【最終決戦】全てを取り戻す為に

■イベントシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月13日〜01月13日

リプレイ公開日:2010年01月21日

●オープニング

「ラーンス・ロット。貴公は今、死んだ」
「え?」
 先の発言は剣を持ち、目の前にいる男性の首にそれを当てている男のもの。
 後の現状を理解できないが故に出た声は、剣を当てられている男のもの。
 後者――ラーンスの手には剣は握られておらず、彼が持っていただろう剣は近くの地面に突き刺さっていた。
「そうだろう? 立会人」
 ラーンスに当てていた剣を鞘に収めながら、先ほどから2人を見守っていたまた別の男性に声をかける男――アーサー・ペンドラゴン。
 立会人と呼ばれた男は頷くと、雰囲気を察したのかその場を去る。
 この場で行われていたは決闘。その結果が先程の光景、ということだ。
 ラーンスは死を覚悟して臨んでいた。
 だがアーサーは命を取らなかった。
「もう一度言うべきか? ラーンス、貴公は死んだのだ」
 アーサーが暗に言いたい事は分かる。
 ―――死んだ人間なのだからこの先は好きにするといい、と。
「何故!?」
 問われ、苦笑するアーサー。
「確かに数々の事件‥‥貴公が原因の一端を担っていると言えるだろう」
 続く言葉は――
「だが、主因はデビル。デビルの陰謀の被害者を皆斬っていたらそれこそデビルの思う壷だ」
 尤もさすがに処分無しというわけにはいかんからこのような扱いになったがな、とアーサーは続ける。
「私を‥‥信じてくださるのですか?」
「友と、背を斬る騎士。どちらが信じられるかは言うまでもない」
「陛下――」
 背を斬る。
 それは騎士として最もやってはいけない事の1つである。
 だが、それをやった騎士がいた。ありもしない噂をラーンスの耳に入れた。その騎士はラーンスにもギネヴィアにも繋がっていた。デビルが入ってこないよう警護する筈の人物であった。
 そしてアーサーは、ラーンスを友と呼んだ。
 こんな自分をまだ友と呼んでくれるのだ。
「陛下‥‥歩むべき道を決めました」
「言うがいい。名も無き男よ」
 アーサーの目の前にいるのはラーンスではない。何故ならラーンス・ロットは死んだのだから。
「私は王に剣を捧げ、国を支える騎士になりたいと思います」
「‥‥全て、一から始める事になるぞ」
「望む所存です」

 王と名も無き男の、騎士叙任の式が行われた。
 2人だけの式。
 その筈であった。

 ぱちぱちぱちぱち‥‥。
「!?」
 2人しかいない筈なのに、響く拍手の音。音のする方に目を向けると1人の人物が立っていた。
「ラーンス・ロット‥‥試練を乗り越え、成長する事ができたのですね」
 発せられる声は女性のもの。
 拍手をしていた人物は、白い髪と白い肌を持ち、白い服を身に纏った美しい女性。
 だが、2人とも見目麗しい女性だからとはいえ油断せず、警戒のレベルを上げていく。
 何故なら、ここには誰も通さぬようにしていたからだ。
「‥‥何者だ」
「これは失礼しました。確かに部外者の私は名乗るのが筋というものです」
 スカートの裾を摘まみ、それを持ち上げるようにしながらお辞儀をする女性。
「私はセル。‥‥この姿では、そう名乗っています」
 それが示す事は、それとは別に本来の姿があるという事。
 疑問に思った直後、セルと名乗った女性が眩いばかりの光に包まれる。
「なんだ!?」
 光が収まると、セルが立っていた場所にまた別の姿をしたものが立っていた。その姿はまるで―――
「天使‥‥だと!?」
 白き翼を持ち、ある意味神々しさすら感じる威光を放つその姿は正しく天使のそれであった。
 だがアーサーとラーンスは、それを否定したかった。何故なら魂が、天使ではなく‥‥悪魔と出会った時と同じ反応をしているからだ。
「えぇ、あなた方の反応は正しい」
 そう微笑む猫目の天使。
「私の名はクロセル。少々、特殊なデビルです」
 どこが少々だ、とアーサーは歯噛みする。
 今の彼の手にはデビルを探知するアイテムがある。しかし、それがまったく反応を示さないのだ。
 見た目も相まって、エンジェルだと言われたら100人が100人そう思い込むだろう。
「そう、ですね。確かに私は同胞からも奇異の目で見られる事が多いです」
 恐らくその理由は――
「私が好むのは才能の発掘、だからでしょうか」
「才能の発掘?」
「私は人であれ獣であれ天使であれ悪魔であれ眠っている才能があるならば、それを掘り起こして成長させたいと考えるのです」
 それだけを聞くと確かにデビルらしくはない‥‥と考える事ができる。
「例え、どんな試練を与えてでも」
「―――!」
 人は苦労なく成長するのは難しい。
 だからといって、理不尽な試練を与える存在があってもよいかというと、また別だ。
「私は、幾度もこの国を襲う試練を乗り越えるあなた方を見て興味を持ちました。‥‥あ、誤解されては困りますが、今までの試練に私は関与していませんよ?」
 そんなクロセルの目的。
「そして私は思ったのです。私からまた試練を与えればあなた達はより成長するのではないかと。そう、試練です!」
 ぎっ、とアーサーは奥歯を強く噛み締めて飛び掛りたい衝動を必死に抑える。
 国が、民が苦しんだあの戦いを試練で済ませるのか、と。その上更に戦いを起こすのかと。
「その上でこうも思うのです。――デビルにも試練を与えるべきだと」
 クロセルが何かを投げる。アーサーの目の前に突き刺さったそれは―――
「エクスカリバー!?」
 アスタロトに奪われたまま行方がわからなくなっていた聖剣である。
 思わず抜き重さを実感してアーサーは確信する。本物だと。
「エクスカリバーとギネヴィアは今、私の手にあります。剣自体は今お返ししましたけどね?」
 何故それらがクロセルの手にあるのかは2人には知る由も無いし、この場では些細な事だろう。
 そして返されたのは剣。
「そういう事か‥‥!?」
「話が早くて助かります。聖鞘とギネヴィアを返してほしければ、最後の決戦を致しましょう。あなた達が勝てばギネヴィアは確かにお返しします」
 何故鞘も賭けるのか。
 詳細は省くが、鞘の所持者は決して傷つく事がないという話がある。その話がどこまで真実かは所有者と近しい者しか知る由がないが、それを念頭に置くと、確かに剣より鞘の方が重要なのだ。
「‥‥何故だ!?」
 アーサーにもラーンスにも、クロセルの真意が読めなかった。
 望みが試練というのならば、王国を襲えば済む話でエクスカリバーと王妃を賭ける理由にならないからだ。
「ふふ。私は対応者よりも、望みを得るために頑張る者の方が美しいと考えていますので。‥‥それにデビルにも死に物狂いで頑張っていただき、成長してくれた方が望ましいというものです」
 そして、とクロセルは付け足す。
「―――私、アスタロト嫌いですから」

 聖鞘と王妃をかけた最終決戦の幕が開く。
 騎士達の先頭に立つは―――アーサー・ペンドラゴン。



 騎士団詰め所。
 王宮騎士エクター・ド・マリス―――の先輩騎士は頭を悩ませていた。
「決戦自体はともかく、だ」
 悩みのタネは目の前の人物。
「なんでうちの隊はこういう問題人物しか配属されねぇんだよバーカ!!」
 目の前の人物は黒き鎧で全身を包み、顔すらうかがえない1人の騎士。
 彼は名無し(ネームレス)と名乗り――名乗ってないが――気軽にレスと呼んでほしいと言っていた。
「‥‥類は友を呼ぶって言葉がありますからね」
 困ったような、しかし嬉しそうな顔でレスを見るエクター。
 そのエクターの腰にはアロンダイトが下がっていた。

●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ ヒースクリフ・ムーア(ea0286)/ アリオス・エルスリード(ea0439)/ グラディ・アトール(ea0640)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ リオン・ラーディナス(ea1458)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ 閃我 絶狼(ea3991)/ フィーナ・ウィンスレット(ea5556)/ アンドリュー・カールセン(ea5936)/ ローガン・カーティス(eb3087)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ 鳳 令明(eb3759)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ アンドリー・フィルス(ec0129

●リプレイ本文

●最終決戦
 キャメロット城の正門の扉が開き、そこから姿を現すは馬に跨ったアーサー・ペンドラゴン。
 その後ろには彼に付き従う多くの騎士達‥‥今回の戦いに出撃する騎士団だ。
 アーサーは正門前の広場に集まっていた冒険者達を見渡し、全員の視線が自分に集まってる事を確認するとエクスカリバーを天に向かって掲げる。
「これよりの戦いはデビルから仕組まれたものだ。そしてそのデビルが何を企んでいるかは我々には分からない。―――しかし! だからといってグィネヴィアと聖鞘を奪還できる絶好の機会を逃すわけにはいかない! この国に仇名す邪悪を見過ごすわけにはいかない!」
 一息。そしてアーサーは天に向けていたエクスカリバーを、地平に向けて振り下ろす。その剣先の遥か向こうにあるのはクロセルが待ち構える砦。
「この場にこうして集まってくれた諸君よ、力を借りるぞ!!」
 ―――出陣!

 出撃してからしばらく。
 陣は大まかにパーシ・ヴァルの率いる露払いと、アーサー王が率いる本陣へと分けられる。
 こちらは王の率いる本陣。
 護衛を引き連れつつ、先頭に立つ王の背を見ながら嘆息するはアリオス・エルスリード(ea0439)だ。
「王も変なのに目を付けられて厄介なことだろうな」
 変なの、とは勿論クロセルの事だ。ともあれ―――
「アスタロトと対峙せずに王妃とエクスカリバーの鞘を取り戻す機会が得られたのは僥倖と言うべきか」
「確かに‥‥でもクロセルさん? 無茶苦茶怪しいけど、お誘いに乗るしかないのが厳しいところよね」
 アリオスの言葉に同意しつつも、どこか納得できない様子なシェリル・オレアリス(eb4803)。
 クロセルが言うには彼女の目的は試練との事だが‥‥デビルの言う事。どこまで信じられたものか分かりはしない。
 それに―――
「試練とは、己の心の中で作るもの。こんなものは、ただの障害だ」
「己の欲望に自重が無い辺り、確かにデビルだな。クロセルとやら」
 当の目的である試練をアンドリュー・カールセン(ea5936)は一言で切り捨てる。
 その上で彼のデビルは綺麗事を並べてる風に言い、しかし本質は欲望に忠実だと論じるヒースクリフ・ムーア(ea0286)。
 そうして、クロセルの事で気になる事があるのかフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は手を顎に当てて考え込む。
「光の支配者とかいっていた集団の時‥‥いえ、違いますね。何かでセルの名を見たような‥‥?」
 クロセルが王の前でセルと名乗ったという話を聞いて、引っかかった事があったのか自分の参加した依頼の報告書を読み返したフィーナ。
 しかし、セルの名はどこにも書かれてなかった。ならどこで――? ブライトン関係の、何か――?
 ともあれ、これ以上考えても仕方ないとフィーナは、騎士の一人‥‥黒き鎧を身に纏ったエクターに並ぶと、声をかける。
「さぁ、行きますよ。エクターさん。騎士たる者、淑女の身はしっかりと守ってくださいね?」
「淑女って‥‥いや、確かに言ってる事は間違ってないのですが」
 にっこりと笑うフィーナ。それに込められた意は「何か問題でも?」といったものか。
 そんな2人の様子を少し離れたところから見るは、エクターと同じく黒き鎧に身を包んだ騎士‥‥ネームレス。
 何を考えているのか、何を思っているのか‥‥兜越しではそれを察するのは難しい。
 だからこそ、グラディ・アトール(ea0640)は彼に声をかける。
「ネームレス殿‥‥信頼してよいのですね?」
 それは彼が正体不明の謎の騎士だから‥‥というわけではない。正体を察しているからの言葉だ。
「‥‥あぁ。とても信頼してもらえるような身でないのは承知している。だが信頼してもらえるのならそれに応えたい」
 グラディに向き直り言うネームレス‥‥彼と肩を組むよう後ろからにゅっと首に手をまわすは閃我絶狼(ea3991)。
「レスとか何? ‥‥そんなカッコ良い呼ばれ方許さないよ、名無しの権兵衛だからゴンで良いよ」
 唐突な言葉に少し驚いた様子のネームレスだったが、絶狼の言葉を理解したのだろうか。くっくっと忍び笑いを漏らす。
「名無しでありながらゴンベエ、か。ジャパンの文化は面白いな」
「嫌なのか?」
「いや。ゴン、か―――悪くない」
 いいのかよ! というツッコミはともかく。
 彼の表情は兜のせいで分からない‥‥が、なんとなく今は笑っている。そんな気がした。

 そして改めて前を先導するアーサーを見る。
 愛する王妃を今まで救いに行く事ができず、今の彼の心中はいかなものか。
「にょにょ〜、ア〜サ〜王カッコイイにょ〜。おりもがんばるにょ〜」
 鳳令明(eb3759)は出陣前の王の言葉を思い出しつつ、彼に尊敬の念を抱きつつ――
「でも、王様はあんな美人にょお嫁さんを差し置いて、大きな子供を拵えていたりしてるにょ」
 あばれんぼうにょ〜と密かにじと目で見てみたり。その言葉が聞こえたら多分面倒な事になります。
 ともかく。
「王様には王妃様の笑顔を取り戻す義務があると思うのです」
 王の気迫、想いを理解して‥‥だからこそ彼に手を貸そうと思うジークリンデ・ケリン(eb3225)。
 同じくヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)も気合十分だ。
「ふはははは! アーサー王の親征とはいつ以来であろうか! これは我らも気合が入るであるな!」
 彼は王に挨拶し、2、3言葉を交わすと前の方へと移動する。露払いの方へと合流する為だ。
 オルステッド・ブライオン(ea2449)、アンドリー・フィルス(ec0129)の2人も同じく露払いに合流する。
 勿論気合十分なのは彼らだけではない。
 それは、この戦場に出撃している全員に言える事だ。
 全てを取り戻す為に―――。
 イギリスに平和を齎す為に―――。
 ローガン・カーティス(eb3087)は心の拠り所である故郷を想い、しかし振り返らない。
 その平和を守る為に、自分は前に進むのだから。

●開戦
 目的の小さな砦がある渓谷‥‥その前の平野にはやはり、というか相当のデビルやモンスターがいるのが目に見えた。
 しかし、それに怖じ気つくものは誰ひとりとしていない。
 戦いが――始まる。

 敵の大半はアーサー達の前に展開されているパーシ達が相手をしてくれている。
 王達をなるべく無傷で砦に導く為だ。
 とはいっても戦場は広く数は多い。空の隙をついてこちらまで来るものもいるし、大きく迂回して横からついてくる敵もいる。
 だが――
「ヒースクリフ! そっちに抜けたの任せた!」
「あぁ、承知した!」
 ペガサスに乗り、戦場を大きく見渡しながら地上を駆ける敵を上空から狙い撃つアリオス。
 そして彼と同じように空をフライの魔法で飛びながら、ヒースクリフは空を翔る敵を斬り滅していく。
 また空だけでなく当然地上の者たちも奮闘していた。
「よーしよし、まずは魔法班の一斉放火! 突っ込むのはその後だ!」
 1、2の3!
 先輩騎士の指示に合わせて迫りくる敵に向かい攻撃魔法が放たれる!
 フィーナのライトニングサンダーボルトが! ローガンのファイヤーボムが!
 ジークリンデのグラビティーキャノンが! フレイ・フォーゲル(eb3227)のファイヤーボムが!
 広範囲の敵に大打撃を与える!
 弱い雑兵程度なら今の一斉放火で落ちるが、それでも生きてこちらに向かってくる者はいる事にはいる。
 それを迎撃するのが前衛班だ。シェリル・オレアリス(eb4803)が事前に付与したレジストデビルのお陰で、悪魔に属する者の攻撃は脅威ではない!
「妙刃、破軍!」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)の放つ広範囲剣撃によって、多くの敵が一度に滅され、しかしその範囲を抜けたモンスターはエクターやネームレスといった者たちに即座に斬り滅ぼされる。
「各自無意味な消費は避け、ただ目の前の敵を乗り越え前に進むことだけを考えろ! 前へ! 前へ! ただ前に! 友が築き上げた道を渡り! 屍で作った橋を超え! 流れる血の川を渡り我等は今ここにある! 後退する事は踏み越えた屍に対する冒涜だと考えよ!」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)が吼える。
 そしてその言葉の通りに彼らは進んでいく。前へ、前へ、前へ―――!

 戦いは順調であった。
 敵の大半はパーシ達が引き受けてくれるし、それで漏れた敵も即座に魔法と剣と弓の連携で滅ぼされていた。
 こうして、王率いる本陣は大きな消費をする事もなく渓谷入り口まで辿り着く。
 いざ、砦に向かわんとした時‥‥後方から声が上がる。
「何があった!?」
 その問いかけに答えるのは、迫りくる強大な気配。
 だが。
 パーシ達が陣を変え、後方からの敵に備える。ならば、恐れる事は何もない!
「大丈夫か、とは言わん。‥‥任せたぞ!」
 そして
「我らが背は信頼できる戦士に守られている! 恐れる事は何もない。後顧の憂いが無いならば―――前に進むだけだ!」
 王の言葉に従い、騎士が、冒険者が、前を向き後ろを振り返らずに走る!
 ヤングヴラド、オルステッド、アンドリーの3人も合流して、だ。

 狭い渓谷の上空から仕掛けてくるデビルや、正面に陣取るオーガを蹴散らし、王はついに砦へと辿り着く――!

●才能
 数々の敵を倒し、砦の前まで辿り着いたアーサー王達。
 このまま扉を開けるだけ‥‥なのだが、雰囲気が少々おかしい。
「妙だ、な」
「‥‥というと?」
 先輩騎士の疑問に、リオン・ラーディナス(ea1458)はその心を問う。
「砦の前に敵は配置されていた‥‥が、こうして門を開けようというのだからもっと中から抵抗があってもよいのだが」
 確かに、その言葉通り目の前の砦は沈黙していた。上方から矢が飛んでくる‥‥という事もない。
「待ち構えてるやつらに‥‥それだけ自信がある、ということだろう」
「アンドリュー!?」
 疑問に答えたのは、いつの間にか姿の見えなくなっていたアンドリュー。彼が全身傷だらけで唐突に姿を現した。インビジリティリングの効果で透明になっていたのだろう。
 彼は隠密に動いて、大半のデビルが表の軍に気を取られてるうちに砦に潜入する事で工作活動をしようと考えていたのだが‥‥考えが甘かった。
「内部構造自体は、確かに事前の情報通り‥‥。そして、敵はデビルと人間の混合で――がっ!?」
「無理するな! 医療班!!」
「私に任せて!」
 得た情報を伝えようと開いたアンドリューの口から出たのは血の塊。それを見て、シェリルが傍に駆け寄りリカバーで治療する。
 彼女の魔法により、アンドリューはなんとか持ち直す。
 だが、たった1人だったとはいえ、確かな実力を持つアンドリューにここまで手傷を負わせる‥‥。
 待ち構えている敵の強大さに覚悟しながら、扉を開ける――!

「ようこそ、王国のクソ共。歓迎するぜ、俺達流にな?」
 扉を開けて最初に目に入ったのは、斧を肩にかけるように構えていた大男。
 そして、それに驚く間もなく冒険者達は殺気が迫るのを直感で理解していた。
「やらせるか!!」
 理解したからこそ、ヒースクリフとグラディは王の前に立つ。
 直後いくつもの風切り音が聞こえたかと思うと―――。
「――間一髪!」
 シェリルが高速で完成させたホーリーフィールドが、飛来してきた矢を受け止める!!
 その数は6。矢が放たれたのは目の前の大男の後方から、だろう。
「おいおい、今ので死んでくれると楽だったんだがな。仕方ねぇ!」
 大男が斧を大上段に振り上げ―――
「死ねやぁ!!」
 振り下ろすと発生するは轟と唸る剣風‥‥ソニックブーム!
 それは並大抵の攻撃は受け止めるホーリーフィールドに阻まれたかと思った直後‥‥それを打ち砕き、剣風が迫る!!
「なっ!?」
 王を狙った一撃だったのだろう。ちょうど王を護るようにしていたヒースクリフに直撃する。
 幸い、ホーリーフィールドで軽減されていた為大したダメージではない。だが、それを貫いたという事が問題なのだ。
「おいおい、武具強化がお前らだけのものだと思ってたのか? 伝手さえありゃなんとかなるもんだぜ?」
 その言い草どこかで聞いた事がある。そうだ、目の前の男は―――
「ビラオ!!」
 マナウスが、男の名を叫ぶ!
「ん、おぉ? いつかの時に会った奴らもいるのか。ちょうどいい、あの時のリベンジといこうか」
「誰であるか?」
「‥‥お前も戦った筈だぞ、ヴラド」
 ビラオ。有名というわけではない。しかし、確かに強敵であった人間‥‥!
「最後の敵は人、というわけですか。デビルの反応も1つしかありませんし‥‥これはクロセルのもの?」
 状況把握の為のシェリルのデティクトアンデットの反応には不死者の反応は一つしかない。
「――いや、それは俺のものだな。奴はある意味エンジェルと同じだから仕方ないが」
「!?」
 言葉と共に闇の中から姿を現すは、山羊の角を頭に生やしたデビル。
「なんの用だ? ハイゼル」
「は、俺も出ろと言われてな。まったく面倒なやつの下についたものだ」
 ハイゼルと呼ばれたデビル‥‥名を聞くのは初めてである。しかし、見知った者がいた。
「お前は――お前は‥‥!!」
 ネームレス。
「マレアガンス城で、王妃に取りついていたデビル‥‥!!」
「あぁ、そんな事もあったな。くくっ、しかし何故お前がそれを知るのかな? 名も無き新人騎士君?」
「黙れ!!」
 ネームレスが剣を構えながら一歩前に踏み出す。いつでも斬りかかれる状態だ。
 それと同じく、冒険者達や他の騎士‥‥王達も戦えるように展開していく。
 最前に出るはオルステッドだ。
「‥‥フッ、王や騎士たち、それにこの国に縁ある冒険者は貴重な存在。まずは私のような一介の傭兵が危険を犯すべきさ‥‥」
 デビルを狩れればそれでいいという彼の言葉に、ビラオがニヤリと口を歪める。
「いいぜ、いいぜぇ。そういうの好きだぜ。俺だって殺すのが大好きだから分かるぜぇ!」
 冒険者達が展開していくのと同じく、闇に隠れていた敵も姿を見せていた。
 人間の男。ドワーフの女。ハーフエルフの姉弟。ジャパン風の着物に身を包んだ初老の男性―――。
 人種も性別も生まれもバラバラの者達‥‥。
「くくっ、殺す才能壊す才能奪う才能侵す才能盗む才能穢す才能―――奴が言うにはどんなやつにでも才能はあるそうだ。例えそれがどんなものであろうと、な」
 恐らくはハイゼルの言う通り、今ここに集められた者たちはそういう才能を認められたものなのだろう。
「さぁ、殺しあおうぜぇー!!」

●苦難の試練
 この局面において、戦いはシンプルなものへとなっていた。
 ビラオを始めとした敵の前衛。そして弓を使う後衛。魔法で援護するハイゼル。
 こちらの冒険者達も前衛、中衛、後衛と分かれていた。
 もはや武具強化による優位はない。ならば、それこそ実力と連携の勝負――!!
「出し惜しみはせんのだ! カリスマティックオーラ!!」
 ヤングヴラドはカリスマティックオーラを始めとして、いくつもの神聖魔法を使い、援護する。
「妙刃、水月!」
「はああああぁぁ!!」
 メグレズが迫る敵の攻撃を受けたかと思うと、返しの刃で大打撃を与える!
 その攻撃で大きな隙を作った敵にアンドリーがトドメとなる連撃を加え、1人倒す。
 前衛の戦闘力としては問題ない。
 ただ、問題があるとしたら後衛だろうか。場所が場所な為に、狭くて広範囲になる魔法は使えないのだ。
 しかし、弓をメインとした敵は範囲を気にする事なく攻撃する事ができる。その差だ。
「くっ、早めに前衛を倒さなければ‥‥!」
 味方の魔法使いが弓で傷を負っているのを見て、カラドボルグの力を使うグラディ。
 それにより、一気に傷は回復して持ち直す事は持ち直すが――。
「うらぁぁぁぁ!!!」
 暴れるビラオが止まらない。
 ネームレスをぶつければ何とかなるかもしれないが、そこは敵も大したもので2人の前衛をネームレスに当てる事で仕事ができないよう制限していた。
 だが―――
「今だ! やっちまいな、マリちゃん!」
「はぁぁぁぁ!!!」
 地中から顔を出した絶狼がローリンググラビティーで複数の敵の体勢を崩すと、そこにエクターのアロンダイトの一撃が放たれる!
「これ以上‥‥邪魔をさせるか!」
 アリオスの放った矢が、敵後衛のうちの唯一の魔法使いの胸を貫く!
「姉さん!?」
「‥‥この期に及んで余所見とは随分余裕だな‥‥!」
 今貫かれたのは姉なのだろう、ハーフエルフの少年の一人が振り向くと、その隙をオルステッドが巧みに突く。
 剣は胴を寸断し――
「お前たちは‥‥僕から何もかも奪い‥‥姉さんまでも‥‥奪うのか‥‥!?」
「‥‥知ったことか‥‥」
 絶命させた。
 こうして、こちらの連携がうまく働き、敵は少しずつ切り崩されていく。
 そしてトドメとばかりに‥‥ジークリンデの魔法が完成する!
「これで終わりです――ストーン!」
 敵を石に変える魔法。確実に決まるわけでないが、彼女のストーンは広範囲かつ複数を対象に取ることができる。
 この状況で、2人を石に変える事ができた時‥‥それはほぼ趨勢が決まった時と言っていい。
「今こそ! この力を使う時―――!」
 これを機と見たのだろう。アーサー王がエクスカリバーを構え、幾多もの騎士をなぎ払うビラオの前に出る!
「我が敵を打ち倒せ!! エクスカリバァァァァァ!!!」
 エクスカリバーに白光が灯り、光が剣閃として放たれる!!
 それはビラオに直撃し―――
「ぐっ、んだこれはぁぁぁぁ!!?」
「これで、終わりだ!!」
 マナウスの槍が、グラディの剣が、リオンの剣が、絶狼の槍が次々に突き刺さる!
 それは、彼の暴虐の狂戦士へ終焉を齎す攻撃――。
「かっ、がは‥‥!? ぐっ、そうだ、殺せ殺せコロセコロセコロセぇっ!! お前らはより力を得る! より強くなる! そうだ、殺す為に―――がふっ!!?」

「ちっ、潮時か‥‥」
 ビラオがやられ、他の人間も殆どやられた。もはや負けは確定したといっていい。
 そうなった以上、ハイゼルにこれより付き合う義理はなかった。
「元より試練などどうでもいいし―――!?」
「そうは、いきませんよ?」
 空を飛ぶハイゼルの腹を、背から貫通するは氷の剣。
「試練から逃げるというのなら、ここから去ってもらうだけです」
 白く微笑む悪魔、その名はクロセル――!!

●最終試練
 クロセルの一撃により、ハイゼルは光となって消えた。今の一撃がトドメとなったのだろう。
「見事。そう。実にお見事でした」
 ぱちぱちぱち。
 いつかと同じように拍手をするクロセル。彼女が見渡す限り、デビル側の残存勢力はない。
 対して王側は負傷者は多いものの、辛うじて死んだ者はいない。完勝と言っていい。
「それでは約束通り‥‥王妃をお返ししましょう」
 ぱちっ。
 彼女が指を鳴らすと、何も無かった空間に横たわったグィネヴィアが宙に現れ‥‥そのままアーサーの腕へと収まる。
「グィネヴィア!? 無事か!!」
 抱きしめて、実感する。生きている暖かさを感じる、と。
 しかし、衰弱しているのだろうか。意識は無い。
「王妃はこちらにお任せください」
「くっ‥‥すまぬ。任せたぞ」
 フィーナの言葉に従い、グィネヴィアを医療班へと保護させる。
「何か仕組まれていたりは――エクターさん、お願いします」
「はい!」
 ローガンの言葉に従い、エクターはアロンダイトを掲げる。
 しかし、グィネヴィアには何も起こらない。そして万一を考えシェリルが解呪を行う。
「あら、信用されてないみたいですね」
「当然だ。‥‥確かにグィネヴィアは無事のようだがな」
 アーサーの言葉通り、グィネヴィアは無事であった。衰弱も、城まで帰る事ができればなんとかなるだろう。
 そして、グィネヴィアは帰ってきたが‥‥聖鞘はまだ返っていない。
「どうしました?」
 だが、対するクロセルの顔は実にとぼけたもので。首を傾げて、あからさまに分からないといった様子を見せるほどだ。
「成るほど、やはり最後の試練を乗り越えねば返す気は無い‥‥ということであるか」
 ヤングヴラドの言葉に、クロセルはただ微笑むだけ。
 ならば―――と、リオンが意気込む。
「ここに来た目的は他でもない‥‥キミをナンパしに来た!」
「あら、私人妻ですよ?」
「ここにきてフラレー更新!?」
 いいから本題に入れ。
「ともかく、俺は‥‥超人ではない。人間のまま、君の試練を乗り越えてみせる!!」
 リオンが剣を構え、クロセルに走る!
 それに合わせ、アリオスがクロセルの手に向かい矢を放ち、絶狼も走る!
「俺としては散々迷惑かけどおしの駄目王妃も至宝の鞘もどうでも良いんだ、けどこのままじゃ王様可哀想だし〜鞘もデビルが持つとなると碌な事になりそうもねえ、そして何より!その上から目線が気にいらねえな、クロセルさんよぉ!!」
「閃我とやら、今の聞かなかった事にしておいてやるぞ!」
「王様に名前覚えられちゃった!?」
 それはともかく。
 アリオスの矢が刺さり、絶狼の槍が刺さり――リオンの剣が振るわれる!
 しかし、効いたと思ったそれは、殆ど傷にならないようなもので。
「聖鞘の力か!! でも――」
 諦めたりはしない!
「王も貴族も民も、皆が幸せに暮らし続ける‥‥それだけでも十分試練なんだよ。与えられる試練なんて偽りだ!」
 リオンの剣が再びクロセルの襲い掛かる。
 それに加えて、マナウスも槍を手にクロセルへと向かう!!
「そう成長する事とは苦しむ事悲しむ事痛む事! だがそれは自ら選び取った先のこと! 決して他者の意に従ったものではない! 我等の意思で苦難を超える事にこそ意義もあれば意味もある! それらを知り、乗り越えてこそ真に成長がある!」
 リオンの一撃と、マナウスの一撃が、重なる!
「それが我が答え! 成長する為の対価を心に刻み、止まる事無く果て無き理想に向かい歩みを止めぬ己が意思!」
「くっ―――!」
 クロセルが確かに傷を負った。リオンとマナウスの一撃が重なった場所に、だ。
「‥‥‥ふふ」
 だが、だがしかし。
 それでも、それでもまだクロセルを倒すには程遠い。
「ふふ、そうです。―――私はそれが見たかったのです」
 しかし、それだというのにクロセルはどこからか剣の鞘‥‥聖鞘を取り出す。
「え〜い、にゃの〜!」
 これを好機と見て、今まで隠れていた令明が後ろから体当たり――本来なら難なく避けられるものだろう――を、しかしクロセルは甘んじて受け、その勢いのまま聖鞘を手放す。
「!?」
「例え勝てない敵だろうと、しかし決して諦めず全ての力を出して立ち向かう‥‥それが見たかったのです」
「また上から目線か!?」
「えぇ、そうですよ? 気に入らなくても諦めてください。私は所詮デビル、自分の欲望に忠実なだけですから」
 ふふっ、と本当に楽しそうにクロセルは微笑む。
「しかし、貴方達は面白い。えぇ、実に最後まで見てみたい。‥‥こんな面白い貴方達をアスタロトなぞに潰させるのは惜しい」
 クロセルの‥‥姿が消えていく。

「貴方達が生きている限り、私はあらん限りの力でアスタロトの邪魔をしましょう。ふふ、私を失望させないでくださいね?」

 そして‥‥最後に残ったのは床に落ちた聖なる鞘。
 アーサーはそれを拾い、確かめる。確かに本物だ、と。
 釈然としないところもある。
 だが‥‥それでも勝利したのだ!
 アーサーはエクスカリバーを手に砦の外へと出る。外はもう戦いが終わっていたようだ。
 外にいた者達の視線を受け、アーサーは鞘に収められたエクスカリバーを掲げる!
「グィネヴィアも聖鞘も取り戻した――我々の、イギリス王国の勝利だ!!」
 冒険者達にも、騎士達にも、笑顔が浮かぶ‥‥。
「そしてこの勝利は我々騎士達だけでは掴む事ができなかったものだ。冒険者達よ、感謝する。さぁ‥‥勝利の凱旋だ!」