【奇富人】メイディアはじまったな

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2006年12月09日

●オープニング

(「ああ退屈。本当に退屈。いくらなんでも退屈過ぎ‥‥」)
 筆を滑らせながらそんな事を思うのは、貴族の身分である一人の女性。
「ああ全く、何か変な騒ぎでも起きないかしら」
 何かトンデモナイ事を言っている彼女だが、それでも彼女は、それなり領地運営に定評のある身であった。何だかんだ言いながらも、結局仕事はしっかりこなすタイプなのだろう。
「何トンデモ無い事を言っているんですか、お嬢様」
 紅茶を運んできた若い執事の言葉に、彼女は目線だけ向ける。尖らせたそれで。
「全く‥‥お嬢様は仕事もできて、見た目もそれなりで、幸いお家的なシガラミも無く、それでいて任された領地も持っていて‥‥。これであとは、その癖のある性格さえなければ、とっくにお嫁に行っているか、お婿でも貰っているんでしょーね」
 嫌味ったらしく言いながら細身の執事は、湯気の立つ紅茶を彼女の机に置いた。彼女は無言で、その白磁のカップに唇をつける。
「ま、その方が俺としてもありがたいんですけどね。そのお陰で、まだこの家にいれるわけだし」
 彼女の手が、止まった。
「こんな楽な仕事、なかなか見つからないし」
 眉に力を入れ、彼女はいきなり席を立つ。驚く執事を横目に勢いよく窓を空けた。
「ぃい!?」
 執事の、変な声。彼女はカップごと、紅茶を外に放り投げたのだ。高級嗜好品である紅茶が宙を舞う。
 何やら、庭師の悲鳴が聞こえた。
「お茶、ヌルいわ。淹れなおして」
(「こ‥‥こいつは、淹れたて、を‥‥ッッ!」)
 執事の青年はコメカミをピキピキさせながらも、あくまでも自分の雇い主の命令には忠実に、紅茶を淹れなおすべくその場を下がった。何やら呟きながら。
「あーあ、これだから‥‥。こんな調子で、自分から何か変な事を起こしそうで怖いぜ」
「‥‥‥‥!!」
 それは、彼女の耳に届いた。届いて、しまった。
 凄い勢いで執事に詰め寄る彼女。執事の青年は、「しまった!」と思うと同時に覚悟をした。
「わ、悪い。でも今更、そこまで目クジラ立てなくても――」
「外出するわ。上着の用意よ」
 あれ? 怒られると思ったが、彼女の嬉々とした表情を見るに、そういうわけでもない?
 なんだかよくわからないがとりあえず安堵して、執事として、それに頷く。
「はい、かしこまりました。んでお嬢様、どこに向かわれるんですか?」
「冒険者ギルドよ!」
「‥‥‥‥」
「‥‥何よ?」
「別に‥‥」
 執事に、違う心配と覚悟が出来た。


 月道を介して、また多くの冒険者がこのメイディアにやってきた。
 歴戦の武勇や知恵を持つ天界人や、他国で既に腕を磨いた鎧騎士。それらに対するメイディア人の視線は、様々なものが入り混じっていた。期待、憧憬、それに加え‥‥畏怖。
 住民にとって彼ら来訪者の存在は、未知でもあるのだ。
「でも、私が思うに、彼らもただのイチ人間には変わりないと思います」
 ギルド受付の係員は、彼女の言葉を聞きながら、とっても複雑な顔をしていた。
「だから、彼らに与えてあげるべきだと思うのです。その『人間味』を出す機会を」
 言っている事は、まだそれほど非常識な事ではない。あくまでも‥‥『まだ』だ。
「そこで私は、彼らにステージを用意します。あ、でも余りこういうのに余計な出費かけたくないから、結構粗末な劇場になると思うけど」
 係員の理解などお構いなしに、彼女は勝手に話が進められていく。段々、おかしな方向へ。
 でも大丈夫! だって係員は、実はハナから半分諦めていたから。なんせ、カウンターに立ったのが、『奇富人』『トンデモお嬢様』とコッソリ噂に名高い、クーラ・スプリングデイズ、その人だったから。
 依頼申請の手続きを一通り終えると、黒髪を翻し振り返った彼女は、ギルド内にいた冒険者達に言い放った。
「ただの人間に興味はありません。この中にイロモノ、脱衣、女装、変質者がいたらあたしのところに来なさい。以上」
 本音出た! 言いやがった! さっきは『イチ人間』云々言ってたけど、やっぱり変な騒ぎを起こしたいだけの様だ!
「公然の場でそういう台詞は吐くもんじゃないだろ、常識的に考えて」
 心配なんで後からついて来た執事の青年は、ため息を吐きながらそう呟いたのだった。

●今回の参加者

 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb8489 エリス・リデル(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9017 結城 マリ(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●出撃準備
 さて、切欠は不明であるが、冒険者数名。数名ではあるが、確かに冒険者が集った。集って、しまった。
 全ては退屈を持て余す貴族の道楽のため‥‥それはNON! 断じてNON!
 これはそんな献身精神だけで乗り切れるものではない。
「クライアントに調達をお願いしようかとも思ったんですが、このネタを使うと多分どちらも使い捨てになってしまいますので。まぁ、ネタのためなら必要経費は惜しまないのが芸人の心意気というものです」
 準備に勤しみながら、言葉を重ねる者もいる。何やら大きな籠に入りながら言う、アトラス・サンセット(eb4590)。彼を包む籠は、彼のスモールストーンゴーレムの背中に装着させられる予定だ。天界人の感覚でいうと、それはリュックを背負わせる様な絵に見えるだろうか。‥‥まぁコレも色々問題はあるのが、後述によって示すとしよう。
「そもそも‥‥」
 尚も喋り続ける彼。何となく、弁明っぽくも聞こえてきた。
「芸人とは笑われるのではなく良質な笑いを提供する存在であって――」
「パイルダー・おーーーん!」
 言い放ちながらついでにドロップキックも放ち、結城マリ(eb9017)がアトラスを無理矢理、籠に押し込んだ。変な音が聞こえた気が‥‥いや、気のせいだ。
 そう、アトラスの身長は166cm、スモールストーンゴーレムは体長:1.5m。賢明な読者諸君にはもうお分かりだろう。つまり、アトラスが籠に入るには相当無理なポーズを強いられるのだ。
「大丈夫ですアトラスさん。天界には、そーいう芸風の超能力者(←エスパーと読む)もいます」
 籠に向けエリス・リデル(eb8489)が語りかけるが、返事がない。‥‥ただのしかばねになっていない事を祈る。
(「天界人はその辺の悪漢の17倍は怖そうだな」)
 只ならぬノリの天界人の乙女二人を見て、アッシュ・ロシュタイン(eb5690)は努めて冷静に分析した。
「これから私達が相手をする依頼主は、きっとこの手のクオリティの高さを求める貴腐‥‥こほん、貴婦人の方々ですわ」
 書籍片手に言う、セラフィマ・レオーノフ(eb2554)にアッシュはすかさず言及。
「今、何か発音がおかしくなかったか? 何と言うか、『貴婦人』の辺りが最初――」
「さぁ、そろそろ開幕ですわ」
 全くもって白々しい彼女。でもきっと、これからはじまる依頼は、そんなノリのオンパレードだと思われる。


「まだ? 冒険者達はまだなの!?」
「お、落ち着け! まだ慌てる様な時間じゃない!」
 待ち時間に騒ぎ出したのは、客席に座る依頼人のクーラ。主に周囲の迷惑の事を考えて執事の青年が止めに入っているが、周囲に座る他の観客達はクーラの様子に対して特別視していない。それぐらいで動じる様な『一般人』は、こんな所にはいないし、第一来ない。
(「主賓は奇富人、俺はその付き人。周りの客は奇人揃い。こんな依頼に、誰がした‥‥」)
 執事の心の呟きは、その胸の中のみで空しく響く。
 舞台の方から動きがあった‥‥間も無く開幕だ。
 手を組みながら座り、舞台を眺めていた観客一同は、思わず身を乗り出してそれを指差した。
 アレは何だ?
 モンスターか?
 ゴーレムか!?
 いや、あれは‥‥ネタ師だ!

●ゴーレムさんがあらわれた
 舞台上に現れたのはアトランティスのゴーレムとは、似て非なるもの‥‥魔法により擬似生命を授かった物体。それを駆るは、アトラス・サンセット!
 ‥‥現在背中で折り畳まれ中の彼。
「あれは、天界のプレートアーマーよ」
「そんなわけないだろ。どう見ても石造りじゃないか。まずあの怪しい格好を疑えよ」
 明らかに適当に言っているクーラへ、即座に執事の青年からツッコミが入る。しかしこの場所において、常識という概念は余りにも非力だった。
 というわけでツッコミは一同スルーで舞台進行。分かっていた事とはいえ‥‥とてもやるせない気持ちの執事。
 そのスモールストーンゴーレムはノーマルではない。背中に背負っている籠からしてまず普通ではないが、それのカバーとしてマントを装備し、更にカツラの様な毛まで用意している。これの用意に金貨数枚を惜しげ間なく出したアトラスは、間違いなくネタ師だ。
 ‥‥断じて褒め言葉である。
 異形の面容にチューンアップされたスモールストーンゴーレム『ゴーレムさん』は、舞台の中央で歩行を止める。まずは恭しくお辞儀。
 そして声が聞こえてきた。ゴーレムさんの背中から。
「紳士淑女の皆様、長らくお待たせしました。これより、『輝け! 第1回メイディアはじまったな大会』を開催いたします。選手はいずれ劣らぬこの方々! では、張り切って参りましょう!」
 と、勝手にこの依頼の名付け親になった彼は、猛る様に声を振り絞り、次々と冒険者達の紹介を始める。しかし‥‥、
(「これは‥‥軽くヤバい気がしますね」)
 天界の医療知識を持つエリスが考察するに、アトラスはきっと大変な状況。
 もとより無理矢理押し込んだその体勢に加え、息苦しいであろう環境。更にゴーレムさん操作による精神的疲労。
 この調子で消耗をし続けたら、いずれは蝋燭のように地味に消えてしまうのだろう。それは芸人として死より酷である!
(「ならばせめて、‥‥華麗な去り際を用意します!」)

●天界格闘家参上
 頭上から、何か来る!
 ロープの役割を果たしていた緞帳から手を離し、ステージに現れたのは一人のオトメ。衣装もマスカレードも派手だが、それ以上に、奇抜な登場と紅のショートヘアーだけでも十分に派手。
「アトランティスの大地に降り立った美少女天界人・結城マリとは仮の姿‥‥」
 客席に背面を向けながら呟くマリ。いえ、マリは彼女の本名です。
「その実態は、リングに咲く華麗なる花! 覆面レスラー‥‥ビューティ・マリー、参上です!」
 服装も露出が大目の代物。振り返りざま、胸部に咲き乱れるそれが揺れる‥‥この段階で、常人ならその視線を集められるのだろうが、相手は常人ではないので効果は薄い。
 されとて彼女も、そんな姑息な手で注目を浴びるつもりは毛頭無い。レスラーなら、その技で魅せる。
 気がついたときには既に、彼女は地を蹴っていた。そして、跳躍!
――はじまりがドロップキックなら、終わりも然り。
 ビューティ・マリーの靴裏がゴーレムさんの籠目掛けて飛んでいた。そのドロップキックにあえて防御体制をとらず、そして受身もとらないで吹っ飛ばされたアトラス。見事なやられっぷり。彼はもう立派なネタ師だ。
 ‥‥断じて、褒め言葉である。
 もうアトラスにこれ以上のファイトは無理と判断されたのだろう。どこからともなく、彼にタオルが投げ込まれた。
 カン・カン・カン! 誰かが金属性の何かを叩いている。‥‥どうやら観客の中には天界人が混ざっていやがる様である。
 そうして、締めのポージングをとってビューティ・マリーは満足そうに去っていった。
「あれが、天界のファイターよ!」
「‥‥」
 執事は、そろそろマトモな出し物が来てもいい頃かな、と思っている。でもそれは多分無理。

●饒舌の羊
 天界の女子ファイターは悪漢の17倍怖い‥‥そんな話題で客席がどよめいていた頃、彼はステージの中央に、その姿を晒した。
(「要はやたら集まっている暇人共の前で何かやればいいのだろう? しかも主催者は何やら変な者を期待しているらしいな」)
 執事の願望と思いっきり裏側にある思考は、アッシュ。
 それは防寒着と言うにはあまりにも大きすぎた。
 大きく 分厚く そして 大雑把すぎた。
それは 正に 羊だった。
 アッシュ・ロシュタイン24歳、まるごとメリーさんを装備しての登場。
 長身の好青年にメリーさんというミスマッチな組み合わせによって、早くも彼は婦女子層からの人気獲得。やっぱり、ここには変わった嗜好の方々が多い様である。
「さて、俺は芸らしい芸もないのでどうしようか困っているのだが、場を白けさせるのも何なので‥‥」
 己の毛皮の中に手を突っ込んで、何かを探る彼。そして取り出したのは‥‥本?
「これは親友との思い出を綴った詩集だ聞いてくれ」
 そこはかとなく、それが棒読みなのは気のせいか。

1、出会い
 見たなと俺は言った
 隣の男はこう答えた
「見たよ」
 何をだ? とりあえずこの男とは親友になれそうだ

「どうやら彼は、所謂ポエマーのようね」
(「ここの観客連中に、体験談だけで果たして通用するだろうか‥‥。いや、通用しない方が正常なんだが」)

2、この道
 この道はどこに続いているのだろう
 そう言った俺に隣の親友はこう答えた
「いや、道なんてないし」
 2人道に迷いし山の中 ただ風の吹く夏の‥‥

 アッシュの武勇伝は、第四章まで用意されていた。しかし、
「うわ、なにをする止め――」
 純粋に報酬なのか、それとも、本の平読みに退屈を喫したか‥‥主に貴族男性層からアッシュに向けて勢い良く投げ銭が投じられた。しかも、銅貨がメインという微妙なケチくささ。せめて銀貨を投げてほしい。
 しかし、こんな矢面に立たされては流石のアッシュも続けられない。彼はあえなく舞台を後にする。
 クーラは椅子に深く座り直すと、次を促した。
「さあ、次の退屈しのぎは?」
「少しは、強制退場となった相手を気遣ってやってもいいんじゃないか?」
 執事の正論は勿論スルー。


●独踏
 長く延びる裾を翻して、舞台に、文字通り踊り出て来たのは金髪青眼の少女セラフィマ。
 一礼の後に彼女は構え、ゆったりとした足取りから動き出した。どうやら彼女が披露するのは、社交ダンスの様である。
 舞踏が始まってすぐに、観客達はその違和感に気がついた。
 彼女の手のある位置、それは一人で踊っている彼女にしてはおかしな所にある。その手のとり方、腰の位置、ステップ‥‥。
 そう、セラフィマの舞踏は、相手が一人いる事が想定下にあるのだ。まるで、ボクシングにおけるシャドーボクシングの様に。
 そして、これはリアルシャドー。
 何やら、彼女のダンスステップに端麗さが欠いてきた。どうやら『相手』に足を踏まれたりと、どんどん連携が思わしくいっていない様相へ‥‥。
 結局、それに気分を害したセラフィマの平手によって、仮想のダンス相手が倒れるのが、確かに見えたッッ! ‥‥気がした。
「なんだかんだ言って、ダンスの技術はそれなりにありそうだったわね」
「普通に踊れば、それを生業にしていけそうなレベルだ」
 言うまでも無いが、ここでは普通じゃない方が評価は高い。


●児童保護施設設立に向けて(?)
 高々と靴音を響かせてセラフィマが舞台を去った後、出てきたのはこの舞台の最後のトリを飾る、エリスだ。
「つい先月地球からやってきたエリス・リデル、19歳です。趣味は読書と昼寝好きな動物は猫。あの手触りの良さと、気まぐれだけれど人懐っこい所が可愛いです」
 何やら、普通である。会場に広がりつつあった雰囲気に彼女以外の冒険者達が、危ぶみ恐れてさえいた。
 観客の数人は既に、何かを投げる準備をしていた。このままではアッシュ同様、心無いギャラリーの圧力によってエリスも退場を強いられてしまう。
「好みの男性は年下の男の子ですね。ほっそりした体つきも良いけれど、年の割りにがっちりした体格というのも捨てがたい」
 と、そんな時、突如自分の異性趣向を語り出す彼女。そんな話題に惹かれたか、投擲の手は一旦抑えられた。
「気弱で純真そうな子も好みですが、強気で勝気な子を苛めた時にチラッと見せる気弱な瞬間も‥‥」
 どうやら、彼女は『分かる人間』の様ですな、‥‥そんな言葉が観客の中から聞こえる。貴婦人方からならまぁ、許容範囲なのだが‥‥壮年紳士層からも聞こえるから困る。
「この前勉強したわ。こういうのを天界後では『ショタ』と言うらしいわ」
(「もっとマシな勉強があるだろ‥‥」)
 更にエリスは進めていく。
「服装は半ズボンが主流と言われていますが、私はむしろ制服系が好みですね。学生服が特にイイ。勿論最近流行の女装も容認です。これは‥‥」
「ある日、こう言った勇者がいたわ。『むしろ、男だからイイ!』と」
「そいつはどう見ても変態だ。本当にありがたくない」
 エリスは段々と。その声に帯びる熱を高めながら。
「という訳で、ショタっ子は国宝ともいうべき至宝の存在なのです。今後無垢で非力な彼らが変態的略奪者に乱獲される前に、しかるべき組織を結成し保護しなければならないと切に願うのです。よって私はここに『ショタっ子を慈しみ愛でる会』を設立し、ショタっ子を保護する事を提案します」
「検討しておくわ」
「検討するな!」


●真の目的
 二代目ヒノミ・メノッサの称号を冠する者のわりには、ステージ上ではやや控えめだったセラフィマ。しかし、彼女の真の目的はステージの外にあった。
 禁断の愛の書を片手に、依頼主クーラにあっち方面色々を布教する‥‥その時のセラフィマはステージの上よりも熱心に見えた。どうやら、彼女には禁断の愛の書が読めてしまうらしい。
 腐女子とは何か、そしてその妄想の具体的内容‥‥、流れるようにして発せられるその言葉のどれにも、常軌を逸した熱意に満ち満ちている。
「同性で‥‥という普段ありえないシチュエーションは、ある種の神秘性すら生むのです。妄想の翼を広げることを覚えれば、退屈なさることはなくなると保障いたしますわ!」
「なるほど、つまり、同性の愛という禁忌を犯す背徳感が、感情の高ぶりに拍車を掛けるのね」
「貴方が聡明で理解の早い方で助かりました」
 クーラのリアクションに対して、満足そうに微笑むセラフィマ。
 伸びた腕は、そんな無警戒だった彼女の首筋に回された。
「‥‥!? クーラさん?」
 引き寄せられ、もうお互いの額と鼻先が触れ合う程。セラフィマとクーラの顔が、近い。
 いつ、ゼロになってもおかしくない距離で、しかし表情と声色は平常のままで、クーラ。
「つまり、あなたの言っている事は‥‥こういう事かしら」
 セラフィマと、クーラの唇が重な――、
「何をやっているんだっ!」
 ――る前に、割り込んできた執事の青年が二人を引き離した。
「ただの暇潰しよ。でも、彼女も無感情になるだけだし、だったわね今一つ」
「‥‥お嬢様、お先にお帰りになれていて下さい」
 クーラに席を外させた後、執事の青年は謝罪に出る。
「ま、あの通り、お嬢様は見ての通りの変人ですので、今回の件はあまり気にしないように――」
「残念、極まりないわ‥‥」
 執事の言葉は、何やら悔しそうに言うセラフィマの呟きに遮られた。
「奇富人を貴腐人へクラスチェンジさせようとしていたのに‥‥残念ですわ!」
(「類は友を呼ぶ‥‥か」)
 執事はそう思いながら、また、こうも願った。
 この様なステージが、もう二度と用意されない事を。
 勿論、彼に実権は無い。