大荒れ虫意報

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2006年04月13日

●オープニング

「いやーこの季節、隅々から虫がわいてきてしょうがないね。朝、寝巻きから着替えた時服の中にカメムシが入っていた日なんてもう、その一日が気分最悪というもので――」
「‥‥もう、頼むから本題を切り出してくれ」
 疲れきった顔で、ギルドの係員は言う。現在の京都は多事多難。昨今の要人暗殺事情のおかげで周囲は混乱の最中で、ギルドも類に漏れず、忙しなく動いている。
 そんな中、この男の長話は堪える。
「うむ、それでは依頼の話にはいろうか。ほらほら、疲労感漂わせている場合ではないよ。筆と紙を用意したまえ」
 壮年の商人、その男の名を坂田といった。
「‥‥用意したぞ」
「虫退治をお願いしたい」
「もう寝ていいか、昨日徹夜だったんだ。むしろもう寝るから」
 虫除けに効くと言われているお香を棚から出すと、係員は受付の机の上に上半身を乗せる。多分振りじゃなくて本当に眠いのだと事を、目の下の隈が語っている。
「では寝ながらでもいいから書く手を動かすように。今回の依頼は、森に発生した大蟻の駆除だ」
「大蟻か。それなら‥‥」
 大蟻といえば、童子よりも大きな身体を有しており、その顎と黒光りする甲を持った巨大蟻。厄介なのが、えてして大蟻は集団であるということ。集団で一つの標的に襲い掛かる事が主で、下手な大型動物にも打ち勝ったりするのは、聞かない話ではない。
「いやーこの前、私の家の者がそこへ薬草を採りに行ったのだが、わらわわ出てきてそれどころではなかったらしい。一目散で逃げ帰ってきたという話だよ。ああそれと、その彼女が逃げている途中、何でも‥‥大きな蟷螂のようなモノを、視界の端に見かけたらしい。ま、混乱していて幻覚でも見たのかもしれないがね」
(「大蟷螂がいる可能性もあり‥‥か」)
 そうして、目をこすりながらも新たな依頼書を書き出す係員であった。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4090 レミナ・エスマール(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6114 キルスティン・グランフォード(45歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

「蟻も蟷螂ホント大きかったんですって! 一瞬、私が小人にでもなっちゃたのかと思ったくらいですよ〜。もし坂田さんから駿馬を借りていなかったら――」
「‥‥ふむ、それは難儀でござった」
 ここは、依頼主坂田の邸宅。阿阪慎之介(ea3318)は出された茶を啜りながら、目撃者の女性から話しを聞いていた。サラリと聞き流している気が、しないでもない。
 その女性の言葉の全てが真実かは謎だが‥‥とろあえず、大蟻と大蟷螂もいることには違いなさそうだ。
「で、これまでの被害者・目撃者を総括すると、この小川から向こう辺りから蟻が多く見受けられるわけだ。ここから更に奥にいくと‥‥」
 紙に筆で綴りながら説明する坂田。チップ・エイオータ(ea0061)は見つつ聞きつつ、情報を整理する。時々紙の上に変わらない文字が書かれたりもしたが、書かれているそれは絵が主の、地図のようなものだ。何とか理解できる。
「まぁ私が知りえているその森の情報はこの程度。現地との差異は自分達で確認してくれたまえ」
「これでだいぶ掴めたよ、どうもありがとう!」
 完成した説明図を手に、チップ・エイオータ(ea0061)が坂田に頭を垂らした。
 坂田はそんな彼に対して、意地悪そうな笑みを浮かべて言う。
「ケチな私に報酬とは別に、決して安くない紙を出させたのだ。これでキミ達はますます失敗できない立場になったね」
「大丈夫だって。おいら達にまかせておいてよ!」
 紙は坂田が勝手に出したものだが、チップはそれに別段嫌味を感じることも無く、言葉を返す。
 そうして依頼人に見送られ、冒険者達は件の森へと足を進めた。


 蟻の目に映るのはいつも通りの木、土‥‥見慣れた地形。餌を求め、別所へ移動する。
(「この辺が線引きかな」)
 しかしその空間から布一枚引き剥がされれば、姿を見せるは少年ほどの体躯。パラのマントで蟻達をやり過ごしたチップは、仲間の元へ戻り、集めた現地の情報を伝える。
「地形は概ねこの地図通り。で、相手の大きさなんだけど、噂通り、おいらやミネアさんよりも大きかったよ」
「おっきな蟻さんに蟷螂さんかぁ♪ 蟻さんは分からないけど、おっきな蟷螂さんは動物最強って言われるって聞くし」
 チップの報告を聞いてはしゃぐミネア・ウェルロッド(ea4591)は、まるで玩具を心待ちにする子供の様。
「虫は小さくても厄介のがいますけど、大きいとさらに厄介なので大変になりそうですね」
 対照的に、心配そうに呟くのはレミナ・エスマール(ea4090)。
「大丈夫! あなた達はこの百目鬼・女華姫が守ってあげるわぁ〜」
 そんな少女を抱き上げようと百目鬼女華姫(ea8616)が接近。
「はいはい、可愛がるのも程々にね」
 ミネアを抱き上げるネフィリム・フィルス(eb3503)。
「ま、愛で方は人それぞれなんだろーけどなぁ」
 チップをひょいっと持ち上げるキルスティン・グランフォード(ea6114)。
「さて、宿営地の構築も済んだわ。明日に備え、早めに就寝するべきね」
 そうこうしている間に、レミナを遠ざけておいた朱蘭華(ea8806)。
 男女平等に可愛いもの好きな女華姫による抱きつき挨拶は、未然に終わり、彼女はガックリ肩を落とす。
 暫くして慎之介も帰ってくる。軍馬を用いた彼はより奥まで探索出来たが、チップのような隠密能力が無いゆえに、蟻達に見つかった。数匹は対処できたが、数が集まってくるにつれ不利を悟り引き換えした。もし無理を通そうとすれば、囲まれや一頭と一人の骸が森に転がる事になっていただろう。
 やがて、陽が落ちる。今度太陽が姿を現した時は、もっともっと奥へ進むだろう。大蟻の巣を、破壊し尽くすべく。


「夜通しの警戒、ご苦労にござる」
「ん、もう出発準備整った? あたしの方は全然大丈夫だけどね」
 慎之介に振り向いたネフィリムは徹夜で歩哨に立っていたにもかかわらず、その言葉通り、瞼に重みを感じさせない表情だった。
 進軍する一行。例の小川を越えた辺りで、ミネアは自分の荷物に手を突っ込み、寄せ餌として保存食を取り出そうとする。しかし‥‥
「早速来たね、よーし頑張ろっか!」
「あ、餌は必要なかったみたい。よーし頑張ろー!」
 ミネアと共に意気込みながら、チップは矢筒に手を伸ばしていた。
 テリトリーに入ってきた冒険者に対し、ぽつぽつと集まってくる、黒。
 黒、黒、黒、黒黒黒黒黒黒‥‥!
 集うのは黒甲まといし兵隊達。
「早速ゾロリと出てきたわね。蟻もここまで大きくなると気持ち悪いわね〜」
「蹴散らして突き進む。ま、さくっと駆除しますか」
 全くもって女性らしい仕草でそう言う女華姫と、勇ましく‥‥そして状況を喜々として受け入れているようにも見えるキルスティン。二人はまず近づいてきた手頃な一匹に大剣を見舞い‥‥分割させる。
「若干ではあるが、ここより都合よい場所が近場にあるでござる! こちらへ」
 蹄が黒い甲を踏み砕いた。愛馬・松影に跨りながら慎之介が前に出ると、誘導する。距離のある敵にはまずチップの矢とミネアの真空刃、レミナのホーリー。だが、決定打にはなりえていない。
 黒い兵達は進軍を止めない。漆黒の瞳に宿るのは敵意。漆黒の敵意が、じりじりと円を狭める。
「このままじゃ‥‥囲まれます!」
 前方の相手はキルスティン、ネフィリム達が押さえ込みながら始末しているが、如何せん数が多すぎる。これでは目的地までいけるかどうか‥‥。
「えー、このタイミングで蟷螂さん登場〜?」
 別に相手は野生の生物なのだがらいつ出てきても仕方が無いのだが、それでもこの状況、ミネアの辟易とした呟きにも同意できる。こんな混雑状況にも関わらず、大蟷螂が姿を現せたからだ。
「ここで一旦、一区切りさせるしかなさそうね」
「うむ‥‥承知ッ」
 機動力の慎之介と、回避力の蘭華が自陣から抜け出すと、それぞれ囮となり、敵兵力を分断させる。幸い出てきた大蟷螂は一匹。
「どこを見ているの?」
 しなやかなに流れる蘭華の肢体に、黒い牙は届かない。左足を軸に半回転して相手の突進を避け、捉えた側面に爪先を突き刺―そうとしたところで止め、右に跳んだ。
 鎌。空裂いて迫る、緑色の大鎌。
 片足だけの力だったせいか、回避しきれずにかすり傷を負う。
「そうだったわ、あなたの相手も私がしなくてはいけなかったわね」
 蘭華は大蟷螂と実力を客観視する。続く斬撃を、彼女は大きくステップを踏みかわす。どうやら回避に専念するようだ。
「潰せ潰せ潰せ潰せ潰せ潰せ潰せ潰せッッッ」
 魔法のメイス。振り下ろされる度に黒い敵を叩き潰し、黙らせる。まさに魔法のメイス。
 ネフィリムは次々に大蟻を屠ってゆく。大振りの攻撃ではあるが、相手の回避能力は低く、面白いように当たってゆく。彼女自身も回避能力が低いが、重装甲を命綱に、次々とダメージを無視してゆく。
 尤も、ネフィリムが一撃で済むのは、遠距離攻撃陣の恩恵もあるが。いつの間にかチップが木の上から、蟻、蟷螂問わず多くの敵に矢をばら撒いている。
「砕け砕け砕け砕け砕け砕け砕け砕け!!!」
 無傷の大蟻を次々と一撃一殺。キルスティンの握る魔法の大剣は、重さが規格外だ。故に、振り下ろされる一撃も規格外。自軍の屍を踏み越え、迫る大蟻の牙には身をよじる。よけられしないが、良い当たり所へと導く。
「これなら幾らか食らっても‥‥もつな」
「でも囲まれたら当たり所の問題じゃなくなるわ。後ろはあたしが!」
 キルスティンは背中を女華姫に預ける。 それに応え、彼女は野太刀を振るう。
「ネフィリムさん、キルスティンさん、無理はしないでくださいね。損傷は浅いですが、完全な無傷ではありませんので」
 レミナは状況を見て、リカバーとホーリーを使い分けていた。二人の前衛が、数多くの攻撃を受けても万全を保てるのは、彼女の後方支援によるものが大きい。
 そこに突然聞こえる、悲鳴。その方に向けば、チップがいた。下から這い登り、迫る黒。討ち逃しか。
思い出してみれば、蟻とは塀や壁にしがみ付きながら平気で歩く者。勿論、木も登れる。
 チップはがむしゃらに番え、弦を引き、射る。しかし彼の今回の装備の重さでは、連射は不可だ。大蟻の足一本落とした頃には間合いに入られていた。掴まれれば裂傷は免れないであろう、棘付の魔手。
「こんな幸運、続くとは思いませんが」
 魔手は突如止まる。レミナは専門レベルのコアギュレイトを運良く成就させていた。残りの足を削ぐと、その固まった格好のまま大蟻は木から身を落とす。
「カワイイ子によくも手ェ出そうとしたわね!」
 待ち受けていたかのような大刀によって命を落とす。それを振り下ろした女華姫は、憎々しさを面に充満させて言い放った。
 そうして周囲に黒い屍が積み重ねられていく。が、それを問題にしないくらい、敵の増援がどこからともなく現れてくる。
 当初、都合の言い地点への移動や、日数を有効に使うため一時撤退等も考えていた冒険者達であったが、現状はそれを許さない。
 半分が重装備者。バックパックを背負えば攻撃、防御を禄に出来なくなるほどの荷物の者もいる。今回の冒険者一行は、総合的な機動力が‥‥低いのだ。更に敵は圧倒的数量。
 こうなったら、出来ることは一つ。
「こころなしか、あっちの方から多く来てない? きっとあっちに巣があるんだよ!」
 周囲から沸く大蟻、それでも四方均一に出現しているわけではない。確かに、ミネアの指差す先から、より多くの敵が進んできている‥‥ように思える。
 こうなったら、出来ることはただ一つ。その方向へ進み、ある(かもしれない)巣を見つけ出し、叩く。群がる虫を蹴散らしながら少しずつ‥‥少しずつ進み。敵の数にもムラが出てきた。召集の具合が悪い時を見計らって、更に進んでゆく。
 そうして、見えてきた穴倉。
「はい、ミネアさん!」
 チップは手頃な枝を拾うと、手早く着火して簡易松明を作り、ミネアに渡す。小柄さと機動力を鑑みて、巣穴に入るのはミネアがこのメンバーの中では適任だった。
 彼女はそれを持つと消さないように留意しながら駆け出す。後方から、専門レベルのホーリーと、眼砕き足貫く矢が、ミネアの道を開く。
 洞穴は狭く薄暗かった。狭さのせいか、敵の足音が良く聞こえる。まだまだ大勢いる‥‥長居は出来ない。
「てい! ‥‥あちゃ、これはハズレ〜」
 最初に見つけた蟻の乳白色卵(?)に小太刀を刺すと、崩れたそれからどろりと白濁液が垂れ出た。狙いはこれではない。次を探す。
「とお! ‥‥ん? ヨシ、これならOK!」
 次に見つけた卵は、乾いた手応え。切り口に火の枝を差し入れると、段々と広がり、煙が立った。そして即座に走り出すミネア。
「無事生還ー!」
「よし、じゃあ仕上げ!」
 ミネアが巣から出てくると、チップは火矢を番えていた。彼の袖が千切れている‥‥自分の服を破って作ったようだ。
 矢は鏃に鮮やかさを宿し、洞穴に飛び込む。
「それでは閉塞を行うでござる!」
 慎之介の軍馬が岩を引いてくる。
「岩でも土でも死体でも‥‥使えるモノは何でも使うわよ」
 死んだこれはもうただの『物体』だ‥‥と言わんばかりに、蘭華は大蟻の死体を蹴り飛ばす。
「だったら、これも‥‥有効利用だ。ハイいくよ」
「ハイせーの!」
 キルスティンとネフィリムは、二人で倒した大蟷螂を入り口向けて投げ込む。
「音が近づいてきたよ‥‥近い!」
「自分ら重装備組で、栓をするよ」
「よし、厚い鎧に物言わして塞いじゃおう。ドンとかかってこい!」
「それにしても、酷い数‥‥!」
「ちょ、ちょっとちょっと〜漏れ出してきたわよ〜!」
「く、拙者が御相手致す!」
「ソニックブームで、首と胴を離婚させちゃお♪」
「ここで止めれば‥‥いえ、止めなければ‥‥! コアギュレイト!」
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
 巣からは結局、数匹が漏れ出し逃げていった。状況が落ち着いた後、巣の中に探り入った一行は、一匹だけ、大きさの違う大蟻を見つけたのだった。


「虫の文献によれば、それは女王蟻というやつだろう。女王蟻を始末すればその一団は瓦解するらしい。ま、一応駆除成功‥‥ということにしておこうか。それにしても‥‥」
「ん、何か?」
 依頼主、坂田はネフェリムをまじまじと見つめる。
「その様子だと、激戦だったようだねぇ。そんな大群だったとはね。傷薬なども数多く使ったのではないかな? もしや報酬含めてもマイナスになった者もいるんじゃないかね? 勿論割り増しはせんがね」
「‥‥‥‥」
 たしかに、魔法だけでは間に合わず、ポーションを大量に消費した。‥‥でもいちいち言わなくても、と誰も思うのだが、一応依頼主なので閉口しておく。
 しかしその後は坂田しっかり報酬を渡し、特に活躍著しかったキルスティンとネフェリムには賛辞を送った。
「まぁ、範囲攻撃が可能な術士等を無しの状態でよく依頼を遂行してくれた。キミ達程の経験を重ねた冒険者ならただ対象を排除するだけの依頼なら、油断しなければ失敗することはないだろうかね。今後はその方法や状況想定をもっと煮詰めてみたらどうかな? そうすれば、支出も下がる――」
「つまりは、もっと上手くやれ‥‥ということかしら?」
 坂田の言葉は、途中で蘭華に切られる。どんなありがたいお説教も、疲労困憊の身にはなかなか入らないもので‥‥。
「ま、強制はしないがね。私はキミ達冒険者の、ますますの活躍を祈っているよ」
 坂田は穏やかに笑みを浮かべながら、言葉を返した。