アレな格好の人達から、美観を守るために

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月07日〜09月10日

リプレイ公開日:2005年09月16日

●オープニング

「今回も手痛くやられたねぇ、お頭」
「うーむ、きょうび冒険者も強敵だ。盗品で身を固めた俺が、まるで歯が立たなかったとは」
 悔しそうに唸る山賊の首領らしき男と、その近くいる数名の部下。
 彼らは山賊として略奪を主たる任務としているが、基本的に勝率は低い。理由は明白‥‥おつむが悪い&弱いからだ。つい先日も、相手を警戒するあまりに防具を付け過ぎ、全く身動きがとれなかった。そしてその結果が、この傷だ。
「一体どうすればあいつらに勝てるんだろうねぇー」
「まったく、奴らと言ったらチョロチョロと‥‥そうだ!」
 お頭と呼ばれている男は、「ひらめいた!」といわんばかりに目を見開くと、嬉々として‥‥脱衣していった。実に嫌な風景である。
「何しているんだい、お頭? そんな褌一丁になっちまって」
「身を軽くし、手数で勝負するのだ! そうすれば冒険者達のようなすばしっこい相手にも対抗することができる‥‥はずだ!」
「なるほどっ。さすが親分、あったまイイぜ〜」
「とは言うものの、裸体同然の姿ではやはり防御面に不安が残る。そこで、最低でも顔面だけでも守るために、これを装備してだな‥‥」
「さすが、お頭。絶妙なチョイスだ。よし、俺達もお頭にならうぞ、野郎共!」
 一斉に湧き立ち、嬉々として脱衣していく野郎共。実に最悪の風景である。
 この盗賊団には致命的な事項が二つあった。
 一つ目は首領の、おつむの悪さ&弱さ。
 二つ目はこの集団、誰一人としてツッコミ役がいないことだ。


 ここは冒険者ギルド。只今受け付けでは、30代と思われる男がギルド係員と話していた。その男は実業家ということだが‥‥それにしても、勢い良く話している。
「いやー、商談とは、商談をする前に結果は大体結果が決まっているものさ。つまり根回しがいかに重要か―」
「で、今回の依頼内容はナンデショウカ」
「‥‥とにかく、根回しは重要。異国に実在したといわれる太古の名士は「戦いは、始まる前に勝負は決まっている」と述べているらしいけど、まさにその通―」
「で、今回の依頼内容はナンデショウカ」
「‥‥たまには最後まで聞いてくれてもいいのでないかな。まぁ、いいか。それじゃあ、今から言うとしよう」
 係員と男は、どうやら面識があるようである。係員に話を切られ続けると、観念して、男は依頼内容を話し出した。
「ここから暫く行った所に、それはそれは景色のいい峠があるのだよ。今度の新たにお得意様にできそうな所の元締めと、一ヵ月後、そこへ遊歩に行くことに決まったのさ。しかし、最近その辺りで、物凄く危険な噂があってね」
「凄腕の賊でも出るのか。何、聞かない話じゃあない。こちらも腕利きの冒険者を用意するさ」
 係員は紙を取り出すと筆を握り、書類作成の準備にかかる。
「いや、それがだね、腕っ節というよりは、なんというか、視覚的に危険な存在なのだよ」
「‥‥何?」
 それを聞いた係員は訝しがり、紙の上を走らせていた筆を止めた。
「何でも、体は褌のみを身につけ、顔には面を被るという奇抜な格好で襲い掛かってくるらしい。鬼面、小面、天狗の面、それはもう多種多様の面を被ってくるそうだ」
「‥‥」
 話を聞いているうちに偏頭痛を覚え、思わずこめかみを押さえる係員。
(「京都にも、そういうのが沸くようになってしまったか‥‥?」)
「折角の美観を、損なう存在だからね、それらは。また、そういう噂が立っているだけで印象は悪くなるから、今の段階から手を打っておこうと思ったのだよ。冒険者達には、徹底した処置をお願いしたいと思っている」
「ああ、任せておけ‥‥」
 小さく、だがしかし力強く呟く係員であった。

「‥‥という事で、今回の敵は、つまり特殊な頭の構造をした連中ということだ」
 依頼内容と詳細を一通り話し終えた係員は、依頼が始まる前だというのに、既に疲れきった表情だ。
「今回の依頼人は坂田という男で、話好きな人間だからな。依頼の失敗はお前達の名誉に深く関わるので、十分注意するように。まぁ、こんな変態共に負けることもあまりないか。まぁとにかく、京の美観を守るため、頑張ってくれ。もう、『徹底的』に頑張ってくれ」
 係員は、徹底的、という言葉に強い発音を用いた。それだけ、係員は冒険者達に期待を寄せているのだろう。うん、きっと多分そう。
 こうして、新たな依頼がギルドに張り出された。

●今回の参加者

 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2033 緒環 瑞巴(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2216 浅葉 由月(23歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2613 ルゥナ・アギト(27歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 道はなだらかな傾斜が続く。途中、緑が途切れて見える風景を目にした時、歩いているうちにいつの間にかそれなりの標高にいることに気付く。眼下に見る町並みは新緑の枠に飾られ、画になる。秋が深まれば、これが今度は紅葉に包まれ、より一層芸術的な風景となるだろう。
(「こんな素晴らしい景色があるというのに‥‥」)
 しかし、今日びこの通りについている通称は『褌峠』。日々出現するアレな格好の人達によってついた悪名に、九十九刹那(eb1044)は心を痛めていた。
「光ちゃんと小源太さんってその後発展したと思う?」
「ガゥ、進展‥‥何のだ? 瑞巴」
「もー、そんなの決まってるじゃ〜ん」
「‥‥ちょっと、何の話してるの?」
「きゃーー☆ 光ちゃん、何でもないよー」
「何でもなくないでしょー! さっき絶対、私と小源太さんの話してたー!」
「二人とも元気。今回の依頼も、頑張れそうだ」
 女三人寄れば姦しい、とはよく言ったもの。ルゥナ・アギト(eb2613)の周りで、逃げる緒環瑞巴(eb2033)と、それを追い回す紫電光(eb2690)。光は賊の特異性に対する恐怖もあり、精神状態は不安定のようだ。
 楽しそうだが、色恋沙汰が苦手な刹那は、なかなかその輪に入れないでいた。彼女も、これから対峙するであろうアレな格好の人達に対する恐怖心は、ある。
(「‥‥出来れば会いたくない様な‥‥でもそれだと依頼が失敗してしまいますし‥‥」)
「刹那さん、顔色がよくないよ、大丈夫?」
 決して残暑だけのせいではない汗をかいている刹那に、浅葉由月(eb2216)のまだ幼さが残る声がかけられる。
「世の中には色々な人がいるんだよ。あまり気にせずにいこう?」
「そやそや。あんな不埒な輩、思い詰めるだけ損やで」
 鷺宮夕妃(eb3297)も加わり、刹那を励ましていた。
 改めて考えてみれば、可笑しな話だ。変態な賊達を相手に怯える自分と、それを励ます仲間達。
「お、やっぱり女の子は笑顔やな〜」
 クスリ。刹那が、控えめに笑った。
「ありがとうございます、由月様、夕妃様。おかげで少しだけ、気が楽になりました」
 一方、辺りを見渡す小坂部小源太(ea8445)に動揺している様子は見受けられない。彼がイギリス帰りの男だから? いやいや、イギリスにそういう偏見を持ってはいけない。きっと、彼はメンタル面の強い男なのだ。うん、きっとそうだ。
「今度のお相手は褌に面を付けた盗賊ですか‥‥、まぁ、とりあえず奇異な格好ではありますね」
「べつにヘンか? ルゥナも同じ格好だぞ??」
 小源太の言葉に、素でそう言い返すルゥナ。
(「それはまぁ、そうなんだけど‥‥」)
 言葉に詰まる一同であった。


 それにしても、景色のいい通りであった。山道にしては十分に拓けていて、足場も悪くない。「見通しの良い所ですね。事前の調べによると、そろそろ例の盗賊の出現区域ですね」
 新緑の風景を堪能しつつも、警戒を怠らない小源太が言う。
「そうやなぁ。でもさすがに、こんな奇襲に向かない所で出てくるわけ―」
 夕妃が呟いた、その時だった。
「キャオラァァッッッ」
「しゅイイイイッッ」
 出 や が っ た。
 平穏は突然の奇声によって打ち砕かれる。言っていることもよくわからないが、姿はもっとよくわからない。褌、そして、よりどりみどりの面。そう、こいつらが件の変た‥‥もとい、盗賊達だ。
「‥‥ありましたね」
 語尾を言い終えなかった夕妃の言葉を、小源太が補完した。
「あー、嫌悪感通り越して呆れてまうわ」
 敵というよりはむしろ、痛いモノを見る眼で夕妃は前方に佇むアレな格好の人達を見つめる。彼らはイキナリ出てきたせいか、息切れしているものさえいる。ハァハァ言っているその姿は‥‥危ない事この上ない。
「おじさん達は優しいからね。大人しくすれば、痛くはしな――はぐぁ!?」
 なんかアレな事ともとらえられかねない言葉を言い出すかと思えば、男は既に肉薄していたルゥナに脇腹を痛打される。
「嗚呼、台詞を言う前に潰すなんて、なんてヒデ――ぶ!」
 もう一人の男も、面ごと顔面に拳を見舞われ、台詞を言い切れなかった。
 ルゥナは臆する事無く、むしろ嬉々として戦陣に飛び込んでゆく。
「お頭、早速やられちまってるよ!」
「情けない声を出すな! 数ではこちらが、圧倒的に上回っているッ!」
 どんどんと数を増やしていく褌とお面。ホント、嫌な風景である。
「‥‥えーと‥‥どうしても、あの方たちと戦わなくてはならないんですよね‥‥?」
 懇願するように言う刹那。訴えかけるその眼は、涙目だ。やっぱり、少しだけ気が楽になっただけじゃあ駄目みたいである。
「せ、刹那さん、盗賊さん達はアレな格好だけど、頑張ろう? 僕も、間違えて褌を切らないように注意して頑張るから」
「‥‥はい」
 やや論点がずれている感は否めないが、とりあえず由月の励ましに助けられ、刹那は戦意を取り戻し、武器を構える。
「や〜。本当にあんなカッコしてるよ〜。ヘンだぁ」
 瑞巴は盗賊達全員に聞こえる声で、笑いながら指を刺して言った。
「え、変な格好? お頭、あいつ、あんなこと言っているよ。俺達、変な格好しているのかな?」
「言いたいやつには言わせておけ。あいつがあんなこと言うのは仕方のない事だ。何故なら‥‥」
 お頭と言われた男はそこで一旦止め、そして再び口を開いた言葉が‥‥
「あいつはきっと年齢ゆえまだスタイルが発達していないのだ。我々のように、我が身を晒す勇気が無いのだろう」
 瑞巴を激昂させた!
「だ、誰がスタイル未発達ですってぇ〜!?!? なんなら未発達がどうか、ここで見せて―」
「わー! 何してるの、瑞巴さん!? あ、それは駄目だって!」
「ちょ、み、瑞巴はん! と、とりあえず服着いや!」
 相手に対抗して脱衣し始めた瑞巴をあわてて取り押さえる光と夕妃。二人の迅速な対応のおかげで、なんとか事なきを得た。
 そんな間にも展開していくアレな格好な人達。数任せの人海戦術。
 男達は術者が詠唱中だと気付くと、その隙を突くべく攻勢をかけてくる。しかしまぁ、今回の依頼の参加者における術者は、女性が多い。それに飛び掛ってくる光景は、なんとも嫌なものである。ましてや、諸他の事情を鑑みても、由月に飛び掛る絵は最も犯罪的‥‥、いや、犯罪である。
「させません!」
「うぅ‥‥、でも、こ〜わ〜い〜!」
 刹那と光が術者の前に立ち塞がり、壁となる。光が十手で賊達の攻撃を払うと、間髪いれずに刹那は間合いを詰め、小太刀の斬撃を放っていった。
「刹那はん、光はん、おおきにっ。んじゃ、いっくで〜!」
 詠唱を終えた夕妃が盗賊の影を縛り、自由を奪う。シャドウバインディングだ。動きを止められた賊は抗おうとするも、叶わない。
 しかし敵の数は複数。既に瑞巴がムーンアローで援護しているが、間に合わず、前に出ている小源太やルゥナに群がっていく。
 ルゥナは掠りながらではあるが攻撃を避けていく。しかし回避の心得が殆ど無い小源太は、盾では全てを防ぎきれず、傷が蓄積させられていった。しかし、いかんせん一撃一撃が、浅い。
「戦術としての発想は、悪くないですが‥‥、詰めが甘いですね」
 相手の攻撃の途切れ目。その隙を、スマッシュで突く。棍棒は、対象の鼻骨を面ごと砕いた。
「俺達、もう結構ヒドい目にあってるんじゃないかな、お頭」
「く、まだ奴らに遅れをとるか。こうなったら更なる軽量化が必要か‥‥」
 身軽さ、手数以上に色々と問題があるというのに、誰もツッコミを入れようとしない。
「こうなったら最後の砦、この褌を!」
 ついに己の褌に手をかけるお頭! 「いや、軽量化なら褌の前に面を外せよ」とは、もはや誰も言わない。
(「間違えて褌を切らないように、っと!」)
「さぁ、これが俺の本気の――ぅぐぁ!」
 紐を緩める一歩手前、ひんやりざっくり、アイスチャクラによるツッコミ(?)が入る。その甲斐ありお頭の魔手は止まり、報告書の検閲削除は免れた。投擲者の由月はボケに対してツッコミがいかに大事をかみ締めているところだった。
「できれば頭も冷やして欲しいものです」
 切実な表情で呟く刹那。心なしか、それは嫌悪感というより、むしろ哀れみを含んでいるようにさえ見える。
「お、お頭がやられた‥‥逃げろー!」
 アレな格好な人達はここぞとばかりに団結して、連携し、一斉に、逃走の態勢へと移った。
「こういう時に限って、無駄に素早い奴らやなぁ」
「んん、たしかに〜。さすがにこの数だと退路を塞ぎきれないと思うから、私達も、もう一息頑張ろう、夕妃ちゃん」
 既に呆れきっている夕妃と、励ます瑞巴は、詠唱しながら状況を見ている。
「はぁ‥‥阿呆相手するんは、やっぱ疲れるな〜。ま、あっちもあっちで辛そうやし、頑張ろか!」
 その、『あっち』の方向にいるのは光。ライトニングソード片手に、叫びながら大暴れしている。言葉はハッキリ聞き取れないが、その端々からは、彼女の混乱ぶりが十二分に伺えた。

 さすがに身軽な相手なので、全てを退治、捕縛することは出来なかったものの、それでも首領をはじめとする数名の賊を捕らえ、その場は間もなくして、沈静化した。


「ぅぇ〜、怖かったよぉ〜〜‥‥」
「はい、光さんは良く頑張りました」
 泣きじゃくっている光の頭を優しく撫でながら、小源太が慰めていた。
「おじさん達、盗賊向いてないと思うよ。まじめに働いたら?」
「そやそや、キミらは褌姿の似合う漁師にでもなり〜」
 夕妃と瑞巴によってお説教されている盗賊達。アレな格好のままぐるぐる巻きにされている。
 その首領は、こちらに聞こえるほどの音で歯軋りしながら、悔しんでいる。
「くそ! 何故、何故お前達に勝てないのか!?」
「何故って‥‥ねぇ、アレだから?」
 仲間の方を見ながら、由月が言うと、周りは「うんアレだし」と頷く。
「‥‥ちなみに、実際に会ったことはないですが、イギリスはもっと凄いですよ」
 その言葉を言い放ったのは、小源太だ。イギリス云々の真偽は定かでは無い。
「お前達、普通に弱い」
「な、何だってェェーーーッッッ!!」
 ルゥナは言葉を濁さず、そのままストレートに言った。それに盗賊達はしこたま驚かされた。
「俺達が、弱い? そんなハズは無い。そんなハズは!」
 頭も腕っ節も弱い彼らは、彼らなりに悩んだ。しかし、それは延々とし、ラチがあかない。
「うわ、ちょ、何を――!」
「一からシュギョウして、やり直せ」
 一纏めに縛られている彼らを、無慈悲に蹴り飛ばすルゥナ。それはなだらかな下り坂を転げ落ちてゆき、やがて見えなくなった。
「これで、いいのでしょうか?」
「良くは無いと思うけど、まぁ、たまにはこんなオチもありやろ」
 呆然とその場に佇む刹那に声をかける夕妃。夕妃にいたっては、もはや疲れきった様子で、さっさと家に帰りたい空気を醸し出していた。


 そんなオチではあったが、その後、懲りたかどうかは定かでは無いがとりあえずアレな格好の人達の話は、峠から遠退き、聞かなくなった。これからの季節、紅葉を楽しむにはまぁ、問題なさそうである。