黒き影とその眼
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月27日〜12月01日
リプレイ公開日:2005年12月06日
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●オープニング
(「こ、この娘は、この娘は着やせするタイプだったんだッッ。サラシと着物でその発育を欺いていたのね。な、なんて恐ろしい娘!」)
「‥‥どうした、早苗殿?」
「あー、なんでもないっなんでもナイよ!」
少し山を登ったそこには、温泉が掘り当てられていた。森の中にポツンと存在するそれは、ぬるま湯ではある。が、風景を楽しむための長風呂にはそれくらいが丁度良い。木々が枯れ散るこの季節でも、まだ森は全裸ではないようだ。
「はぁ〜〜、いい湯だねぇ」
「‥‥うむ」
その湯に浸かるのは、二人の少女。日頃なにかと疲れているのか、面を緩めきって微温の温泉を堪能している。
ぷらーん。少女は、目の前に垂れ下がっている何かに気付いた。楕円のそれは、木の実にしてはやや大きい。
「ん、これは?」
「ああ、それは木通(アケビ)って言って、山に自生する果物だよ。種がいっぱいあるけど、中の果肉は甘くておいしいよ。睦ちゃん、食べてみる?」
睦と呼ばれた少女は、「いや、遠慮しておく」と言って断った‥‥、その時。
ぶらーん。いつのまにか目の前に何かが垂れ下がってきた何かに気付いた。人型のそれは、木の実にしては、大き過ぎる。っていうか、人、そのものだ。
その男、身体の上下を逆にして宙ぶらり。装束、頭巾、どれもが黒尽くめで両腕を組み、無駄に堂々としている。ソレに、少女二人は固まった。
「‥‥これは?」
「‥‥変態さんだと思う」
「失敬な! 我輩は高名な―ぐふ!?」
言い終える前に、顎に桶を投げつけられた変態さん。
「く、昨今の婦女子は物騒なものだ!」
男は自分を吊るしていたロープをナイフで切り離すと、驚愕に値する素早さで逃走した。いつのまにか小柄を手にしていた睦も、標的が既に視界にいないことに気付くと、溜息とともにその投擲を諦めた。
「な、なんだったんだろう? さっきの人‥‥。この辺りの普通の人では、なさそうだよね」
少女は、見られた側なのだが、逆に、イヤのものを見てしまった風に呟いた。
「そうだな。眼が青かった故、欧州の者かもしれない」
「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて‥‥」
「全く‥‥。危うく顎が割れて三つになるところだった」
逃げ切り、既に自分の家にいる男は、己の顎をさすりながら言った。顎は三つに割れてはいないが、赤くなっている。
「まぁ、収穫はあったのでよしとしようではないか。それでは、網膜に焼き付いているうちに、取り掛かるとしよう」
そう言って、手に取ったのは、鮮やかな色が乗せられた皿だった。
●リプレイ本文
「先日の非礼‥‥、深くお詫び申し上げます」
「いや、詫びるのはこちらだ。迷惑をかけて、すまなかった」
謝罪の言葉を交えるエンド・ラストワード(eb3614)、少女と話していた。気まずさはあるが、とりあえず先方(さきかた)は気にしていないようなので、それがせめてもの救いだ。
(「とりあえず、少しは元気を取り戻されている様だが‥‥気がかりでござるな‥‥」)
山野田吾作(ea2019)は彼女を心配しつつも、今の彼女の面からそれらしいものを汲み取るに至らなかったので、敢えて閉口する。
ギルドに立ち寄ったエンド、田吾作は、目撃者である睦に会う事が出来た。もう一人の目撃者の女性は、諸事情によって今は会えないらしいが。
「相手の訛りまでは、覚えていないな。すまない‥‥」
「いえ、お気になさらず」
睦から聞き出せた証言を纏めると、とりあえず人間の西洋人ではあるようだ。
「それにしても‥‥女子の湯浴みを覗き見るとは、破廉恥な輩でござる!! 日本男児の風上にも置けぬ」
礼節欠く相手とその犯行を想見し、拳を握り締めながら、憤りを露にする田吾作。言葉を続ける。
「あまつさえ―」
「私は別の依頼を先程受けたので同行はできないが、宜しく頼む。田吾作殿、エンド殿」
途中、睦に話しかけられ、田吾作は犯行の様子をより鮮明に想見した。
(「つまり、覗きの犯人は、このサラシの下を見て‥‥」)
「ええ、わかりました。しっかり解決に努め――田吾作さん!?」
「ぬうぁ!? は、鼻血が‥‥!!」
「ど、どうしたのだっ田吾作殿!?」
ひとまず、狂化に至る大量出血になる(?)前に、田吾作にリカバーを唱えるエンドであった。
その村を歩くと、とかく老人が目に留まる。老人が多いのだろう。
「こんな辺鄙な所に、なんの用事かねぇ? 可愛いお嬢さん達」
緩い口調で老婆が話しかけてきたのは、もしかしたら久しぶりに見た若者に好奇心と世話心が働いたから、なのかもしれない。
「これから私達、温泉に入りに行くんだ〜。ここにイイ湯があるって聞いたからっ」
「しかし、余所者ゆえに地の理に疎くてな。どこか教えては頂けないだろうか」
これを機なり、と、緒環瑞巴(eb2033)、華宮紅之(eb1788)は、温泉に訪れる旨とその場所を聞き返した。尚、瑞巴は例の覗き魔を誘導するために、自分達が温泉に行く事を吹聴していく予定だ。
老婆は二人に対して、皺だらけの顔に更に深い笑い皺を刻ませながら話し出す。懇切丁寧な老婆の説明で、あっさり温泉の場所を把握できた。
「それにしても、穏やかな所だよねぇ。皆いい人ばっかりみたいで」
「いやぁ〜、そうでもないんだよぉ。最近ちょっと変わった人が越してきてねぇ」
「え、何かアヤシイ人でもいるの!?」
瑞巴が一驚したように言うと、紅之が更に、と言い及んだ。
「その話、少し詳しく聞かせてもらえるだろうか?」
「この辺に知り合いが居るらしくてね、腕を上げたあたし舞を見てもらうの♪」
荷物を置いてそう言うと、フィン・リル(ea9164)は軽いステップを踏む。流れるような軽やかなそれが、やがて自然に舞踏へ移り変わり、見るものを魅了するまで、そう時間は掛からなかった。
「というわけで、私達は人を探しています。見惚れている所を、失礼してしまいますけど」
微笑みながら言うルナ・フィリース(ea2139)の言葉が耳に入ると、まるで何かの魔法から正気を取り戻したように初老の男は目に焦点を取り戻し、「はは、いいぞぃ」と言って微笑み返す。
「この辺りに、何でも高名な偉人が居るという話を聞いたのですが。‥‥何で高名かは、わかりませんが」
「高名な偉人? そんな者はこの辺には‥‥あ」
「何か知ってはる?」
鷺宮夕妃(eb3297)が、その幼そうな面を近付けながら聞いてきた。
「『異人』なら心当たりがあるぞぃ。ここのつき当たりを左に曲った所に‥‥」
示された場所へ行ってみれば、そこにあったのは周囲のそれより古めかしい茅葺の一軒。話によりと、空き家だったここに、最近住み着いた奇妙な男がいるとのこと。
「ごめんくださーい‥‥わぁ!」
玄関で呼びかけた緋神那蝣竪(eb2007)の前に現れたのは、前掛けを赤に染めた壮年の男だった。金髪青眼、顔つきは、東洋人のそれより立体的であった。
赤い前掛けをした西洋人に那蝣竪は素直に驚いた。彼女の思考に「まさか、返り血?」と一瞬よぎったが、よく見ると、他にも黄色や他の色もある。
(「これ‥‥絵の具?」)
「何の用事かねッ、キミ達!?」
男の「かねッ」に強いアクセントを孕ませた突然の威圧的態度に、一同尻込みしてしまう。
「あ‥‥、ご、ごめん。人違いだったよ」
とても踊りを見せられないだろうと判断したフィンが弱々しく呟くと、
「不躾で申し訳ないが、我輩は今、忙しいのだよ。失礼させて頂く!」
そう言うと男はそれ以上彼女ら言及する事は無く、というよりは時間の惜しさゆえにといった感じで家の中へ戻っていった。
各々が情報をまとめ、それらを照合した結果‥‥
「犯人は、高い可能性でその西洋人でしょう」
エンドの結論に皆が頷く。
「でも、奴が覗きをした証拠はないんだよねぇ」
フィンの言う事は尤もで、現状では彼を捕まえる事歯出来ない。
「では仕方ありませんね。私達が温泉に入り囮となりましょう」
「仕方ない」と言いつつもルナの手には既に桶・手拭いと準備万端である。
「そうだな、致し方ない」
「はいはーい。お風呂入って囮やりま〜す」
更に紅之、瑞巴、ともに準備済み。とゆーか、多分最初っからそのつもりである。
「仕事で温泉は入れるってのも、なかなかオツなもんや‥‥ん? 紅之はん、それは?」
「今回の仕事、このあかふん君も手伝ってくれるそうだ」
そっけない風に聞こえ気味の紅之とは逆な、『ガンバルヨー』という親しみやすい(しかしどこかカタコトっぽい)声は、彼女の手にある赤褌装備型身代わり人形、『あかふん君』から発せられた‥‥という事にしておこう。たとえ「紅之はんの声やね、絶対」と思っても、夕妃は敢えてそれを口にしなかった。ツッコミをいれない事で、活きるボケもある‥‥そーいう事だ、多分。
「仕掛けた罠は以上です。それでは、みなさん追撃の際は気をつけてくださいね」
「うむ。拙者達が引っかかっては、那蝣竪殿の労力が水泡に帰してしまうでござるからな」
そして冒険者は温泉へ。田吾作、那蝣竪、エンド、フィンは、現れた犯人を捕まえるべく、周辺にて身を潜めている。
「隠蔽の具合はどうでしょうか、那蝣竪さん」
「ええ、大丈夫だと思うわ」
エンドは彼女から手解きを受けながら、顔に泥土を塗りつけたり体に草をつけたりと、いつの間にかスゴい格好になっている。これで隠身の勾玉まで用意しているのだから、そうそう見つかる事はないだろう。
「じゃ、あとは覗き男が現れて、逃げるようなら引き止める、っと」
フィンが意気込んで言った。その時に、声は聞こえてきた。
「それにしても、やっぱ温泉はええな〜」
「ここが温泉ですか‥‥遂に夢にまで見た露天風呂を堪能できると‥‥! 感激です」
「‥‥ッ!!」
「温泉に入っているメンバーの声ですね」
夕妃の声が聞こえると田吾作とは正反対に、含みの無い、何かの報告のように呟くエンドであった。
白濁色の湯は、まるで勿体振る様にそれに浸かる一糸まとわぬ女性達の肢体を包み、おぼろげにした。白皙の肌身は湯に溶け込み、見るものを色に迷わせる。
とはいえ、アレとかのサイズは、なんとなく把握できるよーで。
「ぅぅ、‥‥はぁ‥‥」
深い溜息は、ルナの方から聞こえた。ナイトとして鎧に身を包む普段であれば気にならないそれも、このような場では否応無しに思い知らされる。何を? と聞くのはナンセンスだ。ひんぬーの人に、そんなこと聞いちゃいけない。
(「むむ、おねーさま方には負けないよ」)
ひんぬーとはいかなくても、若干細身の瑞巴。こちらはまぁ、凹んではいないようである。
何はともあれ、現在、囮ということで入浴中の女性陣。
幽邃なる森の中に、そこだけくり抜いたようにポツリと存在する温泉。勿論仕事の自覚はあるが、折角なので、それなり堪能している。
「ふぅ‥‥」
手拭いを絞って頭の上に乗せる紅之。
がさ!
「?」
音の出所を不審がって見てみれば、そこには。
「へ、変態?」
「だから変態などではないとおっておろうに!」
呟くルナは初対面だというのに、理不尽ともいえる怒鳴り方をする男は、黒尽くめで宙ぶらり。前評判通りの奇行。たしかにルナの言うとおり。どう見ても変態です。
「くぅッ、あやつめ! 厚顔無恥の極み也!」
「田吾作さん、今動くのは早計です。どうか‥‥」
持ち前の武士道でいう『廉恥』に破した相手にいきり立つ田吾作。
「大丈夫よ田吾作さん。もうすぐ彼に、天罰が下されるわ!」
そう言う那蝣竪が、たしかあの辺りで細工を施していたような‥‥。
「まぁ、とりあえず、入浴者と変態さんに視線を戻そうか」
「せ、拙者、近眼ゆえ‥‥何も見えぬ!」
フィンが言うと、田吾作以外で温泉の方を見る。
「まあ立ち話(?)も何だ。貴方もひとっ風呂どうだ」
「結局おじさん高名な何なの?」
これといって気にかける事もせず、まるで酒場で雑談の卓に誘うような軽い調子で話しかける紅之と瑞巴。
「ちょ、と、とりあえず隠すべき所はちゃんと隠してください!」
慌てながら制止しようとするルナ。
「で、そこの真っ黒倒変朴人はん‥‥そこで何をしてますやろか?」
「ふ、我輩はだな―」
言いかけたその時であった。
バキィッ―――ざっばーーーぁん!
木が折れる音と共に、温泉に落ちる男。
「この恥知らずの不届き者が! 成敗してくれるー!」
「あ、田吾作さん待って! って、那蝣竪さん、サムズアップしている場合じゃないよ!」
フィンが言うも、那蝣竪は無言で己の罠の効果発揮を喜んでいた。
彼には変態が婦女子達向けて飛び向かった様に見えたのだろう。抜刀した田吾作が、凄い剣幕で突ッ走ってくる。
「ふぉ、伏兵とはやりおる!」
何か変な勘違いをしながらも逃走する男。聞きしに勝る速度だ。並みの人間では、疾風の如きそれに追いつけない。
「待って、話を聞いて! あたし達はただ、とってもとっても高名なキミが何でこんな事をしているのか聞きたいだけなの!」
「う‥‥む?」
飛行によって、男のもとへ文字通り飛んできたフィンは、訴えかけるようにして言う。
「こうでもしないと‥‥教えてくれないんじゃないかって思って‥‥うぅっ」
顔を手で覆いながら話す彼女。何故かノリノリである。
「その手を開けてくれたまえ。我輩は―」
二人の間で何かが、通じ合ったような気がした。
「覚悟されよォーーー!!」
それは一瞬に終わった。後方から聞こえる田吾作の声は、再び男を逃走へと駆り立てた。
「ふふ、私が鬼? すぐ追いついちゃうからね♪」
続いて追いかけてきた那蝣竪は、既に疾走の術を使っている。が、それでも男の方が速い‥‥罠を見切りながらだというのに。このままでは、逃げられる。男もこれで、逃げられる、と思っている。
それは目の前にエンドが見えるまでの間、だが。
「ぅおっとぁあ!?」
急に目の前に現れたエンド。このままでは体当たりしてしまうので、何とか止まろうとするものの勢いを殺せず、転倒。
「では、文字通り、お縄になっていただきます」
エンドは魔法を使うまでも無く、悶える男をロープによって捕縛するのだった。
「‥‥絵のモデル!?」
「そうだ、絵のモデルだ」
皆が声を揃えて言った。男は同じ言葉を繰り返し、それを答えにする。
男は冒険者でありながら、芸術に目覚めたのだという。そして人を描いているうちにいつしか、その全てを描いてみたくなり、されどヌード・モデルなどそうなかなか見つかるはずも無く、そして今回の犯行に及んだのだという。
「へぇ〜、ただの覗きじゃなかったんだー」
意外そうに呟く瑞巴。覗かれた事は、別に気にしていないようだ。
「ふむ、決して色に溺れて婦女子の裸体を眺めていたわけではないのだ」
お縄になっているくせに、偉そうに言う男。彼に近付いてきたのは紅之‥‥と、あかふん君だ。
『デモ覗キハ覗キ』
バキ!
あかふん君ヘッドバットは当たり所が良かったのか‥‥その一撃は男を更なる遠い世界へと連れ去り―――全てを終わらせた!!!(その間 実に2秒!!!)
「ふ、身代わり人形の顔面頭突きでござるか。想像したくもない」
その後、覗きの犯人という事で男を突き出したが、その程度の低さと一応反省しているようなので、注意だけで事なきを得られたとの事。
そうして報酬を得た後、もう覗きの出ない湯にて骨を休める冒険者達であった。