妖精乱舞

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月24日

リプレイ公開日:2009年08月11日

●オープニング

(「はぁ‥‥、最近失敗続きだ。やっぱり僕には向いていないんだろうか」)
 帰路に着く青年の溜息は深い。原因は仕事の凡ミス‥‥ありがちな話であるが、人に責め立てられるには十分な過失であった。
(「本当に、最近多い。もしかして、何か悪いモノにでも憑かれているんじゃないだろうか?」)
 呪術・魔物に理由をこじつけようとするのは、なかなか末期な状態である。こういう時、人は根拠も理屈も存在しないものを信奉し、疑いさえ持とうとしない。
 つまりはカモ。いつの時代にも、弱きを狙う者は後を絶たない。
「そこの彼方‥‥」
 声の咆哮に振り向く青年の目に映ったのは、外套に全身を包み隠す男の姿。その雰囲気に、青年も警戒の色を強めながら問う。
「‥‥僕の事ですか? 何か用事でも?」
「用事も何も‥‥君に憑いている、その呪いの事について、お話があるのだよ」
 言われ、思わず肩を揺らす青年。
「常人に知る由は有るまいが‥‥天界の英知と竜の加護を得た私になら分かる。君のその両肩に見える黒い陰は、正しくカオスの魔物達による呪い‥‥」
「え!?」
「最近、何か不調な事が起きたと見える」
「分かりますか!? 最近、仕事の文書で酷い書き間違えをしてしまって‥‥」
「ああ。それも一度に限った話ではない様だ」
(「この人は‥‥本物だ!」)
 最初にまず在り来たりな話を振り、そこから更に具体的な話にみせかけた、誰にも当てはまる抽象的な不幸話を相手に当てはめる‥‥全くペテン師の常套文句であるが、妄信的になった青年には預言者の言葉に聞こえる。
「その呪い、払い清める方法を私は知っているわけだが?」
「お願いします! ぜひ、お払いを!」
 懇願する青年に、男の笑みは救世主の慈悲に見えただろうが、その実ただの嘲笑に過ぎない。
「ここでは何だ、場所を変えよう。祈りには、祭具も必要だ」
「はい、よろしくお願いします!」
 結論を先に述べる。人攫いに狙われたカモの行き着く先が奴隷船でも珍しくないこの世間において、青年が男に連れて行かれた場所は奴隷船ではなかった。
 しかし、それが果たして青年にとって幸であったか不幸であったかは、後述の内容に目を通した各位に委ねるとしよう。

「まずは立ち話もなんだ、ココに座ってくれ」
「はいっ(それにしても、変わったイスだなぁ。座り心地は悪い。むしろ痛い位だ‥‥どことなく玩具の木馬に似たシルエットだ)」
「この腕輪を手にはめてくれ。竜の加護を高める効果を持つ」
「はい!(でも、これだと両手が不自由に‥‥)」
「そしてこの宝玉を口にはめてくれ。祭具の一つだ」
「ふぁい‥‥(何だコレ、喋りにくいぞ)」
 口にボールのような物を装着させられた時、青年は一抹の不安を覚えた。
 だが、時既に時間切れ。

「よくもここまで来たものだ。
 私は貴様達の全てを奪ってしまった。
 これは許されざる変態行為といえよう。
 この最終鬼畜■器をもって貴様等の罪に私自らが処罰を与える。
 イクがよい」

「!!??」
 男の言葉と同時に現れたのは数人の男。ドイツもコイツも、黒い皮製のマスクに黒パンツ、更に拘束衣をモチーフにした漆黒の革胴衣に身を包んだ屈強な戦士達。
 とどのつまり、変態の集団であった。
 両手の自由が奪われボール状のアレを口に装備している青年が、革装備の変態にかなうはずは無い。
 男は外套を脱ぎ捨てながら言う。手には特殊形状の鞭、そしてその格好は‥‥びっくりするほどボンデージ!
「ではこれより、魔除けの儀式を始める。まずは服を剥いてこの鎖で――」
 カカッ、青年は男の言葉を聞き終えるまでもなく駆け出す、喚きちらし追っ手を振り払いながら。
 疾駆し、目指す先は冒険者ギルド。歴戦の勇者達なら、もしかして、こいつらに勝てるかもしれない。まるで闇の化生にさえ思えるこいつらに!
 しかし、男達のアジトからギルドまでの道は長く‥‥とても長く感じられた。


 後日、ギルドの依頼書ボードに張り出された『変態討伐依頼』。
「さて、今回みなさんには、かの変態を退治して頂く事になります。カオスの魔物ではないようですが、ある意味もっとカオスな相手です。心してかかってください」
 依頼の説明をするギルドの受付嬢は、心なしかいつもよりテンションが高いように見える。
「はい、誰か質問はありませんか?」
 受付嬢の問いに、一人、挙手した冒険者がいた。
「変わりモンだが相手は人間、それは分かったのだが‥‥、依頼主、つまりは被害者はどうなったのだ?」
「答えられません」
「何故だ?」
「禁則事項です」
「何故だと言っている!」
 冒険者の言及もまるで暖簾に腕押し。返答がある兆候は無い。返ってくるのは受付嬢の、爽やかな笑みだけであった。
 という事はつまり、依頼主の青年の貞操はアワレにも――
「ひゃ〜すごい、絶望の嵐! 変態ってなんてパワーなんでしょ!」
「こいつ‥‥強力過ぎる!」
「荒んだ心に▲器は危険なんです!」
 強大過ぎる相手に、冒険者達のモチベーションは絶望的に低い。それにしても、さっきから筆の調子がおかしい。インクが滲んで仕方無いね。
 何はともあれ‥‥果たして、この悪逆の行いに断罪を課す者達は現れないのか?


 ギルドでの喧騒など聞こえもしない郊外、そこに『彼ら』は居た。風が噂を運び、そして昨今の事態を彼等も知る事になる。
「他にも探せばいるだろうに‥‥奴らは我々のノンケばかりを狙ってもっていく」
「いやらしい」
 人の心の弱みに付け入る闇の妖精達の悪行に、嫌悪感を覚えるのは冒険者達だけではなかった。
 彼らは人里離れた山中にてその心身を練磨し、また、迷えるノンケに救いを授け、更なる『高み』へと持っていく事を旨とした者達。鍛えられた肉体を包むものといえば、下半身の局部を守る布一枚という紳士達‥‥。
 残念だが、世間一般では彼らは変態と位置づけられる。
「人の不安を利用するその手口‥‥だらしねぇな」
「彼らにもう‥‥救いは無いね」
 そんな紳士達の中から二人の英傑が、ついに動き出す。鋼鉄にさえ違うその身体と、雄大な立ち振る舞いと飽くなき向上心、人間離れした二人は同胞からは『faery』と称されている。
 彼等が表舞台へと出て、物語は佳境へと進んでいくのだった。この三つ巴の戦いが行き着く先は? それは、誰にも分からない。

●今回の参加者

 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9026 ラフィリンス・ヴィアド(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「やれやれだよ‥‥春先と夏の盛りにゃ出て来るってもんさね!」
 鷹栖冴子(ec5196)は憤慨した。酒の勢いでならいざ知らず素面でこの乱痴気ぶりは何事か、と冒険者ギルドのテーブルを叩きながら叫ぶ。
「公衆道徳って観念は、どうやら心得に無い連中の様だね、こりゃあ手加減なんて必要無い相手だ」
「全く以って其の通りであーーーる!」
「わっ、早速出てきやがったな変態め!」
 どこからとも無く聞こえた声に、思わず冴子は身構える。
 彼――ちょっと変態っぽいナイトでマスク・ド・フンドーシ(eb1259)と名乗った。
「ぬううう〜〜〜!!! 世を乱す不埒者どもぐわっ!!!! 」
「あんたが他人のこと言えるかい!」
「ノン・ノン。急いでは事を仕損じるであるぞ、レイディ。我輩も不埒者の成敗を志す同士である」
「‥‥本当かい?」
「紳士の弁に偽りはない」
 冴子の怪訝な視線を受けても、マスクは堂々と胸を張ったままだ。
「‥‥まぁ、同じ依頼を受ける冒険者として、そうぞんざいにしても話は進まないしね。宜しく頼――」
「このままでは我輩とキャラ被りして目立たなくなってしま‥‥」
「おいィ!? 手前ェ今なんつった!?」
「イヤイヤ、ヒトダスケハキシノツトメデアルシ!」
 冴子とマスクとが悶着している間、受付の方向から歩いてきたのは音無響(eb4482)、キース・レッド(ea3475)、そして受付嬢に手を振り返す忌野貞子(eb3114)。
 はじめは禁則事項と止められていた情報‥‥即ち反抗の手口や被害にあった青年の被害状況、それを響が懇願して受付嬢から聞いてきたらしいが。
「どうだい、何か役に立ちそうな話は聞けたか?」
「‥‥‥」
 問われた響は、冴子に言葉を何も返す事無く俯いた。冴子自身あまり細かい事に執拗するタイプではないが、流石にこれは訝しがる。
「黙っちまうとは一体全体、どうしたってんだい?」
「‥‥すいません、聞かなきゃ良かったと思いました」
「ま、概ね犯人の手口は理解出来たよ。件の青年の様にしていれば、あちら側からやってくるだろうさ」
 同じ心境であろうキース。彼の祖国も、かつて変質の輩が跋扈していた時期があったとか。
「まあ‥‥僕も悩みが無いとは言えないしね。彼女との仲で悩んでいるのは確かだから。それに、この依頼が終わったら恋人の歌姫にデートの申し込みをしてくるつもりだからね」
「‥‥! キースさんっ?」
「ん? 何かな音無君」
「い、いえ‥‥なんでもないです」
「そうか、じゃあ行こうか」
 この時、響は言えなかった。彼の住んでいた天界では、出撃前に小さな夢を語る兵士は往々にして荒原に散る。また、戦場で恋人や女房の名前を呼ぶ時というのは瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞と、相場が決まっている‥‥。
 所謂死亡フラグと言うやつである。


 薄暮に歩く者は、冒険者。変態には囮作戦による誘き寄せ。信頼と実績の策略である。
「事は全てエレガントに」
 髪を梳かし礼服を着込んでいる長身の紳士はマスク。脱いでいない彼を見るのは随分久しい気がする。
 慣れというのは嫌なものだ。
「さて、あとは奴さんを待つだけだな」
 サラシで胸を押し隠す冴子。遠目に観ればまさしく外観は男性であるが、果たしてそれを素直に喜んでいいものなのだろうか。とりあえず、本依頼に限った話であれば、都合が良い事なのだが。
(「皆さん、安心してください、例え何があろうと僕は皆さんの勇姿を無事にギルドまで持ち帰ります‥‥それが、僕の使命です」)
(「まず、そうならない事を祈って欲しいもんだけどね」)
 テレパシーにてキースと話す響は、グっと拳を握る。どうやら‥‥響は今回の男性陣の中で、唯一後衛の構えだ。
「音無さぁん、どうして貴方は囮にならないのかしらぁ‥‥逸材なのに、クーククク!!」
「僕にはまだ捨てられないものが‥‥そ、そんな事よりアレを見て下さい! なんだか皆さんに近づく不審な影が!!」
 貞子の言葉は尤も。響の言葉が誤魔化しなのは確定的に明らか。
 が、丁度響が指差した所で、そこには囮メンバーに近づく男達がいた。男達は警戒しているのだろうか、近づきもせず、離れもしない距離を暫く保っている。
「どうしたんでしょうか‥‥」
「怪しんでいるじゃなかしらぁ、複数人だから」
(「というわけで皆さんには、散らばってもらいましょうっ」)
(「な、何だって!」)
 同じく、大事なもの捨てられない立場のキースは動揺していた。ただでさえリスキーな行為である囮作戦の危険度を上げるような真似は、そう易々と――
(「O〜K〜、そういう事なら仕方ないね」)
(「はん、みみっちい野朗どもだ!」)
 同じ事を、マスクと冴子に伝えると、彼らは不自然無い様子で散開していった。この流れに、キースも同調するしかない。
「(でもまぁ、一人になったからって、急に釣られてくるわけでも――)」
「そこの君、何か思いつめた顔をしているね」
 釣れました。
「い、いやぁ。‥‥一切の悩み無く生きていけるほど恵まれた人間なんて、そうそういるもんじゃないさ」
「そうかそうか。ならばせめて、その苦悩を和らげる為、ほんの少し協力してあげたいのだが」
「へぇ。僕の悩みを聞く前に、分かっている様子ってのは不思議なものだね」
「君は今、女性との関係で悩んでいる」
 ほぅ、当てずっぽうにしては中々‥‥と一瞬だけ思った後にキースは気が付いた。その言葉、考え方によっては交際中の女性もしくは伴侶の有無に関わらず、概ねの男性に当てはまる事である。
「なんていう事だ‥‥君は預言者か何かかい?」
「竜と精霊の祝福を受けし我に、知り得ぬものはない。そして、解決の方法も」
 随分と慣れたもので台詞、声色は厳かささえ感じる。しかし、吹き抜ける夜風のたびに外套下から嫌なパーツが見え、キースは彼が『本物』である事を認識せざるを得なかった。
「(こ、こいつ‥‥穿いていない!)」
 パンツじゃないから恥ずかしくないらしい。
「我の祈りならば、君の不安の元となっている、カオスの呪いを打ち払えよう」
「そ、そいつはどうも。宜しく頼むよ」
「では、然るべき場所へ」
 こみ上がる危機感を相手に勘取られない様に、何とか抑えながらそう言うキース。
 気が付けば周りにはマスクも冴子もいない。今頃、自分と同じ境遇なのだろうか。先に言っているとしたら、先に逝っていない事を願いつつ、キースは男の後に付いて行った。


「どうやら、ここが奴らのアジトの様ですね」
「外見は普通みたいで、ちょっとだけ残念‥‥」
 響と貞子が目にしている建物は、外見からは変態のねぐらとは思えないものであった。郊外である事以外は、なんら変哲の無い木造建築。奇抜な配色だったり、布を被っていたり、何か特別なものを期待していたのか貞子の声には落胆の色さえ含まれていた。
「待っている間は暇になりそうね。音無さん、暇つぶしに世間話でもどお?」
「お、俺真面目に、テレパシーでサポートをします」
「陰日向ないものね‥‥。時には息抜き空想くらいしてもバチは当たらないわよ。‥‥例えば冒険者ギルドって、カップリングの宝庫だと思わなぁい?」
 問われたが、それに響は敢えて応えなかった。抜かり無いサポートをする為に。決して、貞子の笑みに含まれる只ならぬ気配を感じ取ったり、『カップリング』の意味する所に見当が付いたりしたからではない、断じて。全く以って。
「もう、いけずねぇ。これ‥‥とある女史のベストセラーよ‥‥。後で読んで見てね」
 有耶無耶に相槌を打つのみにする響。よく見てはいないが、今、貞子が手に持っている書物が大体どんなものか‥‥予想がついてしまっているからだ。
 響は逓信をキースへ向ける。
(「流石に中まではご一緒できません。キースさん、気をつけて行ってきてください」)
(「ピンチの時はすぐに助けを呼ぶので宜しく頼むよ」)
 テレパシーを響に返しながらも、キースは男に付いて歩いていた。こちらだ、と男は手招きをする。強引さに弱いキースは誘われるままホイホイとアジトについて行ってしまったのだ。この際、当然ながらキースは武装解除させられる羽目になる。大事な所の防具まで解除させられる前に、敵状を把握して、仲間達に伝えたい所である。
「ここが祈りの為の祭壇だ」
「――ハっ!?」
 既に先客がいるようで、それはキースも知っている顔。
 マスクだった。
 男達はやりなれてるらしくアジトに入るなりマスクの手足は拘束されてしまってた。
 そして、マスクを囲む男が、何やら準備を始めている‥‥。
(「もう脱いだのか! はやい! きた! 変態きた!」)
(「どうしたんですか、キースさん!?」)
 普段のキースなら、冗談の一つでも挟みながら状況を伝える所だろうが‥‥テレパシーでも彼の動揺、そして今何が起こっているのかが大体響に伝わった。
「行きましょう、貞子さん。このままじゃあキースさんが危ない! 性的な意味で」
「冴子さんも合流していないし、早計だと思うわぁ」
 しかし流石貞子は対・変態用の戦術を心得ているらしく、ギリギリアウトになってから援護に向かう算段だ。
「どうした、こんな所で二人は待機中かい」
「あら」
「冴子さん!」
 丁度、冴子が合流。彼女の格好は、既に男装は解除している様だ。そしてその右手で、男の首根っこを掴んでいる。
「いやぁ、途中であたいの正体がバレちまったんだけど。女って分かった途端にこのタマ無し野郎、萎れちまった様に弱体化してよ。叩いて、後は無理矢理この場所を吐かせたってわけよ」
 冴子は投げ捨てる様に男を手から離した。そこには、とあるパーツ付近をズタズタにされた禿頭の雑魚がいた。
「なるほど、それでこの場所を‥‥って、悠長に納得している場合じゃないんだった! 実は既にアジトに今、危険な二人が!」
 思い出して、言う響。後ろから、チっ、と舌打ちの様な音が聞こえた気がしたが‥‥気のせいという事にした。
 三人は突入を試みる、しかし――
「――鍵、掛かってるみたいね。残念ながら、私じゃ蹴破れそうにないわあ」
「力仕事なら、あたいに任せな!」
 施錠扉に向け、ハンマーを叩きつける冴子。
 流石にその音に、アジト内の人間達も事に気付いた様だ。
「そうか、君達は冒険者だったか」
「じきに仲間達が来る。‥‥僕が言いたい事は分かるな?」
 ああ、と頷く半裸の変態にキースは安堵した。思いのほか、諦めの良い輩――
「つまり、時は一刻を争うと言う訳だ!」
 ――全然諦めていなかった。ナンテコッタイ。それどころか、事を急ぐ始末。
「何をするんだァーッ!」
 キースに群がる男達はまずキースの上衣から手をつけている。キースも無抵抗というわけではなく、男達の脳天を力の限り殴る。
 が、男達は怯む様子が無い。人間である以上、ダメージはあるのだろうが‥‥所謂、よろけモーションが発生していない。きっと乱舞中だからだろう。
 キースが理不尽な力に圧倒されそうな‥‥まさに、その時だった。
「大した手前。だが、エレガントではないな」
 声の方向に、一同が振り向く‥‥そこにいるのは、紳士然の男、マスク。
「ふうううおおおおおおおっ!!! 筋肉脱衣(クロスアウツッ!!!!」
 テーレッテー
 筋肉の隆起によって、拘束具、そして着衣物すらも弾け飛ばして半裸になったマスクは、マスカレイドを装着する。服を破り捨て褌姿の彼が、どこからソレを出したかは‥‥述べたくない。
「貴様たちの筋肉には愛がないっ!! 己が欲望に耽溺する醜い姿、この幻惑の筋肉騎士!! マスクドフンドーシが成敗するであるっ!!!」
「ウホ! いい筋肉‥‥」
 むしろ変態にとって大歓迎状態のマスクは、アワレにも盾の役目を果たせそうに無い。
「くそ‥‥、お前がッ、止まるまで、殴るのをやめないッ!」
 次々と拳打を繰り出すキースだが、どれもまるで有効打に見えない。むしろ相手は、喜んでいるきらいさえある。お前ら人間じゃねぇ! そう罵倒したいキースであったが、その言葉が相手の更なる活力になってしまう可能性が捨てきれない今、迂闊な事は口走れない。
 破砕音が聞こえてきたのは、丁度キースがそんな事を考えている時であった。
「おうおうおう、随分込み入ってるご様子じゃねえかドサンピンども! あたいにもその威勢を見せてみなよ、来るヤツ全員ハンマーでブっ潰してやるからさ!!」
 壊れたドアの蝶番を投げ捨てながら、冴子。
「敵マッチョの精気‥‥精気‥‥じゅるり」
 抱きしめる様にして妖剣を持ちながら、貞子。
 女性二人が入ってくると、まるで変態達は蛇を目の前にした蛙に等しくなった。なんという理不尽な奴らだろうか、キースとマスクは思ったが、変態共に対し、これ以上真面目に考えるのも馬鹿らしくなったのでそのうちキースは考えるのをやめた。
 マスクは冴子や貞子に混じり、応戦中。既に半裸なので剥かれる危険性は殆ど無い。仮に剥かれたとしても、それはせいぜい、おにぎりとおいなりくらいの差でしかない。瑣末な差だ。
 万が一の事を考え響は両手に緑色の野菜的なフォルムの何かを構えていたが、程無くして、事態は鎮圧された。
 その中の一人が逃亡を試みた。
 が、しかし、入り口に現れた二つの人影に行く手を阻まれる。
「お前らの蛮行は‥‥もう終わりだぁ!」
「ナイスでーす」
 壊れたドアが影になってよく分からないが‥‥変態は下半身のどこか、弱点らしきパーツに打撃を受け、そして沈んだ。どこかよくわからないが、どうやら奴らの弱点は頭ではなく別の部位らしい。
 そして姿を現した二人の男達も‥‥下半身に見についけている褌の様な何か以外は何も着ていない。残念ながら、世間では変態呼ばわりされる格好であった。
「コイツも裸姿か!」
「それの何が問題ですか?」
 冴子に言われるも、堂々と返す男。
「確かに何の問題もないのである」
 説得力があるのか無いのか、そう述べて身を乗り出してきたマスク。突然の闖入者にマスクが話を聞いたところ、彼等も冒険者と目的は同じらしい。それゆえ、マスク達と争うつもりも無いらしく、特に何かを争う事もなくこの場を去って行った。
「変態にも、良い変態と悪い変態がいるんでしょうかねぇ‥‥」
「知らないな。知りたくも無いけど」
 男の後姿を見ながら、呟く響とキース。結局彼等は何だったんだろう、というのは気にしたら負けである。


 かくして我々の町に、再び平和がやってきた。だがしかしまた、何時如何なるときにその平和が脅かされるかは分からない。
 真の平和が訪れるその日まで、冒険者達の戦いは終らない。
 冒険者達の戦いは、これからだ!