【双剣の剣士】必殺剣
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 1 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月22日〜10月25日
リプレイ公開日:2005年10月31日
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●オープニング
「やめられねぇな、こんな生活」
「特に、前の女は最高だったな。死んだ後も十分楽しめたぜ」
「何言ってやがる。お前は死んだ後が専門だろ?」
猥談に勤しむ男達。下卑た笑いは夜に響いた。
「あんた、冒険者なのだろ!? この依頼を受けてくれ! 相手は慈悲の必要無き、悪党だぞ!」
「ああ、わかっている」
「殺してくれ! 一人残らず殺してくれ!」
(「‥‥‥‥」)
元から、正義感は人一倍ある。そして何より、涙さえ浮かべかながら懇願してくるその老人の願いを、断る事など出来なかった。
ここは冒険者ギルド。一人の女剣士が、依頼を受けている所だった。
「こいつら一人一人の首には、既に賞金が掛けられている。わかっているだろうが‥‥、言っておくぞ。この依頼内容は、対象の殺害だ」
「ああ、‥‥わかっている」
彼女はギルドの係員から念を押されていた。多分、彼女の中で渦巻く感情を見透かされたのだろう。
剣士は腰に刺している二本の小太刀に手をかけ、見下ろす。すると足元で飼い主を見上げながらちょろちょろしている犬が一匹見える。
少女は冒険者として、それなりに依頼をこなしてきた。小鬼豚鬼死人憑き‥‥様々な怪物を斬った。しかし、『それだけ』だ。いまだ怪物以外の生物は、人はおろか、犬一匹斬ったことがなかったのだ。
被害者の悲痛は解る。件の悪漢達への嫌悪感もある。胸中は義憤に燃えている。
しかし、『人を殺す』ということは彼女にとってあまりに未知であった。
(「私は、なんて情けない‥‥」)
「不安なら、後ろにいる連中を誘ったらどうだ? お前より覚悟が出来ていると思うぞ」
彼女が振り返ると、そこには数名の冒険者。
「と、いうわけだ。今から依頼内容話すから、気が向いたら受けてみてくれ」
そういって、係員は書類を取り出しつつ、近くにいた冒険者に話し出す。
「最近調子こいて悪さしていたゴロツキ達がいてな、その主な罪状は婦女暴行。夜間に歩いているところを突然路地裏に引きずり込んだり、誘拐したり。過去の事件は‥‥」
係員は犯行の説明をしていく、唾でも吐きたくなるその罪状の数々を、事務的に読み上げていった。
「拉致して辱めて殺し、その後も散々玩んだ。今回も、酷いもんだった‥‥ッ。だが、それでついに棲家が割れたんだ!」
言い終えて、係員は一息つく。客観視が必要な立場だというのに、気がつけば自分の言葉に熱が入っていたからだ。
深呼吸、溜息のような深呼吸をして、事務的な声色を取り戻した。
「その棲家ってのは、場末に立つ一軒の居酒屋、二階建てだ。犯人一味は調べによると、犯人達は8人程度。弱気な主人を脅して匿ってもらっているらしい。ほら、これがそこの地図だ」
手渡そうとするその時、係員は冒険者を直視して言った。
「必殺の覚悟はあるか?」
声は事務的な色を帯びていない。
「死んでいた方が良い人間もいる。あくまでも、俺の考えだがな」
そう言って係員は地図を渡すと、新たにギルドにやってきた客の応接に移った。
場に残された冒険者と、双剣の少女。彼女は近づき、友好的に微笑んでみせる。
「私の名前は片岡睦。もしこの依頼を受けるならば、一緒に頑張ろう」
不器用な微笑は、胸中を隠しきれないでいた。
●リプレイ本文
「‥‥いらっしゃい、何にします?」
「じゃ、とりあえず冷酒と漬物」
山内峰城(ea3192)は店主と思わしき男に注文しながら緋神一閥(ea9850)と席に着いた。さりげなく店内を見てみれば、それなり広い。
(「しかし、戦闘中は卓が邪魔になりそ‥‥ん?」)
見渡す一閥の瞳が奥の階段を収めた時、降りてきた数人の男達も目に留まる。男達は暫く一閥達の格好を見ると、それが岡っ引きの類で無いと判断し、笑顔で近付いてくる。尤も、その笑顔は不快な嘲笑だが。
「おいおい、ここは女連れて来る雰囲気の店じゃねえだろ?」
「?」
ニヤケながら男に言われたが、峰城は何の事だかわからない。
「ん? なんだこいつ、男だったのかよ!」
どうやら一閥を女性と見間違えていたようだ。
「(一閥さん、ムカつくとは思うけど‥‥)」
「(ええ、わかっていますよ)」
不快感を覚えつつも、さらっと聞き流そうとする二人。
「女だったら‥‥畜生、紛らわしい顔してんじゃねぇ!」
叫び、二人の卓を蹴り飛ばす男。漬物、冷酒もろとも、卓は吹っ飛んでしまう。
「女だったら、どうするつもりだったよ?」
「は、決まってんだろ」
「へへ、別に男でも問題無ぇんじゃね?」
間取りの確認は出来た。これ以上ここにいる必要は無い。これ以上ここで吐き気に耐える必要も、無い。
「逃げんのかよコラ」
「やっぱタマついていねぇんだろ」
怒りを感じるわけでもなく、寧ろその低俗さに哀れみすら感じて、一閥は峰城とその場を去った。
一旦一同は、これから攻め込む敵地の情報を整理するために集まっていた。山野田吾作(ea2019)はこの時、チラっと睦の顔を見てみたが、やはりその表情は澄んでいない。
「睦殿、お久しゅうござる」
「あ、ほんと、久しぶりだよね〜睦ちゃん」
つられるようにして、アマラ・ロスト(eb2815)も入ってくる
「‥‥ああ、そうだな。久しぶり。今回も、宜しくお願い致す」
「お前も久しぶりだねー、藤丸ーっ」
睦の犬とじゃれあうアマラの横で、田吾作は語りかけるように話し出した。目を細めずに、なるべく安心させられるように。
「拙者は、この世には‥‥斬る事によって得られる救い、と言う物が存在する。そう思う事にしているのでござるよ」
「でも、無理だけはしないようにな。いざという時の覚悟は必要だけど、ソレ、何かの拍子で履き違えたら、取り返しつかんさかい」
「望まぬ修羅の道より抜け出られぬ者も、沢山おります」
峰城、一閥も気遣った言葉をかける。
「睦さん、だっけ? キミは外にいたほうがいい」
迷いと決意を混合したままの睦にかけられたのはロルフ・ラインハルト(eb2779)の、現実を射た意見だった。
「正直、君はまだ迷っているだろ? なに、人を斬らない弱さも悪いもんじゃないさ、俺だって結婚するならそういう人が―」
「いや、大丈夫だ」
ロルフの話は、睦によって途中で切られた。
「私の事なら、大丈夫だ」
「そう、か。ならいいけど」
ロルフはそこで退いたが、隠しきれていない戸惑いが垣間見える睦に、エンド・ラストワード(eb3614)は不安を感じざるを得なかった。
「私も『狂化』という不安要素を抱えています。お互い無理は極力さけていきましょう」
「ああ、そうだな‥‥、エンド殿」
「‥‥いらっしゃ――ひ!?」
店主は抜刀した冒険者を見て当然の反応をする。
「失礼します、こちらへ!」
一閥によって素早く手を引かれた店主は、外へ導かれると山本佳澄(eb1528)によって確保される。
「なんだお前ら!!」
「黄泉路への案内つかまつる‥‥!!」
突然の訪問者に、大振りの斬撃にて出迎えた男の刀は、田吾作の刀に受け流される。振り上げ、上から下へ重さを乗せて、田吾作はその刀を峰によって打ちつける。甲高い金属音の刹那に、相手の刃は折れ飛んだ。
衝撃に、柄を持つ男の腕も下がる。その空いた胴にアマラの小柄が突き刺さる。根元まで。
更なる攻撃が続く。小柄を引き抜くたびに、広がる赤。
鮮血。この血は、一帯のみならず、エンドの瞳をも紅に染める。
混血による望まぬ遺産、狂化。
「(‥‥まずいな)手早く、決めさせてもらうで!」
峰城の刀は納刀されたかと思うと、次の瞬間には相手に向かっていた。視認しえない刃によって、男の命は絶たれた。
「これから行う事はお片付け。必要なものと不必要なものを分け、不必要なものは捨てる」
アマラはぼそりと呟くと、仲間の方を見向きもせずに、次の標的へと走る。もしかして彼女も、感情の昂りから既に狂化しているのかもしれない。
「俺と一閥さんで、彼女らのサポートと、囲まれないように皆の背後を守る。田吾作さんとロルフさんは、前に!」
「心得てござる!」
「階段へ、だな。あこをまず押さえて迎撃するか」
田吾作とロルフが疾走する先ある階段から、ぞろぞろぞろぞろ。増員だ。ロルフはそれらの塊に向けて卓を蹴り飛ばし、たじろがせて間合いを詰める。
「やれるでござるか、睦」
「ああ」
短く答える睦と、付かず離れずの位置にいる香山宗光(eb1599)も斬り込む。
(「人を斬ったのは何時以来でござったか。時には鬼にもなるでござる」)
(「蛇みたいにうねる太刀筋だ。ちッ軌道を読み難い!」)
変則的な宗光の太刀は、確実に相手を追い詰める。相手の攻撃を掠りながらも避ける彼には、若干ではあるが、睦の方を見る余裕があった。
「何ぃ!!?」
男の足に、突然痛覚が働く。見てみればそこには一匹の犬が噛み付いていた。
睦に繰り出した斬撃は藤丸の不意打ちによって勢いを失い、小太刀で弾かれると、もう片方の小太刀が、死に体となった男に迫る。
(「‥‥御免っ!」)
刃は喉元へ、向かう。それを貫く為に、向かう。向かって‥‥、赤い点を作るだけで、切っ先は止まった。
次の瞬間、睦の腹部に走る鈍い衝撃。それを生じさせた男の足の裏は、押さえつける形で睦の腹の上にある。
「くそっ。‥‥こ、こんな」
頬を伝う涙は、痛みからではなく、己の情けなさからだった。
「早く片付けろお前ら。こいつを動けなくして、み‥‥―!?」
睦を見下しながら言った男が、動けなくなっていた。迫るは、躊躇いを纏わぬ太刀。
掌を翳し魔法を放ったエンドを確認する事も出来ないまま、男は宗光に斬り伏せられる。背面を襲った覚悟の一太刀は、それで男を絶命させた。
「すまない、エン―」
パァーンッ。
エンドの平手打ちは、立ち上がった睦の頬をよく響かせた。
「グズが。依頼を受け、あまつさえ自らこの場に足を踏み入れたのに今更覚悟の一つも出来ていないのですか?」
狂化によって遠慮を失った彼の言葉が、睦に突き刺さってゆく。
「あなたがそれで、斬られようが蹴られようが、どうなろうとあなたの勝手でしょう。ですが、それによって皆様の足を引っ張るとは、士道の欠片も感じられない愚行ですね」
「‥‥睦さん、場を離れてください。今の貴女では、危険です」
苦戦しながらも、なんとか敵を刺し貫いて床に沈めた一閥が言った。しかし反応が無い。
振り返って彼女を見てみるとそれは、懇願するような、救いを求めるような‥‥そんな、顔だった。
「宗光さん、彼女を外までお願いします。‥‥早く!」
「睦殿、こちらへ早くッ」
そうして佳澄、宗光、睦が外で待機する形となる。
敵は二階へ逃げる組と店の出入り口から逃げようとする二手に分かれていた。
「この期に及んで逃亡ですか。品性の次はプライドも捨てる。ハっ、賊の鑑ですね」
「言わせておけば!」
エンドの毒舌によって激情に駆られた男が向かってきたが、それにアマラが襲い掛かる。防ぐ術を持たぬ彼女に向かうのは、遠心力をきかせた槍。それに血まみれにされながらも彼女は引かず、ただただ小柄で貫き続けた。
(「うわぁ、よくも持ち堪えられるなぁ」)
加勢の体制を整えながら思う峰城。もし彼女の身が鎧と闘気を纏っていなかったら、今頃物言わぬ死体となっているだろう。回復のアテしにていたエンドも、狂化して的確な判断力が残っているかどうか、疑わしい所だ。しかし、コアギュレイトによって敵を妨害して入るので、及第点ではあるだろう。
そんな状態ではあるが、一階の敵はどうにか抑えられそうだ。
田吾作とロルフは階段を駆け上がる。男達は窓を蹴り破り、そこから垂らした縄梯子で逃げようとている所だった。
(「ギルドから梯子を借りられていれば、こんな事には」)
田吾作は小さく舌打ちする。
阻止するべく駆け寄るロルフに放たれた剣は、彼の構える短刀を問題にせず、すり抜けるようにしてロルフの身を裂いた。しぶく血と、相手の嘲笑。
短刀の性能とロルフの技術では、守りきれない。となれば、
「‥‥逃がすわけにはいかないね。此処からも、罪からも!」
ロルフは言い、攻める。既に間合いを詰めていた田吾作が放つ横薙ぎの一撃は、避けようとする相手に浅からぬ傷を刻む。それに動揺した男に、ロルフは両手の刃を同時に振り下ろす。斬られ、よろめいた所に蹴りを見舞うと、男は壁に叩きつけられ、動かなくなった。
「ち! 野郎、待てっての!」
ロルフは叫ぶが、最後の一人が下り、敵二名が地上への逃亡を果たしていた。部屋には掛けられた縄梯子しか残っていない。
男が地に足を着いたその時、飛来した雷撃にその身を焦がされた。
「外道達、今までの悪行を償いなさい」
「畜生め、やってられっか!」
雷撃の術者であり、またその身体に雷を纏いし志士、佳澄が容赦の片鱗も見せずに斬りかかってくる。男は刀でまともに戦っては分が悪いと判断し、屈んで手にした砂利を投げつける。目潰しを避けられず視界を奪われる佳澄は、それでも刃を振り下ろした。が、それは横をすり抜ける男の腕に赤い線を作るに終わる。
宗光は既に別の相手と戦っているので、追う事は出来ない。このままでは逃がしてしまう!
男の向かう先にいる味方は、睦しかいない。しかし、彼女の構える小太刀の切っ先は、小刻みに震えている。佳澄は反射的に思った。今の彼女では駄目だ、逃がしてしまう、と。
飛び足してきた影は予想外で、尚且つ小さかった。藤丸だ。
「〜〜ッッ!! こいつ邪魔臭ぇんだよ!!」
犬に足を噛みつかれた男は忌々しそうに叫ぶと、何の躊躇いも無く、刀を振り下ろした。
藤丸の背に刺さった刃は背から入り、そして当然、腹から抜けた。藤丸から血が出て、顎の力抜けてきて、そしてまだ血は出続けて‥‥。
「ったくこれで‥‥―ぁ?」
犬から前方へ視線を戻した男の喉に、小太刀。
男の喉に刺さった刃は喉笛に入り、そして当然、首を刺し貫いた。間髪入れずに、もう片方の小太刀が男の胴を斬る。
佳澄と宗光が駆けつけた時には、男も、藤丸も、そして睦の震えも、止まっていた。
睦は、もう動かない藤丸をまるで子をあやす様に、丁寧に抱いていた。
冒険者達は依頼通り、犯人全てを始末することが出来た。店に対する弁償の事を考えても、報酬は割り増しとなりそうだ。
事後は各人怪我の治療と、店の復旧。戦場として使われた店内の荒れ方は凄まじく、掃除等も含めてその後始末をする冒険者達はだいぶ苦労していた。
(「睦さん‥‥、大丈夫やろか」)
峰城は、ただただ虚空を眺める睦を見て心配した。すると、
「睦ちゃん」
アマラが、彼女の傍らに歩み寄って来た。
「藤丸はきっと大切な人を守るために、そうしたんだよ。その気持ち、私もわかる」
彼女は睦の足元に座って言う。
「藤丸は自分の意思で睦ちゃんを守ったんだ。だから、自分を責めないで」
「アマラ殿‥‥」
「南無‥‥次に生まれてくる時は、真っ当な人生を歩まれよ‥‥」
男達の死体を埋め終わると、田吾作は祈りながら呟く。傍らのエンドも十字を切る。ロルフは、もう随分冷たくなった強めの秋風をその身に受け、思った。もし神がいるとしたら、この風に乗り、彼らの祈りが届きますように、と。