その剣を届けるために
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■ショートシナリオ
担当:はんた。
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:07月27日〜08月01日
リプレイ公開日:2005年08月02日
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●オープニング
ここは冒険者ギルド。今日も依頼を多くの人が依頼を出し、そしてそれを冒険者達が請け負っていく。
「私は、欧州の剣も見たことある。それを踏まえたうえで言う。やはり世界で一番美しい剣は、日本刀だよ。見てくれたまえ、この模様。これを刃文というのだがね‥‥」
「もうそろそろ、依頼の内容に入ってもらえないっすかねー。こちらとて、アンタの話を延々と聞いているほど暇していないんでね」
二十分ほど前から、壮年の男が受付の係員と話していた。どうやら彼らは知り合いらしい。
「急ぐと人生損ばかりだよ。まぁ若き時代を急ぎ足で駆け抜けるというのもまた一興だがね」
「アンタの人生観なんてどうでもいいから、早く本題に入ってくれ。明瞭簡潔にな」
壮年の男は、一本の刀を取り出し、依頼の内容に入った。
その日本刀を隣村の某所に届ける、これが今回の依頼の内容だ。
「ちなみにこの日本刀は、かの名工―」
「とにかく、それを所定の場所へ運ぶ、そういうことで依頼を出すぞ」
係員は、男の言葉を途中で遮る。
「あと一言、言わせてもらえないかな?」
「依頼に関係あることか?」
「あるさ、勿論。‥‥実はその村へ向かう通りに賊がよく出るらしい。ただでさえ貴重な物なので、くれぐれも宜しく頼むように伝えてほしいね。ああ、そうえば最近、強くて、かなり酷い盗賊も出たとか。何でも、殺したあと、その相手の顔に十文字の傷を刻んだとか‥‥」
「冒険者達だって弱いわけじゃないさ。それに、知恵の働く者も多い。安心していてくれ」
依頼を求めてやって来る冒険者。
受付にいたギルドの係員は、つい先程張った依頼書を手にし、そしてもう一方の手に刀を持ち、冒険者達に依頼を紹介しだした。
「さて、この刀を運ぶのが今回の依頼だ。かなり価値のあるものらしい。故に、賊に襲われやすいだろう。また、最近それなり手ごわい盗賊も出現しているようなので、事前の準備は、ぬかりの無いようにな」
言い終えた係員は、思い出したかのように、言葉を付け足した。
「それと、今回の依頼主の男の名を、坂田というんだが、こいつはかなり舌の回る奴でな。もしお前達が依頼を失敗させてしまったら、奴は悪意のあるなしに関係なく、お前達の失敗談を各所で話し出すだろう。悪評が町を駆け巡る事になるかもしれないから、気をつけるように」
某所。その山のアジトには、京都に来て間もない盗賊達がいた。
若年者なのだろうか、少年ほどの背丈の男が地図を広げ、何やら話している。
「つまり、ここの箇所でよく盗賊が出現するんだ。そこに俺達も潜んでおいて、漁夫の利をせしめるって案だ」
「まどろっこしい案だな。別にそんな必要ないぜ。いつも通り、適当に奇襲すればいいだろ」
「はい、単純野郎のフレッガは黙っていてくださいねー。ってゆーかお前が最近勝手に暴れて噂されるようになったせいで、こーいう事考えなきゃならなくなったんだけど。‥‥で、どうだろう、隆正?」
フレッガと呼ばれた男は憤慨したが、それを手で御したのは隆正と呼ばれた男。おそらく、この隆正という男が、リーダー格なのだろう。
「いいだろう。では、そっちにはフレッガと利久、それと孝太郎、おまえ自身も行け」
「えー! 俺、フレッガと組むのかー? 利久も、なんか非社交的な人間だし。フレッガとだったら、アウディーでも組ませとけよ。もしくは、隆正も来てくれよ」
「俺とアウディーは別件がある。駄々をこねないで仕事をこなしてくるんだ、孝太郎」
●リプレイ本文
事前の情報収集に勤しんでいるのは緋神一閥(ea9850)。モードレッド・サージェイ、緋神那蝣竪も、彼と一緒に閲覧可能な範囲のギルド報告書に目を通し、また、近隣の山師に聞き込みもした。すると、盗賊の出没件数は相当の数であることに気付いた。
京都が負った『傷痕』はまだ癒えきっていない。失い、そして堕ちるしかない者達も決して少なくは無い。
一閥は感傷を心の奥にしまい込み、集めた情報の整理を始めた。
「この刀はね、かの名工の―」
「刀の講釈はまた別の機会にお願いします」
依頼主、坂田の話を強引に遮る椿為朝(eb2882)。坂田は苦笑しながら「ではまたの機会に、ね」と応じる。長話はまたの機会にもご遠慮願いたいところだが。
「では為朝君、キミ達には期待している。くれぐれも宜しく頼むよ」
「冒険者に期待してくださっている以上、それに応えなくては侍として名が廃るというもの。お任せください」
荷物をまとめ、いざ・出発! というところで、坂田は「そういえば」と声をかけてくる。
「キミ達の中で日数分の食料を用意していない者がいるようだが、なんだったら私から出そうかね?」
坂田は意地の悪い笑い方をしながら言った。今回の依頼は五日間。その言葉にギクリと反応するガザレーク・ジラ(eb2274)とユーリ・ノーンドルフ(ea8652)。『保存食忘れて依頼人から出してもらった』では、あまりにも情けない。
「‥‥それは我々のなかで食料を分け合うつもりですので、ご心配なく」
食料を多めに持ってきたパレット・テラ・ハーネット(eb2941)は笑顔を作りながらも、ばつの悪そうな声色で言った。
「んじゃな、ドジ踏むなよ、ガザレーク」
見送りに来た浅神一真がそう言うと、ガザレークは無言で頷くのだった。
山道を歩く一行。段々と道の両脇の緑は濃くなってきた。
「さて、この辺りですよ」
一閥は仲間に聞こえる範囲の小声で言う。
するとその言葉通り、茂みから出現してきた。盗賊が。
パレットは小太刀を手にし‥‥ようとするが、バックパックの中なのでいかんせん手間取ってしまう。
近付く賊。その手から太刀が振り下ろされる前に、ルゥナ・アギト(eb2613)の拳が賊の顎を砕いた。彼女は例の刀を所持しているが、この程度の敵に遅れをとる事は無い。
為朝の射る矢が、紀勢鳳(ea9848)の放つ真空刃が、まだ距離がある敵の出鼻を挫く。
ムーンアローは風樹護(eb1975)から放たれ、それによって弱った賊にガザレークがとどめの一撃を叩きつける。
「今からでも遅くはありません。悔い改めなさい」
賊に改心を促すユーリ。
「お、お頭〜、こいつら強ぇよお!」
「逃げろ! こんな奴らに太刀打ちするには、も、もっと数が必要だー!」
しかし、相手は逃亡の事で頭がいっぱいの様だ。聞き入れる様子は無い。
あっという間に、賊を退けた冒険者達であった。
この調子で目的地を目指して行く。
「なかなかやるみたいだな。ちゃんと陣形も組んで、後方警戒の担当もいる」
「はッ。弱いからそうせざるを得ないってだけだろうが」
「‥‥‥」
「(お前は頭が弱いけどな)ま、そうとも言えるね」
「第一、さっきの賊も、揃って屑ばかりだったからな」
「‥‥‥」
「(っていうか何か喋れよ利久)じゃ、先に話し合った作戦通りにいくって事で」
「ああ、奴らに思い知らせてやるぜ。自分達の無能さをな!」
「‥‥‥」
一行は順調に進んでいった。幾度と無く賊の襲撃にあったが、その数以外特に問題も無く、ある程度の余力を残せた。それは単純に冒険者が強かったり運が良かったりしたわけではない。
術者を中央に位置する陣形。回復役の存在。情報収集と警戒、その危険を未然に防ごうとする姿勢。
持久力は、その作戦によるものだ。
「おい、いつまでこうしているつもりだ!? 俺達は冒険者を覗き見するためにいるんじゃねぇだろ!?」
「(大声出すなよ間抜け)待てって。焦っても好機を遠退かせるだけだよ」
「‥‥‥」
「襲撃のタイミングはお前に任せるとは言ったけどよォ、これで失敗したらお前の責任だぜ?」
「(やる前から責任転嫁の準備かよ、カッコ悪)まぁ、任せとけよ」
「‥‥‥」
そうして、依頼も最後の一日を迎える。
「百里を行くものは、九十九里を持って半ばとす‥‥気を抜かないようにいきましょう‥‥」
「ええ、そうですね。早速現れたことですし」
護が警戒を促すと言っているそばから、後方より数名の賊が現れる。
後方警戒をしていた鳳がいち早く反応した。彼の真空刃は、間合いに入れてもいない賊を容赦なく切り裂く。
前方からも賊が押し寄せる。パレット、為朝の射撃とガザレークの太刀で問題なく対処できそうだ。
包囲されてはいるものの、分は冒険者達にある。
「お頭〜、やっぱかなわねぇよー!」
「ええい、もっと仲間を呼ぶんだよ! おおーい! 他で待機している野郎共、こっちだ! こっちに来てくれー」
賊達が、何やら大声を出したり笛を吹き出したりした。恐らく、増援を呼んでいるのだろう。
「今だ! 紛れて行くぞ、利久! フレッガはそこから頼むぜ!」
「ああ、任せときなァ」
「‥‥‥」
矢の応酬を潜り抜けてきた賊がガザレークに迫る。しかし重装備に固められた彼には浅い傷しか与えられなかった。攻撃自体もお粗末な速度で、それは十手で楽々抑えられていた。
そんな中から突然、鋭い銀光がガザレークを襲う。それの速度になんとか目がおいつき、十手で受けるが、続く刃を防ぐ事は出来なかった。
「この腕前‥‥貴殿はどうやら別物の賊の様ですね」
「‥‥御相手願おう」
ガザレークのような重装戦士は、広い場所で多人数に囲まれて本領を発揮できるタイプではない。ましてや噂の強敵が現れたのでは分が悪い。為朝は援護のため、矢を番えようとする。
「ガザレーク殿! 今手助けを‥‥、――ッ!?」
そんな彼女を襲ったのは光の矢、ムーンアローだ。刺されるような痛みに、為朝はくぐもった悲鳴を漏らした。
パレットは射られた方向の茂みに目を向けるが、視認できない。茂みに入って探せば見つけられるかもしれないが、陣形の維持と包囲されている現状がそれを許さなかった。
「もー! 邪魔だなぁっ、あなた達は!」
とりあえず、パレットは手にした手裏剣を三枚同時に投げつけ群がる賊を抑える。
「お頭、俺達の仲間に、魔法使ったり居合い抜きしたりできる奴なんていたっけ?」
「知らん。まぁ、仮に他所の盗賊だとしても、協力してくれるようだし、ここはひとつ共闘して冒険者達を始末しようではないか!」
「そうだね。さすがお頭、あったまイイぜ〜!」
(「頭悪いと利用しやすくていいもんだな」)
長い木棍を持った少年は胸中嘲りながらも、冒険者に向かって前進する。
他の賊に紛れて、盾にするようにして彼は進行してきたのだ。鳳の真空刃は雑魚を切り裂くだけだった。
間も無くして間合いに木棍の男が現れた。技量の差か武器のリーチの差か、鳳は切っ先を弾かれ、生じた隙を突かれてしまう。
「今です! 護さん!」
鋭い打突を受けた胸部をおさえつつも、自分の防御より攻撃を考える鳳は叫んだ。
それに応じたのは護。ムーンアローによってその動きを牽制し、詰め寄る事を許さなった。
顔をしかめながら動きを止めた木棍の男は、ムーンアローの発生源に目線を移す。すると、その陣形の中央に位置する者の数名は、日本刀サイズの包み布を大事そうに持っていた。
(「何で同じような物がいくつも? もしかして多くの偽物を用意するほど値打ち物か?」)
冒険者達が良かれと考えた刀を守る策は、かえって賊達にその刀を意識させてしまった。
「中央の奴らを狙え、フレッガ!」
立て続けに放たれる光の矢はルゥナや護に向かう。
ガザレークは居合い抜きの男に勝機が見出せず、傷を増やしていくばかりだ。確かにその鎧が生命線ではあるが、受けが間に合わずここまで防戦一方になっては、装備選択における過ちを認めざるを得ない。ユーリはその治療務め手を離せない。
盗賊の数も、こうなると厄介なもの。戦闘が長引くにつれ、冒険者達の消耗が明らかなものになってきた。
しかし賊達の状態も芳しくない。その数は確実に減り、中央にも切り込めずにいる。
「冒険者如きにいつまで遊んでやがる!」
叫んで茂みから飛び出してきた男は、小柄を手に駆け出してきた。恐らく、今までムーンアローを放っていた者だろう。
一閥は交戦中の賊を切り捨てると、その男の前に立ちふさがった。
紅を纏った彼の刀は小柄を一度は止めるものの、続けて繰り出される刃は彼の防御をすりぬけ幾つもの傷を刻んだ。
しかし彼は退かず、その刀を横薙ぎに振るう。それは男の腕に掠り一筋の赤い線を引く。
刀を振り切った一閥に木棍が突き出される。肩を痛打された一閥に、言葉が浴びせられる。
「死ぬ前に諦めな! ここまで痛い目見ときながらなんで退かないんだよ!」
「護る剣の意地とでも。尋常ならざる戦なれど、我が焔の志で応えようぞ、盗人よ」
ルゥナ達に近付かせんと、一閥は再び刀を構える。
「下らねぇ! さっさと死んどきな!」
肉薄する男。その小柄は吸い込まれるように首筋に打ち込まれていく!
その男に矢が撃ち込まれる。男は舌打ちと共に動きを止める。
「私の目指す弓術は、賊に屈するものではありません!」
為朝の射る矢にはオーラが込められている。それをムーンアローのお返しと言わんばかりに放つ。
為朝の射撃が止んだ瞬間に、今度はパレットの矢が降り注ぐ。彼女は三本同時に番えて撃ち続ける。
「まぁ〜だまぁ〜だぁぁぁ〜!」
「け、そんな当てずっぽうが当たるかよ!」
小柄の男は避ける。が、その矢は周囲の賊を射抜いていった。
見てみれば、賊達はもう数人しか残っていない。なかには逃げ出している者もいる。
「いまだ! ここ、走り抜ける!」
ルゥナが叫ぶと、ガザレークは力任せに居合い抜きの男を突き飛ばし、殿につき陣形の盾になる。
為朝、パレット、鳳の三人は射撃を繰り返し、一行は走っていく。
「待ちやがれ!」
「追うな、フレッガ。雑魚供に紛れるっつー作戦上、碌な装備していないんだ。深追いは危険だろ。それにあの乱射女の乱れ撃ちは厄介だ」
「‥‥その矢、降り止まぬ雨の如し」
「く、‥‥くそったれがぁ!」
こうして、少なくない傷を負いつつも一行は無事、依頼内容の達成を果たした。
事の一部始終を聞いた坂田は、ねぎらいの言葉を含めながら長話を展開しだす。重労働後にさすがにこれは堪えたようで、何人かはうたた寝気味だったとか。