【バロール決戦】太陽神
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2009年12月20日
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●オープニング
●神魔人戦争
邪眼のバロール。
暗黒竜クロウ・クルワッハ。
どちらもイギリスを滅ぼすに足る邪悪。
敵は大勢。かつ強大。
―――しかし、だからこそ、か。
抗う力を持つ者は、滅びに抗う。
それは、人も神も変わりなく―――
●Geis
キャメロットギルド。
現れたバロール、そしてクロウ・クルワッハとの戦いに向けて、ギルドの中はひっくり返したような大騒ぎであった。
それも仕方のないことだろう。下手すれば国が滅ぶ戦いなのだ。ゆえに、戦いに赴く者も多い。
お前はバロール戦か――そっちはクロウか――俺は聖女とやらの顔を拝んでみようかと――お前はこんな時にも相変わらずか――バッ、ちげぇっての!――俺、この戦いが終わったら結婚するんだ――おい馬鹿やめろ――なんでだよ、故郷に帰ってパン屋やりてぇんだよ!――よし、お前問答無用で後方支援行きな――‥‥‥‥。
等々、様々な冒険者達がいた。それも全てはバロールを倒すため、だ。
「‥‥で、だ。こんな時にで申し訳ないんだが頼みたい事がある」
と、受付係に話しかけるは1人のフードを被った青年。
彼はどうやらバロールを倒すためではなく、依頼があってギルドにやってきたようだった。
しかし、それに対する受付係の顔は渋い。
「受理自体は致しますが‥‥人が集まるかどうかは分かりませんよ?」
何せこの状況ですから、と指し示すはバロール打倒、クロウの足止めの依頼書に次々と名前を連ねていく冒険者達だ。
「ん‥‥まぁ、一応は俺も向かうのはそっち方面だからさ」
言葉と同時に被っていたフードを払いのける青年。
その下にあった顔は黒き髪と黒き瞳を持った野性味を感じさせる顔だ。
受付係はこの顔に見覚えがあった。何しろ、国は違えど英雄の1人―――
「――ク・ホリン!?」
「おっと、ここではケニーで通してくれ。あまり騒がせたくないんでな」
尤も今以上の騒ぎなんてなりゃしないだろうが、とこちらを見向きもしない冒険者達を見ながらク・ホリンは笑う。
そういえば‥‥と受付係は思い出す。彼には父がおり、その父が南方で行方不明になった筈。しかもその父が‥‥。
ここまできて、受付係はク・ホリンの依頼に思い当たる。
「太陽神ルーに関する依頼ですか」
「その通りだ」
今まで彼が独自に集めた情報によると、ルーは過去にバロールと戦った事があるらしい。
戦った‥‥というよりは一方的なものだったらしいが。
その結果、彼は力の大部分をバロールに奪われ、人とあまり大差ない程度の力までになったという。
それからルーはアルスターへと逃れ、力を蓄えながら千年以上の時を過ごしたという。
ク・ホリンがルーに拾われたのも、その地での事だ。
「つまり、親父にとってバロールは仇敵って事だ」
それで、とク・ホリンは話を続ける。
「今回のバロールとの戦いで、敵の配置にちと気になる事があってな」
「敵の配置‥‥?」
あぁ、とク・ホリンは丸められた羊皮紙を広げる。バロールの居城がある地域の地図だ。
「バロールがいるはここだ。そして、ここには何がある?」
居城を指してから、そこから離れた何の変哲もない場所を指すク・ホリン。
「何も‥‥ないですよね?」
「あぁ、何もない。強いて言うなら小さな遺跡が一つあるだけで、戦略的価値は何もない場所だ」
だが――とク・ホリンは言葉を続ける。
「ここに、バロール配下と思わしき敵が数多く存在していたらどうする?」
「なっ‥‥!?」
何もない筈の場所に置かれる敵。
戦略的価値は無きに等しく、その場所では伏兵にすらなりはしない。
だが、それでもそこに多くの敵が存在するというのだ――。
「何かの罠‥‥ですか?」
「こんなまわりくどい罠を? わざわざ?」
それも考えにくい。本当に何もないなら、そこに置く兵を向かってくる者にぶつけた方がより効果的だ。
「それで、だ。‥‥親父らしき人物がここに向かっているという情報を聞いた」
バロールに挑み敗れた先遣隊から得た情報らしい。妙な人物がそっちに向かってるのを見て止めたが、話も聞かずに行ってしまった‥‥と。
「さぁ、さっきの俺の親父の話を思い出してみよう」
「太陽神ルーの‥‥あっ!?」
受付係は思い出す。
ルーの力はバロールに奪われたのだと。
「おそらくは、何らかの形で親父の力がそこに封印されてるんだろうな。で、親父はそれを解く為に、バロールはそれを防ぐために――」
だが、とク・ホリンは首を振る。
「今の親父の力じゃ‥‥それに、その地には悪魔の力で狂った精霊もいるとかの話も聞いた」
だから、と言葉を続ける。
「俺はその遺跡へと向かう。親父を守るために、親父の封印を解く為に―――」
ク・ホリンが頼みたいのはこのことだろう。
これに同行する仲間が欲しい‥‥と。
「もし親父がやられてしまったら、ここに置かれた敵はバロールの加勢に入るだろう。それを避ける意味でも、な」
確かにこの位置なら戦いが終わった後、バロールの居城に向かう事も不可能ではない‥‥と受付係は地図を見て考える。
「頼む! 神がどうかとかじゃねぇ。俺の親父を助けるために‥‥力を貸してほしい!!」
アイルランドの英雄、ク・ホリンが頭を下げる。それこそ机に額をぶつける程に。
受付係は頷いて、太陽神ルー救出に向けての依頼を出すのであった。
●試練
「させはせんぞ‥‥バロール。貴様にこの国を、世界を‥‥あの人をやらせはせん‥‥!」
●リプレイ本文
●midnight
例え深い深い夜の闇の覆われても―――
●父を救いに
地を駆ける。
空を翔る。
手段は違えど、彼らは同じ目的を胸に‥‥かけていく。
太陽神ルーを救い、その封印を解く為に。
「なんつうか‥‥すまねぇな。こんな時だってのに集まってもらって」
ペガサスに相乗りさせてもらいながら、申し訳なさそうに言うは依頼主であるク・ホリン。彼の言葉のこんな時というのはもちろんバロール、クロウとの戦いの事だ。
「気にするな。俺は隣人が、友が困っているから手を貸す。それだけだ」
そんなク・ホリンの言葉に笑みと共に返すは、そのペガサスの手綱を握るマナウス・ドラッケン(ea0021)だ。
「それにこんな時‥‥だからこそ、ですよ。太陽神であるルーさんをこの状況で放っておく事の方が問題ありそうですし」
だから気にする事はありませんよ、と言葉を続けるはグリフォンを操り空を並行するマロース・フィリオネル(ec3138)。
言葉を受けてク・ホリンが周りをやはり並走してる冒険者達の顔を見ると、その表情はみな任せろといった風。
その心強さに思わず胸を熱くして、ク・ホリンはただ前を向く。
「へっ、そう言ってもらえると助かるぜ」
「大事な人を助けたい気持ちは英雄も神も同じやね」
そんなク・ホリンの様子を見てか、ジルベール・ダリエ(ec5609)は頬を緩める。
「むしろ神への助力を、と言われるよりも家族を助けたいと言われる方がシンプルで分かりやすい」
リース・フォード(ec4979)がそう言うのも、守りたい家族や大切な人がいるからこそ、その気持ちが分かるのだろう。
親子といえば‥‥と依頼を受ける時の説明を思い出すネフティス・ネト・アメン(ea2834)。
「ケニーさん‥‥ク・ホリンさんはルーの息子なの? それじゃ私達と同じね」
「同じ?」
「えぇ、私の一座の女は皆、こっちの言葉で『アメン神の娘』って意味の字を名乗るの」
アメン神というのは彼女の国で言うところの太陽神の事らしい。つまり、どちらも太陽神の子ということだろう。
尤もルーと、彼女が伝え聞く太陽神ではまったくの別物だろうが。
ネフティスは、故郷の太陽と、今自分達を照りつける太陽の違いを目や肌で感じながら、納得したように呟く。
「‥‥それにしても故郷よりこの国の太陽の加護が薄いのは、太陽神の御力が封じられてた為なのね」
いやそれは気候とか位置的なものが非常に大きいのだが――むしろそれに乗ずるはク・ホリン。
「む、それはいけない。これは同じく太陽神の子である俺たちがくっついてその力を強化するしかないな」
「いやお前陽魔法使えないだろ。後、この前の依頼も口説いてたよな」
適当な理由をでっちあげてネフティスを口説こうとするク・ホリンだが、即座に入るマナウスのツッコミ。
女好きにも困ったものだ‥‥とわざとらしく嘆息する彼だが、そんな彼にツッコミをしたかったのは今その場にいた何割か。
だが、そんなク・ホリンの様子を見て幻滅するどころか、ある意味感動している男が1人。リオン・ラーディナス(ea1458)だ。
「偉い人なのに踏ん反り返っている感じじゃない姿勢に、ちょっとグっと来て‥‥その上女好きとは共感できるものがあるね! 俄然頑張りたくなった! でもイギリスの女の子は渡さないね!」
「おぉ、言うじゃねぇか!」
お前らもうちょっと緊張感を持て。
「ん、んん‥‥。ま、まぁ緊張しすぎてもよくはないしな」
「そう‥‥であるな。仮にもアルスターの親衛隊隊長なのだから、自分のベストテンションというのを分かっているのであろう」
アンドリュー・カールセン(ea5936)とアヴァロン・アダマンタイト(eb8221)の誰ともなしに向けたフォロー。
やっぱり英雄はどこかのネジが外れちゃってるのだろうか――と考えそうになり、自分の知る英雄を思い出しその考えを打ち砕くかもしくは裏付けるかは当人次第か。
何はともあれ、南方の遺跡に向けて彼らは駆ける。
空を行くものはなるべく広がって、道行く者達にルーが紛れていないかをよく観察しながらだ。
リースがク・ホリンから聞いた特徴を元に似顔絵を描こうかと考えるが、やはりそれは難航した。
隠者として動いたルーは、殆ど人と変わらない姿故に、特徴も以前に伝えた通り絞るのが難しいものしかないのだ。
ク・ホリン曰く
「直接会えば、威厳っつか、神威っつか、オーラとか‥‥そんなので分からなくもないだろうけど」
あくまで直接会えばで、面を合わさず一方的に探すだけとなったら当てにはならない。
だがその状況を打破したのは、やはりというか陽魔法の使い手のネフティスだ。
金のピアスを介したサンワードによって、ルーらしき人物の位置を突き止めたのだ。
それを聞き、アヴァロンは同行させていたイーグルドラゴンパピーのプラティヌムに、テレパシーリングを使って意思を伝える。
「お前もルー神と同じく光の眷属だ。かの神を助けるために協力してくれ」
彼の切なる思いが通じてか、太陽神を救いたいが為か‥‥ともかくプラティヌムはサンワードで得た情報の場所へと先行して飛ぶ。
分かれていた冒険者達が集合してから情報の場所に向かうと、そこに居たのはプラティヌムと―――金髪の壮年男性であった。
●神と共に
「親父!!」
男性の姿を認め、ペガサスから降りたク・ホリンの第一声がそれであった。
それはつまり、目の前の男性がルーであるという事だ。
「――父上と呼べといつも言ってるだろう」
「こんな時までそれかよ!?」
先走ってルーの元に走ったク・ホリンを追いかけるように、彼らの元に少し遅れて集まる冒険者達。
そして彼らは先ほどのク・ホリンの言葉を実感する。
確かに言われなければどこにでもいる男性にしか見えない。見えないのだが‥‥面と向かえば不思議な威厳を感じる。
目の前にいる人物が神という事を実感したアヴァロンが、冒険者を代表して挨拶を述べる。
「我らはこの度、ルー神の力の解放を手伝う為に集まった冒険者。かの太陽神に力添えができるとは光栄の至り。微力ながら全力を尽くさせていただく」
それを受けてルーはク・ホリンへと視線を向ける。
「‥‥成る程、色々と知ったのだな」
「おうよ、まったくめんどくせぇ作業だったぜ」
ふ、と目を閉じながら笑みを浮かべるルーの心境は神のものか親のものか。
「ま、そんなこんなで神様、バロールに喧嘩売りに行くそうやないですか。封印場所までお護りします。バロールに一泡吹かせたりましょ」
ジルベールの言葉に笑みを消して、真剣な眼差しで冒険者達を見やるルー。
口は堅く閉ざされたままで。
その様子を見て、おいおいと言うはマナウス。
「まさか個人の問題とか言って拒んだりしないだろうな? 俺は『父』を助けたい友人の頼みを聞くだけだがな」
何だろうと共に在れる国にする。それが俺の誓いだしな―――そう続けながらク・ホリンを見る。
そう、それが以前にも交わしたマナウスのゲッシュ。
「ふ―――」
その声が笑いだと最初に気づいたのは誰だったか。
「別に私は拒むつもりは初めから無い。そうか‥‥この地は、この国の民は―――」
口を開けて大きく笑うその様子はまさしく太陽のようで。
なるほど、血が繋がっていなくてもク・ホリンがルーの子だと納得できる明るさを持っていた。
「共に行こう。最早一人で重荷を背負う必要は無い、庇護下にあるものは何時か自らの足で立ち上がる。喜びも悲しみも分かち合い、共に世界を生きるものとして肩を並べよう」
「あぁ、共に戦い、傷つき、勝利しよう。痛みも悲しみも怒りも喜びも、神だけのものではない。人だけのものではない。――我々のものだ」
人であるマナウスの言葉と、神であるルーの言葉。
その言葉の前には最早人と神の垣根は無いと言ってもいい。
「‥‥どうした? 目を丸くして」
そんなやり取りを見て驚いた様子のアンドリューに声をかけるはルー。
「いや俺の知ってる太陽神――アマテラスは随分とドライな考えだったからな。少々フレンドリーさに驚いてしまった」
何せ敵に対しては戦争だから死んでしまうこともあるとも言っていたしな‥‥と言葉を続ける。
「大して変わらんさ。見方を変えれば、敵も味方もこの地に等しく生きている者と言っているに過ぎん。何、太陽というのは常に公平に容赦なく陽を浴びせる存在と考えれば不思議でもあるまい?」
「確かにそう、か」
さて、と一旦場を取り仕切るはク・ホリン。
「あんまりここで長話してる余裕は無いんだろう?」
「それもそうだな。こうしてる間に戦いは進んでいく」
それじゃあ、と目的地の遺跡攻略に向けて話し合う冒険者達。
ルーを含めた相談を終え、彼らは遺跡へと向かう。
●力を解放しに
ルーのクレアボアシンスやネフティスのテレスコープやエックスレイビジョンで手に入った、敵の配置の情報を元に攻勢を始める冒険者達。
基本的にはルーを守護しつつ遺跡の突破を目指す形となる。
その進軍を守るように結界を張るはマロースだ。
「皆さん、聖なる結界である程度は大丈夫ですが過信はできません。お願いいたします!」
彼女はソルフの実で魔力を回復させつつ断続的にホーリフィールドを張るという荒業を行いながら陣を進めていく。
しかし、ホーリーフィールドは絶対でなく、それを破壊しようと近づくフォモール達もいる‥‥が。
「それを排除するのが我々の仕事‥‥!」
近づいてきたフォモールを一閃の元に切り捨てるはアヴァロンだ。
強化されたその槍は一撃で攻撃を仕掛けてきたフォモールを絶命させる。
「隊長とか神様とか、スケールの大きな話で正直戸惑いはあるけど、この国の危機って事は分かっている」
同じく前衛を務めるリオンが、フォモールの攻撃を避けながら、自分の思いと共に小太刀を振るう!
「だから‥‥負けられないんだ、オレ達は!」
意思と威力が込められたその一撃は、フォモールを倒すに十分すぎるものだった。
「‥‥ちなみに、特に注意を聞かなかったが、穢れとかは大丈夫なのか?」
次々に絶命していくフォモール達の姿を見て、以前の遺跡の穢れ云々を思い出したのだろうアンドリューが少し心配になってルーに問う、が。
「問題ない。―――命を賭けた戦場に出るという事は覚悟しているという事。覚悟を決めた以上、死は公平だ」
(「‥‥成る程、確かにそう違わないか。陽の公平さは何事も良い事だけではない‥‥か」)
それは子のク・ホリンも同じ考えのようだ、とアンドリューはそちらを見る。
「翔べぃ! ゲイ・ボルグ――!!」
ク・ホリンの手から放たれるは蒼き閃光。そう、まさに閃光にしか見えないがそれは光ではない。
槍だ。彼の手から放たれた魔槍ゲイ・ボルグがとてつもない速度で敵に飛来した故に、ただの閃光にしか映らないのだ。
ゲイ・ボルグは寸分違わずフォモールの胸の鎧の隙間に突き刺さると、その勢いのまま一気に貫通する。恐らく、強化もされているのだろう。
そして槍が光るとク・ホリンの手に一瞬で戻ってくる。装着されたレミエラの効果だ。
「我はアルスター赤羽騎士団がク・ホリン! 全てを貫き穿つ閃光を恐れぬならかかってこい!!」
冒険者達は彼が戦うのを初めて目にするが、その鬼神の如き働きはまさに円卓の騎士‥‥それこそラーンスクラスと肩を並べると言われても納得できるものであった。
彼が放つ閃光は確実に、敵をフォモールを減らしていく。
「ッ‥‥でもな、だからといってそう簡単にはいそーですかと納得できるわけやあらへん!」
そう、だがこの戦場でも命を奪う事を是とする事ができないものはいた。ジルベールもその1人だ。
「分からず屋やなーもう! さっさと家族のトコに帰りぃや! バロールもアンタらも、デビルに利用されてるだけやっちゅーの」
襲い掛かってくるフォモールにその言葉が通じたか否か。だが、振るう剣を止めないフォモールにアイスコフィンを発動する。
氷の棺に閉じ込められたフォモールは、そのまま動く事ができなくなってしまった。
ク・ホリンも別にその状態に追撃を加えたりはしない。あくまでも彼は戦っている者を全力で相手するだけなのだろう。
「皆、気をつけて! 一気にいくよ!」
目の前にいる冒険者達に注意を呼びかけてから、リースが発動するはストームの魔法。
これによって、目の前のフォモール達が吹き飛ばされ、一気に道が開ける。
「今だ!」
遺跡に向かって一気に駆けようとする‥‥が、それを阻止するは暴走した精霊だ。
例え、目の前の存在が自分の遥か上位の精霊だとしても‥‥分からないのだろう。
「ちぃっ‥‥!」
切り伏せるのは容易い。
容易い―――が、彼らはフォモールと違い納得してこの戦場にいるわけではないのだ。
ルーは視線で冒険者達に合図を送り‥‥冒険者達もそれを理解する。
「自分を取り戻せ――自らの意思で血と惨劇を増やすのか!!」
祈りの込められた結晶を手に叫ぶマナウス。それは精霊だけではなく、フォモールにも向けた言葉。
その言葉が通じたのか、それとも驚いただけなのか‥‥しかし、確実に敵の動きは一瞬とはいえ止まる。
その状況ならば、殺さないようにと手加減した攻撃も有効に働く。
「我が身可愛さとはいえ‥‥ごめんね」
リースの手加減した雷の魔法の一撃。しかし、足を止めるには十分で。
「ルーさんが‥‥!」
ク・ホリンの傍で、太陽の力が込められた宝玉を使ってのサンレーザーを駆使して戦っていたネフティスが目を見張る。
事前の打ち合わせ通り、ルーが遺跡に到着したのだ!
陽光が世界を包む―――。
●sunrise
―――朝日は必ず昇る。
●太陽神ルー
光が消えた時、遺跡に立っていたのはまさしく神の名に相応しき精霊であった。
「って、おいおい。眩しい上にでかくなってるじゃねぇか‥‥! 派手だなおい!」
「‥‥私を見て第一声がそれか」
ク・ホリンが驚くのも無理はない。
今やルーの体躯は2.3m程の巨体になり、その上神々しい黄金の威光も放っているのだ。
右手に持つ槍や腰に下げられた剣も膨大な魔力を持っているのが目に見て取れる。
この地に住む精霊神に出会った事のある者なら断言できるだろう。――ルーはどの精霊神よりも強い、と。
最早フォモール達は、敵うまいと気づいたのか三々五々に逃げ出していった。そう、バラバラに‥‥バロールの戦いの方には向かわず、だ。
「‥‥精霊が?」
気づけば、あれ程荒れ狂っていた精霊達がいない。
もしかすると、ルーの覚醒に中てられて正気を戻し‥‥姿を消したのかもしれない。
こうして戦いは終わった。
だが、バロールとの戦いはまだ終わってないようであった。
「いくぞ、あの邪眼との戦いに終止符を打つ為に――!」
ルーと、冒険者達は戦場へと向かい走る!