お守りを取り戻せ!

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2006年09月11日

●オープニング

「金も持ってないって言うもんだからよ、いくらこの俺でもムカついたぜ。その場でジジィ、ボコボコにぶん殴ってやったのよ。したら財布、出してきやがるの」
「うわ、すげぇ嘘つき。そりゃー更に罰が必要だろー?」
「そうそう。だからそこで、更にもう、蹴りまくった」
 粗末な着物、それに勝るとも劣らない汚らしい言葉を吐きながら、数人の与太者達が道を歩いていた。
「そんでよお――‥‥っ!」
 軽い衝撃に、男の肩が揺れる。
「痛ぇじゃねぇか!」
「す、すいません」
 どうやらお互い、前方不注意で肩と肩とがあたったようだが、当然男よりも華奢なその少女は倒れ、尻餅をついていた。
 腰をさすっている少女。手の籠には鱧やら野菜やら薬草やら、色々と入っている。どうやら買い物の途中だったようだ。
 男は見下ろしながら睨んでいると、彼女が落としたと思われる、キラリと光る何かを見つけた。
「おぅ、なんだこりゃあ?」
「だ、それはダメです!」
 ひょいっと拾い上げ、物珍しそうにそれを見る。装飾品にも見えるが、何かのお守りのようでもある。
 少女が手を伸ばすも、その手は何も掴めなかった。
「それは‥‥大切なお守りなの。返して下さい」
「へぇ、そんなに大切な物なら、いくら出せるよ?」
「いくら‥‥って、何でそうなるのよ!? 返して!」
 段々と口調を荒げる様子を見るに、それが彼女にとって、値打ちもつけがたい貴重なものだと予想できる。
「返し――」
「うるせぇ! 調子乗んな、クソ女!」
 頬を叩く音が、彼女の台詞を遮った。音からしても、手加減している様には思えない。
「調子乗って、夏に鱧なんて気前イイもの買いやがってよ。どこの金持ちの女だテメェ」
「そんな余裕あるんなら、金ケチるんじゃねーよ、クソが」


「と、その後、男達は自分達の行き着けの酒場を教えて立ち去ったそうだ」
 ギルドの受付で話す壮年の男は、とある商家の旦那であった。
「女のコを本気で殴ったんですよー! ほら、ココっココ!」
「運が悪かったね、早苗君。買い物途中、あんなゴロツキに出会ってしまうなんてね」
 被害者の女性はどうやら早苗と言う名で、その男の商売の従業員らしい。
 彼女は、何度も殴られた頬を指差している。とにかく相手に憤っている様子だ。
「いきなり殴るなんてホント、頭にきちゃいます! でも、それ以上に‥‥」
 少女の表情が変わる。憤激から、悲愴なそれに。
「あのお守り、遠くの姉さんとの繋がりなの。それがとられたなんて‥‥」
 むしろ煩いとも思った今までの威勢が嘘のように、早苗は沈んでいる。余程、大切なものなのだろう。
「んで、どうするんだよ。まさか、その場所に金を払いに行くつもりなんて、無いんだろ?」
 ギルドの係員は、意地の悪そうな笑みを浮かべ、返答のわかっている質問を男に投げかける。
「そんな、出来の悪い連中には、一銭も積むつもりはないさ。それなら冒険者達に、だ」
「いいだろう。生きがいい連中を揃えてやるよ」

●今回の参加者

 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb4891 飛火野 裕馬(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5188 ベルトーチカ・ベルメール(44歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb5483 彼岸 ひずみ(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5808 マイア・イヴレフ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「大の男がつるんで女の子を殴っただけじゃなく物まで奪っただって?
「そうなんですっ! ホント、ヒドい人達! アレは‥‥大切なお守りなのに」
「そんな‥‥男の風上にもおけないバカ共、この姐さんが御仕置きしてやるからね!」
 齢不相応に幼く見える顔つきに相反して、頼もしい気勢。そんなベルトーチカ・ベルメール(eb5188)を見て、早苗は頼もしい冒険者に会えた幸運に感謝した。
(「この人達なら‥‥、大丈夫そうだよね」)
「とりあえず、その、早苗‥‥だっけか?」
「え‥‥あ、はいはいっ。何ですか?」
 特別理由がある訳では無いのだが‥‥それとなくちんぴら風に見えてしまうクリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)。彼女に話しかけられて、一瞬焦った様な仕草さえ見せた早苗。
 この前ちんぴらにぶたれた後だからか、そういう人間に現在苦手意識を持っているのだろうか‥‥ともクリスティーナは考えたが、憶測は不要であり、第一彼女の気質からその程度の瑣末な事には気を留めない。
 それよりも、今は依頼をしっかりこなす事が大事だ。
「その、『大切なお守り』とやらの形状を聞いておこうか」
「ええっと、紐に透明な石が繋がっていて、首にかけられるようになっていて‥‥」
 求められた質問に、丁寧に答える早苗。彼女も、風体だけで人を判断するほど、浅い人間ではないようだ。
「なるほどな。これがわかれば、後は‥‥うっし! 金のことばかりなんてケツの穴の狭い連中をちぃっとばかり、キョーイクしてやっか」
「怖いー、笑い方にスゴ味があるよーっ、クリスティーナさーん」
 まるで楽しそうに唇の端を吊り上げるクリスティーナ。一方早苗は苦笑い。早苗から見て、クリスティーナの笑みは、下手な悪漢のそれより迫力がある。今まで積んだ経験は、伊達ではない。
「まぁ、井の中の蛙、大海を知らず、と‥‥蛙とて、こうまで好き放題に振る舞いもしないでしょうけど」
 呆れたように言うマイア・イヴレフ(eb5808)。嘆息さえ吐く異国人に、彼岸ひずみ(eb5483)は散り散りに途切れた口調で話しかける。
「決して‥‥彼ら、みたいのが、一般的では‥‥ない、です」
「ふむ。ジャパンは、恥の文化と聞きましたが、恥知らずがいるのはどの国でも同じということですね」
 おどおどした様子で話すひずみに、面を向けてそういったマイアの口調は、心なしか先程より柔らかい声色に聞こえた。
 気弱にさえ見える彼女。それに加えてひずみは、小柄な姿。
それを見たクリスティーナは、乗り込む前に一つ、気合でも入れてやろうかと彼女に歩み寄った――
「傍若無人、な、ならず者‥‥そんな、輩、は、排除‥‥もとい、懲らしめ、て、やらね‥‥ば、なり、ません、ね‥‥」
 その時に聞こえた、ひずみの呟き。薄っすらとでもあるが、笑みさえ浮かべている様に見えるひずみの表情。それは決して『蛙』ではなく、『蛇』の立場の者の笑みだ。
「‥‥? ど、どうし‥‥たんですか?」
「‥‥なんでもねぇよ」
 とりあえず、少なからず自分の対人鑑識能力を実感したクリスティーナだった。


 その男は、気弱そうな面(おもて)とは裏腹に、憤りで思考を満たしていた。
「まあそこは、俺の品性の見せ所でよお‥‥」
 ぎゃはははは。下品な笑い方。
「そこでまた、気持ち悪ぃ顔しやがんのよ、そいつは‥‥」
 ぎゃはははは。吹き出物が満たす、ひき蛙にも似た汚らしい顔。
 店の味を気に入り、常連となっていたその男は、憤りで思考を満たしていた。
 非力な自分を呪いつつも、それと同じくらい、大笑いをしながら盛り上がっている数人を呪っていた。
 最近このならず者達が居座るようになってから、店からは客足と良き雰囲気が遠のいていった。ここでの冷酒と漬物が生きがいだった。
 それなのに‥‥。
「お前、それ不味すぎだから!」

 ぎ ゃ は は は は は は は !

 誰でもいい‥‥もう、誰かを黙らせてくれ‥‥。
 そう思いながら、いつもの様に大きな雑音に時間が流される事を、その気弱そうな男は覚悟していた。

 悪漢達を咎める者は、その場に誰もいない。ごろつきの腰にあるそれは、黒き包みにその身を隠しているものの‥‥いつその身を曝け出すかがわからない。
 腰にあるそれは、刀。悪漢が持つというだけで、その刃は力無きものにとっては、大きな恐怖となるのだ。
「待て待て、だからそれは――」
 突然、雑音が止まった。止めたのは、引き戸の音だった。
 男もその先を見た。まるで、救いの仏でも望むような目で。
 だが、どうやらこの連中に仏はできなそうだった。何せ、線の細い女性ばかりだ。思うところは悪漢達も同じようで――いや、ごろつきは下卑たる表情さえ浮かべている。
 絡まれるのか、可哀想だ‥‥と思うものの、怖いから口出しはできない。
「よーぉ、お嬢チャン達。お酌でも――」
「あなた達、が、ある少女より‥‥奪った、お守り‥‥」
 静かな口調のまま、おどおどした口調のまま、小柄な女性がごろつきの台詞をぶった切った。
 意外にも、その女性達はどうやら冒険者のようだ。
「それを、取り返す…よう、依頼…され、た、者です…」
「ああ!? なんだとこのアマがぁ!」
 わかりやすい反応。当然の如く激昂したごろつきは、その女性に掴みかかる。
「ちょっと、乱暴はやめて!」
 割って入ってきたのは、これまた女性。歳不相応の赤髪の少女の行動が、男にはとても勇敢に見えた。
「うるせぇぞ! ガキは黙ってろ!」
 そんな少女に対しても、悪漢は容赦しない。手の甲を感情のまま振り、それを少女の頬に叩きつけたのだ。
 彼女は、か細い悲鳴と共に倒れると、その拍子に何かを落とす。どうやらそれは、かんざしの類。
「ほう? 最近の女は落し物が多いな」
「そ、それは!」
 必死の形相で言いながら、彼女は手を伸ばす‥‥が、それもまた容赦なく、ごろつきが叩き落す。
「生き別れの娘のものなの! お願いだから返して!」
「ああ!? 何か言ったかガキが」
 目の端に雫さえ浮かべながら少女は訴えかけるものの、気にも留めず――むしろそれを楽しむかのようにして――悪漢は願いを聞き入れない。
「先の話にありましたお守り。それに加えてそのかんざしに対しても、御代の支払いを致します。どうでしょうか?」
「あのお守りも、これも‥‥高いぜ?」
 どうやら平和的に交渉するつもりの金髪の女性に対し、悪漢の口調はタチの悪い雰囲気がプンプン匂う。
「お守りの御代を払いに来ました…とはいえ、金子ではなく、体で、となりますが」
 それを聞くと、ごろつき達の顔の変化は、目に見えて明らかだった。‥‥やはり、どこまでも下品で、汚らしい。
「じゃあよぉッ、早速――」
 言い終える前に、蛙の様なその顔に、蛇の様にうねる鞭が、空気を切って迫っていた。
「何を勘違いしているかは知りませんが、体で払う、というのは‥‥こういうことです」
 その鞭打が、合図になったのだ。
「ふざけんなよクソアマどもがぁー!」
 他のごろつき達も一気に立ち上がる。
「ここ、では‥‥お店、に、迷惑‥‥です‥‥。表、に、出ましょう‥‥」
「うるせぇ! ここで泣かせてやるぜ!」
 気弱そうな口調の女性に、悪漢は聞く耳持たずに太い腕を向ける。
「おうおうおうおう、こんな弱気っぽい女の子にも手加減無しかい?」
「い、痛ェー!」
 現れたのは、どこか雰囲気に悪漢と共通点がありそうな、ちんぴら風の女だった。矢を直接握り、その鏃を悪漢の腕に埋めている。
「ホラこっち来いよ。ケツの穴増やしてやんぜ」
「許さねえ! このクソがぁ!」
 引き抜いた矢を相手の目の前でちらつかせ、その女は悪漢を誘う。今度は抜刀さえしたが、斬撃は彼女にかすりもしない。そしてそれを追うも彼女の足に追いつけず、結果、誘導されるようにして悪漢達は外へと出て行った。

 その雄叫びは雄雄しいものの、やっている事は非常にそれと逆であった。
 叫びながら、二人の悪漢が向かった相手はひずみ。弱そうに見える相手‥‥女性‥‥しかもそれに対して抜刀して二人がかり。
(「先程の勘違いに加え、これはなんと‥‥つくづく情けないものです」)
 マイアは鞭を構えながら思い、そして対面している男に対して言い放つ。
「全く、息を吐き続けるのも、疲れるものです」
「ああ? 何言っているんだテメぇ!」
「溜息しか出ないんですよ、あなた達といると」
 鞭はしなり相手に迫ると、それを避ける術を持たぬ悪漢を絡めとった。それによって動きを止めた悪漢に、運悪く当たって転倒した仲間の男。
「ホラホラ! 止まっている暇なんてないぜ!」
 クリスティーナの声が聞こえた時、顔を見上げた男が見たのは、矢、矢、矢! これは避ける事が出来ない! 称号に恥じない彼女の連射に、男は目を剥いた。
「さっきの威勢は、どうしたよ? 立って、逃げ回ってみな!」
「お、俺ばっかり狙いやがって! 他が、心配じゃねぇのかよ!?」
 クリスティーナの射撃に嘆きながらのごろつきの言葉に、またもやマイアは呆れて息を吐き出す。
「誰に対する心配をするべきと言うのですか?」
「あ、あの弱そうな女! しかも二対一で戦っているぞ、あいつは!」
「よく見てください」
 マイアの言う通り、ひずみの戦いをよく見てみる。
 するとどうだろう。一見、二対一で苦戦しているように見えるひずみ‥‥だが、彼女は傷一つ負っていない。
「あなた達程度なら、彼女はその攻撃全て避ける事が出来ます。あなた達に負ける要素が彼女にあるなどとは、私には到底思えません」
 ひずみが軽やかに身を翻ると、男は大振りの一撃を外し、不安定に体勢を崩す。その隙は、彼女がしっかり拾う。よろけた身体に、一閃。銀光は直線に走ると、その後に赤い線を引く。
「ぎゃあああ!」
「くく、く‥‥痛、い、ですか‥‥? 痛い、って、言って、ご覧な、さい‥‥」
 彼岸ひずみ。一見たしかに彼女は弱々しい女性に見える。しかし、本性は、これだ。彼女は、加虐を与える側の人間なのだ。
「さあって、状況みたら、賢明な判断は‥‥わかるわね?」
 縄ひょうを振り回しながら、ベルトーチカは言う。既に見下した、勝者の表情。一方目の前の相手はと言うと、血を流しすぎて困憊した表情だ。
「畜生‥‥こんな‥‥」
 ふらついた足で、悪漢は呟く。
「こんな‥‥小便臭ぇガキに‥‥」
「‥‥そーいえば、あんた。さっきからあたしの事ガキガキ言いやがって‥‥」
 ベルトーチカは急に矢から手を離して距離を詰めてきた。射手である彼女の予想外の行動に、戸惑って後ずさる悪漢。
 そしてベルトーチカは、力いっぱい握られた拳で相手の顔面に、強烈ストレート!
「あたしはこれでも、30過ぎだ!」
 既に目の前に星が舞っていたごろつきの耳には、彼女の年齢は入っていなかった。


「これ以上やったら本当に意識を失うでしょう。ひずみさん、この辺りで」
「物足‥‥り、ません、が‥‥仕方、ない‥‥です、ね」
 マイアの制止により、ひずみはその手を下げた。わざと意識を繋ぎとめられるように加減されながら攻撃を受けていた悪漢達には、随分と長い時間に感じられたことであろう。
「さて‥‥死にたくなけりゃさっさとお守り出しな。お前らのことだから他にも盗ったもんあるんだろう? そっちも全部出しな」
 ロープによって拘束されているこの状況で、更にベルトーチカにダガーを突きつけられていては、男は首を縦にしかふれなかった。
 全部‥‥とはいえ、放蕩の限りを尽くしていた彼らは、他での『収入』などとっく売られ、銭は遊びに使い尽くされていた。なので、ここでもし冒険者達が来なかったら、早苗のお守りも売られていただろう。
「こ、これだ‥‥これが、あの女のだ」
 男は差し出す。それは煤けた茶色の布に包まれた、何かのお守りの様なものを。
「おおっと! これは『透明な石』なんて全然ついていないし、『首からさげる』ことなんて到底無理っぽいように見えるが?」
 にやにやとしながら、全てを知っているクリスティーナがわざとらしく言う。
 それを聞いて、一気に青ざめるごろつき。
「ふうん。死にたいのかい。馬鹿な奴だね」
「わ、わかった! 今から出す、本物を!」
 ベルトーチカに凄まれ、大慌ての様子で懐を探って出そうとするごろつき。マイアが、また息を吐かざるを得なくなっていた。


「また何か困ったことがあったら、いつでも声かけて頂戴ね。この姐さんが力になってあげるから。ね?」
「どうも、本当に‥‥本当にありがとうございました!」
 ベルトーチカから、取り返してもらったお守りを受け取ると、早苗は大きな声で礼を言った。
 嘘偽り無く、本当に嬉しそうな早苗の笑顔。依頼主のこういう表情が見れるのも、冒険者の報酬であり、また特権でもあるのだ。

「御礼、は、他‥‥の、皆さん、へ、申し上げ‥‥て、下さい‥‥」
 早苗の店の主人の坂田。彼が今回の依頼の出資者であろうと思ったひずみは今、彼を目の前にしている。
 ただいたぶる相手が欲しかった彼女としては、金子などどうでもいいこと‥‥なのかもしれない。
 それを聞いて、坂田もまたそれを見透かしたか、意味ありげな微笑を浮かべた。
「なるほど‥‥。まぁしかし、理由はどうであれ、『依頼を成功させた冒険者』であるキミに対して、私は、報酬を払う事は義務だと思っている。どうか我慢して、受け取ってくれたまえ」
 そうして、彼は報酬を彼女の手になかば無理矢理に握らせた。