろうか?
 激昂した様子の女性を静める為にも、マナウスが説得を始める。
 彼女の証言があれば、冒険者は正規に裁かれるだろうという事を。それでも自分の手で裁きたいのか、と。
「当たり前でしょう!? 私は! 私の人生を壊した者を! 私の手で壊さなきゃ―――許されない!!」
 何が許すのか、何が許されないのか。
 最早それは彼女にしか分からないことだろう。それが、感情というものだ。
 捕縛されたまま、床に伏せて泣き出す女性。‥‥彼女にかける言葉を冒険者は持たない。
 ‥‥ふと、葵が思い出したようにぽつりと呟く。
「それにしても、おかしいですね。今までと違って、まるで計画性が無いかのように酒場に乗り込むなんて‥‥」
 別に女性に聞いたわけではないのだろう。だが、それは結局彼女の耳に入ったようで、彼女はきっと顔を上げると怒りの形相で怒鳴る。
「あいつが私に力を貸すと言っておきながら‥‥! 土壇場になって逃げたからよ!」
「あいつ‥‥?」
「一連の事件の黒幕だとか嘯いてたけど怪しいものだわ‥‥。何が冒険者が来たから引く、よ!」
 この時、女性の言葉を聞いて、冒険者達はある事を見落としている事に気づいた。
 ―――調査の段階では顔を隠す帽子を用意すべきだった、と。

 結局、女性は騎士団に引き渡され、ついでに暴行を働いたという冒険者も騎士団に捕縛された。
 芳純の証言からも、彼女が一連の事件の犯人ではない事が分かるだろうし、罪はほとんど無いようなものだろう。
 だが、結局黒幕らしき存在に届く事は無かった。

「力は、力で抑える以外の選択肢はまだ出来ないけれど、それでもその力に伴う思いだけは、暗いものでないようにしようと思う」

 あの街で、再び殺人事件が起きたという話は聞かない――。