【双剣の剣士】求婚から救済せよ!

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング

 町を歩くその少女は、腰に二本の小太刀を差し、足元には連れの犬がいる。どうやら犬の散歩中らしい。町の風景を見渡しながら歩いている。
 すると、急に吠え出す犬。その方向に目をやってみると‥‥。
「坊ちゃんよぉ! これ以上痛い目にあいたくなかったら、さっさと財布の口を開いちまいな!」
 ガラの悪い男が、ニヤケながら細身の男の胸ぐらを掴み持ち上げている。その優男は振り払おうとじたばたしているが、効果はイマイチだ。
「放してやれ」
 駆けつけた少女に言われ、ガラの悪い男は、表情を嘲笑から嫌悪に変えた。
「何だてめえは。女は引っ込んどきな!」
 男は問答無用に彼女を蹴り飛ばす。資材置き場か何かだろうか、木片やら棒やらが派手に崩れて騒々しい。
「‥‥それでは、致し方ない」
 木刀サイズの木の棒を二本、手にとって彼女は立ち上がった。
     ・
     ・
     ・
「全く、ひどいものだな‥‥」
 少女に手も足も出なかったガラの悪い男は、間も無くして逃げ出した。少女は、尻餅をついている優男に手を差し伸べる。
「立てるか?」
「‥‥僕と結婚してくれ!」
 ‥‥けっこん?
 少女は、その突拍子も無く放たれた単語の意味がわからないでいた。
(「血痕? いや、出血沙汰になってどうするっ。ああ、そうか、聞き間違えか。全く、私も冷静でないとな」)
 困惑しながらも少女は眉間を抑え、かぶりを振り、冷静さを取り戻そうと努め、取り戻しかけていた。
「『今日はじめて会った女性はあなた助け、右手を差し出す。それはあなたの永遠の伴侶になるだろう』‥‥まさに占いの通りじゃないか。キミ、名前と姓は?」
 ‥‥占い? 何のことだろうか?
「姓を片岡‥」
「姓に『岡』という字があり!」
「名を睦と‥‥」
「ひらがなにすると三文字の名前! 何もかもがピッタリだ!」
 取り戻しかけていた冷静さは、再びどこかへ旅立ってしまった。多分、長旅になるだろう。
「で、出会いがしらに‥‥け、けけ結婚を申し込むなど、非常識だっ!」
「運命とは常に常識の範疇を越えているのさ! さぁ、僕と生涯を共にしてくれ! あ、一応聞いておくけど、キミは未婚者だろう? そして占いからしていけば、キミは現在、付き合っている異性もいないはずだ」
 紳士的に少女の手を取る優男。少女の顔はすでに茹でたタコのようだ。
「し、失礼する!」
 少女はその手を振り払い、一気に駆け出す。土埃を舞い上げながら、その姿はすぐに小さくなった。
「心の準備が出来たらいつでもおいで! 僕はいつでもキミを受け入れるよぉ〜!」
 遠くから聞こえてくる男の声。少女は耳を塞ぎながら、全力疾走を続けた。


 ここは冒険者ギルド
「例のインチキ恋愛占い師の依頼、終了した。無事ひっとらえたぜ」
「ああ、ご苦労。それじゃあ、これが報酬だ。額を確認してくれ」
 受付には、依頼を終えた冒険者とギルドの係員がいた。
 開かれた戸の勢いの良さに、その二人は思わず顔をそちらに向ける。
 ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー。
 戸を開けた少女は荒く空気を体に取り入れると、ギルドの係員に向かい、言った。
「二当流が浪人、片岡睦。依頼の申請に来た」

●今回の参加者

 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6963 逢須 瑠璃(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb1172 ルシファー・ホワイトスノウ(30歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb1975 風樹 護(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2961 緋桜 水月(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 通りを歩いているのは緋桜水月(eb2961)。その目に、服屋の親仁と話している青年が映った。その青年の外見をさりげなく見る水月。たしか彼は、今回の依頼の‥‥。
耳を澄ませば、話は、なんと結婚式の衣装の話。
(「これは‥‥聞きしに勝る」)
 水月は、そこでは彼に接触せず、目的地へ向かった。

 そこは場末の軽食店。大通りから外れたそこは、まさに知る人ぞ知る店。今回の依頼人である片岡睦と冒険者達は、そこで茶菓子をつつきながら話していた。
「‥‥いきなり、初対面で、結婚申し込む? 物事には、順序というのが、あるでしょう? 色街なら、話は別だけどね?」
 怪しく、それでいて色のある笑みを浮かべながら話すのは、お色気担当・逢須瑠璃(ea6963)。その言葉は、横で聞くショウゴ・クレナイ(ea8247)の顔を赤くさせたりしていた。
「好きでもない男性に求婚されても、女性としては困りますからね。相手の男性をなんとか諦めさせますよ」
「それは心強い。是非ともお願いする」
ルシファー・ホワイトスノウ(eb1172)に、言葉を返す睦。どうやら本当に困っているようで、茶を啜りつつもその表情は真顔だ。
「占いを信じてか‥‥はた迷惑なことだな」
 涼しい顔のまま、神山明人(ea5209)は口に茶菓子を放り込む。
「‥‥豚鬼戦士に対しても気後れしなかった彼女がですか‥‥さすがに、勝手が違うと言うところですか‥‥」
 戦っている時の彼女を思い出しながら風樹護(eb1975)は呟いた。
「しかし、相手は強敵のようです」
 声の先には、のれんから顔を出す水月。彼は入店すると適当に茶を注文する。
「これで全員揃いましたな。それでは始めましょう」
 水月の着席を確認すると、島津影虎(ea3210)が開始を促した。
「それではまず僕から説明を‥‥、その前に睦さん、あなた自身は彼の事をどう思っているのですか?」
 話しかけてきたショウゴに睦は茶を吹きかけそうになった。
「好いてくれた気持ちは、し、正直嬉しくないわけではないが‥‥私は今、誰かと付き合うつもりはないので‥‥」
 ごほごほ言いながら答える睦。どうやら彼女に『その気』は無いらしい。
「そうですか。では‥‥」
 こうして、ショウゴから、作戦の概略が伝えられる。
「調べによると、件の占い師は既に御用となっています。その作戦で問題ないでしょう」
 事前調査を行っていたルシファーは、その彼の言葉に、そう付け足した。
「俺は、噂でも流しておこうかな」
 呟く明人。
「ではその作戦で‥‥ところで伊佐治殿。その包みの中身は、何なのだろうか?」
 フと、睦は八幡伊佐治(ea2614)の荷物に目をやり言った。
「あ、これ? 今回の依頼における『必須』アイテムさ」
 伊佐治は『必須』という言葉を強く発音する。なんとな〜く怪しい気もしたが、あえて睦はそれを言及しなかった。
「それじゃあ睦ちゃん。まずはこれを―」
「占いで運命の人に出会うと言われてそして、片岡さんに僕は出会った‥‥と、いう事にしましょう」
 刹那のタイミングで、伊佐治より先に水月が言った。
「‥‥まぁ、茶でも啜りながら、朗報を待つさ」
 そうして、作戦は開始された。


 水月と睦が大通りを歩いている。すると労する事無く、例の優男と遭遇する。
「やあ、心の準備は整ったかい? って、あれ、そちら様は?」
 優男は水月の存在に気付くと、まじまじと彼を眺める。
「僕は、睦さんの―」
「そうか、女友達かぁ」
 一瞬コケそうになる二人。ここでちゃんと言ってこう。その顔立ちはそう見えるが、緋桜水月は歴とした男である。
「違う。僕は彼女の運命の人だ」
 それを聞くと優男は、一気に顔面蒼白となる。‥‥そんなにショックなのか?
「そんな、キミに、百合の気があったなんて‥‥」
「お、お前、何を言っている! ‥‥はっ!」
 それを思いっきり否定しようとした睦は、気付いた。
「な、ななな何をする気だいッ、キミ!?」
 水月は表情一つ変えぬまま、野太刀を抜刀しかけていた。心の目でよ〜く見てみると、彼の背後から怒気が滲み出ているような、いないような。
「か、帰ろうっ、水月殿」
 水月をずるずると引きずるようにして撤退する睦。流石の優男も、そんな風貌に驚いたのか、その場から逃げ出していた。

「敵は強敵でした、ええ全く」
 無表情のまま言う水月。怖いって。
「そうかー。じゃ、『残念ながら』僕の出番だね」
 伊佐治は、全然残念そうな表情をせずに言う。
「えーと。とりあえず睦ちゃん、作戦のために、ちょっと協力してもらおう」
「ああ、協力は惜しまな‥‥って、え。ええ!?」

「‥‥っと、痛い」
「ああっと、これはすまないね。ちょっと夢中で走っていたもので」
 前方不注意で走っていた優男に、護は偶然を装って肩を当てた。
「‥‥‥」
「ん? どうしたの? 僕の顔をじっと見ちゃって」
「少しばかり占いの心得があるのですが‥‥凶相が見えた気がしたもので‥‥」
「えぇえ!?」
 護の言葉を聞いて、あからさまに不安がる優男。
「ちょ、ちょっと。それってどういうことさ? そうだ、今、僕を占ってみてよ、キミ」
 そうして、彼を占う(フリをする)護。
「最近‥‥誰かの占いをうけた事ありませんか? ‥‥あるならば、一度その占い師のことを調べなおした方がいいかもしれませんね‥‥」
「そ、それってどういう意味―」
「まあ‥‥戯れ言と聞き流していただいても良いですが‥‥気にかかるな‥‥」
 駆け寄ろうとした優男をヨソに、護は人混みに紛れ、そして姿を消した。
 そうして、優男には、件の占いに対する不安と不信感だけが残ったのだった。

 優男は、とりあえず、以前占い師に会った場所に行っていた。
「やぁ、そこの君。以前ここで占いをしていた人を探しているのだけど、心当たりは無いでしょうか?」
 優男が振り返ると、そこには禿頭(とくとう)の男。
「僕もその人を探しているけど、‥‥何かあったのかい?」
「いやぁ、お恥しい話なのですが‥‥、占いに寄って伴侶を求め、『運命の女性の条件』と一致した者に出逢ったのですが、こっ酷く振られた上、実はその筋の者のお手つきでしてね。酷い目に遭った。奴に騙された者はかなり居ると聞くし、一言文句でも言わねば気が済まないと思って、彼を探しているところです」
「『騙された者はかなり居る』だって!? そんな馬鹿な!」
 動揺する優男。その言葉を認めたくないようだ。
「いえ、本当にあの男の占いは当たらないですよ」
 二人の会話をしていると、隣にいた、騎士であろう女性が、その育ちの良さそうな相貌を曇らせながら言ってくる。ルシファーだ。
「この前占ってもらって、『私の危機を救ってくれた男性が生涯の伴侶になる』と言われ、危機には遭いましたが、救ってくれた男性は知り合いの方で、既に結婚されている方でした‥‥。あの占い師の占いはインチキだと思います‥‥」
「ほう、あなたもですか。そうなると本当に、あの男の占いは出鱈目のようですな」
「ええ‥‥今頃、もしかしてギルドのお世話になっているかもしれませんね」
「うーむ、やはり占いを鵜呑みにしてはいけなかった。君も占いに全てを求めては碌な事にならないですよ」
「占いではなく、自分を信じる事の方が良い事だと思います」
 二人の話を聞いて、優男は決心した。その真偽を確かめよう、と。
「‥‥とりあえず、僕はギルドに行ってみるよ」

 ギルドに向けて歩を進める優男。その表情は、決して良い物ではない。ギルドの報告書に、例の占い師の事が書かれていたら‥‥、優男はかぶりを振って、不安を振り払おうとした。
 しかし、そんな状態の彼に、目の前の風景は、酷だったかもしれない。
 歩いてきたのは、睦だ。横に男を連れている。
 そしてその睦の姿。紫陽花浮き上がる着物に袖を通し美しい絵が施された漆の櫛でその髪を飾り、唇には紅が上品にのびている。
 横の男、伊佐治の色恋沙汰やお洒落全般に関するテクは、卓越したものがある。全国でフラれ続けている男性諸君には、羨ましい限りであるその技術によって、睦は『双剣の剣士』から『京美人』へと変貌をとげていた。
「あ、伊佐治殿‥‥あの、近すぎるのではないだろうか?」
「いやいや。ほら、睦ちゃんもうちょっと寄ってくれないと、演技がばれてしまう」
 小声で言う睦とそれを返す伊佐治。はたから見れば二人の姿は、囁きあう恋人のそれだ。
 少し伊佐治の方に寄りかかりながら歩く睦。その顔は、紅をひいたわけでもないのに、朱に染まっている。
(「役得役得‥‥ん?」)
 そうして歩いていると、伊佐治の視界に優男が入った。呆然とする彼と、目が合う。
 ニヤリ。
 伊佐治は、無言で唇の端を吊り上げる。圧倒的余裕を有する、勝者の笑みだった。
 全てを悟った優男は、泣き喚きながら、ギルドへと突っ走った。

 ここは冒険者ギルド。受付の係員は、団扇でけだるそうに自分を扇いでいる。
 そこに突然の来客。
「ほ、報告書を‥‥ッ、最近の報告書をぉぉ〜〜!!」
「報告書ならそこの棚だ。その前にまず、鼻水拭けよお前」

 そうして、優男は全てを知る事となった。集まった冒険者は、今までの事を全て優男に打ち明け、一段落おく。そして彼が冷静になると、話を再会した。
「結局あなた自身の気持ちはどうなのですか? あなたの気持ちは、占い抜きにして、片岡さんをどう思っているのですか?」
「えぇーっと〜。それはだねぇ‥‥」
 言葉を詰まらせる優男。
「それでも『片岡さん』を好いたと言うなら止める権利はありません。ただし、物事には順序や経緯というものがあります。その辺りも理解する必要があるでしょう」
 優男に対して、ショウゴは丁寧に言い続けた。
「そ。あなたは少し勉強する必要がありそうねぇ」
 瑠璃は優男の後ろから腕をかけ、話に割り込んできた。優男は、後頭部にその柔らかいものを感じると、動揺せずにはいられなかった。
「お勉強に適した所があるの。ちょっと付き合ってくれないかしら?」
「‥‥えっと、それはドコでしょうか?」
 何故か敬語になる優男。
「勿論、『イイトコロ』よ」
 瑠璃の微笑みは妖しかった、もの凄く。色気には勝てず、優男は瑠璃に案内されるがままに、夜の街に消えた。


 夜の勉強会も終わり、優男は瑠璃に肩を借りて帰ってきた。遊郭では酒も振舞われ、優男はへべれけだ。因みに、途中、瑠璃は睦の話を彼にふったが、別段彼は未練がましい事は言わなかった。占いを抜きにしたら、彼女への執拗は無いようだ。
「女にも色々あるのよ。相手が悪女なら、三行半もなかなかできないものだし。イイ経験になったかしら?」
「ふぁ〜い」
 優男の方は、もう呂律が回っていない。
 こうして、彼の午前様をもって、今回の依頼は無事(?)終了した。