【もえでび】新ジャンル「強気ドジっ娘」

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2007年10月09日

●オープニング

 蹄が地を蹴る音が聞こえる度に、二刀を持つ女剣士は神経を研ぎ澄ませた。
 前方から来る相手の刃は、回を重ねる度に加速度を増してきている‥‥そんな錯覚に見舞われるほど、彼女は消耗していた。危なげに、二刀流の小太刀によってそれを弾く。
「ほぅ‥‥これほどまで私の剣を受けられる人間に会えたのは久しいな」
 その長剣の持ち主は馬の上から見下ろしながら言った。鎧を着込んだ女騎士の風貌でありながら、凛とした‥‥歌姫にも劣らない、澄んで通る声で。端正な顔立ちと短く切り整えられた赤髪、深紅の双眸‥‥これは、見る者に魔性じみた印象さえ与える美しさ。
 跨る馬は蝙蝠を思わせる両翼を携えている事から、事実、魔性の者であろう事は明白だった。
「姓を片岡、名を睦と言う」
 それでも臆する事無く、黒瞳黒髪の女剣士、片岡睦は名乗る。それを見て、魔性の者は微笑を返すと馬から降りて近づくと、僅かに会釈をする。それでも勿論、構えを緩めない睦。
「こちらの名乗りが遅れた非礼を許されよ。私はアビゴールの眷属、名をイルリーフと言う。人間のカテゴライズに従えば『カオスの魔物』という存在になるだろう」
 やはりか‥‥と睦は、己の刃が相手に触れても傷一つ付けられなかった事態に対して納得した。銀か魔力が施された武器でなければ、魔性の者を殺傷出来ない事は、噂程度であるが睦も知っている。
 だがイルリーフと名乗った彼女はカオスの魔物としての能力以前に、卓越した剣術の持ち主であった。その太刀捌きたるや、睦が今まであったどの剣士よりも優れたもの‥‥羨望さえ感じるほどに。
「しかし、貴様もなかなかの剣士。卑下することは無い。魔術に頼りきりになりがちな同族の下等種よりも、余程磨き抜かれた腕の持ち主だ」
 こちらの考えを表情から汲まれたか‥‥、心を読んだ様にしてそう言われ、動揺を隠し切れない睦に対しイルリーフは言葉を続ける。
「叶うのであれば、貴様の様な剣士と同じ旗の下にいたいものだ。どうだ? 善なる存在を滅する為に剣を振るうのであれば、手を‥‥」
「お前の手は、とれない」
 言葉短く、されど明確な拒絶を言葉と瞳に宿し、睦はイルリーフに返す。
「残念だ‥‥ならばその気高き魂、せめて私の手の中にて永らえよ!!」
 魔性の術の中には、相手の魂を抜き取るものがある‥‥そんなうろ覚えの記憶を引き出しながらも、睦は身構える。
 だが、どうする!? どうすればそれを防げる?
 少なくとも今の彼女に対抗のすべは、無い。
 詠唱が、終わる。
「さらばだ」
 イルリーフから、魔力が解き放たれ――

――あれ?

(「何も‥‥おきない?」)
 目をパチクリさせて、睦。状況が掴めない。今さっき、確かにイルリーフは呪文を唱えたのだが‥‥。
「‥‥愚か者め! 不発の装いに気を許したな!」
「何!? しまった!」
 再び術を行使せんと構えるイルリーフ。睦は自分の浅はかさを呪った。
 しかし‥‥また、何も無い。夜風が雑草を撫でる以外に何の音さえも無い。
 暫し、沈黙。
 先に声を出したのは、睦。
「もしや、術に失敗して‥‥」
「失敗って言うなぁ!!」
 はわわ‥‥、読者各位、敵が怒っちゃいました。
 過剰なまでに反応されて、驚く睦をよそにイルリーフは続ける。
「お前達が思っている以上に、カオスの魔法は難しいんだぞ! ‥‥ぅっ、それを、貴様の様な、剣しか握ったことの無い者が‥‥ぅっ、ぅっ‥‥」
「泣いて、いるのか? イルリーフ殿」
「泣いてなどおらん‥‥ぅっ」
 よしよし、とイルリーフをあやす睦。ここまではっきり泣かれると、どうしたらいいものか‥‥悩む。
「幾年と、剣の磨きに費やしてきたのだ、私は‥‥」
「そうか‥‥。それは、難儀であった」
「たまに使う魔法で‥‥ちょっとくらい間違えても‥‥ぅっ‥‥いいじゃないか‥‥ぅっ‥ぅっ‥‥」
「なんだ、その‥‥とりあえず、気の毒であった。べっこう飴くらいしか持っていないが、これでも食べて機嫌を直すのだ」
 それを睦から受け取り、もぐもぐ‥‥としている途中、ハっ! と気づく。
「敵に施しを受けるほど、落ちぶれてはおらぬ!」
 どこか発音悪く言うイルリーフ。口の中に物を入れたまま喋ると、こうなる。
「‥‥運がよかったな、今日は調子が悪いようだ。然るべき後日、再戦としよう」
 なんか勝手に再戦とか言っちゃっているんですけど。勿論受ける義理など無――
「良いだろう」
 受けちゃっているんですけど。もうお前ら、どうにでもなーれ。
「ふ、どうやら話がわかる人間のようだな。それでは‥‥」
 踵を返し、自分の馬に戻るところで、
「一つ、聞きたい」
 睦が問う。
「なんだ?」
「そのままその馬に乗って帰るのか?」
「‥‥? そうだが何か?」
「いや‥‥なんとなくではあるが‥‥物の怪の類がその場を離れる時は、こう‥‥シュっと消える印象が‥‥」
 そう聞くと、またイルリーフの瞳が潤んできた。
「わ、私だってなぁ! 本当はそれくらいできるんだぞ! 本当はなぁ!」
「ならその、なんだ‥‥そうやって帰ったほうが‥‥。私が言うのもなんだが‥‥今日は疲労からくる不調の様であるゆえ‥‥」
「う‥‥うわぁぁぁぁん! ロシナンテーー!」
 泣き叫びながら、自分の馬の方へ走るイルリーフ。多分、ロシナンテというのが、その馬の名前なのだろう。
 びたん! あ‥‥走っている途中、何かにつまずいて転んだ。
 何か可哀想なモノを見る目の睦をヨソに、イルリーフは愛馬ロシナンテに乗り、忙しく駆け出した。何か、振り落とされそうになったように見えたのは気のせいか。
 そうして自分一人になってから、睦は呟く。
「ふぅ‥‥手ごわい相手だった‥‥」
 他に何か、言うことは無いのか!?


 後日、片岡睦はギルドに報告する。
 内容は、己が受けていた依頼『とある古戦場に見受けられる不審者の調査』の正体がカオスの魔物であり、その退治がまだ未完遂である事。
「剣の腕は勿論‥‥その日はたまたま相手が本調子ではなかったのだが、どうやら魔性の術も使うようだ」
「ようだ、とはどういうことでしょうか?」
 ギルドにて係員にそう問われる。
「いや、使おうとたようだのだが‥‥不発に終わり‥‥」
「人型のカオスの魔物で、呪文の詠唱に失敗する奴なんて初めて聞きました」
 なんだか憎めない存在に思えなくは無いのだが‥‥カオスの魔物なので放っておくわけにもいかない。なんだか再戦も約束してしまったし‥‥。
「とりあえず、他の冒険者を増援に呼びましょう」
「宜しくお願いする」

 再戦の場所は当初の戦いと同じ場所、古戦場。周辺に錆びた武具が転がっているが、基本的には戦いに十分なスペースがある。時間は夕暮れ時。夜目の聞くものであれば、それほど不自由を被ることも無いと思われる。
 通常の決闘の様に、理由を相手に述べ相手が納得すれば、決闘者に代理を立てることが出来る。

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8489 エリス・リデル(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 彼女は周りを見渡す。
 ああ、ここはなんて綺麗なお花畑だろう。うふふ、あははーもうどうにでもなーれー‥‥

「――つみ殿、睦殿!」
 気がつくと、彼女には山野田吾作(ea2019)の姿が映った。
「大丈夫か、意識が飛んでいたぞ」
 声の主は、バルディッシュ・ドゴール(ea5243)。片岡睦(ez1063)は我に返った。睦は今、特訓の最中。
「それでは、訓練再開であるな。睦殿がぶっ倒れぬ様に拙者、より一層のサポートに努めるであるぞ」
「具体的には、何を?」
 音無響(eb4482)の問いは、アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)へ。
「応援である。皆、ファイトであるぞー。ワンモアセッ」
 それゆえ訓練には参加しなくていいよね? 答えは聞いていない。

「如何なる事情においても、訓練内容に変更は無い。これは、キミ達をカオスの者などに遅れをとらぬ一人前の騎士にする為である!」
「サー・イエッサー! ッス!」
「そうだ、返事はそれ以外認めない。尚、敗戦主義者の様な軟弱な逃げ道を自ら作らないためにも、メニューには時間制限が設けられている。半刻以内だ、半刻以内に完了する事。これを、屈強な騎士への第一歩とする」
「さ、さーいえっさー」
 たどたどしい睦と、わりとノリノリのフルーレ・フルフラット(eb1182)。
 打ち込み五千本、『休憩』の腕立て伏せ腹筋背筋二百回参セット、再度打ち込み五千本。これが、鬼軍曹バルディッシュの課した訓練内容である。途中で倒れる奴はただの騎士だ。倒れないのはよく訓練された騎士だ。ホントこの訓練は、地獄だぜ!
 しかし、カオスの剣士イルリーフは文字通り人間離れした剣術の使い手。この地獄を乗り越えなくては、睦に勝ち目は無い。
「確かに、地獄の訓練である‥‥拙者、この依頼が終わったら――」
 言いかけた田吾作の肩に手をかける者が1人。彼が振り替えれば、横に首を振るアルフォンスがいた。
「天界では、戦場に赴く者がその前日にささやかな夢をこぼすと、決まって骨となって帰郷する事となる‥‥らしい。拙者は知己の弔いする程、長生きをしたつもりはないのである」
「自分、この依頼が終わったらお婿さんが見つかりそうな気がするッス!」
「はぅ! そこでそなたが言っちゃうのはあまりにも不意打ちである、フルーレ殿!」
「ほう、どうやらまだまだ余裕があるとは、メニューの組み方が甘かったな‥‥時間制限を今までの半分にしよう。よし、アルフォンスも打ち込みのサポート要因に加わるんだ」
「「はぅ!」」
 フルーレとアルフォンスの悲鳴がハモった所で、響とエリス・リデル(eb8489)が呟く。
「‥‥死亡フラグ」
「‥‥成立ですね」


 さて、次は真剣を用いた実践的訓練。
「というか、ソレは実践というより、むしろ実戦じゃあ‥‥」
「うむ、これは紛れも無く実戦だ」
 不安そうに言った響に、毛ほども濁りの無い声色で返すバルディッシュ。
「魔物なれども正々堂々たる女騎士‥‥ッスか。ともなれば、この身に流れる騎士の血潮が燃え尽きるほどヒート! ッス!」
「‥‥熱いな、フルーレ殿」
 ハートを奮わせているフルーレが、睦の打ち合いの相手。馬術と剣の心得、それと軍馬を有する彼女なら、仮想イルリーフとしての役割を果たせるかも。
 同じ条件に田吾作もいるが‥‥、
(「それにしても、修行に励む真剣な眼差しがお美しい‥‥。教わる姿が様になると言う事は、教える姿も様になりましょうな。ああ、2人でメイディアに剣術道場など出せたなら! きっと、城下の子供達にも優しくご教授される事にござろう。子供‥‥子供――」)
「隙有り! めーんっ、である」
 田吾作が何かイメージを膨らませている所にアルフォンス、槍の柄による打撃を見舞う。「はぐぁッ!」と短く悲鳴をあげ、タンコブを膨らませる結果となる。これでは、睦と打ち合いをした時はどうなる事か。
「うむむ、エリス殿。忝い」
「まぁ、ある意味名誉の負傷です」
 田吾作のタンコブの応急処置をしながらエリスは、内心睦への心配に満ちていた。
(「しかし聞く話によると、敵はドジっ子‥‥。睦さんも手強い相手と戦う様ですね。アホ毛属性を持つ睦さんと言えどもこのままでは分が悪い。こうなったら‥‥彼女も新たな属性を得るしかありません」)

 打ち合いは真剣を使っているだけあって、やはり緊張して疲れる。普段は背中に棒でも入っているかの如く背筋が真っ直ぐなフルーレや、睦といえども思わずダレてしまっている。
 剣の腕はややフルーレの方が睦より上で、訓練相手としては力不足に陥る事はなかったのだが‥‥、イルリーフのコピーには至らなかった。単純に力量の問題ではない、睦が西洋剣術に対して知識が薄い為である。「せめて自分の知る流派であれば‥‥」そう口惜しそうに言う睦を響が慰めていた。
「ところで、俺の貸した剣で大丈夫そうですか?」
 今、睦が腰に差しているのは響から受けた片刃反身の刀剣。
「うむ、刀身のわりに重量を感じない逸品。有り難く使わせてもらっている」
「そうですか、それは良かった。‥‥カオスの魔者は人を陥れるのが得意と聞きます、きっとその魔物も‥‥何にしても、用心に越した事はありません。気をつけて下さい」
「承知。侮る事無き様に努めよう」
「‥‥休憩は十分か?」
 バルディッシュに、睦は立ち上がり張りを戻した声で返す。
「それでは、最後の訓練といこう。私に一撃加えてみるのだ」
 この時点で、睦以外のメンバーは訓練から解放されている。
 やがて日は暮れていったが‥‥睦が、微塵も手を抜かないバルディッシュから一撃を奪うことは無かった。


――決戦の日
「黄昏時也、もう暫くで約束の時間である」
 アルフォンスは早めにランタンを灯す。
 すると見えてきた姿‥‥明度を失いかけた世界ですら、その凛々しさを消失させるに至らない。
「拙者、天界よりこの地に参った冒険者、アルフォンス・ニカイドウである。そなたがイルリーフ殿に違いないか」
「いかにも。イルリーフは私の名に相違ない。ここは、片岡睦と再戦を約束した地なり。貴殿達がここにいる理由を聞きたい」
 イルリーフの声色は穏やかだが、見渡すも睦が見当たらないためか眼を鋭くしている。
「我々は睦殿の‥‥知己である」
 一歩前に出ながら、田吾作。
「イルリーフとやら、貴殿も尚武の気質とお見受けした。なれば人間の使い手一人では喰い足りなかろう? 拙者も未熟なれど、立ち合うてみたくござる!いかに!?」
「それに加え睦さんは今、準備に少し手間取っている。でも約束の時間まであと5、6分ある。その時間を潰す相手が要るんじゃないか? 天界には、本戦前の前座と言う仕来たりがある」
 響も、イルリーフに向けて言う。魔法のレイピアと盾を構えながら、と言う事はそれが何を意味するか‥‥わからない程、イルリーフは鈍感ではない。
「何か考えが有ってか、それとも‥‥まぁいい。所詮は瑣末な問題に過ぎん時間まで‥‥二人纏めてかかってくるが良い」
 イルリーフが何処からか出した、金のコインを弾く。それが地に落ちて鳴り響く音が何を意味するかわからない程、二人も鈍感ではない。
 まるで予備動作が無いかと錯覚してしまう程の瞬発力、それを乗せたイルリーフの剣の威力は想像に難くない。しかし刃はバックラーに止められその刹那、刺突が彼女に迫る。
 身を捩って響のレイピアを避けながら、横へ一線、イルリーフは剣を薙ぐ。
 それは側面から迫った田吾作への牽制。
 田吾作は突進力を殺さず、太刀を構えたまま前進した。刃と刃が打ち合う。頬に当たる火花を気にも留めず、田吾作はそのまま、刃を滑らせてイルリーフに向かっ――
 って、止まった。
 イルリーフは、手首を返して剣を翻すと、その切っ先を田吾作の喉元に突きつけながら、叫ぶ。
「何故攻撃を止めた! 前座と言えど、剣士同士の戦い! 中途半端な感情を――」
 と、イルリーフが言いかけている最中に突然、田吾作から出血が。イルリーフの剣も、止まったままだと言うのにこれにはどう言う事か?
「‥‥し、失敬ッ!」
 田吾作は太刀を鞘に納めると、急ぎ足にその場を去った。
「貴様、この期に及んで戦いを抜けるとは何事だ! しかも、何故鼻を押さえている!」
「お待たせ致しました。今回のメインキャストの登場です」
 田吾作戦線離脱&出血の答えは、声の元‥‥エリスと、その傍らにいる睦にあった。
「む、睦さん? 何があったんですか!?」
「な――き、貴様、なんと言う恰好をしているのだ!」
 それを見て、響もイルリーフも、思わず同じリアクション。
「エ、エリス殿。何やら皆の反応がおかしいぞ‥‥。これが天界の決闘の作法という話では‥‥」
「気にする事はありません、睦さん。我々がノーマルです。あっちがアブノーマルなだけです」
 睦の今の服装‥‥、それは黒白を貴重とした女性使用人を由来とする服装。しかもスカートの短さやフリルの装着など、より天界人のフェチに適合した形へと進化したソレは――
 ――どう見てもメイド服です。本当にありがとうございました。尚、スカートが短い分はニーソックス(勿論黒。異論は認めない)でカバーしている。
「ま、とにかくイルリーフさんもメイド服着て下さい。もう一人、某メガネが似合う女性を召還してメイド服を着させる予定だったのですが、生憎都合がつかなかったので一着余っています。さ、早く早く。着替えの為に簡易テント展張しますから」
 なんだか響が動揺しているが、とりあえず気にしないでおく。
「その様な流儀、合わせる理由など無い! そっちが元の服に戻ればいいだけの話!」
 そんな時、独り言を呟く様にして、アルフォンス。
「むむ、先程二人と戦う際は、天界の前座システムを享受した様であったが、今回ばかしは駄目であるか。なるほど、『イルリーフ殿は都合の悪いルールは無視する』っと。メモメモ‥‥、である」
 悔しさに唸るイルリーフだったが、ここで空気を変えたのは、バルディッシュであった。
「我が名はバルディッシュ・ドゴール。イルリーフ、キミはデビルには珍しい武人肌の男の様だな。最後で構わない、是非手合わせをしたい」
「ま、待――」
 イルリーフが何か言いかけている‥‥が、でもそんなの関係ねぇ! びしっ指差すバルディッシュ。
「よしイルリーフとやら!我が思い‥‥受け止めよ!」

 ‥‥‥‥‥何言っちゃってるんですかバルディッシュさん!!

「お、思いって‥‥」
「混乱している所申し訳ないのですが、とりあえずメイド服です。イルリーフさん」
「わ、わかった。とととりあえず着替えるんだな!」
 そう言って、逃げる様にして簡易テントに走っていくイルリーフ。勿論、途中でコケる。
「どうした。あいつ、急に顔に朱がさしていたな。まさか、カオスの魔物も風邪をひくのか?」
 言おうか言うまいか‥‥迷いながらもやっぱりフルーレは、言うことにした。
「あのぅ、バルディッシュさんバルディッシュさん。レディに対しては、やっぱりその‥‥ある程度気遣いってものが‥‥」
「レディ? ‥‥女性だとっ!!」
 バルディッシュ、今更である。

 さーて、メイド服が二人揃ったところで今回の再戦本来の組み合わせ、睦対イルリーフが始まった。
 互いに睨み合うも、そこから一歩も動かない。
 理由は簡単、動けないのだ。
(「「このスカートの丈では、動いたら‥‥!」」)
 危惧する所は二人一緒。しかも、二人とも着てからそれに気づいたのだ。こいつら同レベルか!
「どうやら動けぬ様子にあるな。それならここは、動く必要の無い『魔法対決』に持ち込んではどうか?」
「ま、魔法‥‥だと!?」
 アルフォンスの突然の提案に、思わず声が裏返るイルリーフ。この動揺を見て、彼は予感を実感に変えた。
「左様、その場合は拙者が出よう。エリス殿のグラビティーキャノンだと、転倒の恐れがある。それでは何かと‥‥な」
「し、しかし‥‥」
「まさか、カオスの魔物にして魔法の心得なき者などおるまい」
「そうだ! お前が先日秘匿したと言う魔法の妙技、見せて貰うぞ!」
 そう言う響。彼は、知らないんです。彼は決して、悪気があってそう言っているのではないのです。
「ま、魔法‥‥魔法、か‥‥」
「‥‥ふっふっふっ。生イルリーフの生ドジっぷり、拝見させていただくといたそう」
 悔しい! でも言い返せない! ビクビクと肩を振るわせるイルリーフであったが、それ以外に抵抗の術がない。
「お前、もしかして魔法が使えないのか?」
 ある意味アルフォンスにトドメを刺される前に、バルディッュが割って入ってきた。
(「え、そうなの?」)
 そうとは知らずに、悪い事を言ってしまった‥‥慌てて響は、テレパシーでフォローを。
「(えっ、えっとその‥‥誰だって得意不得意ってあると思いますから、魔法を使うのが『ヘタ』なら、『ヘタ』だって認める事も、強さだと思います。人型の魔物さんに似ず、魔法が『ヘタ』だって‥‥それも個性ですし)」
 イルリーフ涙目。え、なんで泣いているの? と、響は更に混乱。彼に悪気は、無いんです。
「今のお前では、睦に到底勝てんな」
 バルディッシュのその声に、過敏なまでに反応するイルリーフ。
「何!? どう言う事だ」
「睦は最後の私との真剣訓練の際「何故私に剣が届かないか」と問うた所、彼女は「自分の剣術の練度が低い」からと返した。自分の、そういう部分を認める強さを、睦は持っている。そういう力を持たぬキミでは、役不足だ」
「認める‥‥力」
 反芻する様に呟くイルリーフに、フルーレが近づく。
「あの、イルリーフさんて魔物のハズなのにあんまり悪い人に思えないッスよね。こういうのは変かもしれないッスけど‥‥お友達になれそうな」
「‥‥人間に対しての親愛の情意など、今の私には認められない。‥‥が、学ぶ事は有る事は認めよう」
 イルリーフは、フルーレから眼を逸らしながら呟いた後、睦の方を向く。
「再三誠にすまなく思うが、戦いの延期を願い出たい。私が私の弱さを受け止め、そしてそれを強さに変えられたその日、また再び睦の前に現れる」
「そうか‥‥。お互い、精進するとしよう。イルリーフ殿」
「すまない。そしていつか‥‥お前の、思いも‥‥」
 そして、チラリとイルリーフはバルディッシュを一瞥した後、踵を返した。
「おい、ちょっと待て。今なんと言った。コラ、馬に乗るんじゃない。言っておくが、先程の言葉は――」
「それでは、さらばだ。人間達」
 あーあ、行っちゃった。


 結局、よくわからない依頼になってしまったが、とりあえず相手を退かせた事は、事実。
 それに、得られたものがなかったわけではない。それは、晴れてバルディッシュが幼女嗜好で無い事が証明されたのだ。詳細は謎だが多分‥‥カオスの魔物ゆえ、バルディッシュよりは年上だと思われる。
「待て、勘違いするな。アレは告白では無――」
 答えは聞いていない。