【五条の布令】犬も歩けば‥‥
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月29日〜05月03日
リプレイ公開日:2006年05月06日
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●オープニング
「まだなの? まだ私の白丸はまだ探してもらえていないの?」
その女性は、大袈裟ともとれる仕草で嘆いていた。
「現在募集中だ。何しろ現在の状況からして、ただの犬の捜査となると、人が集まり難くてな」
簡潔に返答するギルドの係員に、ヒステリカルな口上で泣きついてくる。
「どうにかならないの? どうにかできないものなの?」
「‥‥善処する(っせーなーこの女は。京の現状みやがれ。要人暗殺以来、忙しくてしょうがねえんだよ!)」
半ば荒立ちながら係員は、先程よりもっと簡潔に返答する。
この女性、大沼久仁江といった。元は呉服でそれなり繁盛していた商人の妻だったのだが、夫はある日突然姿を消し、息子は賊に殺された。
商売を夫と息子に任せきっていた久仁江は、その後の店やりくりできるわけもなく、結局店は潰る。しかし一児を抱える母の久仁江はバイタリティ溢れる女性であった。そのまま浮浪者に堕落はせず、しかしながら依然のプライドに固執することなく、請け負える仕事ならどんな下仕事でも請け、この情勢不安定の京都を次男と共に生き抜いていた。以前住んでいた家とは、かなり離れた位置にあるその長屋はお世辞にも綺麗とはいえるものではないが、それに文句言うことなく暮らしている。
白丸は、まだ口利けぬ次男の友人であると同時に、久仁江のいない時は住まいの番犬であり、また久仁江の良き相談役でもあった。久仁江が愚痴をこぼすと、白丸はまるでそれを理解して、慰めるかの如く久仁江に身を摺り寄せて来るのだ。
白丸は間違い無く、家族の一員だった。
「白丸はその名の通り白い毛並みで、左目の辺りに、縦に大きな傷跡があるから見間違える事は無いと思うわ。探せばすぐに見つかるはず‥‥人の集まりが悪いのなら、報酬額を上げれば‥‥!」
「確かに、それで少しは集まりやすくはなるだろう。でもアンタ、現在の報酬だって結構限界なんだろ? 予め提示する依頼額は、アンタが今現在払える額が原則だぞ」
係員は、冷徹に『ギルド係員』に徹した。
「そ、そこはなんとか‥‥なんとかして支払う日までにお金を用意するわ! ‥‥だから!」
懸命に訴えかける久仁江。ギルド内に大きく声を響かせていた彼女に対し、周囲の目は明らかに冷ややかだった。
「け、犬一匹に何必死になってやがる」
「金が無かったら、遊郭でも行って稼いでくればいいのにな。三十代前半で未亡人なんて触れ込み、ウケるんじゃねえか?」
嘲笑に飽き足らず、猥談すら始める冒険者さえいた。そこまで言われると、さすがに聞こえた方は心地が悪い。
一人の少女が立ち上がった‥‥二本の小太刀を脇に刺した彼女はその下卑た男達に一喝し、そして犬を探す依頼を受けるべく。
「やれやれ、今の神皇家が敷く治安は、犬一匹見つけるのにそれほど梃子摺るくらいに、乱れたものであるか」
少女の一喝‥‥ではない。声は男のものだ。
「あ、なんだテメ――ッぅ!!」
折り畳められた扇子は小気味良い音を出して冒険者の顔を打ち、台詞を遮った。
「なんだお前は!」
「どーでもいいが暴れんなら外で‥‥――!! ‥‥京都守護代が、こんなところに何の用事だ」
呟く、係員。聞いて驚く、冒険者。少女も、立ち上がったまま呆気にとられている。
「「き、京都守護代!?」」
「いかにも。私は京都守護代、五条の宮(ごじょうのみや)にあるぞ。控えろ、下賤者!」
五条の宮は打ち付けた扇子をその冒険者の眼前に突きつけ一喝を済ませると、今度は涼しい顔に切り替えて久仁江に近づいた。
「ご婦人は以前栄えていた呉服屋の妻であろう? あこは全店を畳んだと聞いたが、そんな状態から良く再び立ち上がったものである。‥‥安心されよ。私がより優れた冒険者を募り、いとも簡単にその犬を見つけてみせよう」
こうしてこの犬の捜索は、京都守護代、五条の宮が依頼主となった。
「さぁ、我こそはと思う者はいないか。秀逸な働きをみせたものは、追加の報酬も考えている」
●リプレイ本文
大沼久仁江の長屋。そこで、紙の上に毛筆を躍らせる二人。
「お上手なのね、お嬢さん」
「えーと、ボクは男の子なのですが」
「あ、あら! これは失礼‥‥そっちの彼も、なかなかの――」
「ボクはオンナノコです、逆に」
「‥‥もーッ! 二人とも、紛らわしいのよ! 特にあなた、布鎧と眼帯なんてしていれば、尚更間違えるわよ!」
(「久仁江はん。なんともまぁ、気強いお方で‥‥」)
絵を描く月詠葵(ea0020)と楠木麻(ea8087)、その二人に対する久仁江の様子を見て、そこはかとなく思う鷺宮夕妃(eb3297)。この依頼人、身なりはお世辞にも景気いいとはいえないが、心までは落ちぶれていないようである。
ちなみに、久仁江の『尚更』という言葉に麻が精神的ダメージを受けていた‥‥かどうかは、本人のみぞ知るということで。
「――うむ、そうだな。で、デゆランダル殿‥‥」
少女は欧州の発音に不慣れな為か、話していたその長身の男の名前を言うのに苦労していた。
「言いにくければ、言い易い方で結構」
「‥‥申し訳ない。では、アウローラ殿、確かに以前、私は犬を飼っていたな」
「ほう‥‥」
「ああ、そして江戸からこちらに越してきた時は大変だったな。一度、元の江戸の長屋へ帰ろうとしたことがあってな。あの時は必死に止めたものだ」
デュランダル・アウローラ(ea8820)と話す少女は、片岡睦(ez1063)。以前犬を飼っていた彼女なら、多少なりとも犬への知識がある、という事で話しているのだが、いつの間にか思い出話になっていた。それを話す時の彼女の顔は、普段のそれより緩んだものに見えた。だからこそ、『以前』という言葉に、悲しみを感じざるを得なかった。
(「万が一、無事じゃないってこともある。早く見つけ出さなきゃな」)
思い、白丸の早期発見を誓うジーン・インパルス(ea7578)。先刻睦も言ったのだが、一般的に犬には帰省本能があるとされている。だというのに帰ってこないということは、白丸に何かあったのだ。怪我か、あるいは‥‥。
「そうこうしている間に、出来ましたー。完成ですっ」
「言われたように描いたつもりですが、如何でしょうか」
葵と麻の描いた白丸の絵を眺め、頷く久仁江。
絵は、捜索する一行全員に配られるので、その分だけ描かなくてはならない。書いている間に花東沖総樹(eb3983)が久仁江から、白丸が使っていた布団を預かる。
「こんなもので、役に立つかしらねぇ」
「大いに役立つわ。鏑木さんやデュランダルさんは犬に匂いを辿らせるっていう話だし。どうもありがとう」
準備が一通り整った頃合だろうか。
「(家族同然の犬が戻らないのは久仁江さんも辛いですよね‥‥ですが、家に戻らないのはそれなりに訳があるのではないでしょうか。例えば怪我か病気をしているのか、それとも‥‥)それでは、そろそろ参りましょうか」
(「何らかの怪我によって動けない?何者かに捕えられ動けない? あるいは、もう‥‥?」)
ユリアル・カートライト(ea1249)の想定内には、最悪のケースも考えある。が、言わないでおいた。少なくとも今は、言うべきではないと思った。六条素華(eb4756)も、同様の気持ちで。
「特徴ははっきりしているのですから目撃証言は出てくるでしょう。それではまた、然るべき時に再び、長屋にて」
そうして素華をはじめとして、冒険者達は各々、犬の捜索に向かったのだった。
「そうだな‥‥」
呟く睦。それが他人の事だとしても、もう愛犬の死など見たくない。
「一刻も早く見つけ救―ぅあ!?」
「睦お姉ちゃん、一緒に行く人が居なかったりしたら、一緒に白丸を探しましょうなのですー♪」
抱きついてきた葵に驚きつつも、睦も捜索に向かう。
「うーん。駄目、みたいかなぁ」
「む、麻殿。‥‥いつの間にか、合流したか」
「あ、デュランダルさん。そっちはどうかな? 成果出てる?」
「芳しくない」
「んー、そうかぁ‥‥」
犬に匂いを辿らせ、白丸を探していた麻とデュランダルは、街中にて偶然会った。両者、ともに白丸には辿りつけていないようだった。
「描いた絵も使って、集合までもう少し探してみるけど、犬の鼻が利かない位、遠くに行っているのかなぁ」
「俺も捜索を続ける。‥‥遠く、か。もしや今は別の誰かに飼われているのかもしれないな」
そして集合時間。長屋。
「――といった具合だったな。睦殿は、どう考えるか?」
デュランダルは、今日の捜査を纏めて話すと、睦に意見を伺った。
「柴犬は一般的に、自分の主人以外には必要以上に馴れ馴れしくしないものだ。‥‥まぁ、程度に差はあるが‥‥。とにかく、別の人間に大人しく飼われているという事は無い、と私は思う」
「なるほど。では、別の理由‥‥怪我等、だろうか」
下唇に指を這わせ思考し、俯き加減に呟くデュランダル。それを聞くと、傍らのジーンは忙しない様子を一層濃くした。
「近所の方にも聞き込みを行いましたが、近頃は見ていないようです。どうやらジーンさんもこの付近では有力な情報を得られなかった様子。もう白丸は、近くではないでしょう」
あくまでも現状を冷静に、淡々と話す素華。情報の整理は、冷静に行わなくてはならない。
「でもとりあえず、この付近には既にいない事がわかっただけでも大きいかな。明日は範囲を広げて探してみよう」
一同、麻の言葉に頷き、初日の捜査を終えた。
「こんな感じに傷があって、白い毛並みの犬なのですが、見かけませんでした?」
「ああ嬢ちゃん、それっぽい犬なら〜たしか‥‥」
捜査二日目、葵と睦。
「そう、か‥‥協力ありがとう」
聞き込む睦は、どうやら成果は上がっていない様子。そこに、葵からの朗報が入ってきたのだ。
「睦お姉ちゃ〜ん。あっちで、目撃証言聞けたのです〜♪」
「何! まことか、葵殿!」
女性二人の‥‥では無くて、少年と少女の喜々とした声。二人は証言を集めて、段々と場所を絞ってゆく。
その頃、別所。
「ここが、よく白丸が散歩したコースらしいです。ここなら、『顔見知り』も沢山いることでしょう」
「なるほど、たしかにそうやね。ではっ」
久仁江に教えてもらったその場所にいるのは、ユリアルと夕妃。
鈴(りん)。‥‥鈴、鈴、鈴、りーん‥‥。と、静かだが、染み入るような鈴の音と、詠唱。夕妃は薄銀色に包まれ‥‥そして、思念で話しかける。相手は人間ではない。
『白い毛並みで左目の辺りに縦に大きな傷跡がある、家族思いの犬をご存知やろか?』
ユリアルは辺りを見渡してみると、思った以上に猫や犬が集まっている事に気付いた。
(「これがもし全員白丸の友達だったら、本当に凄い犬ですね‥‥」)
「‥‥ん、そかそか。おおきに! ユリアルはん、段々とわかってきたで。白丸がどこに向かったか」
「で、これらをまとめると‥‥十中八九、間違いなさそうね」
「ああ。呉服店‥‥以前住んでいた、元・邸宅の方角だな!」
総樹の総括に、力強く相槌を打つジーン。
「なるほど、以前の住まいにか。しかし何故‥‥」
行き先に納得は出来るのだが、理由にしっくりきていない様子の睦だったが‥‥
「わからない‥‥けど、きっと理由があるはずよ」
「そうやね。家族を気遣えるほどに頭のええ犬はんやそうやさかい、恐らく何かあるはずどすな」
「うむ、そうだな」
総樹と夕妃に言われ、頷く。
「そうとわかれば、色々準備しなくちゃ。ええーと、お腹空かしているだろうから、とりあえずご飯に、それと‥‥」
数日間の行方不明により、空腹であろう白丸。総樹は飯を拵え、またジーンは鞄の中を再度開き見て、購入した諸々の治療用具を確認する。
各人、出発の準備を整えるなか、ユリアルは久仁江に話しかけていた。
「久仁江さんも、一緒に来ては頂けないでしょうか」
「うーん、行きたいのはやまやまなんだけど、白丸がいない間は誰か家にこの子一人にするのは不安なのよね」
「‥‥そうでした、ね。些か浅慮でした」
「もー、男がそんな顔しないの! あ、そうだ」
我が子を傍らに内職に勤しんでいた久仁江はその手を止めると、ユリアルにある物を渡す。
「これは?」
「私の髪留め。ま、小汚い布切れでしかないけど、私の匂いがついている物って事で、私の代わりに持って行っておくれ」
「ありがとうございます。‥‥それでは、必ず白丸を連れて再びここへ」
「世界を為す元素の一、火の精霊よ。我が眼(まなこ)に汝を見る力を与えたまえ」
崩れた廃屋――元は煌びやかな屋敷であったのであろうそれ――を見るジーン。自身の魔法が、彼に熱を見る視力を与えている。
「それにしても、凄い寂れ方‥‥」
「盛者必衰の理を悟ってしまうどすな」
その屋敷に、色彩豊かな‥‥様々な着物が飾られていたのは、もう過去でしかない。
では、こんな所に白丸は何の目的で来たのだろうか?
「白丸ちゃーん? どこにいるのー!」
「白丸ー! 久仁江殿が心配しているぞー!」
「そうだよー、心配していたよー!」
叫びながら探す総樹と睦。それにつられて、葵も。
しかし、響き聞こえるのは、三人の声だけ‥‥
‥‥ではない?
「ん?」
「? どうかしたか? ジーン殿」
ジーンが耳を澄ます仕草をすると一同、一斉に静まりかえる。
「今、何か聞こえなかったか?」
「私は、何も‥‥」
「ボクも同じく、何も聞こえないです〜」
睦と葵には、その空間から拾えるのは無音だけだった。
しかし、
「うちも、聞こえた‥‥気がした。ほんの小さな、鳴き声やけど」
「鳴き声! つまり、白丸だな!」
「か、どうかはわからへんけど‥‥こ、こっちや」
睦に詰め寄られて一瞬ぎょっとしつつも、夕妃、それとジーンが、聞き取った音の元へ歩いてゆく。
行き着いたそこには、箪笥やら何やら、物々しく崩れていて酷い有様になっていた。
「‥‥聞こえますね。ここなら私でも聞き取れます」
素華の言う通り、ここまでくればもう皆の耳に届いていた。犬の鳴き声‥‥しかし、それは弱々しい。どうやら箪笥等の下に埋まってしまっているようだ。
「熱源から見ても、この下に違いは無いな。しかしこれ、どうする!? 結構重―」
ジーンがそれらをどかそうと苦労している横から、無言で手を伸ばし、箪笥を掴むデュランダル。そして、重量物であろうそれらを、まるで紙細工で出来た代物のように軽々と持ち上げる。その巨躯の面目躍如と言ったところか。
のけられ、どかされ‥‥段々と声がハッキリと聞こえてくる。聞こえる度にその場の皆が、焦がれる。
そして、最後に棚をどかすと‥‥蹲る様に丸く座っていたその犬が、顔を覗かせた。白い毛並み‥‥目の傷‥‥まさしく白丸であった。
「無事でしたね。良かった、本当に」
ユリアルは柔らかな微笑を浮かべながら、無事生きていた久仁江の家族を抱き上げる。
「ご主人が心配してたぜ? お前がいないとダメなんだとよ‥‥お? 何咥えているんだ、お前?」
怪我が無いか診ていたジーンは、白丸の口元にある小包に気付いた。
「これは、帯?」
「縮緬ですか? 綺麗ですね」
自分が巻いている粗末なそれと見比べる睦と、物珍しそうにそれを眺める葵。
長屋に戻った一行は、久仁江の目の前で小包を開ける。その中にあったのは、平織りされた絹の帯だった。きめ細かな生地に表のしぼ、そして光沢。それは素人が見てもわかる程の上物であった。
「確かに‥‥確かに少し前に白丸に言ったんだよ」
誰に言うわけでもなく、おもむろに久仁江が呟きだした。
「そういえば、お気に入りの帯を持ってくるのを忘れた‥‥って。あれだけは売り払わなかったから、出来れば今からでも取りに行きたいくらいだ、って」
「じゃあ白丸は、それを聞いて取りに行った‥‥って事!?」
吃驚している麻の言葉に対する真実は謎だが、白丸がこの帯を咥えていたのは、紛れも無い事実。
「全く、馬鹿な奴だね。話を真に受けちゃうなんてさ‥‥」
瞳から雫をこぼしながら、白丸を抱く久仁江。
「五条の宮様も粋な事をして下さるわ。おかげで無事に白丸ちゃんが戻って、『家族全員』揃ったんだもの。家族って大事よ。こんなに嬉しい事はないわ」
「それにしても、京都守護代がギルドに来られるとはちょっと驚きました。しかも、このような小さな依頼に目を向けられるとは、お優しい方なのかもしれませんね」
「っくしゅ。っ‥‥暮れ頃は、まだ迂闊に薄着でいられない季節であるか」
「如何なされましたか? よもや風邪でも!?」
五条の宮がくしゃみをしたのは総樹とユリアルがそう言った、丁度その頃。
「いや、心配するな。それより、上着の用意を。余はこれから少々、外出してくる」
「畏まりました。して、どちらへ向かわれますか?」
「‥‥都内視察である」
「なるほど、それなりの腕はあるようだな」
白丸に施された手当ての跡を見た五条の宮から、ジーンへの言葉。前足を怪我していた白丸に対するジーンの対処は適切であった。達人の域に達しているであろうその技術を『それなり』と言うのは些か不相応だろうが、ジーンはそれに対して返す言葉を用意しない。彼にとって大事なのは、賛辞や名誉ではなく、目の前の命を救うことだから。
「で、これが捜索に用いた絵であるか」
「はい。僭越ながら私共の中で、絵に心得のある者が筆を取った次第です」
鏑木麻・画の、白丸の絵を手に取り眺める五条の宮に、応じるのは麻。
「でも、やっぱり紙ってやっぱりそれなりの値段するんですねー」
葵は誰に言うでもなく、本当に何気なく言ったのだが‥‥それを聞いて一考した後の五条の宮から、予想しない言葉が発せられた。
「丁度書斎に絵の一つでもほしいと思っていたところである。そういえば、絵を買うことなど久しいな」
「え? ちょ、これ―」
「なんだ? 足りんか?」
「いえ、そうではなくて! これって!?」
「‥‥私がこの絵を買おうと言うのだ。三度目は口にせぬぞ。釣りがあったら、犬の包帯代にでもしておくといい」
麻が受け取った包みを解いてみれば、金子。勿論、紙代以上はある。
(「ふむ、気前はよさそうだ‥‥が、高慢そうでもあるな」)
傍らにてデュランダル、彼なりに五条の宮の人となりを考察していた。
「とにかく、全てが丸く収まったようで。それではギルドの係員にも報告しに行きますか、一応」
五条の宮の背中を尻目に素華が言い纏めると、一行をギルドの受付へと促すのだった。
犬一匹探すのに要人が絡むといった稀有なケースではあったが、冒険者達は何一つ問題を起こすことなく依頼をこなし、そして‥‥依頼人の笑顔を取り戻す。
今回の依頼において、彼ら、彼女らにとっての大事は報酬主云々ではなく、この笑顔‥‥なのかもしれない。