【長屋の姉妹】妹は、か弱き薬草師?
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月24日〜06月29日
リプレイ公開日:2005年06月29日
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●オープニング
「あーあぁ」
その女性は、いかにも「退屈してます」という表情であくびをした。
一方、隣の、彼女の姉である女性は黙々と草鞋を編んでいた。
「退屈だよー。姉さん」
「じゃあ内職を手伝って頂戴」
「内職で、暇潰せると思う?」
「潰せないかしら?」
「‥‥潰せるわけないじゃーん」
「じゃあ、黙っていて頂戴」
妹の方はムスーっとし、姉の方は眉一つ動かさず、黙々と作業を続ける。
そうして、また暫くの沈黙‥‥。
耐えかね、話を切り出したのは妹の方だった。
「でも、なんで姉さんはこんなこと続けるの? 父さんの残した財産で、ずっと食べていけると思うけどなぁ」
姉は、手を休めないで答える
「人間、何かを成してこそ人生よ。何もしないで暮らしていくだけっていうのは、生きている心地がしないの、私」
「そういうもんかなぁ」
「そういうものよ」
「のんびり過ごして、たま〜に町でカッコイイ男のヒト眺めたりするくらいで、全然生きてる〜って気がするけどなぁ、私は。あ〜ぁ、新撰組の沖田さんみたい美男子がその辺に転がっていないかなぁ‥‥」
「早苗、あなた少しは長屋のお隣さんの、睦さんを見習いなさい。あの人、まだ16歳だっていうのに、一人で京都に越してきて、冒険者をしているそうよ。16歳っていったら、あなたの一つ年下でしょ。しっかりなさい。あなたは山や草木のことに詳しいのだから、薬草師やるなりなんなり出来るでしょうに」
早苗は、うんざりしながら姉の話を聞いていた。
「(まぁ、それはたしかに小さい頃お父さんとよく山に入っていたし、薬草のことはお祖母ちゃんからたくさん習ってたけど‥‥)」
と、その時! 早苗の頭の中で、ぴかーんと閃きが生じた。
「わかった、姉さん。私、仕事するよ。山に入って薬草とって来る」
「‥‥いきなりね」
「じゃあそういうことで、色々準備があるから、ちょっと出てくる」
そして早苗は家を飛び出し、なにやら目を怪しく輝かせながら猛ダッシュ。どこを目指しているのやら。
「‥‥怪しいわね、あからさまに」
とは思ったが、とりあえず、仕事をしようとする心意気は買い、早苗を追うようなことはせず、彼女は草鞋編みを続けた。
ここは冒険者ギルド。今日の依頼人は、なんだか元気な女の子。
「ちょっと山に薬草を取りに行きたいんですけど、そこって何やら、最近は色々出る山らしいんですよ」
ギルドの係員は、その山の場所を詳しく聞くと、「ああ、そこの山か」と言って話しだした。
「その山は、たしかに女性一人で行くんだったら危ないな。道中、小鬼などが出ていて、たびたび討伐の依頼が来ている」
「更にっ、最近では死人憑きなんかの噂も聞きます。でも、その山は昔から薬草が多く生えていると言われているんですよ」
というわけで、冒険者を数人、護衛にほしいのだと少女は言った。
係員が内容を記述し、依頼を出す諸準備をしているところに、彼女は聞いてきた。
「あの、‥‥依頼者側から、この依頼を受ける冒険者の条件を出すことはできるんですか?」
「一応そういうのもありだな。何かあるのだったら、遠慮なく言ってくれ」
すると、少女は鼻息荒くしながら身を乗り出し、条件を提示してきた。
「できるだけ若くて、カッコイイ人でお願いします!」
「‥‥一応、書き足しておいてやるよ」
●リプレイ本文
長屋にて、家計の勘定する一人の女性。金銭管理はもはや日課だ。
そこで発覚する不明の出費。ちなみに、盗人にやられた形跡は無い。
彼女は思い当たるフシがあった。とゆーか、それしかない。
「早苗‥‥」
「んふふ〜♪」
にんまり笑顔で山道を歩く早苗。どうやら周囲を囲むメンバーにご満悦の様子。
「危険が差し迫る山に薬草取りとは‥‥試練だな、良い心掛けだ」
「いやぁ、そんなこと無いですよ〜」
キク・アイレポーク(eb1537)の言葉に、早苗は照れながら笑顔で返す。内心は「(もっと褒めて褒めて〜!)」と大はしゃぎだが。
そんな雰囲気のなか、早苗の傍にいるリュー・スノウ(ea7242)は周囲の警戒を務めていた。
すると、前方の茂みの揺れが見えた。今は、無風だ。
叢から小鬼が五匹出てくる、手に小ぶりな斧を持ち。
「‥‥依頼主は‥‥三‥‥いえ、四人に任せるわよ」
朱蘭華(ea8806)がそっけなく言いながら、小鬼との距離を詰める。小鬼も身構えるが、所詮お粗末な形。
「隙が多すぎる」
彼女の鉤爪が、小鬼の顔に、腹に、幾本もの赤い線を引いた。
蘭華に裂かれた仲間を見て、彼女を避けて前にいる人影に視線を移すが、そこにいるのは早苗を守る冒険者達。
カール・リヒテン(eb2863)が、文字通り目に飛び込んできて、殴らる。その刺されるような痛みに小鬼は唸る。
三剣琳也(eb1320)の刀は、対象を確実に捕らえ斬り捨てる。
紫電光(eb2690)に迫った小鬼は攻撃を受け流され、留守になった横腹を突かれる。
ヤケで突撃してきた小鬼もいたが、それは小坂部小源太(ea8445)のシールドソードが止める。直後、振りかぶった大振りの一撃が小鬼を斬り潰す。
「光さん、援護します!」
致命傷を負わずにいた小鬼は、白い光に包まれる。リューのホーリーだ。キクからディストロイも放たれる。
そうして戦い、小鬼は間もなく片付けられた。
「なかなか巧い捌き方でしたね。攻撃へ繋ぐ時機も、素早くて良かったと思います」
「そんな、私もまだまだで‥‥。リューさんやキクさんにも手伝ってもらったし‥‥」
小源太は丁寧な口上で言うと、光は謙虚に言葉を返す。
そこに‥‥。
「あぁ、怖かったわ。でも、小源太さんがいれば大丈夫ですね」
寄り縋り、早苗がぴとっと小源太に張り付いてきた。
「ええ、安心してくださ―」
「小源太さんは、私の隊長で、‥‥だから、小源太さんだけは、ダメぇ!」
その間に入って、必死に引き剥がそうとする光。何故か必死である。
「え‥‥、だ、ダメ? どうしても?」
「ダメ! 絶対!」
光の勢いに、早苗は思わず気圧されてしまう。
小源太は何故、光が必死なのかわからないといった様子だが、その理由は女の子しかわからない、ということで。
「婿探しも兼ねているんだろうか。まぁ、私には関係の無い話だ」
呟くカールに、早苗は顔を近づける。
「関係なくないですよ? あなたみたいに、一見物静かそうな人も結構ツボですから。油断しないでおいてくださいね」
前方にいる蘭華が、「(油断って何のよ)」と、胸中ツッコミを入れる。
「‥‥意中の人ができたら応援でもしてやろう」
そう言って、前に先行して偵察に行くカールだった。
「あ。ねえねえ。アレって何〜?」
「え、どれのこと?」
「ほらっ、あの枝が長くて木に絡みついて、花が白いやつ」
「あー! あれも薬草だよ。瑞巴ちゃん、すごいじゃん! 薬草見つけちゃうなんて」
同じ年頃のせいか、早苗と緒環瑞巴(eb2033)は、すっかり打ち解けている。
瑞巴は物珍しそうに周囲を眺め、色々な植物に興味を示していた。途中、薬草を見つけるたびに、早苗と一緒にそれを摘んでいった。
「綺麗な花だね〜、これ」
瑞巴は手伝いながら言う。
「じつは、見た目の綺麗さと別の楽しみ方もあるんだよ」
そう言って、早苗は花の部分を抜いて瑞巴に差し出す。それを官の細い方から吸うと‥‥、
「甘ーい!」
「この植物は蕾や葉、茎を乾燥させれば鎮痛や解熱に効くんだ。あと、腫れ物にも。冬でも葉が枯れないことから『忍冬』とも呼ばれているよ」
花の蜜を吸いながら、うんうん、と相槌を打って瑞巴は早苗の説明を聞いている。
琳也も早苗に聞きながら、薬草採取を手伝っている。
「早苗さんは薬草の知識をとてもお持ちですね。感心しました」
琳也の言葉に、早苗は「それほどでも〜」と言って笑顔になる。
「まぁ、お祖母ちゃんから色々習いましたから!」
えっへん、と言った具合に胸を張る早苗。
「ご存知ですか? 明るくて、聡明な女性というのは男性に好かれるのですよ。これから早苗さんを好きになる男性は多いことでしょう」
「え、そうかのかな‥‥。あ、ありがとうございます」
赤面して俯くと、早苗はペースを上げて、せわしく薬草を摘んでいった。
途中に何回か小鬼に遭遇したが、一行は問題なく撃破。順調に薬草採取をしていった。
すると、籠はなかなかの重さになる。早苗はキクに助けを求めたが「それも試練だ。精進しろ」の言葉のもと却下。がっくりと項垂れる早苗であった。
「この先に敵がいる。四匹の死人憑きだ‥‥。引き戻した方が良いかもしれない」
偵察から戻ってきたカールが言う。その言葉に、早苗は疑問を覚える。
「皆さんでも倒せないくらい強そうなんですか?」
「倒せそうなのだが、今は少々‥‥まぁ、死人も腹が減るようでな」
カールの言わんとしていることを、イマイチ掴めない早苗。
「そういったモノを見るのも、また彼女の試練だ。進もう」
事を理解したキクが促し、一行は前進することにした。
リューはアンデットに備えホーリーライトを発動させておく。カールは己に、蘭華は己と琳也に、オーラパワーを付与する。
そしてその先には‥‥いた、茂みに死人憑きが。亡者達は、まるで土下座でもしているような格好だった。茂みで顔が見えないが。
それに近付くと、草の隙間が覗けた。
見えたのは、小鬼の死体。こちらに気付いた亡者達は、一斉に腐れた顔をこちらに向けた。牙の隙間には、細長い筋のようなモノが挟まっている。
死人憑きは小鬼の腹を貪っていた。
「いやぁ!」
見るに堪えないその様に、早苗はおののき、傍にいるキクに反射的にしがみ付く。キクは動じず、魔法の詠唱を始める。
風を切り、速攻で飛んでいくカール。あっという間に射程範囲に飛び込み、打ち込む拳、拳ッ、拳!
オーラに包まれたそれは腐敗した皮膚を破った。が、それでも亡者は止まらない。オボロげな眼がカールを捕らえる。
その眼を、頭ごと吹き飛ばす不可視のエネルギー。爆虎掌は蘭華の素手から放たれ、亡者に二度目の死を与えた。
カールと蘭華に亡者達が群がる。二人は避けきれず傷を負う。爪によって傷が刻まれていく様子に、早苗は悲鳴をあげて顔を背けた。
早苗の悲鳴に反応したかのように、残りの死人憑きが迫ってきた。無防備な術者と早苗を狙って。
爪を止めたのは、十手と盾。光が敵を抑え、もう片方の十手を叩きつける。そうして生じた隙に、小源太の止めの刃が襲い掛かった。
「今度は死人憑きですか‥‥。早苗さんを怖がらせる者は許しません」
早苗に近付いてきた死人憑きに琳也が斬りかかる。刀は、亡者を崩していった。
後衛を襲いに来た亡者達は動かぬ屍となった。残すは、前衛に群がる亡者達。
蘭華が、敵の攻撃の合間を縫って斬撃を繰り出す。それを受けて動きを鈍らせる亡者にキクが向かう。
「大いなる父よ、哀れな愚者へ鉄槌を」
言葉と同時に放たれたディストロイは、亡者の体を破砕させた。
残った亡者がキクに襲いかかろうとしたが、瑞巴のムーンアローがそれを阻む。
「還りさない。光は、貴方を清めるでしょう」
リューの魔法により、亡者に白い光が広がる。ホーリーよりも強い光が。ピュアリファイの光を浴びて、腐乱した体は散り、亡者の存在を消した。
そうして、冒険者達が勝利した。
戦いの終わりに気付くと、早苗はその場にしゃがみこみ、息を吐き出した。
「はぁ〜、怖かったぁ‥‥」
琳也は傷付いた仲間に傷薬を差し出した。深い傷でなかったので、それで無事回復した。
二人は申し訳無さそうにしたが、琳也は保存食を持っていなかったので、それと交換という事で一段落ついた。
そうして期間中、多くの薬草を採る事が出来た。
「薬草を無事集める事が出来ました」
籠を持つのを手伝いながら、琳也が言う。
「そうですね。でも、これも皆さんのお陰ですから。私、ちょっと死人憑きとかの恐ろしさを甘く見ていたかも」
早苗は苦笑しながらそれに応じた。
長屋に着くと、玄関で元気な声を出す早苗。
「ただいま〜沢山薬草とってきたよ、姉さん! これを売れば、結構いい値段に―」
早苗は、途中で言葉を止めた。
「あ〜ら、お帰り早苗。何故か後ろにお連れが沢山いるようね」
早苗の姉と思わしき女性は、何かとっても強い感情(多分怒り)を体から滲み出しながら早苗を迎え、言った。
「最近家から、結構な額のお金が無くなっているの。そういえば、冒険者ギルドの報酬も、結構な額が出るみたいね」
顔面蒼白になっていく早苗。暫くの沈黙の後、絞り出すようにして、言った。
「この薬草売ったお金で帳消し‥‥で、ダメ?」
「貴方が泣くまで、殴るのを止めない‥‥ッ」
冒険者達は、いつの間にか長屋から撤退している。皆、危険な雰囲気を察知したのだろう、多分。
長屋から聞こえる悲鳴。家の財布からこっそりお金を抜き取るとロクな事が無い、という教訓をかみしめた一同であった。