【長屋の姉妹】遭難した薬草師

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月17日〜07月23日

リプレイ公開日:2005年07月21日

●オープニング

「はぁ‥‥、ここ、どこだろ?」
 そんな事を呟くのは、栗色の髪をかわいらしく肩まで伸ばした花も恥らう17歳の乙女、名前は早苗。まぁ、つまりは私っ。

 私は最近、薬草師を生業にした。これがまた忙しいのなんのって!
 妖怪が暴れまわったせいで、今の京都は怪我人がたくさん。まぁ、そのぶん薬草が売れて儲かる‥‥っていう考えもできなくはないけど、人によってはあまりお金のない人もいたりする。そーいう人達には、ちょっと割り引いて売っていたりして、そのおかげで売った量の割には、あまり売り上げの方は伸びていないんだよねー。
 薄利多売となれば、より多くの薬草が必要! というわけで、私は山に入って薬草採取しているわけだけど‥‥なんだか、さっきから同じ所を歩いてるような、そうでもないような。

 えっと、つまりは、遭難っていうのかな、コレは。しかも初日早々。

 薬草採取自体は、思ったよりもうまくいって、凄くいっぱい採れた。本当は数日を予定していたんだけど、これだけ取れればもう十分。
 だから、もう帰りたいー。いやー、もう疲れたよー。

 森をさまよう私の足元に、ちょっと大き目の平ったい石があった。それに座って、ちょっと休憩。
 あー、やっぱりはじめて入る山の場合は、事前に山師か誰かに大体の説明を聞いておけばよかったなー、といまさら後悔。

 ガサガサ!

 と、そんな事を思っている私に聞こえる、突然の物音。
 え!? もしかして小鬼とか死人憑きとか、その手の妖怪? か弱き乙女の私じゃあ、どうにもできないよ! あーっ、まだ私、死にたくない! だって未練あり過ぎだよ、私!? まだ着たい着物とかもあるし、新撰組の沖田さんみいなカッコイイ男の人と付き合ったりとか‥‥
「む、こんな所に人がいるとは、珍しいこともあるものだ」
 なんて色々考えている私に聞こえてきたのは、人間の声だった。
 見てみれば、目の前に現れたのは一人の少女と犬。
「依頼でこの山に来たのだが、まさか人に会えるとは‥‥む、よく見てみれば、お隣さんの早苗殿ではないか。随分疲れている様子だが、大丈夫か?」
 しかも、なんたる偶然! 遭遇したのは、長屋でお隣に住んでいる人。えぇーっと、たしか‥‥睦ちゃんっていう名前のコ。冒険者をしていて、二刀流の剣士サンだったはず。現に今、腰には二本の小太刀をさしているし。
「ええ、大丈夫。ちょっと歩いていたら、疲れちゃったの」
 言いながら、私は安心した。これで何とか帰れそう。
 でもさっき、睦ちゃんが「依頼で」って言ったなぁ。もしかして、この山に妖怪やらなにやら出て、その退治とかだったりするのかな? だとしたら、早く帰らないと。
「ところで早苗殿、恥を覚悟して聞きたいのだが‥‥」
 睦ちゃんは、何故か赤面させて私に何かを言おうとしている。何だろ? まぁ、なんでもいいけど。
「んー、何かな? 私の体重以外なら、なんでも教えちゃうよ」
「あの、実は帰り道がわからなくなってしまって‥‥。教えてもらえないだろうか?」

 ‥‥え?
 ‥‥‥‥。
 な、なんですとぉぉーー!?!?



「と、多分、現在妹は、このような感じになっていると思われます」
 ここは冒険者ギルド。受付に、事の予想と説明をしているのは、髪が長くて、どことなく上品に見える女性。名前を、扶美というらしい。
「なるほど、遭難者の救助依頼か。‥‥しかしまぁ、こんな事になるなら、もとから冒険者連れさせたほうが良かったんじゃないか?」
「以前妹は、高めの報酬で冒険者を雇って薬草採取に行った事がありまして。それを私が怒った事が、この遭難の発端かもしれません」
 俯き、その表情に陰りを見せる彼女に、思わずギルドの係員は慌ててフォローに入った。
「まぁまぁ! すぐに冒険者を向かわせて救助させるから、そんな顔しないでくれよ!」
「‥‥それでは、宜しくお願い致します」
 扶美は深々を礼をして、ギルドを跡にした。
 係員は、筆を取って諸手続きをしながら、フと思い出し、呟いた。
「そういえばこの山、一人の冒険者が現在、小鬼退治の依頼で向かっていたなぁ‥‥」

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1530 鷺宮 吹雪(44歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1787 真神 陽健(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2033 緒環 瑞巴(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2863 カール・リヒテン(25歳・♂・ナイト・シフール・フランク王国)
 eb2941 パレット・テラ・ハーネット(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ティアナ・クレイン(ea8333)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ 白神 葉月(eb1796)/ 日田 薙木穂(eb1913

●リプレイ本文

 遭難した二人は、当ても無く歩いては休憩し、また歩いては休憩。これを繰り返していた。
「あー疲れた。‥‥睦ちゃんは大丈夫なの?」
「冒険者相応の体力は持ち合わせているのでな」
「へぇ〜。冒険者の人達って、やっぱり違うね」
「まぁ、全ての冒険者が体力あるわけではないが‥‥」
 腰を下ろして休んでいる二人の傍ら、睦の飼っている犬の藤丸が茂みに向かって唸っていた。その方向から聞こえる、若干の物音。
 睦は立ち上がり懐に手を突っ込む。小柄を取り出すと、茂みに投げつけた。
 脅すだけのつもりだったそれは偶然命中。慌てて逃げていく後姿は、小鬼。
「小鬼の巣が近いのかもしれない。早苗殿、場を移した方がいいかもしれないな」


 冒険者達の足元に転がるのは、数体の小鬼の死体。
 山に入って間も無く個鬼に遭遇した。
「やっぱりそれなり出てきますねぇ、小鬼」
パレット・テラ・ハーネット(eb2941)は、言いつつ死体から自分の矢を引き抜く。
「遭難した娘の所にも、小鬼が出ているかもしれぬでござるな」
 歩きながら納刀する山野田吾作(ea2019)は、険しい表情で呟く。特徴的な目のせいで顔だけ見ると怒っているようだが、彼もちゃんと心配している。
「お〜い!早苗ぇ〜! 生きてるなら返事しろ〜! 死んだんなら化けて教えろ〜!」
 不謹慎な事を大声で叫びながら歩く真神陽健(eb1787)。
「ちょっと、そんな縁起でもない事言わないでよ〜」
 早苗に面識のある緒環瑞巴(eb2033)は、本当に彼女が死んでお化けになってしまったのを想像してしまったのか、涙目で陽健にしがみ付いてきた。
「あ、いや、冗談だって! 多分まだ生きてるって」
 瑞巴に対して、慌ててフォローを入れる陽健。彼をヨソに、涼しい口調で小坂部小源太(ea8445)が言う。
「ここからは、分かれて早苗さんを探しましょう。編成は私が考えたもので構いませんか?」
「私は各班を往復しての連絡と上空からの捜索担当だから班分けからは除外だな」
 シフールの特性上、皆とは違った働きをするカール・リヒテン(eb2863)を除く他のメンバーは、小源太発案の編成で捜索を始めた。冒険者達は事前にこの近辺の情報を収集しているため、迷う事は無さそうだ。


 小源太の班は、彼を先頭に森を進んでいく。
「(何でよりにもよって山中で遭難するんだろう。砂漠だったら私の庭みたいなものなのに、これじゃあ私は半ば役に立てないようなもんじゃないか)」
 悔やみながらも、パレットは辺りを見渡しながら歩く。
鷺宮吹雪(eb1530)は周囲に向けて耳目を働かせていた。見てみれば、地面には色々な足型がある事に気付く。大小様々ある人型のそれ、中には動物の物もあった。
「小鬼だけではないようですね。‥‥早苗さんが心配どす」
 野犬の群れに遭遇した場合、小鬼よりもたちが悪い。
 すると、今度は耳に届く草の擦れる音。吹雪がブレスセンサーで調べると、人より小さく、しかし荒い息の幾つかが、こちらに近付いてくる。
「出て来ましたね」
 武器を構える小源太。
「早速かよ!」
 スクロールを取り出す陽健。
「まぁ、いても不思議ではないですねぇ」
 矢を番えるパレット。
 鬱蒼とした叢から、数匹の野犬が顔を出した。


「危なかったねー。何とか逃げられたけど」
「だが早苗殿、食料が‥‥」
 早苗達は先程、野犬の群れを発見した。直接戦闘になる前に逃げたが、その際相手の気をそらすため、早苗は自分の保存食を囮に置いてきたのだ。
「まぁ‥‥何とかなるんじゃないかな、いいダイエットだと思えば」
「言ってくれれば、私のを分けるぞ」


「私もあちらの班も、まだ見つけていない。尚、あちらは先程野犬との戦闘があった模様だ」
 カールは分かれた二つの班を行き来して、空中からの様子を伝えるとともに、各班の得た情報の相互交換を手伝っていた。
「こっちはさっき小鬼に会ったよ。でも、未だに早苗さんは見つけていないね」
 紫電光(eb2690)は小鬼戦に使った十手をしまうと、今度は短刀を手にする。それで木に目印をつけながら進んでいった。
「(小源太さん達が見つける前に見つけなきゃ)オ〜イ! 早苗さぁん、どこぉ? 探しに来たよぉ〜!!」
「(前に一緒に森に来た時は楽しかったのになぁ)早苗ちゃーん! いたら返事してー!」
「(女子はちと苦手でござるが、いざと言う時は拙者が二人を守るでござる)早苗殿ー! どこでござるかー!」
 三人の声は、響き、木々の間を駆け抜けていった。


「今、何か聞こえたような」
「あー、誰か探しに来てくれたのかなぁー」
「‥‥心なしか、目が虚ろなのは気のせいか? 早苗殿」
 訓練を積んだ冒険者ではない早苗は、だいぶ疲労している様子だ。
「ごめん、ちょっと眠いかもー‥‥」
 早苗は語尾をかすらせて、そのまま眠りに落ちてしまう。
「やれやれ。しょうがない。我々で夜の見張りをするとするか、藤丸」
 苦笑して、睦は持参した毛布をかけると、傍らにいる彼女の犬に向かって言ったのだった。


 冒険者達は暗がりを歩き回る愚は犯さなかった。この山の森を熟知した者ならともかく、他人から教えてもらった程度の知識で夜の森を歩くのは、あまりにも危険だからだ。
 野営している一行。そこに迫る影‥‥小鬼だ。見張り役は、見当たらない。
 これを機に、と小鬼は近づいてくる。
 しかし見張りは見当たらなかっただけで、いないわけではなかった。
 カールの犬が小鬼に飛びつくと、その足に噛み付く。
 慌てふためく小鬼は、人のいない筈の方向から飛んできた矢に、片目と喉笛を貫かれ更にその混乱の度合いを深めた。
 そしてその矢が飛んできた方向の茂みから、人影が接近してくる。小太刀を手にしたパレットだった。
「寝込みを襲いに来るなんて、美しくない戦い方ですね」
 小鬼を始末して、その死体にパレットは呟いた。


「だ、大丈夫? 睦ちゃん?」
「う、うむ。若干ふらふらしてしまうが、大丈夫だ」
「‥‥ふらふらするのって、大丈夫じゃないよーな」
 朝になり、再び歩き出す早苗と睦。睦は夜通し警護に務めていたので、かなり眠気がきているようだ。
 しばらく歩くと、川のせせらぎが聞こえてきた。そちらに向かいと川があり、睦はそこで顔を洗った。
「ふぅ、これで何とか目が覚めたな」
「あ、あれ、睦ちゃん‥‥」
 滴る雫を払いながら瞼を開ける睦。そこに映ったのは、小鬼達。
「これほどの数につけられている事に気付けなかったとは」
 睦は、自分の未熟さを呪いながらも、二本の小太刀を構える。
 状況は芳しくない。後ろは川。万全でない体調で早苗を守りつつ、この数と渡り合えるかどうか‥‥。そんな睦の胸中は早苗にも伝わってしまった。
 不安が、二人の心を覆う。
「早苗さんのように、世の人々のために頑張られる方を助けるのも、我ら維新組の勤めです」
 だからこそ、その言葉は甚く心に響いた。
 小源太は鉄槌で小鬼の背中を叩き潰す。
「ほら、おいらの言ったとおり川の近くにいただろ?」
 小鬼達の後方から、冒険者達が現れたのだった。
「助けに来たよ、早苗ちゃん!」
 瑞巴はムーンアローで敵の動きを牽制した。そこから生まれた隙を小源太が突く。
 スクロールを広げる陽健は、ストーンを放ち、小鬼の自由を奪っていく。
「オオォォア!」
 叫びながら、カールが自身より大きい木刀を手に、突進してきた。疾風の如く加速した彼は、木刀を小鬼の額に突き当て、その額に赤い花を咲かせた。
「感銘を受けるのはわかるけど、小源太さんだけは『ダメ』だからね」
 そこに、光も加勢する。もう一班の方も合流した。

 冒険者達によって、あれだけいた小鬼達もしだいに数を減らし、やがて全滅した。


(「今回、私が悪いんだよなぁ、やっぱり。怒られるのかな」)
 早苗は田吾作の視線を受け、体がすくんでいた。彼は、別にそんなつもりはないのだが。
「おい」
「は、はい!」
 代わりに声をかけてきたのはカール。
「小鬼も出るような山に一人で行くとは何事だ」
「はい‥‥、ごめんなさい〜」
「せめて頼れる相棒を一人か二人連れていけば経費もそこそこで済む。‥‥あまり姉を心配させないことだ」
「え? お姉ちゃんが心配していたの?」
 意外そうに驚く早苗。そこに陽健が話しかける。
「全く、子供が一人で山に入るもんじゃないぜ」
「むー! あなただって子供でしょ!?」
「おいらを子ども扱いするなー!」
 10歳の少年と論戦を繰り広げる彼女の横で、睦は吹雪と話していた。
「迷子になるんは、冒険者としていかんことどすが、可愛いどすな♪」
「いや、面目なく思っている、本当に」
 睦は答えていくうちに頬を赤くさせていった。
「ところで、どないして一人で行動しはるの?」
「いや、江戸にいた頃、腕試しを兼ねて小鬼退治の依頼を受けたことがあったのだが‥‥」
 しかしその時、手を負傷して、冒険者の力を借りる事になった。それで今回こそは、と言った感じで小鬼退治の依頼で己の力量を知ろうとしたらしい。尚、吹雪が負傷の理由を聞こうとしたら、睦は顔の主を濃くして、答えようとはしなかった。
 そうして一行は、光が木につけた目印を辿って帰り道を歩く。道中、早苗は瑞巴から分けてもらった食料を頬張りながら歩いた。やはり空腹感には勝てなかったらしい。
「あれを右に曲がれば、あとは真っ直ぐだよ」
 瑞巴は目印に置いた越後屋印のてるてる坊主を指差して言った。


 そうして、無事に下山出来た一行。
 早苗は、睦と冒険者達に深々と礼をすると、自分の家の方向へ走っていったのだった。