【双剣の剣士】薄給の豚鬼退治

■ショートシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2005年08月06日

●オープニング

 国境に、小さな村があった。その村はさきの黄泉人の襲撃のを受け、村人達は逃げ、放棄されたのだった。
 しかしその騒ぎも冒険者達の活躍もあって一段落した。復旧のため、村人達は村へ戻ろうとした。
 村へ戻ってみると、驚くことに、村にはもう新たな村民が住んでいた。その村民は豚の頭をした鬼だった。つまり、人間ではない。
 元・村人の者達は困り待て、それでも故郷を捨てきれず、なけなしの銭を握ってある場所に行く事にした。
 そこはそう、冒険者ギルド。

 ここは冒険者ギルド。力、富、名声‥‥様々なモノを求めて、今日も冒険者達がやってくる。
 一人の冒険者は、張り出されている依頼書を手に取った。そしてその内容を読んでいく。読んでいくにつれ、その眉間に皺を刻んでいった。そしてついには、受付にいる係員に詰め寄った。
「これ、どういうことだ? 説明してもらおう」
「どうこうも‥‥その依頼の事は全て、その依頼書に書いてあるはずだが」
 ろくに取り合ってくれないそのギルド員の様子が頭に来たのか、冒険者の男は声を荒げて言った。
「豚鬼に占領された村の殲滅依頼。その数、十匹を越え、なかには手練もいる−、それがこれっぽっちの報酬だと!?」
「依頼出す人間は、全員裕福なわけでもないからな。そういうケースもあるだろ」
「俺達冒険者を馬鹿にしているのか、貴様!?」
 その報酬額に余程不満があるのか、男はいきり立ち、今にも係員の胸ぐらを掴みそうな勢いだ。
「ならば、お前がその依頼を受けなければいいだけの事だろう」
 その男を止めたのは、後ろから現れた一人の少女だった。少女は腰に二本の小太刀を刺し、足元には連れの犬がいた。
「紹介してくれ、その依頼を。私が受けよう。どれほど低額であっても構わない」
 そうして係員に近づく少女。係員はわずかに口の端をつり上げ、諸準備をしながら言った。
「本当に、ロクな額じゃあないぞ。‥‥じゃあ、まずお前の名前を聞いておこうか」
「性を片岡、名を睦。それでは、どうか宜しく頼む」

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2740 狩野 龍巳(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1530 鷺宮 吹雪(44歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1790 本多 風華(35歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1975 風樹 護(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2815 アマラ・ロスト(34歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2961 緋桜 水月(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

草薙 北斗(ea5414

●リプレイ本文

「よう、初めまして。狩野龍巳(ea2740)だ。よろしくな」
 龍巳は快濶な声で集まった同行者に挨拶していた。
 報酬は雀の涙ほど‥‥それにも関わらずよく人が集まったものだ、と犬を連れた双剣の剣士、片岡睦は思った。
 特に将門雅(eb1645)のような、商事を生業としている者がこんな割に合わない仕事を選ぶのは些か奇妙なものである。参加者全員が、金に困っていない者というわけでもない。
「‥‥は、腹の虫など‥‥鳴いてはおらぬ。おらぬぞ!?」
 そんな一人が山野田吾作(ea2019)。『武士は食わねど高楊枝』の体現者である。
 メンバーを見渡し、睦はその存在に気付くと近付き声をかける。緋桜水月(eb2961)にだ。
「貴女も、女性であるにも関わらず剣士をしているのか。今回の敵は強敵だが、お互い頑張ろう」
「‥‥僕は男ですよ、睦さん」
 無理もない。水月その逞しい体つきも着物に覆われ、顔だけ見れば年頃の婦女子のようである。
「失礼‥‥、まぁ、頑張ろう」
 睦は頬を赤らめ、咳払いしながら謝罪する。
「この子、なんて名前? 可愛いね〜♪」
「藤丸と言う。私の相棒だ」
 犬を撫でるアマラ・ロスト(eb2815)に睦が答える。勢いよく尾を振る犬を見て、微笑みながら言うのは風樹護(eb1975)。
「袖触れ合うも他生の縁‥‥困っている人を見過ごすわけにもいきませんね」
「うむ、そうでござるな。困窮している者を救い、邪を滅する事は士たる者の務めにござる」
 田吾作は護の言葉に同意する。
「そうです、醜き豚鬼は存在する価値すらありません。根絶やしにするぐらいの気持ちで倒しましょう」
「そ、そうでござるな」
 本多風華(eb1790)は、恐ろしげな事をサラリと言っている。
「うちは商人やから仕事に対する対価にはうるさいんや。そんなうちがこんな鮒寿司2食分の仕事をするのは何でやと思う?」
「義憤に燃えた、とか‥‥」
 雅の問いに睦は詰まりながら答えた。雅は苦笑しながら溜息をつき答えを言う。
「対価は銭だけや無いってことや。人との縁や自己の鍛錬とかな。睦はん、なんか入用な際はうちを贔屓に」
 とびきりの営業スマイルを見せる彼女であった。
「宜しゅうに。それでは参りましょうか、睦はん」
 出発の準備をし終え、微笑みながら鷺宮吹雪(eb1530)は睦に言った。
「ああ。それでは、村人のための豚鬼退治、どうか宜しくお願いする」
 礼をする睦と、それに合わせるかのように吠える藤丸。
 低報酬に拘らず、一同気合十分。そうして依頼の村へと向かって行った。


 しかし今回の敵は相当の数がいるらしいので、気合だけではどうにもならない。作戦が必要だ。
「では事前の作戦通り、当初偵察、次に囮で敵を誘き寄せて駆除、後に村へ進行‥‥あ、睦ちゃんには囮と、豚鬼達のなかで強そうな奴がいたらそっちの相手をお願いしたいんだけど良いかな?」
「承知した。精一杯役割を果たそう」
 確保した野営地点でアマラが睦に作戦を話す。その提案に睦は快諾した。
「計画は緻密・繊細に、行動は迅速・大胆に‥‥。偵察に行った人達が、頑張っている頃でしょうか」
 護は豚鬼が住み着いた村の方向を見つめ、呟いた。

 偵察に役立ちそうな特技を持つ、水月、龍巳、雅の三人は、偵察のために村に先行している。
 村には豚鬼達が跋扈していた。そして、ただでさて村は小規模で遮蔽物となる建物もまばらだというのに、それらの多くは損壊していている。
 はっきり言って条件は悪い。これで忍び歩きだけでは、十分な偵察が行えないだろう。それは、龍巳より優れた忍び歩きを心得ている水月にも言える。
 それでも物陰に隠れながら辺りを探っている龍巳と水月。すると、遠くからゆっくり歩いてくる一匹の豚鬼。位置がバレたのか? 何故!? お互い顔を見合わせる両者。すると、今頃になって二人は気付く。お互い、武器が物陰からはみ出している。自分の背丈より長い二人の武器は、偵察時に持つにはいささか不適だろう。
「やべ、逃げるぞ水月!」
 駆け出す二人。追ってくる豚鬼は幸い一匹だ。村を抜けてから二人は振り返る。
 豚鬼は両手持ちの槌を振り上げる。
それが振り下ろされる前に、龍巳が踏み込んだ。槍は豪快に豚鬼の腹を撃ち貫く。
 豚鬼は吐血しながらも槌を振り下ろした。龍巳は身をよじるが龍巳はそれを避けきれない。直撃は免れたものの裂傷を負う。
 地を叩き付けた槌、水月の野太刀はそれを打つ。槌を破壊され、動揺する豚鬼に水月は更に一太刀浴びせる。
「食らえ、我流『渾身撃』!」
 龍巳の重い一撃のもと、豚鬼は完全に絶命した。
「そっちは芳しくない結果だったのようやね」
「雅さんはどうでした? 見つからずに巧くいきましたか?」
 二人に、雅が話しかけてきた。
「いんや、うちも見つかったわ。んで、もっぱら疾風の術で逃げ回ってきたんや」
 それでも、偵察組は何も得られなかったわけではない。野営地点に帰り、傷薬で治療しつつ、これからの作戦の遂行のために、集めた情報を整理していった。


「今だ! 吹雪殿、田吾作殿!」
 豚鬼の槌が睦の二刀によって止められた。その隙に吹雪は番えた矢を放つ。
 矢が豚鬼の胸元に突き刺さる。くぐもった鳴き声を豚鬼が出した頃には、既に懐に田吾作が迫っていた。
 刃は脇下から豚鬼の体に潜り込み、致命傷を与えた。
「蜂の巣にして差し上げますわ!」
 風華は詠唱を終え、ムーンアローを発動させる。護も月色の矢を、アマラはオーラに包まれた矢を、それぞれ風華に合わせるかのように射た。
 対象の豚鬼は接近する事さえままならないまま傷だらけになり、加速して接近してきた雅によってとどめを刺された。
 冒険者達は、数名の囮を用いて豚鬼を誘導し、数匹ずつ倒す作戦をとっていた。
「今ので17匹目ですか。全く、うっとおしい量ですこと」
「それだけ村の方は困っているということです。頑張りましょう」
 豚鬼を明らかに嫌悪する風華と、宥める様に言う護。
「今更やけど、つくづく割に合わない仕事やねぇ」
 あらためて数々の豚鬼の死体を見渡し、雅は苦笑し、自分で自分の方を揉みながらひとりごちるのだった

 誘導のため、尚も村に向かう冒険者達。村に入ると‥‥そこには複数立ち並ぶ豚鬼がいた。後ろにもいて、まさに囲まれた状態であった。
 猿並の知能であろう豚鬼達といえども、ここまで数が減れば、さすがに警戒のひとつも考える。裏を返せば、これほど数が減るまで気が付かなかった、という事だが。
 今は囮の人員しかいない。こままでは、明らかに不利だ。
 じりじりと近付いてくる豚鬼達。焦燥感は覆い隠し、目の前の敵に集中しようとする一同。しかし、どうにかして野営地点の仲間に伝える術はないものか‥‥。
「そうだ!」
 睦は自分の服の袖を引きちぎり、小太刀で自分の指を少しだけ切る。その血でちぎった袖に簡潔に応援の旨を書き、藤丸にくわえさせた。
「お前は戻ってこれを渡すのだ! 皆は―」
「その犬っころの出口をこじ開けるんだろ? 任せときな!」
 龍巳はその大きな槍を振り回し、豚鬼を切り裂く。
 囲まれて入るが、そこに犬一匹が通る隙は生まれる。藤丸は勢い良く駆け出して行った。
 後は仲間達が来るまでの持久戦。奮戦する一同であった。

「まぁまぁ、こんな格好なって。随分頑張ったようどすなぁ」
「あそこで吹雪殿の援護が無かったらやられていたところだ。感謝している」
 土ぼこりで黒くなった睦の顔を拭きながら、吹雪は話しかけていた。
 先程の戦いは、苦戦を強いられつつも、駆けつけたメンバーが合流した時点で冒険者達に分が傾き、数の不利を、連携によって跳ね除けた。
 しかし傷を負ったものいるので、傷薬によって治す。
「さて、準備が整ったら、最後の締めといこうか」
 アマラは先程射た矢の数本を敵から引き抜きながら言った。

 そうして村を進むと、間も無くして大きな小屋が目に入り、その周りには、まるでそこを守るかのように数匹の豚鬼達がいた。あの小屋には、おそらく豚鬼達の親玉がいるのだろう。
 こちらに気付いたようで、それらは槌を構えてこちらに向かってくる。
「我々相手に目の前からノコノコ歩いてくるなんて、随分と無知で、無謀ですこと。所詮豚の頭を持つ者ですわ」
 風華は嘲笑を交えながら詠唱し、ムーンアローを放つ。
 群がる豚鬼達を切り伏せる前衛者達。
「今こそ、士たる者の務めを果たす時にござる!」
 田吾作は叫びながら、繰り返し豚鬼を斬っていく。
「個のみを見ず、全より個を見よ、個より全を見よ‥‥全体の把握は大事ですね‥‥」
「その通りです。敵全体の動きを良く見ていきましょう」
 護と吹雪は援護をしつつも冷静に助言を言う。すると、小屋への道が開けたのを判断できた。
 小屋への道を塞ごうとする豚鬼。それらを龍巳が薙ぎ払う。
「雑魚はまかせな! その間に頼むぜ!」
 そうして出来た道を、睦、水月、雅が一気に走り抜ける。
 小屋に入ると、そこには‥‥潰した馬の肉を貪る一匹の豚鬼がいた。どうやらここは、馬小屋だったようだ。
 豚鬼は戦槌を構えると、いきなり横殴りの一撃を繰り出してくる。それはこれまでの豚鬼とは、明らかに違う速度のモノ。
「どんな信念、理想、夢も僕には関係ない‥‥ただ、斬るだけです」
 水月はそれを防御しようとせず、攻撃のため太刀を振るう。まるで自分の身を他人事のように捕らえた無茶だ。
 戦槌の一撃は水月に浅からぬ傷を与えた。しかし、野太刀の連撃を食らった豚鬼もまた、大きく仰け反る。
 既に間合いをゼロにしている雅が木刀で豚鬼を突く‥‥が、浅い。
 豚鬼は一気に戦槌を振り下ろした。それが雅に叩きつけられる前に、睦は二刀を構えている。
 戦槌はがっちり押さえられる。その戦槌は、水月に重さを活かした一撃を放たて、砕けた。
 武器を失った豚鬼はそれでも向かってきたが、素手では敵うはず、間も無くして地に伏せることとなる。
 そして小屋の外を見てみれば目の前で、アマラが槌をリュートベイルで受け、間髪射れずに豚鬼の腹に足の裏を叩きつけていた。それにムーンアローと矢が降り注ぎ、息の根を止める。
 それが最後の一匹だった。もう村には、動いている豚鬼はいない。
 一行は、豚鬼の駆除に成功した。


 次の日、冒険者達は豚鬼の死体処理などの後始末を行っていた。
 田吾作は埋葬された豚鬼の前で手を合わせていた。
「その祈りは豚鬼に対して、だろうか?」
 そこに睦が近寄ってきた。
「死なば皆、仏。‥‥豚鬼とて、然り」
 田吾作は睦の方を見て言う。
「あ、ああ、そうか。いや、別に悪いと言っているわけではないぞ? ‥‥だから、そんなに怒らないでくれ!」
「あ、いや、これは別に怒っているわけでは‥‥」
 睦はたじろぎながら言う。田吾作はただ、目を細める癖があるだけなのだというのに。
「これで元の静かな村に戻れますね‥‥」
 もう豚鬼のいない村に、護の言葉の言葉は響いたのだった。