【アバラーブ家の家庭の事情】お稽古は外で
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2007年10月02日
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●オープニング
「お外でお稽古するのー」
「お屋敷だと退屈なのー」
残暑の日和に、こうも騒がれると鬱陶しさを感じられずにはいられない。その二人、黙っていれば可愛い気のある女子だというのに。
「お嬢様方。この前の事件の様に、昨今物騒なご時勢ですのでお母様は心配しておるのです。また、人間の不埒者の限らす、カオスニアンや魔物などがはびこっておりますので、外でのお稽古となると大変危険なのですよ」
「だったらそれを倒すのもお稽古になるよー」
「じっせんてき、っていいことだと思うよー」」
執事が静かに言う分、殊更少女二人の騒がしさが際立つ。
「‥‥わかりました。ルト様、ロート様。お母様に相談をしてみますので、少々お待ちください」
ため息まじりに降参宣言をする執事を見て、また二人は声を揃えて歓喜していた。どうにしても、騒がしい二人である。
アバラーブ家というのは、武術の腕で名を馳せた貴族である。今は亡き前当主は特に武人肌の強い人間で、『自分より強い者が次期当主』などと言って憚らなかったことは、周辺の人間の記憶に新しい。
脱線はさておき。
そんな家であるから武術の習熟に力を入れる当然といえば当然なのだが、例え女子であっても例外でないのは、如何なものか。
「ついでに新しい先生も呼んでよー」
「弱い先生だとつまらないんだよー」
そのせいで、腕の立つ、かつ小うるさい少女(歳自体は10歳前後だが見た目が‥‥)という可笑しな存在が出来上がってしまった。世話一般を任されている者は、大変である。ルトとロートが無茶やわがままを言っても、それの対処をしなくてはならない。
「‥‥と、言うような具合ですが、如何いたしましょうか。さすがにこの前の事件もありますので、聊か危険かと――」
「かまわないわよ、別に」
声色は執事の語尾をかき消すのは、ルトとロートの『お母様』であった。
「‥‥野犬程度ならまだしも、奇異な者やカオスニアンなどに遭遇する可能性もなきにしもあらず、です。もし何か有った場合は『アバラーブ家は己が娘を蔑ろに扱っている』との風評がますます広がるでしょう」
「だったら、冒険者でも数人つれていきなさいな。そうすれば世間体は守れるでしょう」
『お母様』に相談するたび、執事のトールスは思う。なぜこうにも冷たくなれるのか、自分の娘に。
「そんなことより、例の賞金首はまだ捕まえられていないの?」
「ええ、未だ‥‥」
「そう。それでは、引き続き、依頼の申請等の事務処理をお願いするわ。あなたは、あなたのできることを抜かりなくやりなさい」
そう聞くと、トールスの静かな面の眉が僅かながら、動いた。
どうやらアバラーブ家というのは、複雑な事情のある家のようだ。
そしてギルドに依頼書が出される。内容は『貴族令嬢2名の剣術指南、及び警護‥‥』。
その依頼書をまじまじと見つめる女性が一人。
『‥‥尚、移動用にチャリオット一機貸し出し可能』
(「あったあった! チャリオットが使える依頼! 恐獣とか、大きな敵もいないみたいだし‥‥」)
「依頼への参加希望者でしょうか?」
「は、はい。そうです」
「それではこちらに、必要事項のご記名を」
ずれた眼鏡の位置を直しながら、彼女は依頼書に署名する。『野元和美』と。
野元和美21歳
■天分
高め:器用、直感、知力
低め:体力、敏捷、精神
●戦闘スキル
・射撃:初級上位
・回避:初級中位
・ゴーレム操縦:専門中位
・精霊魔法[地]:専門下位
●一般スキル
・地上車:専門中位
・天界知識万能:初級上位
・家事:専門下位
・話術:初級中位
・踊り『社交』:初級下位
・書道‥‥
「あ、別にそこまで書かなくてもいいです」
「え? あ‥‥すいませんっ」
それなりに経験をつんでいるようだが、いまいち垢抜けていない女性‥‥というのが、係員の彼女対する感想だった。
「次通過するのは‥‥平野か」
「どうしたナイル、難しい顔して。何も無いところだし、面倒じゃなくていいだろ」
「何も無いなら、容易に発見される等の別の危惧が出てくる。真の意味での平野など、俺達にはどこにも無いものさ」
●リプレイ本文
「和美さん、あの‥‥」
「え‥‥あ。ハイ、何でしょう? 響さん」
和美に話しかける音無響(eb4482)の声に、こうも遠慮の色が滲むのはナニユエだろうか? 何か、理由があるはず。何か、思い切った事を言おうとしているとか‥‥。
「ぇと‥‥チャリオットの運転、上手くなりましたね(違う、言いたいのはそういう事じゃないんだー!)」
「ありがとうございます。あ‥‥そう言えば以前は、エンストしちゃいましたからね‥‥」
「べ、別にそういう事言っ‥‥ああ、気を落とさないでくださいっ!」
しかし、こういう感情は、なかなか双方で合致出来ないもの。
「うーん若いねー」
「ふむ‥‥」
「拙者、何故か他人事と思えぬ‥‥」
積荷降ろしや、宿営資材の展開を行いながら、他の男性陣(無天焔威(ea0073)、ランディ・マクファーレン(ea1702)、山野田吾作(ea2019))は暖かい視線を響達に送る。
一行はチャリオット、又は己で用意した馬を用い、現地に到着していた。
見晴らし、良し。天候、良し。晩夏における陽精霊は、心地よさに留める程度の熱を地上へ放ち、自然に気分を高揚させる。
詰まる所、本日は絶好のキャンプ日和という事だ。
「ゴーレム用だからー」
「重くておっきい剣ー」
「わわ、二人とも! ゆっくり振るッスよ〜っ!」
既に、ルトとロートへの剣術指南に当たっているのは、フルーレ・フルフラット(eb1182)。ギガントソードは絶大な破壊力を有するが、その分、重い。ルトとロートは明らかに、剣に振られていた。それでもどこか楽しそうなのは子供の証拠か。
「ちょっとこれは無理そうッスね。じゃ、ちょっと待っていてほしいッス」
ギガントソードを使ったトレーニングはとりあえず次の機会に‥‥と言う事でフルーレはまた別の準備をしだす。でも子供と言うのは、その『ちょっと』を黙って待てないものである。
「あー俺もちょっと和美に話してこよーっと」
「拙者、少々二階堂殿に話がござる故‥‥」
それとなく察した焔威と田吾作は退避に成功したのだが‥‥
「さて、俺も‥‥」
「「どっかーん!」」
いきなり二人に背中から体当たりされて、困惑するランディ。しまった、退避失敗。
「おにーさんからも教わるんだよー」
「だからイロイロお話するんだよー」
例えるなら、警戒心を捨てたリスの様なもの‥‥栗色の髪・パッチリとした黒瞳の二人を見ながらランディはそんな事を思うが――さて、何を話そうか? 名声轟かす熟達の剣士、ランディ・マクファーレン。正直、子供が苦手である。
そんなランディの苦手意識はお構いなし。この二人の、なんとかしましい事か。物珍しさからか、キャッキャ言いながら彼の下げる勲章を引っ張ったり突っついたり‥‥好き放題である。
「――エルデ、御令嬢方に挨拶を」
というわけで、ここで最終兵器。彼のエレメンタラーフェアリー、エルデの登場である。
「あいさつー♪」
「わぁ、きらきらしてるー!」
「わぁ、ふわふわしてるー!」
どうやら御令嬢二方、お気に召した様である。これで暫くは、ランディの装備が引っ張られずにすみそうだ。
「日差し対して、ではなさそうでござるな‥‥」
アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)が目を細めながら、天と地の境界線を見つめる理由‥‥田吾作は問う。
「何事か、不安にござろうか」
「不安というよりかは‥‥予感に近いものである」
凶なるモノの――と付け加えられた返答。しかし、えてして良くない勘ほど当たるもの。
「――っておおおお!? げふん!」
アルフォンスの予感は、数十分後に的中する。ルトの繰り出す訓練用の木刀が彼を痛打したのだ。子供は手加減を知らないから、困る。
「えぐるようにしてー」
「打つべし打つべしー」
「よく出来ましたー。で、実戦では‥‥こう、ね‥‥相手を上手に刺したらこう捻るの‥‥傷口から空気が入れば、確実に死ぬから」
「「はーい焔威せんせー」」
思った以上に殺る気満々のルトとロート。最初、焔威が彼女らに対して「この訓練はどれくらいのものを要求しているか」と問うと、「実戦に活かせるレベルのものを」と返って来たのだ。メイディアがもし戦時中でなければ、護身術程度のもので満足だったのかもしれないが。
「アルフォンスさん‥‥ だ、大丈夫なんですか?」
「た、多分‥‥」
見学していた和美は、アルフォンスのやられ方を見て思わず尻込み。彼女に答えを返す響も、少し言葉を濁す。
これは油断できないな‥‥そう胸中呟き苦笑しながら、響は一歩前に出た。
「さて、それじゃあちょっと実戦形式で戦ってみようか」
響の腕を信じないわけではない、が‥‥どこか不安を孕んだ瞳で彼を見る和美。
そして打ち合いが始まってすぐに響は気づく、ロートとルトは、役割分担をして戦っている事に。片方が手数で相手を押し、もう片方がそれで出来た隙を突くという戦法をとっている。
剣の腕は響の方が上なのだが、流石に数的不利は芳しくない。捌ききれなかった攻撃が彼の懐に潜り込んでく――
――る前に、焔威が文字通り横槍を入れる。
ライトニングスピアの石突でルトの軸足を突くと、攻勢に出た勢いを殺し切れずに顔面から派手に転ぶに至った。
「ふ‥‥ふぇ〜えん! 邪魔されたー! ふぇぇ〜」
「焔威せんせー! 不意打ちなんてヒキョーだよー」
なんだか変な泣き声で呻くルトと、それを撫でながら抗議の意を露にするロート。
しかし、焔威は一切悪びれなく言う。
「何も、いきなり打ち込んだわけじゃないんだよー。俺が穂先をルトとロートに向けてから、1、2分は経ったかなぁ」
彼は続ける。
「ルトも、ロートも、お遊戯をしたいなら屋敷に戻るといいよ。最前線の戦いがだったら、周囲の見えない戦士なんて使い物にならないでしょ? そもそも、絶対に2対1が出来る保障もないし‥‥そんな事意ってもいないし」
たしかに実戦形式とは言ったが、流石に泣いている女の子にその言葉は堪えるのでは、と思っていた響であったが‥‥
「そっかー、そうだよね!」
「さすがは焔威せんせー!」
杞憂に終わる。こういう所は、単純でいい。そう聞くと、焔威は傷薬を、ルトに投げ渡す。
(「痛くなければ覚えませぬ‥‥とはよく耳にする道理。これでご令嬢方が習熟への近道となれば、焔威殿が後に恨まれる事はありますまい」)
ランディと周囲の警戒に当たりながら、そんな事を田吾作は思う。
「あ、もしさっきの一撃が出せたとして‥‥ルトさん、ちょっと打ち込んでみて」
「はーい、それでは‥‥とりゃー!」
「うん、そこで一気に踏み込んで‥‥受け流しは、相手の力も利用するんだ! 特に二人は体力面ではどうしても不利を被っちゃうから、なるべくそういう所も上手くなれる様に頑張って下さい。まぁ、体力面って話したら、俺もなんだけど‥‥」
「はーい、響せんせー」
修行、順調に進行中。
さて、和美もいい加減精霊魔法を覚えるつもりでいるのだが‥‥どうも決めきれない優柔不断さが、彼女らしいと言えば、彼女らしい。
「魔法を補助とするならバイブレーションセンサー、物理攻撃の効き難い相手も想定するならグラビティーキャノン‥‥あたりか」
戦闘を主軸に考えた助言をするのは、ランディ。これも、実に彼らしい。
「個人的なお勧めは、サイコキネシスかな。超能力者みたいだし、家事等でも便利に使えそうだから」
家事まで考えるとは‥‥そんな事を言い出す響は家事上手。専業主夫もお任せあれ。
「和美が覚える魔法はブラックボール推奨〜。だってーサイコキネシスて魔法の中で 一 番 地 味 だもん」
焔威曰く。まぁ地味云々は抜きにしても、ブラックボールは便利な魔法です。
と、まぁ各人色々な考えがあるのだが‥‥。うーんうーんと呻きながら悩む和美。そんな彼女に声をかけてきたのは、響の声。但し、思いは空気の振動を借りない。思念会話の精霊魔法、テレパシーだ。
「(俺はゴーレムに乗ってる時とか、携帯みたいに仲間に連絡出来たらいいなって思ったから、これを覚えたんです‥‥和美さんは何がしたい?)」
「(私は、もう人に迷惑かけないようにしたいです。それと‥‥)」
「(それと?)」
「(‥‥今まで迷惑をかけた分、その人達に恩返し出来たら‥‥って思っています)」
頷きながら、真摯な眼差しを向け続ける響であったが、何の拍子か‥‥周囲を見渡すと、アレ? みなさんどちらへ言ったのですか?
「あのぅ‥‥響さん響さん」
真に申し訳なさそうに、フルーレがこめかみをポリポリかきながら声をかけてくる。
「声に出していない分‥‥無言でずっと向きって見詰め合っているのって、なんだか凄く‥‥意味深ッス」
冒険者は時として、空気を読むスキルも必要になる‥‥のか?
休憩も程々に、訓練再開。ランディから貰ったクッキーを燃料に、再び姉妹は動き出す。
さて、次の訓練はフルーレが持つのは烏帽子兜を空中で叩き割る、というもの。
「でも、屋内でやると危ないので外でやりましょう。先生とのお約束ッス♪」
「「はーいフルーレせんせー!」」
「それでは、まずは先生がお手本を見せるッス」
二人の返事を確認すると、フルーレは構え‥‥天高く兜を投げる。陽光に目を細めながらも、彼女は対象をしっかりと見極められている。
がしゃん。
破砕音‥‥ではない。兜はそのまま割られる事無く、地面を転がっていた。
「敵襲ッッ!」
焔威の叫び。
まるで、何かのスイッチの如き切り替わり。一同、気持ちも装備も、訓練から戦闘へ。
「野元は御令嬢二人を乗せチャリオットにて退避準備、響はそのサポート。その他メンバーにて荷物の積載。終わり次第、順次遅滞戦闘に」
「「わ、私達も、戦うんだよー」」
ランディの指示に対して、ルトとロートは持参の剣を抜いて反論するも‥‥
「ルト〜、ロート〜」
焔威の声に振り向くと、甲高い金属音。アバラーブ家の家紋付きのレイピアが、地に落ちていた。
「勘違い娘がしゃしゃり出れば、次に落ちるのはそれを庇う仲間の命だ。覚えておけ」
反論出来ない、二人‥‥そんな二人を抱えるのは田吾作とフルーレ。和美が乗っているチャリオットへ走る。
「ぅう、はーなーせー!」
ボカボカと叩かれながらも、田吾作は諭す様に言った。
「冒険者にはどんな新人でも真っ先に覚える伝統の戦い方がござってな‥‥『逃げる』のでござるよー!! 三十六計、逃げるに如かず!」
フルーレはどちらかと言うと、あやす様に。
「相手の実力が未知数なので、ここは安全第一ッス」
「でもー‥‥」
「習得した技術を試したいのなら自分が何時でも相手になるッスよ♪」
「本当? 約束だよ、フルーレせんせー!」
「約束ッス! その為にも、今は先に家に帰って‥‥後は先生達に任せるッス」
今は相手の輪郭を確実に捉えられる者は冒険者の中にいないが‥‥恐獣に乗ったカオスニアンの一団に、覚えのある者も、いる。
勿論それは、相手も然り。
「おやナイル、人間にお友達がいるのかい?」
「お友達なら、俺達が弓を使える事を知っているはずだが?」
そうだな、と苦笑しながら、カオスニアンは弦を引いた。
「ついでに教えてやれ。秋の天気は気まぐれ、ってな」
ナイルと呼ばれた男が掲げたハルバードが振り下ろされるのを合図に、一斉射撃。天候は、秋晴れから嫌な雨に切り替わった。
剣の間合いよりも遠くからの射撃に、各人の盾か回避力以外に、冒険者達は応戦手段を持たない。アルフォンスがオーラ魔法を構えるも、流石に距離が足りない。
矢は、チャリオットにも届いた。令嬢二人の分は盾で弾けたが、和美への矢には、盾が追いつかない。
「くぅ!」
「き、響さん!」
「‥‥俺の大切な人には、指一本触れさせない! 和美さん、俺の事よりチャリオットの起動を!」
身を挺して響が操縦者を庇い、チャリオットは動きだした。
そして他の冒険者は‥‥応戦手段を持たないならば、近づくまで。騎士達がカオスニアン達へ接近する。
「近づかれるまでは馬の方を射て。弓無い者については、チャリオットの方を追え!」
「そうはさせん、ご令嬢方へ辿りつきたくば、この山野田吾作を討ち取ってからにせよ!」
迂回してチャリオットを追おうとする者については、田吾作が迎え撃つ。卓越した手綱捌きは、馬上の戦いにおいてカオスニアン達より彼に分がある事を明確にしていた。
白馬に跨る黒衣の騎士・ランディは風が如く、駆ける。
忍者刀と槍が打ち合い、お互い切っ先が対象から外れる。お互いの刃が向かう先は騎乗者ではなく、乗り物。
「同じ考えか!」
男が咆哮混じりの一撃を繰り出す。敵もランディの様に、まずは足を止めようと考えているのだ。
「いや‥‥」
愛馬フェーデルに迫る穂先を、盾で横から殴る様にして弾く。
「まかり違っても、同じ等と口にするな。気分が悪い」
そのまま懐に切り込み、そのまま走り抜けながら恐獣の前足を切り払う。
「‥‥浅いか?」
「貴様また‥‥よくも手懐けた恐獣を!」
敵は一人ではない。数的有利はカオスニアン達にある、ランディにも捌ける攻撃量に限度がある。彼を乗せるフェーデルがペガサスであるため、治癒の魔法を使えるのが、せめてもの救いか。
「さて、俺の動体視力と馬術でどこまでいけるかな?」
ここで焔威が介入し、包囲される危険性は薄められた。時間を稼ぐだけなら、なんとかなるだろう。
「また会うたか、カオスニアン!」
「再会を祝すのにこんなプレゼントとは、いい根性じゃないか」
アルフォンスの投げた生石灰の袋をハルバードで刺し貫いた状態で話す、ナイル。
「生憎こちらとて無駄な消耗はしたくない。チャリオットも随分遠くに行った様だし‥‥」
「「はっはっは! ならばいつものように涙目で尻尾を巻いて逃げてはどうだ!」
挑発的なアルフォンスの言葉に心なしか、ムっと表情を濁らせるナイル。
「もっともこちらから先には行かせぬがな!」
「てめ‥‥調子乗っていると――」
言いかけ、ナイルは自身への陽光への遮りに気がついた。その方向へ武器を向けると‥‥グリフォンと、それに乗るフルーレが見えた。
空中からのチャージング。受け止める錆びたハルバードが、軋む。
「どうして‥‥」
手と声を震わせながら、フルーレ。
「どうしてアバラーブ家の紋章が。あなたのハルバードに付いている!?」
ハルバードに彫られた、獅子の紋章‥‥それは間違いなく、先程姉妹のフルーレに彫られていた物と同一。
「そうか、さっきの小娘達が‥‥」
呟きながら、ナイルは切っ先を返してフルーレの握る手綱を断ち切る。彼女はバランスを崩しながらも、愛騎にしがみ付き転落を免れる。
「これ以上は割りに合わない。退くぞ!」
「ま、待つッス!」
フルーレに向け、ナイルはハルバードを向けながら言い放った。
「見逃すんだから、帰れ。帰ってせいぜい二人に伝えるんだな。今亡き父の仇が、どんな者であるかを」