【長屋の姉妹】肝試しなんてしたくない!

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月13日〜09月18日

リプレイ公開日:2005年09月20日

●オープニング

「じゃ、姉さんおやすみ〜」
「ええ、おやすみ」
 さも眠たそうに少女は言うと、彼女の姉は応じる。姉妹は布団に入り灯を消した。周囲の世帯より早い消灯だ。
 長屋のこの一室に一組の姉妹が住んでいる。妹は薬草師を生業とし、昼間に活発に動いていた。そのせいか彼女の眠気は比較的早く訪れる。彼女の眠気に合わせ、姉の方も床につくのだ。
「‥‥‥‥」
 姉は暫く大人しくして、妹が寝付いた事を確認すると、こっそり布団を抜ける。そうして玄関で草履を履くと、外へ出て行った。
「‥‥姉さん?」
 戸を開ける音で目がさめた妹は、「どうしたんだろう?」と呟いてもぬけの殻になった姉の布団を見つめている。
「こんな夜にどこへ行ったんだろう? 真面目な姉さんが」
 沈黙して、想像する。‥‥いや、妄想?
「もしかして私の稼ぎと姉さんの内職だけじゃ家計が苦しくて、夜な夜な私に秘密で仕事をしているのでは? でも、なんで秘密にするんだろう‥‥はっ!」
 夜の秘密のお仕事といえば‥‥と考える17歳の乙女の思考は、段々とあらぬ方向へ向かっていった。

 そして次の日の朝。
「姉さん!」
「朝から大きい声を出さないで、早苗」
 早苗と呼ばれた少女は、朝だと言うのに壮快な声で姉に話しかける。一方、低血圧気味の姉の方は、気だるそうだ。
「私、頑張るから。もう姉さんが、夜の遊郭で耐え忍ぶような事はしないですむように、私頑張るからッ!」
「ちょ、何言って‥‥」
 姉の言葉を聞く前に、早苗は長屋の外にいた。力いっぱい駆け出した彼女には、もう言葉をかけることは叶わない。
「‥‥まぁ、問題ない範囲の勘違いね」
 遊郭という言葉に不快感を覚えながらも、彼女は左手で自らの長い髪を撫でて呟いた。


 ここは冒険者ギルド。一人の少女は、ギルドの係員に頼んで報告書を閲覧していた。
「良かった。今回薬草を採りに行く山は噂通り、穏やかな所みたい。最近、その辺りで物騒な話は聞かないですよね?」
 彼女は目的地の事を調べていた。報告書を読む限りでは、そこで妖怪や盗賊が出た内容のものは無かった。
「たしかに、その山は危険性の低い所だな。‥‥だが、しかし」
 係員は、声のトーンを低めにして言う。それによって、彼女の不安は浮上してきた。
「え、‥‥何かあるんですか?」
「その道中、荒れた広い墓場があってな。しかもそこはどうしても避けることの出来ない道だ」
 係員に言葉は、彼女の不安を更に増長させる。
「えぇ〜〜っ、墓場ぁ〜? イヤ、怖いですって〜ぇ」
「残暑の肝試しに勤しんでもいいが、亡骸の妖怪などが出てきたら、‥‥肝試しじゃすまないな」
「えっと、じゃあやっぱり念のため、冒険者の方々を雇いますよ〜。あ、なるべく若くてカッコイイ男性をきぼ―」
「はい、毎度ー」
 彼女の言葉を最後まで聞く前に、係員は紙を取り出し、筆を走らせていた。

●今回の参加者

 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2033 緒環 瑞巴(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2863 カール・リヒテン(25歳・♂・ナイト・シフール・フランク王国)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

草薙 北斗(ea5414)/ 朱 蘭華(ea8806

●リプレイ本文

「やぁ、俺はランティス・ニュートン、どうか宜しく」
 言いながら、爽快な笑顔と共に握手の手を依頼人に差し出すのはランティス・ニュートン(eb3272)。
「ええっと、これって‥‥?」
「西洋風の挨拶さ」
「あ、そうなんですか? それじゃあよろしくお願いしますっ」
 握手に応じる少女は、どこかせわしないというか、急いでいるような、そんな感じがみうけられた。
「何か悩み事があるようだね。もし良かったら聞かせてくれないかな? 力になるよ」
「いえ、姉さんにこれ以上に負担をかけないように、私が頑張るだけですから!」
 意気込む依頼人の少女、早苗。
「早苗はん、宜しゅうに♪ 早苗はんにも姉上がおる聴いとるんやけど、早苗はんは山へ薬草取りに。姉上は何をしとんの??」
 彼女に声をかけるのは鷺宮夕妃(eb3297)
「姉さんは普段、色々な内職をしているけど、夜は‥‥って、そんなこと、私からは言えないよ〜!」
「察しがたい事情はあるようですが‥‥いけませんね、夜に女性の一人歩きは危険です。僕から一言、注意をしましょう」
 思考が錯綜(暴走?)気味の早苗に、真顔で返すのは小坂部小源太(ea8445)。
「へぇー、そ、そうなんだー。いやー、大変そうだね。そういえば、早苗ちゃんのお姉さんって気が強そうな人だよねー。あ、えーっと、今回はどんな薬草採りにいくの?」
 話題を拾っては、それで次々と話していく緒環瑞巴(eb2033)。というのは、彼女はお化けや怪談の類には滅法弱い。墓への不安や恐怖を、早苗と話すことで紛らわそうとしているのだろう。
(「亡者だろうが、お化けだろうが、ドンとこい! で、怖いものナシだよぉ〜☆」)
 紫電光(eb2690)は瑞巴と対照的。何やらご機嫌な様子で、鼻歌さえ歌っている。
「ふむ、では私は先行して上空から偵察してくる。異変の兆候が見られたら随時知らせるので、宜しく頼むぞ」
 堪能になったジャパン語でそう言うと、カール・リヒテン(eb2863)は一先ず先に飛んでいった。

「光はん。何や元気やけど、何かあったん?」
 光のテンションの高さを不思議に思い、夕妃は聞いてみる。
「実はね‥‥じゃ〜〜ん! 見てコレ、実は小源太さんから貰っちゃいました〜!」
 効果音付きで真珠のティアラを掲げて見せる光。それに、女性陣は「おお〜」と感嘆する。
 一行は、とりたて何のトラブルも無く進み、夕刻も過ぎた現在、野営しながら明日への英気を養っているところだった。
「わー、綺麗! イイなぁ、私達もああいうの欲しいよねー早苗ちゃん」
「うんうん。ホント、綺麗な髪飾りも欲しいし、それ以上にそういう相手が‥‥」
 話に盛り上がる瑞巴と早苗。早苗に至っては、途中から己の願望へと脱線している。
「ということは、小源太は光の『そういう相手』なのか?」
 カールは遠回しな言い回しをしないで小源太に問う。それが聞こえた一同はさりげなくチラリと、しかし一斉に、小源太に目線を向ける。目線に気付くと、小源太はようよう口を開いた。
「やはり、こういった物は、女性が持ってこその物ですし、何より、光さんに喜んでいただけて何よりですしね」
 微笑と共に、小源太からの控えめな返答。それ以上の感情は、特に無いようだ。一斉に溜息をつく一同。幸か不幸か、ずっとノロケていた光にそれは聞こえていなかった。
「そういえば、早苗はんの姉上は、怒ったらえらい怖いって聴いとるで〜。早苗はんから見た姉上って、どんな感じやろ?」
「そりゃー怒ったら拳がマズ飛んでくるからねー。たまに、その辺の用心棒より強いんじゃないかな〜って思うこともあるよ」
 過去の教訓を噛み締めながら渋い顔で言う早苗。
「‥‥でも」
「でも?」
「優しいよ、姉さんは。二人で暮らし始めた頃、不安だった私をよく慰めてくれた」
「そっか‥‥。やっぱええもんやね、家族って」
 しみじみと想う、夕妃。
「さて、明日には件の墓を通るでしょう。明日に備え、今日はこの辺りで床につくとしましょうか」
 そうして、見張りとカールの犬を残し就寝していった。


 いよいよたどり着いた墓地は、想像以上に荒れ果てていた。
「昼間にとっとと突っ切っちゃおうっ! さ、早く早くっ!」
 瑞巴は一刻も早く、といった具合で促す。
「なるほど、確かに何かが出てもおかしくない荒れ具合だ‥‥そうだ、脅かすつもりはないんだが、怪物が出るのは夜だけとは限らないから、油断はしない方がいい」
 ランティスには本当に脅かすつもりは無いのだが、瑞巴は、これでもかという程に動揺している。
「そんなーぁ! うー、怖いよ〜‥‥(えぐっ、えぐっ)」
 思わず涙する瑞巴を見て、堪らず声をかける早苗。
「大丈夫だよ、瑞巴ちゃん! ‥‥私も怖いからっ」
「それって、大丈夫じゃないやん!」
 夕妃も堪らず、ツッコミを入れる。それのおかげか、場は穏やかさを取り戻せそうだ。
「大丈夫、俺達が付いている。怖いようなら、この背中を見ていればいい」
「‥‥あ、はい。じゃあ、その時は宜しくお願いします」
 ランティスの頼もしい言葉。早苗の方もノロケてしまいそうだ。
「すまないッ、振り切れなかった!」
 だが間もなく場にもたらされたのは、緊張。切迫した声の主はカールだ。
 カールが上空から来る。その後ろには墓場に似合う生物、鴉―いや、鴉ではない、大鴉だ! 羽を広げた姿はカールが持っている木刀よりも、若干だが大きい。退きながら、二羽のそれらと応戦するカール。
 大鴉達は、カール以外の冒険者が見えると、今度は一斉にそちらに向かう。
「って、なんで私を集中攻撃ぃ〜!?」
 光の周りに降り注ぐ、黒い羽根と鋭き嘴。
「鴉だけに、光る物に群がる習性があるのかもしれない、気をつけるんだ!」
「ええ!? こ、これだけは絶対死守するんだから!」
 それを聞くと必死になる光。十手によって次々と弾いていく‥‥しかし、二対一。空からの攻撃に苦戦は必至だった。
 カールは木刀を正眼に構え、加速の勢いを木刀に載せ突撃する。風切る影に反応して大鴉は身を翻すも、片翼を破られる。
「瑞巴、今だ!」
 威力と詠唱の時間を考え、瑞巴はスクロールを広げていた。念じて放たれるは、闇色の羽根を焼く光の線。サンレーザーだ。翼に火がつき燃え始めると、飛行不可能となった。
 夕妃は既に魔法を詠唱し終えていた。シャドウバインディングによってもう一羽も墜ちる。
 そうして飛べなくなった二羽に小源太の金槌とランティスの二刀が見舞われると、もう二羽は動けなくなった。
「躊躇してもいられないな。覚悟を決めよう」
「そうだね‥‥うん、皆で行けば、怖くない!」
 ランティスに声をかけられ、ついに意を決した瑞巴。
 そうして、一行は墓場へと歩を進めた。

 墓は、噂通りの荒れ様だ。墓石は崩れ、死体は埋葬されていないモノも多い。白骨化されていればまだ良い方、腐肉からは鼻を塞ぎたくなる悪臭が発せられていた。中には、鎧や武器をまとったままの死体もある。
 肉を残すモノは死人憑きとなり、骨が残ったモノは怪骨となり、生者に襲い掛かってくる。
 死人憑きの歯は、歩いてきた小源太の首筋を捉える。続いて怪骨が刃を振り下ろ―そうとした時、死人憑きは月色の矢に射られ、怪骨の頭蓋は突然頭上からの打撃にひびを入れられる。
 気付けは、小源太の姿は無い。あるのは灰のみ。アッシュエージェンシーだ。
「このまま戦闘に入ります。皆さん、陣形を維持するように努めてください」
 先頭の小源太が呼びかけ、一行は前進した。その間に中央に位置する術者達が詠唱する。
 カールは既に敵の射程範囲内にいる。闘気を纏った木刀による一撃で再度怪骨を狙うが、今度は盾に阻まれる。もう片方の手の刀がカールを薙ぐ。浅いがその斬撃を受け、自らの回避能力が怪骨の剣術に劣っている事に、カールは舌打ちする。
「入った! 術の射程範囲や!」
 夕妃は叫び、シャドウバインディングによって怪骨の追撃を阻んだ。
 間合いに踏み込んだ小源太は、振り上げ、死人憑きを叩き飛ばす。そして更に振り下ろし、白骨の肢体を粉砕する。
 最後に、カールからの一撃によって、怪骨は物言わぬ人骨に戻った。
 周囲から、次々と亡者が歩み寄ってくる。空には、また大鴉。
「今度は私も援護するよ!」
「ああ、頼んだ」
 カールは大鴉の方へ飛んで行った。瑞巴はムーンアローによって、確実にカールと連携していく。
 後方を警戒していた光が反応して、ライトニングソードによって作られた稲妻の剣を向ける。光が抑えながら引き付けると、それらはスクロールを広げる夕妃のストーンによって石化させる。
 敵の数と容姿にたじろぐ早苗を励ましながらも、進みながら応戦する冒険者達。
 そうして、遂にこの墓場にも出口が見える。が‥‥。
「「キャーッ出たーーー!」」
 悲鳴を上げる瑞巴と早苗。
 前に見えるそれはゆらめいた炎、しかし青白い。炎は時折形を変え、死を嘆く顔にも、生を呪う顔にも見えた。
「あれは、怨霊っていう奴やろか?」
 夕妃は迫る敵を石化させながら言った。
 ランティスは早苗達をチラリと見た。はじめて見たであろう凶暴化した幽霊に恐怖している。
「この恐怖は、俺が取り除くよ。これ以上、誰も傷つけさせはしない!」
 ランティスは駆け出し、間合いを詰める。
「これで、鎮め!」
 オーラパワーが付与させているランティスの二刀。掠めるようにして放たれたそれは二刃同時に怨霊を切り裂く。
「前の方は大体片付いたみたいだね、よぉーっし!」
 光の持つ稲妻の剣。振るわれたそれは一閃と共に衝撃波を放ち、後方からの敵を始末する。
 そうして、一行は墓を抜ける。


 目標の山に着くと、そこには様々な薬草が自生していた。そこですぐに使える物もあったので、早苗はそれで傷付いた冒険者を治療した。
 しかし、想像以上に薬草は多く、早苗の持ってきた籠には入りきらなかった。
「ローブに包んで、持つのを俺も手伝うよ」
「これ、布に匂い残りますよ? それに、染みとか泥とかついて、もう使い物にならなくなるかも」
「なら、その時は捨てるさ。保存食忘れて皆から貰った身としては、ここでケチっぽい事も言いにくいしね」
 苦笑しながらランティスは言う。
 薬草の採取を終え、復路も取り立て目立つ失敗も無く、一行は帰ることが出来た。


 そして、早苗在住の長屋。
「あら、早苗」
「姉さん、もうこれからは遊郭で働かなくてもい―いッ!?」
「‥‥何か、勘違いしているようね」
 早苗の言葉は、手刀によって遮られる。
「もし私が夜に出歩いている理由が気になるとしたら、教えてあげるわ」
 頭を押さえつつ、姉の指差す方向を見てみると、そこには太鼓やら笛やらを準備する者達。
「あなたは寝るのが極端に早いから知らないかもしれないけど、夜はお祭りが開催中なの。私だって、こういう所で息抜きの一つでもするわ」
 彼女は左手で自らの長い髪を撫でて、呟いたのだった。