単純な剛剣

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月27日〜02月02日

リプレイ公開日:2007年02月10日

●オープニング

 巨像は、躍動するのを待ち焦がれ‥‥――
 グライダーはその翼で、チャリオットは自身に戦士達を乗せ風を切るのを‥‥――
 保管庫の中で、今か今かと待っていた。
 待ち焦がれていた。


●西に恐獣あり
 西の荒野へ派遣した冒険者から報せを受けた彼は、自分の『船』と、ゴーレム兵器の準備に動いた。それらの手配に時間を要した自分の非力さを呪いながらも、準備が整うと、冒険者ギルドへと走る。
 彼の名はマルグリッド・リーフ。フロートシップの船長である。

「それじゃあ、この内容で、しかるべき日に依頼書の張り出しを宜しく頼むよ」
 依頼の申請を済ましたマルグリッドは、ギルドの係員に言ってその場を跡にしようとする。なんでも、これからパーティーに向かうとの事。イイご身分だこと‥‥ギルド受付の女性係員は辟易した。社交の場にもその整えられていない顎鬚を晒しに行くのか、などと思いながら。
「ああそれと、これは依頼内容とは直接関係ないんだが‥‥言伝をお願いしたい」
 一応、愛想良く彼女はそれを聞くだけ聞く。
「私は、冒険者諸君の腕を信頼している。これは、忘れないでいてほしいし‥‥と」


●依頼概略
 今回の依頼の場は名も無き土地であるため、便宜上、西荒原と称する。
 依頼の討伐対象は恐獣アロサウルス。現在、3匹その姿が確認されているので、その3匹倒す事が依頼の成功条件となっている。
 アロサウルスは非常に凶暴で、尚且つ体長は尾も含めるとチャリオット2機分にも相当する大型恐獣である。
 大きな顎に鋸状の歯が並び、曲がった鉤爪と太い尾も備え持ち、そのどれもが高い殺傷能力を持っている。
 それが、最悪の場合は3匹同時に現れる。くれぐれも、参加冒険者は注意されたし。

 西荒原において戦場となる場所は開けている地形ではあるが、ところどころに岩が出ている。小さい岩で人間一人分程度、大きい物だとモナルコスの半分程度の大きさがある。
 フロートチャリオットを運転する場合は、視界を広く持ち、スピードを出す際は正面衝突を避けるためにある程度の技術が必要となる。
 尚、チャリオットは木製であるため、岩と正面衝突を起こすと速度によっては全損となる。

 今回依頼で使用可能のゴーレム兵器は下記の通り。
・フロートチャリオット8人分(2騎)まで
・ゴーレムグライダー6機まで
・モナルコス2機まで(盾と剣を装備)
 これらの編成は、参加冒険者にその方針を委ねる。
 但し使用の際は、『何を、何機借りるのか』、『誰が、何に乗るのか』を明確にしておく事。
 また、使用は義務ではない。極端な事を言えば、全くゴーレム兵器を使わなくても、討伐を完遂すれば何の問題もない。

 依頼は、フロートシップによって片道二日の移動を行い、直接現地からスタートとなる。フロートシップは一旦帰還(帰る時、再び迎えに来る)するので、警護等を考える必要はない。
 依頼期間中使われる消耗品や物品、(保存食、矢、防寒服、野営に及ぶ場合は道具一式)は依頼主から提供されるので、冒険者達はその類の準備を整えこなくても問題は無い。

●最後に
 よりよい連携作戦には、具体性とメンバー内の見解の一致が求められる。
 それでは、冒険者各位の勝利と生存を祈る。


●追記
 戦場となるであろう場所を、更に奥に進むと大きな岩場がある。余力があれば、ここの調査も追加する。

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

神薙 小虎(ea3857

●リプレイ本文

「ガス・クドを倒すために、僕はもっと強くならなくちゃいけない。アロサウルスならちょうどいい修行相手だ」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)の、幼さの残るの笑顔が、今でも印象に残っている。
「自分自身を高める為、自分の限界に挑戦します」
 体躯のみならず言葉までも頼もしいファング・ダイモス(ea7482)。
「冒険者諸君の腕を信頼しているか、信頼には応えなければな」
 傍らの風烈(ea1587)。諸々の準備を拵えてくれた依頼主に報いるべく、決意を固める。
「さーってと、今回も頑張りますかっ‥‥もっと強くならないといけないし」
 深紅の剣を肩にかけ、フォーリィ・クライト(eb0754)が意気込んだ。
「すいません、わざわざ。それでは遠慮無くお借りしますね」
 シルビア・オルテーンシア(eb8174)は双眼鏡を受け取ると、そう言ってウインク交じりに微笑んで見せた。

 彼は、そんな何気ない出発前のやりとりを思い出していた。


「いい風だ。どうやらお出ましだぜ」
 どことなく嬉々の色を帯びたパトリアンナ・ケイジ(ea0353)の声で、クウェル・グッドウェザー(ea0447)は意識を現在に戻す。
 グライダーに乗るシルビアの誘導によって誘導されてきたアロサウルスが視界に三体。
 クウェルは回想に耽って隙を作る程不慣れな冒険者ではない。グットラックの付与を全員にした後、彼は岩から身を出した。まずはパトリアンナと烈が囮となる、自分は援護を――
「――! スレインさん!」
 壮観だった、石造りの巨兵が破壊されていく風景は。
 アロサウルスが群がり、食らい付き、まるで冗談の様に石巨人を壊していく。モナルコスは盾を構えたが獰猛な野生の速度を捉えるには至らなかった。
「ちっ、まず大きく目に付くゴーレムから相手するってか? いくらトカゲとは言えここまで単純脳だと腹が立ってくるよ!」
「このままでは、中のスレインさんも無事ではすまない」
 悪態をつきながら接近するパトリアンナと、烈。囮の方に向かないのなら向けさせるまで。
 上空のシルビアは備え持っていた弓で援護しようとするが、それは叶わない。グライダーを操縦しながらの攻撃は、出来て片手武器による突撃。弓を使う場合は、同乗者に任せた方がいい。
(「装甲が‥‥もたないな」)
 只でさえ狭さを感じる操縦席、スレイン・イルーザ(eb7880)は内壁が己に向け陥没してくる現状に、何とか打開を見出そうとしていた。
「敵を倒す他、無いか」
 眼前の敵を討たんがため、巨人の剣が空を切り裂いて襲う。いつ見てもゴーレムの攻撃は圧倒的だ。2回程攻撃を当てれば、アロサウルスでさえ重傷を被る。
 当たれば、だが。
 一刀目はかわされ、二刀目は微細な手応え‥‥皮を僅かに抉った程度だろう。
 身を捩った姿勢から速度はそのままで迫る、アロサウルス。
 鋭利で大きな爪が、来る。
 この時スレインは意外な恐獣の回避力に驚愕すると共に、もう思う様に動いてくれないゴーレムの運動性能を呪った。
 ゴーレムの倒壊は周囲に大袈裟な音と土埃を広げた。その方向を向いているアロサウルスのつり上がった口は、まるで、嘲笑。
 アロサウルスのその視界に黒瞳黒髪の男が飛び込んでくると、すぐに恐獣はそれを『敵』と認識した。
 龍叱爪――六閃煌き、血の花が咲く。
 研ぎ澄まされた両手の鉤爪を繰り出した烈は、命中を喜ぶ以上に「これ以上大振りな攻撃は当たらないだろう」と相手の回避力分析に思考を働かせる。
 すぐに来る反撃の牙。素早く飛びのくと、彼はそれを難なく避けられた。
(「これなら、次はオフシフトなしでも大丈夫‥‥か?」)
 囮に動く二人は、横から聞こえる咆哮に、一瞬だけ目を奪われる。二体目のアロサウルスの側面攻撃など、想定していない。
 側面攻撃を止める、爆風。
 衝撃波はファングから。彼の手持つ大剣と筋骨隆々とした体躯を見るに、それは間違いなく強力。
(「あれが僕らの、敵。‥‥あれは、殺す」)
 よろめく恐獣に、エイジスはシールドソードを構えて肉薄していた。金の髪が逆立ち始めているのは疾駆の為‥‥ではない。敵を一直線に見据える青の眼にはもはや、紅。
 そして、疾走の勢いをそのまま刃に乗せエイジスが突撃! 刺突! 出血! 彼は瞳のみならず、顔面さえも紅に染まる。
 冷静な判断等は度外視され、ひたすらに剣を振るエイジスの姿はまさしく『戦鬼』の二つ名に相応しかった。これが、忌まれし混血の産物‥‥狂化。
 そんな彼の赤眼に、三体目のアロサウルスは映っていたのだろうか。
 振り下ろされる爪。
 正常な判断をしにくい狂化状態ではあったが、エイジスは条件反射的な動きで盾を構え、攻撃を横へと流した。右腕が圧倒的な質量感から開放されたエイジスは‥‥続く尾撃を見舞われ吹っ飛ばされた。
 岩に背中から激突したエイジスが、動かない。吹き出る吐血。内臓がやられたか。
 混濁する意識の中で彼は、クウェルの姿を見た。
「大丈夫ですか、エイジスさん!? 今すぐ治療します」
 エイジスの傷薬はバックパックの中なので、ここはクウェルのリカバーに甘える他無い。
「‥‥ありがとうクウェルさん。アロサウルスは?」
 吹き飛ばされて、強制的に戦線を離脱させられたエイジスの瞳は青色が戻っていた。クウェルは神聖魔法の手を休めずに答える。
「今、フォーリィさんが交代して前衛についています」
 強大な顎(あぎと)が、閉じる。
 致命的な威力を持った牙から、左足を軸にして半回転し危なげにもフォーリィは逃れた。そして、もう半回転して刀身に遠心力を乗せてアロサウルスに一撃を繰り出す。
 鼻先を切り裂かれたアロサウルスは絶叫する。もしフォーリィがポイントアタックを修得していたら、アロサウルスは牙か眼をもっていかれていた。
 けたたましい声を上げながら涎を撒き散らしながら再度迫るアロサウルスの牙。彼女はまたも避けようとしたが、――先ほどの回避成功は幸運が味方していたか――若干肩の肉を抉られる。
 それでも、フォーリィは相手に立ち向かう。自分の傷にイチイチ頓着するつもりはない、それより、相手に傷を!
 むしろこの傷を更に!
 2倍にして!
 3倍にして、返す!
 フォーリィもまた、狂化していた。彼女の反対側で、アロサウルスと一定距離をとりながら、ファングが支援に当たっていた。この二人は、パトリアンナ・烈組より総合的な攻撃力が高いため、じきにカタがつくだろう。
 だが、まだ三体の恐獣の中で無傷の者もいる。それが今、シルビアが引き付けているアロサウルス。
「また、行かなきゃ」
 完治したエイジスは、また、狂化して戦う事になるだろう。
「無理だけは、しないで下さいね。僕も出来る限りの支援はしますから」
 クウェルはせめて、そう言う。
 エイジスは無言で微笑むと、再びアロサウルスに向かっていった。
 シルビアが乗るグライダーから、己の前に立ちはだかる男に狙いを変えたアロサウルスはソレを排除せんと、爪を、牙を繰り出す。そしてそれを悉く、打ち払うエイジス。
 その戦いを見ながら敵の側面についたクウェルは、既に剣を引き抜いていた。そして放たれる、風の刃。飛来するソニックブームは敵を確実に捕らえる。
 ‥‥が、浅い。
 クウェルは考えていた。このまま微々たる攻撃を繰り返すか、それともコアギュレイトによる支援を選択するか。
 しかし専門だと魔法の成就の確率は低め。初級ならば必ず成就できるが、射程距離3m。この距離は恐獣相手に話して安全かどうか‥‥。
 その時、一閃の銀の煌き。
 煌きがアロサウルスの眼に刺さり、恐獣叫びが冬天に響く。クウェルが振り返ると、煌きの正体を知る事が知る事ができた。
「狙いすませば、こんな事もできますよ。尤も、運も加味したでしょうし連射は出来ませんけどね」
 自身より大きな弓を構えて、シルビア。グライダーの誘導はこれ以上必要ないと判断した彼女は、降りて援護に加わっていたのだ。
 眼を射抜かれたアロサウルス、それによって生じた間隙を活かすべく、クウェルは疾走した。
「君達は悪くないけど‥‥ごめん」
 間合いに近づくと、即、コアギュレイトを放つ。
 びたりと動きを止めたアロサウルスなら、もう何の気兼ねも無い。
 エイジスが、一気に踏み込んだ。
 飛び込み、刃を突き立て、そのまま横凪ぎ、そして再び斬撃。黙々と、淡々と‥‥。
 クウェルとシルビアは、まさに狂戦士の戦いぶりを目の当たりにしていた。この戦いは、もうじき決着がつくだろう。
 次はどこの支援に、と周囲を見渡す二人はもう一人、狂戦士と化している仲間を見た。
 フォーリィは襲来した牙を盾で受け流すと、間合いに踏み込む。赤髪が彼女の追うかの様に靡いた。跳躍し、相手の顎を切り裂くと、返す刃で喉元を一閃。自身の髪と同じ色の液体をかぶりながらも、フォーリィは毛ほども動じない。
 アロサウルスの逆襲、巨大な牙がそんな彼女を襲う。
 彼女はよく回避していたが、全てを避けられていたわけではない。疲れと出血に悲鳴を上げる体に鞭打ち、フォーリィは身を屈めた。
 噛み付きは、彼女の髪の毛数本を飛ばすに終わった。
 その姿勢から、飛び上がる様にして深紅の剣が突き出された。
 更に、ファングの繰り出す剣の爆風。衝撃が皮を剥ぎ、肉を削ぐ。
 土埃がおさまる頃、アロサウルスは動かなくなっていた。
 すると、まるで張り詰めていた線が切れた様に、膝を突くフォーリィ。
「やったか‥‥フォーリィさん!」
 ファングはそんな彼女に急いで駆け寄り、肩を支えた。
 戦い続け、蓄積した彼女の傷は気付けば重傷にまで達していた。クウェルもまた彼女の元へ走り、リカバーを施した。
(「‥‥僕もまだまだ、修練が必要ですね‥‥」)
 数回、専門魔法の成就が失敗させては自省しつつ、クウェルは仲間の治療にあたっていった。

 その頃、パトリアンナ・烈組。
 こちらは烈がよく避け、よく当ててはいるものの‥‥
(「やれやれ、しぶといもんだ」)
 心の中、パトリアンナは辟易としていた。しかし無理も無い、こちらは攻め手が一人しかいないのだ。パトリアンナは時折、盾を武器にするが、はっきり言って威力は微妙だ。
「な――オイオイちょっと待ちなよ!」
 アロサウルスも段々と分かってきたのか、より自分に大きな被害を与える烈の方へ、攻撃を集中していく。烈は今まで直撃は無いが、それでも体の所々に赤い線が幾本か走っている。いつ当たっても、不思議は無い。
 このペアは烈が軸であり、彼が倒れてはいけない。それは烈以上に、パトリアンナが分かっていた。
「分かっている。だがね‥‥、こちらだって力に物言わせて仕事している身なんだよ、それをあからさまに――」
 彼女は叫んだ。
「――あからさまに、舐めんじゃないよ!」
 叫びながら両手一斉に、盾をアロサウルスにぶつけた。
 その衝撃に反応したアロサウルスは、心なしか不快そうな目であった。まるで、見下す様な眼。
 横から来た一撃を、滑らせるように流す。
 間髪入れず、もう一撃来襲。これも、冷静に対処。
 しかし、三度立て続けに来た爪には、対応し切れなかった。爪に状態を切り裂かれ、彼女は苦悶に歯を食いしばった。
 いや、違う、それは苦悶ではない。これはまるで狂笑にも近い、笑み。
「やっぱり単純脳だった‥‥全くラッキーだな! 相手はもう死に体だぜ。派手なのぶち込んじまいなよ!」
 パトリアンナを攻撃し終わっていたアロサウルスに、叩き込まれる二つの剣風。一つは真空刃、もう一つは、炸裂する衝撃波。
 フォーリィとファングが、こちらに加わっていた。
 確かにパトリアンナ・烈のペアは攻撃力の合計が他より乏しかった。
 しかし、攻撃を防ぐ手段はしっかり用意されていた。他の仲間が駆けつけるまでの時間を稼ぐ、それが任務であり、また勝利条件に直結していたのだ。
「武とは肉体的に劣る者が強者に勝つためにあるのだよ」
 最後は、恐獣よりも小さい‥‥されど十分な鋭さと速さを持って放たれた烈の爪が、アロサウルスの息の根を止める。
 パトリアンナは動かなくなったソレに、飲み干したポーションの空き壷を放り投げた。


 全く、闘争心は実に厄介な代物である。
 無難に、最低限のシゴトをこなせば、余計な苦労をせずに済むのに。
 闘争者達は前進を選択した。
「あれは‥‥リバス砦の暴れっぷりを見た身だ、勘弁しておくれよ」
 パトリアンナは一目で、アロサウルスとの違いを理解する。岩陰に隠れ、そう言いながらも彼女は矢を番える。いつでも支援に回れるように。
 他の冒険者も同じ様に、少し距離をとって様子を伺っている。
「これが、T・レックス‥‥」
 待ち受けていた暴君は、今まで見たどんな恐獣よりも大きい。そんな暴君にファングは一騎打ちを願い出たのだ。
 吼え猛る暴君、ティラノサウルス・レックス。
 瞬発が足元の土を弾いた。ファングと恐獣間の距離が一気に詰まる。
 その巨躯に似合わぬ素早さ。ファングの全体重、全速度を切っ先に込めた一撃はゴーレムの攻撃を凌駕する威力となっていた。
「貫け我が剣よ、奥義・『ギガントインパクト』
 相手の肩から入ったギガントソードは筋肉を千切りながらティラノサウルスの体内に潜り込み、骨をも両断していった。確かな手ごたえ。
 ‥‥しかし、絶命するには至っていない。ティラノサウルスは前足を使って倒れた体勢を起こす。
 彼は暴君の牙をリュートベイルで流す。しかし次は、無理。避ける事も、無理。いくら手負いといえど、暴君の攻撃は安くない。
 弓形の鋭い牙、長い筋肉質の尾。これだけで、暴君はファングに重傷以上の傷を刻み込んだ。
「充分――いえ充分過ぎる活躍でした。後は、任せて下さい」
 シルビア達が援護を始める。これ以上は‥‥危険だ。
「まだ‥‥まだだ」
 ポーションを飲むのは、終わってからでいい。
 血まみれのファングは、出来る限りの力を振り絞り大剣の柄を握った。強く、より強く!
「この一撃に、貫けぬ物無し」
 渾身の力を込められた切っ先は喉を貫き、頭蓋を貫通し、そして暴君の生命を失墜させた。


 依頼主マルグリッド・リーフは今、端正な身だしなみで冒険者の前にいる。彼を知る人間にとっては見慣れない格好であった。
「被害の大きさは否定できない。が、依頼以上の働きをしたのは事実。‥‥ファング・ダイモス、スレイン・イルーザ。両者前へ」
 マルグリッドは表情を真面目に変え、二人を呼びつけた。
「依頼外の大型恐獣を屠ったファングには精竜銅貨章、負傷を厭わず熟練冒険者に混じり前線に出たスレインには名誉戦傷章を授ける」
 この授与は想定外だった様で、二人は目を点にしている。
「‥‥ま、この勲章授ける二人が、今回やられっぷりも派手だったんだけどな。いつか、無傷で勲章を受け取れる様にな」
 授与者以外にも一人一人労いの言葉を送り、マルグリッドは冒険者を帰した。