蹂躙の剣

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月10日〜03月15日

リプレイ公開日:2007年03月22日

●オープニング

●指揮官と兵士
「お呼びですか、隊長?」
「隊長と、言うんじゃない」
「それは指揮官としての命令ですか?」
「‥‥命令と捉えても問題ないな」
「了解『隊長』」
「‥‥‥‥」
 にやけながら、男は応答する。笑いに顔が歪むと、顔の傷も一緒に歪んだ。
 フロートシップ船長、マルグリッド・リーフは粘度を持った様なその男の笑いを見るたびに、思う。いつから、こういう笑いをするようになったのか‥‥と。
「今も昔も、私は隊長の忠実な部下ですよ。なんたって隊長は今も昔も、私の扱いに躊躇いがありませんから」
 中には、こういう『無理をする奴』が一人は必要なんだ‥‥マルグリッドは、彼に依頼する時はいつもそう自分に言い聞かせている。
 それが言い訳である事に気付きながら、今も、昔も。
「昔話は、すんなよ。今回の依頼はここだ」
 言いながら、マルグリッドは一枚の地図を差し出した。
「‥‥恐獣の巣穴に飛び込め、と。はは、了解であります、隊長。トカゲどもを全・駆除してみせますよ」
「今回は冒険者数名をつける。協同連携して、依頼の成功に寄与するんだ」
「そういう命令とあらば‥‥了解っ、隊長」


●依頼
 ギルド受付の女性は、正直、物怖じしていた。
「それじゃあ申請さ、お嬢さん。俺の言葉、よーく聞き取って依頼書を書いてくれよ?」
「は、はい‥‥」
 白い髪に、細い目。それに加えて傷だらけの酷い顔。怖がらない方が、無理な注文だろう。
「荒原の洞窟を巣にしている恐獣を退治するため、冒険者を募ってくれ。なるべく、戦い以外の事を考えない奴がいいな‥‥ああそれと、卑怯者や、弱い者虐めを厭わない奴なんかは最高だな!」
 説明を聞くに、この依頼では、巣穴に生息している恐獣の駆除にあたると事。
 巣穴である以上、成熟した狂獣だけではない。
 恐獣は子供であっても勿論油断できない存在ではある。将来有望なアロサウルスやティラノサウルスの子供達が無邪気にじゃれ付いて来れば、不慣れな兵士など数分後には腹に収められるだろう。
 だかしかし巣であれば‥‥まだ孵っていないモノさえも存在するだろう。男が言うには、それすらも今回の駆除の対象、との事。
「しかし、こんなにも都合良く洞窟に狂獣が集まってすくすくと育っていくのは果たして自然なのだろーか。カオスニアンどもが恐獣を洞窟で育成しているのか、も‥‥」
 今の所それは推測の領域を出ないが‥‥現地に行けばイヤでも確認出来るだろう。もしカオスニアンが育成に携わっているとしたら、育成係兼任門番に遭遇会うだろうから。
「とにかく目的は全・始末! 全・駆除!! 大きなトカゲだろうが、麦色の変態どもだろうが、この国に仇なす連中はみんな肥溜めにブチ込んでやろうぜ!!」
 麦色の変態‥‥とは、肌の浅黒い事が特徴の一つにあるカオスニアンの事を指しているのだろう。しかし、意気揚々とそう語る男も勝るとも劣らぬ程の白眼視を一般人から受けるだろう。現に、ギルド内の冒険者数人は、『そういう目』で彼を見る。
 男もそれに気付くが、鼻で笑うだけだった。彼は自覚がある上で、『そういう性格』でいるのだろう。
「あの‥‥一応、お名前を」
 恐る恐る‥‥まさしくそんな感じに係の彼女は聞いた。
「アーキン・レゥグ23歳、依頼に同行する冒険者各位には、どうか宜しく頼むっ」
 親指を立てながらアーキンと名乗るその男は、存外社交的な態度でそれに応じる。
 これが初対面だったが、受付の女性は一発で彼が苦手になった。


●留意事項
 洞窟で多くの敵を倒して進んでいく今回のような戦闘になると、だだっ広い所とはまた違った考えも必要になってくる。
 洞内に差し込む陽はあってない様なものだろうし、道は広がったり狭くなったりと不規則に変化するだろう。勿論天井は高くない。不適なペットは冒険者街の住処に置いてきた方が無難と思われる。
 また、基本的には待ち受けるより攻め手として突き進む戦いになるだろう。不要なバックパックは、思わぬ枷になる。
 そして何より求められるのが‥‥、躊躇いの無さだ。
 救世主としてこの地へ召喚された天界人は、騎士としての崇高さを求められる事が多くあるだろう。天界人に限られた事ではない。『強きに厳しく、弱きに優しく』は美談と扱われるだろう。
 しかし今回の依頼は、『力を以って弱きを討つ』事がその旨としてあるのだ。それが、いずれ恐ろしい強敵となる前に。

 現地までは片道二日。食料は自費だが矢などの戦闘に関係する消耗品は、依頼の大元であるマルグリッドから出される。
 また、怪我を負った場合には治療も無料で施される。但し、依頼を成功させて生きて帰ってくれば、だが。

●今回の参加者

 ea0266 リューグ・ランサー(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8489 エリス・リデル(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「アーキン、斬り込み頼んでいーい?」
「任せとけ、捨石になってやるぜ」
「べ、別にそんなコト言っているわけじゃ‥‥」
 揚げ足を取るアーキンにフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)は困り顔で返した。
「豪腕の怪物ハンターと、夜の闇を味方に付けていても、囮となる事に不安があるか?」
 リューグ・ランサー(ea0266)の親指の指す方向にいる、ファング・ダイモス(ea7482)。彼の発案で、奇襲は夜に行う事になった。この闇に乗じて、まずはファングとアーキンが出来る限り隠密に、先行する事になっている。
「俺は一応、お前の隠密能力の高さは評価している」
「オーライ死ぬ程ありがたい。是非とも捨石になりたくなってきた」
(「皮肉屋の類か‥‥」)
 リューグはそれ以上口を出さず、それより愛馬の轡等の具合を確かめる事にした。
「現在門番は3人です。尤も、バイブレーションセンサーが及ぶ範囲の話ですので、範囲外からの増援に対する懸念は捨て切れませんが」
 エリス・リデル(eb8489)の探知も終わり、攻勢に出るのはここから。
「それじゃ行くか。っとその前に‥‥何だか婦女子の方々も多い様だが、覚悟はOK?」
 アーキンの言葉は、女性陣に対して。
「人々の平和を守る為に、私も鬼になって子恐竜を駆逐します。という事で、今から私の事はダークエリスと呼んで下さい」
「オーライ、容赦なくなダークエリス」
 ハッキリ言うものの、彼女は天界出身で日の浅い女性冒険者である事をアーキンは留意しておく。
「そこの寡黙な女‥‥は、心配さなさそうか」
「‥‥ん? 右向きと左向きを区別するわけではあるまい」
(「一切の躊躇は無いみたいだな、この女剣士は」)
 それらを聞いたうえで、自分に向いたアーキンに対し、フィオレンティナは咳払いの後に話した。
「あ、嬲り殺し趣味は無いよー。恐獣もカオスニアンも命ある生き物には変わりない、けど‥‥決定的に違うのはそいつらは倒すべき敵だって事。ワタシはその命を断つ事に躊躇いは無いよ。それが子供でもね」
 及第点‥‥そんな事を勝手に思いながら、アーキンは次にレフェツィア・セヴェナ(ea0356)を見る。
「本当はこういうことはあんまりしたくないんだけど‥‥人の害になるなら仕方ないよね」
 普段は明るく爛漫な彼女が見せる、どこか陰りのある表情‥‥だと言うのに、アーキンはそれを見て面白がっている様にさえ見える。
「そうだなその通り。それじゃあ、仕方なく害悪どものブチ殺しにいこう!」
「いい加減になさい」
 静かな口調のままに、アーキンの肩を押さえたのは ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)だった。
「ジャクリーンさん、私はやるべきことはちゃんとやるから、大丈夫だよ」
 レフェツィアはそう言うが、ジャクリーンは止めずにアーキンへ向け続ける。
「確かにこの依頼は脅威を取り除くという意味では確かに理に適っていると言えなくはないわ。それでも、これ以上他人の揚げ足を取る事に意味があるとは思えないわね」
 そんなジャクリーンを黙してじっと見るアーキン。この手の類の人間は黙っても不気味だ。
「‥‥? 何かしら」
「いや、声聞いてやっとわかった。お前も女だったんだな。申し訳ない、本気で見間違えていた」
「‥‥‥‥」
 異性と間違われる事もよく有るので、別にジャクリーンはその失礼について特に言及はしなかった。夜の闇のせいで、よく顔が見えなかったと言う事にしておくが吉か。

 冷たい風は葉の無い木や岩々を撫でながら、只吹き抜けるのみ。時折、落ち葉を転がす‥‥それだけだ。
 嗚呼、退屈――
「クソタレが気付いた、全員突撃! ファング、もう行儀良くしている必要はないぞ早く来い!」
 奇声に罵倒を織り交ぜながら飛び掛るアーキンとサンショートソード。カオスニアンの大男が持つ斧に火花が走る。
 しかし、それで釣れたのは一人のみ。あと二人は入り口を固めている。
 戦闘馬の加速と灯りに反射する槍の穂先が、闇を切り裂いて迫る。大男はアーキンを力任せに弾き蹄の音響く方向へ向くと、自分の心臓を貫かんとする三叉の刃。
 皮一枚切り裂かれながらもそれ避け、大男は回避ざまに斧を振り上げる。リューグは舌打ちしながら半身捻って素早く腕を横に振り、なんとか盾防御に間に合った。
「ファング、そのまま門塞いでいる奴らに向かえ! こいつは、俺とアーキンで始末する」
「図に乗るな人間、餌として巣穴に放ってやる!」
「お前こそ死んで、カオスの穴に帰りな!」
 リューグ、アーキンの横をファングは駆ける。駆けながら、門番とその周囲を見渡すと分かる。
(「ソードボンバーは、得策ではない‥‥」)
 門番が入り口に張り付いているので、流石に入り口を塞ぐ愚を犯すわけにもいかない。
 ならば、一体をまずは確実に始末する。
 接近してきた巨躯、ファングに対して門番の一人は先手を打って剣を突き出したが、ファングは相手の斬撃よりも速く強く、盾を出す。半ば盾で相手の剣を殴りつける様にして敵の攻撃を弾いた後、もう片方の手に持つラージグレイブを振り下ろした。
 反射的に、門番は剣を上に構えてそれから防御を試みるが、ラージグレイブを片手で扱える膂力がそもそもの脅威。なまくらをへし折り背骨をへし折り、一刀のもと相手の命を踏み潰した。
「見敵必殺。卵・恐獣・守備兵に区別無く、容赦しない」
 接近してきた脅威、ファングに対してもう一人の門番は、とっさに携行していた笛を吹いた。甲高い音が、夜の空間によく鳴り響く。
「仲間を呼んだか」
 円巴(ea3738)の小太刀が、鞘の中を疾走する。男に銀の煌きは、見えない。巴の居合い斬りの速度は男の反応限界を超えていたのだ。
「うぉおおおおおおっ!」
 門番の男、負った切り傷を気にしている暇はない。咆哮の主、シャルグ・ザーン(ea0827)はファングに次ぐ体躯の持ち主。
 全突進力を切っ先に込め迫る迫力が、間合いを瞬く間に食い潰してゆく。
 門番は思考する。
 受け? 回避?
 どれも、無理。
 門番は目を見開いて串刺しとなり、痙攣している。まるで陸上の魚の様だ。放っておいても時期に動かなくなるだろう。
「門番を排除した。突入可能である」
「シャルグさんと私で後方を固めます」
 洞窟入り口に今、塞ぐものは何も無い。アーキンとリューグが、まだ交戦中ではあるが。
「シャルグ、ファングはそこで構えてろ。一匹たりとも入れるなよ。突入の連中、先に巣の駆除に行けぇ! 全速前進でな!」
 アーキンが巣への突入を促すと、大男は憤りを露にした。
「思う通りにはさせん!」
 しかし彼の進路はリューグの槍が遮る。
「こちらの台詞だ、それは」
「手負いの小僧の言う台詞か!」
「小僧二人に囲まれて現状押されているオッサンの言う事かよ」
 リューグ一人では、この大男に敗色濃厚であっただろう。現にリューグが負っている傷は一つや二つではない。
 しかし、手数で押すアーキンと連携する事によって、彼のトライデントもまた大男に傷を刻んで行く。
 恐らくこのまま行けば負ける事は無い。そう思ったからこそ、ファングとシャルグは入り口の前から動かず、近づく幾つかの気配に感覚を研ぎ澄ませたのだ。
「と言うアーキンの判断だ。行こう」
 そう言って駆け出す巴を前衛に、フィオレンティナ、ジャクリーン、レフェツィア、エリスの順に巣穴へと駆け込む。
 入り口付近にて、まず目に入ったのは、恐獣の食料にされた者達の亡骸。走りながらレフェツィアはそれらに向け十字を切った。
 灯りと足音が侵入すると即座に聞こえてきたそれは、洞内において反響し、冒険者の耳を劈ぐ。
 飛び掛ってきたのは、子供の恐獣。
 避けると同時に敵を切り裂く巴と、刺突で一気に貫くフィオレンティナ。未発達な牙や爪が届く前に、切っ先が恐獣の小柄を切り裂く。
 その間に、レフェツィアのフロストウルフ・プリンとエリスが、目に付いた卵を蹴り割っていた。
「あまり時間はかけられません。次へ進みましょう」
 エリスに、フィオレンティナは頷く。
「そうだね、殿の人達も頑張っているし‥‥頑張るぞーってうわぁ!」
 今度は先程よりも多勢。7匹はいるだろうか。まだ空間に充分な広さがある。
 数に危機感を感じたか、レフェツィアのプリンは敵陣に突っ込んだ。
「(そのまま頑張って、プリン! 私も、頑張るから!」)
 飛び込んで相手の喉笛に噛み付くプリンを見て、レフェツィアは詠唱を始める。
(「数だけか」)
 先程より敵のサイズが大きくなった気もするが、それでも蜥蜴達は巴を捕らえる事は出来ない。顎(あぎと)はいつまでたっても空気のみに喰らい付き、その間に小太刀は傷を刻んで行く。
「ほっ! よっ! わ! ちょっと危ない!」
 フィオレンティナも回避して、複数相手に大事には至っていないが、幾つかの掠り傷がちらほらと見える様になってきた。
 その間、他の仲間達も呆としている訳ではない。
 細い指は既に矢羽を摘み、――弦を引く。
 両眼を開き――狙う。
 指を離し、射る!
「‥‥! ジャクリーンさん、助かったよ」
「非力ゆえ手間取って、すまないわ。その代わり、狙いは正確よ」
 射撃は後方のジャクリーンから。言いながら、彼女は次の矢を取るため矢筒に手を伸ばす‥‥とほぼ同時に、レフェツィアの身体が絹を思わす淡い白光に包まれた。
 神聖魔法、コアギュレイト。彼女ほどに習熟した者なら、一度の詠唱で五つの対象を縛ることが出来る。
 動きを止めた恐獣の横に、僅かに影が動いた。後方から気付いたエリスがその方向に松明を翳すと、逃げようとしていた小型の恐獣二体の姿を照らした。
(「誰かがやらなきゃこの戦いは終わらないもの」)
 フィオレンティナの剣は見逃す事無くそれを切り裂き、もう一体はプリンが反応し、噛み付いた。
 斬る刺す進む、射る放つ、進む、
 進む進む進む。
 進め進め進め! 一切合財の容赦を捨てて!
 灯りと斬撃が、洞窟を侵していった。
 一方、洞窟前。

 剣の猛攻から逃れる為に、忙しなく斧はそれらを受け止めていた。
 三叉の槍はその隙を突き襲い掛かってくる。
 恐らく門番達は門番であると同時に、万が一洞窟で始末に終えない恐獣がいた場合その対処も兼任していたのだろう。洞内戦闘を見越した、柄の短い武器を持っている。
 連携とリーチに助けられ、リューグのポイントアタックは大男を刺し貫いた。
「貴様の様な、若造達に!」
「剣は年齢で生死の区別をしない、少なくともこの場では‥‥そうだろ? アーキン」
「リューグ、既にわかりきっている事だな! さっさとトドメだ!」
 門番だった大男が大地に伏せると、丁度そのタイミングでシャルグとファングが増援を片付け終えていた。
「第二波の可能性には何とも言えませんが‥‥警戒するに越した事は無いと思います」
「だな。それじゃあファング、残れ。後のメンバー、突入するぞ!」
「この進攻は攻めと言うより、仲間を守るため‥‥参ろうぞ!」
「荷物とペットは置いてけって。増援ももう片付いたし、ファングが門番やっている限り、夜盗が通りかかっても大丈夫だろ」
 必要なもの以外を置いてアーキン、リューグ、シャルグは洞窟に入る。
 3人が走ってゆくと、思った以上に直ぐに合流できた。
「なんだお前ら! なんでそんなに進んでいないんだよ! ‥‥って、何? 何でこっち向いて構えてやがる」
「いえ、バイブレーションセンサーの反応があったもので、一応警戒しておきました」
 エリスは、何の罪悪感もなく言う。事実、後方警戒に罪は無い。
「てめぇ! 俺らが増援で来るのを分かって――」
「アーキンさん丁度言い、目の前で今、巴さんとフィオレンティナさんで沢山の子恐獣と交戦中です」
「よし任せろ直ぐに前に行く」
 アーキンが前衛に加わり、これが幾分か戦力の安定につながった。
「このメンバーなら、もう心配ないと思います。そこで頼れるナイトのお二人に、こちらの通路の同行をお願いしたいのですが‥‥」
「これは、細い‥‥わき道であるか?」
 エリスが松明を向けた先には、狭い通路が一本。藁の置かれ方からして、隠してある様な感じすらある。
「名実共々『頼れるナイト』になっておきたいもんだ。行こう」
 リューグはそう言ってエリスの発案に乗ると、三人は分かれた道の方へと進む。
 大分、細い道。シャルグくらいの身長になると、屈んでも通るのに苦労する。突入前に、武器を日本刀に代えておいて良かった‥‥そんなことを思いながら彼は進んで行く。
 しかし段々と道は広くなってゆき、ついには開けた空間に出る事が出来た。
(「やっとまともに立つ事が可能であるな‥‥む、これは‥‥」)
 その一室には、ずらりと並んだ、卵、卵、卵‥‥。両手で数えられる程ではない。そして勿論これが何の卵かは、想像に難くない。
 リューグは一歩、一歩それらに近付き‥‥そしてそれの前で足を止めた。
 もしこの数、恐獣が孵ったとしたら。もしこの数、大人の恐獣へと育ったら‥‥。
「コイツラはこの世界にとって必要の無い存在だ」
 トライデントを横薙ぎに、乱暴に、振るう。そのたびに幾つも、幾つもの命の源が潰れていった。
(「‥‥少し可哀相だがな」)
 幾つも、幾つも‥‥。
(「倒さなかった場合の周辺の被害を考えると仕方あるまい」)
 芸術的ですらあるジャパン製の刀身が振るわれる度に、殻は砕かれ、薄気味悪い白濁職の中身をぶちまけた。
 そしてエリスも、踵で幾つもの卵を割っていった。
「このダークエリス、容赦も躊躇もしません」
 最後にグラビティーキャノンでその一室を沈めると、三人は仲間達の元へと戻っていった。


 あらかた片付いき、洞窟を出た冒険者達は今、洞窟の破壊に従事している。重武器や魔法が惜しげもなく使われている。またもやファングの怪力の見せ所。この調子で破壊していけば多少生き残りがいても息絶えるだろうし、ここは巣として二度と使う事はできなくなるだろう。
「アーキンはマルグリッドのおじさんと知り合いなの?」
「あ、おじさんて言ったらショック受けるよ、隊長。まだ28‥‥アレ、30代だったかなぁ‥‥」
「え、隊長?」
 洞窟が破壊されていく様子を眺めながらのフィオレンティナとアーキンの、何気ない会話。
「今じゃ立場上そうそう現場に出てこないけど、むかーしむかし、あの人と同じ隊にいたのさ‥‥ま、いいや。今回の依頼の結果は、隊長にしっかり報告させてもら‥‥ん?」
 アーキンが途中で言葉を止めたのには、理由があった。原因は巴。要因は‥‥恐獣の、肉。
「実は一匹、食材として調達してきたのだ」
「卵を取って来る暇が無かったのは、残念といえば残念だ」
「‥‥‥‥」
「‥‥どうした?」
「いや、腕の立つ剣士は、実は料理職も兼任しているケースもある‥‥と報告に加えようかな、なんて思っただけさ」


 何はともあれ、冒険者一同は恐獣の巣の殲滅に成功し、帰路に着いたのだった