小熊いる所に
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月27日〜10月30日
リプレイ公開日:2005年11月04日
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●オープニング
「羆狩りに行くので、手伝いを数名よこしてくれ」
ギルドの受付でそう言うのは、女性のエルフ。それを聞くギルドの係員は、「ぶしつけな言い方をする奴だな」と胸中呟く。そのストレートな言い方と声の張り方からして聞き手には高圧的ともとれる声で、彼女は係員に話していた。
「場所は?」
「もう特定できている。ここだ」
彼女は地図を取り出しながら説明する。
「たしか数日前、ここの森は小熊が発見されたらしいな」
「ああ、その噂は私も聞いている。小熊の近くには親熊がいるものだろ? これを上手く利用できれば、比較的容易に羆を発見できるかもな」
しかし、小熊を利用するというのは、なんだか気が引けるような‥‥。それに、親熊を殺すということは、小熊を一人ぼっちにする、ということでもある。
「‥‥何だその顔は? どうせ、いつかは近隣の人間達に見つかり、熊退治が依頼されるだろうッ」
「わかっているよ、そんな事」
「ぶしつけな言い方をする奴だな、お前」
「ッ!! ‥‥」
言われて、ムっとしながらも(一応仕事なので)依頼の紙を書き綴る係員。
「お前、名前は?」
無言で書いている途中、唐突に聞く係員。
「あ?」
「名前を聞いているんだよ。依頼主の名前くらい、書いておいてもいいだろ」
「なんだよ、そんなこと何でいちいち言わなくちゃくけないんだよ」
「‥‥ぶしつけな言い方をする奴だな、お前」
今度こそ、言ってやった。言われた彼女は、顔をしかめながらも、口を開いた。
「エルデ‥‥。エルデ・ミールだ。これで文句ないんだろッ?」
「はいはいどーもありがとうございました」
眉間に皺を寄せず、話し方ももっと柔らかかったら、見れる美人なのにな、なんて思いつつも自分を睨んむ彼女の顔が予想できて、結局男は書類完成まで彼女に目を合わせなかった。
「ああそれと」
書類が出来上がった後に、彼女は付け加えてきた。もう先程の怒りは沈静しているようだ。
「この熊は倒した後、食用にするので、毒を使わないようにとか変な魔法を遣わないようにだとか、そういう注意事項をしっかり書いておいてくれ」
「‥‥もう面倒くさい」
「書・け!」
言われて、しぶしぶ(いちおー仕事なので)書く係員。書きながら思う。
(「熊って一匹でも相当の量の肉だよな。それ、彼女一人で食べるのか?」)
●リプレイ本文
「ま、まいねーむいず‥‥」
「ジャパンでは、そういうユーモアが流行りなのか?」
「え?」
と頓狂な声を漏らして動揺する山野田吾作(ea2019)の耳には、堪能なジャパン語が入ってきていた。声の主は、依頼主でもあるエルフの女性からだ。
「エルデさんはジャパン語が上手なのね」
「こ、これは失礼した!」
佐々宮鈴奈(ea5517)は感心したように言い、田吾作は慌てて頭を下げた。
「当地の言葉も話せなかったら、何かと支障をきたすだろ」
「ん、たしかにそれは尤もだよねぇ〜‥‥ぅあああぁぁ」
「‥‥何している?」
賛同を唱えるためエルデに近づいてきたレジーナ・レジール(ea6429)は、背負うバックパックの重さによろけて転びそうになっている。自分の体重の三倍弱の重さを抱えては、その羽で飛ぶことも出来ない。
「よいしょっと。レジーナさん、これは連れている驢馬に乗せておくのだー」
「あ、ありがと。ふーぅ、解放された〜」
荷物を所所楽苺(eb1655)に持ち上げてもらうと、レジーナは元気に羽をはばたかせて地から足を離す。
「全く‥‥。のっけからこんな調子で、大丈夫なのか?」
「大丈夫ったら大丈夫ッ。私、炎の魔法を思いっきりぶっ放したかったのよね! こういうのを待っていたのよ!」
先程までの様子はどこ吹く風、と言わんばかりに元気な飛行をみせる彼女。
「魔法って、まさかとは思うが、熊を食料するって事、忘れていないだろうな?」
「まぁ、プットアウトもあるし‥‥そこそこ火力を出しても大丈夫だと思うんだけど」
「ファイヤーボムとかは止めてくれよ。炎が四散して山火事になるから」
秋の山は、どの季節よりも落ち葉が多い。水分の失ったそれらは、一度勢いを得れば瞬く間にプットアウトの範囲を超え、文字通り燎原の火となってしまう。炎の術士は、くれぐれもその後の事を失念してはならない。
「あ、でも他にもアイディアはあるから、安心して♪」
「大丈夫なら、それでいいんだけどな」
レジーナも無理をするつもりはない。用意しておいた別の案に、考えをシフトする。
「親熊を倒すとしてー、小熊はどーするつもりなのだ?」
「うむ‥‥。エルデ殿としては、如何致すつもりでござるか?」
苺と田吾作に聞かれた彼女は、「あ、そういえば」と言って考えだす。「考えていなかったの?」と思わずツッコミを入れそうになった鈴菜であったが、考え中のエルデを怒らせては厄介なので、止めておいた。
「そうだな、囮に使ったあとは別にどうでもいいんだけど‥‥」
「無闇に殺さないで、できれば野に帰してほしいのだー」
訴えかけるようにして言う苺。他の冒険者達も意見は一緒で、皆、退治後は小熊の解放を唱える。肉も羆一匹で十分という事で、エルデはそれについては特に反論しなかった。
「そういえば、エルデ殿の知り合いに猟師はいないでござるか? 小熊を捕らえる際、罠を用いたいのでござるが‥‥」
「あー、いるにはいるんだが‥‥駄目だ」
「駄目‥‥というのは?」
「とにかく、駄目なものは駄目だっ! 小熊なんて、罠なんて使わなくても簡単に遭遇できるはずだ‥‥。ほら、早く自分の荷物を持て、出発するぞ!」
何故かいきり立って田吾作を催促するエルデ。
「では、現地の猟師を探し‥‥」
「何悠長な事言っているんだ。 だいたい、自分達にあるもの、出来る事でどうにかするのが冒険者だろ!?」
「こ、心得て、ござる。では、貴殿の猟師としての腕を頼んで‥‥」
やたら強気のエルデに、低姿勢で臨む田吾作。その後ろで鈴菜は「イヤ、そんな簡単に遭遇できたら苦労しないよ」 と思うが、呟くのは胸の内だけにして、やっぱり口に出さないでおいた。
そして一行は出発する。苺は見送りに来た姉に手を振りながら無事を約束すると、己が持つ刀を強く握り締め、歩み出した。
(「熊は人にとって脅威でしかない。それが里近くに降りてくれば田畑は荒らされるでしょうし、子育ての時期ともなれば子供を守ろうと危害を加えてくる。だから‥‥」)
鈴菜は、自分自身に言い聞かせるように、心の中で呟いた。
(「ただそれは生きていく為にお互いが成すべき事をしてるまで。誰も責める事は出来ない」)
鈴菜は、生き物はその『摂理』の中にあるものだと思い、そして、想う。
「『生きる』という事は難しいわね‥‥」
「ん、何か言ったか?」
「何でもないわ。行きましょう、エルデさん」
さて、鈴菜の不安は見事的中して、そう簡単には小熊に会えないでいた。罠の知識に深い者がいない一行は足で探すしかなく、森についたのが朝にも関わらず今ではそろそろ夕刻という時間帯。辺りの風景も、もう暫くすれば黄や赤から黒に変わろうだろう。
「まぁ、何はともあれ、見つけ出す事はできたねぇ」
一行の中で一番、森の土地勘と視力に優れたレジーナは、先頭を飛びながら言った。
小熊を見つけると鈴菜はコアギュレイトを放ち、魔法はいとも簡単に小熊の自由を奪った。
「これから君の親を倒すための囮になってもらうわけだけどー‥‥これも近隣の村人さんたちのためなのだ‥‥」
ぽつりと、漏らすように呟く苺。
「さて、こいつはどうするかな。二〜三発殴って鳴かせるか?」
小熊はエルデによってぶっきらぼうに摑まれ持ち上げられる。
「あ、ちょっと待って」
レジーナは言うと、地面に落ちている適当な木の葉つきの枝を持ち上げると、クリエイトファイヤーによってそれに火をつける。
(「殴られるより怖いかもしれないけど、ごめん!」)
灯された小さな炎を近づけると、小熊は火の恐怖から、出せる限りの声で、鳴いた。
すると草木を掻き分ける音が、近付いてくる。想像のそれより、早い!
「そ、そんなに大きな鳴き声じゃなかったのにねー」
茂みから顔を出した羆は、苺の二倍の背丈を有しているように見えた。出発前のエルデなんて比べ物にならないくらいにいきり立っている。今にも飛び込んできそうだ。
しかし先手を打って出たのは羆ではなく、エルデだった。既に小熊は後方に放り投げられている。
彼女の弓には、既に2本の矢が番えられている。弦を弾くとそれらは空を切り、羆の腹に刺さった。
雄たけびと共に突っ込んでくる敵に、意思を得た炎が伸びる。意思を与えたのは、レジーナの魔法。炎の手は羆を快く迎えて、抱擁した。体毛に燃え移り、抱擁はその激しさを増す。
体の色を茶色から紅色に変える、が、それでも尚、羆は動きを止めない。これほどの興奮は、小熊の悲鳴による激昂なのだろうか。
体躯は、詠唱する鈴菜へ向かう。こんな状態の羆の一撃など食らったら、華奢な女性の体などひとたまりもない。
紅の巨体が、迫る。
「我と我が身を以て守る!!これぞ士たる者の務めにござる!!」
田吾作が、その間に割り込み羆からの攻撃を刀で受ける。
「――ッッ!」
人間のそれとは比べ物にならない重さを持った一撃は、衝撃によって田吾作の構えを崩した。
空いている片手が、振り上げられる。それが振り下ろされ―
「‥‥ごめんなのだ、これも仕事なのだっ!」
る前に、苺の刃が紅を裂き、そこから赤色を出す。
羆は攻撃対象を苺に変え、腕を振り下ろす。しかし、矢、炎に続き斬撃も見舞われ出血夥しい羆の一撃は、苺に易々と避けられる。
「よし、この辺で終わらせるぞ!」
連射されて放たれるエルデの矢は、次々と羆を襲う。
そうして弱った羆は、鈴菜のコアギュレイトの束縛から逃れられずに動きを止めた。
紅の体に、二閃の銀光が伸びる。それに胴を貫かれた羆は、そこで終わった。完全な停止を確認すると、レジーナはその炎も止めた。
気がつけば、風景は黒。既に陽は落ちていて、夜だった。レジーナの持つ木の葉つきの枝が、松明のように、ぼんやり一行を照らしていた。
小熊が、まだその場にいた。もう動かない羆に近寄り、動こうと‥‥離れようと、しなかった。
「‥‥ほら、行くんだよ」
見かねて、鈴菜が促すべく手を差し伸べた。
小熊はその手を見ると、ぐわっ、と口を開いた、牙をむき出して。
「!!」
「‥‥」
近くにいたエルデは素早くそれに反応すると、その牙が鈴菜の肌を貫く前に小熊を殴る。そしてレジーナから火を奪うと、それを小熊の目に当てるように近付ける。小熊はそれに驚き、そして逃げていった。
「ちょ、そこまでしなくてもッ」
「‥‥ありがとう。エルデさん」
「もう、鈴菜さんも!」
荒っぽいエルデの行為に異を唱えようとしたレジーナは、鈴菜に止められる。
「あこでもし噛み付かれて、小熊が人の血の味を知ってしまったら、ここで私達は、殺さなくちゃならないから」
「あ‥‥」
エルデは、何も言わずに、小熊の去っていった方を見ている。
「熊は、山の神の化身と聞く。念仏では無く、神への感謝と言う所か」
「ふん、山に神なんているものか」
「え?」
エルデに速攻で反論され、朝のようにまたもや頓狂な声を出す田吾作。
「『神』なんてコトバを借りなくても、山は十分大きな存在だ。‥‥ところでお前」
ずい、と田吾作に詰め寄るエルデ。
「な、なんでござろうか?」
「会った時から思っていたけど、なんだ、その目は!(け、決してその鋭さに臆しているわけじゃないからな!)」
「これは拙者、き、近眼故‥‥」
「も、もし喧嘩を売っているんなら買うぞ! 私は羆より手強いからな、その時は覚悟しろ!」
「いや、だから近眼で‥‥」
何やら聞く耳を持たないエルデを眺めつつ、「いや、羆の方が、エルデさんより多分手ごわい」と思ったが、やっぱり言わないでおいた鈴菜であった。
「とにかく、無事に済んだことだし帰るのだー。エルデさん、その熊の肉を加工するなら、おいらも手伝うのだっ」
「‥‥出来るのか?」
怪訝そうに聞くエルデに、苺は腰に手を当てながら自信満々に答えた。
「家庭料理なら、得意なのだー!」
「勝手が違う気もするが‥‥まぁ、出来る事で、手伝ってくれ」
加工は、一通り終わった。その後に苺は羆を埋葬して弔った。その際、手の中には羆のぼろぼろの牙。己への戒めに、ということで持ち帰ることにしたのだ。
「しかし、結構な大食いなのね‥‥エルデさん」
「な、何言ってる? 私がなんで!?」
「だってそれ、一人で食べるんでしょ?」
レジーナに言われ思わず動揺したエルデは、咳払いをして気を落ち着かせた。
「あのなぁ、そんなわけないだろ。むしろ私は小食な方だ」
「じゃあ、誰かにあげるの?」
鈴菜にそう聞かれ直したエルデの顔には「しまった!」と書かれているようだった。
「え、誰にあげるの〜」
「うむ、気になるところでござる」
「そ、それはだな‥‥って、依頼は羆の退治までだっ、もう終わっている! 帰れ帰れ!」
不自然に必死なエルデに急かさせ、冒険者達はその場を立ち去る。(というか、立ち去らされる)
「まったく、腰痛なんて情けないな」
「季節の変わり目はどうしても痛くなってのぅ。で、これは何じゃ?」
「その体じゃ碌に出歩けまい。家に溜め込んだ保存食だけだったら、治るもんも治らないだろ?」
「それでこの熊肉か。いやぁ、ありがたいもんじゃのぅ」
「ふん。お、お前がここでくたばって勝ち逃げされたら、たまらないからなッ」
感謝の言葉を聴いたエルデは、多分冷静さを失っていたのだと思う。
「なるほど、あれが知り合いの猟師でござるか」
「ふーん、そういうことね」
草陰に潜む冒険者達に気付かない程に。