あの薄暗い荒野を見よ
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月19日〜06月26日
リプレイ公開日:2006年06月30日
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●オープニング
「父上、僕は武家を継ぐつもりなどありません。剣に頼る生き方は最終的に、力と力のぶつかり合いを生むだけです。もっと武より文を優先し、学によって功を成すことによって――」
「ふん、学者にでもなりたそうな奴だな。で、道場剣術のせがれを戦の跡地に送り込むとはねぇ。どういった親心だろうかね?」
「実際の刀を持たせるのと、現実を見せるのと‥‥その両方を経験させられる。一石二鳥だと思うのだが‥‥」
「騒ぎの後には、必ず面倒臭い後始末がついてまわるもんさ。腕に自信があれば、もれなく多忙を差し上げるぞ」
男はそう言って冒険者を集めようと声を張った。その声で、そこに寄ってくる人間は、極少数であった。そんな数人のために声を大にするのも馬鹿らしい‥‥、彼はそう思ったかもしれない。
ここは冒険者ギルド。声の主は、そこの係員。
「ま、勿論汗水流せば、その分だけ銭もついてくるもんだが‥‥」
彼が呟くと、落とした菓子に群がる蟻の如く集まってきた。
若干混雑するくらいの人だかりが形成されたのを確認して、係員は気合を入れなおして話し出す。
「さて、先の大戦はまだ記憶に新しいところだろう。今回の仕事はそれの後始末だ。ここから二日も歩いた場所が今回の仕事場。察した人間も多いだろうが、元戦場だ。言わなくてもわかると思うが、あの戦の規模だ‥‥屍の鎧武者、屍食鬼、亡霊‥‥」
段々と、虫達は餌から遠退いていく。
「さらには死体から使えそうな武具をかっぱらっていく盗賊達、死体を食らっている大鴉‥‥仕事中毒者でもお腹一杯になりそうな『多忙』が、今ならもれなく一週間ついてくる」
そこにはもう虫は残っていなかった。残っているのは、『冒険者』だけ。
冒険者は、そんな『多忙』に臆する様子もなく、話を聞き続けた。
「さて、それじゃあ腕に自信があるって事で、今回は一つお荷物を背負ってもらう」
「荷物になるつもりも背負われるつもりもありません。何度も言いますが、僕は力で物事を為すのが嫌いなだけで、力が無いわけではありません」
お荷物呼ばわりされても落ち着いた口調のままだが、自尊心が無いわけではなく、気に留めていないわけでもなさそうだ。
係員に、一人の青年が紹介さてた。その恰好を見るに、どうやら侍のようだが‥‥まげ結っていない。
「僕は溝井政重と言います。ご一緒される方はどうか依頼の期間中、宜しくお願い致します」
それでも、青年はぴんとした背中を曲げて深々とした礼をしたのだった。
「いや、まぁ実力がないわけではなんだが‥‥」
説明を終え政重がいなくなったあと、こっそりと係員は囁きかけてきた。
「どうやら実戦の経験がない坊ちゃんらしくてな。しかも、武家だが剣の道に対して快く思っていない、頭でっかちの甘ちゃんでもあるみたいだ。少し現実を見せてきてやって欲しい」
●リプレイ本文
今日も幾つかの生(せい)がやって、来る。
嗚呼
嗚呼
嗚呼、あの生が憎い。
――生者行進
今日の空は白い。
薄く引き延ばされた白雲が空を占めて、それはあたかも絹生地の様な純。
だから尚更、その下、眼前に広がる土地の薄汚さが目立つ。
遠くを見ても、近くを見ても、死体が視界から外れる事は無い。逃避すべく目を瞑っても、鼻に駆け込んで来る腐臭が死体の世界へと意識を連れ戻す。
まこと、悲惨な光景である。
「どうした? あんた、顔色良くないぞ」
「‥‥大丈夫です」
銀槍で寄って来た大鴉を打ち落とす。ぱっくり開いた嘴から、灰色に濁った目玉が一つこぼれた。
槍の持ち主、乃木坂雷電(eb2704)は、声をかける。相手は口元押さえながら蹲っている一人の侍、溝井政重。膝を付く理由は、戦闘による負傷‥‥ではない。
備前響耶(eb3824)は閉口したまま振り払い、白刃からどす黒い血を落とす。
今しがた一行は、死人憑きとそれに群がる大鴉を駆除し終えたところだった。
「ちっ、とても寝泊りできる場所じゃないな」
「まァ面倒な事考えず、歩いていればいずれそれっぽいトコにつけると思うぜ」
ぶっきらぼうに言いながら納刀する雪守明(ea8428)の隣は、肩に担ぐ槍の握りを確かめながら言う名無野如月(ea1003)。
「初めての実戦でこれは、少々キミには刺激的過ぎたようだね。キツいようだったら、陣形の中央に――」
「いえ、このままで前で結構です。少なくとも、剣の腕で敵には負けていません」
アルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360)の気遣いを、政重はつっぱねる。
「じゃ、どうぞお好きなように」
内心肩を竦めながらも、アルヴィーゼは別段それを気にとめない。今回の依頼は数にものを言わせた雑兵相手、しかも明確なノルマもない‥‥そんな内容で報酬は、今自分自身が見につけている鎧の買値二倍程の金額だ。むしろこれ位のお荷物を抱えるのが順当‥‥と、納得する。
涙目になりながらも嘔吐感を堪える政重の耳に、不意に音色が入り込む。篠笛だろうか‥‥氷雨鳳(ea1057)が奏でる横笛から、澄んだ音が聞こえてきた。澱みないその美しさとは裏腹に、不思議とこの死体だらけの空間に溶け込んでいた。その調べは鎮魂の奏、なのかもしれない。
「どぉしたのー? 浮かない顔しちゃってぇぇ」
青ささえ残る面が、胸に埋められる。‥‥筋っぽい肉の胸に、だが。
「やっ‥‥、止めてくださいっなんですか!」
「あら、元気はあるみたいじゃない〜。安心したわ」
百目鬼女華姫(ea8616)による抱擁。出会い頭のに加えて、本日二回目。こんな女華姫であるが、戦闘では意外と(?)真面目であった。
「‥‥悶着もそこまでだな」
小刀の柄に手を掛ける霧島小夜(ea8703)の言葉。それが合図のように、各位の頭は戦闘思考へと切り替えられる。
「敵は眼前。殺意は十分。さて、どうする?」
小夜に抜き出された大脇差は、新たに沸いてきた亡者と対照的に、陽光で美しく煌いていた。
――正者、後身‥‥
「見苦しい、さっさと六文持って川を渡れ」
嗚呼、あの生が眩しい。
「さぞ無念だろう‥‥その鎖、私が解き放ってやる‥‥これが自分にできる、1つの弔いの仕方だ!」
嗚呼、あの生が欲しい。
「盾で受け流して、一撃をお見舞いする‥‥ちぇすとおぉー!!」
嗚呼、あの生が憎い。
‥‥‥‥嗚呼。
手足が捥げても、臓腑を崩れ落としながらも、爛れた亡者達はお構い無しに進んでくる。そんな相手に刃を振るう‥‥ここ二日間は、ずっと。
政重は、どうにかなりそうだった。むしろ、『これでどうにかならない方が、どうにかしている』とさえ思う。
そうして眩暈を覚えるたびに、手に握る真剣の重みで、醒める。
とても単身での戦闘に期待できる状態ではない。
「浅井殿、闘気術の付与を願いたい。自分は亡霊の類への対抗手段がなくてな」
響耶は理由付けて、彼の側に位置する。
「‥‥ええ」
返ってくる政重の声に、力はなかった。
見るに耐えかね、明が彼に声を‥‥
「全く、虚ろな目をしやがって。しっかりし――」
かけていたその途中、
「お出ましだ! 今度はご丁寧に具足付きでな!」
叫んだ雷電の声に、彼女の語尾が擦れた。
見てみれば、鎧武者の亡者達‥‥。
もういい加減嫌になってくる頃だ。精神的にだけでなく、肉体的にも。
三日も過ぎた頃には、政重のそれを抜きにしても、一同疲弊の具合が目立つようになっていた。
冒険者達は集団戦を心がけてここまで戦い続けてる。愚策でもないが、妙策でもない。それ以上でもなく、またそれ以下でもない。
傷は浅いうちに、如月と政重の応急手当で処置し、ポーション類の消費はなかった。
「お、なかなかの手際じゃないか。その辺の医者よりいけるンじゃないか?」
「いえ、あくまでも初期手当だけですので‥‥」
言いながら如月は政重の顔を観る。
(「こいつは、呑まれてンな‥‥」)
むしろそんな状態にも関わらず、適切な応急措置が出来る事に驚くべきか‥‥等と思っているうちに、またもや雷電から敵襲の警鐘。
「(術の行使の度に反応。良いんだか悪いんだか‥‥)気をつけてくれ! 音からして今度も、鎧を着た死体のようだ」
「いや、今度はもっと厄介かもしれねェ」
「え?」
雷電には見えなかったが、如月の、その細めた目にはしっかりとそれが映っていた。
「なるほど、賊徒か。こっちに気付いて逃げればいいんだがな」
同じく、見えている明がそう言う‥‥が、望みは裏切られた。盗賊であろうその男達はむしろ近づいてくる。
盗賊達は思う。
武装者九名に加えロック鳥一羽という脅威。‥‥しかし見返りは大きい。これらを始末すれば、しこたま荷物を積んでいる馬や駿馬が手に入る。
あちらにも優良視覚者がいて明の持つ刀の珍しさにもし気付いていれば、その値打ちに胸を躍らせている事だろう。
また、わざわざこんな地獄に足を運ぶ盗賊だ、自信家の集まりかもしくは‥‥狂っているのかもしれない。
「ッ! 待て、政重殿!」
駆け出した政重に手を伸ばす鳳。
「いや、行かしてやろうよ。あーいう坊ちゃんには、現実を見せた方が手っ取り早い」
「アルヴィーゼ殿! しかし‥‥ッ」
「ま、殺されたらカワイソーだ。既に駆けてる響耶にならって、僕らもサポートに行ってあげよう」
「そうね、可哀想! あたしもいくわ!」
女華姫も加わり、後を追う四人。
「慌しいな、あの坊ちゃんは‥‥。まぁ、現実を知るには丁度いいか」
「また沸いてきた! 小夜、あんたみたいに動ける人間はこちらを手伝ってもらえないか」
小夜は言われ、雷電に頷く。
屍食鬼に怨霊に、既に切り込んでいる後姿は明。
黒衣纏いし小柄が茶髪を揺らし、その瞬発の一歩一歩で亡者共との間合いを詰める。
後‥‥
三歩‥
二歩、
一歩ッ斬撃!
紅の刀身が、舞う。腐った胸板は中身を晒し腕は肩ごと斬り落とされた。
爪の代わりに牙が、彼女に迫る。ぱっくり開いた顎に生え並ぶ牙にもう人間の面影はない。
「宵を舞う狐の爪は‥‥鋭いぞ?」
牙は肉を貫くことはなかった。小夜の大脇差が亡者の首を横から刺し貫いて、倒す。
あとは踏みつけ斬り付け叩き斬る。作法など無い。
青白く揺らめく炎がその二人に近づく‥‥最中に、銀槍に止められた。
靄を払うようにそれは薙がれ、そして靄の様に四散し消え失せ、槍先が新たな標的に向けられた時に、持ち主は思う。
(「この蔓がある場所での戦闘は、雷電殿に幸いするだろう。さて、浅井殿の方はどうか‥‥」)
その攻撃が受け流され、避けられる度に、男は何やら罵声を発している。
亡者よりも腕の立つであろう盗賊達。しかしそれらを対処出来ている政重の様子を見て、響耶は精神面のそれが如何に戦いに大きく影響するか再認識する‥‥自分の相手を斬りながら。
政重が優勢、しかし彼の表情は芳しくない。
「何にでも説得が通用すると思わないほうが良い」
戦いつつ、諭すように言う鳳と、苦い顔しか出来ない政重。
現時点では優勢ではあるが、ここからどう転ぶかは分からない。
「この世界、言葉だけで何でも解決できたら戦争なぞ起きん」
鳳の言葉で決心したか、政重は、返す刀を盗賊に向ける。
一閃、盗賊の肩へ。
赤々とした血が吹き出‥‥ていない。峰打ち。出血などするわけが無い。
更に数発叩き込む。打ち据え、相手がもう行動不能と見て政重が歩み寄った。
「それではもう戦えまい。もう盗賊行為など止めて、――ッッ」
「止めて? 止めてどうする? 止めてどうなる?」
ボロボロの体、何故そんな状態で動く? どこからその短刀を出した?
政重は、何も分からない。唯一知れる事と言えば‥‥腹から血が出ていた。
赤い。
「どうするどうするどうするどうする?」
嗤う、殴る、嗤う、殴る。
「戦いで得て失って繰り返し。こんな生き方しか知らず、こんな生き方しかできない俺らが‥‥」
どこか自嘲的な、嗤い。
「どうする? どうすれば良い?」
政重にもう一人、更にもう一人と賊達が群がる。
戦が、生者と亡者の境界を曖昧にしてしまったのだろうか。
少なくとも政重には、彼らが理屈を解した『人間』には思えなかった。まるで奇行。
「どうす――」
発声者の口から、切っ先が出てきた。
政重が見上げれば、氷の表情。響耶は素早く引き抜き、もう死体となったそれを蹴飛ばす。
吹き出す血。
赤い。
「手に持つ刀と、目の前の敵。今はこれだけが、現実だ」
静かに、響耶は政重に言う。
「人を斬る時は躊躇うなよ‥‥」
まるで、手本を見せている様に。
(「こういう連中、得た物を碌な使い方せんからな」)
響耶、眼前に敵。
賊の攻撃は直線。刺突が、日本刀の横腹を掠めて流れた。
陣羽織が翻る。支える軸足に体重が掛かる。
白刃、斬撃!
響耶の一撃は男の肩から入り、そしてそのまま袈裟に斬る。
赤い。
「勉強代は思ったより高値だったかい? 後は下って、復習してなよ」
アルヴィーゼに、政重は言葉を返せなかった。ただ、瞳が救いを求めるように揺らめいて‥‥。
「下っていろ。覚悟半端なままそれ以上前に来たら、蹴落としてでも引き下げる」
とだけ鳳に言い残された政重。虚ろな眼に、胸に柄まで刃を埋めた大脇差が映る。引き抜いた途端それがあふれ出す。
赤い。
「いい事? コレも現実よ、受け止めなさい!」
女華姫が言うように、これは紛れもない現実。痛みが伴い血生臭い、紛れも無い現実。
「さて、坊ちゃんの社会勉強も済んだ事か。あとはもう来るなり逃げるなり好きにしてよ。逃げれば追わないから」
聞き取れない怒声と一緒に振り下した一撃はアルヴィーゼに。盾がそれを弾き、間隙無く突き出された褐色の刀剣。
「尤も、来る者は手加減しないよ」
更にもう一度、突く。
胸に穴を増やした男は、もう怒声を上げない。
政重は目を擦った。
しかし何度擦っても、目の前に広がる世界の色は変わらなかった。
‥‥赤い。
まったく、人間の肉が焼ける臭いというのは酷い。
しかし鼻をつまみもせず、政重は盗賊達の『結果』を見つめる。
「なまんだぶ、なまんだぶ‥‥」
耳に何か入ってきた。
「次に生まれて来る時は、斬り死になんてすンなよ」
合掌している、如月の声。政重の視線に気付いた彼女は、彼に聞く。
「どうよ。あの連中は、話を聞いてくれたか?」
声は揶揄の色を帯びず、ただ純粋な疑問として問われた様だった。
「‥‥私は、間違っていたのですか?」
「力による支配を避けて刀を取りたくない気持ちは良く分かるよ」
声は、雷電。
力の支配、横行。その行く末と、そのなれ果てとも言える現在。そして剣士である自分達。
「それでも俺は刀を捨てない。目を背けても、誰も救えない。こんな賊の理不尽に潰されそうな人達がいる‥‥だから俺は、そんな力の無いヤツの為に進んで剣を取りたいんだよ」
「雷電殿が大分言ってくれたから、もうあんま喋らんでいいかな。ま、それが『士分たる者の務め』ってやつじゃあないかと思うぜ私ァ」
「剣が不要‥‥私はもう、そうは言いません。然るべき時のための強さが必要だと思います。しかし‥‥」
弱々しくはあるが、それでも重は言葉を紡ぐ。
「それでも、乱世を治世へとするためには学が必要だという考えもまた、存在します。力だけが進むと、またこの様な者達を生む‥‥」
賊達を包む炎。赤い。
「まー、なんだかんだあったけどなぁ」
政重が声の方へ顔を向けると見えたのは明、の背中。栗色の瞳を向けないまま、彼女は続けた。
「今回ので現実を知って、それでもまだそう思うんなら‥‥足場を固め、望みを叶えるために何をすればいいかを見極めろ。私はあんたの考え自体には――」
「‥‥?」
「とにかくッ、経験を生かせって事だ」
後頭部を掻きながら、明はぶっきらぼうな口上。
「武より文を重視するなら検非違使と言う選択があるな」
具体的な発言は響耶から。いかにも彼らしい。
「見廻組が出来てから更に文が重要視されている。自分のような頭の弱い者にはとても務まらんが貴殿なら打って付けだ。将来の選択肢の一つとして考えてみてくれ」
「さて、現実知ったうえでの考えだったら、もう子供の我侭の範疇は抜けただろう。あとはもう一つだけ」
すっ、と小夜が顔を覗かせる。
「『知は時として力を超える暴力になる』‥‥これを理解し、忘れないでくれ」
「ええ、薬と毒の関係の様に、匙加減と使用者の意識次第で、如何にもなりますからね」
少し離れた場所にて、アルヴィーゼと女華姫。
「なんだ、思った以上に脆くないじゃないか、彼」
冗談だとは思うが、肩を竦めて残念そうな仕草でアルヴィーゼが呟く。
「ま、彼もこれで充分に学べたかな」
「‥‥いえ、まだ足りないわ。全然教えたりないわ!」
「何?」
女華姫が、何やら詠唱している。何故今このシーンで、忍術を使うのか?
「じゃあこれから、あたしがオトナの世界を教えてア・ゲ・ル☆」
術を成就させた女華姫が、政重に駆け寄って来た。
「こ、声からして、女華姫さんですね! なな、なんて恰好になっているんですかー!?」
ある者は笑い、ある者はその人遁の術の効果を感心し、ある者は止めに入ったりして‥‥、少しの間だけ、この薄暗い荒野に光が差したのだった。
その後も亡者相手には骨が折れたが、深い傷を負う事なく無事生還。
手当てや死体焼却に諸々道具を費やしてしまった。しかし「見廻組からの給与範囲内」と言い報酬の受け取りを断った響耶は、浮いた自分の貰い分でそれの買い足しを勧めた。お陰で、実質消耗は無いようなものだった。
青い。
本日の京の空は青。
その空の下では、今日も生き死にが繰り返される。
一度華やかな都を離れれば、薄暗い荒野が広がる。
あの薄暗い荒野を見よ。そして何を思うか。
一人の男は、あらためて‥‥書を開いた。