私立! メイディア王国ホスト部

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月28日〜05月02日

リプレイ公開日:2007年05月13日

●オープニング

「屋敷で今度、お茶会を開くわ。場所の準備と接待役の募集よ」
「相変わらず予備動作もなくそういう事を言いますよね」
 クーラ・スプリントデイズ。この奇婦人、途轍もなく唐突である。執事の青年、辟易としながらも主人の命に逆らうわけにもいかない。
「畏まりました、それじゃギルドに手配を。まぁ比較的無害な暇潰しですね」
「尚、今回呼ぶのは女子のみだから、接待役は婦女子層の萌えを狙ったイケメンを推奨するのよ!」
「‥‥付け焼刃で修得してきた天界語使うのやめて下さい。っつーか誰から教わるんですか、そーいう言葉」
 まぁとにかく、レディに対するホスト役の募集と言う事で間違いなさそうである。
「でもそうなると、お茶だしや軽食作ったりと、別作業も必要になる‥‥が、それは俺がやればいいか」
「いえ、駄目よ」
「な――なんでだ!?」
 主体性を折られると人は不快になるもの。思わず声を荒げた青年に、クーラも対抗するように声量をあげて話す。
「さっき、女子ばかり来るって言ったでしょ!」
「‥‥確かに言ったが。それが、何か?」
 理由が分からず心底不思議そうにする青年と、何か、後悔にかられたような表情のクーラ。
 あえてそれ以上の言及をせずに、彼女は目を逸らした。
「‥‥お茶汲み兼調理師なら、既に用意してあるわ」
 そう言って扉を開けると、一人の女性がクーラに腕をつかまれながら、部屋に入ってきた。
 髪色、瞳、来ている服さえ、飾り気の無い黒‥‥彼女への青年の第一印象は、『地味な小心者』であった。
「な‥‥なんなんですか? ここ、どこですか? 何で私、連れてこられたんですか?」
 彼女は眼鏡の位置を直しながら、まるで混乱した様子で呟く。
 どうやら誘拐の類によって、彼女はこの屋敷に来たようだ。執事の青年は頭を抱えながら、調理師の募集をついでにギルドへ募集する事に決めた。

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb4171 サイ・キリード(30歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8489 エリス・リデル(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「なんでそんな格好してるんだ?」
 執事の青年に問われると、彼女は片手を腰に当て、軽くポージング。
「ちょっと今回は美少年ポジションでいこうと思って。どうかな、似合ってる?」
「まぁ、似合ってるぞ。男装」
 『ボーイッシュ』というよりは『ボーイ』そのもの。三編を解いたフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が纏う礼服は男性用のそれ。今回の客人は女性のみと言う事で、彼女もそのホスト役を買って出ている。小柄で、表情の片鱗に幼さを残すその容姿は、淑女達に果たしてどう映るか。
「おねーさまタイプなお客さんのハートをがっちりキャッチするぞー!」
「それもいいが‥‥あちらでもがっちりキャッチされているおねーさまを助けに行ってくれ。俺じゃあ流石に、カーテンの奥には介入できないから」
 そういえば、先程から部屋の隅から何か声が聞こえるような? 執事の彼が指差す先から聞こえてくる声に、フィオレンティナは聞き覚えがあった。
「一言にメイド服といっても色々ありますので、数回に渡る試着が必要なのです。間違いない」
「それは分かったのですが、エリスさん、さっきからあの‥‥て、手がいやらしくありません?」
「ありません。断じて」
 そこを覗いてみれば、何やら妖しい体勢で絡んでいるエリス・リデル(eb8489)と、その被害者である天界人、野元和美。
「あ、カズミはっけーん!」
「あ‥‥フィオレンティナさん」
「ダイジョブダイジョブ、取って食われはしないよー。多分」
「た、多分!?」
 彼女の励ましに根拠は無いが、まぁ、言わないよりはマシかと。
 そんな悶着の最中にも、お嬢様達を出迎える準備はしっかりと。
 応接室にて準備をする、音無響(eb4482)と、その手伝いをするサイ・キリード(eb4171)。
「あちらの声、気になります?」
「あ、いえいえ大丈夫です」
(「気になる事は否定しないのですね‥‥」)
 テーブルを拭き終えると、響はそこを花卉で飾る。
 卓上に花は咲かせた。あとは、お嬢様達との会話に花を咲かせるのみ。

(「明鏡止水の心でござる、田吾作。心頭滅却すれば非もまた涼しでござる!」)
「田吾作殿、大丈夫か?」
「大丈夫でござる。拙者、いたってKOOLでござる」
 この山野田吾作(ea2019)、もとより色恋沙汰は苦手な性分である。にも拘らず今回裏方ではなく敢えてホスト役に名乗りをあげた彼。一体何が、彼を奮わせたのか?
「なら、いいのだが」
 ここに一人、ドレスを来た一人のジャパン人がいるが多分関係ない。田吾作に馴染みの深い一人の女性がいるが多分関係ない。桜色に身を包み、黒髪を上げたそれはどこか花嫁を連想してしまうが、そんな事は多分、関係ない。
(「ええと、つまり‥‥女子の相手の仕方を勉強しに参ったのであって‥‥」)
「概ね準備は出来ている様だな。それでは、客人をこちらに招き入れる」
「う、うむ。それでは睦殿、宜しく頼む」
 片岡睦の背を目線のみで追う、田吾作。田吾作が何で女子の相手の仕方を勉強しようと思ったか。それに彼女は関係ない‥‥と言う訳でもない?


 銀髪の少女は呟く様な声で話しかけると、それに返す金の髪の女子は、対照的に遠慮の無い声であった。
「何だか今回は、冒険者の方々がお相手だそうです、ヨアンナ」
「らしいわねー。あーぁ、これがどこかの男爵なり子爵だったりしたら期待出来たのに‥‥」
 ヨアンナと呼ばれた少女は、扉の前にて溜息一つ。
「もし筋肉しか取り柄の無い野蛮な傭兵みたいのばかりだったら‥‥、はぁ」
「まぁまぁヨアンナちゃん、あまり邪険に構えちゃダメよ〜。それに冒険者の方達は紳士が大勢なの。きっと素敵な騎士様が迎えてくれるはずよ」
「そうよそうよー、きっと王子様がきてくれるのよー」
「きっと、とろける様な恋物語が沢山きけるんだよー」
「だといいんだけどね」
 他の女性からそう窘められる様にして言われつつも、ヨアンナは低テンションのまま、扉に手をかけようとした。
 とその時、部屋側の方から扉が引き開かれる。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
 開かれた扉から見えたのは金髪青眼の騎士、サイ。微笑みと共に軽く会釈をする。低姿勢ではあるが、それから卑屈さは感じなかった。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
「え、えぇ‥‥」
「いらっしゃいませ、お嬢様。心待ちにしておりました」
 部屋へと入ると、響が椅子を引いて彼女達を出迎えた。サイ同様、彼も笑顔を浮かべて淑女達を出迎える。
「乱暴でマッスルな戦士ばかりじゃなくて良かったですね、ヨアンナ」
「そうね――ってルティーヌ、今その事は言わなくていいの!!」
「はじめまして、サイ・キリードです。こちらのお二人は、ヨアンナ様とルティーヌ様とお呼びすれば宜しいでしょうか」
 サイが微笑を浮かべるたびに、彼の耳に飾られた銀が爽やかな輝きを放つ。
「べ、別に呼び捨てでも私はかまわないわよ!? 私の召使でもないんだし。‥‥何なら、知り合いみたいな感じでも問題ないわ、全然。むしろ、そこまで気を使われると逆にこっちが疲れるわよ」
「そう言って貰えると、こちらも気が楽になります。それでは、ヨアンナ『ちゃん』でも良いですか?」
「――ッッ!?」
「ヨアンナ、お茶吹くのはやめて下さい」
 何はともあれ、サイのお相手は盛り上がっておられる様なので一先ずOK。
「さて拙者、天界より参った山野田吾作にござる。き、今日はお日柄も良く――」
「あー。天界の救世主様だー。目が細いけどー」
「違うよ。王子様なんだよー。眼が怖いけどー」
 こちらは何やら、やかましい‥‥じゃなくて元気なお子様二名がいる。栗色の髪に、大きな黒色の瞳。忙しない様子はまるでリスの様。齢はやっと二桁になった頃だろうか、瓜二つの外見から双子だろうか‥‥等と果物の皮を剥いてあげながら、響はそんな事を予想してみる。
 元気なのは何よりだが、これを盛りさげない様にさせるというのも、またつらいものだ。
 その時、田吾作と目が合った妙齢の淑女は、何やら含みが‥‥いや、企みが有る笑みを浮かべる。
(「これは試練だ‥‥リーナ殿からの難題を乗り越えろという試練と拙者は受け取った!」)
 隅で一人茶を啜っている睦を時折チラ見しながら、何やら田吾作がダラダラ冷や汗をかいているが、傍らの響は皆目検討もつかない様子。まぁ複雑に絡む人間関係はここでは割愛。
「うーん、子供の元気についていくのは、大変そうだよね〜」
「大丈夫。田吾作さんは紳士だから、きっと大丈夫。それに私は、あなたの元気についてくのも大変とは思わないわよ」
 その淑女の相手を承るは、フィオレンティナ。既に彼女から、リーナと言う名前を聞いていた。
「えー! リーナお姉様ったらひどーい、ボクは子供じゃないんだからー!」
「あら、そうだったわね。でも、それくらい可愛いって意味なの」
「え、そうなの? それなら良かったー」
 頬を膨らまして拗ねたかと思えば、今度は肩に抱きついてくるフィオレンティナ。『押し引き』を上手く使っているようで、相手の機嫌も上々と言ったところである。
「このまま、お持ち帰りしたいくらいねぇ」
「リーナお姉様にだったら、いいよ‥‥なんて言っちゃったりしてー」
 ちょっと妖し‥‥イヤ怪しい雰囲気ですよ、うふふふふー、な二人。今はフィオレンティナが男役なので、決して間違った風景ではない。ちょっと二人の距離が近い気がしないでもないが、何の問題も無い。背景に百合の花なんて見えない。ええ、断じて。


「‥‥と言う事でつまり総括すると、奥手で、己が想いを打ち明けられない男児の、ままならぬ恋わずらいの話にござる」
「へー、その人はホント大変なんだねー」
「まるで、田吾作さん本人みたいだねー」
「ち、知己の話にござる!くれぐれも、拙者と間違えぬよう‥‥!」
 田吾作は自分の色恋事情を、あえて他人の様にして話題としていたが‥‥どう見ても本人の話です。本当にありがとうございました。話の折々に睦に目が合うたび、彼は、何かこう、臓物にずきりと来るモノを感じていた。‥‥実は、バレているのではないか、と。
「なるほど、田吾作殿の友人も苦労しているわけだな」
 と、茶を啜りながら睦。あ、全然気づいておりませんでした。
「う、うむ。全くでござるな。そやつは不器用で、結局自ら好機を逃がす事が多く――」
「しかしだ。想いというものは、気付かぬうちに相手に届いている事もある」
「む‥‥睦殿?」
「一、女性の意見として、友人殿にそう言っていこう‥‥」
 これは一体どういう意味か? それとも、本当にそのままの意味か!? 田吾作の頭の中で、様々な憶測が浮かんでは沈み浮かんでは沈み‥‥。
「睦さん、どうぞ」
「む、忝い」
 そうこうしている間にも、中身を飲み干した睦のコップにはサイが誰かに言われる前に茶を注ぐ。それだけではない。剥かれた果物の皮や、小さなお嬢様方の食べかす等の処置に、彼は余念が無かった。加えて、それをさり気無くこなしていくのだから、彼がこの茶会に齎す貢献度は高い。そう、ホストとは、『夢を見させるのが役目』ではなく、『夢を見させ続けるのが役目』なのだ。
「――それでね! この前‥‥ん? この匂い‥‥」
「パンでしょうか‥‥美味しそうな香りがします」
 話途中であったヨアンナ達は、厨房から流れてきたその香りに気がつくと、話を止めた。
「今回は、天界の調理人がお嬢様の為に腕を奮っております。なんでも、天界の蒸したパンだとか‥‥エリスさん、そろそろ完成する頃でしょうか?」
「はい、もう出来上がりましたので、まもなく皆様にお届け出来る頃合です」
 小さな容器にお茶の補充をしながら、エリスはサイにそう答えた。
 そして間も無くして、出来上がったそれを持ってきたのは‥‥
「ちょっと、カズミ? なんでここに?」
 一つのお盆に全員分の蒸しパンを乗せて運んできた、和美であった。
「皆様〜、た、大変お待たせいたしました〜‥‥」
「というか、凄く‥‥アンバランスです」
 ヨロヨロふらふら、これは見ている方が怖い。
「ちょっと和美ー、無理しちゃダメだよー!?」
「和美さん、危ない!!」
 堪らず、駆け寄ったフィオレンティナがお盆を押さえ、響が肩を支えた。
「あ‥‥すいません。ちょっと眼鏡がズレて。でも両手が塞がっていて、直すにも直せ無くて‥‥」
「とにかく、無事で何よりです」
 申し訳なさそうに言う和美に、響は苦笑にて言葉を返す。
 作られた天界風蒸しパンは、一口大の物。それらをお盆の上からテーブルに移しながら、フィオレンティナは明るく話し出した。
「カズミ、危ないところだったねー。でもこのメイディアには、更なる危険な目にあった冒険者がいるんだよ。‥‥性的な意味で」
「――ッッ!?!?」
「ヨアンナ、お茶吹くのはやめて下さい。サイさんの仕事が増えてしまいます」
「リーナおばさーん、せいてきな意味、ってどういう意味〜?」
「かっこいい言葉な気もするけど、それってどういう意味〜?」
「‥‥ルトちゃんもロートちゃんも、まだ知らなくていいのよー」
 なるほど、あの小さなお二人の名前はルトとロートと言うのか‥‥等と冷静に考えながら、サイはニコニコ笑顔を崩さないまま、テーブルを拭き拭き。凄く、冷静である。
「ここで一つの冒険譚を紹介しましょう。音無さんと山野さんが、いかに勇敢に全裸変態達と戦ったか、そして性的な意味で破れたかを。そう‥‥二人とも無事ではすまなかったんですよ」
 袖で涙を拭う(仕草をしながら)エリスが独白の様に呟くと、響は赤く染める。
「田吾作殿‥‥友人以上に‥‥大変な思いを為されたようだな」
 睦にそう言われた田吾作に至っては、思考回路が限界を突破したか、まるで病的に「‥‥人生オワタ、‥‥人生オワタ」と小声でうわ言を呟いていた。
「いえ! 不審者を退治する依頼でして。何事も無く且つ異常無く、依頼を完遂したんです!」
「まぁ、実際のところはそんなところです。事実は小説よりも奇でない事だってあるのです」
 響が訂正を入れると、エリスはそれを肯定。結果、事無きを得た形で盛り上がったので、まぁ結果オーライだろう。
「そうか、田吾作殿‥‥良かった」
「ん、何か‥‥申されたか? 睦殿」
「いや、何も‥‥」

 迎えの馬車が来ると、お嬢様達が帰路についてゆく。
「それじゃねー☆」
「まぁーたねー♪」
 ルトとロートの手には、缶ジュースが握られている。最初はデザート用に料理担当に渡そうとしたのだが、それを出した際、二人がそれを気に入っていた様子なので、そのままあげて今に至る。勿論中身の味が魅力なのであるが、そのもの珍しさから、少しの間は二人の玩具になるかもしれない。フィオレンティナは、乱暴に扱うと中身が出てくるので注意するように、と一応二人に伝えておいた。

 会場では終わった後の後片付け。
「折角の場でしたので‥‥クーラさんも参加すれば良かったのに。‥‥あの執事さんを誘って」
「私とあいつの関係。それは主人と執事、というだけよ」
 エリスにそう言われると、クーラは一瞬だけ間をとったものの、すぐにそれに返した。
「それ以上にも、それ以下にもなるものではないし、そもそも‥‥するべきじゃあないの」
「そんなの、真紅のカクテルドレスでも着て相手をケモリン化させてしまえば関係ありません」
 それもまたそれで問題があるような‥‥とは思ったものの顔には出さず、清々と黙々と、作業に当たるサイは、最後の最後までホストの鑑である。
(「しまった、すでに後片付けが始まっている!」)
 一人分お菓子をとっておいた響であったが、ここに来て計算が狂ってしまった。和美と一席設けられれば、と思っていたのだが‥‥。
「あの、すいません響さん。実はお話がありまして‥‥」
 そんな響に話しかけてきたのはなんと、和美本人。どうやら彼女、雑事一般をこなしていたようで、それなりの忙しさだったとの事。
「実は私‥‥今日まだご飯食べていないんです‥‥でもこの辺りよくわからなくて、それで‥‥一人だと不安なので響さん、もし暇でしたら‥‥」
「お、俺で良いんですか?」
 響は不謹慎だと我ながら思いつつも、彼女の仕事の慌しさに感謝した。

「ん? 誰アルか?」
「ご馳走様を言いに来たのよ。一人ここに篭りっ放しだったら、寂しいでしょう?」
 お茶会も無事(?)お開きとなった後、リーナは一人厨房を覗きに来ていた。
 そこにいるのは、小柄なドワーフ。調理後の片付けに勤しんでいるところだ。
「接客は伊達男達に任せたヨ。私、作る故郷の料理が人々に受け入れられればそれで本望。ちなみにアレ、マーライカオって言うネ。『おいしかった』とでも言ってもらえれば、それだけで十分アルよ」
「おいしかったわ。今日もどうもありがとう、異国のコックさん」
「謝々,姐姐」
 柔和な笑みを浮かべながら、操群雷(ea7553)は深々と礼をするのだった。