暖かい冬

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月19日〜01月24日

リプレイ公開日:2010年02月02日

●オープニング

 小さな館の主は自室にて、暖炉の前で編み物をしながらくつろいでいる。そのリーナと言う名の淑女は貴婦人であり、未亡人でもあった。労せずに暮らせる財産があろうとも、独りの寂しさの前にはそんなものの存在は瑣末なものであった。
 あ、それも少し昔の話。
 ノックの後、ドアノブを捻るのはこの館の周辺警備を行っていた一人の剣士。
「今日も館周辺に以異常は無かっ――ぅわっ」
「ちょっと遅いから心配しちゃったわよ〜。大丈夫だった? 寒くない?」
 部屋に入ってきた剣士風の女性にリーナは、いきなり抱擁で迎える。された方はされた方で驚くものだが、自分より幾分も年上のリーナが、まるで無邪気に飛びついてくる風景はいい加減いつもの風景なので睦も慣れていた。
「異常は無い。が、やはり年も越し冬もより一層深みを増した気がする。雪は降り続き、氷柱も出来あがっていたな。今年は特に、寒い冬になりそうだ」
 剣士、片岡睦は言う。
 外はよく冷え、雪は粉雪になるほどであった。雪々は館を多い、更にその周りを木々が囲むこの場所は、まるで隠れ家そのもの。
「寒い? それだったら‥‥お婿さんを見つけて、人肌で温まればいいのよ」
「!?」
 唐突な言葉に、睦の顔が雪をも溶かす熱を帯びる。
「な、何を言っているのだ、リーナ殿!」
「いやー、だってムツミちゃんだってもうお年頃でしょ? そうだ、また社交パーティを開きましょう! そこで良いお婿さんを見つけるのよ」
「ぃ、いや私はまだ――」
「貴族の中にも未婚の殿方は沢山いるわ。良い旦那さんをみつけられれば、もう厳しくてつらい冒険者の仕事ばっかりしなくてもよくなるわよ」
「ちょ、ちょっと待っ――」
 何か一人で盛り上がっていくリーナに、聊か睦の反応が追いつかない。一体どこまで話が飛躍するんだか。尤も、多少リーナの声に、からかいの色合いが滲んでいる様にも感じられるが。
「あ、お手伝いさんや警備諸々の為に、冒険者ギルドには依頼は出すけど‥‥まぁ、あまり気にしなくていいかも?」
 それを聞いて『何故か』睦は、顔の朱色を更に濃くする。傍から見れば意味がよくわからない睦の反応だが、恐らくリーナは分かって言っている様である。
「まぁ、他の色々な知り合いにもお手紙出すけど‥‥そんなことより! ムツミちゃん、何のドレスを着る? こっちの清楚な白が似合うと思うけど、ちょっと派手な作りのドレスも捨てがたいわね〜」

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8489 エリス・リデル(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 未だにドレスに慣れない片岡睦(ez1063)の着付けを手伝うエリス・リデル(eb8489)。睦が纏うのは、まるで白無垢を思わせる雪色のドレス。エリスがチョイスしたにしては、肌はあまり外に出さないデザインである。
 メイクを終えてフルーレ・フルフラット(eb1182)に背中を押されながら、野元和美も登場。和美のドレスは腕と背中を広く出した、非常に露出の多いパーティドレスであった。勿論、エリスが選んだ物だ。
「これでどんな紳士も狼へワープ進化間違い無しです。響さんって草食系で、こうでもしないとアグレッシブにならないイメージがありますので」
「コホン。まぁ、情事と言うのは些か計り難――」
 エリスの口調は何気ないそれで、睦も咳払いしながらさりげない口上で。そして和美も、何気ない口調のまま返しただけ‥‥
 の、はずだった。
「大丈夫ですっ。響さんは、ああ見えてしっかりエスコートしてくれましたよ」
「――何‥‥だと‥‥?」
 睦は聞き逃していなかった。その言葉が‥‥「エスコートして『くれます』」ではなく、「エスコートして『くれました』」であった事を。
 無論、他の女性陣も。
「私の知らない所で、そんな事があったなんてっ」
「まずシチュエーションの説明からお願いします」
 フルーレ、エリスから矢継ぎ早に聞かれ、和美は戸惑ったままに、伝える。
「いえソノ――とある依頼の後にですね。彼の方から、一声‥‥」
「私も最初にその気の声を掛けられた時は、ビックリしましたからね。最初は冗談かとも思ったり――」
「大丈夫です、睦さん。響さんは既に船の上で大男ともみあったり(ぴー)をし合った末にネギで‥‥」
「‥‥気遣いは無用だ、エリス殿」
 何が大丈夫かは分からないが、エリスは睦にフォローを入れる。
 ガールズトークは、途中からやたら具体的になっていくのが怖いところだが‥‥なあに、かえって免疫力がつく。


「あ、フルーレせんせー!」
「フルーレ先生、お久しぶりです」
 ルトの底抜けの明るさは変わらず‥‥ロートは心なしか、以前よりお淑やかになった様に見える。
 母親のエリスティアも、微笑みながらフルーレに一礼した。
 フルーレに歩み寄ってくるエリスティアの両手には、娘達の手がある。
(「最後の授業で伝えた事‥‥キチンと守っている様ですね」)
 あと、もう一人。キチンと‥‥しなくてはいけない人がアバラーブ家にいる。
「よう、これはいつぞやの教師サンじゃねぇか!」
「ロイさん、とりあえずお酒を置いて下さい」
「そーいう堅い事は――痛!」
 ロイはアバラーブ家当主に相応しくない酩酊度で登場だ。エリスティアに頬を引っ張られ、少しは正気に戻っただろうか。
「皆さん、お元気そうで何よりです」
 そんな微笑ましい風景を見ながら、フルーレも礼を返す。やはりこの家族は‥‥破滅への道が正しい訳が無かった。
「そーいや良くは知らねぇが、変わり者の旦那のとこに嫁入りしたらしいじゃねぇか」
「確かセレの伯爵家、ね」
 ロイとエリスティアの耳には既に入っている様だが、フルーレは照れながらも改めてご報告。
「それと、もう一つだけ『エリスティアさんに』ご報告が‥‥」
 少しだけフルーレは声を濁らせながら、エリスティアとロイに目配せをする。
 何か感じ取ったのか、ロイはルトとロートに、
「うっ、飲みすぎちまったぜ。夜風に当たって気を醒ましたい。ルト、ロート、テラスってどっちだったか?」
 と、随分わざとらしい千鳥足を見せる。
「こっちこっちー!」
「ルトー、一人で行ってもダメなんだよー!」
 そして場に残ったエリスティアは、態度に真率さを漂わせてフルーレの言葉を待つ。
 フルーレが荷物から出したのは、パーティ開場には似合わない錆びた手斧‥‥ではない事をエリスティアは知っている。
「これは‥‥」
「ナイルと決着をつけてきました」
「ロイには、後で私から伝えておくわ」
 そしてその、戦いの意味を明かす。
「‥‥グエン・アバラーブは娘達の事を思って苦渋の選択をした‥‥それが既に過ちだった。そう、私達は苦渋の選択をしてしまった」
 エリスティアは、まるで自分に言い聞かせる様に――恐らく言い聞かせているのだろう――そう言う。
「私やグエンは、『苦渋』の選択などではなく『最善』の選択を模索するべきだった‥‥」
「そこまで強くいられるのは‥‥難しい事だと思います」
「貴女達は、強くいられたでしょう?」
 言われ、嬉しいような気まずい様な‥‥妙なムズ痒さから、フルーレは話題を変えずにはいられなかた。
「そ、そう言えばエリスティアさんに聞きたい事があるッス!」
「‥‥?」
「子を授かった時はどんな気持ちだったのかな、と‥‥」
「近々ご予定が?」
「いやいや、決してそんな訳では有る様な無い様なっ!」
 意地悪く問答するのはそこまでにして、エリスティアは懐かしみながら言葉を漏らしていく。
「自分が頑張らなくてはいけない、っていう義務感や責任の気持ちが大きかったかしら‥‥まずは」
「女の子‥‥ましてや双子なら――」
「でも、一人で背負い込めるものって、たかが知れているわ。だから、時に頼り‥‥信じてあげて。その為の夫婦なんだから」
「了解ッス!」
 笑顔でそう答えるフルーレを見て、エリスティアは思う‥‥そう。夫婦は愛し合う以上に、信じ合う為に在る。だから、貴女は今の心を忘れないで。そして今、目の前にいる悪いお手本の様には絶対に成らないで、と。


 どこに行きやがった、と呟くのはロイ。その場を抜けたはいいがルトとロートは迷子の様子。
 が、彼に別段、二人を捜している様子はない。いずれ見つかるだろう、と楽観しているからだ。
「それに、少し夜風に当たりたいってのは本当でね」
 別に迷う事無く、ロイはテラスを見つけ――
「本当に、綺麗な夜空ですね」
「は、はいっ」
(「――な、何ィ!」)
 肩を寄せ合う男女‥‥白く細い肩に、男の上着が掛けられる。二人は銀空を見上げていた。
 どうやら先客がいた様だ。ロイは一瞬取り乱しそうになったが、すぐさま壁に半身潜ませて出歯亀行為に移るわけである。

「ありがとう、ございます」
「肩‥‥少し、寒そうだったので」
 音無響(eb4482)に言われ、和美の顔には熱が帯びる。
 響は響で、その紅潮の意味を知っている。そして、彼女がこの季節に、肩を露にしている理由も、知っている。
 ‥‥そんな事を、思う資格が俺にはあるのか? 響は少しだけ、自嘲気味に笑って見せた。
「響‥‥さん?」
「和美さん、覚えていますか? 初めて依頼で、俺達が会った時の事」
「忘れませんよ。そういえばあの時はホント、こっちに来て何も分からなかったなぁ」
 一緒に行った依頼、その時の会話、同行した仲間達‥‥その頃の季節から何気ない閑談、路肩に咲いていた花の色まで。その時にお互い何を思い何を感じたか、数々の追懐‥‥この夜空の星々の数程に語っても語り尽せない物語‥‥。
 しかし物語はまだ終わっていない。
(「むしろ、これから『はじまり』があるんだ!」)
 響は、思い出話を一旦区切る。急に話が止み、和美の瞳に僅かに不安の色が滲む。
 次の瞬間、彼女の瞳に映ったのは小さな小さな、箱だった。触り心地の良い、綺麗な小箱。
 開く。
「‥‥! 響さん、これって‥‥っ」
「俺、これからも和美さんと一緒に、人生を歩んでいきたい、一緒にいろんな物を見て感じてみたい‥‥!」
 籠る熱を丁寧な言葉に包みながら――しかし胸中の思いは抑えを聞かず――響は和美の眼を見つめる。
「だから、俺と結婚してください。絶対、幸せにしますから」


 ロイは会場に戻っていた。何やら、賑々しい声が聞こえのだ。騒ぎの元が、ルトでなければいいが‥‥。
「アンタだって男なんだから、しっかりしなさいよ!」
 どうやら違った様だ。
「うむ‥‥か、忝い」
「礼に及ばないわ、それじゃ頑張ってくるのよ」
 金髪の女子に肩を叩かれた男がいる。ロイも、見覚えのある顔だ。
「か‥‥漢だ‥‥。八幡大菩薩よりも精霊神よりも心強いヨアンナさんの激励があれば、もう田吾作さんに怖いモノ無しです。きっと変態達を凌駕する勇気を発揮するはず‥‥間違いないっ」
「それはそれで問題でしょ」
 頷きながらのエリスに、呆れ顔のヨアンナ。ルティーヌは、只今去って行った男に無言で手を振っている。
「何はともあれ、ヨアンナさんもルティーヌさんもお元気そうで」
「エリスお姉様も、ご機嫌麗しい様子で何よりです」
「ルティーヌも私も、まぁ相変わらずって所よ。あ、でも、そろそろルティーヌは式を挙げるんじゃなかったかしら?」
 例の、祭儀官を襲ったカオスニアンは最近冒険者によって討伐されたらしく、これで両家とも安心して結婚式を行う事だろう‥‥とはヨアンナの弁。
「そういえば、リーヴォンさんは一緒かと思いましたが?」
「おや、気に掛けてくれるとは光栄だね」
 彼の声は後方から。リーヴォンはまた、奉公人姿で働いている。
 何故か?
 何故だろうね。
 とりあえず何も言わずにルティーヌとヨアンナの空杯を注ぐ。さりげなく自分も飲んでいるところがあざとい。
「私はエミルー君の居場所を聞きたいだけです」
「ああ、そういうコト」
「エリスお姉様、少しゆっくりされては如何ですか」
「そうよ。久しぶりなんだから、少しお話してあげてもいいんだからねっ」
「御三方の、ご清健の段が確認できただけで私は満足です。ハ、そんな事より向こう側からもっとイジリ甲斐のあるカッポォがっ」
 エリスのイントネーションが変なのは最早突っ込まず、一同は彼女の指差す方向を見る。
「ヨアンナさん、ルティーヌさん、それに皆さんお久しぶりです、お元気でしたか?」
「あら、和美と響じゃない。まー相変わらず二人ともベッタリくっついて‥‥アレ和美って、指輪なんてしてたっけ」
「こ、これにはですね。えぇ〜っと、あの、海より深い、深ーい訳が――」
「僕が今日、和美さんに求婚して渡した指輪です」
 ブブー! ヨアンナ、ルティーヌ、リーヴォンが口に含む飲物をまるで漫画の様に噴き出した。
「響さん、そんなにハッキリと皆の前で言うと恥ずかしいですよぉ〜‥‥」
「だ、大丈夫です。僕も同じ気持ちです」
 和美の様に、響も顔を赤くさせながらそう言う。何が大丈夫なのか。
「俺、これからも和美さんと一緒に、人生を歩んでいきたい、一緒にいろんな物を見て感じてみたい‥‥だから今日ここで、求婚しました。俺は絶対、和美さんを幸せに――」
「お止めなさい! そ、そんな愛の言葉を私達に聞かせてどうするっての!?」
 熱冷め止まぬ様子で想いを紡いで行く響に、ヨアンナは両手を振りながら制止する。ヨアンナのお顔も真っ赤っか!
 ルティーヌはいつも通りの無表情、リーヴォンはまるで我が身を省みる様に思慮深く、事を静観している。
 和美は‥‥指で己の唇に触れていた。
 まるで、あの時の熱が、まだ其処に残っている様だった。あの時の感情、あの時の熱、あの時の感触を‥‥自分は求めずにこれから生きていけるのか?
 答えは、否。
 それが、和美が左薬指に指輪を嵌めた理由に他ならない。


「わー! お姉さん、これは何ですか?」
「なにかのさなぎ、です」
 何にでも興味を示す多感な年頃、エミルー・ベルファーは今、エリスの姦計『魅惑のピンク卵作戦』に陥ろうとしていた。汚い、さすが冒険者きたない。
「エミルー君、ウサミミなお姉さんは好きですか?」
「ウサミミの有無に限らず、女性には尊意と献身、そして好意を以って然るべき‥‥とはお兄様からの教えです」
 どうやらエミルーは、兄から邪な知識を植え付けられそうらしい。これは由々しき事態!
「あなたは純粋なショ‥‥男の子のままで居てく――」
「あ、言ってる傍からお困りの様子の乙女がいらっしゃる様です。ちょっと僕、行ってきますね」
 エミルーが小走りに行った先には、少女二人がキョロキョロと回りを見渡している。恐らく迷子だろう。
 ええい、完全な作戦にならんとは!
「おいソコの兎耳を付けた不審人物。仕事を増やす真似だけは勘弁だぜ」
「その声は‥‥私の生涯の伴侶アーキンさん」
「てめェみたいの嫁にした記憶は無ぇ、コラ離せ!」
「細かい事は気にしない、世はまさに大・結婚時代です。乗るしかない、このビッグウェーブに」
「初耳だぞ」
「論より証拠です。ほら、あちらに」


 拙者は、貴女を、愛している。
(「と、聞こえた‥‥き、気がするぞ、今!」)
 睦は一瞬、聞き間違えかと思い戸惑った。
 しかし、聞き間違えなどではない。断じて。
「好いておるのじゃ。あの京都からずっと!」
 睦は混乱していた。これは、誰の、声?
 他でもない!
 山野田吾作(ea2019)、その人の声だ。
「苦しみも悲しみも、楽しみも喜びも、何もかも貴女と分かち合いたい!! 睦殿の全ては飲み込めずとも、分かち合い共に明日を歩む事は出来る。そうとも‥‥拙者は貴殿の盾となり矛となり止まり木となろう!」
 感情の奔流そのもの‥‥田吾作がいつも、慎んでいたそれ。
 いや、それは慎みだったか?
 そうと言えるのか?
 逃げ、の言い換えではないのか?
「この地は異境なれど、夜空には藤丸も輝いてござれば、青い指輪も用意した‥‥ははは、例の大事なお守りに包んで持参しましたぞ」
 ならば、もう逃げなければ良い。ただ、それだけの話!
「この指輪に誓い、貴女を幸せにしてみせる! 許されるならば、常に貴女の傍に在りたい。叶うならば! 拙者の子を、産んで欲しい! 願わくば…終生を貴女と添い遂げたい‥‥!!」
「‥‥田吾作殿の、気持ちは分かった」
 田吾作の声の切れ目、睦はどうにか気持ちを静めて言を返す。
「しかし、田吾作殿は、なんだその、相談役として、の印象が、だな‥‥」
 正しく、打ち砕かれた気分だった。
 自分は、所詮『相談役』なのか?
 ここが、自分と彼女の終着点なのか?
「そこで、だ。田吾作殿に相談‥‥聞きたい事がある」
 そう言う睦は、何か‥‥様子が可笑しい。どこか、落ち着かない様子で、もじもじとしたまま、話し出した。
「‥‥私のこれからの名乗りは、『山野睦』で、いいのか?」
 相談役、ではない。終着点でもない。
 これから‥‥これからが、有る。


「アーキンさん。もしもの話ですけど、この世界の総てに祝福や感謝をする事‥‥って、出来ると思います?」
「突拍子ねぇな。答えは当たり前に、NOだ。少なくとも俺みたいのがいる限り、無理だね」
 鼻で笑いながらアーキンは見返すと、見返したエリスの顔は‥‥笑みで満ち満ちていて‥‥思わずアーキンも調子を狂わせる。
 もし愛する人が笑えば、自分も笑顔になる。隣人の笑顔が隣人の隣人に移り、広まれば、やがて福音となってこの世界を祝福するだろう。
 では、その先には何があるだろうか?

 少なくとも、こんな陳腐な報告書に収まらない程の『明日』がある筈だ