躯の襲撃者達
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 46 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月19日〜06月22日
リプレイ公開日:2005年06月22日
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●オープニング
もう陽も落ちる頃、犬を連れた少女が、山道を歩いていた。暗くなっては何かと不安になってくる。彼女は歩幅を広めて、自分の新居を目指した。
最近彼女は京の街で長屋を借りた。新地での一人暮らしではあるが、犬のお陰で寂しさに浸ることはなかった。とかく『家』というのは安らぐものだ。
その道中、何気なく道の脇に視線を向けるとそこにあったのは無数の白い棒、いや、丸いものある。‥‥人骨だった、何人もの。
薄暗い夕刻に見る人の骨に、彼女は一瞬気味悪さを感じたが、ここで骨となった人達は、みな家に生きて帰れず、今では寂しく野晒しにされている‥‥。そう考えると、急に不憫に思えてきた。
せめてもの慰めに、と彼女は腰を下ろし、瞳を閉じると、掌を合わせた。
「(どうか安らかに眠ってくれ‥‥)」
その横で、彼女の連れの犬が骨に噛み付いている。
「何やっている藤丸! 餌なら先程しっかり食べさせただろうっ!」
犬のその行動は、飢えによるものではない。少女が目をつぶって祈っている間に、『ある小さな動き』に気付いたからだ。
人骨が、突如立ち上がる。
刀を振り下ろした、しかも二体いる!
彼女は帯刀している、しかも二本ある。
即座に抜刀した小太刀を左右の手に握り、二体の攻撃を一度に止めた。
「むぅ、怪骨だったとは。戦えなくもないが一体複数の不利は先刻学んだばかりだ。日もじきに落ちる‥‥今回は逃げるぞ、藤丸」
少女と犬はその場から撤退した。
ここは冒険者ギルド。今日も依頼が舞い込んできた。
「ふむふむ、怪骨が二体出現、それの退治、か‥‥。この手の依頼が最近多いな」
係員が、顎を撫でながら言う。
「ちなみに、この依頼を出したのは狩りに出ていた山師からだ。弓矢を持っていたが太刀打ちできなかったようだ。まぁ、怪骨は、骨だけでスカスカだからなぁ、矢は当てにくいよなぁ。この依頼を受ける奴は、せいぜい仲間にされないよーに気をつけろよ」
●リプレイ本文
ある冒険者は心の中で舌打ちした。持参した保存食が足りなかったのだ。
密かに道中で食料を買えたので事なきを得たが、エチゴヤで買うよりも割高になってしまった‥‥。
「ぁ痛たたぁ」
起き上がろうとした初老の男は、響く傷に思わず顔をしかめた。傷は、先日怪骨に斬られたものだ。
「おじさん、あまり無理しないで」
見かねて、緒環瑞巴(eb2033)は寝たままの姿勢でも構わないと伝えた。
瑞巴、白瀬由樹(ea6435)、朱鳳陽平(eb1624)は、襲撃時の情報を得るために、当事者の山師の家を伺っていた。
「歩いていたら、茂みから突然斬りかかってきてのう。いやーあれには驚いた。矢が効かないわけではないのだが、いかんせん隙間が多くて、わしの腕では‥‥」
山師の男は、白髪混じりに頭をかきながら言った。
「襲われた場所を、まだ覚えていますか? 参考にして探そうと思うのですが」
由樹が聞く。
「覚えてはいるが、怪骨が出る場所はあの山道の通りとしか言えないのぉ。怪骨がどこをどう彷徨っているかなんて、予想できんからなぁ」
「じゃあ、場所じゃなくて状況の方はどうだった?」
陽平が質問を続けると、山師は思い出しながら話す。
「たしか、周囲が鬱蒼としていたような気がするのう。時刻の方は、夕暮れ少し手前だったか‥‥」
つまり、得られた情報は不確かなものばかり。
「わかった。ありがとな、おじさん!」
しかしながら、陽平は笑顔で返した。
「くれぐれも、無理をしないようにの。怪骨といえば、知っているかもしれんが、強敵だ。その辺のごろつきや、下手な用心棒よりも確かな腕を持っておる」
頷き、一同はその場を後にした。
冒険者達は縦に二列を組み山道を進んでいる。街道のような広さはないここでは、横二人は適正な隊列だった。
前には優れた視覚や土地感など索敵に役立つ能力を有する者、中央には魔法の心得がある者、そして後にも土地感のある者を配置し、後方も警戒。
「いつどこから襲ってくるともわからないから警戒だけは怠らずにした方がいいだろう」
北宮明月(eb1842)は、歩きながら言った。彼女は前後のどちらにも魔法で対処できるよう中央にいる。
「あ、前方に骨を発見ー」
「もし違ったら悪ぃっ、南無三!」
陽平は前に出てきて瑞巴の指差す先に視線を移すと、刀を構え一閃、空を薙ぐ。刀身から放たれた衝撃は風を切って骨の塊に向かう。
命中だが、『はずれ』だ。その骨は怪骨ではなかった。
それでも警戒を薄めない鷺宮吹雪(eb1530)の提案で、動きを見せなかった骨に二、三度攻撃が入る。それでも、動きは無い。
「‥‥違いましたか。後で必ず還してあげますえ」
怪骨ではなかったそれに祈りを捧げ、依頼後に埋葬することを誓い、一行は再び歩み出す。
冒険者達が山に入ってから時間が経っているが、進む速度は速くない。山は、そうしながら歩くには、幾分骨が多いからだ。
収まるべき家の墓がない者、山賊、遭難者、浮浪者‥‥、妖怪の跋扈も手伝って、この山、いやこの時代は、放置される死骸が多過ぎた。
「(しかし‥‥野晒しのままの亡骸がこうも多いとは‥‥世情とはいえ、切ないな)」
津上雪路(eb1605)は、由樹と共に後方への警戒に努めながら、哀れんだ。今は哀れむことしか、出来ない。
進行速度は、以前控えめなままだ。
陽平には疲労の色さえ見える。骨を見つける度にソニックブームを放ちながら進むというのは、思った以上に体力を使う。
吹雪は道返の石を用いていたが、再三使うと戦闘時の余力がなくなるので、使用を抑えた。
まだ夕刻ではないが、空は段々と雲を増やし、辺りを薄暗くさせ始める。
「やだなー何か出そうだよー」
明るさを失っていく風景に、瑞巴が呻く。
そうして歩く先に、またしても骨。
「ぅし、‥‥さぁて、いくぜ」
構える陽平を「待ちな」の一言で止めるのは、椿蔵人(eb1313)。
「俺やルゥナに任せてお前は少し休んでおけ」
「そうだ、ここルゥナたちにまかせる。そのあいだ、おまえやすむ」
傍らのルゥナ・アギト(eb2613)も同意見を唱える。
「‥‥すまねぇ」
少し間があったが、陽平は素直にその言葉に従った。
「(どれくらい歩き続けただろう)」
程度に差はあるが、誰もがそう思い始めた。警戒しながら歩くのは、なかなか堪える。
だがそれも、もう終わる。
叢から飛び出す二体の骸骨、それが持つ刃の標的は生者。
切っ先はルゥナを捕らえ容赦なく肉を裂く。
「うウ‥‥ゴァーーーーッ!」
それでもルゥナは痛みを堪え、地を蹴り飛ばして一気に間合いを詰める。吼えたけり、飛び込む様は、まるで獣のそれだ。
怪骨を襲う、凶暴な双拳と頭突き。だがそれは怪我のせいか端正さに欠いたもので、避けられ、盾で弾かれ、無効化された。唯一当たった一発も、鎧によって威力を殺され、有効打にはなりえなかった
ルゥナの初撃は芳しくない結果だが、そのお陰で他のメンバーは戦闘態勢を整える事ができた。
「やっと出てきましたか‥‥」
吹雪は鳴弦の弓の弦に触れ、それをかき鳴らす。
その音は怪骨の動きを鈍らせた。
陽平、雪路はオーラパワーを、瑞巴、明月は各々の魔法を詠唱。
その間に、後方警戒をしていた由樹が前に出る。間合いに入り、踏み込んだ足の裏が地面を叩いた瞬間、放たれる剣閃。それの速度は怪骨の反応速度を超える。狙った関節部には当てられなかったが、防御姿勢もとれずに直撃を受けた怪骨は大きく体を揺らす。
「俺達がさくっと倒してやるから、成仏しろよ」
斬撃によろける怪骨に、蔵人の刀が向けられる。
怪骨は不安定な姿勢のまま横薙ぎに刀を振ったが、蔵人は屈んでそれを避ける。屈んだ姿勢から一気に振り上げられた蔵人の刃は、怪骨の肩をもっていった。
蔵人は腕を失った怪骨に追い討ちをかけようとしたが、もう一体の怪骨の側面攻撃がそれを阻む。蔵人は踏み止まり、後方に跳んで避ける。
とどめを狙うのは、刀だけではない。
淡い銀色に包まれた瑞巴から、月色の矢が射られる。ムーンアローだ。その矢は怪骨の持つ盾の存在を無視して、本体を突く。
されども怪骨は鎧に助けられ、大した損傷は被っていない。初級のムーンアローの威力はナイフに劣る殺傷力しかないからだ。
しかし銀色に包まれし者―つまりは月の精霊魔法を発動した術者―はもう一人いる。明月だ。
シャドウバインディングによって、片腕を失った怪骨は自由も失う。
逃げ場のない怪骨に、蔵人が迫る。
対称を粉砕するべく振り下ろされる刃。止めたのは、またもやもう一体の怪骨。古びた手盾で、まるで仲間を守るように構えている。
その怪骨の横を駆け抜ける影が二つ。
ルゥナは雄叫びをあげながら片腕の無い方の怪骨に肉薄し、拳で打つ。更に由樹の居合い抜きを食らうと、その怪骨は、妖怪からただの崩れた白骨体となった。
残る一体に、雪路と陽平が斬り込んだ。それぞれの刀はオーラによって威力が高められている。
陽平の横薙ぎの刃は怪骨に避けられ、タイミングをずらして繰り出された雪路の攻撃も盾で受けられ、阻まれた。
怪骨の実力は、回避なら彼らの剣術と同程度、盾による受けなら一段階上だということだろう。
そこに響く、鳴弦の弓。弦は再び弾かれ、怪骨の動きを悪くする。
怪骨はいよいよ二人の攻撃を捌ききれなくなる。オーラをまとったそれは、本来カスリ傷程度の傷をそれ以上にする。
その怪骨も砕かれていき、動かなくなった。
「これは‥‥家紋?」
明月は二つの、怪骨だった物を見て呟く。
見てみれば、それらが身に着けていた鎧には、同じ紋様が付いている。
「生前、二人はもしや同じ旗の下の同志だったのだろうか‥‥」
俯く明月の顔を、ルゥナは覗き込むようにして言った。
「こいつら、ともだちしていたのか? しんでも、ともだちだったか?」
「妖怪に堕ちても変わらない絆も、あるのかもしれませんね‥‥」
吹雪は憂いを瞳に宿し、けれども優しく、その亡骸を見つめていた。
ここは付近の村。冒険者達は残った時間で、怪骨となった骨をはじめとする山に放置されていた人骨を埋葬していた。
一行の話を聞いた村長は、村にある埋葬場へと案内してくれた。
実はお化けや怪談話が苦手な瑞巴だが、嫌がること無く墓を作っている。
「この人達だって好きで骨なわけじゃないもんね」
「まあ、生きてた頃は、まさか自分がこんな姿で人を襲うとは思っちゃいなかったんだろうさ」
蔵人は、怪骨だった骨をみて言う。
合掌し成仏を祈る陽平。その背後から声が聞こえた。
「何をしているのだろうか?」
「近くの山にいた二体の怪骨を倒して、その骨と野晒しにされていた人骨を埋葬しているのさ」
「そうか。もう退治されたか、それなら良かった」
「‥‥て、お前誰だ?」
振り返って声の主を見ると、それは少女。腰には二本の小太刀、隣には犬がいる。
「姓は片岡、名を睦。‥‥その、怪骨の被害者の一人、と言ったところだな」
彼女は少し赤面し、苦笑しながら言う。
聞く話によると、彼女も怪骨退治に来た冒険者らしい。準備を整えていざ来てみたものの、ギルドを経由しなかったので他の冒険者が来ていることを知らなかった、とのことだ。
怪我に備えて彼女は傷薬を幾つか用意していて「どうせ使う予定だった物なので」と言い、負傷しているルゥナに差し出した。
来たついで、ということで少女も埋葬を手伝い、その日多くの亡骸が弔らわれた。
そして各々は、望まぬ死を遂げたであろう者達に祈りを捧げる。せめて死後は安らかにあれ、と。