【憂鬱の銀】かの地へ行くには
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月20日〜01月25日
リプレイ公開日:2009年01月29日
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●オープニング
装飾はアクセント程度だが、かえってドレスの地の色の良さと清楚さを際立てている。整えられた銀の髪は風の度に煌きを広げていた。傍らには従者と思しき初老の紳士‥‥。
ギルドに現れた彼女は、いかにも貴族令嬢と言った身なりだった。
彼女は手短に依頼の申請を済ませる。
自分は何か、失礼に及んで相手を怒らせてしまってはいないだろうか‥‥。ギルドの受付がそんな不安にかられる程、終始彼女には表情に変化が見られない。
「それにしても〜‥‥お姿同様に、綺麗な筆跡ですね。育ちの良さが伺えますよ〜」
「ありがとうございます」
世辞の応答すら、事務的である。
「それでは、どうか宜しくお願い致します」
一礼の後に、ギルドを去る彼女の後姿を見つめながら、受付係員は思う。彼女はまるで人形の様な少女だ、と。
それは褒め言葉というより、形容そのものとして。
ギルドに只今張り出された依頼は、貴族令嬢の護送依頼。街を出てから山を越えて目的地の街へ向かう間、馬車に乗る令嬢を警護してほしいとの事。
「ポーラス家の令嬢様をお送りして頂きます。気難しい方かもしれませんので失礼の無い様にお願いしますね」
どういった家柄の貴族か、冒険者の一人が念の為に係員に問う。
「それなりの領地を治めている様ですが、領地の多くが農地開発の難しい山岳なんだそうです。この時期は、苦労されているかもしれませんね。なんでも水はけの悪い土地らしく――」
不要なお喋りについては適当に聞き流す冒険者。つまりは、貴族と言っても中の下程度‥‥それほど高階級者でもないようだ。分を弁えている令嬢であれば、極端に高飛車だったりはしないだろう。冒険者の品格を問われる様な非礼や愚行さえ控えれば、それほどデリケートな心持で構える相手でもなさそうだ。
「現地の情報ですが‥‥まぁ、付近では最近熊が出たとかオーガが出たとか聞きませんからねぇ。多分、それほど危ない事も無いと思いますよ」
憶測でものを言う係員。こういう姿勢は冒険者諸氏に是非、見習ってほしくない。
「それでは現地情報などなど。一回しか言いませんから聞き逃さないで下さいね」
自身の危機感の無さを棚上げのまま、話を続ける係員。
山路は舗装もされ傾斜も緩やかである為、依頼主は馬車に乗りながら移動する。終始、進行方向に対して左手は岸壁、右手は崖、と言った道が続く。崖に落ちれば大事を招くが、道幅は馬車2台分はある為、普通に馬車を引く分には問題は起きないだろう。
今のところ当地に雪は無い。勿論頂上付近では寒さが増すだろうが、現地の山師からまだ降雪の報告は受けていない。何も無ければ穏やかな旅になるだろう。
しかし、冒険者とは何かあった時の為の存在である事をゆめゆめ忘れてはいけない。
「尚、今回の依頼ではグライダーを一機、ポーラス家より借用可能だそうです。念の為の偵察飛行等で使用を考えているのであれば仰って下さいね。雪はないので視界は悪くないでしょうけど、操縦者の方はくれぐれも防寒に抜かりがないようにして下さいね。風を切ると寒いって事くらいは私にも想像つきますから」
こんな季節に、依頼の為とはいえ、折角雪のない地だというのに風を切る羽目を見るとは鎧騎士というのも大変なものだ‥‥冒険者の一人は、そんな事を考えながら係員の話を聞いていた。
「全く‥‥比較的温暖な土地なんて言っても、結局は季節を忘れるには至らないもんさね。屋根なしの身にはいつも厳しい時期だな。冬ってのは」
「だからこそ、獲れる機会にはしっかり獲っとくべきだと言っているのさ。俺は」
恐獣に跨る浅黒の男達は、手薬煉を引いていた。
●リプレイ本文
黒髪黒縁眼鏡の、地味な女性だった。しかしながら音無響(eb4482)は彼女を見るなり、まるで混乱の渦中。
「え、何それじゃ? もし搭乗員不在の際の要員って‥‥?」
「はい、ルティーヌさんの懇意で宜しくして頂いて‥‥ポーラス家でもお世話になっていました。グライダーやチャリオットの運転させてもらったり‥‥なんだか偉い人のドライバーしている気分でしたね。あ、でもそのお陰で、今ではグライダーも一応、それなりに動かせるようになったんですよ」
自分も何か言おう‥‥そう思えば思う程、響の思考は混乱する。顔にそれを出さないようにするのが精一杯だった。
「あ、‥‥そういえば俺、この間――」
「さーてそろそろお仕事の時間です。久しぶりの依頼で、時間に遅れるとかしちゃいけませんね。断じて。絶対。さー張り切っていきましょう」
何か彼が言い及ぼうとした時、絶妙なタイミングでエリス・リデル(eb8489)に襟首を掴まれる。そのまま引きづられている響に、黒縁眼鏡の彼女は苦笑しながら手を振った。
「今回の依頼で通る山道ですけど、特に物騒な噂は最近ないそうです。でも響さん、気をつけて下さいね」
響も、振り返しながら思う。
(「今は依頼の事を‥‥だよね」)
天上に夜の色が染み出し始める頃、肌に当たる風は昼間のそれよりも冬らしいものになってきている。
地上には、山路をゆっくりと進む馬車がいた。
「さて‥‥そろそろ足を休める頃合でしょうかね」
場所の側面にて随行しているアトラス・サンセット(eb4590)がそう言うと、反対側に位置するアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)も頷く。
「ふむ。空に黄昏の残り火が残っているうちの方が、何かと都合が良さそうであるな。御者の御仁、宜しいだろうか?」
「そうして頂くと助かりまさぁ。こちらの馬は冒険者様のと比べたら貧相なもんで」
馬車を引く馬が、面目なく項垂れている様子に見える。悪い馬ではないが、アルフォンスやアトラスの戦闘馬と比べると幾分小振りな感は否めない。
一本道であるが岸壁側を削って作られた広がりも見受けられる。山師達が休憩地点として拓いていったのだろうか‥‥等と考えながら周囲を見渡しているのはアリオス・エルスリード(ea0439)。馬車より少し前に出て敵を探っている。今の所それらしい発見もなければ潜んでいる様子もない。そもそも、樹木が娼婦よりも易くその身を晒すこの季節に偽装を試みるのは、新緑の時期と比べ幾分困難であるが。
アリオスが若干遠方に目を向けると、響がこちらに向け手を振っていた。前述の通りの馬車馬に、グライダー一騎を牽引出来るほどのタフネスとパワーが無いと判断された為響は空を駆けながら折を見て着地し、偵察を繰り返すスタンスを取らざるをえなかった。だが、怪鳥の類がいる訳でもなければ急ぎの旅でもない。安全な休憩地点を探すのに丁度良い。
「先に、宿営地に適当な場所があるらしい」
振り向きながらアリオスが言うと、各々頷き、間もなくして馬は足を止めた。
アルフォンスが最後の杭を打ち込み、天幕の展張が完了。完全に日が落ちる前に一通りの宿営準備が整った。
「これにて作業終了、である」
「お嬢様をお招きしても大丈夫そうですね」
馬車の方へ向かい、招きの口上でアトラスが声をかけると、幌が開けられ馬車から依頼主が姿を現した。
「暗いので、足元に気をつけて降りて下さい」
「ありがとうございます、エリスお姉様」
先に下りて、令嬢の手をとるエリス。
「馬車内で随分仲良くなられたのでしょうか、これは羨ましい。私は依頼の傍らに商家を営みます、アトラス・サンセットと言う者です。これからも道中、不自由を強いてしまうことがあると思いますが、何卒お許し下さい」
「こちらこそ。名乗りが遅れ申し訳なく思っていた所です。皆々様、私はルティーヌ・ポーラスと申します。この度は依頼を惹き受けて頂き感謝しております。依頼の間どうか宜しくお願い申し上げます」
面の色を変えぬまま、そう言って彼女は頭を垂らした。
「こちらこそどうぞ宜しく。ルティーヌさん、馬車に揺られてお疲れだろうから、今日はゆっくり休むといいですよ。見張りはしっかりしますから」
「そうですね。その点、抜かりが無い様にしますのでご安心を」
響に続いて、エリス。彼女に夜目の自信は無いが、バイブレーションセンサーで探知を試みるつもりでいる。
「疲れたなんて事は、ないです。ただ馬車に乗っていただけで疲れるはずも――」
「え、そうなんスかぁ?」
ルティーヌの語尾をかき消したのは、馬車から飛び出てきたフルーレ・フルフラット(eb1182)。いつにもまして、明朗活発な様子である。
「馬車でお話が終わった辺りからコックリコックリしてしいたので、もしかしたら疲れたのかと――むぐぐ?」
無表情のままではあるが、慌ててフルーレの口を両手で塞ぐルティーヌ。時既に遅し、だが。
「この事は、くれぐれも内密に願います」
「体裁とか家名とか‥‥貴族ゆえのご心労、お察し致します」
ルティーヌの言葉に、アトラスは苦笑を交えながらそう返した。
「おや。もう交代ですか」
「特に異常は、無いみたいですね」
夜間は二名で交代しながら夜警にあたっていた。今の所は穏やかな夜。特に引き継ぎ事項もなく、アトラスは手に持つ灯りを響に渡す。
「という訳で至って平穏である。このまま何も無ければ僥倖っ。ま、何かあったらあったで、その時の為の拙者達であるが」
「そうだな‥‥」
同じく松明を受け取りながら、アリオスは呟く。
「かの地へ着くまで、油断は出来ない。地獄からの侵攻が起こっている現在、何処で何が襲ってきても不思議ではない」
「そうであるな‥‥」
歩く度に鞍の軋む音がする。油など最近めっきり塗られていない物だろう、随分と罅割れている革鞍である。
この鞍を背に乗せているのは、馬ではない。馬に匹敵する体躯の、大蜥蜴‥‥所謂恐獣であり、それに騎乗している者達はカオスニアンと言われる存在、その集団である。
「通行人どころか、犬一匹見受けられないとはな」
「どうやらこの山はハズレ‥‥ん?」
陽光を遮った影を不審に思い、男の一人が空を見上げた。それが、人間が開発した航空機である事に気が付くと、彼は唾を吐き捨てる。
「蚊トンボが飛んでいるぜ。人間の貴族様は暢気に空中散歩か――お、おい!?」
男が言い終える前に、集団の中の首領風の一人が、グライダーの戻る方向へ駆け出した。
「矢を構えながら、お前達も付いて来い!」
「!? 説明をしろ!」
「こんな山に住んでいる貴族いたら是非お目にかかりたいもんだ。‥‥見つかっちまったって事だよ」
「‥‥??」
「わからんでもいい。この先にいるのがカモだったら、金品山分けしながら教えてやるよ」
よくわからないが、兎に角獲物がこの先にいるのだろう、それだけ理解して男は首領の後に続く。
間もなくして、カオスニアンの男の耳に、蹄が地を弾く音が聞こえてきた。男は手綱を口に預けて、両の手で弓矢を構える。
そして見えてきたのは、戦闘馬に跨る銀髪の男――
(「しくじった!」)
鉄の煌きが交差する。
カオスニアンの男が己の不甲斐無さに悪態を付いたのは、相手も此方に向け弓を引いているのが見えた瞬間。指を弦から離したのは同じタイミングであるが、鏃が向かう先の精密さには天地の開きがあった。片方の矢は空間を貫き、もう片方は、後方にいたカオスニアンの肩に刺さっていた。
「くお! 痛てぇえ!」
溜息をつきながら、アリオス。
「がたいからして頭目かと思ったが‥‥その落ち着きの無さを見るに、どうやら外してしまった様だ」
「それは残念だったな」
頭目の男は忌々しげに言いながら、得物を持ち換える。ハルバードの頭をもぎ取った様な不自然な形の手斧だ。そして彼が手を振り下ろし後方にサインを送ると、数人、彼と歩幅を合わせて前に出てくる。
更に後方から飛んでくる、矢。
矢筒に手を伸ばしつつ前線から引くアリオス。先行して先制射撃を済ませた今、強情になって前線を張る事もない。
降り注ぐ矢の軌道はどれも見切るに易く、まるでアリオスに掠りもしない――が、彼は思わず顔を顰める。
(「そこからで、見えているのか?」)
数本の矢は、アリオスの頭上を飛んでいく。行き着く先は、馬車。
「矢矢、矢! やが飛んできました! とりあえずは馬を落ち着かせます、それから轡を外して‥‥」
「まずはあなたが落ち着いて下さい」
見えていようがいまいが、関係はなかった。エリスの言葉に頷くも、御者の手綱捌きは道中のそれと比べると著しく劣る。非常にわかりやすい動揺振りであった。これは、彼の冷静さに期待は出来無そうだ‥‥そう思いながら、彼女はグラビティーキャノンの詠唱を行う。
頭目は、後列の射手を促す。
「敵にも後衛はいるんだ、もたつくんじゃない! 次々と射るん――」
目の端に映ったそれが槍の穂先とわかった時、頭目は味方への叱咤よりも自身の命を優先した。
アトラス。
彼が振るう槍は、一般認知されているそれと比べると、遥かに物騒なものだった。加えて、それを握るアトラスの豪腕‥‥当たれば只では済まない。
「普段とは逆に後方からツッコミを入れるのが私のスタイルなんですが‥‥」
振り下ろされた穂先は、空を切り裂いた。例え当たらなくても、風切の音だけでも恐ろしい。
そこからアトラス、間髪いれず次の刺突を繰り出す。
「そうかいっ」
頭目は半身捻って、脇腹を掠るそれに顔を歪めながらも間合いを縮めるべく踏み込む。槍が取り回せない懐に潜りこむと、そのまま、手斧もどきの切っ先をアトラスの胴へ走らせ――
――ようとしたが、突如頭目は弾かれた様に仰け反る。勿論切っ先はアトラスに届いていない。非物質的な衝撃に、頭目は一瞬だけ困惑する。
「万事思い通りに行くとは思わぬ事だ」
声とオーラショットの元‥‥アルフォンスを視界にいれるや、頭目の頬が歪んだ。それは、嘲笑の様でもあり、苦悶の表情にも見えた。
「自身にも言い聞かせろ」
頭目の両脇を、二騎の騎乗カオスニアンが一気に駆け抜ける。頭目は、ハナから囮か。
馬車から馬は既に切り離されている為、暴走の危険性は無いがそれは同時に逃走も出来ない状態という事。恐獣の足音が迫ってくる時、幌の中に篭っている令嬢と御者の感じる恐怖は、果たしてどれ程だろうか。
「させないッス!」
それらを吹き飛ばしたのは、フルーレの声。袈裟に放った剣撃は、相手の盾阻まれ横へ受け流される。しかし刃に乗った勢いを殺さず、左足を軸に反転し更に横一閃。遠心力を加えた横薙ぎは、恐獣の大腿部を赤く染めた。
ふらつくそれに、エリスがグラビティーキャノンを放つと、騎乗者を道連れにそのまま路肩の崖へ転落していった。
もう一騎接近してきたカオスニアンは響がとめていた。男の斧を刀身で受け止める響、彼の表情は険しい。受け止める斧の質量感に、彼の体の傷が悲鳴をあげる。
だが。
「お前達の好きには、させない‥‥絶対に!」
攻撃を受けた姿勢からそのまま一歩踏み込み、同時に刀身を斧の刃部からそのまま相手の胴を目掛け滑らせる。繰り出された刃の痛みに、カオスニアンの男が苦悶の悲鳴をあげた。これを逃すまいと、アトラスは旋回し、振り向きざまにソニックブームを放つ。無防備の背後に、彼の一撃を浴びたカオスニアンは衝撃のまま吹き飛ばされ顔面を側の岸壁に打ちつけるとそのまま動かなくなった。
(「機が傾いた、な」)
アリオスは弦を引く。それが自分の方向に向いていると気が付いた頭目の男だったが、彼が身構えた瞬間には既にその腕に鏃が埋まっていた。頭目の男は痛みよりも、寒気を覚えた。反射神経、射撃技術‥‥どれもが常軌を逸脱したそれであるアリオスに対し、頭目の男は恐怖を覚えたのだ。
刃と刃が打ち合う音が、響く。
「全く、お前のお仲間の方がよっぽど人外の存在だろうが」
「口は動いても手は十分に動くまい。白旗振る事が癪ならば、早々に逃げたらどうか」
アルフォンスの槍を、頭目は手斧もどきで押さえる。
「誰に意見してやがる」
「あっ、そーであるか。じゃーさっさとやられてしまえである。貴殿にもし報奨金でもかかっていたら、ラッキーであるなぁー」
舌打ちしながら槍を弾く。
「逃げるのか、ナイル!?」
「死にたい奴は残っていいぞ」
ナイルと呼ばれた頭目の男は翻り、そのまま仲間と逃走していった。
完全にその姿が視界から消えるまで弓を構えながら、アリオスはアルフォンスに問う。
「知った顔、だったのか?」
「さぁ、カオスニアンなどどれも同じ顔の様に思えるものであるからなぁ〜」
アルフォンスはわざとらしく肩をすくめながら、そう言うに留まった。
(「少々痩けた様であるな‥‥」)
(「うむーぅ‥‥確かに‥‥異常な眠気、である‥‥」)
再び、山路には車輪の音が響く。馬を引いているのはアルフォンスの軍馬。という事で彼も車内にいる訳だが、どうにも女性同士の会話に参加する糸口を見出せず、気が付いたら瞼の重さに負けていた。
「私、とても怖かったです」
「でも普通なら、ああいう時に乙女は悲鳴をあげて殿方に抱きついちゃったりするものです。それを考えれば、気丈な振る舞いです」
「流石はご令嬢ッス! しかし護送に冒険者を‥‥というのは、それだけ大切に思われているって事ッスね〜」
女三人寄れば何とやら。馬車内は随分賑やかな様子。結構な事である。
「まぁ、父は一度口を開けば礼式、礼式、と。全く貴族の鑑です‥‥あ、笑わないで下さいフルーレさん」
相変わらずの表情で淡々と語る彼女に、フルーレはどこか懐かしささえ覚えた。人が、父親の偉大さや優しさに気付くには時間がかかる。年頃の時期と言うのは、えてして父親からは疎ましさしを強く感じてしまい、粗略な扱いで返してしまう。個人差はあるだろうが、ナイトであるフルーレも、似たような経験を過去にしてきたのではないだろうか。
一度襲撃された後、特に敵の出現もなかった。響のブライダーが逃げた馬を見つけ、アトラスがそれをつれて来た為、結果的に目立った被害もない。
「どうもありがとうございました、皆様。もし今後お世話になる機会がありましたら、その際も是非よろしくお願い致します」
御者も、令嬢に続いて一礼し、そして市街へと消えていった。
「これにて一件落着‥‥それにしても、拙者達が気にする事ではないかもしれぬが、どういった御用向きなのであろうなぁ」
「アルフォンスさん? 彼女が今日、香水をつけていた事に気が付かなかったんスか?」
「確かに香りには気が付いたが、別に、別段不思議がる事ではなかろう?」
貴族の嗜みを心得ているアルフォンス。確かに、それは知っている、だが‥‥。
「アルフォンスさ〜ん、乙女心スキルが足りないッスー!」
「‥‥はて?」