にっくき黒い奴

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月02日〜02月08日

リプレイ公開日:2006年02月14日

●オープニング

「じゃあ、これを姉さんの所に。いつもみたいに宜しくね」
 栗色の女性は丁寧に織り込んだ手紙を飛脚であるシフールに渡す。
「まかせとけ! そこに人の笑顔ある限り、俺は飛び続ける!!」
 やや芝居がかった台詞ではあるが、その気持ちは本当だ。彼は、手紙の受け取り主の笑顔を糧に、その生業に従事しているのだ。どんな所の、どんな人にも、必ず届ける。
 そうして、受け取った手紙を鞄に入れ、飛翔する彼。時に痛ささえ覚えるこの冬空を、一人のシフールが想いを運ぶため飛んで行く‥‥町を越え、村を越え。
 勢い良く進んでいた彼であったが、ある地点にて、急停止。そこは‥‥いかにも雰囲気が滲み出ている墓場だった。他に道がないわけではないが、ここを通れば格段に近道が出来る
「‥‥まぁ、死人憑きくらいなら振り払えるか」
 己の機動性を自負し、いざ墓場へ!

 ギャースギャース。
「ぎゃーー!」
 そんな彼のお出迎え仕ったのは、鈍行な死人憑きではなく、大鴉。その数、八羽。これを振り切るのは、いかに俊敏な彼といえども難しい。
「うぅ、この前買ったばかりの服が‥‥」
 ボロボロになりながらも、命かながらその場を離脱出来た彼は、泣く泣く遠回りの別ルートを使って手紙を届けたんだとか‥‥。

「ちっくしょー、でもこのまんまじゃ悔しいぜー。っていうか、あのルート使いたいし。別ルートだと、寒いし疲れるし‥‥」
 そうして、ギルドに新たな依頼、『墓場の大鴉退治』が張り出された。

●今回の参加者

 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb0556 翠花 華緒(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3463 一式 猛(21歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3722 クリス・メイヤー(41歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3916 ヒューゴ・メリクリウス(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)

●サポート参加者

サトリィン・オーナス(ea7814)/ 備前 響耶(eb3824

●リプレイ本文

「もう二の月なのだから、新年の挨拶というのも些か不思議ではないかね? 実はお茶菓子を摘む為の口実ではないかな?」
「まぁ、無きにしも在らず‥‥と言ったところやろか」
 男の冗談に、冗談っぽく返す微笑の少女は、鷺宮夕妃(eb3297)。
 壮年の男はそんな口調ではあるが、歓迎の態度で、知り合いである彼女を自邸に迎え入れた。
「ではくつろいでいきたまえ。早苗君、準備を宜しく」
 飲み物と茶菓をお盆に載せた女性が近付いてくる。早苗と呼ばれたその栗色の髪の女性は、知己で来訪に気付く。彼女達はお互いに手を振り合って再会を喜ぶと、お互い近況など、取り留めの無い話を駄弁る。
「そういえば、今うけている依頼なんやけど、依頼主が何だか元気なシフールの方なんやわ〜」
「え、元気なシフール? その人、もしかして‥‥」
 実はその依頼主のシフールと、早苗がよくお世話になっているシフール便が同一人物だったことは、不思議な偶然。

「いやぁすいませんねぇキョーヤさん、こんな朝早くに」
「礼に及ばん」
 ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)は備前 響耶から返してもらった小柄を眺め、呟く。見れば磨かれたそれは、装飾品に匹敵しそうな輝きを放っていた。
「しかし、それはあくまでも武器だ。妙な算段で本分を見失う事の無い様にな」
「わかってますって。それじゃ、ありがとうございました」
 チャ、と指でサインを出すと、一礼の後にヒューゴは今回の依頼の同行者のもとへ駆け出した。
「それでね、以前このティアラが狙われたの!」
 ギルドに入ってまず聞こえてきたのが紫電光(eb2690)の声だった。彼女の手には真珠のティアラ。
 どうやら仲間達は、今回の依頼の敵である、大鴉の事について話していたようだ。
「それは、大変でしたねぇ」
「そう、本当に大変だった! 折角あの人から貰ったのに鴉なんかに盗られたら‥‥!」
 わなわなと震えながら言う光。どうやらその手に持つ真珠のティアラには、余程思い入れがあるらしい。翠花華緒(eb0556)がそれの一つ一つに、丁寧な口上で頷いてる。
「まぁ、大鴉も普通の鴉同様に光物を集める習性があるってことで間違いなさそうだ。それを利用して誘き寄せる事になるかな」
「そうだな。あたしはナイフを貸与できるぜ」
 明瞭な調子で言うクリス・メイヤー(eb3722)と久しぶりの戦闘依頼に意気込むクリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)。
 そんな中、一人考え込むようにしているのは‥‥
「ん、どうしました? 何か考え事でも?」
 一式猛(eb3463)。彼の顔を覗き込むようにして問うヒューゴに、猛は驚きつつもそれに応えた。
「ん、あー、いやいや何もないよ。今回の依頼も頑張っていこう!」
 若干思うところがあったのだが、確証の持てないそれで不要な不安を呼ぶ事はさけるため、敢えて猛はそれを言わなかった。
「あー、ただいまぁ。いやー疲れた疲れた」
「偵察は上手くいった?」
 肩を回しながらギルドの敷居を跨いで来たのはルディ・ヴォーロ(ea4885)。途中で合流したのか、夕妃も一緒だった。
「いやーこれがなかなか大変でさ。パラのマントってこれ、身動きとったら効果無いじゃん? かと言ってじっとしていて死人憑きに囲まれたら、それこそまさに抜き差しならない状態。そうなっても困っちゃうじゃん?」
 報告内容一つ一つにジェスチャーを盛り込むルディ。その動作がどこか面白くて、思わず後ろでクスリと夕妃が笑う。
「結局、暫くしたら死人憑きに見つかって逃げてきたわけだよ」
「おーい、成果無しかよー」
「でも、わかったこともある」
「ン? 何だ?」
 一瞬睥睨としたクリスティーナであったが、ルディの言葉を聞くと、次を促す。
「死人憑き達は場所が集中していた感じがしたな。そしてそこには大鴉がいなかった‥‥流石に動く死体はお好みじゃないのかな。つまり、鴉と死人憑きは別々にいるみたい。ハイ、じゃあそういう事で」
 言い終えると、ルディはヒューゴに輝く物を投げ渡す。
「一応これも渡しておくよ。寄せ餌は、多いほうがいいんじゃない?」
「多分、そうでしょうね。‥‥では、準備が整い次第、出発としますか」
 ヒューゴが銀のトレイとルーンネックレスの輝きを確認すると、一同は席を立った。

(「それにしても、冷えますね」)
 華緒は吐き出した息を見ながら思った。己の肌の様に白い吐息は、周囲の寒さを物語っていた。防寒具と宿泊設備の有無はこの時期特に、死活問題にすらなる。そしてそれを失念した者には、大なり小なり、弊害を与えるものだ。
 辺りは白の雪に覆われていた。山々を包めば幻想的な風景を演出するそれも、墓場の瘴気を覆い隠す事はできないでいた。
 そしてどこからともなく姿を出してくるのは死人憑き。
「さて、まずはあいつらの登場ってわけか。行くぜ!」
 クリスティーナは叫び、駆け出す。
 亡者の爪が迫るが、彼女の体捌きはそれを問題にしない。再び襲い掛かろうとしたが、華緒の斬撃がそれを阻む。
「どうやら普通の武器でも通じるようですね‥‥。目的は鴉退治、ここで厄介になるべきではないでしょう」
「そうだね、ここではなるべく時間を消耗したくないし」
 続いてくる死人憑きの攻勢を光が十手で弾く頃には、術者が詠唱を終えていた。
「ちゃんと静かに休ませてあげたいと思わなくもないけどね。でも‥‥」
 クリスから放たれる、直線の雷光。
「今を生きるおいら達が引きずり込まれるのは勘弁してほしいな」
 彼のライトニングサンダーボルトに身を焦がされ、動死体は前のめりに倒れ動きを止める。
「一気に抜けよう。囮になる人はなるべく体力を温存するようにして! それじゃ、光さん、ヨロシク」
 猛に頷くと、光の武器から飛ばされた衝撃は扇状に広がり、死人憑き達に襲いかかった。
 疾走する冒険者達はもうすぐ、死人憑きの集まりから抜ける。

 白に覆われる世界を見下すようにして、漆黒は地上を見渡していた。黒の眼は、輝きを捉える。次の瞬間には、翼をはためかせてそれに向かい飛ぶ。
「さて、上手く来てくれるといいんですが」
「来たらこれで、叩き落とすから‥‥って、来た!」
 囮として歩くヒューゴと彼の護衛につく猛。二人の頭上に、羽根の幾枚かが舞い落ちる。見上げれば、大鴉。今回の退治対象が急襲してきた。
 まず猛が先手を打つ。
 一羽の大鴉に向けてスタンアタックが放たれる‥‥事はなかった。それを放つにはモンスターの知識が足りないので。そして彼の錫杖はあっさりかわされる。
 幾つもの嘴が、爪が、二人に降り注ぐ。ヒューゴは身を捩り、翻し避けた。
 しかし猛はそうもいかなかった。軽いステップを踏んで回避を試みるも、攻撃の数に追いつかない。
 ナイフでヒューゴはそれらを凪ごうとするも、剣術の基礎を修練していない彼の攻撃はなかなか当たらない。
 猛は己の肌に浮く赤い線の数々を見て舌打ちしながら、反撃の一撃を打ち込む。それを食らった大鴉はバランスを崩し、墜ちそうになるも、体制を立て直して再び飛翔する。
「待てよッ、逃がすか!」
 あわてて弦を引いたクリスティーナは、標準を合わせる。それは身体には当たらなかったものの、大鴉の翼を貫き墜落させる。それが地面に付く前に、ルディによる射撃が射止める。そしてスクロールを広げる夕妃がライトニングサンダーボルトを当てれば、大鴉は完全に動きを止めた。
「よし、ヒット!」
「何はともあれまずは一羽、と言ったところやろか」
 ガッツポーズをとるルディと、胸を撫で下ろす夕妃。
「むむ、思った以上に難儀な相手みたいだ」
「うー、なんか嫌な思い出が沸々と‥‥」
 クリスと光は詠唱中。因みに光のティアラは、彼女の荷物の奥底で眠っている。
 ヒューゴと猛は鴉の数に押され、退けない状態。ナイフなどで誘きよせようとした者もいたが、鴉達は反応しない。
(「鴉は同系の生物の中では特に頭が良いって聞いたことがある。そっか‥‥刃物に触れるのは危ないって既に知っているんだ」)
 嫌な予想が当たってしまった猛。劣勢を強いられる彼に、更なる黒翼が迫る。
「小さな飛脚さんにとっては、本当に脅威だったでしょうね」
 しかしそれは彼に届くことはなかった。華緒の日本刀がその爪を受け止めていた。そこから刃を返し、黒き翼を斬りつける。
「ふぅ、助かったよ」
「困った時はお互い様、という事で。それでは、力を合わせて参りましょうね」
 苦笑しながら言う猛に、華緒はたおやかに返す。
「あー、矢を回収したいから、外せないんだよねぇ。ま、ファーンも宜しく頼むよ?」
 空中で交差し、羽根が舞わせる猛禽と害鳥。必中を誓うルディは鷹を放ち、その隙を突くようにして矢を射れば、それは的確に大鴉の胴へと刺ささった。
 落ちたる黒を一閃したのは、雷剣。ライトニングソードによって生まれたそれで光は大鴉を斬り落とした。
「ほらほら、おいらはこっちだぞ〜!」
 鳥以外にも宙にいるものがいる。クリスだ。リトルフライを成就させた彼は今、不安定ながら地から足を離し浮いている。
 胴鏡をちらつかせながら近付く彼を見ると、大鴉はヒューゴ達からクリスへ向かった。
「よ〜っし来い来い‥‥って、多すぎ多すぎ!」
 大鴉が一斉に飛んでくる。
 クリスの浮遊より鴉の飛行の方が、速い。結果、ただの挑発のつもりが、数羽からつつかれる事となる。
「そこまでや! いくで、光はん!」
「任せといて! 『雷』の志士が奥義、雷鳴扇!!」
 夕妃はスクールから、光は稲妻の刃から。放たれたのは円柱状の灼熱と、雷刃の衝撃波。数羽を巻き込む。
 矢を番えながら彼我の状況を見渡すクリスティーナが叫んだ。
「さて、ぼちぼちカタつけるぞ! こっちの負傷者はキツそ――」
「「さっきはよくもやってくれたなぁぁぁああ!」」
 彼女の言葉を遮った、怨嗟を口から漏らすのは詠唱を終えたクリスとポーションで傷を癒した猛。
 錫杖は振り下ろされ、凄まじき威力を有する稲妻は放たれ‥‥。
「‥‥なんだ、元気じゃねぇか」
 とりあえず彼女を安心させた。


「はい、この通りです」
 ヒューゴが誇らしげに出したそれは、装飾品の数々だ。
 相手が鴉という事で巣に何か溜め込んでいないかと思い、探り当てところ、巣を漁れば幸運にもその成果が現れた。
「事前の調査で、大鴉と死人憑きが別々であることが予め知っていたので探索に専念できました。成果はルディさんによるところも大きいでしょう」
「いやぁ、そっかなぁー! ま、そー言っていもらえると嬉しいね〜」
 後ろ髪をかきながら、嬉しさを隠そうとしないルディ。
 見つけたアイテムは皆に配分しても、それなり割り増しの報酬が期待できる。
(「でもまぁ、自分にご褒美という事で‥‥」)
 ヒューゴは配分とは別に、さりげなくポケットに金の指輪を隠し入れている。まぁ、彼の生業らしさということで、それもよかろう。
 一同、お疲れ様でしたムード。
「それでは、帰るとしますか。最初の時の様にまた死人憑きがいる事が予想されますが、頑張っていきましょう」
 華緒以外の皆が、一様に「あ‥‥」と声を揃えた。そう、まだ依頼は終わっていない。依頼は、無事にちゃんと帰るまでが、依頼である!


 それでも、無事帰還を果たした冒険者達。ギルドへの報告と一服の後、戦利品を換金しに行った。