隻手の剣士?
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月09日〜06月12日
リプレイ公開日:2005年06月13日
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●オープニング
ここに、犬を連れて歩く一人の少女がいた。浪人である彼女は、知り合いの農夫から、最近山の畑で悪さをしているという小鬼の退治を頼まれた。今はその場に向かう最中だった。
被害の規模は台風や日照りほど壊滅的なものではないのだが、多くの畑に出没しては中途半端に食い散らかし、その回数が頻繁なため困っているのだという。
少女は幼い頃から現在に至るまで、その農夫に何かと世話になっていたので、今回の依頼は無償で受けた。また、若干16歳の未熟者ではあるが、ある程度の剣術を体得した自分の力を試してみたい、とも思っていた。
今こそ、日頃の恩を返すため、刀を抜く時! と、彼女は拳を強く握った。
意欲に燃えていた矢先、ぐぅう〜〜、と、腹から間抜けな音が鳴った。彼女は一人赤面する。
そういえば、時間はもう昼時。腹が空く頃だ。
木の下の日陰に腰を下ろし、持ってきた握り飯を食べ始める。具は入っていないが、塩の加減が丁度よく、ついつい勢いよく食べてしまう。
そうして昼食をとっているなか、少女は、傍らに佇む自分の犬の視線に気付いた。犬の方も、恐らく腹が減っているのだろう。
「私ばかり食べていたら、お前に悪いな。ほら」
そう言って彼女は、自分の手の平に、半分にした握り飯を乗せ犬の前に差し出す。
犬もやはり腹が減っていたらしく、尻尾を振って口を近づけた。そして‥‥。
ぎゃーー!!
彼女の声が、周辺に響く。
よっぽど腹が減っていたのか、犬は勢い余って彼女の手ごと、飯にかぶりついてしまったのだ。
かなり痛かったらしく、彼女は痛みにもだえる。その様子を見る犬は、心なしか申し分けなさそうな表情をしているように感じる。
「‥‥それほど腹を空かしていたのか。気付いてやれなくて、悪かったな」
彼女は涙目になりながらも、噛まれていない方の手で、犬を撫でた。
「しかし、これでは修行した二刀流を発揮できないな。うーむ、どうしたものか」
犬はなかなかのパワフルに噛み付いたらしく、負傷した右手では武器を持つ事は困難なようだ。
暫く彼女は考えた。
「(己の実力を試すには一人がよかったのだが、ここで無理をして小鬼達の退治に失敗してしまったら、小父さんに合わせる顔がなくなってしまうな)」
そうして、ギルドに依頼を出し、協力者を募る事にしたのだった。
●リプレイ本文
「十文字優夜(eb2602)よ、宜しくね♪」
「任侠裏方組が一人、タイムキーパーの秤都季(eb2614)! 二代目だけどぉ、よっろしくぅ♪」
「風鳴鏡印(eb2555)だ、宜しく。話は聞いたが災難だったな。できる限りの手助けはさせてもらおう」
冒険者達は依頼人である浪人の少女に会い、お互い挨拶を交わした。
「ああ、宜しくお願いする。‥‥今は右手が使えない故、こちらで」
少女は無事な方の手で握手に応じる。
「名前くらい教えてくれよ? 短い間とは言え、チームを組むんだ」
黄鸞鳳(eb2170)がそう言うと、少女は、少し慌て気味の口調になった。
「こ、これは失礼したっ。姓は片岡、名を睦(むつみ)と言う。改めて宜しく頼む」
「睦か。良い名前だな。こちらこそ宜しくな」
と言って、それから鸞鳳は睦に取り留めの無い話をしだした。
「ま、とにかく小鬼退治、一緒に頑張ろうぜ!」
天馬巧哉(eb1821)はそう言いつつ華宮紅之(eb1788)と一緒に犬に餌を与えていた。犬は嬉しそうに餌を食べている。
「藤丸の餌まで用意して貰うとは、かたじけない」
「いいのよこれくらい。あ、このコ藤丸っていうのね」
優夜はしゃがんで、微笑みながら藤丸を撫でる。
正直、睦は戸惑っていた。まさか、面識の無い冒険者達がここまで友好的だと思っていなかったからだ。
「これは、太郎丸に感謝しなければならないかな」
誰にも聞こえない声で、ぼそっと睦が呟いた。
まずは小鬼達を退治する期間は畑に行かないよう村人に伝えると、村人達はそれに二つ返事で応じてくれた。
「これからも、こう簡単に事が進めばいいんだが」
紅之は、そっけない口調でひとりごちた。
「なるほど。山は緩い傾斜、山道に沿い畑を拓いている、と」
「周辺は雑木に囲まれているらしいねぇ」
都季と鸞鳳で、被害を受けた現場とその周辺の状況を聞いた。特に、必中を狙う鸞鳳は現場の情報をなるべく多く把握しておきたかった。
「そういえば、巧哉達はどうしている? もう聞き回っている頃か?」
「期間が短いから早々に動かねぇとな〜、って言って数人で既に聞き込みしてるよぉ。場所、時間、頻度、巣の場所、とにかくあっちも色々聞く事あるから、間に合えばいいんだけどねぇ」
「結構な被害が出ているようだな」
村人達の情報を整理している中、鷹碕渉(eb2364)が眉を顰めて言う。聞き込みの最中に見せた農夫達の困りきった顔を見て、その原因に対して憤慨を露にしていたのだ。しかしその表情は、どこか幼さの残るものだった。
「毎日ってわけじゃないらしいが、昼夜の境なく荒らしに来るとはまぁ。奴さん、随分と盛んだな」
傍らの八城兵衛(eb2196)は、むしろ感嘆したかのように呟く。
「このままでは家族を養えなくなる家も出てくるだろう。この機会に巣ごと滅ぼさなくては」
「でも結局、巣の心当たりは聞けなかった。こりゃ、探さなくちゃいけないな」
兵衛と渉が話している中に、巧哉が割り込んできた。
「上等じゃねーか。生け捕って聞くなりして、奴等の巣を見つけ出そうぜ」
皆が情報収集をしている間、睦はレオーネ・アズリアエルを相手に模擬戦をしていた。
動きは良くなってきてはいるが、やはり慣れた戦い方が出来ないので苦労している。滴る汗を、睦は荒っぽく拭った。
「(片手が使えなくとも、討ちとってみせる!)」
模擬戦だというのに、いつの間にか睦は力を込めて打ち込んでいった。
それぞれが得た情報をまとめ、分けられた二つの班は小鬼を見つけるべく巡回を始めた。二班同時で動いたが、定期的な休憩や昼食を摂ったことにより、思いのほか疲弊の度合いは浅かった。
そうして探索するも、小鬼達は姿を見せない。真上にあった白い太陽も、黄と赤に彩られ段々と沈んできた。
「思ったより見つからないものだな」
暫く沈黙して歩いている最中、睦が何気なく言う。
「小鬼は狡賢いと聞く。私達がこう巡回しているが、もしやそれを遠くで見て、警戒しているのかもしれない」
紅之の言葉を兵衛は苦笑して返した。
「そこまで小鬼が賢かったら驚きだな。なら、『人間達も疲れたかな』と思う頃に突如襲ってきたりして。‥‥たとえば、今とか」
がさ!
後方からの物音に一同は一斉に振り返る。‥‥藤丸が茂みに入った音だった。
「こ、こら、驚かすなっ藤丸! それに、これ以上私に恥をかかせないでくれっ」
「全く‥‥」
紅之は、なかば呆れ気味になって藤丸を見る。すると、気付いた。
「(‥‥こいつ、何かに対して唸っている?)」
両脇から二つの陰が飛び出してきたのは、紅之がそれを口に出す前だった。
粗末な手斧が振り下ろされる。それぞれの狙いは女性の二人。
「紅之殿! 後ろへ下がれ!」
紅之より早く反応した鏡印が攻撃を弾くと、彼女は下がり、笛で合図を出す。
藤丸の向いていた方向を気にしていた兵衛も、もう一方の攻撃を受け止められた。攻撃を止められ躊躇している小鬼を、睦が横薙ぎにする。弱った小鬼に、兵衛の野太刀が変則的な軌道で迫る。それを避ける術を持たない小鬼は、斬られ地に伏せた。
鏡印は、よく避け隙を見て斬りかかり、優勢に戦闘を進めているが、まだ倒してはいない。加勢しようと睦が構えるが、それを兵衛は御した。
間もなく紅之のスリープが発動し、小鬼を眠らせる。
奇襲しに現れた小鬼は、全部で三匹だった。出遅れた一匹が逃げ出し、それを睦は追おうとした。
「おい、あまり無茶するな!」
鏡印が止めようとするが、既に睦は駆け出している。追った先に、もし集団で小鬼が待ち構えていたら大変だ。
「逃がすかよ‥‥」
その懸念を払ったのは鸞鳳の矢。
矢に刺し貫かれた小鬼は動きを止めた。そこで睦に斬られても生きていたが、
「小細工は無い、落とす!」
結局は、再度飛んできた矢によって息絶えた。
「さて、吐いてもらおうか」
小鬼の耳障りな叫びが、聞こえる。そんな声を何回聞いても、短刀を持つ渉は容赦しなかった。
テレパシーを習得している三人が、先程から小鬼から巣を聞き出そうとしている。小鬼が断るたびに、渉の短刀が小鬼へ向けられた。
最初は馬鹿にしたような表情だったが、都季の「答えないとぉ、どぅなっても知らないからねぇ?」の一言から、渉の出番。各所を短刀に裂かれるにつれ、小鬼の思考は恐怖に侵されていった。そしてとうとうパニックのあまり、逃げられるような状況でもないのに逃げ出した。
それをあえて捕らえず巣に帰すことで、巣の位置を把握することにした。
小鬼は負傷しているにも係わらず(後から藤丸に吼えられているせいか)思ったよりも速く走った。
傷付いた小鬼は助けを求めるため巣に駆け込んだ。が、その胴を貫く矢は、悲鳴以外の声を出す事を許さなかった。
同胞を射った方向を見ると、そこには人間達がいた。
「畑を荒らす者共よ、覚悟!」
叫ぶ睦を筆頭に突入する。
鏡印は睦の支援についた。それが彼女の右手を補う形となり、睦もちゃんと戦えていた。
くねるような兵衛の剣に傷を負うも、小鬼も即座に反撃に出た。古びた手斧をかわしきれなかった兵衛の額から、赤い筋が流れる。しかし、兵衛の口調はマイペース。
「いやぁ、それは痛い」
逆襲の刃によって斬られた小鬼は、顔から倒れ動かなくなった。
一匹撃破でお疲れの兵衛を、横から迫ってきた小鬼は待ってくれなかった。
「タンマタンマ! 少しは間をおいてくれ」
狼狽したような声を出す兵衛だが、慌ててはいない。仲間達の動きが見えたからだ。
巧哉のムーンアローが小鬼を牽制し、渉の一撃が小鬼の首を飛ばしその生涯を終わらせた。
「助かった。やっぱり協力ってのはいいものだな」
「協力ってのも常にできるモンじゃねーんだから、あんま無理すんなよ」
巧哉が呆れながらそう言って、再び詠唱し始める。
その間にも、渉の居合い抜きによって小鬼が斬られていった。
自分達の不利を悟ると、小鬼達は睦に群がる。この中で一番仕留め易いと思ったのだろう。鏡印がいるにしても、囲まれてしまっては多勢に無勢だ。
左手で攻撃を受け止めた瞬間、右から現れた小鬼を視界に映した時、睦の全身から汗がふき出た。
襲い掛かる刃は、突然軌道を狂わせ地面に当たる。睦は気付いていないが、都季のサイコキネシスによるものだ。
そこに優夜が斬り込む。
鋭さを増した彼女の刀、そして蹴りが同じタイミングで繰り出される。刀身はその体を縦に斬り裂き、靴裏は頼りない胸板に叩き込まれ、小鬼を絶命させた。
「手が使えないなら、蹴ればいいのに‥‥」
優夜の呟きに、睦は苦笑して応える。
「私は陸奥流じゃないんだ。無理を言わないでくれ」
脇から逃げようとする小鬼や畑を荒らして巣に帰って来た小鬼等もいたが、それらは藤丸に噛まれ、そして重藤弓から放たれる矢と月光の矢に撃ち抜かれた。
そうして冒険者達は、小鬼を一掃することに成功した。
「お前も良く頑張ったな」
巧哉は、尾を振る藤丸を撫でている。
「恩が返せて腕試しもできた、万々歳ってところだな」
「これで気を病めずに畑を耕せるだろう」
笑顔で言う鏡印と、言うことは大人っぽいが表情は子供っぽい渉。
「私一人なら、両手が使えても倒しきれなかっただろう。みんな、本当に有難う」
睦は感謝の旨を述べた。そしてそれぞれが彼女に別れの挨拶を済ませると、一行は帰っていく。
その背を、睦と藤丸は暫く見つめていたのだった。
小鬼がいなくなったその村では、今日も農夫達が畑仕事に勤しんでいる。