【双剣の剣士】猿が木から襲う

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月01日〜01月06日

リプレイ公開日:2007年01月10日

●オープニング

 年末年始だというのに、ギルドには相も変わらず依頼書が張り出される。
 たった今張り出された依頼は‥‥『森に現れるサスカッチ退治』。
 サスカッチと言えば、樹上から不用意な通行人を襲う、手癖の悪い大柄の猿の事だ。その毛皮は大抵長く伸び、白い。そのため場所によっては白猿などとも言われている。
 カオスの脅威に立ち向かったり、凶悪な仇敵と戦ったりするそれと比べれば、なんとも地味な内容であるが‥‥依頼は依頼である。


●時間は遡り‥‥
 淑女は立ち上がって木窓を開けた。冷えた風が部屋に入ると、腰まで伸ばした彼女の黒髪を揺らす。
 眼下に広がるのは、周囲の森。木々覆うは白‥‥雪化粧だ。
 それらを見下ろし、一つ、溜息。
「リーナ殿。一通りの見回りを終えたところだ。異常はない」
 部屋に入ってきたのは少女、同じく黒髪。
「ご苦労様。寒かったでしょう? 暫く暖をとりなさい」
 顔を半分だけ振り替えらせてそう言う淑女‥‥リーナ・エテカ、それがこの館の主の名だ。

 この館はリーナの別荘。煌びやかに飾り付けられている風ではないが、これでも一応社交の場になっている。
「‥‥ここに来る貴族達が、追いはぎに遭っている?」
 紅茶を啜りながら、夫人は頷いた。少女の方も紅茶を頂いているが、どうにもこの国の茶は彼女の舌には合わない様子。
「と言っても、相手は人間じゃないの。確かサスカッチ‥‥と言ったかしら‥‥。大きなお猿さんで、装飾品、食糧を奪ったりしてここへの客人を困らせているわ。‥‥彼らにとっては、ほんのイタズラ感覚だと思うのだけれど」
(「野生の猿が、追いはぎとは‥‥ふむ」)
 苦笑しながらそう言うリーナを横に、少女は何やら考えのある様な面持ち。
「とはいえ、許容し続けるのも問題ではないかと‥‥。そういえば、この世界にも冒険者ギルドはあるだろうか?」
「あるけれど、王都までは少し距離があるわよ。それに、この時期何かと忙しいでしょうし、『お猿さん退治』なんて浪漫の無い依頼に、そもそも人が集まってくれるか心配だわ‥‥」
(「浪漫とか、気にしている場合ではないような‥‥。まぁこれも、魔物の脅威に脅かされている人々、と捕らえる事もできるであろうか」)
 少女は呆れながらも、先程脱いだ防寒着に、再び袖を通す。
「とにかく、問題を放置しておくわけにもいくまい。地図があれば、貸して欲しい。王都へ行き、ギルドに依頼を出してくる」
「いくらなんでも、そんな事まで頼めないわ。あなたを雇ったのはあくまでも用心棒としてなのに‥‥」
「用心棒として雇われたものの、荒事一つ起きなかったので、このままでは給料泥棒になってしまう。それに、屋敷の警護も兼任しているので、今更仕事の一つ二つ増えても構わないよ」
「でも――」
「ああ、そういえば、先ほど飲んだアレだが‥‥この国では茶は確か高級品と聞く。せめて、その分だけでも働かせてくれ」
 苦笑しながら言う少女。それを聞くと夫人は折れ、机から地図を取り出して渡す。
「それじゃあ悪いけど‥‥、よろしくね。ムツミちゃん」
 ムツミと言われた少女は微笑んで、地図を受け取った。

「じゃあ、いってらっしゃ――あ、そうそう。お猿さん達は、なかなか頭がイイみたいで、お金持ってそうな姿の貴族を狙っているみたいなの。だから、格好には気をつけてね」
「ああ、心得た。と言っても、私はその様なものは最初から持ち合わせていない。‥‥誘き寄せる際には困るかもしれないな。それは他の冒険者と話し合うとするか」
「それと‥‥中には盛んなお猿さんもいて‥‥‥‥スキンシップをはかってくるコもいるらしいから、そっちも気をつけてね」
(「すきんしっぷ‥‥って何だろうか?」)
 リーナの微笑になぜ照れが含まれていたのか、睦にはわからない。

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0432 マヤ・オ・リン(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7863 フォンブ・リン(38歳・♂・ジプシー・パラ・メイの国)
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8489 エリス・リデル(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec0194 御堂 圭(32歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

クリオ・スパリュダース(ea5678

●リプレイ本文

●依頼主、リーナ邸
 山野田吾作(ea2019)が目を細めた先にいるのは、その少女であった。片岡睦(ez1063)、彼女は今、腰に刺した二刀の小太刀の具合を確かめている。
 これは予期せぬ再会! しかし田吾作はまごまごしている。なんとなく、さまよっている感じである。
「メイの国の鎧騎士シルビア・オルテーンシアです。よろしくお願いしますね」
「こちらで言う『天界』から来た剣士‥‥姓は片岡、名を睦と言う。こちらこそ、どうか宜しく」
 というわけで、艶やかな声色で言うシルビア・オルテーンシア(eb8174)に先を越されてしまう。
「天界、ですか。そういえばもう新年ですね。そちらの新年の挨拶とは、どの様なものになるのですか?」
「『明けましておめでとうございます』、が通例となっているがこちらは違うのだろうか?」
 そしてまた、エル・カルデア(eb8542)も言葉を。彼は睦からそう聞くと、天界流に則り、恭しく頭(こうべ)を垂らして新年の挨拶をした。睦は「こちらこそ」と足して、返礼する。
「新年だっていうのにお仕事に来てくれてありがとう。心から歓迎するわ」
 そうこうしているうちに依頼主がやって来た。リーナ・エテカは声も面(おもて)も柔らかにして言う。整った容姿ではあるが、それは近寄りがたい美しさというよりは愛嬌に近いものだった。
「そんな、いいのよ〜。なんて言ったって今回の相手は女のコにイタズラしちゃう‥‥いわは女の敵だから!」
 フォンブ・リン(eb7863)の意気込みは疑い様の無いもの。これ見よがしの女性的な仕草は、場にいる全ての男性を虜にしなかった。
「早速不躾で申し訳ないのですけれど、リーナさん。調理場を借りても宜しいでしょうか? 材料は自己負担しますので、サル達を誘き寄せる為の料理を作らせて頂ければ、と思っているのですが」
「ええ、どうぞご自由に。美味しく出来たら、私にも味見させてね?」
「美味しく出来たていら、味見の必要は無いと思うけどなぁ」
 ティス・カマーラ(eb7898)のツッコミはご尤もである。
「やだっ。ティス君ったら、見た目とは裏腹に鋭いのねー」
 何故かあやす様な口調のリーナ。どうやら彼女は勘違いしている様だが、このメンバーの中でティスはフォンブについで年長者である。
「まあ、今日はもう陽精霊様もお休みになる時間。お仕事は明日という事にしましょう。寝室はちゃんとあるから、安心してね」
「用意が何かあれば、私もお手伝い致しますが」
 自ら進んで、マヤ・オ・リン(eb0432)はそう言ったが「準備は全部出来ている」とリーナから聞くと、彼女は一礼して下がった。

「あ‥‥。あなたはもしや‥‥田吾作殿、ではないだろうか?」
 視線に気付くと、彼女の方から近付いてきた。
(「雰囲気は変わっているが、あの目は‥‥田吾作殿のはずだ」)
 あの特徴的な目は間違いない! ‥‥と確信しつつも、恐る恐るといった感じで彼女は田吾作に聞いてきた。
「う、うむ、相違ない。お久しぶりにござるな、睦殿。よもや貴女もこちらに来られて居たとは。京のギルドから不意にお姿が消えてしまわれたので、如何されたのかと‥‥」
「あ‥‥あぁ。悪しき魔物の脅威に晒されている国があると聞き及び、参った次第だ」
「ふむ‥‥。そうでござるか。ともあれ、ご壮健のようで何よりにござる!」
 どこか歯切れの悪さを感じたが、根掘り言及するのは無粋かと、田吾作は言及しなかった。
「あら、ムツミちゃん、お知り合い?」
 二人の様子に気付いたリーナが聞くと、睦が己の知己を説明する。
「まぁ、簡単に言うと恋人未満という事ですね?」
「な‥‥なななな!!??」
 横で聞いていた、シルビアが、小悪魔精神全開でわかり易い説明をすると、睦の顔は黒髪と赤面のコントラストを飾る事になった。
「と、とにかく‥‥エテカ殿、お任せあれ。斯様な時こそ我ら冒険者の出番――」
「私、数年前に夫と‥‥自分の娘を亡くしているの」
 静かな口調ではあるが、何故か迫力を感じざるを得ないリーナに、田吾作は言葉を遮られる。
 彼女は睦の後ろから腕を回して軽く抱くような恰好で、田吾作に向けて言った。
「生きていたら、この子と同じ位の歳かしら‥‥。ムツミちゃんが危ない目にあわない様に‥‥宜しくね? 」
「心得て‥‥ござる」


●出発前、準備中
 肩に触れる毛皮の感触に気がつくと、シルビアは振り返った。そこには、防寒着をシルビアの肩にかけるマヤがいた。
「ありがとう。そういえば今回の依頼、どうやら誘き寄せるポイントは3点ありそうですよ? 格好、食料、‥‥女性ですか」
「その様で」
「という訳で、あなたは華やかになってみませんか?」
「いえ、私は立場を弁えようかと‥‥。それだったらシルビアさま、あちらをご覧ください」
 マヤの指差す方向にいるのは、エリス・リデル(eb8489)と睦。何やら楽しそうに一悶着起こしている様子。
「睦さんも付いて来るなら、ドレスを着て着飾るべきですね。間違いない」
 エリスは断言する。朗らかな笑顔のままではあるが、その主張の揺ぎ無き事、山の如し。
「た、たしかこの国の正装だったか? ‥‥しかし残念だったな、私は持ち合わせていな――」
「リーナさんの協力により、ここに一着のカクテルドレスがあります」
「ムツミちゃん、きっと似合うわ!」
 依頼主までグルとは、これはひどい。
「これから猿の退治に出かけるという時に、こんな動きにくい服装など‥‥こんな物で動いたら‥‥翻ってしまうではないか!」
「その時はその時です。むしろ狙ってください」
「大丈夫ムツミちゃん! お嫁に行けなかったらずっと私の家にいていいわ。むしろずっといて!」
 エリス、リーナの二人から猛プッシュ。しかしそれでも、なかなか首を縦に振らない睦。それでは仕方が無い、と、エリスは田吾作の方を向いた。
「それでは田吾作さん、女装の準備を」
「それは拙者に振るべき話題じゃないでござる!」
「ならフォンブさん」
「あたしは持参の装飾品と、あと、乙女の心を既に持ち合わせているからドレスは不要よ〜」
「というわけで田吾作さん、女装の準備を」
「着たくないでござる! 絶対に着たくないでござる!」
 狼狽する田吾作であったが、それでもエリスは真剣そのものの表情で続ける。
「これは作戦です。誰かがやらなくてはいけません」
「わ、わかった! それは私が着よう!」
 田吾作のドレス姿を想像したか、慌てて睦はドレス着衣に合意した。
 合意して、しまった。
「それでは更衣室へ行きましょう」
「僭越ながら、私はお化粧を手伝いますわ」
 かくして睦は、エリスとシルビアに拉致。リーナからドレスを受け取ると、それを持ってマオも随行。きっと数分後には、『動きにくい服装』のお披露目となろう。
「まぁ、今回の相手の猿はちょっとかわったお猿さんみたいだけど‥‥カオスみたいにひどいことがしたいだけとは思えないんだよね‥‥」
 やや見上げながら、頬に人差し指を当てて呟く様にして言うティス。それについてはリーナも同じ思いの様である。
「そうね。だからお猿さん達は、懲らしめるだけで十分だと私は思っているわ」
「僕もそれに賛成。うまいこと懲らしめて、人間襲うと後が怖いと思って襲うのをやめてもらえるようにしたいな」
「期待しているわね、ティス君」
 微笑しながら、やさしくティスの頭を撫でるリーナ。いくら何でも、それは子ども扱いしすぎではないだろうか‥‥と思いつつも、自分の背丈と顔からして仕方無い‥‥と言う事で言及しなかった。
「とは言え、サスカッチといえば樹上からの不意打ちを得意とし、また、棍棒の様な物を持つ者がいる場合もありますが、盗みを働く為に素手と思われますけど‥‥油断はせずにいきましょう」
「へぇ‥‥、樹上からの不意打ちが得意なんだぁ。ねぇエルさん。そのサスカッチの話、またみんな集まった時に再度、いいかな? きっと、この依頼に役立つと思うから」
「そうですね。私も丁度、そう思っていました」

 そして、程なくして女性陣が帰ってきた。
 睦のみならず、他の冒険者も対サスカッチ様にメイクアップされていて、エリスにいたっては思い切ってチャイナドレス姿。
 ティスは彼女達の変貌に対して感嘆すると共に賛辞を送る。これで自信を持ってもらおう‥‥と彼は考えていたが、睦に対しては、結果、顔の朱をより濃くする事となった。
 そんな様子にエルは苦笑しながらも、サスカッチの情報を仲間達に話していった。

●出発
(「これは‥‥誠に動きにくそうでござる」)
 田吾作はさりげなく、あくまでも自然に、チラチラと睦の方を見ていた。俯いている彼女は視線に気付かない。
 防寒着にドレス‥‥そして小太刀二刀。それにしても、なかなか無い組み合わせ。睦はその服装に未だ慣れない様ではあるが、それでも、師事を受ける前と比べれば、幾分貴族らしい身なりでいる。
「まだ反応はありませんが、相手も無駄に動き回る程の馬鹿ではないはずです。恐らく木の上で待機しているでしょうから、十分に警戒していきましょう」
 バイブレーションセンサーによって周囲の振動を感じ取りながら歩いているエルは、小声で皆に伝える。
 一同、己の感情に大なり小なり緊張を孕ませながら、沈黙の森を歩く。ただパラパラと、枝から雪が砕け落ちるだけでも、思わずそちらに目をやってしまう。
 一歩一歩、ただ雪を踏む音が響くのみ。
 一歩一歩、ただ、雪を踏む音だけが――
――ガサガサ
 一本の木の上から音がする。雪を落ちてきて、当然バイブレーションセンサーにも反応あり。
 この木の上に、いる。
 ティスはリトルフライを唱え、また他のメンバーもその木に向けて、警戒を――
――どさ!
 それはエルから聞いた通り白い毛並みを持つ大猿‥‥サスカッチだ。
「出てきましたわね、悪戯サル達。これからたっぷりと痛い目にあわせてあげますわ!」
 エリスが高飛車な口調で言い放つ。キャラが変わっているのは何ゆえだろうか?
 引付役の女性達はついに現れたサスカッチに向けて一斉に構える。
 しかし出てきたのは一匹、これは何かおかしい‥‥そうエルが考えた矢先、後方の木からも振動があった! 彼は、らしくもなく叫ぶ。
「皆さん! 後ろの木からも振動があります!」
 振り返った時、既に後方から来襲するサスカッチの影四つ。
「きゃ〜〜〜〜!」
 と声を挙げるフォンブ。
「ちょっと‥‥どこ触っているんですか‥‥っ」
(「‥‥! シルビアさま!」)
 一匹目、シルビアに組み付く。
「エルさん、助かりました」
「少々博打を打つはめになってしまいましたね」
 二匹目、エルスに向かう。しかし、高速詠唱で放たれたエルのアグラベイジョンによって動きを緩慢にさせられた猿は、エリスに先手を取られる。
「文字通り猿知恵、その程度恐れるに足らず。猿風情が、睦殿には指一本とて触れさせぬ! そこ動くな!(すきんしっぷなど、やらせはせん‥‥やらせはせんぞ!)」
「た、助かった。忝い、田吾作殿‥‥(しかし田吾作殿、気合の入り方が異常な気がするのは何故?)」
 三匹目、睦に飛び掛る。そこに彼女の背を護る田吾作が入り、そのサッチカスの額に峰打ちで一撃を加える。
「出来れば降りてくる前に対処したかったけど、‥‥まぁ、後ろも警戒していて良かったよ」
 四匹目、現れたはいいが、宙にいたティスが目に入っていない。彼がそんな隙を逃すはすもなく――ここで対処しないと味方に被害が及ぶため――高速詠唱のライトニングサンダーボルトが、サスカッチに天罰を下す事となった。
 五匹目の奇襲者‥‥は、いない。
「‥‥なによ! あたしにはスキンシップは無しなの!?」
 フォンブは叫びながらナイフを投げた。それがシルビアに組み付いているサッチカスに当たる。結果、彼女からサスカッチを引き剥がした。
「全く、失礼しちゃうわ」
 仕草も心も乙女のそれで、おまけにシルバーリング、シルバーピアスでその身を飾っていたにも関わらず、フォンブ目当てのサスカッチは皆無だった。理由は、まぁ‥‥彼の体つきやヘヤースタイル参照。
「よくもシルビアさまに及びましたね。覚悟して下さい」
 そう静かに言うと、マヤは弦から指を離した。
 そして、サスカッチの声にならない叫び。その理由は、矢の行き着いた先にあった。
 その矢は、おおよそ報告書に書き綴る事も憚られる様な場所に刺さったのだ。紳士淑女が閲覧可能であるこの報告書において、それの場所の詳細を明記する事は避けようと思う。というか、詳細を明記しなくても、この流れと言うか‥‥雰囲気で、賢明な読者は気付くはずだ、きっと。
「さぁ、平伏して私の下僕になりなさい! ほらほら!」
 リーナから借りてきた乗馬用の鞭でひたすら引っ叩くエリス。チャイナドレスの女性がそんな台詞と共に鞭打ちを繰り返す。この画も、捉え方によっては危ない気がしないでもないが、気にしたら負けだ。とりあえず、マスカレードとかが無くて良かった良かった。
「これが人の力! その悪戯が割に合わぬ事、たっぷり教育してくれるわ!」
(「田吾作殿、目が怖い‥‥」)
 異様な迫力を以って目の前のサスカッチに集中攻撃する田吾作。
「これに懲りたら二度と――ぬわ!」
 最初に囮役として現れたサスカッチは後ろから田吾作にしがみ付くと、素早く携行品を掠め取って逃げた。仲間の惨状を目の当たりにして、恐れをなしたのだ。せめて何か収穫を掴んで逃走、という考えの様だ。
「そ、それは拙者の大切なお守りで‥‥」
「安心して下さい、田吾作さん。私達で捕らえてみせます」
「ええ、逃がすつもりはありません」
 田吾作のに耳に二人の声が入った時、シルビアとマヤがもう逃げるサスカッチに狙いを定めていた。
 シルビアの白く細い指が、短弓の弦を弾いた。しかしこれは命中せず。
 否、当てなかったのだ。サスカッチが避けた方向に、既に鏃を向けているマヤ。
 そして、空気を裂く一閃の銀の煌き。それの行き着く先は、
「アッー‥‥まぁ、射止めた事には変わりありません」
 またもや書くに憚る部位だった。もはや動かぬサッチカスから、すすり泣きらしきものが聞こえてくる様な気が‥‥する。まさに外道!
「何はともあれ、盗みも防げた事だしこれだけ痛めつけられれば、懲りるんじゃないかしら?」
 ウィンク交じりにフォンブが言う。確かに懲りるだろう。
「‥‥それじゃあ僕、他にお猿さんがいないか、探してくるねっ」
 逃げる様にして、ティスはリトルフライでふわふわ上昇していった。

 その後、ティスは数匹のサッチカスを見つけたが彼が何かするまでも無く、宙に浮いたその姿を見ただけで猿達は恐れおののき逃げていってしまった。
 猿知恵は、この森の人間を『手段を選ばずに自分達を懲らしめてくる』、また、『その気になれば空も飛ぶ』と学習した。少なくともこの森では、もうサッチカス達が悪事を働くことは無いだろう。