狩られる側の場合
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月11日〜08月15日
リプレイ公開日:2005年08月17日
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●オープニング
「ほれ、わしの方は兎がこんなに獲れたぞい。そっちは‥‥どうやら収穫無しのようじゃのう」
薄く白い髭を口周りに携えたその男は、エルフの女性に明るい口調で言った。エルフの女性は、ムスっとした顔で、何もかかっていない自分の罠を見つめ続けている。
二人は、『どちらが優れた猟師であるか』ということで揉め、それを明らかにするため、山での獲物収穫数を競っていたのだった。まぁ、男の方は猟師ではなく、山師を生業としているのだが‥‥。
両者、弓の腕っぷしはなかなかのものである。しかし、罠の知識においてエルフの女性は男に敵わず、その結果、収穫数は彼女の方が少なかった。
「経験の差、いわゆる年の功という奴かのう。では、わしの勝ちということで決まりじゃな、エルデ」
エルデと呼ばれたそのエルフの女性は、悔しそう歯を食いしばっている。まだ若々しい外見の彼女だが、年齢のことを言ってしまえば彼女の方が上なのだが‥‥。
「‥‥まだだ、こんな勝負で納得ができるかっ!」
「どんな不満があるのかのう?」
「弓の腕では私の方が腕だ! 狩りの対象が動物だから、お前の罠でも簡単にかかるだけだ」
「つまり何が言いたいのかのー?」
「もっと手ごたえのある敵が相手ならお前になど負けない! 今回の勝負は、お前が有利だっただけということだ!」
「では、今度はそちらが臨む条件、つまりはつわものを相手とした狩りで勝負しようかのぅ?」
「臨むところだ! 今度は負けないからな!」
と、こんな感じで狩猟の勝負をするのも何回目だろうか、と男は微笑みながら思う。
(「さて、つわものと言ったら‥‥。とりあえずあそこに行けばいいかのう」)
ここは冒険者ギルド。受付の係員に話しているのは、もう中年を過ぎた頃であろう風貌の、山師の男。名前を、平五郎と言った。
「というわけで、狩りの標的になってほしいんじゃよ。丸めた布に墨でもつけて、それを矢に使うので怪我の心配は不要じゃ」
「狩りの手伝いをしてくれと言う依頼はあっても、狩りの対象になってくれ、というのはなかなか珍しい依頼内容だな」
係員は呟きながら緒準備を整えている。
「冒険者の方々には、『森で敵に狙われた場合の逃避方法』の練習とでも思ってもらって構わんよ。ああ、それと食料はこちらから用意するので必要ないぞい」
係員は筆を取って文章をつづり、溜息混じりに呟き出した。
「しかしまぁ、自分の孫ならまだしも、よく赤の他人の娘にそこまで出資できるなぁ」
「天涯孤独の身であるわしとっては、自分の娘みたいに錯覚してしまってのぅ。それに、弓の腕もなかなか見込みがあってのう。それに、一見すれば言葉の荒い近付きがたい娘じゃが、実は素直でいい娘なんじゃよ。それに、西洋出身であるらしいがこの国の言葉も堪能でのぉ。きっと勉強熱心であるようじゃのう、あの娘は」
情けないほどに顔の筋肉を弛緩させながら、男は話していた。
(「親馬鹿予備軍だな、あのおっさん。‥‥まぁ、悪い事じゃないけど」)
そんな事を思いつつも、書類をまとめ、そして新たな依頼を張り出す係員であった。
●リプレイ本文
「いやいや、よく、集まってくれたのう」
冒険者を前にし頭を下げるのは依頼人の平五郎。
「折角ですからどこまで逃げられるか、自分の今の実力を試してみたいと思うです。頑張るですよー」
アミ・ウォルタルティア(eb0503)は声を弾ませながら、手をパタつかせていた。
「ふん。なんだ相手は冒険者か。こんな奴らに私の相手が務まるのか?」
エルフの女性、エルデは余程腕に自信があるのか、高飛車な態度を隠そうともせず言い放つ。
するとそんな彼女の手に、他の人の手の感触。
「僕達も未熟者の身ですが、エルデさんのご希望に添えるように、尽力致しますよ」
握手し、微笑を携えながらたおやかに言う小坂部小源太(ea8445)。エルデはその態度に戸惑いながら、顔をそっぽ向ける。
「ま、まぁ、精々頑張ってくれ‥‥って、わぁ! な、何だお前!」
「‥‥(ジトッ)」
すると横で、嫉妬のオーラ(のようなモノ)を滲み出しながら、張り付くような視線を向けている紫電光(eb2690)。驚き、エルデはその手を放した。
「お互い全力でいこうね。‥‥後で言い訳しないでいいように」
シニカルな笑みを浮かべ紅林三太夫(ea4630)は、ポロリと一言吐き出した。エルデはそれを聞いて明らかに不機嫌そうな顔をする。
「はいはいーい、それでは準備をして、開始と致しましょー!」
悪くなりそうな雰囲気を読んでか、はたまた偶然か、アミが開始を促し、始める事となった。
・ルール
矢を5回当てられた者は退場(盾、武器で受ける分はノーカウント)。
下記の状態になった時点で終了。
・全員退場
・二人が矢を使い切る
・二時間経過
「‥‥絶対仕留めてやるからなッ」
「それでは皆さん、宜しく頼みますぞ」
二人が森に入り、一定時間が経つのを待つ。
そうして、冒険者達は森へ入っていった。
そこに、いきなり接近してくる人影、エルデだ。反則的な速攻だ。
「まずはお前からだ、食らえ!」
彼女は矢を二本番え、弦を引いている。狙うは三太夫。
すると三太夫は他の冒険者の影に隠れ標的から外れる。それでも番えた矢は戻る事無く、放たれる。
「遊びとはいえ、小源太様に矢を射掛けるとは笑止!」
「っと! なんとか防げたかな」
二本の矢は光と、尾庭番忠太(ea8446)が構えた盾によって防がれた。
エルデは舌打ちして、三太夫の姿を追う。すると‥‥
あっかんべー。
そのわかり易い挑発にエルデは憤激し、矢を射ながら彼を追った。だが韋駄天の草履をはいた彼には、到底追いつけそうに無い。
この隙にアミ、番忠太は単独で奔る。小源太、光、ルゥナ・アギト(eb2613)は組になって行動。
そうして森に人影が散っていった。
エルデは、呼吸を整えながら歩いている。結局、さっき三太夫には追いつけなかった。顔をしかめながら辺りを見渡していると‥‥、
「いた! 無防備にノコノコと!」
小源太の姿を捉えると、即座に弓を構える。そうして射た矢は、見事それを撃ち貫いて‥‥、その姿を元の灰に戻した。それは、アッシュエージェンシーによって人の形を得ただけの、灰の傀儡。
「ふっ、下手糞」
戸惑うエルデに、不思議と聞こえた小声。振り返ったエルデの目に映ったのは、木々の隙間から半分顔を出して嘲笑する三太夫だった。
徒競走、再開。
エルデは走りながら矢を番え、撃ちまくる。しかし、三太夫は猟師として優れた知識と技術を有している。森を利用しながら疾走し、その矢は避けずとも、遮蔽物に遮られ彼に届く事は無かった。
そうして暫く走ると、追っ手の音が聞こえなくなる。三太夫は走りながら振り返ると、エルデは見えなかった。また振り切れたようだ。
「―ッ!?」
すると、彼が感じる突然感じる足元の違和感。重心が不自然に下がり、転倒。
それをさせたのは、浅めの落とし穴。シンプルだがそれは隠蔽性が高く、全力疾走しながらでは到底感知できる物ではなかった。
三太夫は転びながらも四周を見渡す。誰もいない。
(「僕がもし罠士だったら‥‥」)
起き上がりながら上を見ると、そこには木の上で、既に弦を引いている平五郎。放たれた矢は三太夫に命中する。
距離をとるため即座に起き上がり駆け出すが、その背中にもう一発。合計二発矢を受け、平五郎の射程から逃れた。
「ふぅ、さっきので決められんとは‥‥。結構しんどい思いをして登ったんじゃがのう」
平五郎はゆっくり木を降り、再び歩み出した。
アミは鬱蒼とした茂みに身を伏せて隠れていた。時々、ジャパン特有の小虫を見かけたりすると、それを眺め楽しんでいたりした。
「くそ‥‥どこだ!」
すると、先から聞こえるエルデの声。こちらに歩いてきているようだ。
足元に転がる石を二つ握ると、アミはそれを別方向に投げる。
「ん? そっちか」
エルデは石によって音が生じた方へ歩いていった。なんとかこの場は凌げたようだ。
「夏の山、すごく良い‥‥草の匂い、とても濃く‥‥落ち着く」
たどたどしいジャパン語で言うルゥナは、森で呟いていた。
ルゥナは耳目を働かせ、警戒に努めている。小源太はインフラビジョンを使いながら進む。その魔法の詠唱中は光が盾で守っていた。
そうして歩いていくと、突然小源太が立ち止まる。不審に思う二人に、無言で別方向を促す。二人はとりあえず指示に従い、示された方向に進む。
「‥‥む、気付かれたか。やりおるのう」
茂みから顔を出す平五郎。小源太は先の叢に潜む熱源を感知していたのだ。
視界の悪そうな所を選び、慎重に進んでいくアミ。しかし、仕組まれた罠は猟師相応の技術により隠蔽されており、彼女が見つける事は難しかった。ひっかかり、音を鳴らすそれらの罠。
しかしながら動揺する事無く、可能な限り身を潜めるアミ。
それは突然視界に入った。弓を構える男。
気付いたその瞬間から、反射的に逃走の体勢をとるアミ。しかし、盾もなく、回避能力も高いとは言えないアミは、逃げながら五発命中してしまった。
「すまんのう。こういうルールとはいえ、あんたみたいなべっぴんさんの服を汚すのは、やはり心が痛む」
「いえいえ、お気になさらずに。結果はどうあれ一生懸命やったので、いい汗かけましたよー」
謝る平五郎に、アミは爽やかな笑顔を返した。
「あっちから来てる! みんな、逃げよう!」
ルゥナは突然先の方向を指差し、叫ぶ。小源太がそちらに視線を向けてみると、急速に近付く熱源‥‥エルデだ!
「見つけたァ!」
一行は逃げるも、すぐに追い付かれる。矢を番えるエルデと、防御体勢をとる冒険者達。
エルデは連射を繰り返した。命中状況は、ルゥナ二発。光一発。小源太一発。このまま固まっていては、一網打尽だ。
「ここで、散らばる!」
ルゥナの叫びと共に冒険者達は分散。
「あ! 待て、お前達!」
エルデは叫びながら追った。まずは盾を持たないルゥナを。
二人は暫く森の中を駆ける。
「は、早いな、お前。でも、やっと追いついたぞ」
敏捷性は、ルゥナよりエルデの方が僅かに高かったようだ。追いつかれたルゥナは矢の回避を試みるが、それは叶わず、残りの三発の矢を受けてしまった。
「ふぅ、やっと一人目か。思った以上に手間取ったな」
額の汗を拭うエルデ。ルゥナの体と布は、墨で結構汚れてしまった。
「ゥゥ。少しだけ、悔しいぞ」
光は逃げるも、どうにも罠を感知できず、鳴子を鳴らしてしまったり、小さい落とし穴で躓いたりしてしまう。
そして遂に茂みの中から飛んでくる矢。体に当たってからその存在に気付いた光は、射られた方向に盾を向ける。しかし光はそれを受けきる事は出来ない。
そうして合計五回、矢が光に当たった。
「先にやられちゃった〜。小源太さ〜ん、ごめんなさ〜ぃ‥‥」
「むぅ、ついつい本気になってしまった。お嬢ちゃん、スマンのう、オジサンが大人気なかったよ」
悔しさのあまりに涙さえ浮かべる光を見て、平五郎は宥めるように言うのだった。
罠の痕跡が無いか進む小源太に、草木を掻き分ける音が迫ってくる。そして出た姿は予想通り、エルデだ。
その矢をかろうじて小源太は盾で受け流す。
しかし、彼女の弓の腕は明らかに小源太の技量の上にある。このままではやがて当たり尽くすだろう。
「小源太様!」
そこに、番忠太が飛び込んできた。どうやら潜んでいた彼と合流したようだ。
そして彼から放たれる忍法。周囲の煙と共に現れたのは、エルデの二倍の身長はありそうな巨大蛙。大ガマの術だ。
「う、うわぁ! な、なんだこいつは! 反則じゃないかッ、こんなの!」
エルデは狼狽し、大ガマに矢を放ちまくる、出鱈目に。その動揺っぷりは尋常ではない。‥‥もしや蛙嫌いなのかもしれない。
「小源太様、今のうちに!」
番忠太は小源太を促し、大ガマを盾にしてその場を離脱。
そうしてまた暫く、冒険者の残余による潜伏・逃走が続いた。
「‥‥全く、今日は散々な日だ。ここまでトラブル続きの狩りは初めてだよ」
溜息まじりにエルデは矢を番え、歩く。
「でも、とりあえずお前を仕留められれば気は晴れそうだ」
その矢の先にいるのは三太夫。後ろは壁のように極端な傾斜の地面、追い詰められた。
「よくもおちょくってくれたな!」
矢は三太夫に当たる。
「覚悟しろ!」
嬉々として、次の矢を番えようとするエルデ。
しかし、目の前の三太夫の顔に浮かぶは、またもシニカルな笑み。
「覚悟? 何を?」
矢筒に手を伸ばすエルデ。
「え? あれ?」
しかし、その手は何も掴めないでいた。‥‥エルデは矢を使い尽くしたのだった。
「‥‥ちッくしょーーーー!!」
「お、どうやら終了のようじゃのう」
森に響いたエルフの女性の叫び声を聞くと、平五郎は番えた矢を戻す。
「ふう、危ないところでした」
既に数発矢を当てられ劣勢だった小源太と番忠太は胸を撫で下ろし、そして全員、森を出たのだった。
「では、今回もわしの勝ちじゃなー」
「今回私は実力の半分も出せなかった! ただっ、それだけだ!」
狩りが終了してその結果を見ても、エルデはその態度を変えなかった。
「エルデさん、状況を冷静に見極め―」
「っるさい、お前達もお前達だ! いきなり蛙など出して、脅かして!」
話しかける小源太を、顔を赤くして怒鳴るエルデ。どうやら、本当に蛙嫌いのようだ。
平五郎とエルデの会話が暫く続く。‥‥エルデはただ無茶苦茶な事を叫び、平五郎が軽くいなしているソレが、『会話』と呼べるかどうかは不明だが。
「では、今日はどうもご苦労じゃった。また機会があれば、宜しく頼むぞい」
朗らかな笑顔で冒険者に言う平五郎。
流石にこんな表情をされてしまっては「もうこんな騒々しい娘の世話は御免だ!」とは言えない冒険者達であった。