【決戦】闇を祓う太陽

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月28日〜01月02日

リプレイ公開日:2010年01月06日

●オープニング

●太陽
「‥‥そうか。ヌアザは取り込まれ、エフネは逝ったか‥‥」
 男は、大切なものを失った。
 だがそれでも尚立ち上がる。
 彼は闇を払い、人々に安寧の光を齎す太陽なのだから―――。

●暗黒竜の復活
 あの悪夢のようなバロールとの決戦から数日。
 キャメロットは不思議に張り詰めた空気の中にあった。
 街を行きかう人は殆ど無く、多くの人々は家の中で恐怖に震えている。
 教会には多くの人々が集い、祈りを捧げている。
 聖夜祭も間近であるというのに、人々の顔に笑顔は無い。
 ただ、恐怖に怯えるのみ。
「かみさま、どうか、わたしたちをおまもりください」
 小さな祈り。答えるもののない祈りに
「神様‥‥か」
 教会の扉にもたれ人々の様子を見つめていた一人の男性は暫くの後その場を黙って後にしたのだった。

「何か、御用でしょうか?」
 ギルドでは始めてみる来訪者に、係員はそう問いかけた。
 年の頃は40代前半か後半かと見える。性別は勿論男性だろう。
 体格はかなりいい。背も高いがそれよりも明るい金髪と不思議な威厳が印象に残る人物である。
「一つ、いい事を教えてやろうと思ってな」  
「いい事、ですか? 依頼ではなく?」
「まあ、依頼と言えば依頼かもしれんな。確かにお前達に協力を頼みたい仕事だからな」
「は?」
「いや、なんでもない」
 そう言って首を振ると彼は、本題だといって話に入った。
「クロウ・クルワッハという暗黒竜がいる。奴には二つの弱点がある」
「クロウ・クルワッハの弱点!?」
 その瞬間まで雑談を聞き流すような気分でいた係員は突然目を丸くする。
「何故‥‥貴方がそんな事を?」
 問いは静かにスルーされ、彼は話を進めた。
「一つは、勿論心臓だ。それを持つ人物はクロウを思いのままに操る事ができる。心臓を潰せば奴の力の多くを殺げるだろう」
 それはかなり前から冒険者にも知らされていた話。
 クロウの心臓は、円卓の騎士トリスタンの心臓でもあるから下手に潰す事はできないのだがはっきりとした弱点として冒険者の選択肢にある話であった。
「そして、もう一つ。それはリア・ファルだ。七つの冠と人間は呼ぶらしいが、これはいろいろな力を増幅させたり、バランスを取ったりすることができる。古くはケルトの王の戴冠式に使われていた宝なのだ」
「でも、それは‥‥」
 係員は言いよどむ。リア・ファルはもう既にこの世には無い。
 デビルアリオーシュが一時手にし今は、共に取り込まれてクロウの腹の中に‥‥。
「解っている。だがだからこその弱点なのだ。リア・ファルは取り込まれたことでクロウの、身体のどこかに浮かび上がっている筈だ。そこがクロウの弱点になる」
「リア・ファルが弱点に?」
 彼はそっと頷く。
「クロウ・クルワッハは神とデビルを取り込み力を増した。だがその力はただでさえ、心臓を失っているクロウには制御できないものだ、近いうち奴は暴走を始めるだろう。目に見える者全てを破壊し、無に帰す存在となる。だがリア・ファルを見つけ出しそれを砕くことができればクロウの体内の力は一時、封じられ、その動きを止める筈だ」
 その時を狙って倒せばいい、と彼は言う。
「ですが、リア・ファルは本当は手のひらサイズの小さな球と伺っています。それをあの体長50mと言われるクロウから見つけ出すなど」
「無理と言うか?」
 立ち上がった彼はそう言いかけた係員を強く見た。係員は目を擦る。
 この人の輝きがさっきまでとは違って見えるのだ。
「無理だと思おうが、自らの国、自らの故郷、自らの愛する者をその手で守りたいなら、戦え。自らの国、自らの故郷、自らの愛する者をその手で守りたいなら、戦え。それは私達だけではなく‥‥お前達にも出来る筈だ」
「お、お待ちを、貴方は!」
 彼は去って行った。扉を開けても、もう姿は見えない。
 ただ、彼の言葉だけはいつまでも係員の心から消える事は無かった。

●戦いに向けて
「うん、親父だ」
「うわあっさりと」
 クロウの弱点を教えられてから数刻後、ギルドにやってきたク・ホリンに問いかければその答えは至極簡単なもので。
 確かにク・ホリンの父親である太陽神ルーならば、クロウの弱点を知っていてもおかしくはないかと納得する受付係。
 何はともあれ、とク・ホリンはギルドにやってきた理由を話し始める。
「親父が教えに来たって時点で分かると思うが‥‥。俺と親父はクロウ・クルワッハの弱点を狙う。それに同行するメンバーが欲しいってわけだ」
 腕利きでかつ覚悟できてるやつなー、と続けるク・ホリン。
「しかし、確かにルー神の仰るとおりにリア・ファルが弱点として‥‥どうやってそれを見つけるつもりなのです?」
「どうにかして」
 えぇー。
 尤もな疑問をぶつける受付係だが、対するク・ホリンの回答は何とも投げやりなもので。
「リア・ファルを取り込んだクロウなんて親父でも初めて戦う敵なんだから、弱点が具体的にどこかなんて情報あったら苦労はせんさ。竜といったら逆鱗とかそういうのが思い浮かぶが、あいつにそういうのが適用されるかどうか」
 やれやれといった風に首を振るク・ホリン。しかし、その心境は受付係もまさしく同じで。
「そんな‥‥! それでどうやって戦うっていうんですか!?」
 机を両手で叩いてから思わず立ち上がる受付係を、ク・ホリンは手を受付係の前に突き出す事で制止する。
「それでもな―――やるしかねぇんだよ」
 先程までの軽いノリは身を潜め。
「弱点がどこかもわからねぇ。倒せるかどうかもわからねぇ。生きて帰れるかもわからねぇ。だがたった一つだけ分かってる事がある」
 それは―――
「戦わなきゃ、この地が滅びるって事だ。‥‥なら考えるまでもねぇ。やるしかねぇんだ」
 そう、何が待っていようと‥‥やるしかないのだ。

 それからク・ホリンに諭された受付係は、依頼を受理しながらふと浮かんだ疑問をぶつける。
「確かに私達がイギリスの脅威に立ち向かうのは理解できます。‥‥しかし、ク・ホリンさんは何故です?」
 あなたはイギリスの者ではなく、この戦いに身を投じる理由は無いのに‥‥と。
「あ? んなこたぁ考えるまでもねぇだろうよ」
 と言ってから、彼はふむ‥‥と顎に手を当てて首を捻る。
「―――なんでだろうな?」
「おいい!?」
「まぁ、あれだ。ほっとくとアルスターもやばいとか、親父が戦うからとか、強敵と戦いたいからとか色々あるんじゃねぇかなー」
「えぇー」
 困惑する受付係を前に、だがク・ホリンは気にする事なく背を向けてギルドを出る。
(「何故戦うか‥‥ねぇ。俺に聞かんでも、冒険者達に聞けば分かる事だろうさ」)


 太陽―――
 人々に光を齎すそれが、たった1つしか無いとは‥‥決められてはいない。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

エスリン・マッカレル(ea9669)/ テティニス・ネト・アメン(ec0212

●リプレイ本文

●太陽への願い
「そう‥‥アスタロトは出てこないのね」
 ピアスを見つめるはネフティス・ネト・アメン(ea2834)。
 サンワードでアスタロトの居場所のお告げを聞こうとしたが、結果は芳しいものではない。
 アスタロトなら太陽に見つからないようにするのも容易いだろうが、また別に行ったフォーノリッヂの結果から言ってもやはりアスタロト、そして竜の心臓がこの戦場に出る事は考えられなかった。
 結果は既に別働隊にいる友人に伝えてある。それが彼女にとっての気休めとなればよいが、と考え。
「占いか‥‥結果はどうだ?」
 ネフティスの背後に立つは金色の威光を身に纏う太陽神ルー。
 一応問うてはいるが、ネフティスの扱う占いは陽魔法のものであり、太陽神であるルーにとってはある意味聞くまでもない事だ。
 それでも敢えて聞いたのは――。
「――抽象的でも心構えになるし、悪いなら覆す契機にすればいい。そういう事ですよね?」
「そうだ、太陽の子よ」
 ルーの大きな手のひらが撫でるようにネフティスの頭に置かれる。
 その手は冬の寒さを忘れさせてくれるような暖かさを持っていた―――。

●地に堕ちる太陽
「おーおーおー、どうしたもんかね」
 そう言いながら天を仰ぐはク・ホリン。陽の光を顔に受け―――否、陽光は遮られてしまっている。
 空を飛ぶ邪竜クロウ・クルワッハによって。
 空にいるものと戦う術を持つ者は少ない。邪竜がその気になれば、空からブレスを吐くだけで壊滅する事もありえるだろう。
 だが―――
「ここは‥‥誰も孤独じゃない戦場だ!」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)の言う通りである。
 1人ではない、2人3人いやもっと多くが戦う戦場。
 例え1人が空の邪竜を撃てなくても、撃てるものと連携すればいい――!
 弓で矢を放つフレイア・ヴォルフ(ea6557)が。ムーンドラゴンに乗り空を翔る閃我絶狼(ea3991)が。そして連携している他班の戦士達が!
 全ては邪竜を地に堕とし、討つ為に!
「‥‥願おう、あれが至宝であったのならば」
 今はまだ見えぬリア・ファルに祈りつつ、弓を引き絞るフレイア。
 ――我らの勝利の確信を。
 ――祈る友の無事を。
 祈りは力になると信じて‥‥矢を放つ!

 邪竜が叫ぶ。
 痛みを憎しみを怒りを、全てを闇の声に乗せて。
 多くの冒険者達の活躍により、邪竜の翼は使い物にならなくなった。
 その結果は至極単純。クロウ・クルワッハが地上に降りる――!
「絶対に勝利して、生きて帰る‥‥‥絶対にだ!」
 背に負うは数々の未来。そう、それは自分も含めて。
 七神蒼汰(ea7244)の決意は皆も同じくして、無事の勝利を願う。
「出来る出来ないじゃないだろ‥‥やるんだよ!」
 臆しそうになった自分の弱い心を叱咤して、リオン・ラーディナス(ea1458)は駆ける。
 あまりにも巨大な邪竜に挑むはちっぽけな人間。
 しかし、それでも彼らは立ち向かうのだ。
 受け継がれてきた過去を。
 思いの先にある未来を。
 そして命がある今を守る為に―――!

●地で輝く太陽
「いくぞ! これからが我らの仕事だ!」
 叫ぶはルー。
 彼の視線の先には邪竜クロウ・クルワッハの全てを噛み砕く顎。
 クロウを地に落とすだけでも、多くの戦士が傷ついた。その上、弱点を探す為にも足止めする班は更に傷つくだろう。
 だからこそ、だからこそ弱点を突く班は全力で動く!
「彼の王を新たな主と決め、騎士となる道を選んだのは後の世代へ平和なこの国を遺さんがため。いざ‥‥参る!」
 ブレスを放つ危険な顔を避けるようにして邪竜の左側にまわる尾花満(ea5322)。
 彼と同じように左にまわるはク・ホリン、絶狼、フレイア、そしてマロース・フィリオネル(ec3138)だ。
「満! そっちは!?」
「いや、駄目だ! これといったものは何もない!」
 フレイアが矢を放つことで援護し、満がクロウの気を引きながら鱗の浮き具合などからリア・ファルのある場所をしていた。
 だが、これといったものは見つからず。それどころか振り下ろされる爪や衝撃で巻き上げられる土砂の対応で精一杯になっていた。
「ちぃ‥‥! 最初は効いてると思ったんだけどね‥‥!」
 一撃必滅の威力を持つ筈のフレイアの弓矢ですら、クロウはまるで意に介していない。
 デビルとの数々の戦いを繰り広げた冒険者なら、それが何かを知っている。
 エボリューション――同じ武器による攻撃は通用しなくなる魔法だ。
 だがそれでも鬱陶しいと思ったのか、クロウが顔をこちらに向けて口を開く。
 ―――闇が迫る。
「――っ!」
 不幸中の幸いは、他の班がクロウの相手をしてくれているお陰で、こちらに気を向ける・顔を向けるという行為が分かりやすいものになっていたことか。
 仲間の危機を察したマロースが、空飛ぶ絨毯を操りクロウの顔と仲間たちの間に入る!
「聖なる障壁よ――!?」
 高速で完成させたホーリーフィールド。達人級の威力を持つそれでも、闇の吐息は一瞬で粉々に消し飛ばす!
「あぁぁぁ!?」
 闇がマロースを、その後ろにいた冒険者ごと包む。
 ホーリーフィールドで軽減され、レジストデビルを全員に付与していてもその威力は絶大で、生きている事が不思議なものであった。
 ‥‥いや、そのうちどれかでも欠けていたら死んでいただろう。
「皆っ!? ‥‥くっ!!」
 ムーンドラゴンの鱗太郎に乗り、肉薄していたお陰でブレスの範囲外にいた絶狼。
 仲間たちが闇に包まれたのを見て、咄嗟にかけつけようか考えるがなんとか立っているのを見て考えを改め目の前の邪竜へと向かう。
 この状況なら助けに向かうより――
「お前の気を惹いた方が安全ってもんだ!!」
 槍を鱗に斜めに突き刺し、抉り取るようにそれを思いっきり振るう絶狼!
 感触はべりべりといった一般的なものでなく、まるで鋼鉄の城壁を力技で剥ぐようなもので。
「うおぉぉぉ!!!」
 それでも、渾身の力で1枚と言わず2枚3枚同時に一気に剥がし去る!
 ―――ぎろり。
 顔は真正面を向いたまま、クロウの目だけが絶狼を向く。意識がそちらに向いた証拠だ。
「すまんな、鱗太郎!」
 鱗太郎の応えるような吼えは気にするなといった意思のものだろうか。
 次の瞬間、絶狼の視界はクロウの爪で覆われた。

●太陽の意思
 左側班に対して、クロウの右側にまわったのはマナウス、リオン、蒼汰。遠くから観察する上でだがネフティス。そして太陽神ルー、だ。
「くっ‥‥!」
 足止め班が、左側班が気を引いてくれてるお陰で右側班への攻撃はそれ程激しくはない。
 申し訳ない――いや、ありがたいと思いつつだからこそ期待に応えるべく動く彼らだがリア・ファルはまだ見つからない。
 初めから拳大の大きさの宝玉を見つけるなんて土台無理な話なのだ―――と、そう考える。考えてしまう。
 ――普通ならば。
 だが、彼らはそんな事微塵も考えていなかった。
「無理無茶無謀、何だっていい。やらずに諦めるよりだったら、それが例え極小の可能性だってやってやる」
 そうだろう!!
 とのマナウスの問いに返ってくるは『応!』の一声。
 皆が力を合わせ信じれば、例えどんな困難でも打ち貫ける――!
「ネフティス! どうだ!?」
 少し出っ張っていたように見えた鱗を刀でそぎ落としながらネフティスに聞く蒼汰。ちなみに鱗が出っ張ってた理由は何てことなくその下の鱗が少し大きく成長していただけだった。
「駄目、まだ見えない!」
 彼女が行うはフォーノリッヂによる未来視。だが、それで見れるは『リア・ファルが見つからず邪竜が暴れる』という常に最悪の未来。
 よっぽど占いの単語を絞っていかなければリア・ファルの場所を特定するのは厳しいだろう。そしてそれまでの時間的猶予があるかといえば――。
「――覚悟を決めるか」
 ぐ、と手に持つ魔槍ブリューナクを強く握り締めるルー。
 それは神として、親としての決意。何としても子の未来は守る。
 その為ならば自身の命が失われようとも―――
「‥‥っ!? 待った!!」
 クロウに突撃しそうになったルーに制止をかけるはリオンだ。額に手を当てて意識を集中させている彼‥‥そう、戦場をかけめぐるテレパシーによる念話に集中しているのだ。
「他班からの連絡だ! リア・ファルを指定したムーンアローが術者に返ってこず、尻尾の方に向かったらしい!!」
「尻尾だと‥‥!?」
 言われてクロウの尻尾を見る冒険者。巨体に相応しい尻尾は一振りで森の木を根こそぎ持っていきそうなもので、ちょうど薙ぎ払われたそれが数多くの戦士達を同時に吹き飛ばしていた。
 ブレスの被害がある頭が一番危険だとしたら、尻尾はその次に危険な場所だといっていい。
 だが、例えどんなに危険でも――!!
「まるで山でも相手にしているみたいだ、強大過ぎる。比べて俺は‥‥小さく何も無い。けど、ここで退いたら‥‥オレ達の全てが無くなっちまう。逃げたり、何かを犠牲にすればもっと簡単に『結論』を出せるかも知れないけど‥‥そんなの違うだろ!」
 リオンの言葉に、冒険者達は無言で頷く。
「オレ達は全員、生きて帰るんだ! 」
「応!!」
 轟き唸る尻尾に向かい、冒険者達が走る!!

 それから、あるだろう場所の特定自体は難しくなかった。
 他班の援護だろうムーンアローが何度かクロウ・クルワッハの尻尾へと吸い込まれていくからだ。
 それによると場所は尻尾の根本。裏側なので鱗が無いのだが、角度的に死角になっていて普通に見つけるには非常に困難な場所であった。
 尻尾を想定から外し鱗のある側だと考えていた冒険者達にとっては盲点といってもいい。他班からの援護がなく発見が遅れた場合の被害は――いや、一先ずそれは置いておこう。
 何にせよリア・ファル自体はまだ目に入らないが、場所の特定はできたのだ。
 だが―――。
「くっ、あの振り回されてる先端じゃないだけだがマシだが‥‥!!」
 蒼汰の言う通りマシなだけだ。尻尾の根本にあるリア・ファルを狙うという事は懐も懐に入らなければならない。
 いくら台風の目が比較的安全だと言われていても、入る為にはまず台風を耐えなければならないのだ。
 被弾を覚悟で懐に入ったところで、まず吹き飛ばされるのがオチだ。
「なら、礎があればいい‥‥!」
「ルー!?」
 す、と一歩前に出るとそのまま右手にブリューナクを携えた状態で尻尾に向かい駆けるルー。
「一撃程度じゃ死にはせん! 多分な!!」

 それとほぼ時を同じくして。
 ブレスから始まる連続攻撃を何とか耐え凌いだ左側班は、ポーションやマロースのリカバーにより何とか戦えるレベルまで回復していた。
「ただ、もう一度ブレスが来るとやはり厳しいものが‥‥」
 空飛ぶ絨毯であちらこちらの怪我人を治療しながら様子を見るマロース。
 ブレスの残留にニュートラルマジックが効くかと試してみたが当然の如く答えはNO。ブレスは魔法ではないからだ。
 そして先ほどの防御方法は何度も使えない。ブレスが来たら終わるのだ。
「じゃあ、ブレスが来る前に終わらせりゃいいんだろ!」
 傷が癒えると、即立ち上がりゲイ・ボルグを片手に尻尾の根本へと走るク・ホリン。
「あ、おい!?」
「親父がいい年して無茶やるみたいだからな。だったらそれに付き合うのが息子だろ!!」
 絶狼が止める間もなく向かうク・ホリン。その動きは正しくルーと同じで。

「ゲイ・ボルグ!!」
「ブリューナク!!」

 ―――翔び穿てぃ!!!

 2人が跳び、そして同時に放たれる2本の魔槍。
 それは同時に尻尾の中ほどに突き刺さる。
 クロウは痛みか反射か狙ってか、空中で交差するように重なっている2人を尻尾で思いっきり叩き払う!!
 ルーが、ク・ホリンが宙を舞う。2人が無事かどうかなんて分からない。
 だが。
 それでも。
 ついに。
「隙が出来た‥‥!」
 振られた尻尾はまだ戻っていない――。

●闇を祓う太陽
 リア・ファルのある場所に向かい、冒険者達が走る!!
「キャメロットは潰させねえ、お前が強い想いに反応するってんなら俺の魂の雄叫びを聞きやがれ!」
 走りながら絶狼が叫ぶ!
「大切な人を、場所を、心を守りたいって想いなら俺達は誰にも負けねえ!」
 そうだ。
 いまや邪竜に取り込まれて力を与える事になってしまったリア・ファルだが、元はケルトの至宝。
 邪悪が使うものではない―――!!
 その思いに応えるかのように、邪悪に屈せぬように、リア・ファルが虹色の輝きを放つ!!
 その輝きに導かれるように絶狼が、満が、蒼汰が、マナウスが懐へと入る!
 エボリューションの為に、オーラパワーが使えない絶狼と蒼汰の刃は入る事はない。
「それならそれでっ!!」
 と、2人はフォースシールドを叩き付けるようにして、押し潰すように迫ってくる尻尾の根本を押しとどめる!!
「俺は絶対に勝利を土産に彼女の元に帰ってみせる!」
 蒼汰の脳裏に浮かぶは、帰る事を誓った愛しい人の顔。そうだ、誓いは守る為にある。誓いが、思いが、愛が、彼を支える!
 そして新たに武器にオーラパワーが付与されたマナウスの槍が、満の剣が、リア・ファルが浮かぶ肉に突き刺さる。
「これはケルトの民のものだ、返して貰うぞ!」
「貴様を倒し、皆で生還する‥‥必ずな!!」

 リア・ファルが―――斬り離される!
 斬り離されたリア・ファルを持ち、マナウス達は急いで懐から脱出する。
 邪竜の咆哮が響くのはその直後であった。

 リア・ファルからの力の供給は無くなり、これを機にと冒険者達がトドメの一撃を放つ準備をしている。
 吹き飛ばされたルーとク・ホリンだが、辛うじて息はあった為、マロースのリカバーで何とか持ち直した。
 ―――戦いの終わりは近い。