●リプレイ本文
「ふむ‥‥拙者のような未熟者に声をかけてもらえるとは。亡者やらと命の取り合いをするばかりが平穏への貢献では無い、喜んで協力しよう」
「いや、未熟者などとは。武を修めた者とお見受けする。依頼を承諾してくれて有難く思う」
睦がギルドで声をかけていると、二人の冒険者が首を縦に振ってくれた。蘇芳正孝(eb1963)と、山内峰城(ea3192)だ。
「なんや、偶に綺麗な嬢ちゃんに声かけられたと思ったら仕事の誘いか、これは吃驚」
ワザとらしく残念そうに苦笑する峰城。
「え‥‥仕事の他に、何かあるのだろうか?」
「ああ、いや、気にしないで。ん、あちらに他の仲間達が集まっているみたいだ」
彼女は鈍感なのだろうか? 困ったように真顔で返してきた睦に気まずさを感じた峰城は、他の参加者が集う場へと促した。
そこにいる冒険者達は、依頼のための諸準備中だった。
「私も京に住む方の暮らしを守りたいと思い京に参りました。同じ志を持つ方と出会えて嬉しいですね」
「最近色々と大変だから、しっかりやりたいよねー♪」
用意したたすきを肩からかけながら、おっとりした口調で言う綿津零湖(ea9276)と対照的に、無邪気にはしゃぎながらの風月明日菜(ea8212)。たすきには『警邏中』と書かれている。
「あ、前に山で遭難してた人!!」
「う、事実故反論できないが、まさか出会いがしらに言われるとは‥‥っ」
以前依頼で面識のある紫電光(eb2690)に言い放たれると、ガクっと項垂れる睦。
「お久しぶりやね。‥‥まーまー元気出しぃや、またよろしゅうに」
こちらも睦と面識がある。将門雅(eb1645)は笑顔で挨拶しながら睦の肩をポンと叩いて慰めていた。
「すいません。無料で提供して頂いて」
「丁度捨てる予定の無地の着物があったからな」
頭を垂らす小坂部小源太(ea8445)にぶっきらぼうに言うギルドの係員。
「紙も安い物じゃないが、変な衝突があるよりマシか」
「強力ありがとうございます。ああそれと、今回組織した警邏組は、依頼期間後は解散するのですか? それともその後は京都のギルドの非番の方が引き継ぐ等の形で継続されるのですか」
エンド・ラストワード(eb3614)は、係員からギルドの紹介を受け取るついでに質問する。
「今回限りだ。本来の治安維持組織が多忙のため、下げ渡されて依頼となったのが今回のケースだからな」
「そうですか」
紹介状を手にし、彼は自分自身に暗示するように胸中で呟く。
(「ハーフエルフの私にとって、人生これ贖罪。神の徒として世に尽くす以外の道は知らぬ」)
と。
一行は京都見廻組と新撰組を訪ねた。ギルドの紹介状もあったことから、彼らとの無駄なトラブルは起こらなかった。
そうして冒険者達は、事前に決めた班に分かれ、それぞれ見回りを始めた。
イ班
「お、何かのぅ、お嬢さん達。たすきなんて付けて」
「最近物騒な事件が多いので、皆さんに危害を加える様な輩を取り締まる為、警備しているんですよ」
「そうでーす♪ 誰か悪い事している人がいないか、僕達がこうやって目を凝らして見回っているんだよー♪」
「ほほ、これは頼もしい」
声をかけてきた初老の男は零湖と明日菜の笑顔を見ると、二人と同じく微笑んだ。
(「この班に男手は拙者のみ、婦女子にあまり荒事をさせるわけにもいかぬ、気合を入れねばな」)
歩きながら裏路地を覗く正孝はそんな二人の声を聞いて、思っていた。
三人が巡察している通りは多くの商店が立ち並ぶ。澄んだ秋晴れのもと、今日も通りは賑わいをみせていた。
人が多ければ当然、人同士のトラブルも多い。明日菜の指差す先を見てみれば‥‥、いかにも柄の悪い男が、いかにも気の弱い男を囲んでいた。
「おぅおぅ! ここの店は吸い物に虫を入れて出すのかぁ!?」
「今更、そんな流行らない難癖つける奴がいるとはな」
呆れさえ感じ正孝が男達に歩み寄る。
「人聞き悪ぃ事言ってんじゃねぇよチビ。俺は被害者だぜ?」
「さっき懐から出したの、僕にはバッチリ見えていたけどねー♪」
明日菜に言われると、男は一瞬顔をしかめた。そして、短絡思考は即、暴力を選択した。この勢いは制止がきかなそうだ。
男の手は屈む正孝の髪すら掠らず、空を突く。そのまま正孝の脚は男の足元に伸び、払うと男は背中から着地した。派手な着地音から想像できるように、激痛に苛まれている。
仲間をしてやられた男は襲いかかろうとする、が、その頬に『何か』が掠り、皮膚の上に赤い線が浮かび上がる。どんな武器を投げられたかと思い見てみれば、投げられたのは、扇子だった。
「次は本物の武器が飛びますよ」
零湖は静かな口調のまま、袖口の小柄をちらつかせながら言う。
慄いた男達は駆け出すが、明日菜の犬、野月も既に駆け出している。結果、尻を犬に噛まれながらの逃走となった。
その風景に周りからは笑いと喝采が上がり、店員からは何度も頭を下げられた。
ロ班
「犬は好きだが甲斐性がなくてよう飼えんから羨ましい。一緒の班で良かった‥‥」
「犬を構うのもいいが、警邏の方も宜しく頼むぞ峰城殿」
睦の犬、藤丸を撫でる峰城に彼女は苦笑しながら言った。一方エンドは不審な人物がいないかと、周囲に目を配っている。
「しかし犬も可愛いな、藤丸というのか‥‥ん、どうかした?」
「い、いや、なんでもないっ、なんでもないぞ!」
峰城の(恐らく)他意の無い、犬「も」、という言葉に過剰反応して赤面している睦。この娘は、鈍感なんだか敏感なんだか‥‥。
こちらの組は多くの人が住んでいる大通り。辺りには噂話に勤しむ主婦達や孫をあやす老夫婦。峰城は睦と共に人の輪に入り、情報収集や、噂による不安の解消に努めていた。
(「それらしき者も見当たらないな。―ん?」)
エンドは衝撃のあった足に視線を落とす。そこには、自分にぶつかって転んだ子供がいた。長身のエンドは、走ってきた少年に気付けなかったようだ。
起こすために手を貸すエンド。するとその子の母であろう女性が走ってきて、奪うように子供を抱き上げ、エンドから離れた。
「母ちゃん、あの人なんであんな耳してるの?」
「あんたも悪い事すると、あんな中途半端なのになっちゃうよ!」
偏見の対象、ハーフエルフ。逃げるように走っていった女性の影を見つめ、エンドは改めてそれを思った。
「生まれてきた事が罪ならば」
エンドは振り返り、
「生涯掛けて‥‥償おう」
そして再び、見回りの続きを始めた。
その頃、雅は商人同士の会合に顔を出していた。
「へぇ、見回りとはご苦労様。昨今の事件には私も困っていてね。いやぁ、自信の身は勿論だが、私には家族もいるからね。今年で14になる可愛い娘が―」
「とにかくッ、悪さする輩の抑止する動きやから噂を広めるのに協力してくれへんか?」
話しかけてきた商人は何やら饒舌でキリがなさそーだったので、話を途中でぶった切る。
「まぁ、坂田さんが言うように、例の殺人の騒動には僕達も困っていた所です。協力致しますよ」
ほっそりとした青年が爽やかな笑顔で雅に話しかけてきた。
「おおきに。もしうちの商売であんたに関わる事があったら、その時も宜しく頼みたいもんやね」
「僕は呉服屋をやっている大沼と申す者です。道か宜しくお願い致します」
雅は、どこまで本音かはわからないが、営業スマイルを以って言うと、青年は恭しく礼をしてそれに応えた。
ハ班
「これ以上は無駄です。観念しなさい」
小源太と光は、スリを追って走っていた。
「くそ、畜生!」
いつまでも追ってくる二人。スリは逃走を止め自棄気味に拳を振るう。
しかし攻撃は簡単に小源太の盾に防がれる。素手だったので当然スリの拳には痛みが走ったが、我慢して蹴りを入れようと足を上げる。しかしそれも光の十手によっていなされ、届かない。結果、不安定になって、倒れる。
「もぅ、悪いことしちゃダメだよ!」
「どうもスンマセンでした、出来心で‥‥。どうか許してくだせぇ」
目の前に十手を突きつけられたスリは、大人しく平謝り。
「これに懲りたら、もうこのような行いはしないでくださいね」
盗品を回収した小源太はそれだけ言うと、男を放した。
「お、お咎め無し‥‥ですかぃ?」
元・スリに聞かれると、小源太はただ微笑のもと頷くだけ。元・スリは何度も頭を下げて、去って行った。
「しかし、だいぶ走りましたね。気がつけば長屋に‥‥」
「わーッ小源太さん、見てましたよ私。カッコよかったですね」
二人は声の方向を見ると、誰かが駆け寄って来る。先日の依頼で関わった少女だ。
「あ、早苗さん。まさかいきなり小源太に抱きつくとは『しないよね』?」
「えっ‥‥。はは、やだなーしないってばー」
早苗と呼ばれた少女は、小源太への間合いに後一歩の所で止まった。
光は「まぁ、それは置いといて」と気を取り直し、少女に事件の説明と注意喚起を行う。
「最近物騒な事が起こっているから、遅くまで出歩くと危ないよぉ〜」
「あ、事件の噂なら私も聞いたことある。姉さんは最近夜によく出歩くから、言っておかなくちゃ!」
(「まぁ、依頼には無いが‥‥」)
時は夜中。峰城は夜の町も見回っていた。
笛が鳴っている、太鼓の音が聞こえてくる、人々が笑っている‥‥、大通りは祝う収穫を祝う祭りの最中だった。
(「賑やかな所で人斬りなんてないか‥‥ん?」)
峰城が大通りから裏路地に抜ける脇道に視線を移すと、そこに一つの人影。
近寄ろうとすると、気付かれた。顔は見えてないが、峰城は直感的にそう思った。そして、自分の武士としての心得を頼れば、それは一瞬‥‥殺気を放った!
「待て!」
峰城が走ると、人影も呼応したかのように動き出し、逃げる。それでも走り、裏路地を見てみると、
「あら、息を切らせて、如何しました?」
目に映ったのは、品のよさそうな長髪の女性だけだった。手には巾着袋とお面。祭りの帰りだろうか。
「この辺に不審な人物、おらへんかったか!?」
「いませんでしたけど?」
女は左手で髪を撫でながら答える。
もしやこの女性が殺気の主では、とも考えたが、見た目ただの町の女性、しかもこんな美人がそうだとは思いたくもない、と峰城は考え直した。
(「この人に気付かれないほど素早く逃げた、か」)
「あの、どうかしました?」
「いや、なんでもない。ところで最近物騒みたいだからキミみたいな美人を放っておくのは心配だ。嫌じゃなければ、家まで送るよ?」
「ご親切にどうも。それではお願いします」
大々的な広報があるわけではないので、見回りの効果は地味なものだ。しかし、効果自体は直実に出ていて、また、幾つかのトラブルや事件を冒険者達が未然に防いだ。それだけでも十分だ。
冒険者達は早く、人々を不安にさせる事件がなくなるように願うのだった。